蜂蜜色の蠱惑

作者:犬塚ひなこ

●女王蜂の君臨
 養蜂場の冬は穏やかだ。
 女王蜂は産卵を止め、蜜蜂達と共に暖かい地域へと移される。隙間風が入らぬよう蓋をされた巣箱は空になっており、今は定期的に養蜂家が冬支度の処理を終えた箱や周囲の様子を見に来る程度。
 そして、今日は養蜂家の見回りが行われる日だった。
 冬晴れが心地好い昼下がり。青年は巣箱に異常がないかを指差し確認していく。特に何もないと安心した青年はふと箱の裏に一匹の蜂の死骸が転がっていることに気付いた。
「おや、可哀想に」
 きっと移動の際にはぐれ、此処でひっそりと力尽きてしまったのだろう。青年が蜜蜂に手を伸ばしたとき、その背後に大きな影が現れる。
 影の主は――女王蜂の姿をしたローカストだ。
「!?」
 彼には悲鳴をあげる暇すら与えられなかった。ローカストは耳障りな羽音を響かせ、青年を襲った。ひといきに身体を貫かれた青年は絶命し、その場に崩れ落ちる。
 しかし、その手にはしっかりと小さな蜜蜂の亡骸が握られていた。
 
●蜂蜜の日
「それが、ローカストが行う凶行のようです」
 目の前に集ったケルベロス達に、リト・フワ(レプリカントのウィッチドクター・e00643)はヘリオライダーの少女から聞いた話を語る。
 養蜂場に現れたのは知性の低いローカスト。どうやらそれらはグラビティ・チェインの奪取のために地球に送り込まれているらしく、死んだ昆虫の周辺に姿を現すようだ。
「敵は女王蜂の姿をしていても養蜂場に関係があるわけではないようです。このローカストは知性が低い分、戦闘能力に優れた個体みたいですね」
 リトは以前に同型のローカストと戦ったことを思い返し、戦うときは注意が必要だろうと仲間達に告げた。
 クイーンビーは針を使う攻撃を好み、その他にも蜜液を注入してきたり、羽音で催眠に誘うこともあるので油断は出来ない。
 今から現場に向かえば、被害者が襲われる前に駆け付けられる。
 敵に襲われる切欠となるのは蜜蜂の死骸を見つけること。位置は分かっているので誰が蜜蜂に最初に近付くかで、女王蜂に狙われる対象が変わってくる。
 敵の一撃は強力であり、攻撃を引き受ける仲間が倒れる危険性は高い。ですが、と首を振ったリトはそれも作戦の内に入れてしまえばいいと話した。
「誰か一人が敵に集中攻撃をされるのは厄介ですが、逆手に取ることが出来れば戦いも楽になるかもしれません」
 そして、リトはヘリオライダーからの情報を語る。
 これまで知性の低いローカストはグラビティ・チェインを必要以上に奪取してしまい、結果的に害悪になると考えられ地球に送り込まれていなかった。
 しかし、ローカストは今までに得た情報から、配下が害悪化する前にケルベロスが処分してくれると考えたのだろう。
「敵の思惑に乗るようで素直には頷けませんが、問題はありません」
 何故なら、初めからグラビティ・チェインの収奪を阻止してしまえば良いのだから。リトは印象的な赤い瞳を薄く細め、仲間達を見つめた。
 また、養蜂場の近くには蜂蜜の直売所もあり冬季も店を開けているようだ。目玉は蜂蜜の小瓶や手作りの蜂蜜クッキー。蜂蜜がけソフトクリームなども味わえるらしい。
 無事に戦いが終わったら少し寄ってみるのも良いと告げ、リトは軽く頭を下げる。
「それでは、行きましょう。よろしくお願いします」
 人々を虐殺してグラビティ・チェインを奪うことなど許すわけにはいかない。デウスエクスを倒し、元ある平和を守る為にも――今こそケルベロスの力が必要だ。


参加者
チェスター・ホルム(風見鶏・e00125)
リト・フワ(レプリカントのウィッチドクター・e00643)
烏枢原・蓮巴(瞳の中の紅・e10176)
ウルストラ・ルールルゥ(闇這う翼・e10755)
輝島・華(夢見花・e11960)
マール・モア(ダダ・e14040)
ワーブ・シートン(とんでも田舎系灰色熊・e14774)
ポンコツ・ノエントリ(壊レ姫・e18457)

■リプレイ

●女王蜂登場
 静けさと冷たい風は今が冬だという証。
 来る春を待つように静寂の中に佇む巣箱は不思議と穏やかだ。しかし今日、この場所には招かれざるものが訪れる。
「ローカストも開き直った事をしますね。配下はそれだけ多いという事ですか……」
 敵が取る作戦を思い、リト・フワ(レプリカントのウィッチドクター・e00643)は口許に手を当てて考える。烏枢原・蓮巴(瞳の中の紅・e10176)も彼の言葉に同意を示し、難色の交じる声色で呟いた。
「使い捨ての駒みたいな扱い……敵とはいえ、いい気分じゃないわね」
「でもまずはお仕事ね。キッチリやっつけて、おいしくお菓子を頂くんだから!」
 ウルストラ・ルールルゥ(闇這う翼・e10755)はぐっと掌を握り、先行する仲間の背をしっかりと見つめた。
 その瞳に映っているのは輝島・華(夢見花・e11960)の姿だ。
 周囲を警戒し、蜂の巣箱に近付いた華は傍に蜜蜂の死骸を見つける。これがトリガーになることを再確認した華はそっと手を伸ばした。
「可哀想に……後で土に埋めてあげますね。でも――」
 小さな言葉と共に、華は即座に顔をあげる。その先には羽音を響かせて迫り来る女王蜂のローカストが現れていたからだ。
「その前にあの女王蜂を倒してから!」
 蜜蜂をポケットに入れた華は身構え、ローカストを睨み付ける。
 それと同時にチェスター・ホルム(風見鶏・e00125)が飛び出し、仲間に向けられた尾針の一撃を受け止めた。
「女の子にばかり無理をさせるわけにはいかないからね。行くよ、メメ」
 痛みを堪えたチェスターは傍らのウイングキャットの名を呼ぶ。そして、メメは主人の傷を癒す為に清浄の翼を広げた。
 ウルストラも軽い身のこなしで巣箱を飛び越え、鎖と指とで印を結ぶ。念を飛ばせば分身が敵と華の前に現れ、攻撃の矛先を惑わす。
 マール・モア(ダダ・e14040)は狙いを定め、女王蜂へと爆炎の魔力を開放した。
「護ってくれる兵隊さんもいないなんて、女王とは名許り、姿許り」
 敵はたった一体。どれほど強くとも協力しあえば決して勝てない相手ではない。マールが放った弾丸が炎をあげる最中、ワーブ・シートン(とんでも田舎系灰色熊・e14774)も気合を入れた。
「事件を解決すれば蜂蜜たっぷりな食事が待っているのです。待ち遠しんですよぅ」
 蜂蜜が大好きなワーブは関係のない虫に養蜂場を汚されたくはないと意気込んでいる。そして、彼は獰猛な灰色熊の生命力をグラビティ化して自らの守りを固めた。
「いずれにしても倒さなくてはなりませんね」
 リトが光の盾を具現化して前衛に防護を施す中、蓮巴は一気に横合いに踏み込みながら攻撃に移る。地獄の炎が蜂を貫き、更なる炎を生み出した。
 仲間達の素早い動きに感心しつつ、ポンコツ・ノエントリ(壊レ姫・e18457)は全身を地獄の炎で覆い尽くす。その際に彼女が周囲に浮かび上がらせたのは『戦闘行動を開始します』というシステムメッセージだ。
 未だ何も知らぬ自分の知識欲を満たす為、ポンコツは敵へと問いかけた。
「……教えてください……アナタの、生きている理由を……」
 答えはない。だが、今はこれで構わない。この戦いでそれを知ってみたいと願い、ポンコツは自らの力を高めた。
 そして――幕開けを迎えた戦いは激しく巡りはじめる。

●蜜蜂と蜂蜜
 周囲に蜂の羽音が響き渡り、肌を刺すような殺気が満ちた。
 耳障りな音に軽く眉をひそめたチェスターだったが、すぐに緩めの笑みを浮かべる。
「さあ、一緒に頑張ろうじゃないか」
 相棒の翼猫へ。そして、仲間達に呼び掛けたチェスターは縛霊の一撃を与える為に駆けてゆく。メメも尻尾の輪を飛ばして援護に入り、いつでも盾となる体勢を整えた。
 有事になれば癒しはチェスターやリト、ウルストラをはじめとした皆が担ってくれる。蓮巴は仲間を信頼し、自らは攻撃に専念しようと決めた。
「まっ、さっさと終わらせてソフトクリームとか食べたいわー!」
 蓮巴が軽口に乗せて放つのは、口調とは裏腹の重い一撃。電光石火の蹴りが敵を穿ち、幾許かの衝撃を与えた。
 マールも蓮巴に続き、破鎧の一閃を敵に与えてゆく。
「ナノちゃん、お願いね」
 その際、お付きのナノナノに願ったマールは華を視線で示した。応えたナノナノはハート型のバリアで仲間を包み込む。良い子だと相棒を褒めたマールは構え直し、更なる一撃を打ち込む為に機を窺った。
 その間にも女王蜂は華を狙い、煩い音を響かせる。
「なかなかに大変なお仕事です、けど……蜂蜜も楽しみですから!」
 まずは役目を果たせるように。明るい言葉で気力を揮った華は唇を噛み締め、放たれた魔力を受け止める。
 衝撃の被害はチェスターやワーブにまで広がったが、華は焦らずに力を練った。瞬時に雷の壁が構築され、皆の耐性を高める
 だが、傷は癒せても巡る催眠が仲間を惑わせていた。ウルストラは即座に黒い翼を広げ、天使の極光を仲間へと施す。
「どんな攻撃だって癒してみせるわ。だから皆は安心して!」
 強気な言葉の中に応援の思いを織り交ぜ、ウルストラは魔鎖を握り締めた。
 ポンコツは仲間の頼もしさを肌で感じ、地獄の炎弾を錬成する。敵として現れたローカストとしての本能、共存する種としての本能。蜜蜂の前に女王蜂が現れたのは意味があるのか、それともないのか。
「……学習させていただきます……この戦闘で、勝利を……」
 過る思いを他所に、ポンコツは敵の生命力を喰らっていった。
「その調子です。引き続き援護しますね」
 リトは彼女なりに懸命に頑張っているポンコツを見守り、敵からの攻撃を全て癒す心積もりを持つ。先程、ワーブ達を惑わせかけた催眠が二度と掛からぬようにリトは雷の障壁を張り巡らせていった。
 ワーブも援護を受け、熊らしさを宿した獣撃を女王蜂に打ち込んでいく。だが、針をぎらつかせたローカストの勢いは止まらない。
「わわっ。流石に刺されたら、ひとたまりもないですよぅ」
 向けされた針から逃げるようにして距離を取り、ワーブは皆に注意を呼びかけた。蓮巴は攻撃の矛先が自分に向いたことを悟り、尾針の動きを見極めようと注視する。
 刹那、双眸を細めた蓮巴は迫り来る一閃を捉えた。
「その攻撃待ってたわァ!」
 攻撃を受け止めると同時に反撃に移った蓮巴は炎を敵に叩き込む。
 彼女が作った隙を察したチェスターはメメに呼びかけ、羽ばたきの癒しを施させた。その間にチェスター自身は攻勢に移り、リュートを奏でる。
「クライマックスはまだ先だけど、サービスしてあげるよお客さん」
 冗談めかした言葉と共に紡がれたのは飛び跳ね踊る滑稽なリズム。チェスターの魔曲が羽音を掻き消していく最中、ウルストラと華も攻撃に転じた。
 現時点で癒しはリトとメメが担うだけで十分だ。
 すぐに回復に戻れるよう気を張りながらも、華は杖から雷を迸らせる。ウルストラも彼女の後に続き、魔鎖を遠く伸ばした。
「喰らわせてあげるわ。覚悟して」
 ウルストラの凛とした一声と共に鎖が敵を絡め取り、その身を縛りあげる。
 足掻く女王蜂は未だ戦意を失っていない。マールは掲げたチェーンソー剣を一際高く唸らせ、地面を蹴った。
「まだ怒りが収まらないのね。じゃあ、この一撃は如何かしら」
 駆動音で機を引きながらも突き出したのは硬化させた竜の爪。鋭い一閃はローカストの身を引き裂き、大きな衝撃を与えた。
 弱々しい羽音が示すように女王蜂の生命力は目に見えて減っている。
 このまま行けばきっと勝てる。仲間達は確信を抱き、其々に身構え直した。

●音の終焉
「まだまだこれからです。力いっぱい行きますよぅ」
 巡る戦いの中、ワーブは降魔の力を込めた拳を敵に差し向けた。彼の心の中は至極簡単。蜂なんて軽くひねってお食事会に行きたい気持ちでいっぱいだ。
 もちろん仕事もちゃんとやるのだと己を律し、ワーブは蜂を思いきり殴る。女王蜂の体勢が揺らぎ、戦局は有利なように見えた。
 だが、はたとしたポンコツは周囲に『危険!』という文字を投影する。それによって敵が攻撃を行う動作に気付いたウルストラが代わりに仲間達に注意を呼びかけた。
「ポニーさん、ありがとう。みんな、次の攻撃に気を付けて!」
「……戦闘パターン、見直しました……今度は負けません……」
 ポニーと呼ばれ、照れたように無表情で頬をかいたポンコツは気概を言葉へと変える。そして、アームドフォートの主砲が一斉掃射された。
 その一瞬後、耳をつんざく羽音がケルベロス達に向けられる。
 思わず耳を抑えた華だったが、その攻撃はメメが肩代わりした。メメは苦しげに震えていたが、その傷はすかさずチェスターが癒してやる。
「良いかい、暴れておいで。今の内だ」
「はい、わかりました!」
 チェスターからの合図を受け、華は大きく頷いた。敵に狙われるはずの自分は今、仲間達にしっかりと守って貰っている。けれど、と顔をあげた華は意識を集中させた。
「次は私の番です。この花嵐の中からは、決して逃れられませんの!」
 華の声が響くと同時に、魔力で生成された花弁が敵の周囲に舞いはじめる。嵐めいた花の乱舞は女王蜂を切り裂き、文字通り舞い踊った。
 マールも更に爆炎の弾丸を解き放ち、ローカストを蜂の巣にする。
 それまで癒しを担っていたリトも今が畳み掛けて行くべきだと察した。VV――ヴァリアブルヴォイドの名を冠する干渉波を発生させるべく、リトは掌を敵に差し向ける。
「展開します」
 静かな言の葉に呼応するが如く、干渉波は空間を歪ませた。青と緑の交じり合う電撃めいた衝撃が女王蜂を貫き、その羽を弾き飛ばす。
 ワーブも今一度の獣撃を放ってゆき、蓮巴も爆破スイッチを押していく。
 敵の身体に貼り付けた見えない爆弾が爆発し、重圧を与えた。そのとき、蓮巴は何故か故郷で防人をしていた自分とローカストを重ね合わせてしまった。
「アタシも……いや、なんでもないわ」
 紡ぎかけた言葉を飲み込み、蓮巴は首を振る。
 仲間の様子を気に掛かけつつ、ウルストラは凍てつく氷の波動を纏った鎖を生成して周囲に浮かばせた。
「その頭、冷やしてあげるわ……凍てつけ!」
 敵に向けて射出した鎖は烈氷牙の名に相応しく、激しい氷の衝撃を生み出す。
 攻撃に回った仲間を援護する形でナノナノが懸命にばりあを張っていく。マールはナノナノの頑張りに小さな感謝を抱きながら、敵を見据えた。
 既に敵は弱り、羽音すら立てられない様子。
「哀れな女王様は愛しまれずに逝くのが御似合いのようね」
 冷ややかな言葉と共にマールの放った竜爪の一閃が羽を切り裂く。ポンコツは傷付いた女王蜂を瞳に映し、求めた答えを探った。
 目の前のローカストは知性のない狩る為だけの存在に思える。彼女の意思はきっと、そこにはない。
「……ないのならば……生き物でも、兵器……ただ破壊するのみです……」
 ポンコツが落とした呟きを聞き、華は更なる決意を固めた。
 青紫の瞳が映し、望むのは女王蜂を屠って手に入れる平和な未来。華は次が自分が隙を作る番だと自分を律し、強く地面を蹴り上げた。
 流星の蹴りを放ち、今です、と呼びかけた華はチェスターに視線を送る。その眼差しを察したチェスターはリュートに指先を添え、終わりを飾る音色を奏ではじめた。
「音楽には人を拐かす力も癒す力もあるんだよ。ご静聴あれ、蟲の君」
 ふたたび爪弾かれるのは道化師の宴。
 曰く。我ら爪弾く、朝まで踊れ。疲れ果て、泥のように眠るまで。異国めいた音はローカストを躍らせ、そして――。曲が終わったと同時に女王蜂は地に落ちた。

●甘い幸せ
 光の粒子となり、ローカストは跡形もなく消えてゆく。
 戦いの終わりが訪れたのだと感じたリトは双眸を軽く緩め、取り戻した静けさに身を委ねた。周囲の状況もすこぶる良好であり、巣箱や自然芋にも被害はない。
「これで任務は完了ですね」
「おや? 君達はこんな所で何をしてるんだい?」
 リトが見つめる先には養蜂場の青年が訪れていた。不思議そうにしている彼にはウルストラが事情を説明した。
 そうして、青年からケルベロス達に深い礼が告げられる。
「ありがとうございました。良かったらうちの直売所に寄って行かないかい?」
「はちみつソフトクリーム! じゃなくて、ええ。いいわよ」
 青年の誘いにウルストラは思わず瞳を輝かせたが、はっとして視線を逸らした。実は彼女は元からそれをとても楽しみにしていたらしい。
 その姿をにこにこと見守り、ワーブは両手を上げて青年の好意に乗る。
「わぁい、美味しそうな蜂蜜があるならぜひ行きたいですよぅ」
「……行きましょう……興味が、あります……」
 ポンコツも周囲に音符のようなマークを投影し、楽しみであることを示した。華はくすりと笑み、ポケットに入れたままのちいさな蜜蜂に語り掛ける。
「あなた達が集めた美味しい蜂蜜をいただきに行きます。……ありがとう」
 後で青年と一緒に何処かにそっと埋葬してあげよう。そう決めた華は直売所に向かう仲間達の背を追った。
 甘い香りに琥珀色の魅惑。
 店の棚に並ぶのは蜂蜜クッキーに檸檬の蜂蜜漬け、たくさんの蜂蜜の小瓶。
「ううん、美味しい……これはいけるね」
 チェスターは口の中に広がる甘さを確かめ、小さく頷く。思わず商売魂に火がつきそうになる気持ちを必死に抑え、チェスターは純粋に味を楽しんだ。
 はちみつソフトクリームは青年がサービスだと言って人数分を用意してくれたので、皆ご満悦だ。特に蓮巴とワーブは楽しみにしていただけあって笑顔でいっぱい。
「ソフトクリーム美味しい!」
「ごちそうさまでしたよぅ。おかわりしたいくらいですよぅ」
 舌鼓を打つ蓮巴。本気でふたつめを頼もうか考えているワーブ。仲間達の微笑ましい姿を眺め、マールはナノナノにソフトクリームを一口分けてやった。
「私の声もひどく甘いと言われるけれど、此方の蜂蜜の甘さも格別だわ」
 ねえ、とナノナノに問いかけたマールは働き者の蜜蜂達への感謝を抱く。こうして楽しい時間は流れ、穏やかな時が過ぎていった。
 華はウルストラと一緒に土産のクッキーを選び、ポンコツは興味深そうに後をついていく。チェスターは耐えきれずに商売の想像をはじめ、蓮巴とワーブは青年から様々な蜂蜜の味見を勧められていた。
 仲間達の様子を見つめ、リトは改めて自分の好みを知る。
「今更なのでしょうけど私、甘党というのですね」
 土産に蜂蜜の小瓶を購入しようと考え、リトは心地好い時間を楽しんだ。
 甘やかな心地に身を委ねた仲間達はこの手で取り戻した平和を大切に思う。
 悪しき女王蜂は葬られ、後に残ったのはとろけるように甘い蜂蜜の蠱惑。こんな惑いならば誘われても構わないかもしれない、と――。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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