
●
清々しい寒空の下に、カキーンと、球の打ちあがる音が響いた。
「お―い! そっち行ったぞ―っ!」
「オ―ライ、オ―ライ!」
ここは冬休み中の、とある高校のグラウンド。高校球児たちが、甲子園に向けて部活動に勤しんでいた。
「オ―ライ、オ―ラ……」
ライトの球児が、飛んできたボールをキャッチした時であった。ガシッと、少年の坊主頭を、後ろからフサフサの何かが掴んだのだ。振り返った先に居たのは、五厘刈り頭の鳥人間、ビルシャナであった。
「なんだこの五分頭はッ!!」
「ぼ、ぼぼぼ坊主、」
「じゃな―――――――――いっ!! おまえも、おまえも、おまえも……! 坊主を愚弄しおってぇぇぇっ!!」
「な、なんだ、おまっ……おっふ!?」
助けに来たコーチの頭を、ビルシャナの後ろからズシャッと沸いた、五厘刈りの配下たちが、ガッと掴んだ。わなわなと怒りに震えながら、ビルシャナは両手にバリカンをきらめかす。
「はい! 坊主は!?」
「「五厘刈り、ぜった―――――いッッ!!!」」
広いグラウンドに、五分刈りたちの悲鳴と、五厘刈り用バリカンの音が響きわたった。
●
「この真冬に五厘っすよ……っ!」
黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、震えながら髪を抑えた。
「あ! すいませんっす! 実は、アルダント・カフィエロ(マウェッタ・e00802)さんの調査で、ビルシャナの出現を予知したんすよ! そこでケルベロスの皆さんに、このビルシャナと、その配下たちの撃破をお願いしたいっす!」
ビルシャナ化した人間が連れている配下は、彼の主張に賛同している一般人が10名。『坊主は五厘刈り以外、絶対ゆるさない』というビルシャナの主張を覆すような、インパクトのある主張をすれば、戦わずして戦意を削ぐことができるかもしれない。そのための演出を考えてみるのも、いいかもっすね、とダンテは言う。
また、配下は、ビルシャナが撃破されるまでの間、サーヴァントのように応戦してくるが、あまり強くはなく、ビルシャナさえ倒してしまえば、元に戻るとのことだ。
「このビルシャナは、ゴゴリガガリ閃光、五厘炎、1.5ミリガリフラッシュの3つを使って攻撃してくるっす! ゴゴリガガリ閃光は、敵を退ける破壊の光を放ってくるヤツっす! 五厘炎は、孔雀の形の炎を放ってくるっすよ! そんで、1.5ミリガリフラッシュは、頭部から光を放ってビルシャナ自身や、その配下の傷を癒すヤツっす!」
ビルシャナが現れると予知されている場所は、冬休み中の高校のグラウンドである。幸いなことに、周りには野球部以外の一般人はいないようだ。
「配下の一般人たちは、くせ毛や天然パーマの人をはじめ、すでに毛根すら無くなったサラリーマンの方が多いみたいっすね~! なんだか、純粋に五厘最高! って言うよりは、髪なんか分からないくらいなくなってしまえ、とは思うけど、少しくらい髪があった面影が欲しいとかなんとか、微妙な気持ちが元みたいっす……」
今から向かえば、ちょうどダンテが予知した一幕へ、間に合うかもしれない。
「今回も、ケルベロスの皆さんのご活躍を、この目で直に見れないのが悔しいっす! でも! 自分、皆さんの為に、ここでずっと応援の念を送ってるっすよ……ッ!」
ダンテは、はち切れんばかりに輝いた目で、千切れんばかりに手を振った。
参加者 | |
---|---|
![]() 八神・結芽(新しき伝承の纏い手・e05759) |
![]() ショー・ドッコイ(穴掘り系いけじじい・e09556) |
![]() 此槙・ステラ(失せ物探し・e11523) |
![]() 高天原・日和(不運な剣士・e12797) |
![]() 蓬栄・智優利(覚醒ヒロインイズム・e13618) |
![]() リー・ペア(ペインクリニック・e20474) |
![]() 葛西・藤次郎(シュヴァルツシルト・e22212) |
![]() 幾島・ライカ(スプートニク・e22941) |
●
「またビルシャナだよ……五厘刈りでも、五分刈りでもいいじゃないですか……」
何故か飛んできた野球ボールにぶつかって転んだのは、高天原・日和(不運な剣士・e12797)だ。それを、すかさず支えた蓬栄・智優利(覚醒ヒロインイズム・e13618)が首を傾げた。
「五厘刈りって、ハゲのひとがよくやるってほんとかな?」
「事前に検索した結論では、智優利さんの疑問は間違っていないようです」
リー・ペア(ペインクリニック・e20474)が垂直に頷く。おかっぱ頭に乗ったスーも、つられて首を振った。
「なんにしても、この寒い冬に良くやるなぁとは思うけどね」
葛西・藤次郎(シュヴァルツシルト・e22212)は、もはや感心すると溜め息をつく。同意するヴァイス。ケルベロス達が高校のグラウンドに着くと、予知どおり高校球児たちが野球をしている真っ最中であった。そして、
「坊主を愚弄しおってぇぇッ!」
逃げ出す球児達の中で、五厘の鳥人間に捕まった球児の一人とコーチが、わなわなしている。
「うひゃー……小麦粉見てください、あれがビルシャナっすよ」
幾島・ライカ(スプートニク・e22941)と小麦粉は、まじまじとビルシャナを見る。むう、と納得が出来なさそうに、八神・結芽(新しき伝承の纏い手・e05759)と雪火も五厘刈りを、じっと見る。
「五部刈りも五厘刈りも、ほんのちょっとの差のはずなのに……」
「五厘刈りで済ましているだけ、比較的マシなビルシャナかもしれない。しかしその根拠が良く解らないな、何を持って五厘が至高なんだろう?」
「うん。五分刈り、でも、丸刈りでも、いっしょに見えるね……? 見分けがつかない、かな。私は」
さらに、眠い目をこすりながら此槙・ステラ(失せ物探し・e11523)も、じぃっとビルシャナを見た。
「な、なんだと!? いいか! 髪はあるかないか分からない、五厘までがもっとも慎ましく美しいのだッ!」
いやいや、と、すかさずビルシャナ達と球児達の間に割って入りながら、ショー・ドッコイ(穴掘り系いけじじい・e09556)と、モフモフ黒毛のヨッコイは首を振る。
「髪型の自由はあると思うんじゃ。人間の価値は髪だけで決まるもんじゃないしのー」
「いいや! 五厘以上に素晴らしい髪型など……」
「わあ! サーヴァントさんもたくさんいて、どれも可愛いっすね!」
「光栄です、とスーが言っています」
「お、珍しい、ヴァイスのやつ喜んでるな」
「あ、もちろん小麦粉も可愛いっすよ?」
「む~、そういえば雪火もそろそろ毛を切らないと、大分もふもふ伸びてきちゃってるもんね……終わったら切ってあげよっか?」
尊大に胸をはる小麦粉と、結芽よりトリマーさんに切って欲しいとブンブン首を振る雪火に、わいわい和ましく笑うケルベロス達。
「こらぁぁぁ! 話を聞けぇぇぇ―――ッ!!」
ビルシャは、五厘から湯気をだして怒る。それはさておき、と、智優利は球児とコーチを遠くに逃がす。
「髪は、頭を太陽の光とかから守ってくれるらしいので、むやみやたらに人の髪をかるのはダメだよね」
「そうだよ! 無理やり他の人に迷惑かけるのは、絶対ダメダメなんだよ。だから止めないとね、雪火っ!」
「ぐ、ぐぬぬ……、おまえら! やっておしまい!」
「「へあああッ!」」
「とても怖いですが、頑張って倒しましょう!」
突進してくる配下達に、ケルベロス達は武器を握りしめた。
●
「五厘刈りの良さを分からない奴らは、おしおきだぁッ!」
「知っていますか……? 五分刈り五厘刈りは……真のイケメンにしか許されないということを……」
日和がヤケクソ気味に投げかける。
「い、イケメン限定……だと!?」
「ちょ、ビルシャナ様はそんなこと一言も……ごにょごにょ」
「五分刈り五厘刈りは顔の作りがハッキリしますからね。あなた達は……本当に五厘刈りに相応しい人であると声高々に言えますかな……?」
ジロリと睨まれ、冷や汗をかく配下達。
「と、とにかく! みんな五厘刈りになってしまえば、髪の不公平はなくなるのだ!」
「そうだ! 五厘こそが、人類皆平等のスタート地点ッ!」
「はい、その理論も、すとーっぷ。なのよ」
ステラが、待った、と手を出す。
「女の子の頭まで刈ることになったら、どうするの……刈るの……?」
「も、もちろんだ! これは我ら髪に悩める子羊の、いわば復讐だッ!」
「子羊なのに毛が無いなんて、変なのー!」
「毛、毛のことは言うなぁぁぁ……ッ!」
智優利のキツイ一言に、配下達は涙目をこする。しかし甘やかしてばかりでは、いけない。たまにはキツイ一言も、ビルシャナ達には必要なのだ。
「コンプレックスはわかるけれど、五厘になっても問題がすり替わるだけじゃないかな?」
藤次郎が首を傾げた。それに、と結芽が続ける。
「五厘刈りだけになっちゃったら、きっと髪を弄ったり切る楽しみが、なくなっちゃうと思うんだ。ボク、床屋さんに伸びた髪をちょきちょきしてもらうの、好きだよ。バリカンでば~っ、だけだと、床屋さんやることなくなって廃業しちゃうと思うし……」
「なくなってしまえばいい、床屋なんて!」
「そうだ! あいつら、ハゲは染めれば目立たないなんて言うからそうしたら、残りの髪も傷めて……この様よ! うう」
「そ、それはつらい、とてもつらい。じゃあ、ライカも将来はハゲでしょうか……でも! 染めるのは、その、ライカなりの心構えでして!」
けあに遅いはない、とショーは髭をなでた。
「当年とって60のじじいじゃが、見よ、このふさふさを。諦めん限りおぬしらとて、ふさふさは可能じゃぞい!」
「ろ、60で!? おおお!」
これ見よがしなフサフサに、ふらふらと配下達は吸い寄せられていく。
「ぐぐ、元部分ハゲの奴らが落ちたか……だが! 残された俺らは」
「「……それでも!」」
配下達の声を、日和がさえぎる。
「それでも、毛根が死滅してしまって、五厘刈りしかないと言う人は……生活習慣から見直しましょう!」
「うむ、食生活や習慣の改善で良くなるもんじゃ」
「まずはダイエットです! 毛根の死滅の原因は皮脂が毛穴に詰まることによって起こります! つまり、ダイエットをして、脂肪を減らし、皮脂の分泌を抑えるのです! それが第一歩です!」
「え、ええ~、ダ、ダイエット~……」
メタボ気味の配下数名が、ポッコリおなかを抑えて後ずさる。が、ぐいぐいと詰め寄っていく日和。
「それから、ストレス発散! 悩みを打ち明けたり、愚痴ったりしましょう! ストレスが原因のハゲもありますからね!」
ついには、がっし、と配下の両肩を捕まえ、
「ですから、五厘刈りだなんて騒ぐ前に調べて、努力しましょうね」
あまりにも辛辣すぎる真顔に、がっくりと、うな垂れる配下三名、脱落。
「因果応報ってやつだね♪ これから頑張るんだよ!」
「ストレスはまっとうに消化したらええ」
穴掘り、おすすめじゃぞ? と、ショーも元気付けるように笑う。
「まあ、手っ取り早い方法は植毛育毛、かつらという手もあるがの」
「そ、それは絶っ対ダメだッ! そ、そんなもの、恥ずかしくて……お店へ行けるかぁぁぁッ!」
配下達は、あまりの恐ろしさに震えあがる。
「髪は1日0.3mm程伸びるとされています」
リーが、アイズフォンに映し出された検索データを見ながら、語りだす。
「五厘刈りが絶対とのことですが、五厘刈りとは約1.5~2mm。3mmに達すると一分刈りとなってしまう為、五厘刈りを完全に維持するのは大変非効率です。そもそも坊主頭とは、本来は仏教において己への戒めとして頭を丸める行為から生まれたものです。つまり、思いを込めて剃毛する事こそが重要であり、その結果である坊主頭の髪の長さ等は大きな問題とはいえないのではないでしょうか」
「お、俺たちだって、髪に対する思いはあ……るしッ!」
「想像してみるんじゃ。おぬしらが五厘刈りを勧めた結果、流行として広がった結果、老若男女全て五厘刈りの世界を」
「あなたたち、も、みんな五分(五厘)刈りになったら見分けつかないわ。で……だれが、だれ?」
ステラが首をかしげた。それに、情けなくお互いの頭を見合う配下達。ショーが続ける。
「髪型という差異がない分、素材と中身で全て決まる世界。おぬしら、比較されて耐えられるかの?」
「そ、それは、その」
「そもそも坊主頭って、一部を除けば結構引かれると思うよ。女の子だって好みってものがあるんだしさ」
藤次郎も、やんわりと諭す。
「ど、どうせハゲや天パじゃ見向きもされないんだ!」
「だから五厘になったことの何が悪い!? それなのに、髪があるくせに、わざわざ坊主にする五分刈り共……許すまじ!」
そんなことに憎しみを燃やすよりは、と、さらに藤次郎。
「諦めずに整えて、振り返って貰う努力が大事なんじゃないかって思うよ。五分刈りだっていいじゃないか。寒いよ、寒くないのかい?」
優しく配下の頭を指さし、その手を胸にあてて見せる藤次郎に、いよいよ配下達は俯く。
「あと、ぷりちーきゅーちーな女の子も、五厘刈りになる可能性があるんじゃが」
ぼそっと、ショーが呟いた。
「そ、それはダメだろぉぉぉッ!」
「NOOOOOOOOOOOッ!」
二人の配下が、頭を抱えて崩れ落ちる。五厘だって恋がしたい、でも、相手の女の子も五厘なんて、あまりにも悲しすぎる。見れば、残すは数名の配下のみ。ステラはダメ押しとばかりに、鞄からカツラを取り出す。
「このカツラ……んと、ウィッグ? どっち? とりあえずこれをかぶって、みんな自分の個性出して、いこ。ね?」
「……おおッふ!!」
ぶわっ、と、一気に泣き崩れる配下達。まさかの全滅だ。怒ったビルシャナは、じだんだを踏みながら羽をバタバタさせる。
「情けない! 俺は情けないぞッ! おまえら五厘の志はどうし……ッぐぬ!?」
「明王は倒すのだ!」
智優利が、混沌刃の先端をビルシャナに突きつけた。
●
「ぐ、ぐぬぬぅ! 忌々しいケルベロス共が……ッ!!」
追い詰められたビルシャナは、滑るように地を蹴った。藤次郎は肩をすくめて、ゆったりと構えをとる。
「どうしてもやるのかい? 仕方ないな、最後の時を付き合おう」
「ほっほ―、ど―んと行くんじゃぞい」
ケルベロス達も、いっせいに地を蹴る。
「燃えろファイヤー! あだなすものに向かってー………どっかーん☆ドラゴニックミラージュ!」
智優利の放った炎が、ビルシャナを飲み込む。大きくよろめく鳥人間に、さらにステラのスターゲイザーが爆ぜる。雪火も清浄の光で、前衛を包み込む。
「黄金の果実っす!」
「歴史の幻燈、いざ此処にッ! この絵筆で、希望を描くよ……!」
ライカは収穫の光を、結芽は後衛に、蘇る大地の絵を描き上げた。
「ご、ごおのれぇぇ……ッ!」
結芽とリー、そしてスーと日和に、怒り任せにゴゴリガガリ閃光が放たれる。間一髪、小麦粉がリーを庇う。
「じじいに任せるんじゃぞい!」
「縛霊撃ッ!」
すかさず、ショーが地裂撃を繰り出し、藤次郎の拳があふれ出した霊力ごと、ビルシャナの頬を殴り飛ばした。
「へぶらッ……!」
ビルシャナは、数回転しながら地面を跳ねるように転がっていく。ヨッコイは、慌てて結芽へ属性インストールを注入する。無表情なリーの瞳が、激痛に歪む。
「高速治療術式展開。状況A「アスクレペイオン」発動による承認認識。目前治療対象の完全治癒までの間、能力使用。身体構造、最適化開始」
「にしても、このビルシャナ何かに似てる……あ、フランシスコ・ザビ……」
そこまで、と雪火に待ったをかけられる結芽。
「だれだ! 今、ザビエルとか言ったのはぁぁぁッ!!」
怒りに震えながら、ビルシャナはよろよろと立ち上がった。その隙に、小麦粉に応援動画を流すスー。さらにその五厘を、すばやく雪火の爪が引っかいた。
「のわ、このッ! にゃんこめがッ!!」
「ファミリアシュート!」
「ごあッ!?」
わしっと、雪火を捕まえた手を、日和のペット弾丸が倍速で撃ち抜いた。呻くビルシャナ。すかさずリーも、前衛にサークリットチェインを放つ。さらに、ヴァイスが黄金をばら撒く。が、ビルシャナはそれを跳ね飛ばし、
「お、おのれぇぇ! 燃えてしまえいッ!!」
「小麦粉、危ない!」
咄嗟に、ライカが小麦粉を庇う。
「壊れたら、ライカの連絡手段がなくなりますからね……! 帰ったらメンテしましょう」
微笑むライカに、じーんと小麦粉は目を潤ませる。ほっほ! と笑ったショーは、高速回転したスピニングドワーフで、ビルシャナに激突する。
「氷槍招来っ……騎馬さん達、やっちゃって! 」
「グラインドファイア!」
「ぐ、ぐのあぁぁ……ッ!」
息もつかせない連携攻撃に、ビルシャナは大きく仰け反りながらも、跳び上がった。
「こ、この、ケルベロス共おあぁぁぁ――――ッッ!!」
「チャンス!! 雷電☆解放(サンダーレリーズ)!!! うおあぁぁぁぁっ!!!」
エアシューズに全魔力を込め、智優利も跳び上がるや、迸る稲妻と化した足で一気にビルシャナを蹴り落とす。その下で振りかぶられた、日和の剣めがけて。
「天に輝く白き天狼よ。汝の牙を我に与えたまえ、汝の輝きを我に授けたまえ、汝の目を持って、我の敵を射殺せ」
白狼星の白い斬撃が、ビルシャナを斬り裂いた。
●
「ぬあああああッッ!!!」
ビルシャナの悲鳴が、グラウンドに響き渡る。そのまま湧き出た重力の鎖に絡め取られ、おさわがせな鳥人間は、静かに消滅していったのだった。
「無事成功して良かったよ」
一般人にも犠牲が出ていないなら言う事は無いさと、藤次郎が飄々と笑う。
「うん、……んと、帰る前に、これプレゼント」
ステラは、へたりこんでいる五厘刈りたちの頭に、ふぁさーっとカツラをのせる。さらに、ライカがマフラーを差し出した。
「寒いと思いまして……!」
「ゲルべロズのみなざんん~ッ」
「うう、あ、ありがどう~ッ! ぐず、ズビビ」
元配下たちは、顔を涙と鼻水でグシャグシャにしながら手を振った。あったかいケルベロス達の思いやりに感動したのだ。それに手を振りかえしながら、ケルベロス達はグラウンドを後にしていく。
「ライカ、本日学んだことがあるっす。髪の毛を染めるのも、髪を傷めるんだなって」
「髪の毛は、一生のともだち、たいせつにしてあげないと、ね」
眠そうにステラが欠伸をしたとき、遠くのグラウンドから、カキーンと玉の上がる音が響いた。どうやら、再び元気いっぱいに野球の練習が始まったらしい。
「ほぇー……! この寒空のした、坊主で部活!! これが、青春……! ちうりんにも、そんなときがあったのかな……?」
ケルベロス達は清々しい冬の空を見上げる。それぞれの思いを胸に、そして、どこまでも続く空のように、この平穏がずっと続くことを願いながら。
作者:九之重空太郎 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
![]() 公開:2016年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
|
||
![]() あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
![]() シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|