冷たき激闘! 町を護る正義の炎!!

作者:紫堂空

●真夏に降る霜
『それ』は、真夏の日中に陽炎のように現れた。
 大きな翼、長い尻尾、二本の足で立つ鱗に覆われた巨体。
 マンションの三階ほどの高さを持つそれは、ファンタジー小説かおとぎ話で見る『ドラゴン』そのものだった。
「っ!?」
 突如として街中に現れた常識外の存在を見た人々は驚き、戸惑う。
 だが、『それ』の足に止まり損ねた乗用車が激突し破壊されたことで、紛れも無い現実だと認識し――。
 逃げだす。という判断をするよりも早く、ドラゴンは巨大なあぎとを開く。
 吐き出される氷のブレスによって街路樹が、ビルが、人が凍りつく。
 叩きつけられる尻尾がオフィスビルを半ばから打ち壊し、凍気から逃れた人々を圧殺する。
『それ』は飢えていた。
 永い眠りによる衰えを埋めるために、人々の命を求め街をさ迷うのだった。
 
●護れ 明石ダコ
「お疲れ様です、皆さん」
 ヘリオライダーのセリカ・リュミエールは集まった面々にねぎらいの笑みを向けると、すぐに表情を引き締めて本題に入る。
「兵庫県の明石市で、先の大戦末期にオラトリオにより封印されたドラゴンが復活して暴れだすと予知されました」
 復活直後でグラビティ・チェインが不足しているのか、飛行することこそ出来ないものの、町を破壊しつつ人口の多い中心部へと向かうようだ。
「目的は、多くの人々を殺してグラビティ・チェインを奪うことでしょう。
 弱体化しているドラゴンが力を取り戻す前に、街が廃墟となってしまう前に、どうか退治してください」
 セリカの説明は、標的の詳細へと続く。
「敵は全長約十メートルのドラゴン一体。攻撃方法は三つです」
 氷のドラゴンブレスは遠距離から敵対するものをまとめて氷に閉ざし。
 ドラゴンクローによる攻撃は、呪的防御をものともせずに標的を刺し貫き。
 ドラゴンテイルによって周囲の敵を一気に薙ぎ払う。
「現場は市街地で周囲にマンションやオフィスビルといった建造物が多数ありますが、市民には避難勧告を出しますし、建物の被害はヒールで修復できます。
 弱っているとはいえ、相手は強大なドラゴンです。まずは対象の確実な撃破を心がけてください」
「巨大な竜から町と人々を護る……とても重大なミッションですね。皆さん、力を合わせて頑張りましょう!」
 セリカの説明を受けた暁月・ミコトは、まだ見ぬ強敵を思い奮い立つのだった。


参加者
チェルシー・ミルフォード(アエリアの赤狐・e00138)
四之宮・柚木(無知故の幸福・e00389)
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)
那々宮・しあの(サキュバスのウィッチドクター・e01100)
グレイブ・ニューマン(我が身剣盾と成し神滅せり・e01338)
シグマ・コード(セルウィー・e01723)
揚・藍月(ドラゴニアンの刀剣士・e04638)
倫道・有無(名烙繋がりのサキュバス・e05635)

■リプレイ

●潮風の町で いざ竜退治!
「みなさん、慌てず騒がず急いで退避してください!」
 那々宮・しあの(サキュバスのウィッチドクター・e01100)のラブフェロモンと凛とした風により、残っていた住民は余計な疑問や反感を持つこともなく整然と非難していく。
 その様子を確認したしあのは振り返り、こちらへ向かいゆっくりと進攻してくる巨大なドラゴンへ視線を向ける。
(「お父さん、お母さん、みんな、わたし、頑張るから――!!」)
 
(「ドラゴンといや逆鱗ってのがあるんだっけ。喉元だったかなー……手に入ったら面白ぇんだけど」)
 他の面々と分かれ、背後を突かんと物陰に隠れつつ進みながらシグマ・コード(セルウィー・e01723)は興味の対象に思いをはせる。
 冷静に、黒一色の装いでまとめた小柄な体を次の暗がりに滑り込ませながらも、シャドウエルフならではの長い耳の先は楽しげに小さく動くのだった。
 
「理を見失い暴威となった龍……引導を渡すのは仕方のない事か」
「ッハハ、初陣でこんなでっけーのが相手なんて、楽しませてくれそうだね!」
 周囲の状況確認を済ませて戻った揚・藍月(ドラゴニアンの刀剣士・e04638)が少なからず愁いの混じった言葉を漏らすのと対照的に、チェルシー・ミルフォード(アエリアの赤狐・e00138)は強敵との戦いに沸き立った声を上げる。
 接敵までにはまだいくらか距離はあるものの、その巨体から漏れ出る凍気が周囲の温度を少し下げているようにも感じられる。
「やれ、随分大きくて元気な暴れん坊ですね」
「――ふむ。封印が嫌ならば、我々が死を与えてあげよう」
 ヘリオンから降り立ったクロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)が派手に翼をはためかせてドラゴンの注意を引き。
 合わせてグレイブ・ニューマン(我が身剣盾と成し神滅せり・e01338)も、その暴威を受け止めるために勇ましく前へ出る。
「一緒に頑張ろうね。大丈夫、守ってあげるから」
 倫道・有無(名烙繋がりのサキュバス・e05635)は前方のドラゴンの威容に武者震いをするも、年下のサキュバスであるしあのが自分以上にいっぱいいっぱいな様子を見て優しく声をかける。
「えええとえと、よ、よろしくおねがいします!?」
 有無の目配せに、よく分かっていないまま返すしあの。
「ドラゴンか……初戦から大物だな。暁月殿は誰かが無茶をしないよう目を配っておいてほしい、宜しく頼む」
「わかりました。柚木さんも気をつけてください」
 四之宮・柚木(無知故の幸福・e00389)が暁月・ミコト(地球人のブレイズキャリバー・en0027)へと役割を任せ、ドラゴンへ向かい一歩前へ出る。
「さあ皆、初陣だ……! あたしらの一歩が、他の皆の一歩になる。思い切って行くぞ……!!」
 
●意外と俊敏で小器用、それでいて力強い――これがドラゴン!
 正面に立つのはクロハとグレイブ。
 クロハがブレイズクラッシュで炎を纏った拳を叩きつけるが、ドラゴンはその巨体を傾け攻撃を避ける。
 グレイブが顔面狙いのスターゲイザーで畳み掛けるも、インパクトの瞬間に打点をずらされ硬いウロコで受け流される。
「このっ!」
 標的にされないように側面から近づいたチェルシーが、獣化させた拳撃を打ち込む――よりも早く、煩げに払われた尻尾に跳ね飛ばされる。
 足が地面から離れていたので踏ん張りが利かなかったせいで、痛みはそれほど無い。
(「けど――」)
 当たらない。のに当てられる。
『力が強くてしぶといだけの大きな的』ではけっしてないのだ。
「っ、させません!」
「助太刀するよチェルシーちゃん!!」
 白刃と共に黒髪が舞う。
 体勢を大きく崩したチェルシーへの追撃を阻止せんとミコトが鎖を放つのに合わせ、陽子が日本刀で斬りかかる。
 二人の攻撃に対処するため、ドラゴンは振り上げていた右前足をそちらの方へ向け――。
「その隙、貰ったぜ」
 ドラゴンの後方から機をうかがっていたシグマが、今だとばかりに無貌の従属を浴びせかける。
 意識外からの攻撃に対処できず、氷の竜は魔導書より呼び出された緑の粘菌をその背に受ける。
『――――!!』
「へぇ、これは通るんだな」
 呻きを上げるドラゴンを見たシグマの耳は、知的好奇心を満たされ嬉しげに動く。
「続けていくぞ!」
 柚木が声を張り上げる。
 それを受けて、有無が旋刃脚でドラゴンの喉を狙い足先を打ち上げる。
 藍月がボクスドラゴンの紅龍と連携を取ってドラゴンの足を止めようと自慢の尻尾を振るい。
 柚木がペトリフィケイションで行動阻害を狙う。
 しあのは初陣にやや躁状態となりながらも、仲間の傷を癒していく。
 ――こうして、総勢十一人と二匹による竜狩りが始まったのだった。
 
●激戦は続く
「あんたの影、いただくぜ!」
 効果的なタイミングを狙いすまし放たれる、シグマの影蝕。
 呪言と共に断ち切られたドラゴンの影が、本体へその傷を伝える。
「今だ!」
 クロハが前衛に声をかけ、時間差攻撃でドラゴンの対応力を上回らんとする。
 チェルシーがしなやかな跳躍からのスカルブレイカーで、上からの一撃を。
 グレイブが大胆に一歩踏み込んでの、至近距離からの一斉砲撃を。
 有無が右側面から、魂を喰らう降魔の一撃を。
 ミコトが、猟犬の如き縛鎖を放つ。
 躱し、あるいは受け流し迎撃しようとするドラゴンだが、その全てに対処することは出来ない。
 最後にクロハが、厄介な尾の動きを止めようと指天殺を繰り出す。
 が、半瞬早く繰り出された尻尾が、穴を穿たれながらもクロハの体を打ち据える。
「つっ、ぅ……!」
「安心してくれ」
 膝をついたクロハに、グレイブが背後から近付き声をかけ。
 その背中に……。
「この一太刀で」
 刃を振るう。
(「っ!?」)
 間近に見たチェルシーが我が目を疑う、突然の裏切り!
「――君の負傷は無かった事になる」
 いや、違う。
 快癒黎明斬。
 負傷した事実を斬り捨てるという、癒しの斬撃だ。
「ビックリしたー」
 チェルシーがほっとした声を漏らすが、意識はドラゴンから外してはいない。
 未だ動きの鈍らぬ巨体は、むしろ受けた痛手に憤るかのように攻撃の激しさを増す。
「いかん、かわせえぇぇっーーー!」
 右の爪。
 左の爪。
 尾の一撃。
 大きな動きの連続で迷彩をかけながらも、息を吸い込む動作を見逃さなかった柚木がブレスの警告を発する。
 その指示を受け、予想される効果範囲から慌てて跳び退く。
 躱す。
 躱す。
 躱す。
 ――だが、既に攻撃態勢に入っていた藍月とミコトが逃げ遅れ。
 仲間の治療に意識が向いていたしあのを庇ったオルトロスのムーディが、凍気の洗礼を受けてしまう。
「っ!」
 灰がすぐさまヒールグラビティを使い、ブレスを受けた味方の治癒にかかる。
 さらにしあのと紅龍が、癒しきれなかった傷を回復させていく。
「さぁ、仕切りなおしだよっ」
 チェルシーが仲間達を鼓舞し、再度攻撃を仕掛けていく。
 傷を負い、治し、与える。
 ドラゴンはあくまでも力強く、一見こう着状態が延々と続いているようにも見える。
「だが……少しは動きが鈍ってきたな」
 藍月は霊体を侵す刃を振るいながら、冷静に判断する。
 ドラゴンの攻撃は重く、彼我の命中精度にも差があったが、やはり手数の差は大きい。
 回復役であるしあの達の頑張りもあり、残る痛手の割合は現状ドラゴンの方がやや上。
 そしてそれ以上に、徐々に、けれども積み重ね続けた状態異常の数々。
 戦況はケルベロスたちの優勢にゆっくりと傾きつつあった。
 
●明石の竜の滅んだ日
「ぐぅっ!」
 躱しきれなかったドラゴンの爪が、有無の体を勢いよく抉る。
 思ったより、深い。
 血が流れる。
 意識が、遠のく――。
「ぅ、ぁ……魂が……魂の底が、叫んでいるんだ!」
 LINDO UM。有無の魂の奥底から引き出された底無し沼のような暗闇が、ドラゴンを足元から飲み込む。
「だ、大丈夫ですか!?」
 暗闇を通じてドラゴンから生命力を奪い窮地を脱したものの、依然危険な状態にある有無に、しあのがサキュバスミストをかける。
「ありがとう。これは愛だね」
「ちち、違います!」
 翼と尻尾をぱたぱた、喜びの感情を示し笑みを向ける有無に、しあのが慌てて否定する。
 微笑ましい一幕を挟みながらも、ケルベロス達の攻撃は着実にドラゴンを追い詰めていく。
「かかった! 皆、ありったけ叩き込め!」
 ついに。
 傷を重ねたドラゴンが、攻撃の態勢から倒れかけ大きな隙を作る。
 それを見逃さず、矢を撃ち出しつつ柚木が叫ぶ。
「よし、これで決めるよっ!」
 チェルシーがルーンアックスを思い切り振り下ろし。
 グレイブのチェーンソー剣が、唸りを上げてドラゴンのウロコを削り斬る。
 藍月が雷の力を宿した神速の突きを繰り出し。
 有無が旋刃脚で、開いた傷口を狙う。
 さらにシグマ、しあのが遠距離からの追撃を。
 駄目押しとばかりに、クロハがその身に受けた数々の傷をものともせず、炎舞――地獄化した両脚による高速の連撃を放つ。
 その怒涛の一斉攻撃の前に、氷の竜はようやくその巨体を地面に横たわらせ、息絶えたのだった……。
 
●竜退治のその後に
 ドラゴンという脅威は去った。
 だが、残された爪痕は大きい。
 激しい戦いの舞台となった町は、多くの土地や家屋、設備が破壊されてしまっている。
 グレイブ、シグマ達はヒールを使い、壊された建物の修復に力を貸し。
 藍月は、しあのと共に一般人に被害が出なかったか確認した後、破壊されずに残ったドラゴンの亡骸――その一部を埋葬して祈りを捧げる。
 今回の件に疑問を持ったチェルシーによる、出現地点周辺の調査と、藍月によるドラゴンの死体そのものからの情報入手は、残念ながら空振りに終わった。
 気になりはするが、氷竜による明石という町の襲撃は確かに防ぐことが出来たのだ。
 まずはそのことを喜ぶべきだろう。
「お疲れ様でした、中々有意義でしたね」
 危険が無くなったかの確認の為に周辺の索敵に出ていたクロハが帰還し、ねぎらいの笑みを静かに浮かべる。
「ちょっとジャンクフード食べていきません? お腹が減りました」
「なんでジャンクフード限定?」
「いいね、あたしヤキソバ」
「バナナはジャンクフードに入るのか?」
 厳しい戦いを乗り越えた高揚と、生まれた連帯感。
 十一人のケルベロスと二匹は和やかに賑やかに、ジャンクフード店へ打ち上げに向かうのだった。

作者:紫堂空 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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