多摩川防衛戦~猛牛のタルシス

作者:桜井薫

 巨大なアラビア風の城に四本の足を生やした、奇妙な移動要塞。
 それは、東京焦土地帯の上空を奇妙なフォルムの影で覆い、何かを目指すかのように、都心の方角に歩みを進めていた。
 また、城壁の周りには、数多くのヴァルキュリアが空を舞っている。その様子は、歩みを妨げる者がないか警戒しているかのようだ。
「住民の皆様は誘導に従い、速やかに避難してください。繰り返します……!」
 警察や消防は、要塞の進路上に居る市民たちを懸命に避難させている。
 文字通り降って湧いた災厄による、大きな混乱が始まろうとしていた。
 
「押忍! エインヘリアルの第一王子ザイフリートが言うとった、人馬宮ガイセリウムが遂に動き出したらしいんじゃ」
 円乗寺・勲(ウェアライダーのヘリオライダー・en0115)は、応援団長のハチマキをきっちりと締め、集まったケルベロスたちに状況の説明を始める。
「人馬宮ガイセリウムは、でっかい城に足が四本ついた移動要塞じゃ。八王子に出現したそいつは、東京の都心部に向けて進軍を開始しちょるようでのう。周りには警戒のヴァルキュリアがようけ飛んでおる」
 勲は、もしガイセリウムに不用意に近づけば、すぐに発見されて勇猛なエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してくるだろう、と言う。
「要塞が向かっとる方向におる一般人の避難は進めておるが、都心部に近づいた後の進路はまだ分からんけん、避難が完了しとるんは多摩川のあたりまでじゃ」
 このまま何の手も打たずにいれば、東京都心部はガイセリウムによって壊滅させられてしまうだろう、と勲は言う。
「人馬宮ガイセリウムを動かしたんは、エインヘリアル第五王子イグニスじゃ。奴の目的は、暗殺に失敗してケルベロスに捕縛されたザイフリート王子の殺害と、シャイターン襲撃を阻止したわしらへの報復……それと、一般人をようけ殺してグラビティ・チェインを奪取すること、といったとこじゃろう。勿論、そんな事をさせるわけにはいかん」
 この暴挙を防ぐため、皆の力を貸して欲しい……と、勲はケルベロスたちに頭を下げる。
 
「人馬宮ガイセリウムは強大な移動要塞じゃが、万全の状態じゃなかと予測されちょる。奴を動かすにゃ、大量のグラビティ・チェインが必要なんじゃが、まだそれは確保できとらんようじゃからのう」
 おそらく、先日のシャイターン襲撃が阻止された為十分なグラビティ・チェインを確保できなかったのだろう、と勲は予想を述べる。
「じゃけん、要塞の進路上にある都市を襲って人間をようけ虐殺し、足りんグラビティ・チェインを補給しながら都心に向かう、ちゅうんがイグニス王子の狙いじゃと予測されとるんじゃ」
 勲は一息ついて、その行動に対抗する作戦の説明を始める。
「わしらケルベロス側は、多摩川を背にして陣を敷いて、まずはガイセリウムにグラビティで一斉砲撃をするじゃ」
 その攻撃自体でガイセリウムにダメージを与えることはできないが、グラビティの攻撃を中和するために多くのグラビティ・チェインが消費されるので、残存グラビティ・チェインの少ないガイセリウムには有効な攻撃になるだろう、と勲は言う。
「そん攻撃を受けたガイセリウムからは、ケルベロスを排除するために、勇猛なエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出てくると予測されちょる」
 もし彼らに多摩川の防衛戦を突破されたら、ガイセリウムは多摩川を渡ってまだ避難の完了していない市街地を襲い、人々を殺してグラビティ・チェインを奪取するだろう。
「じゃが、逆に『アグリム軍団』を返り討ちにできりゃあ、今度はこっちからガイセリウムに突入するチャンスを作ることもできるはずじゃ」
 ピンチをチャンスに変えるためにも、皆でアグリム軍団を退けて欲しい……と、勲はケルベロスたちを力強く激励する。
「さて、アグリム軍団の細かいことを説明するじゃ。奴らは、四百年前の戦いでも地球で暴れ回ったエインヘリアル『アグリム』に率いられた、残虐な連中じゃ。その凶暴さは、同族のエインヘリアルからも眉をひそめられるほどじゃとも言われとる」
 おそらく第五王子イグニスが地球を侵攻する切り札の一つだろう、と勲は言う。
「軍団長アグリムの性格に習ってか、個人の武を誇り、連携を嫌い、命令を無視するっちゅう性質を持っちょるが、その戦闘能力は本物じゃ」
 全員が真紅の甲冑で身を固めたその姿は、溢れる闘気とあいまって、対峙する者に強烈な威圧感を与えるだろう、とのことだ。
「そがあな恐ろしい敵も、ケルベロスの皆が力を合わせれば、必ず打ち勝つことができるはずじゃ。厳しい戦いになるじゃろうが、必ず無事に戻ってくるんじゃ……押忍っ!」
 いつにも増して力強いエールを切って、勲はケルベロスたちを送り出すのだった。


参加者
ヴェルマ・ストーリア(ブラックラック・e00101)
ガルディアン・オックス(牡牛座の鋼鉄騎士・e01581)
ジョン・コリンズ(ドラゴニアンの降魔拳士・e01742)
グレア・リーダス(三叉角の騎士・e05352)
レイン・シグナル(シャドウエルフのガンスリンガー・e05925)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
ディーン・スタンスフィールド(ワイルドマシナリー・e18563)

■リプレイ

●弾幕と猛牛
 多摩川を背に、500人を超えるケルベロスたちが一点を見つめている。
 その目標は、人馬宮ガイセリウム。エインヘリアルの第五王子イグニスに率いられ、東京を破壊せんとする強力無比の移動要塞である。
「総員、砲撃準備……てーーーッ!」
 誰かの号令と共に、遠距離グラビティを準備したケルベロスたちは、ガイセリウムめがけて一斉に砲撃を浴びせる。無数の閃光が、硝煙が、銃弾が、強靭な要塞の壁面に激突し、激しい音を立てた。
「…………」
 一瞬の静寂の後、グラビティの残影が収まり、再び要塞が姿をあらわす。壁は一見無傷のように見えたが、その動きを止め……そして、数多の軍勢がケルベロスたちの方に向かってくる気配が、川辺の空気を震わせた。
「どうやら、予定通りに行ったかしら……状況は厄介だけど、ここで退く訳には行かない!」
 現場に到着してから念入りに状況を確認していたレイン・シグナル(シャドウエルフのガンスリンガー・e05925)は、一斉砲撃がもたらした強敵たちの方を見つめ、赤い瞳に闘志をみなぎらせる。エインヘリアルに故郷の村を焼きつくされたとあって、闘志はひとしおだ。
「虐殺だって……!? なんだよそれ、命をなんだと……! 命の輝きは守り切って見せる! 絶対に、絶対だ!」
 ディーン・スタンスフィールド(ワイルドマシナリー・e18563)も、感情豊かにまっすぐな怒りを敵に向ける。今回の作戦には旅団を共にする団長も一緒とあって、気合いは最高潮だ。
「頑張りましょうね峰岸さん! 俺たちの底力、見せてやりましょう!」
「あぁ、もちろんだ。巌もよろしくな!」
 ディーンに無垢な信頼の言葉をかけられた峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)は、いつにも増して快活に、前向きな戦意をみなぎらせる。可愛い弟分の手前、カッコ悪い所は見せられない。また、以前依頼を共にした戦友の存在も、心強く彼の勇気を奮い立てていた。
「峰岸には虫野郎の件で助けてもらったからな。今度は俺の番だ。全力の支援で借りを返すぜ」
 志藤・巌(壊し屋・e10136)も、それは同じだった。以前の戦いでは回復役でサポートに徹した雅也を、今回は自分が全力で支える。自分本来の『壊し屋』スタイルを多少崩してでも、形振り構わず挑む覚悟だった。
「ヴェル先輩も、頼りにしてて下さいっす」
「……。ふぅ。さァて、殺るか」
 巌に『ヴェル先輩』と呼ばれたのは、ヴェルマ・ストーリア(ブラックラック・e00101)だ。トレードマークの煙草を軽くふかして応えるその声は静かだったが、頼もしい後輩への信頼と、しっかり詰めてきた作戦への確かな自信が感じられる。
「アグリム軍団とは、なかなかの強者ぞろいのようですな。腕がなります」
 ジョン・コリンズ(ドラゴニアンの降魔拳士・e01742)の声も穏やかだったが、その奥には静かな闘志が見え隠れする。強敵と拳を交える高揚感は、年令を重ねても衰えを知らない。
(「金牛宮の剣……これはまさに天啓か。奇しくも私もまた猪突猛進の性分……だが! 私は騎士であり戦士であり守護者である! だからこそ、この巨星大剣アルデバランを掲げて、足並み揃え仲間たちとともに奴を討つ!」)
 口を結び言葉にこそ出さなかったが、この場にいる中で一番熱い闘志を燃やしていたのは、ガルディアン・オックス(牡牛座の鋼鉄騎士・e01581)だったかも知れない。今回の相手は金牛宮の戦士・『猛牛のタルシス』。彼女もまた『牡牛座の騎士』を名乗る身とあっては、負けるわけにはいかない。因縁の相手となるべき相手を求め、ガルディアンの視線は要塞の方に鋭く向けられている。
「……どうやら、待ち人が来たようね」
 注意深く周囲を確認していたレインが、近づいてきた赤い鎧に視線を定め、仲間に注意を促す。野牛の角のような装飾の兜を被り、巨大なゾディアックソードを担いだ、筋骨隆々の大男……『猛牛のタルシス』に間違いない。

●闘牛開始
「ここを通すわけには行かない。金牛宮の闘士、貴様の道……阻ませてもらおう!」
 グレア・リーダス(三叉角の騎士・e05352)が、鋭い眼光をより一層引き締め、龍の鱗を模した鎖『ワイバーン・テイル』をしっかりと握りしめる。癒しの力を高めた特別製の武装は、大きな手にしっかりと馴染んでいた。
「こわっぱどもめ……アグリム軍団『猛牛のタルシス』に、その道、譲ってもらおうか!」
 赤い鎧の大男は、金牛宮の印が刻まれたゾディアックソードにオーラを纏わせ、力を込めて横薙ぎに振り払った。牡牛の力を宿した光は、前に走り出るケルベロスたちを鋭く薙ぎ払う。
「牛野郎が……そう簡単に俺たちを崩せると思うんじゃねえ」
 巌はすかさず、鎖で描いた魔法陣で前衛たちをフォローする。追加効果を高める戦術は味方の援護にも頼もしく働き、複数の味方たちの防御を補った。
「逃さない……!」
 レインは代々一族に伝わる弓を引き絞り、妖精の力を宿した矢を鋭く射ち込んだ。ただ射ち込むだけではなく、敵の弱点を探るため、命中した矢の効き具合をしっかり観察するのも忘れない。
 続いてヴェルマが高速の弾丸を放ち、敵の大剣の威力を削ぐことを狙う。後から状態異常の上乗せを狙うためにも、まずは着実に効果を与える……決めてきた作戦をもとに技を選ぶ彼に、まったく迷いはない。
「私も続きましょう」
 コンビネーションで本来の行動順より早く、ジョンが素早いキックを重ねる。旋刃脚の一撃は、確実とまではいかない命中率の壁を超え、運良く強烈な一撃となってタルシスに食い込んだ。
「フン、羽虫ふぜいのまぐれ当たりで調子に乗らないで貰おう……っ!」
 猛牛の赤い鎧武者は、大きな剣を高々と振りかぶり、重い斬撃の構えに入る。
「待て!」
 アグリムの剣が行方を定める寸前、腹の底から響き渡る大音声が辺りに轟いた……ガルディアンだ。
 彼女は、牡牛座の軌跡が刻まれた巨大な大剣『アルデバラン』を高々と掲げ、体の大きさの差などものともしない堂々とした態度で、力強くタルシスに呼びかける。
「アグリム軍団の猛者、猛牛のタルシス! 我が名はガルディアン・オックス、牡牛座の騎士、金牛宮に仕える猛牛なり! 金牛宮の星辰宿りし剣を振るう戦士として、誇りたる剣とこの命を賭けこの地に参上した!」
「……ほう?」
 タルシスは見世物を楽しむかのような余裕ある態度で、剣を構えたまま彼女の言葉を待つ。
「貴様がその金牛宮の剣に誇りを持つというならば……なにより、己が武に恥入る物がないならば、弱者ではなくこの私を捩じ伏せてみろ!」
 上から見下ろすような敵の態度に一切臆せず、ガルディアンは己の剣をタルシスの喉元に向かってまっすぐ突きつけた。それは、明確な挑戦状……まずはこの自分を斬って見せろという、彼女の確固たる意思だった。
「……面白い。猛牛と子牛の違い、その身でとくと味わうが良い……はァッ!」
 タルシスは振り上げた剣の行方を、まっすぐガルディアンに定める。そして、あらゆる守護を無効化する重い斬撃を、力の限り振り下ろした。
「……まだまだっ!」
 ガルディアンは腕の痺れるような一撃をがっちりと受け止め、足元から砂煙を立てて何とか踏みとどまった。そして機械化した両目にエネルギーを集中させ、内蔵された武装から焼けつく光線を放つ。
「その勇気、応えてみせよう」
 軽減されたとはいっても強烈なダメージを、グレアは地面に手をかざし、共鳴する癒しの風ですかさずフォローした。今回唯一のメディックとして、状況に応じたヒールは綿密に脳内でシミュレートしてある。状況に一番相応しい癒しを常に提供するべく、グレアは戦況にしっかり目を凝らせる。彼の相棒『ナポリ』も、傍らで少しでも相手を妨害しようと奮闘していた。
「俺は、俺の役割に全力で……!」
「峰岸さん、合わせます!」
 味方の作った機を逃さず、雅也は雷の力を帯びた目にも留まらぬ突きを繰り出した。攻撃手の矜持を持って、一撃でも多く攻撃を入れる……迷わず自分の役目に徹することができるのは、仲間を信頼していればこそだ。
 尊敬する雅也の頼もしい姿に、ディーンも大いに奮起する。相棒のライドキャリバー『ファフニール』と共に、とっておきの『Crazy fall down』を叩きつけた。
「少しは噛み応えのある餌か……だが、猛牛の突進は止まらん!」
 タルシスは地面に守護星の印を描き、受けた傷をカバーする。
 猛牛と闘牛士たちは、互いに一歩も譲らなかった。

●マタドールたちの死闘
 それから何合も切り結ぶ間に、敵には少しずつ着実に、ケルベロスたちには時に強烈に、ヒールし切れない負傷が積み重なっていった。
「こっから先は通さないッ! お前なんかに負けるかよ!」
 ディーンは前列全体の攻撃で意識的にガルディアンをかばい、重い一撃を引き付ける彼女のフォローを心がける。
「てめぇらの根性ある守りにゃ、頭が下がるぜ……奴を倒すためのフォローも、任せとけ」
 巌は強化のかかり具合と戦況を見て、ブレイブマインで戦力をアップさせることも忘れない。守りも攻めも手厚くフォローされたケルベロスたちの戦力は、じわじわと強敵の力量に近づいてきていた。
「オックス殿、おそらくあと少しの辛抱だ」
 グレアが気力のオーラの癒しで、ガルディアンの鎧にまとわりつく氷を振り払う。何回強化を潰されても、その都度対処していけば、いつかは追いつく……じりじりするような持久戦にあっても、ケルベロスたちは一切諦めずに己の役割を果たす。
「テメェのために作った新技だ。存分に喰らうと良いぜ?」
 ヴェルマの役割は、後列からの攻撃手。己の影を媒介にした漆黒の槍に、数個重なっていたタルシスの自己強化がその数を落とした。
「チクチクと煩い奴らめ……子牛の前に、少し邪魔者を減らすとしようか」
 猛牛の闘士は星辰の大剣を構え、真ん中から後ろ側の獲物を見定めた。
「そうは行きません、こちらの攻め手は……」
「隙あり、貰った!」
 それは、一瞬のことだった。反撃の技を一瞬だけ迷ったジョンに、すかさずタルシスは金牛宮の剣を振り下ろした。
「…………!!」
 ありったけの重力を宿した剣は、避ける間もなくジョンの身体をしたたかに打ち付ける。小さな傷が蓄積して半分ほどに減っていた体力は、その一撃を耐えるには足りず……ジョンは、静かにくずおれた。迷う余地のないほどに作戦を詰めていれば、タルシスが使う技のどちらでもない回避耐性の防具でなければ、あるいは結果は違っていたかも知れないが……ともかく残る7人は、素早く体勢を立て直す。
「忘れるな、貴様の相手は、この私だ!」
 ガルディアンの体力もまた、既に危険な領域にあった。だが彼女は、確固とした意志で矢面に立ち続ける。それは、自分が役目を果たしている間に振るう、仲間の剣を信じていればこそだった。
「……見えた!」
 そんな彼女の背中に、レインは己の役割である射手の技をもって応える。弓から放たれた鋸刃のように細かく尖った矢尻は高速で回転し、鋭く赤い鎧の継ぎ目に突き刺さった。
「ぐっ、生意気なカトンボめ……」
「ほら、こっちがお留守だぜ……!」
 レインの与えた有効打に一瞬ひるんだ敵に、雅也が空の霊力を帯びた刀で斬りつける。一番確実に当てられる技を、一番有効に効かせられるように……雅也の全力を込めた一撃もまた、有効打となって分厚い鎧を切り裂いた。
「猛牛は、倒れぬ……まとめてなぎ倒してくれる……っ!」
 タルシスは怒りを込めた一閃で、前に立つケルベロスたちを一斉に金牛のオーラで吹き飛ばそうとする。
「ガルディアンさんっ……」
「私は大丈夫だ! それよりも、奴を斬ってくれ!」
 再びガルディアンをかばおうとするディーンに、彼女は力を振り絞って檄を飛ばした。目標へより早く到達できる方法を見据え、牡牛座の騎士は誇り高く、ともすれば崩れそうな体を支える。
「……はいっ!」
 ディーンは力強く彼女の意志を受け取って、敵のグラビティを中和する光の弾丸を撃ち出した。強い意志の乗った一撃は、痛烈に鎧の足元を貫いた。
「さっさとくたばれ、牛野郎……ルビア、喰らいつけ」
 機を逃さず、ヴェルマがファミリアロッドを本来の姿に戻し、魔力を込めてタルシスの正面に解き放つ。黒い毛と紫の鬣を持つ子獅子は、主人の強靭な意志を乗せ、果敢にその身をぶつけていった。
「おのれ……おのれ、おのれ……っ!」
 経験したことのない痛みに怒り狂いながら、タルシスは力を振り絞って金牛の剣を頭上に構え……最後の力を込めたかのような一撃を、同じ守護星の騎士に振りかざした。
「っ……私は倒れようとも、暴れ牛の首に縄をつける猟犬が居る……この巨星大剣アルデバランにかけて、私は騎士であり、戦士であり、守護者……だ!」
 ガルディアンは、とうとう膝をついた。何度も何度も強烈な攻撃を受け、時に肉体を凌駕する魂の力をも借りて持ちこたえた、その誇り高い精神……残る仲間を心から信じながら、彼女の意識は閉ざされていった。
「峰岸、やっちまえ」
 巌は信頼する仲間たちに向け、援護の力を込めた色とりどりの爆風を送る。
「おうともよ! これが……俺の、俺たちの、全力だッ!」
 雅也は全身全霊のグラビティ・チェインを武器に込め、仲間たち全ての力を乗せ、真紅の甲冑を叩きつける。
「…………!」
 獣が吼えるように、猛牛の名を抱くエインヘリアルは咆哮した。
 それは、ガイセリウムの進軍を支える強敵から、ケルベロスたちが絶対防衛線を死守した瞬間だった。

●川の向こうに
「さァて、用が片付いたなら、こんな所に用はねェな」
 ヴェルマは怪力無双でジョンを抱え、撤退の準備を整える。
「殿は任せたぞ」
 同じく怪力無双で巌はガルディアンを担ぎ、閃光して多摩川の向こう側に渡り始めた。
「私も援護しよう」
 グレアは竜の翼を広げ、負傷者を抱えて先行する二人の側を空中から警戒する。
「ディーン、よくやった。俺等の為に有難うな」
 雅也は殿として戦場の様子を警戒しながら、守り手を全うした弟分をねぎらった。
「峰岸さんこそ、お疲れさまです! 殿、任せて下さい!」
「張り切りすぎて、無理しないようにね」
 褒められて体の痛みも吹き飛んだ様子のディーンに、こちらも殿を努めるレインが、彼女なりの優しさで注意を促す。
 負傷者を出しながらもどうにか強敵を退けたケルベロスたちは、ガイセリウムに侵入する任務を負った仲間たちの成功を祈りながら、多摩川を超えていった。

作者:桜井薫 重傷:ガルディアン・オックス(牡牛座の鋼鉄騎士・e01581) ジョン・コリンズ(ドラゴニアンの降魔拳士・e01742) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 17/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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