多摩川防衛戦~近づく絶望の足音、現れるは真紅の精鋭

作者:青葉桂都

●響き渡る足音
 鉄筋のビルが砕けた。
 無数の破片が飛び散り、アスファルトに無数の穴を穿つ。
 八王子市に突如として現れ、音高く破砕音を響かせながら一歩ずつ進んでいるのはアラビア風の城塞に見えた。
 4本の脚を備えた城は行く先の被害を気に留める様子もなく、無造作に進む。
 脚の上に建つ城の高さはおよそ30mほどか。
 下に脚があることを考えに入れても、都心の高層ビルに比べればもの凄く高いとは言えない……が、それが歩いて迫ってくるとすればどうか。
 それに、広さが尋常ではない。
 上空から見れば、城がおよそ直径300mもあることがわかっただろう。ドーム球場がまるまる入ってしまうほどの広さだ。
「ああ……なんなんだ、あれは……」
 避難する人々の中から絶望の呻きが漏れた。
 城の周囲に見えるのはせわしなく飛び回る女性の姿。
 ヴァルキュリアたちは城に近づく敵を警戒しているようだったが、果たして誰があんな代物に近づけるというのか。
「ケルベロスなら……できるのか?」
 呟いた人物は、答えを得られぬまま我先にと逃げる人々の中に埋没する。
 疑問に答えられる者は無論いない。
 力なき者の疑問など意に介すことなく、城……人馬宮ガイセリウムは前進を続けた。
●ヘリオライダーの依頼
 ザイフリート王子からの情報にあった、人馬宮ガイセリウムが動き出した。
 集まったケルベロスたちに、ドラコニアンの女性は告げた。
「ガイセリウムは巨大な城に4本の脚がついた移動要塞です。八王子市に出現した後、東京都心部へ向けて進撃しています」
 周囲にはヴァルキュリアたちが哨戒を行っており、不用意に近づけばガイセリウムからエインヘリアルの精鋭『アグリム軍団』が出撃してくるという。
 石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)はケルベロスたちを見回して、話を続ける。
「今のところ多摩川までの避難が完了していますが、その後の進路の予測ができていない状況です」
 敵の動きがわからないことには避難させることもままならない。
 かといって、放っておけば東京都心部の壊滅はまぬがれない。
「エインヘリアルの第5王子イグニスの目的は、3つほど予想されます」
 暗殺に失敗したザイフリート王子の殺害。
 シャイターンを阻止したケルベロスへの報復。
 そして、地球人を殺してグラビティチェインを得ること。
「イグニスの目論見を阻むために、どうか力を貸してください」
 静かに芹架は頭を下げた。
「人馬宮ガイセリウムについてですが、どうやら完全な状態ではないようです」
 巨大な移動要塞を動かすには莫大なグラビティ・チェインが必要となる。だが、シャイターン襲撃を阻止したため、十分な量のチェインが集まっていないようだ。
 敵は周辺住民を虐殺してグラビティ・チェインを補給しながら進撃したいと考えられる。
「こちらは多摩川及び周辺の市街地を背に布陣することを計画しています」
 ケルベロスたちによる一斉砲撃を行うのだ。
 ダメージは与えられないだろうが、攻撃を防ぐために敵は足りないグラビティ・チェインをさらに消費しなければならない。
 そうなれば敵は『アグリム軍団』を出撃させてケルベロスを排除しようとするだろう。
 そこを迎え撃つ。
「負ければアグリム軍団は渡河してまだ避難できていない人々を虐殺し、チェインを得ようとするでしょう。ですが、勝てばガイセリウムに突入する機会を得ることができます」
 それから、芹架はアグリム軍団について説明を始めた。
 四百年前にも地球で暴れ回った彼らは、その残虐さから味方であるエインへリアルにすら嫌悪されている軍団長・アグニムとその配下の軍団。
 おそらくはイグニスの切り札の1つと考えられる。
「彼らは軍団長アグリムの性格により、個々の武を重視し、連携を嫌います。軍団と言いながらも、命令を無視する傍若無人な者たちの集団です」
 だが、その戦力は本物だ。並のエインへリアルですらケルベロス1チームと互角に戦うことを考えればかなりの脅威と言えるだろう。
 全員が真紅の鎧を着込んでいるのが唯一足並みの揃っている部分といえる。
「皆さんが遭遇するのは『殺戮旋風』のフレードリクという人物です。ルーンアックスの使い手で、目につく者をすべて殺し尽くすまで止まらないという狂戦士です」
 だが、そんな人物でさえ、アグリム軍団の中では特別に凶暴というわけではないのだろう。
「簡単に勝てる相手ではないでしょう。ですが、皆さんが負ければ多くの人が死にます」
 それだけ、忘れないで欲しいと芹架は告げた。


参加者
インバー・パンタシア(その身に秘めしは鋼鉄の心・e02794)
ノイン・ゴールドマン(からくり使い・e03098)
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
鷹谷・徹彰(鬼哭・e07870)
音琴・ねごと(虹糸のアリアドネ・e12519)
名郷・安希(青の魔女・e20707)

■リプレイ

●ケルベロス一斉砲撃
 多摩川の河川敷や、周辺の市街地に散ったケルベロスたちは、人馬宮ガイセリウムの足音を聞きながら一斉攻撃の準備をしていた。
「エインヘリアル第5王子イグニスとの戦いもこれからって感じだねぇ」
 ノイン・ゴールドマン(からくり使い・e03098)が言った。
 間延びした口調は、これから激戦が始まることを感じさせない。
 色黒の青年は、あくまで自然体のまま、近づく城塞を見上げる。
「実際に見てみると、大きいわね」
 間延びした声ではないまでも、ローザマリア・クライツァール(双裁劍姫・e02948)の言葉にもなんら恐怖も焦りも含まれてはいない。
「じゃからこそ、止めねばならん。後ろにでっかい街を背負っている以上、これ以上下がることはできんからのぅ」
 インバー・パンタシア(その身に秘めしは鋼鉄の心・e02794)が一瞬だけ目を伏せる。
 背中の街だけでなく、本当は今踏みつけられている街も守りたいのだ。例え避難がすんでいたとしても、壊されてしまえば元の形は失われてしまう。
 ましてや、まだ十分に避難の住んでいない街へ踏み込ませるわけにはいかない。
(「一度失ってしまったものが取り戻せるとは限らんし、戻らんものの方が多いのじゃからな」)
 失ったものへの思いを馳せている時間は、今はなかった。
「そうだねえ。僕らの背には人々の命が掛かっているからねぇ。早々引くわけにはいかないなぁ」
「はい、必ず守りましょう。微力ですが、全力を尽くします」
 名郷・安希(青の魔女・e20707)が穏やかな表情を引き締める。
「正直、守るのは性に合わないんだが。イグニスのところに一刻も早く殴り込みしてぇ気分だ」
 遠距離攻撃手段がなく、一斉攻撃に参加しない鈴木・犬太郎(超人・e05685)はすでに次なる相手との戦いを意識しているようだった。
「さあ、そろそろ大博打の時間だ。ひと勝負と行こうか」
 ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)がバスターライフルを構える。
 まだ日の高い冬の午後、数百の得物が進撃する巨城へと向けられる。
 音琴・ねごと(虹糸のアリアドネ・e12519)が片耳につけているピアスにそっと触れた。
 大切な人のプレゼントに。
 そして、無数の射撃がガイセリウムへほとんど同時に放たれる。
 無論、この場にいたケルベロスたちからも。
「開戦の狼煙を一発打ち上げさせてもらうぜ!!」
 アームドフォートに手を添えて、インバーが気合の声を上げた。
 フォートレスキャノンとゼフトのバスタービームが並んで飛ぶ。
 ローザマリアの生み出した竜の幻影が、それらを追うように豪炎を吐き出した。
「追憶を燃やし 星霜に凍て 夢幻の廻廊、果て 終ぞ見えず――鱗<イロクヅ>覆 いて 心いま千の刀子にせん ――来たれよ、甘き死」
「これが私のとっておきです!」
 ねごとと安希の声が重なる。
 とめどなくねごとの瞳からあふれる涙が影のナイフと姿を変える。
 光り輝く薬液を生み出して、安希が振りかぶる。
 影のナイフが一直線に、薬液が放物線を描いて、ガイセリウムへと飛んでいく。
 他にも、数多の攻撃が城へと飛んでいき、その姿を覆い隠す。
 すべてがガイセリウムの外壁を叩き――再び姿を見せた城には、傷ひとつなかった。
「無傷、か」
「そうね。ここまでは予定通りだけれど……」
 ゼフトとローザマリアが言葉を交わす。
 果たして、傷ひとつないものの、ガイセリウムはその歩みを止めていた。
「グラビティ・チェインを消費させられたみたいだにゃあ」
「それじゃあ、次は敵が出てくるはずだね」
 ノインの言葉通り、巨城の門から小さな赤い人影が飛び出す。
 いや、城が大きすぎるために小さく見えるだけで、実際のところ人影はケルベロスたちよりもはるかに背の高い、3mほどもある男たちのはずだ。
「エインヘリアルの精鋭といわれる『アグリム軍団』か、なんか楽しみだな!」
「楽しむのもいいが、犬太郎の坊よ。後ろに守らなきゃいけないものがあることは忘れちゃいけないぜ」
 インバーにいさめられても、犬太郎は明るく笑って見せた。
「深く考えることないさ。俺たちケルベロスが8人もいる、サーヴァントもいる、いやもっと大勢の仲間がここにいる、だから楽勝だ!」
「……まあ悲観的なことばかり考えてても始まらねえがな」
 近づいてきているはずの敵を迎え撃つために、インバーは犬太郎と同じく前衛に並ぶ。 数十を数えるアグリム軍団の精鋭たちが現れるまで、わずか数分だった。
「グラビティ・チェイン獲得の為の住民の虐殺を許す訳にはいかぬ。アグリムがどれ程の強敵であろうと必ず討ち取り、イグニスの喉元にこの刃を突き付けてやるとしよう」
 聞こえてきた足音へ、鋭い眼光を向けるのは鷹谷・徹彰(鬼哭・e07870)。
 無地の和装に身を包んだ老人は、着物と同じく質素な造りの剛刀をゆっくりと構える。
「……油断も驕りも排して挑まん」
 現れたエインヘリアルの姿が刃の先端に一瞬隠れ、そして見る間に大きくなる。
 隠れる様子もなく突撃してくる敵に向かって、ケルベロスたちも前進する。

●止まらない旋風
 まだ距離があるというのに、ルーンアックスが風を切る音が聞こえてくるようだった。
「狂戦士よ、歩みを止めず此方へ来い……その首、叩き落としてくれる」
「おお! 言われるまでもない!」
 徹彰に言われ、突進してくる敵。
「此処から先は生と死の狭間、正気と狂気を隔てる境界線――Cienka czerwona liniaよ。踏み越える覚悟はあるかしら?」
 ローザマリアが服の中から聖なる光を放つ。
 敵の持つ『罪』を攻撃する光……もしも敵の動きを制限する効果が付与されていたならそれがさらに増していただろうが、タイミングが悪かったかもしれない。
 インバーとノインがドローンを作り出した。ゼフトの攻性植物が黄金の果実を宿して聖なる光を発する。
「隣人くんもよろしくね」
 作り出したドローンとともに前進するノインが革製のアタッシェケースを放り投げると、それが大きく口を開けた。彼のミミック『箱の中の小さな隣人』だ。
 ねごとや安希のウイングキャットも、ケルベロスたちを守るように前進する。
 狂戦士の斧に刻まれたルーンが輝いて、ウイングキャットの片方に振り下ろされる。
 切り裂かれたサーヴァントが、ただの一撃で動かなくなる。
「ネロ! そんな……一撃で?」
 悲鳴のような声を安希が上げていた。
 サーヴァントの体力は決して高くない。だが、守りを固めて戦っていたのに一撃で倒してくるなど、尋常な攻撃力ではない。
「予想通り、攻撃再重視の姿勢ね」
 ローザマリアが言った。
 攻撃役の3人が近接攻撃をしかける。徹彰の刃が敵を捕らえたものの、ねごとの斧と犬太郎の刀は空を切った。
「まずは機動力を奪わないと……!」
 倒れたサーヴァントへ駆け寄りたい衝動をこらえて、安希が重力を宿した飛び蹴りを叩き込み、反転してすぐに距離を取る。
 フレードリクの二撃目が、またも一撃でねごとのウイングキャットを撃破する。
「大層な武器だが、切れるのは猫だけか? それとも、目が悪くてわしらが見えんか」
 徹彰は攻撃と共に、嘲りを込めて声をかけた。
「なんだと? もう一度言ってみろ」
「ふん、耳も悪いのか。頭と胸に付いている眼は確と獲物を捉えておるのか? 目くらでなければ、ほれ、確り狙いを定めてみよ」
 自分の首筋を刃の背でトントンと叩いてみせる。
「後悔させてやるぞ、じじい!」
 呪力に輝く斧が徹彰の体をくの字に曲げる。
 だが、彼を含めてケルベロスたちのほとんどはルーンアックスの技に有利な相性の防具を選んできている。精鋭といえど、一撃で倒しきれるはずがない。
 後方に跳んで態勢を立て直した徹彰は剛刀と小太刀を構え直して加速する。
 見る者を凍りつかせるほどの卓越した動きからの斬撃が、狂戦士の体を凍てつかせる。
 受けたダメージは比べ物にならないほど徹彰のほうが大きいだろう。にもかかわらず、嘲笑しているのは老人のほうで、敵は怒りを込めて彼を睨んでいた。
 安希とインバー、ノインが徹彰を回復する。
 それでも、さらに振り上げられた斧の当たり所が悪ければ倒れる可能性がある。
 跳躍した敵の斧から老人を守ったのは、インバーだった。
 いや、インバーも徹彰と同じ年齢の老人だが。
「悪いが仲間を守るのは俺の役目でな。それ以上はさせねえぜ」
 竜人を見下ろしてフレードリクが舌打ちをする。
 ウイングキャットや徹彰を攻撃したときより手応えが鈍いのがわかったのだろう。
「実力差はいかんともしがたいが、しばらくは耐えさせてもらうぜ」
「そっちの手管はわかってるからねえ。がっちり護るよぉ」
 インバーとノイン、隣人が回復の技を使いながらフレードリクの前に立ちはだかる。
 ゼフトはライフルを手に土手から身を起こした。
 当初は敵の動きを縛ることを意識していたが、そろそろもっとダメージを増やすことを考えるタイミングだった。
「さあ、ゲームを始めよう。運命の引き金はどちらを選ぶかな」
 一気に踏み込んで、敵の額にライフルを突きつける。
 目を見開いた敵が身をよじるが、それよりも早く彼は引き金を引いた。
 運が悪ければさらに悪いことが起こるという死の遊戯。もっとも、どんな悪いことが起こるかはゼフト自身にもわからない。
 再び距離を取った彼と敵の間を、ノインがふさいでくれた。
 防衛役が仲間を護りつつ、その間に敵を攻撃する。かわされることも少なくはないが、逆にすべて外れることもない。
 ……しかし、毎回必ず仲間をかばうことはできないし、回復が完全に癒しきれるわけでない以上、限界は訪れる。
 何か振り切ろうとするかのように高らかに跳躍したフレードリクが、斧を振り上げる。
 ノインはそれをぼんやりと見上げた。
 かわしきれないタイミングだ。
(「さすがに最後まで護らせてくれないかぁ。けど……時間はかけてもらえたよねえ」)
 細く引き締まった、針金のような体が肩口から切り裂かれる。
(「もうちょっと追い込める余裕があればよかったんだけどなあ」)
 それでも、彼の日本刀は何度か敵の腱を裂いている。ノインが倒れても傷は治らない。
 膝をつくノインの左右から、炎を帯びて叫ぶ犬太郎の剣と、ねごとの尻尾がフレードリクを強く打ち据える。

●賭け
 インバーの頑丈な体が輝く斧を受けて動きを止めたのは、それからさらにしばしの時間がたってからだった。
「邪魔なドラゴニアンめっ!」
「それは、褒め言葉だぜ」
 吐き捨てて突き飛ばされたインバーが倒れていく。
「ようやくわしの首か? ずいぶん待たされたもんだのう」
 声をかけた徹彰に狂戦士が吠え声を上げて突進する。
「ねごちも、ただではやらせないにゃよ」
「精鋭っていうくらいだからな。これくらいしてくれなきゃ、楽しみにしてた甲斐がないぜ!」
 残った3人の前衛が畳み掛けていく。
「この一太刀、貴様は凌ぐ事が出来るか?」
 武器と同じくらい飾り気のない……だが、研ぎ澄まされた徹彰の刃がフレードリクを切り裂く。
 犬太郎とねごとも追撃した。
 いや、ノインの隣人くんも喰らいついてさらに動きを止めようとしている。
 ゼフトの炎はかわされたものの、ローザマリアの真空波も切り裂く。
 徹彰が倒されたところで、犬太郎は固く拳を握った。
 拳に地獄の炎が宿る。
 絶対確実などありえないが、敵の動きはだいぶ鈍っている。当たる目は十分にあるはずだ。
「一撃だ、俺のたった一撃を全力で完璧にお前にブチ込む」
 急所を狙う拳を斧で受け止めようとするが、隣人くんに噛みつかれている腕の動きは間に合わなかった。
 拳が突き刺さる。
「どうだ!?」
「く……並のエインへリアルなら倒せているだろうな。だが、俺は、アグリム軍団なのだぁっ!」
 輝く斧が犬太郎を薙ぎ払い、痛打を与える。
 距離を取ろうとする彼を追い、ケルベロスたちの攻撃を受けながらも意識を奪う。
「これで、半分だ。残り半分で俺とまだ戦うか?」
 足を止めたフレードリクがケルベロスたちを睨みつけた。
 ローザマリアは、静かに息を吸った。
 4人倒れれば撤退する予定だった。ただし、敵が明らかに弱っているのでなければ。
「今の言葉は、弱っているからこそ出た言葉よ」
 この男は、倒す自信があるなら黙って攻撃してくる。冷静に敵を観察していたローザマリアはそう判断した。
 仲間たちが頷いたのを確かめると、狙撃役に徹していた彼女は一気に前衛に出る。
 立ち位置を変える隙を狙って攻撃してきたフレードリクの斧を、変わって受け止めたのは同じく前衛に出てきた安希。
「クライツァールさん!」
 ローザマリアが頷く。
「舞い散る花吹雪の中で訪れる終焉に身を委ねなさい――Do widzenia,Fredrik」
 腕を重力から解放し、ふた振りの刃を至近距離から高速で振り回す。刃そのものはもちろんのこと、剣閃からの真空波も敵を刻む。
「倒しきれるかどうかのギャンブル……勝たせてもらうぞ」
 ゼフトの手から飛び出したスライムが捕縛形態となって食らいつく。
 安希は敵の最後の攻撃から仲間を防ぐべく、前衛に出ていた。
 その意図は成功したといえる。
 ローザマリアの強力な攻撃は確かに敵を捉えた。
 薬液を自分にかける……だが、跳躍した敵の斧はとてもかわせないだろうとわかっていた。
 ルーンの輝く斧が眼前に迫るのを、どこか穏やかに見つめる。
 彼女の体ごと大地に食い込む斧。
(「必ず……勝てますよね」)
 呟いて、安希は意識を失った。
 斧を安希から引き抜こうとする隙。
 ねごとはそこを狙う。
 一瞬だけ触れたピアスは、婚約者からもらったもの。幸せを手に入れた彼女は、だからこそ闘いにきた。
「必ず成功させ、生きて旦那さまの元に帰らなきゃ!」
 かわそうとする敵だが、ブラックスライムに絡みつかれて思うように動けない。
 輝ける未来を想って放つ一撃がフレードリクを吹き飛ばし、狂戦士は断末魔の悲鳴を上げた。
 もはや敵が動かないことを確かめて、ケルベロスたちは武器を下ろした。
「勝負には勝ったが……無事にとは言えないな」
 ゼフトが息を吐く。
 倒れている者の数が立っている者より多いのは、さすが精鋭といったところか。
 ただのエインヘリアルが相手なら、同じように戦えばもっと楽に勝てただろう。
「戻って、手当てをしましょう。後は、ガイセリウム突入部隊に任せるしかないわ」
 ローザマリアが言った。
 3人で手分けして、倒れた者に簡単な手当てを行う。
 動けない者は支えてケルベロスたちは後退した。
「全員、帰るべき場所まで戻ってくるのを祈るにゃ」
 ねごとの言葉に頷いて、ケルベロスたちは多摩川を越えていった。


作者:青葉桂都 重傷:名郷・安希(光輝の魔女・e20707) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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