『覇竜の神座』武を誇る水神

作者:陸野蛍

●眠る水神
 相模湾の水中深く。
 その青銀の鱗の生き物は静かに眠りについていた。
 身体の各所に装甲と武装を纏い、何も恐れることはないと。
『蛟』と人々に恐れられる、その戦艦竜は、次の戦いに備えるでもなく、ただ過ぎる時間を眠りに費やしていた。

●戦艦竜仮称『蛟』討伐第二戦
「ジューン、悪いな。資料を纏めるの手伝ってもらっちゃって」
 紙資料を両手に抱えながら歩く、大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)が隣を歩く、ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)に礼を言う。
「全然。ボクもケルベロスだからね。あの戦艦竜を倒す為だったら、これくらいのお手伝い、いくらでもするよ」
「そうか、ありがとうな」
 ジューンの言葉に雄大はそう言うとデスクに資料を置き、ケルベロス達に召集をかける。
「みんなー! 戦艦竜仮称『蛟』討伐第二陣の説明をするから聞いてくれー。資料の方も用意しておいたから、一部ずつ取ってくれ」
 雄大の声がヘリポートに響くと、ケルベロス達がそれぞれ資料を確認し始める。
「基本的な説明からするな。戦艦竜は、城ヶ島の南海を守護していたドラゴンでドラゴンの体に戦艦のような装甲や武装が施されている。今回の討伐対象である『蛟』は、東洋竜と言われる蛇のように長い身体のドラゴンで、青銀の鱗をしている」
『蛟』という名称は、地元の漁師達が彼を水神と恐れて呼んでいる仮称だ。
 戦艦竜は、刺激しなければ襲ってくることはないので、現在被害は出ていないが、このままでは、相模湾に平和が来ることはない。
「戦艦竜は、強力な戦闘力と引き換えに、ダメージを自力で回復する事ができない。皆には、第一陣が『蛟』と戦って得た情報を参考に、更にダメージを与えてほしい。現在の蛟の負傷率は、15パーセントと言った所だから、今回の攻撃で討伐できる可能性は、かなり低いと思う。だから、次に繋がるダメージを与えたら、深追いすること無く撤退してほしい」
 第三陣、第四陣と繰り返すことで、倒せれば十分な強敵だと、雄大は言う。
「『蛟』の戦闘方法については第一陣がかなり詳細なデータを集めてくれたから、対策も色々と練れると思う」
 前回、第一陣は、長時間の戦闘を視野に入れ『蛟』のデータ収集に力を入れた。
 その為に、撤退もぎりぎりまで粘り、重傷者も一名出してしまったが、映像資料や多くののグラビティの攻撃の検証結果を持ち帰ると言う大きな戦果を残している。
「資料にも纏めたけど、攻撃方法とか重要な点を説明していくな。まずは、『蛟』の最大火力と思われる、4つの砲門。一撃でも喰らえば恐ろしいダメージになるみたいだけど、このうちの3つの砲門は第一陣が破壊に成功してるんだ。だから、『蛟』にダメージを与えると共に、『蛟』攻略の為に残る一つの砲門の破壊も第二陣にお願いしたい」
 資料によれば、雄大がその威力を危険視している通り、その砲門の一撃でケルベロスの一人が、3つの砲門破壊時にそれぞれ一名ずつ砲門の爆破に巻き込まれて、戦闘不能になっている。
 破壊時に戦闘不能者が出た原因としては、小規模なダメージでは破壊できない事、遠距離グラビティでは砲門だけを捉えることは難しい事、砲門内の砲弾の誘縛が挙げられる。
「それ以外の攻撃手段は、首の周りにぐるりと巻かれたいくつもの小型砲からの散弾、口からの広範囲アイスブレス、蛇の様な尻尾での薙ぎ払い、クルーザーの底を一撃で貫く程の威力を持った突撃が確認されている。隠し玉を持っている可能性は否定できないけどな」
 そうだとしても、これだけの攻撃を引き出した第一陣の功績は称賛に値すると言っていい。
「こちらからの、攻撃でのバッドステータスの効き具合は、数が多いから割愛するけど、よく確認しておいてくれ。装甲部はかなり固い。青銀の鱗も決して柔らかい訳じゃないけど、こっちの方がダメージがまだ通るみたいだ。それと、顔を傷つけられると逆上するみたいだから、顔は狙わない方がいいかもしれないな」
 ケルベロス達が資料に目を通すと、第一陣が多くの攻撃を検証したことがよく分かる。
「『蛟』は、通常の状態であれば、かなり頭が切れて、優先攻撃対象を選んで各個撃破を狙ってくるみたいだな。優先攻撃対象は、自分にダメージを高確率で与えそうな者、ダメージを与えて戦闘不能に出来そうな者って所だと思う」
 雄大の説明量も多いが、それだけの情報を第一陣が引き出したと言うことだ。
 資料には、もっと詳しく纏めてあるから、よく確認してほしいと雄大が付け加える。
「前回はクルーザーからの海上戦闘をお願いしたけど、突撃の一発でクルーザーに穴を空けられることが分かったから、海中戦闘も視野に入れてもらって構わない。判断は皆に任せる」
 実際に蛟と対峙してからの方が戦場を選びやすいかもしれないからと雄大は言う。
「ふう。長くなったけど、これも第一陣の功績だから。皆には、これを考慮に入れて作戦を練って戦ってもらいたい。そして、『蛟』撃破の為に頑張ってほしい」
 雄大はそこで言葉を切ると、真剣な瞳で。
「だけど引き際は見極めてほしい。第二陣で撃破出来なくても、次で撃破出来ればいい。もっと言えば、撃破できるのであればその次だって構わないんだ。何よりも、皆が無事に帰ってくること、それを約束した上でこの依頼を引き受けて欲しい。絶対帰って来てくれよな!」
 そう言ってケルベロス達に笑顔を向けると、雄大は、資料を持ってヘリオン操縦室へと向かった。


参加者
アンネリース・ファーネンシルト(強襲型レプリカント・e00585)
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)
リナリア・リーヴィス(怠惰な観測者・e01958)
トゥリー・アイルイヘアド(紅蓮ノ騎士・e03323)
字魅・嵐(空を舞う蒼翼の獄炎竜・e04820)
イリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990)
阿部・知世(青の魔術師・e14598)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)

■リプレイ

●『蛟』再び
 真冬の相模湾を一隻のクルーザーが進んでいた。
「あの戦艦竜の依頼……もう一度あいつと戦うのか……」
 海風で長い灰色の髪をたなびかせながら、字魅・嵐(空を舞う蒼翼の獄炎竜・e04820)が呟く。
 これから、対峙する戦艦竜の姿を思いだすと、ほんの少しだけ不安が首をもたげる。
 戦艦竜仮称『蛟』……青銀の鱗と装甲に守られたドラゴン。
 前回の初接触は情報収集がメインだったとはいえ、蛟の手強さを知るのに十分な時間だった。
(「前回の攻撃で3つの砲門を壊せた……。あれが最大火力みたいだしな、今回は早々に壊した方がよさそうだ……」)
 嵐の懸念も当然かもしれない。
 前回の戦いで、主砲門の攻撃、そしてその破壊の為に、半数のケルベロスが戦闘不能になっている。
「何はともあれ強敵との戦闘だ。楽しみだぜ!」
 そう意気込むのは、トゥリー・アイルイヘアド(紅蓮ノ騎士・e03323)。
 武器や今回の戦闘の為に用意した、水中戦闘用備品の点検をしながら不敵に笑う。
 エメラルドの瞳を輝かせる様は、活気に満ちた少女そのもだが今回のメンバー内で最年長は彼女だ。
 そして付け加えるなら、今回のメンバーは全員女性で構成されていた。
「でっかい敵と戦うのって燃えるよね?」
 柔らかな笑顔で元気に言うのは、アンネリース・ファーネンシルト(強襲型レプリカント・e00585)だ。
 彼女の口調や笑顔からは、これから強敵と戦いに行くと言う緊張感は感じ取れない。
 どちらかと言うと、女子会でも始めてしまいそうなテンションだ。
 だが、彼女が武装している、アームドフォートやバスターライフルといった大型武器がこれから強敵との戦闘が行われると言うことを嫌でも教えてくれる。
「蛟の活動区域はここら辺だね。クルーザーはここに碇泊させておこう」
 ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)が、そう言うとクルーザーを止める。
 前回の戦闘でクルーザーを破壊され撤退時に使用できなかったことも踏まえて、今回は水中戦闘に照準を絞って来ていた。
 ジューン自身はサーフボードを用意して来ていた。
 飛行能力と併用すれば機動力を確保できると考えたからだ。
「じゃあ、皆! 張り切って行ってみよー!」
 ジューンの掛け声に仲間達はそれぞれ、得物を手に海へ飛び込む。
「……冬の海水はちょっと、冷たいですね」
 阿部・知世(青の魔術師・e14598)が表情にこそあまり出さないが、素直な感想を口にする。
 水中戦闘に支障が出ないように水着を着用している者も多かった。
 男性がメンバーに居ないので、気が散ることは、無いのが救いだろうか。
「この寒い時期に寒中水泳どころか水中戦闘とか……おねーさんの歳だと厳しいわー」
 少しげんなりとした様子で、リナリア・リーヴィス(怠惰な観測者・e01958)は言うが、今回彼女はメインの回復手だ。
 口では愚痴りつつも、強力な戦艦竜との戦闘、彼女が今回の戦闘の生命線になることは彼女自身もよく分かっていた。
 そして彼女達が数百メートル泳いだだろうか、前方の海面が荒れるように上下を始める。
 現れる、一本の巨大な砲門。
 そして海より深い青銀に輝く鱗。
「……また来たか。恐れを知らぬ者共よ。お前達の命等には全く興味は無いが、我が領海を侵すのであれば、仕方あるまい。後悔させてやろう」
 蒼い瞳の戦艦竜『蛟』が水中から姿を現すと、腹に響く様な低音でケルベロス達にそう宣言した。

●第一目標
「さーて! リベンジって訳じゃないけど張り切って行こう! 鎧装天使エーデルワイス! 行っきまーす!」
 サーフボードに乗りエアシューズで海面を蹴りながら、狙いを定めるとジューンは、バスターライフルを放つ。
 狙いは、最大火力である主砲の砲門。
 レーザーは一直線に砲門に命中するが、破壊するには至らない。
「主砲破壊優先ね。援護するわ」
 イリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990)が狙いを蛟の身体に合わせて炎を撃ち込む。
(「砲門の破壊が出来れば一つ目の目的は完了だからね」)
「全体防御優先。ドローンセットします」
 アンネリースは戦闘前からは想像できない様な、落ち着いた戦闘モードの声で仲間達の防御力の底上げを行う。
「私の役目は補助だけど、ガンガンいかせてもらうぜ!」
 トゥリーは、蛟に接敵すると獲物のナイフで青銀の鱗を一気に切りつける。
「……石化や炎は有効と言うことですから」
 知世は、手にした本に一瞬目を落とすと、竜の幻影を呼び出すと蛟にぶつける。
(「……他にも情報があれば記録しておかないとですね」)
 自らの羽根を使った羽根ペンを手の中で器用に操り、いつでも記録できる準備をする知世。
(「……本とペンが痛まなければ良いのですが」)
「ふむ、前の一戦で我の対策を練って来たか、ならば容赦する必要もあるまい。すぐに終わらせてくれよう」
 そう言うと、蛟は大きく口を開け凍てつくブレスを放つ。
 広範囲の冷気に半数のケルベロスが巻き込まれる。
「リナリア! 私が守るから回復を」
 リナリアの前に立ち、冷気を浴びながら嵐が叫ぶ。
「了解。任せてよ。皆は攻撃任せたよ」
 眼鏡をかけ普段の気だるげな雰囲気から、賢者の如き冷静な瞳をしたリナリアは、すぐに癒しの雨を降らせる。
 その間も、イリアとジューンが正面から砲門破壊を試みるが、的が小さく、蛟が動くこと、そして命中しても威力が足りず、破壊することが出来ない。
「以前の戦いでこの主砲の威力を警戒しているのは分かるが、その程度の攻撃で破壊できると思うな。七人纏めて海に沈めてくれよう」
 蛟の砲門が狙いを定める様に動く。
 その時。
「……七人じゃなくて、……八人よ」
 自分の後ろから聞こえる声に蛟の長い首が動くと、そこには、今まで一切攻撃をせず、静かに機会を窺っていた、リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)が砲門の付け根に立っていた。
「娘。いつの間に……」
「舞い踊れ! 全てを断ち切る神速の刃……!」
 リーナの背中に青白い翼が現れると、リーナは鳴月を構え、刃と化した翼と共に神速まで達すると、主砲を根元から切り裂いた。
 次の瞬間に起こる爆発。
『リーナ!』
 仲間達は、その爆発の中リーナの安否を気にするが、当のリーナは、消えゆく翼を浮力に使い海面に立っていた。
「……私の刃は、全てを断つ。……それがどんなものだとしても」
「小娘が……。我の誇りを。死をもって償うか!」
 蛟の長い尾がリーナに襲いかかるが 、リーナは咄嗟に海中に潜ることでそれを回避する。
「良し! 砲門が落ちたな、ここからだぜ!」
 トゥリーの言葉に、女性ケルベロス達の武器を持つ手に力がこもった。

●女性ケルベロスVS『蛟』
「ここで決着を付けてしまいたい気持ちもあるけれど、無理は禁物ね。少しでも多くの情報を持って帰ることと、ダメージの蓄積が最優先よ」
 水瓶座の刻印が施された大剣と天秤座の刻印が施された短剣を自在に操りながら、舞うようにイリアが蛟の青銀の鱗を切り裂く。
「こいつの首を取れればドラゴンキラーってところなんだろうけどな!」
 トゥリーが蛟の長い首を、チェーンソーの音を響かせながら縦に切り裂く。
「ぐぉお!」
「ハハッ! 効いてるじゃねえか!」
「我を侮るなよ! 小娘共!」
 蛟の首のまわりのバルカンが鉛玉の雨を降らせると、トゥリー、イリアアンネリース、嵐は逃げ場が無く、鉛玉を何発も体に受ける。
「今、回復するよ……」
「そうは、いかん!」
 リナリアが回復を飛ばそうとした瞬間、蛟の尾が海中からリナリアを狙い撃ちにする。
「くっ!?」
「一人ずつ消えてもらおうか……」
「青よ、癒しを与えたまえ」
 蛟の声にかぶせるように、知世の声が海に響き渡る。
 知世の持つ筆ペンが本に文字を綴るとその文字は宙に舞い、仲間達に癒しの青い光の粒子となって注がれる。
「……攻撃も楽しいですが……癒すのも嫌いではありません」
 知世が本に文字をかき入れながら呟く。
「ケーニヒ。ガード機能マックスでセット。スナイパーシステム起動。システム最適化……終了。目標、狙い撃ちます」
 アンネリースは、ライドキャリバーを防御優先にすると自らは、狙撃システム機構を起動させ命中率補正を行う。
「ロックオンレーザー発射」
 アンネリースの超高精度のレーザーは狙うのが不可能と思われた、蛟の首のバルカンを狙い撃つ。
 破壊こそ出来ていないが、蛟の蒼い瞳が細くなる。
「ボクも続くよ! 最強の一撃を創造する、あの英雄たちの様に!」
 ジューンは蛟に急接近すると、己の憧れのヒーロー達のロマン溢れる必殺技を再現した一撃を蛟に喰らわせる。
 その攻撃は流石の蛟をもってしても体がぐらつく程だ。
「……隙は逃さない。……刈り取れるだけ刈り取るよ」
 リーナも雷の如き突きを蛟に与えると、蛟の身体を駆けあがりながら、ヒットアンドアウェイを駆使しダメージを蓄積させていく。
「攻撃が来ないなら私も。潰れなさい。跡形もなく! 塵も残さず!!」
 リナリアは、黒鎖で相棒であるミミックを投げ飛ばす。
 ミミックは、蛟に直撃した瞬間にエクトプラズムを一気に放出する。
 蛟の全身がエクトプラズムに包まれるのを見て、嵐が攻撃のチャンスだと悟る。
「私の最大火力。……双炎よ、交わり纏いて燃え上がれ! ……」
 竜の赤き炎と地獄の黒炎を鎧と化した嵐は、蛟に連続攻撃で襲いかかる。
 ほんの数十秒の炎の攻撃で、蛟の装甲の一部に亀裂が入った。
 それをチャンスとし、ケルベロス達は一斉攻撃を続けた。
 時間にして2分程だろうか?
 そこでイリアは疑問を口にする。
「何故、反撃してこないの? 動けない訳でもないわよね?」
 その言葉を聞いて、蛟が愉快そうに笑いだす。
「あっはっはっは。いやいや、感心しておったのだ。人も時を経て強くなったものだと。我の装甲を破壊するなど考えられなかったことだからな」
「負けを認めるってことか?」
 トゥリーが蛟の言葉に訝しげに聞く。
「いや、お前達に敬意を表して、我もひとつ面白いものを見せてやろう」
 蛟はそう言うと海底に潜る。
「対象、水中奥深くに沈んでいます。注意して下さい」
 アンネリースが警戒を促す。
「船に穴を空けた突撃をするつもり?」
 ジューンが前回の攻撃パターンから推測する。
 すると、ケルベロス達を中心に外周に渦が出来始めた。
「奴が、この渦を作ってやがるのか?」
「……渦で飲み込む気かもしれない」
 トゥリーの言葉にリーナが一つの可能性を口にする。
 その間にも渦は急速に海中のケルベロス達の動きを束縛し、ケルベロス達を渦の中心に集めて行く。
「飛べる方は空へ!」
 イリアが叫ぶと、知世とジューンと嵐は海中から空へと脱出する。
 その数秒後、渦の回転が止まった瞬間、渦の中心から蛟の頭が顔を出し空へ飛翔した。
 滝が逆流するかのように、海水が天へ昇って行く。
「ジューン! 知世! 嵐! 離れろ!」
 トゥーリが力の限り叫ぶ。
「我の秘儀、人間が味わえることを誇りに思うがいい」
 蛟は空中で身体を反転させるとその口を開き言った。
「水氷刺縛」
 蛟は天に向かって伸び、重力によって落下し始めた海水にアイスブレスを放ったのだ。
 アイスブレスを受けた海水は数えきれない程の、氷の槍となり渦の中心に集まったケルベロス達に襲いかかる。
 なす術も無く、体中を氷の槍で貫かれるケルベロス達。
 ケルベロス達の身体から、赤い血が流れ出し海に流れて行く。
 ブレスを放った、蛟は海に落下すると、ゆっくり海から顔を出し。
「これで力の差が分かったか? 人間よ」
 空で動けないでいる、ジューン、知世、嵐に静かに問う。
「……ジューンさん、嵐さん、皆さんを助けて撤退です」
「そうだね。今の技もイリアさんがクルーザーに取り付けたカメラに記録されてるはず。……撤退だね」
 知世の言葉に賛同すると、ジューンは、海面に向かってバスターライフルを放つ。
 盛大に上がる水飛沫。
「今のうちに皆を!」
 ジューンの叫びに嵐と知世は、急降下すると、氷の槍があちこちに刺さった仲間達を、救出し始める。
 幸い、イリア、アンネリースは自分で動くことが可能だったが、トゥリー、リナリア、リーナは、負傷が酷く肩を貸さなければならない状態だ。
「……全員の帰還が最優先よ」
 傷つきながらも気丈に、イリアが仲間達に言う。
 そこへ、蛟の声が聞こえてくる。
「我とお前達の力の差が分かったのであれば二度とここへ来るでない。お前達の命等には興味が無いからな」
「逃げる者は追わないとか誇りを大事にする姿勢……。そこは、敵ながら尊敬する……。でも、あなたは倒すよ……必ず!」
 嵐の肩を借りながら、リーナが蛟に宣戦布告する。
 言い終わると、リーナは意識を失った。

●次に続く光
「あんな隠し玉があったとはな」
 蛟の妨害無く、クルーザーまで逃げ切ると、トゥリーが自分にヒールをかけつつ悔しそうに言う。
「けど、あの技をやるには時間かかるみたいだし、海から逃げちゃえば大丈夫だよねぇ?」
 武装を解き、戦闘モードを解除したアンネリースがぽややんと言う。
「ビデオにちゃんと記録が残ってる。纏めて攻撃する為に、渦で中心に集めるのには、割と時間かかるし、対策方法は、あると思うわ」
 イリアがビデオを確認しながら仲間達に言う。
「海流操作と行動阻害は、蛟自身の全身を使えば可能って事になるのよね」
 言いながら、眼鏡を外しつつ力を抜いていくリナリア。
「砲門の破壊は出来たから、瞬間最大火力は無くなったと考えていいだろう」
 嵐が言いながら、まだ眠るリーナを見る。
 すると、眠るリーナの口から言葉が零れる。
「……こんなところではやられない……にいさんが待ってる……」
「……夢を見ているのだろうか」
 この眠る少女のおかげで、『蛟』の最大火力は無くなったのだ。
 リーナの髪を優しく撫でる嵐。
「……私なりに、今回の戦闘を本に纏めてみたのですが」
 羽ペン片手に静かに言う知世。
「二回の戦闘で蛟の行動も大分読めて来たし、ダメージも蓄積されてるはずだし、いずれ絶対、蛟を倒せるよ!」
 ジェーンが力強く言う。
 『蛟』の主砲は壊した。
 ダメージも残した。
 次に繋がる情報も手に入れた。
 今はまだ、相模湾に居る『蛟』。
 けれど必ず倒す。
 ケルベロス達の思いは一つだった。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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