敬愛と恋慕の狭間で

作者:雷紋寺音弥

●許されざる恋心
 夜の帳が下りた住宅街を、軽快な足取りで歩く少女が一人。
 天海・綾瀬(あまみ・あやせ)、15歳。間近に高校受験を控える彼女ではあったが、頭の中は自分の大好きな人のことでいっぱいだった。
「藤咲先生、今日もカッコ良かったなぁ~」
 彼女が片思いの念を抱いているのは、他でもない学習塾の講師だった。無論、それが許されない恋だというのは、彼女も解っているのだが。
「先生は、私だけの先生じゃないけど……それでもいいんだ! 先生に会えるから、私も勉強を頑張れるんだしね♪」
 振り向いてもらえないことは知っている。でも、だからこそ、今は見返りなど求めずに気持ちを貫きたい。そう、彼女が改めて考えた時だった。
「あんたの愛って、気持ち悪くて壊したくなるわ。教師が生徒に振り向くなんて、そんなことあるはずないじゃない」
 突然、目の前に現れた黒いコートの少女が、手にした鍵で綾瀬の胸を貫いた。
「あ……」
 崩れ落ちる綾瀬。そして、その隣に現れたのは、彼女の似姿をした夢を食らう怪物だった。

●標的は教室長
「見返りの無い無償の愛を注いでいる人が、ドリームイーターに愛を奪われてしまう事件が起こっているようです。今回、ドリームイーターに愛を奪われてしまうのは、天海・綾瀬さんという中学3年生の少女です」
 その日、ケルベロス達の前に現れたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、少しばかり複雑そうな表情を浮かべて語り出した。
「愛を奪ったドリームイーターは『陽影』という名のようです。彼女の正体は不明ですが、奪われた愛を元にして現実化したドリームイーターが、事件を起こそうとしているようです」
 現実化したドリームイーターが狙っている存在。それは、愛を奪われた少女、天海・綾瀬が通っている、進学塾の教室長。若くして教室を任されるだけあり、指導力もあって生徒達からの人気も高い。
 そんな彼に対して抱いてしまった、少女の淡い恋心。決して振り向いてもらえないと知りながら、彼の姿を見たいという一心で勉強を頑張り続ける。そこを付け込まれ、歪んだ怪物の材料にされてしまったのかもしれない。
「ドリームイーターが現れるのは、閉室直前の教室です。生徒や他の講師は既に帰宅していますが、教室長の藤咲・衛(ふじさき・まもる)さんは、一人で教室に残っているようです」
 受験の迫る時期、採点業務を含めた残業に追われているのだろう。接触するのは容易だが、それは敵にとっても同じこと。おまけに、敵の姿は胸元がモザイク化している以外は、全て綾瀬と同じなのだ。
「自分の生徒と同じ姿をした者が現れたら、衛さんが動揺する可能性も高いでしょう。ですが、下手に躊躇すれば、却って彼を危険に晒すことになります」
 敵の用いる攻撃は、モザイクを飛ばして様々な状態異常を引き起こすもの。同じ戦場にいる場合、常に攻撃に晒される危険が付き纏う。
「形はどうあれ、綾瀬さんの抱いているのは純粋な想いです。それを奪い、怪物を生み出す材料にするなど、許される行いではありません」
 最後にそれだけ言って、セリカは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
ジークリンデ・エーヴェルヴァイン(血穢れの獣姫・e01185)
セシル・ソルシオン(修羅秘めし陽光の剣士・e01673)
朔望・月(欠けた月・e03199)
逢沢・榮太郎(惑乱の螢・e03540)
九六九六・七七式(フレンドリーレプリカント・e05886)
夜伽姫・滅奈(ほろにゃんイェイ・e15134)
天照・葵依(蒼天の剣・e15383)
十字ヶ丘・丁(キャストファング・e21484)

■リプレイ

●偽りの来訪者
 夜の帳が降りた街の一角で、その建物からは未だに明かりが溢れていた。
 入試の迫る時期、学習塾の講師に休みはない。ましてや、教室を預かる身となれば、猶更のこと。
 生徒と講師を全て帰宅させてもなお、教室長の仕事はなくならない。今夜も家に帰る頃には、日付が変わっていることだろう。そんな時間であったからこそ、藤咲・衛は目の前に現れた者へと訝しげな視線を送った。
「おや、まだ残っていたのかい? 善意でも、時間外の労働をするのは感心しないよ」
 プラチナチケットの効果だろう。年齢的に、彼の前に立つ天照・葵依(蒼天の剣・e15383)は、新人のアルバイト講師として認識されていた。
「夜分に失礼します。実は……」
 デウスエクスが狙っているので、一緒に避難して欲しい。ケルベロスカードを提示して、葵依は端的に衛へと告げた。
「デウスエクスが僕を? でも、いったい何故……」
 理由を説明している暇はない。それだけ言って奥の部屋にでも引っ張り込みたかったが、その前に入り口の扉が音もなく開け放たれた。
「天海? どうしたんだ、こんな時間に……」
 見慣れた生徒の姿を前にして、衛の動きが一瞬だけ止まる。だが、それが彼の知る本当の生徒でないことは、胸元のモザイクを見れば明らかだった。
「あれは違うよ。あの子は先生の生徒じゃない」
 姿形こそ似ているが、あれはドリームイーターだ。そう、夜伽姫・滅奈(ほろにゃんイェイ・e15134)が告げるのと、敵が胸元のモザイクを飛ばしてくるのが同時だった。
「ふふふ……。私に教えてちょうだい。先生の持ってる知識……先生の全部を……」
 口元に冷たい笑みを浮かべ、ドリームイーターは光を失い濁った瞳を向けて呟いた。放たれたモザイクが宙を舞い、衛を包み込まんと迫る。が、それが彼の身体に届くより先に、桜色の髪をした少女が盾となって割り込んだ。
「間一髪だったね……」
 現れたのは、朔望・月(欠けた月・e03199)。先程、攻撃から衛を庇ったのは、他でもない彼女のビハインド、櫻。
「愛ってのは様々な形がありますが、それを利用しての凶行はいただけない。悪いですが、討ち倒させて貰いましょうか」
 同じく、逢沢・榮太郎(惑乱の螢・e03540)もまた、衛の壁になるようにして前に出る。見れば、他にも連絡を受けたケルベロス達が、ドリームイーターを取り囲むようにして集まっていた。
「何で年上に教師ってステータスがつくと、乙女心に火がついちゃうのかねぇ……興味深い分野さね」
「Oh、ソウデスネ! コレハ、色々ト観察スル必要がアリマスヨ!」
 十字ヶ丘・丁(キャストファング・e21484)の言葉に相槌を打ったのは九六九六・七七式(フレンドリーレプリカント・e05886)だ。もっとも、今はそれを論じるよりも先に、目の前の敵を排除せねば。
「ま、細かいことは後で考えればいいだろ。とりあえず、こいつをブッ飛ばそうぜ」
 両手にナイフを構え、セシル・ソルシオン(修羅秘めし陽光の剣士・e01673)は既に臨戦態勢に入っていた。それでも、未だ状況が飲み込めないのか、後ろでは衛がどうにも動けなくなっていたが。
「恋とか愛とか良く分かんないけれど、とりあえずデウスエクスの思い通りにはさせないわよ」
 理解できない世界ではあるが、だからこそ守りたいと思う。そんなジークリンデ・エーヴェルヴァイン(血穢れの獣姫・e01185)の姿を前にしてもなお、ドリームイーターは不敵な笑みを浮かべるだけだった。

●歪んだ形
 望まれぬ来訪者の襲撃により、静寂に包まれていた学習塾の受付は、一瞬して激しい戦場と化した。
 戦う分には困らないが、しかしそれでも教室は狭い。いつ、敵の攻撃が衛を直撃しないとも限らない以上、彼を避難させるまで油断はできない。
「どうなっているんだ、これは!? なんで、デウスエクスが天海の姿を……」
 自分の生徒と同じ姿をした異形の者。そんな存在を前にして、狼狽えるなという方が無理である。だが、それを知っているからこそ、葵依は冷静な口調のままに衛へと告げた。
「貴方にも、講師を目指すきっかけを作ってくれた恩師がいるはずだ。日頃から真摯に生徒達へ接する人望により、貴方に心から信頼と尊敬を抱いた生徒の一人が、その『想い』をデウスエクスに利用された」
 本物の彼女は帰宅途中の道で倒れている。だから、アレを倒したら改めて彼女を捜索し、無事な見せてやって欲しい。その上で、彼女に不安を与えないよう、両親から連絡が来て探しに来たことにして欲しいと。
「今は、私達を信じてくれ。あなたが死ねば、彼女は日常に戻る術を失ってしまう」
 その言葉が、衛にとって決定打だった。
 目の前の存在が大切な生徒の似姿をしていても、それは決して本物ではない。そして、本物の綾瀬が今も危険に晒されており、それを救えるのが自分しかいないと言われてしまえば。
「……わかった。だが、彼女のことは……」
 そこから先は、言葉を紡ぐだけの余裕もなかった。他の仲間達が敵を食い止めている間に、衛は葵依と共に奥の教室へと向かって走った。
「ふふふ……逃がさないよ、先生……」
 微笑と共に、ドリームイーターが追撃せんと動き出す。が、それを黙って見過ごす程、ケルベロス達は甘くない。
「随分と余裕ね。これだけの敵を前にして、余所見なんて」
 ジークリンデのアームドフォートが火を噴いて、主砲の一撃を炸裂させた。しかも、それだけでは終わらない。
「コレヨリ、戦闘ヲ開始シマス。目標、捕捉……」
 七七式の放ったオーラの弾丸が、ドリームイーターの身体へ食らい付くようにして襲い掛かる。胸元のモザイクに直撃を受け、敵が少女の声のまま呻いた。
「姿だけでなく、声まで本人と同じですか。なんとも、やり難いものがありますなぁ」
 苦笑する榮太郎。もっとも、本当に戦えないわけでない。か弱い少女の姿を借りることさえ敵の策略の一環だとすれば、それに惑わされるわけにはいかないと知っていたから。
「まぁ、それでも任務は任務。被害を黙って見過ごすなんぞ出来ませんし、きっちりばっちり討滅致しましょうか」
 偽りの存在に用はない。先程の言葉とは反対に、榮太郎は躊躇いなく半透明の御業を繰り出して、敵の身体を抑え込む。
「へぇ……やるじゃない。でも、どうせ無駄よ。私が手を下さなくたって、彼女の想いはどうせ壊れてしまうんだから……」
 だが、立て続けに攻撃を叩き込まれてもなお、ドリームイーターは綾瀬の声で紡ぎつつ抗った。
「ふざけるな! 教師に憧れる生徒の想い……そんな微笑ましいもん悪用するとか、絶対許せねぇ! てめぇみたいな輩は、みじん切りにしてやる!!」
 当人の気持ちさえ考えずに語る敵を前に、早くもセシルが感情を爆発させた。それでも修羅と化さなかったのは、言葉を紡げる内に理性を持って敵を成敗したかったからに他ならず。
「陽は陰り、蝕となる―――報いを受けてもらおうか。蒼の叫喚(こえ)を聴くがいい!!」
 日蝕の残像を纏った刃の輝きは、瞳と同じ群青の色。偽りの姿、偽りの声。その全てを砕き、斬り裂き、破壊するために、執拗な剣撃を無数に放つ。
 数多の刃が降り注ぎ、少女に化けた異形の身体を斬り刻んだ。しかし、未だ諦めていないのか、敵は再び胸元のモザイクを飛ばさんと身構えた。
「あくまで藤崎さんを諦めないつもりか。ならば……」
 紙兵を飛ばす月。ビハインドの櫻に敵の動きを封じさせつつ、自らは敵の攻撃に備えて守りを固め。
「防御支援は引き受けた」
「こっちは任せて! 絶対に、後ろに通したりなんかしないんだから!」
 同じく、丁の放った無数の紙兵が陣を組んで結界を成し、滅奈の伸ばしたケルベロスチェインが仲間達を守るように広がって行く。
 決して、衛には届かせない。その想いが悪夢を払う力となり、壁となって立ちはだかった。
「どうしても、邪魔をするつもりなのね……。だったら、まずはあなた達の夢と希望から、全部私が食らってあげるわ!」
 敵の胸元から除くモザイクが大きく膨らみ、巨大な口と化して迫り来る。人の姿が崩れ、異質なものと化す様に、ケルベロス達は思わず顔を顰めた。

●その想いは是か非か
 教師と生徒。決して一線を越えてはならない関係であるが、それでも相手に想いを寄せてしまう。
 ドリームイーターは、その想いを歪みであると糾弾した。だが、本当にそうだろうか。
「届カナイト知ッテ、諦メル為ニ殺ス……。理解不能ナ感情デス。エラー、モシクハ、バグの類デショウカ?」
 回転する腕で敵の身体を衣服諸共に斬り裂いて、七七式は思わず首を傾げた。
 歪みであるというのならば、そもそもドリームイーターの存在そのものが歪みだろう。愛情由来の恋心を憎しみ由来の殺意に変える。そんな思考回路など、さすがに理解できないし理解したくもない。
「可愛さ余ってというやつですか? ですが……誰かを愛する心を悪戯に弄んでんじゃねーってなものですよ」
 御業による炎弾を放ち、榮太郎が敵の身体を焼く。愛憎という言葉もあるが、ドリームイーターの行いは、それすらも無視した人の心を顧みない行為だ。
「悪戯に弄ぶ? それはむしろ、あの男の方じゃないのかしら? 生徒を誑かす悪い教師は、それこそ殺してあげなくちゃね」
 その身を業火に焼かれつつも、ドリームイーターが嘲笑する。生徒を惑わす教師も、そんな男に惚れる生徒も、そのどちらもが歪んで薄気味悪いと。
「へぇ、そうかよ。だがな……」
 押し殺したような口調で、セシルが言葉を切った。
 確かに、世間一般からすれば、教師と生徒の恋愛など御法度だ。しかし、今は綾瀬の一方的な片思い。それは罪として咎められるものではなく、歪みと断罪されるものでもない。そして、なによりも……。
「ひとを想う心、それを奪うなんて絶対許さねぇ! お前にとってはくだらねぇもんでも、本人にとってはかけがえのない大事なもんなんだよ!!」
 防御は既に捨てていた。感情に任せ、両手に握った刃で舞うように斬り付ける。これ以上、心を平静に保ったまま、敵に言葉をぶつけることは限界だったから。
「天海さんの想いを壊す資格は、あなたにはない。姿も想いも取り戻させてもらうよ」
 セシルの攻撃に怯んだ隙を突いて、間合いを詰めたのは月だ。極限まで研ぎ澄まされた一撃を間髪入れずに叩き込むが、それはあくまで見せ技である。
「……っ! 後ろに!?」
 ドリームイーターが気付いた時には、これはいつの間に背後に回ったのだろう。ビハインドの櫻が無防備な後方から攻撃を食らわせ、敵の体勢を大きく崩し。
「おっと、これはオマケだよ」
「逃がさないんだから! 恒呪・停滞!」
 丁と滅奈が詠唱するのは、敵を石化させる古代語魔法。一度でも、その光に触れたが最後、後は人形の如く動きを固められてしまうだけ。
「う、嘘……だ……。私は……歪みを……」
 胸元から新たなモザイクを飛ばそうとするドリームイーターだったが、それも虚しい抵抗だった。指先が痺れ、肉体を硬化させられてしまえば、攻撃に移ることもままならず。
「健気な少女の『想い』を、決して無駄にするものか……!! その純粋な『想い』、返してもらうぞ!!」
 敵を倒すのに小細工など不要。ボクスドラゴンの月詠を従え、その脚に己の体内に宿るグラビティ・チェインを乗せて叩き付ける葵依。まるで綾瀬の想いを代弁するかのように、その一撃はシンプルだが強く、そして鋭い。
「……こ、壊してやる! 絶対に……絶対に破壊して……」
 月詠のブレス攻撃による追い打ちを受け、それでもドリームイーターは最期まで衛の殺害を諦めなかった。もっとも、今となってはその姿も、どこか憐れで滑稽だ。
「侵略者への復讐で今まで生きてきたから、カレシとかコイビトとかいうのは諦めてるの」
 満身創痍の敵に向けて、ジークリンデは自分の生き様を簡潔に語る。
 今の自分には余裕がない。だからこそ余裕のある者が余裕のある事をする分には、その未来を守ってやりたいのだと聞かせ。
「だから死になさい。それでお前が死ねば、『私』は楽しいわ」
「な、なにを言って……」
「私は哀れなお姫様。王子は居らず獣の呪いも私が受ける。どうか憐れみを下さらない? 満ちた貴方の憐憫が心の獣を狂わすの。凍え狂え万象!」
 解き放たれし凍える炎。燃え上がる嫉妬の念は、巡り巡って万物を凍て付かせる楔と化す。逃げ場などない。その炎に触れたが最後、熱は与えられず、しかし反対に奪われる。
「あ……ぁ……。そ、そん……な……」
 最期は言葉さえ紡がせず、モザイク諸共に凍結させた。決して解放されることのない、酷寒の地獄へと誘って。

●それは淡雪の如く
 戦いの終わった教室は、再び静寂を取り戻していた。
「こっちは、お片付け終わったよ」
「気力溜めヲ使用スレバ、机モ教室モ綺麗ニデキマスカラナー」
 破壊された教室の一部は、滅奈と七七式が中心になって修復していた。その上で、丁は綾瀬が迷惑を掛けたと思われないよう、痕跡そのものも消していた。
「さあ、一緒に彼女を探しに行きましょう。今なら、まだ間に合うはずです」
 全ての後始末を終えたところで、葵依が改めて衛を誘う。放っておいても綾瀬は目を覚ますのだろうが、それではあまりに冷たいから。
「そうだな。天海には、俺から改めて宿題を渡してやらなければならないし……」
「宿題?」 
 衛の言葉に、セシルが思わず首を傾げた。この期に及んで宿題を出すとは、彼はいったい何を考えているのか。
「そう、宿題だよ。これから先、幸せな人生を送れるよう心掛けること。そのためには、自分を大切にしてくれる人に、決して心配をかけないこと。それを、あの子に伝えないといけないからね」
 冗談なのか、本気なのか。それだけ言って、衛は葵依と共に外へと向かい。
「そういえば……」
 急に目を細め、何かを思い出したように月が呟いた。
 天海・綾瀬の恋心。それを同じ感情を、かつての自分も抱いていた。
 断片的な記憶の欠片。「あの人」にそっと零した恋の話。「あの人」ではない、他の誰かに想いを抱いた初恋の記憶は、しかし重なる痛みの記憶に他ならず。
 自分の恋も、壊されてしまったことがある。それだけが、今の月に思い出せる精一杯のことだった。
「それにしても……やっぱり、私にはよく分からないわね。あの先生、本当に彼女の想いに気づいていなかったのかしら?」
「さあ、それはどうでしょうねぇ」
 最期に、何気なく飛び出したジークリンデの疑問に、榮太郎は敢えて答えることをしなかった。
 決して届かぬと知りながら、それでも教師に想いを寄せる。淡雪のように儚い気持ち。それがいつの日か、甘くて苦い思い出に変われば幸いだと。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 4
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