戦艦竜ヴァイスメーヴェ・セカンドアタック

作者:さわま

●神奈川県相模湾沿岸
 穏やかな風の吹く海原にカモメの群れが飛び交う。
 ゆらゆらと揺れる水面が穏やかな日差しを浴びてキラキラと輝く。
 と、その水面の下。うっすらと見えた白い影が次第に大きくなっていく。そして水面がグワッと盛り上がり驚いたカモメたちがその場から飛び去っていく。
 海中から現れたのは白い『戦艦竜』が1体。その身体を覆う装甲板には所々に傷が目立ち、その威容に影をさしている。
 遠くに去っていくカモメの群れをじっと眺め、戦艦竜が再び海面に沈んでいく。
 ひとり広大な海原を漂うその巨体がやけに小さく見えた。
 

「戦艦竜『ヴァイスメーヴェ』が再び姿を現した」
 山田・ゴロウ(ドワーフのヘリオライダー・en0072)が集ったケルベロスに告げる。
 『戦艦竜』。以前、ドラゴン勢力により城ヶ島が占拠された際に、海の守りの要としてケルベロスの前に立ちはだかった強大な戦闘能力を持つ竜であり現在は相模湾に出現し海上交通を妨げている。
「前回の戦闘時に『ヴァイスメーヴェ』に与えたダメージは事前の情報通り回復していない。再度のアタックを仕掛け『ヴァイスメーヴェ』を追い込んで頂きたい。厳しい戦いになると思うがよろしく頼む」
 
「『ヴァイスメーヴェ』の戦闘能力についてだが、前回の作戦参加者たちの尽力でそのほとんどか明らかになっている。この情報を生かし作戦を立てて頂きたい」
 おそらく隠された能力はもう無いはずと前置きし、ケルベロスに『ヴァイスメーヴェ』の能力について説明を始めるゴロウ。
「まず戦艦竜は強大な耐久力を持つ竜であるが『通常の手段ではHPが回復しない』。よって前回の戦闘で与えたダメージはそのまま残っている。とはいえまだまだ撃破に至る程のダメージを与えてはいない」
 そもそもが1回や2回のアタックで倒すには厳しすぎる強敵なので、今回のアタックでの撃破はまだまだ難しいようだ。
「またその強力な耐久力と引きかえに動きは鈍重だ。回避力は高く無い」
 巨大な上に動きが鈍い相手なので攻撃を命中させる事自体は難しく無いだろう。
「次に戦艦竜の攻撃手段だが、強力な攻撃力を誇る主砲による砲撃、周囲に機雷をばら撒き敵の動きを封じる攻撃、そして竜巻を発生させて周囲の敵を巻き込む攻撃の3種類がある」
 砲撃は命中率は低いがその威力は下手をすれば一撃での戦闘不能もあり得る。逆に機雷は命中率はそこそこだがダメージは低い。しかし機雷による足止めの効果で砲撃か命中しやすくなるので注意が必要だろう。
「竜巻による攻撃だが、これは『ヴァイスメーヴェ』の切り札といって良い攻撃だ。周囲に散布した大量の機雷を竜巻の中に巻き込んで爆発させる事で主砲の一撃以上のダメージがある。命中率も高くこれを凌ぐは並大抵の事では難しいが欠点も分かっている」
「まず1つ目の欠点は周囲に機雷を大量に散布していなければこの攻撃は十分な威力を発揮しない事だ」
 最低でも戦闘開始から10分以上が経過しなければ『ヴァイスメーヴェ』がこの攻撃を行う事は無いだろう。
「もう1つの欠点は攻撃の予備動作として身体に纏った装甲板を展開してしまうので特定の攻撃に対して無防備な状態になるという事」
 攻撃の準備に1ターンを費やし、その間は『斬撃』属性が弱点となる。『ヴァイスメーヴェ』が竜巻による攻撃を行う事は危険ではあるが最大の攻撃のチャンスともいえるだろう。
「それと『戦艦竜』は攻撃してくる者を迎撃する性質があるので途中で逃走を図ったりはしない。また逃げる者を深追いしないよう行動する為にこちら側が撤退する際に追撃をかけてくるような事もしないだろう」
 撤退条件については考えておいた方が良さそうだが、撤退時の対策等は講じなくても問題は無さそうだ。
 
「勇敢なる戦士たちよ、どうかよろしく頼む。……今回も無事に帰ってきてくだせぇだよ」
 ゴロウがケルベロスたちにペコリと頭を下げた。


参加者
シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)
ドロレス・ハインツ(純潔の城塞・e00922)
レクス・ウィーゼ(ウェアライダーのガンスリンガー・e01346)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
ヴォルフ・シュヴァルツ(不幸を呼ぶ黒狼・e03804)
ジブリール・セレスタイン(天蒼白竜・e04626)
カルメネール・ブラン(如何様キキーモラ・e05242)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)

■リプレイ


「この日の為に準備した『対砲装衣』。研究班には無理をさせてしまいましたが開発が間に合って何よりです」
 新調した漆黒の兵装の動作を確認するドロレス・ハインツ(純潔の城塞・e00922)。ふと顔を上げるとミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)の赤い瞳と目が合う。
「いよいよですわね、ロリータ団長様」
 互いに頷き合う2人。そこに愛嬌のあるカピバラ――もといレクス・ウィーゼ(ウェアライダーのガンスリンガー・e01346)がビハインドのソフィアを連れやってくる。
「ドロレス嬢ちゃん、ミルフィ嬢ちゃん。前回はヴァーリ、ウチの娘が世話になったな。改めて礼をいわせてくれ」
 愛らしい見た目に反したレクスの落ち着いた声。
「いえ、こちらこそ助けて頂きました」
 そう答えたドロレスがソフィアをチラリと見る。その長い銀の髪に前回共に戦ったシャドウエルフの少女のそれを思い出す。
「それに敵さんにも随分と世話になっちまった。親としてはキッチリとお返ししないとな」
 冗談めかした軽い口調。だが戦艦竜に対する強い敵意を感じさせた。

 船の甲板の上。遠くを見るヴォルフ・シュヴァルツ(不幸を呼ぶ黒狼・e03804)の身体を真冬の潮風が吹き抜ける。
「冷えるな」
「……そうね」
 身を切るような風の冷たさにコートの襟を閉じるヴォルフの背中からマイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)の声が。振り向くと全開にはだけ風になびくコートの下に布地面積が極端に少ないマイクロビキニという姿のマイアが目に入る。
「……寒くないのか?」
「海に来たのに水着にならない方が勿体無いと思わない?」
 サラッと顔色ひとつ変えずにマイアがいう。そのあまりに自然な態度にそういうものかと納得しかけるヴォルフ。
「それに寒かったらこの子がいるから、ね」
 マイアが悪戯っぽくいうと規格外の大きさの胸の谷間からニョっと黒いスライムが顔を出し、その黒光りする粘液がマイアの白い素肌を覆っていく。
「……そうか」
 少し顔を赤くしてマイアから目を逸らすヴォルフ。その様子にマイアが愉快そうにクスリと笑った。

「戦艦竜というのは一体どんな味がするのかなぁ」
 ジブリール・セレスタイン(天蒼白竜・e04626)がポツリと呟くと、カルメネール・ブラン(如何様キキーモラ・e05242)が目をパチクリさせる。
「戦艦竜を、食べる?」
「海の竜だし、ウミヘビとかに近い味なのかも。大きいから食べ応えありそうだ」
「えっと、ジブリールさんがどんな大食いでも1人で食べ切るのは大変そうだよ」
「そうだなあ。どうしたものか」
「だったら余りはご当地グルメとして売り出すってのはどう? 相模湾名物戦艦竜の丸焼きってね、キキキ。それなら迷惑ばかりの竜も少しは地元に貢献できるってもんだよ」
「それは良いアイデアだな。是非そうしよう」
 そういってハハハと笑い合う2人。
「ピノもそう思うよね……って、いつの間にか居ないし。おーい、ピノー」
 辺りを見回し、カルメネールが相棒のボクスドラゴンの名前を呼んだ。

 船のへりから海面を物珍しそうに覗き込む純白のボクスドラゴン――ピノ。その時、大きな波にあてられた船体がグラリと傾き小さな身体が空中に投げ出される。
「あぶない……」
 間一髪でシェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)がピノを抱きかかえる。慌てた仔竜が腕の中で暴れそのもふもふとした羽毛がシェミアの肌をくすぐる。海に落ちたりしないようそっと船のへりから離れて仔竜を解放する。トンと甲板に着地した仔竜がこちらに振り向き、その可愛らしい瞳と目が合う。
 ――クワァッ、クワァッー。
 遠くからカモメの鳴き声が聞こえ、シェミアとピノがその鳴き声の方に振り向いた。


 海上に姿を現した白い戦艦竜に驚いたカモメの群れが飛び去っていく。すると竜が何かに気づいたように別の方向へと振り向く。
「敵も気づいたようですね。このまま近づける所までいきましょう」
 前方の竜がこちらに振り向くのを見てドロレスが船のハンドルを握るカルメネールに声をかけると、ウィングキャットのブラッキーも「にゃう」と声を上げる。
「お、オッケー、任せてよ」
 そういうカルメネールのこわばった顔にピノが心配そうな目を向ける。最大船速で水面を滑るように進む船。少しでも舵を誤れば即座に吹き飛びかねない勢いで竜へと迫る。
 接近する船に竜が砲門を向ける。
「来ます。カルメネールさん、私にしっかり掴まってください」
 素早くハンドルから手を放したカルメネールの腕がギュッと腰に回されるのを感じドロレスが船の前面を蹴り海へと飛び出す。
 身体を空中に投げ出したドロレスの両腕の縛霊手に付設したエンジンが点火。竜の砲撃を受け爆発する船を背に、空中を弾け飛ぶように加速し竜に接近。
「あなたが白鴨ならば、こちらは黒鯱です!」
 縛霊手の先の爪が竜の首元に口を開けた鯱の牙の如く突き刺さる。竜が激しく首を振ると、振り落とされたドロレスが海面にポチャンと落下し海中に消える。
「乱暴だなぁ。初めまして、お掃除屋のカルメネールとピノだよ。みんなの迷惑になってるキミをキッチリお掃除させてもらうからね」
 いつの間にか竜の背中に飛び移ったカルメネールが手にしたモップの柄でコンコンと竜の装甲を叩く。すると周囲の砲塔が一斉に狙いを少女に向ける。
「キキキ、キミの相手はあたしたちだけじゃないんだよねー」
「参りますわ。『ホワイトマーチラビット』起動」
 竜の注意が背中に向いたスキにサーフボードに乗ったミルフィが竜の側面に。そしてボードを蹴り大きくジャンプ。脚の空機靴から光が噴射し空を駆けるように竜に接近する。
 そしてさらに竜の頭上。翼をはためかせたシェミアが冷たい目で竜を見下ろす。
「デウスエクス……」
 竜に向かい降下するシェミア。異形と化した右腕で鎌の柄を強く握りしめるとその柄の両端から蒼い炎が噴き上がり刃を形作る。
 ミルフィとシェミアの接近に気付き急ぎその身体を海中へと沈めていく戦艦竜。
「今更気付いても手遅れだよ、キキキ」
 素早く竜の背中から飛び退いたカルメネールが置き土産とばかりに光の剣を射出する。
「唸れ『牙兎(ガトー)』斬り裂け『処虎羅(ショコラ)』!」
 竜を飛び越すように跳んだミルフィが左右の手に持った大太刀を大きく振るい三日月の如き軌跡を竜に刻みつける。
 海中に沈んでいく竜の背中をキッと睨むシェミア。蒼炎の刃を海面に向け振るうと水が吹き飛び竜の背中が露わになる。
「逃がさない」
 間髪を入れず鎌を回転させその背中に蒼炎の連撃を叩き込んだ。


 一方、船が戦艦竜に撃破される前に海に飛び込み、海中より戦艦竜へと迫る4人のケルベロス。シェミアの連撃に圧されて下へ下へと沈んでいく戦艦竜をジブリールが捉える。
(「これはでかい……美味そうだなあ」)
 舌舐めずりをするとその全身に呪紋が浮かび上がる。どうやら先ほどの会話は冗談のつもりではなかったらしい。
 竜の周囲で爆発が起こり、先に竜に張りついた仲間が一旦距離を取る。そしてこちら側に竜が旋回したと思うと次々と砲門が火を噴く。
(「敵も対応が早いな。俺が盾となろう、皆は後ろに」)
 前に出たヴォルフが可変式のシールドを大きく展開。仲間を背中に庇い砲弾の飛び交う中を竜へと突き進む。
(「さあ『結晶花』……その力を見せてちょうだい」)
 マイアが攻性植物『アンバーミストルティン』に自らのグラビティを注ぎこむと、その蔓がぐんぐんと成長し先端に黄金色の果実が実る。そして果実が大きく膨らみ仲間に祝福を与える光を放ち、あたり一面が黄金色に包まれる。
(「随分と頑丈そうな装甲じゃねぇか……だがよ」)
 その隙に竜の下腹部に潜り込んだレクスがその重厚な造りの装甲をじっと観察する。するとその手の中の肉厚で無骨な造りのナイフを装甲の繋ぎ目に無理やりねじ込み裂け目を広げ、気づかれる前に離脱する。
(「小さな人間の持つ『強さ』ってヤツを教えてやるぜ、デカブツ」)
 再び仲間が攻撃を始めるのを確認し、次の機会に向け集中を研ぎ澄ますのだった。


 戦闘開始から数分が経過。戦艦竜の周囲を行き交う前衛陣が機雷に捕まり爆発が起きる。周囲に増え始めた機雷によりケルベロスの行動は足止めされるようになってきており、また細かいダメージが少しずつ蓄積していく。
(「ピノ、いくよ」)
 回復役のカルメネールが水中スクーターを取り付けたモップを振り回し、ピノと一緒に仲間の間をあちらこちらに駆け巡る。
(「私は自分で回復します。砲撃に備えて他の方の支援を」)
 ドロレスが自らをヒールしつつ合図を送る。互いの連携を密に取る事で無駄な回復を減らし機雷のダメージを凌いでいく。
(「これならどうかしら?」)
 マイアが戦艦竜とその周囲の機雷目掛けて氷の精を解き放つ。その攻撃を受けた機雷が爆発を起こす。しかし。
(「……効果はイマイチみたいね。広い範囲を狙う分、竜への効果も弱くなるし」)
 列グラビティでの機雷除去。悪いアイデアでは無いように思えたが、実際にやってみると除去できる機雷は大量に撒かれた内のほんの僅かに過ぎず、竜と戦闘しながらでは効果を挙げるのは難しそうだ。
 爆発が収まると竜を包囲するように布陣したケルベロスたちが一斉に攻撃を開始する。
(「万竜の咆哮、かの者を焼き払えッ……!」)
(「ソフィア、タイミングを合わせていくぞ」)
(「その肉、味見させてもらう」)
 シェミアの幻影竜が、レクスとソフィアのコンビネーションが、大きく口を開けたジブリールのブラックスライムが怒涛の勢いで竜を攻め立てる。
 と、その時。竜が放った砲弾がシェミア目掛けて真っ直ぐ飛来する。
(「……ッ!?」)
 回避は間に合わない。直撃を受けるとシェミアが身構えた瞬間。ヴォルフがシェミアの前に割って入る。
(「俺が……守るッ!)
 ヴォルフが展開した大盾に砲弾が着弾。その衝撃で装甲に無数のヒビが入っていく。
(『誓い』を果たす力を――知と戦の女神アテナよ、我に仲間を守るための加護を与えん! 『Scutum Aegis(アイギスノタテ)』」)
 ヴォルフの決意のグラビティが盾に流れ込み、ヒビの間から光が放たれる。パラパラと装甲が剥がれ落ちると光の盾が出現。
 ――ドォオオオオン!
 中央で大きな爆発が起こるも光の盾はビクともせず、ヴォルフとシェミアの後方にその衝撃を受け流していく。
(「……大丈夫か?」)
 爆発が収まり盾が消滅。ヴォルフが一瞬グラリとふらつく。目立った外傷は無いが砲撃を受けた体力の消耗は大きい。
(「見事ですわヴォルフ様。私も誓いを立てた騎士として負けてはいられません!」)
 ミルフィが竜に向かい突撃。『アームドクロックワークス』が光を放つ。
(「今週の『巨大戦』と参りましょうか――『ナイトオブホワイト』、起動…!!」)
 白銀の機動鎧が出現、竜に体当たりを食らわし『巨大戦』を開始した。


 何度目かの下腹部へのアタックを仕掛けるレクス。同じ箇所に根気よくナイフをねじ込み裂け目を広げていく。
(「そろそろ頃合いか――どんな装甲も何度も攻撃を喰らえば傷の一つ位負うし体の中はどんな奴だって鍛えられねえさ。さあ弾丸のフルコースご馳走してやるぜ? 『一極集中(インサイドベット)』」)
 それまで一度も手にする事の無かった拳銃を竜の装甲の裂け目に突き入れ、その引き金を何度も何度も引く。ブワッと赤い血が噴き出し海水を真っ赤に染めあげる。
 悶えた竜が怒りの咆哮を挙げる。するとその装甲が一斉に展開し内部が露わになる。
(「さぁ皆、憎いアイツにプレゼントのご用意を!」)
 カルメネールがモップの先から光の帯を生み出し、竜を包装するかのようにクルりと竜に周り込む。それを合図に全員が一斉に斬撃を開始する。
(「さて、本気でいこう――『蒼の凶刃(カエルム・リェーズヴィエ)』」)
 表情を引き締めたジブリールの腕からその角と同じ蒼色の刃を纏った無数のブラックスライムが飛び出し竜の素肌の上を乱れ飛び切り刻む。
(「悪夢に惑いし魂よ……この一閃にて浄化する……! 『ナイトメアリープ』」)
 シェミアの鎌が淡い光を放つ。振るう蒼炎の刃が朧げに揺らめき竜の身体をスッと通過。その霊体のみを刈り取る斬撃に竜の動きが一瞬止まる。
 さらに爪が、蹴りが、太刀が、ナイフが、魔力弾が竜を切り裂く。
 そして竜の周りをぐるりと一周したカルメネールが光の帯の両端同士を結びつける。
(「Ki-KiKi♪ 意味もなく戯けるだけだと思ったかい! 『op.63(ヤッカイモノノキキーモラ)』」)
 帯を結んだ内部が奇妙な風景を映し出し即座に帯ごと消滅。竜の全身から血が噴き出し周囲が真っ赤に染まった。


(「一体どれだけ頑丈なのですの……」)
 血で赤く染まった竜巻を眼前にミルフィが苦々しげに呟く。そして前衛陣が次々とその中に飲み込まれていく。
(「くッ……体力が万全ならば、もしくは」)
(「ブラッキー……ダメですか」)
 それまでの戦闘で仲間を庇い傷ついた盾役たち。自身に襲いくる攻撃を凌ぐ事もままならず庇う所では無い状態といえた。そして無数の機雷が竜巻に吸い込まれ――。
 ――ドォン!
 眩い光と爆発。遅れて鈍い衝撃が残りの仲間の身体を通り抜ける。竜の血で赤く染まり見通しの悪い前方にマイアが目をこらすとふわりと漂う複数の人影が見える。
(「……これ以上は無理ね、引きましょうか」)
 マイアの合図にレクスとカルメネールが頷く。即座に動き出した3人が倒れた前衛陣を回収に向かう。と、その時。
(「――『Guns N' ROSIER(ガンズ・アンド・ロージア)』)
 赤く染まった海水よりも緋い光が煌き、やがてドロレスが前方から近づいてくる。
(「ドロレス嬢ちゃん、無事だったのか!」)
(「去り際の一撃を放ってやりました。決して私達を忘れないようにと――」)
 いって力が抜け気を失うドロレスをレクスが支える。
(「身体の方はとっくに限界を超えてやがる。何か執念みたいなモノが肉体を凌駕したって所か」)
 戦艦竜との対決を誰よりも待ちわびていたといって良いドロレスを知っているだけにレクスにはそんな感じがしてならない。
(「全く、ウチのバカ娘じゃあるまいし。無茶して親に心配かけたりするんじゃねぇよ」)
 そういうレクスの表情はどこか優しげに見えた。


 今回の『ヴァイスメーヴェ』に対するアタックは、リスクを負わないバランスの良い布陣と個々の戦法に光るモノがあり上々の結果を得たといってよい。
 前回の2倍の損害というケルベロスの立てた高い目標を達成するには少々火力不足であったが、近い将来に彼の竜の撃破が叶う事は想像に難くないだろう。

作者:さわま 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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