白魔の苛立ち、連篇

作者:彩取

●戦艦竜、白魔
 青い海に生じた、幾つもの白波。
 その無数の波の中に、一際大きな波が生まれた。
 だが違った。それは白く儚き波ではなく、海を泳ぐ巨大な脅威。
 雪のように白く、海中でうねり狂う姿は、確かな形を得た吹雪の如し。
 瞬間、白波のように見えていたその脅威の全貌が、眩しい陽光の元に晒された。
 その脅威こそが、戦艦竜。
 甚大な被害を人の世にもたらす大雪。
 それを魔物に喩えた名称――白魔と呼称されている白き竜である。
 だが、以前は白く輝いていたその巨躯には、複数の深い傷が残されていた。
 その理由は、他の誰でもなく、戦艦竜自身が知っている。
 故に、白魔は長い尾を海面目がけて叩きつけた。まるで、その苛立ちを示すように。

●第二戦
 第一陣が帰還して程なくの事。
 戦艦竜『白魔』との次なる戦いの為に、ジルダ・ゼニス(レプリカントのヘリオライダー・en0029)は集まったケルベロス達に深く一礼し、話を始めた。
「第一陣の方々の尽力により、幾つかの情報が集まりました」
 表情こそ変わらぬが、言葉に感謝を込めるジルダ。
 彼女は早速、戦艦竜についての情報を話始めた。
 戦艦竜。それはドラゴンに、戦艦のような装甲や砲塔を取り付けた存在である。非常に高い戦闘力を持つ反面、自力で回復出来ないという特徴がある。よって、一度の戦いでの撃破は不可能だが、ダメージを積み重ねる事で撃破出来ると考えられる。
「今回は白魔との二戦目です。それでは、引き続きご説明致します」
 
 まず、一同にはクルーザーで、白魔の出る海域に移動してもらう。
 前回同様、クルーザーで現場に到着し、その場で海に入る。そして、クルーザーに突撃した敵に接近し、戦闘を開始する流れである。冬の海での水中戦だが、地上での戦いと遜色なく立ち回れる事は、第一陣の面々も証明している。
 この突撃時点で、クルーザーは破壊されてしまうだろう。
 元々移動手段でしかないので、それは仕方ない。
 戦艦竜は攻撃してくるものを迎撃するようで、撤退の心配はない。また、敵を深追いする事もない為、こちら側から撤退すれば、速やかに戦いは終わるだろう。
「ですが、前回の一戦で、機嫌の悪さは増しているかもしれません」
 それでも撤退時に影響は出ない。だが、戦闘中の立ち回り方に関しては、より直球になる可能性がある。前回の戦闘時、序盤は二種類の列攻撃が主な攻撃方法であったが、
「今回も同じ方針で立ち回るとは限りません、お気をつけて」
 前回の戦いで、白魔の体力は三割程削られた。
 情報が少ない中での戦いで、これは充分な成果である。
 一方で、敵の殺意が一層激しくなっている事を思えば、今回も油断出来る要素はない。
「元より、強大な力を持つ戦艦竜です。どうか、引き際を見誤る事なきように」
 この戦いは、次に繋げる為のもの。
 そう言って懸命なる撤退の元、情報を持ち帰ってくれた第一陣に応える為にも。
 そして海の平穏を取り戻し、脅威を打ち祓う為にも、どうか堅実なる戦いを。


参加者
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
バーヴェン・ルース(復讐者の残滓・e00819)
メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)
狼森・朔夜(奥羽の山狗・e06190)
芹沢・響(黒鉄の融合術士・e10525)
黒木・市邨(蔓に歯俥・e13181)
藤宮・怜(朱誓・e20287)

■リプレイ

●連篇
 ケルベロス達を乗せ、冬の海域を進むクルーザー。
 予知された海域への航行中、思い思いに過ごす面々の中で、狼森・朔夜(奥羽の山狗・e06190)は一際静かにその時を待っていた。彼女にとっては船の揺れと緊張により、晴れやかとは言えない航海ではある。しかし、
(「けど、仲間に余計な不安を与えたくない」)
 不安を忍ぶのは、仲間を思ってこそのもの。
 そんな彼女の前を小さな竜が通り過ぎた。
「黒彪、もうすぐ到着だぜ!」
 芹沢・響(黒鉄の融合術士・e10525)の相棒、ボクスドラゴンの黒彪である。
 瞬く間に、船の一番高い所によじ登る黒彪。楽しそうに眺める響も、戦意は充分といった様子だ。今回、八人と共に戦う二匹のサーヴァント。一匹は鋼の黒竜たる黒彪。そしてもう一匹が、メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)の傍にいるボクスドラゴン、白いふわふわの仔犬を思わすコハブである。
「コハブ、一緒にがんばろーね」
 メイアの言葉に、ふわりと揺れて頷くコハブ。
 やがて、目的の海域に到着すると、一同は一斉に海に入った。
 海水の冷たさに驚き、全身が固く強張る感覚。
 しかし、それを忘れさせる程の衝撃が次の瞬間に訪れた。

 直後、水面にあったクルーザーが、空へと跳んだ。
 号砲のような音が轟き、そこに現れたのは、白く大きな水の柱。
 対し、バーヴェン・ルース(復讐者の残滓・e00819)はすぐに気が付いた。
 眼前の白い柱は、水柱などではない。
「――ム。これは予想以上……かもな……」
 それは雪のように白く、巨大な竜。
 一同の標的、戦艦竜――白魔が海面に出した長い首だった。
 激しい波を立てながら、挨拶代わりの一撃を示した白魔。肌で感じるのは、水よりも冷たい冷ややかな殺意である。それをドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)は豪気に笑い飛ばして、敵を見据えた。
「相変わらずでかいのう、戦艦竜は!」
 以前対峙した個体と同様、実に強大、実に愉快。
 すると、雨のように降る海水を浴びながら、メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)も冗談めかして、意気揚々とした表情で竜に問うた。
「ご機嫌いかが? なーんて。……良かったら、逆に驚いちゃいますね♪」
 煽りや挑発は、竜の行動を左右するのか。
 他にも、少しでも情報があれば、それを次へと繋げたい。
 これはメリーナだけでなく、皆に共通する思い。
 一方、藤宮・怜(朱誓・e20287)は、脅威を前にこうも感じた。
 今回の目的は、あくまで撃破ではない。しかし、
「だからといって、手を抜いていいわけではありません」
 自分達は初戦の面々の情報と共に、戦うのだ。
 託された情報と成果。それを次の仲間達へ繋げる為にも、全力で。
 程なく、水飛沫が海面へと還り、衝突する両者の視線。
「さあ、連篇を紡ごうか」
 その緊迫感の中、黒木・市邨(蔓に歯俥・e13181)は告げた。
 如何に強く、竜の力が吹雪こうとも、あれは巨大な的に過ぎない。
 故に、決して視線は離さない。
「白魔、かかっておいで。如何せなら、派手にやろう――」
 そうして愉しげに笑む市邨の視線は、言葉以上に、竜に苛立ちを与えた。

●細部
 白魔との第二戦。
 その方針は、やはり初戦とは明らかに違う。
 最も大きな違いは、白魔の手の内と、弱点が分かっている点だ。
 それを踏まえ、一同は頑健、あるいは魔法に基づく技を意識した。
 一方で、今回も敵がクラッシャーかは不明である。戦艦竜の欠点である命中率や回避率を補う為に、挑んでくる可能性も十分にあった。とはいえ、
「カッカッカッ! さあ始めようぞ、白魔よ!」
 机上での議論は詰め終えた。
 後は戦場で、力と力の衝突で見極めるまで。
 そう言わんばかりに、海面に出た竜の首へと電光石火の蹴りを放つドルフィン。海風さえ巻き上げる強烈な一撃は勿論、ドルフィンの付与した麻痺も、治癒手段のない戦艦竜との一戦の中、後々の一助となる筈だ。
 ドルフィンから始まった一同の連撃。
 それが一巡してなお、海面に留まって戦う白魔。
 一方、治癒に専念していたメイアは、敵の火力に関して思案していた。
「あの火力……今回ももしかして、クラッシャーかしら?」
 前回の情報と比較しても、威力に遜色は感じられない。
 となると、バーヴェン、朔夜、怜のディフェンダー陣が付与した怒りは、今回の布陣に必要だったとのだと、朔夜は思った。
 誰もが、全てを防ぐ盾にはなれない。
 且つ、前中衛に盾以外の役割を持つ者がいるのなら、
「――白魔がそこを狙う可能性は、充分にある」
 仲間を守る為、盾役が怒りを与えるのは、悪い手ではない。
 後は冷静に怯まず、己が役目に向き合えば、
「今まで出会った中で、一番の強敵だが」
 例え一瞬、火力に動揺を覚えようとも、朔夜の心が折れる事はない。
 直後、バーヴェンを襲った竜の一撃。
 その火力を目の当たりにした直後、メリーナは詠唱と共に指を鳴らした。
「世界の《ボール》を受けましょう、"Yes, And"で返しましょう――♪」
 光ある所に、影は生まれる。
 とりわけ彼女の背面より差す光は、影生む場所を選ばない。
 そうして生まれた影が実体を得る中、メリーナは笑顔でこう言った。
「これは全部嘘ですが、全部本物です。――全部ぜーんぶ、本物です♪」
 無数の数。それは似て非なれども、全てが力持つ実像だ。瞬間、影は戦場を巡りに巡り、白魔を襲う力となった。その影と入れ替わるように敵へと迫ったのは、何処か愉しげな様子で迫り行く青年、市邨だ。
「蔓、御前も頑張るんだぞ」
 蔓と呼んだ自らの攻性植物と共に、緑の蔓を白魔へ絡める市邨。
 初撃、敵に与えた服破りの効果で、市邨は想定より深い傷を与えている実感を得ながら後方へ下がり、一方のメイアはコハブと視線を合わせた後、魔導書をぱらりと開いた。
「相手がドラゴンさんでも、皆を守ってみせるよ」
 皆の為にと思いを秘め、禁断の章を紡ぐメイア。
 戦況を見極めた彼女の治癒は、前線を支える仲間の為に。共に戦う頼もしさや、巨大な竜に感じる怖ろしさ。そうして感じた感情の発露こそ苦手なメイアだけれど、
「皆と一緒に、わたくしとコハブも最後まで戦うよ」
 控えめに笑むその内側には、癒し手としての決意が輝いていた。
 一方、戦闘が進む中、こめかみを叩き思案するバーヴェン。
 回避に劣る戦艦竜だが、全ての技が高い精度を保持出来る訳ではないようだ。
 事実、ここで己が持つ禁じ手を放った場合、外れる確率の方が高い事を、バーヴェンは眼力で悟っている。しかし、彼はふいに笑みを浮かべた。
「――そいつは重畳」
 敵が格上である事など、承知の上。
「ならば、俺も黒木氏に続くまでだ」
 直後、バーヴェンは愛用の刀を構えた。
 雷の力を帯びた、斬霊刀による神速の突き。白魔に服破りを重ね与えたバーヴェンの一撃の後、響も御業を放ち、竜の喉元を鷲掴んだ。
「ピンポイントの弱点は分かってるが――連発出来ないしな!」
 折角の効果的な技も、見切られては意味がない。
 それを理解した上で、響は眼前の竜を見た。
「しかし、一度や二度で倒れないなんて」
 見せつけられたのは、戦艦という名に違わぬ耐久力。
 予測通り、確かに今回も倒し切る事は無理なのだろう。
 だが、それでも響は己が役割を果たすべく奮戦した。
「倒せないなら、少しでも多く傷つけて次の奴らを楽にさせてやんなきゃな」
「そうですね。その為にも、もう一つ――」
 すると、怜は静かに、白魔へと語りかけた。
 否、口調こそ、携えた笑みのように穏やかであるが、
「その砲門はお飾りですか? 戦艦竜といえど、ただの竜と代わりないのですね」
 紡がれる言葉は、明白なる挑発だ。
 怜にとって、挑発は気の進む手段ではない。
 しかし、竜が怒りに駆られて、何か情報の糸口を見せるのなら、
「――いえ、他の竜より鈍重でしたね」
 そう思い、視線を流して微笑む怜。
 すると、白魔は真正面から一同を見つめ、白い尻尾を見せつけた。
 初戦では、あまりの乱戦と技自体の見極めに手一杯で、確証に至らなかった衝撃波の正体。それは白魔の背中にある砲門と同じ、鱗の中に紛れた砲台による物だった。思わぬ形でそれを示した敵に、堪らずに声を響かせ笑うドルフィン。
「カッカッカ! その砲門、飾りにあらずと示しているようじゃ!」
 一見する限り、気難しくも澄ました竜であるが、
「ならば続けよう。必ず沈めてやるぞ、白魔よ!」
 殊の外、負けず嫌いなのかもしれない。

●成果
 砲門を見せたのは、気紛れなのか、苛立ち故か。
 しかし、煽った甲斐はあったと言える。
 長い尾を振るう動作と共に、衝撃波を放つ白魔の砲撃。
 それが水中で前列に襲いかかる中、メイアは思う。
(「大丈夫、ジャマーでないのなら……わたくしやコハブ達で――」)
 痺れが連撃の妨げになる前に、少しでも多く浄化してみせる。淡い水色と、羽根先を彩るほのかな黄色。その美しい翼を広げて、メイアが招いたのはオーロラの光。海中の中で揺れる天使のヴェールは、再び前列へともたらされた。
 中盤以降、吐息から衝撃砲へと切り替えて、前列を襲い続けた戦艦竜。時折中衛にも攻撃は及んだが、怒りの付与によって、やはり前衛の被弾が圧倒的に多かった。徐々に消耗する体力。それでも、盾役として耐えなければ、
(「山霊よ、どうか力を……!」)
 その一心で、朔夜は野山に棲む神々へ祈りを捧げた。
 神の御業により癒える傷。続けて怜も、祈りと共に掌を合わせた。
(「――聞き届け給え、癒しの慈悲を此処に」)
 朔夜の御業の舞う後を、祈癒の花弁が祝福するかの如く舞い揺れる。だが、懸命に耐える前列を嘲笑うかのように、白魔も攻撃を重ね――、
(「しまった――!」)
(「直撃になってしまう!」)
 メリーナの元に迫り来た。
 朔夜と怜は間に合わない。
 そこに、割り入ったのはバーヴェンである。
(「――ッ!!」)
 だが、直撃したのは、竜の一撃。
 その破壊力の前に、遂にバーヴェンは力尽きた。
 意識はあるが、これ以上戦場には留まれない。そう判断して浮上する仲間の姿に、撤退の時が遠くない事を知る市邨。しかし、白魔の動きも各自に鈍っている。それを象徴するように、白魔は衝撃砲を撃てずに動きを止めた。
(「パラライズ、散々重ねた甲斐がありましたね!」)
 メリーナとドルフィンが重ね続けた力の前に、苛立つ白魔。
 ともあれ、この間に少しでも態勢を整えたい。
 そう動く仲間達の一方、メリーナはドルフィンと共に海面へと上昇した。
 竜の身体を足場にして跳躍し、海面に顔を出した白魔に対して十字の傷を刻むメリーナ。
「さっきも思いましたが、間近で見ると綺麗な美人さんです!」
 雄大な雪山。海上に聳える氷山。
 そう讃辞を並べる彼女の言葉に、竜はその瞳で弧を描いた。
 傷を刻んでおいて、白々しい。そう告げる薄い笑みにも似た目元を見て、メリーナもキッと瞳を輝かせ、はつらつとした笑みを引いた。
「……沈むなら、一太刀でも多く浴びせてから、でーすよ♪」
 そう呟く標的に、竜が面白いとばかりに目を細めた瞬間――、
「カッカッカッ! これぞドラゴンアーツの真骨頂じゃ!」
 海面に降下するメリーナに替わり、ドルフィンが竜の元へと跳ね、手を伸ばした。
 乗り組む形で頭上を取り、白い竜鱗を引き剥がすドルフィン。彼の竜極壊『海竜乱脈』(カイリュウランミャク)は外側の破壊に留まらず、白魔の身体にオーラを奔らせ、内側を喰らわれるような痛みを与えた。
 対し、ドルフィンを振り払うべく、首を大きく旋回させた白魔。
 だが竜が注意すべきは、頭上だけではない。
 海面も海中も、全てが双方の戦場である。
 そしてこの時、海中では、
(「――俺は外さない、よ」)
 市邨も、狙いを定めていた。
 現れたのは、水の中に浮かぶ無数の歯俥。
 その連撃は正確無比。やがて歯俥は、市邨の意思を汲み取るように、一斉に海面目指して駆け抜けた。魚が跳ねるような水飛沫を描き、歯俥は竜を穿たんと空を翔ける。
 すぐさま海面へと上がり、痛みに吼える竜を見つめる市邨。
 小さな歯車の道筋一つが、ときに他易く人の運命を変えるように、
「御前の運命に、終わりへの轍を刻んでやるよ」
 この一撃もまた、強大な竜を沈める道筋に、光灯すものだと彼は信じている。
 対し、苛立ちを怒りに変え、空気さえ震わす咆哮を響かせる白魔。
 耳をつんざく竜の声。そこに一声を放ったのは、響である。
「頼むぜ、親友(あいぼう)の相棒ッ! 三毛猫キャリーの道具店、営業開始だぜッ!!」
 取り出したのは、一枚のシャーマンズカード。
 詠唱代わりの宣誓の直後、少女型のエネルギー体が現れた。
 しかし、先程攻撃として繰り出した時とは異なり、三毛猫の耳と尾を生やした獣人の少女が怜に振り撒いたのは、取り出した回復役。それは、嘗て響がライバルと認めた人物と交換した、行商人カードの守りの側面だ。
 己の力を攻守で使い分けながら、撤退の瞬間まで戦い続ける響。
 だが、蓄積された数々の傷が、朔夜と怜へと重く圧し掛かる。
 それを悟り、再び尻尾を旋回させて衝撃砲を放つ白魔。
 この一撃により盾役は全て倒され、程なく前衛全員が戦闘を続行する力を失った。
 つまり、残るは四人。撤退条件は満たされたのだ。

「バーヴェンくん、さっきは助かりましたー……」
「――ム。それが役目だ、だが何より」
 波に揺られて、言葉を交わすメリーナとバーヴェン。
 怜も少し深く息を吸い、上昇してきたメイア達に声をかけた。
「……お疲れ様、でした。皆さん、お怪我は」
「わたくしたちは大丈夫。怜ちゃんこそ、手当てをしないと」
 その為にも、早く陸地へと戻らなくては。すると、響は辺りを見回しながら、負傷者に手を貸しつつ言った。前回の面々も、途中で巡視船に拾われている。
「だから、船が来そうな所までは頑張ろうぜ!」
 その時響いたのは、海面を叩きつける音。
「――白魔め、もう見当たらんか!」
 悔しさを露わに、海の中を睨むドルフィン。
 例え撃破が困難でも、眼前で取り逃がす口惜しさは隠せない。
 それでも、充分な傷を与えた筈。そう感じ、市邨は漸く息を吐いた。
「……第一陣の後は引き継げた、かな」
 続くは、第三戦。
 それが終戦となるか否かは、まだ誰にも分からない。
 そう呟く仲間の傍で、ぷかりと波に揺られながら、広い海を眺める朔夜。
 戦う前とは違い、緊張から解き放たれた今、朔夜はこの海を美しいと思えている。
 そうして、幾許かの安堵を胸に、一同はゆっくりと泳ぎ始めた。
 第二戦を終え、充分な成果を仲間達に託す為に――。

作者:彩取 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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