
「ふふ、今日は奮発して美味しい缶詰なのよ♪」
公園で、無心に猫缶を食べる白猫に微笑む三上・恵子。
「やっぱり猫は良いよね~」
猫が大好きで飼いたいと思っている恵子が、彼氏と同棲しているマンションはペット禁止。こうして仕事帰りに毎日公園に寄り、野良猫に餌を与えて仕事の疲れを癒していた。
恵子が自宅に向かう途中、黒いコートの少女が前方から歩いてくる。
少女とすれ違い様に、大きな鍵を心臓に穿たれてしまった。
「え……?」
特に痛みも感じず、血もまったく流れていないが、恵子の意識は遠くなって倒れてしまう。
『あんたの愛って、気持ち悪くて壊したくなるわ。でも、触るのも嫌だから、自分で壊してしまいなさい』
少女が口を開くと、その横には、人間と同じくらいの大きさで2本足で立つ、心臓部分がモザイクになっている白猫の怪人が現れた。
「見返りの無い無償の愛を注いでいる人が、ドリームイーターに愛を奪われてしまう事件が起こっているようです」
祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が口を開く。
野良猫に毎日餌を与え、無償の愛を注ぐ女性が被害者になってしまったようだ。
「愛を奪うドリームイーターの名は『陽影』。正体不明ですが、奪った愛を元にして現実化したドリームイーターが事件を起こそうとします」
最初は被害者の可愛がっていた野良猫を、次は他の野良猫や飼い猫にまで被害が及ぶかもしれない。
「被害が出る前に、このドリームイーターの撃破をお願いしたいのです」
このドリームイーターを倒す事ができれば、愛を奪われてしまった恵子も、目を覚ますだろう。
「まず、被害者の三上さんが餌をあげて可愛がっていた白猫を狙うと思われます」
時刻は19時前後。そのくらいに恵子が餌を与えていたのだ。だから、白猫はそのくらいの時間に恵子が餌を持ってきてくれると姿を現す筈である。ドリームイーターはそこを狙うと予想された。
「このドリームイーターは、心臓部分がモザイクになっていて二本足で立つ、人間くらいの大きさもある白猫の怪人です。見ればすぐわかるでしょう」
【パラライズ】、【催眠】を付与するモザイクを飛ばして攻撃してきたり、モザイクで傷を癒したりするとの事。
「この白猫は、三上さんが餌を持ってきてくれるのだろうと待っている筈です。三上さんだと思ったら化け物が自分を殺しにきたなんて……」
蒼梧は悲痛そうに瞳を伏せる。
「どうか、三上さんと白猫を再び会わせて差し上げて下さい」
参加者 | |
---|---|
![]() 樒・レン(夜鳴鶯・e05621) |
![]() 結城・渚(戦闘狂・e05818) |
![]() エアーデ・サザンクロス(優しく輝くあの十字の星の様に・e06724) |
![]() クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631) |
![]() 勢門・彩子(悪鬼の血脈・e13084) |
![]() 砂星・イノリ(奉唱スピカ・e16912) |
![]() ジャニル・クァーナー(白衣の狩人・e20280) |
![]() 天王寺・勇狗(わんおーわん・e21388) |
●待ち伏せ
「無償の愛を気持ち悪いという方がどうかしてる。見返りが全てじゃない」
「愛を、他者を慈しみ大切に思う気持ちを悍ましく思い、それを壊そうとは……」
エアーデ・サザンクロス(優しく輝くあの十字の星の様に・e06724)が眉をしかめて呟くと、樒・レン(夜鳴鶯・e05621)も頷いた。
「恵子さんと白猫の絆が壊れないようにしなきゃね」
2人の言葉に、砂星・イノリ(奉唱スピカ・e16912)は、ぐっと拳を握って気合を入れる。
「この忍務、必ず成功させよう」
「うん!」
レンが表情を引き締めると、イノリは元気に頷いた。
「ま、白猫にも彼女にも罪はないんだから助けなきゃね」
「可愛いにゃんこちゃんを虐める子は私がお仕置きしてあげるわ」
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)が軽く微笑むと、結城・渚(戦闘狂・e05818)が勝気な笑みを広げる。
「毛皮がないだけでこうも身体が冷え切るとは……人型は不便だな」
普段は獣人型だが、今は人型になっているジャニル・クァーナー(白衣の狩人・e20280)が、自分の体を抱きしめるように、両腕で肩を摩りながら呟いた。
「そう? 色んな服も着られるから慣れだと思うよ」
ジャニルの言葉に、普段から人型でいるウェアライダーのイノリが笑いかける。
「出てくる時間は7時かー……」
どこかそわそわと、天王寺・勇狗(わんおーわん・e21388)が、公園内にある時計を確認した。
「白猫の安全は頼んだよ」
同じく時計を見た勢門・彩子(悪鬼の血脈・e13084)が、勇狗に顔を向け、力強く口を開く。
「うん。ちゃんと安全なところに連れて行くよー」
狙われる白猫を避難させる役割の勇狗が笑顔で答えた。
●護りきる!
8人がそれぞれ物陰で息を潜めていると、茂みの中から真っ白い猫が姿を現す。
白猫の動きを注意深く観察していると――、
『無償ノ愛……壊ス!』
暗闇からドリームイーターが姿を現し、モザイクを飛ばした。
「危ない!」
レンが物陰から飛び出し、猫を庇ってそのモザイクに包まれる。
「ち……っ」
思うように体が動かなくなったレンが舌打ちした。そのモザイクは無意識下にある体を動かす為の知識を奪ったようなのである。
「同じ白猫の癖に可愛く無い奴だ」
彩子が呟き、ドリームイーターの後方からデストロイブレイドの重厚無比の一撃で叩き潰した。
『!!』
体勢を立て直したドリームイーターは、鉄塊剣を持つ彩子を睨む。その瞳には、邪魔をされた怒りの炎が燃え上がっていた。
「ほんと可愛くないわね。ふふ、じわじわ痛めつけてあげるわ」
彩子を睨みつけているドリームイーターの死角から渚が黒影弾を放つ。
『ギャ!』
死角からの攻撃に、避ける事もできずに黒影弾が直撃したドリームイーターは、その強力な攻撃に吹き飛ばされた。
『ニャ!?』
突然の戦闘で驚いた猫は、黒影弾が飛んできた方向――彩子の方からドリームイーターの方へ逃げ出す。
「まずい!」
クレーエが慌てて白猫の前に立ち塞がるように立った。そして、隠していた尻尾を出し、地面に守護星座を描く。描かれた守護星座が光り、白猫の動きが止まった。
『……ニャ?』
その光はレン、彩子、渚、ジャニルの前衛4人を守護する。と同時にクレーエは尻尾をゆらゆら揺らし、白猫の視線を釘付けにした。
動きの止まった白猫をそっと抱き上げたクレーエは勇狗に渡す。
「……頼むよ」
「うん。ちゃんと安全なところまで連れて行くよー」
白猫を受け取った勇狗が、
「よし……大人しくしていてよー」
と白猫に語りかけながら、その場から小走りに走り去った。
クレーエがすぐさま横に飛びのき、ドリームイーターから離れる。
「勇狗の方へ行かぬようにせねばな」
ジャニルが武神の矢を放った。しかし、その攻撃は吹き飛ばされて立ち上がったドリームイーターにかわされてしまう。
「動きを止めるわ」
ジャニルの攻撃をかわしたドリームイーターに、エアーデが動きを止めようとペトリフィケイションを放った。
『……グアッ!!』
エアーデから放たれた魔法の光線は、ドリームイーターの足に直撃。体勢を立て直そうとしたドリームイーターは、足を重そうに引きずっている。
「レンさん!」
イノリが、最初に白猫を庇ってモザイクに包まれて体が思うように動かないレンに、満月に似たエネルギー光球をぶつけ、傷を癒すと共に凶暴性を高めた。
メディックであるイノリのルナティックヒールは、キュアの効果もつき、レンは体が軽くなるのを感じる。
「かたじけない」
礼を口にするレンに、にっこり笑うイノリ。
7人は、ドリームイーターと、白猫を連れた勇狗の背中を交互に見ながら、改めて気を引き締めた。
●愛を壊そうとする者に鉄槌を
体勢を立て直したドリームイーターは、逃げる勇狗と白猫よりも、彩子に狙いを定めている。
モザイクを出した瞬間、氷の結晶型の手裏剣がドリームイーターの腕に刺さった。
それはレンが放った螺旋氷縛波。
『ッ!!』
ドリームイーターは、攻撃しようとした隙をつかれ、動きが止まる。
(「注意引けたな」)
彩子が内心ガッツポーズしつつ、マインドシールドで自分の周りに光の盾を浮遊させた。
「楽しいねぇ!」
「次は避けさせない」
モザイクイーターが体勢を立て直す前に、渚が笑いながら絶空斬で傷口を広げる。更にジャニルが蒼い地獄の炎纏わせた武器からブレイズクラッシュを叩き込んだ。
(「モフモフだったな……」)
クレーエは、先ほど勇狗に白猫を渡すときの感触を思い出しつつ、今はそれどころではないと顔を引き締める。すぐにドラゴニックミラージュでモザイクイーターを焼き捨てた。
『ギャッ!』
立て続けに攻撃されたドリームイーターは、よろよろと後ろに数歩下がる。
『……』
モザイクイーターはケルベロス達を睨みつけながら、モザイクで傷を癒した。ケルベロス達によって与えられたバッドステータスも、全てではないがいくらか軽減したよう。
「白銀の十字よ。その聖なる光に基づき、審判を下せ」
傷を回復させたドリームイーターに、エアーデが南十字の力を輝く光に変えて放った。
「傷治っても、それ以上の攻撃が入ればいいんだよね!」
イノリは、満月に似たエネルギー光球を渚にぶつけ、その凶暴性を高める。
「愛を否定し壊そうとは……浅ましき所業と知れ」
低く呟いたレンが螺旋掌を放った。
(「……私に向いた注意が消えたようだな。ジャニルさんが狙われても困る」)
彩子が怒り効果が消えているのを見て、山猫のウェアライダーであるジャニルが万が一狙われる場合の為、ジャニルにマインドシールドを浮遊させた。
「あはは! 楽しい! 楽しすぎるよ!」
イノリにルナティックヒールで凶暴性を高められた渚は、更に楽しそうに満面の笑みでシャドウリッパーを繰り出した。
『ッ!!』
重くなっていた足が、先ほどのモザイクで正常に戻ったドリームイーターは、それを寸でのところでかわしきってしまう。
「安静にしたまえ」
渚の攻撃をかわしたその場所に、ジャニルが蒼い地獄の炎を振りまいた。
『!?』
蒼く煌めく怪しい灯火は、ドリームイーターの精神を縛る。
「魅せられ、痺れてみる?」
蒼い炎に包まれ、動きが止まってしまったドリームイーターにクレーエの声が静かに響いた。蒼い炎の中に紫の揚羽が舞い踊る。その美しき羽から静かに降りしきる鱗粉は、ドリームイーターの動きと、視線を奪った。
「彼女と白猫の『友情』を壊すようなことはさせないわ」
動きが奪われ、虚ろな瞳で舞い踊る蝶を見つめているドリームイーターに、すかさずエアーデがマジックミサイルを撃ち込む。
「ジャニルさん!」
イノリがジャニルにルナティックヒールを使い、凶暴性を高める事で、高い攻撃力を更に高めた。
ふらふらと瀕死状態になったドリームイーターは、最後の力を振り絞ってモザイクを放つ。無意識に猫を殺さねばと思ったのか、ジャニルに向けて。
瀕死で本能だけで動いているのだろう、人型になっているジャニルのどこかに猫を感じ取ったようだ。
「最後の最後で来たな!」
彩子がジャニルの前に飛び出し、モザイクに包まれる。
「すまない」
「大丈夫だ」
ジャニルが礼を言うと、彩子がダメージに眉をしかめながらも軽く笑みを浮かべた。
「遅くなってごめんねー。猫は取り敢えず、大丈夫だと思うよー」
そこへ、白猫を安全な場所まで連れて行った勇狗が走って戻ってきた。
「とにかく、消えろー!」
勇狗はケルベロスチェインを操り、ふらふらになっている瀕死のドリームイーターを締め上げる。
『ギャ、ギャーーー!!』
最後に断末魔の叫びを上げたドリームイーターは、全身がモザイクになって、そのまま霧散した。
●見える傷はヒールで 見えない疲れは――
ドリームイーターが消えた場所に、ゆっくり歩み寄ったレンが目を閉じる。
「只々夢を奪う存在……己の夢を持てぬ存在として生み出された哀れなる者よ。その魂の安らぎと重力の祝福を願う」
片手だけで合掌の形を作り、静かに祈った。
(「もうちょっとモフモフしたかったかな……」)
クレーエは、壊れた遊具をヒールで修復しながら、捕まえて勇狗に渡すときに触った白猫の感触を思い出す。
「大丈夫ー?」
イノリが彩子の傷をヒールで治しながら訊ねた。
「あぁ、このくらい大丈夫だ。すまないな」
傷が癒えて笑顔で答えた彩子は、立ち上がってクレーエと共に壊れた遊具をヒールで修復しだす。
「ふむ」
やはり人型は寒かったのか、獣人型に戻ったジャニルが買ってきた猫缶の封を切り、先ほど白猫が現れた辺りにそっと置いた。
他の仲間達も、ヒールグラビティで修復したり、壊れた破片を掃除しながら白猫が現れるのを待つ。
暫くすると、周りを警戒しながら白猫が猫缶に近付いてきた。
白猫を見つけた渚は、慌てて手を服で拭い、脅かさないように静かに歩いて近付き、猫缶を食べだした白猫をそっと撫でる。
被害者の女性に毎日餌を貰っていたからか、好意を持って近付いてくる人間からは逃げようとしないようだ。
エアーデもゆっくり近付く。
「彼女が来たら、たくさん甘えてね?」
そっと撫でながら、優しく声をかけた。
他の仲間達も白猫の周りに集まり、顔を綻ばせる。
「さて、今回の女性が復帰したらば、動物変身して飯をねだりにくるかな」
ジャニルが冗談めかして軽く呟くと、仲間達に笑顔が広がった――。
作者:麻香水娜 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年1月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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