多摩川防衛戦～破壊の剛斧

■リプレイ

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（「うごくたてものってとってもわくわくします」）
　遠くに見える姿に、アニエス・ジケル（銀青仙花・e01341）は少し胸を高鳴らせる。
　歩く宮殿ガイセリウム。４つの足を動かして歩く姿はどこか幻想的なものがあるけれど、
（「けれどもアニエスのすきな人たちをきずつけるのは、ダメなのです」）
　その歩みが運ぶのは夢や希望ではなく、破壊と絶望。
　大事な人を守るためにも、その足をこれ以上進ませるわけにはいかないのだ。
　……とはいえ、地響きを立てる宮殿を止めることは簡単ではない。
「骨が折れそうな任務だな」
　視界の中で大きさを増す宮殿にアラドファル・セタラ（微睡む影・e00884）はそっとため息をつき、
「ぶっ壊しがいありそうだなー」
　楽しげに笑って出門・火蓮（自称地獄から来た爆炎娘・e00672）がスイッチに指をかけ、コロッサス・ロードス（金剛神将・e01986）は気を練り上げ、アディアータ・リンディ（ヴァイオレットウィッチ・e08067）が呪文を唱え、レッドレーク・レッドレッド（赤熊手・e04650）とコクヨウ・オールドフォート（グラシャラボラス・e02185）が地獄の炎を燃え上がらせる。
　同じ戦場に、離れた戦場に集まった仲間たち。
　５００を越えるケルベロスが、この地に集まっているのだ。
　ガイセリウムを――そして、イグニスの目論見を砕くために！
「ぽちっとな」
　いい笑顔で火蓮がスイッチを押すと同時にガイセリウムの外壁でいくつもの爆発が巻き起こり、
「ポチ、おねがい、します！」
　続けてアニエスの呼びかけでテレビニウムのポチが放つ閃光が、レッドレークの炎とコロッサスの気弾が、アディアータの呼び出すドラゴンの幻影が、
「最後の一人になろうとも。最後に一人残ろうとも。一人残らず滅ぶまで。一人残さず滅ぼすまでは！」
　コクヨウの燃え盛る軍団旗の下に集った地獄の軍団兵が構える大砲が――さらには別の戦場から撃ち込まれる砲撃が降り注ぐ。
　数多の砲撃に大気が震え――だが、煙が晴れた後に現れたガイセリウムには傷一つ無い。
「イグニスごと丸焦げになっちゃえばいいのに」
　少し残念そうにアディアータが呟くが、その表情には落胆の色はない。
　砲撃で破壊できないことは予測されていたし――残り少ないグラビティチェインを消耗させることもまた、予測通り。
「ちょっとどころじゃなく、グラビティチェインを無駄にしたみたいね？」
　笑みを浮かべるアディアータの視線の先には、歩みを止めたガイセリウムの姿があった。

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　歩みを止めたガイセリウム。
　だが、イグニスが進行を諦めたわけではない。
「デカブツからデカブツが出てきやがるのか。ヘヴィな相手だな」
　ガイセリウムから次々に現れる深紅の影に、コクヨウの声に緊張が強まる。
　イグニスの切り札の一つ。アグリム軍団。
　四百年前に猛威を振るった軍団が、再び地球に現れたのだ。
　だが、
「私は近接戦闘専門なもので。ここからは働かさせて頂きますよ」
　周囲を警戒していた水沢・アンク（クリスティ流神拳術求道者・e02683）が軽く肩をすくめて前に出て、
「赤き星霊甲冑の軍と将……実に美しく見事だ！」
「四百年振りの来訪ならば此方も相応の持て成しをせねばなるまい」
　得物を構えたレッドレークとコロッサスが両隣りに立つ。
　彼らに戦いを前にした緊張はあっても絶望はない。
「盛大に歓迎してやろう」
「尤もケルベロス流で……だがな！」
　今の地球には対抗できる存在――ケルベロスがいるのだから。
　レッドレークの脳の演算エンジンを地獄の炎が活性化させ、コロッサスが剣を構え。
　アンクの右腕から吹き上がる白炎が手袋とコートの袖を焼き払う。
「終わったらいつもよりたっぷり昼寝させてもらうぞ」
　アラドファルが手にした剣で地面に守護星座を刻み込めば、生まれた光が前衛を包み込んで呪縛への耐性を与えてゆく。
　なお、アグリム軍団を退けてももう少し戦いは続くのだが……先のことは考えないことにしてアラドファルは目の前の戦いに意識を向ける。
　戦闘に備えるケルベロスに気付いたエインヘリアルは、強く、大きく、力を誇示するように大地を蹴って、
「あたいの仕掛けた見えない爆弾を見切れるかな？」
　直後、激しい爆発に包まれる。
　それは火蓮が設置したいくつもの爆弾。
　連続する爆発が深紅の姿を爆風で覆い、
「今日はお遊びは抜きだ」
　爆風を貫いて、光弾が深紅の鎧に突き刺さる。
　バスターライフルを構え、静かに、どこか張り詰めた声で呟くコクヨウ。
　普段であれば軽口の一つも口にするところだが、今日は事情が違う。
「可愛い弟分のためにも……死んでもらうぜ」
　言葉と共に撃ち込まれるもう一発の光弾、それに並ぶほどの速さで駆け抜けたアディアータが煌きを纏いエインヘリアルの脚を蹴り抜く。
　続けざまに攻撃が撃ち込まれて、そのほとんどが直撃。
　だが、
「ハッハァ！」
　その声には苦痛の色はなく、ただ戦いへの喜びのみ。
　気合と共に残る距離を踏み越えて、深紅の斧がコクヨウに振るわれ、
「ハッ、オレの斧を受けるか！」
「我は金剛のコロッサス。己の剛力に絶対の自信があるようだが……我が金剛不壊の守りを砕くには能わず」
　その斧をコロッサスの剣が受け止める。
　紅の呪力を纏った斧と鉄塊がぶつかり、一瞬の拮抗を作り出し、
「オレは剛腕のヴィルト。この斧を防げるというなら――やってみな！」
「――ぐっ！」
　力尽くで振りぬかれた斧が、コロッサスごと拮抗を吹き飛ばす。
　衝撃に歯を食いしばり体勢を立て直すコロッサスに、さらに斧が振るわれ、
「ダメなのです！」
　そうはさせないとアニエスが硬化した爪で斧をそらし、挟み込むように冷気を纏ったアンクの蹴りと煌きを纏ったレッドレークの蹴りが撃ち込まれる。
　しかし、
「まだまだ！」
　２人の蹴りは暴風の様に振るわれる両手の斧に阻まれる。
（「分隊で当たる敵としては、これまでのどの相手よりも、明らかに気迫が上だ……！」）
　吹き飛ばされ、着地したレッドレークの背に冷たい汗がつたう。
　力任せに斧を振るい、自分たちを薙ぎ払う深紅のエインヘリアル、剛腕のヴィルト。
　その実力は自分たち８人と比べてなお、その上を行く。
　だが、
「ヴィルトって言ったかしら？　あたしたちがそう簡単に引き下がると思ってるの？」
「退かねぇだろ、お前たちは。そういう目をしているぜ」
「わかっているじゃない！」
　答えに小さく笑って、アディアータはその身に呪紋を浮かび上がらせる。
　ここで退けば、再起動したガイセリウムが東京を蹂躙する。
「どんなに敵が強くても、見過ごす事なんて出来ないわ……あたしには、大切な人達がいるんだから！」
　アディアータの体に呪紋が浮かび上がり、
「これ以上不毛の焦土を拡げる事は、この俺様が許さんぞ！」
　戦慄を闘志に変えてレッドレークは赤く染まった蔦草を振るい、それに合わせてアンクが再度ヴィルトへと肉薄し、刀を振るうアニエスをコロッサスの気弾が援護する。
（「情報通り、私と同じ近接パワータイプの様で」）
　白炎を燃やす右腕を構え、アンクは拳を握る。
　短いぶつかり合いでも相手の実力は十分にわかる。
　自分と近い戦い方で数段高い実力を持った、正しく格上と言うべき相手。
　――だからこそ、退くわけにはいかない。挑まなければならない。
　大切なものを守りたいならば、越えなければならない相手である。
「クリスティ流神拳術、参ります！」
「おてあわせ、ねがいます」
「おう、来な！」

●
「はっ！」
　気合いとともにコロッサスが放つ気弾がヴィルトの胸元に直撃して、その巨体を押し返し、
「オラァ！」
　その距離を一瞬でゼロにする踏み込みで振るわれる斧に、大柄なコロッサスの身体が宙に浮く。
　前線に立つ者で無傷の者など誰一人としていない。
　仲間を庇い、幾度となく斧を受け止めているコロッサスはその筆頭だろう。
（「俺の力だけでは奴の猛攻は防げなかっただろうな」）
　それでも彼が倒れずにいられるのは、大事な人から託された紅の鎧と、周囲の状態に気を配り十分な回復を行う仲間達の存在があってこそ。
「……あの斧、喰らったら凄い痛そうだな……回復はしっかりやるから、直撃だけは気を付けて」
「ピコピ！」
　アラドファルと並んでメディックに立ち、コロッサスの傷を癒すポチに微笑んで、アニエスは硬化させた爪を振るう。
　続け、火蓮の起こす爆発がヴィルトに襲い掛かり――
「うお！？」
　爆煙を切り裂く斧の一閃が火蓮に振るわれる。
　とっさに手にした剣でうけとめたが、衝撃を殺しれずに火蓮は大きく弾き飛ばされ、
「広い場所で戦えるのは、本当に僥倖だな」
　何かに叩き付けられる前に、アラドファルに受け止められる。
「直撃だけは気を付けて」
「いたいトコロはございませんか？　アニエスが回復します、ね！」
「ああ、ありがとうな」
　傷を癒すアラドファルとアニエスに礼を言いつつ、火蓮はヴィルトを見据える。
　相手は真正面からの力押し。
　ならば、自分は――。
　一瞬考え、ふっと笑うと火蓮は自分の体に地獄の炎を纏わせる。
　相手が真っ向から来るならば、こちらも全力でぶつかるのみ。
「攻めて攻めて攻めまくるぜ！」
　そして放つは生命を喰らう地獄の炎弾。
　真っ向勝負というものの、飛び道具を使わないわけではない。
（「ちょっと悪い気もするけど、それがあたいの全力だししゃーないな！」）
「あんたの生命力、頂くぜ」
　顔を狙ったその炎は避けられる。だが、
「逃れられると思うな！」
「確実にやってやる。念入りに潰してやる」
　炎にヴィルトの注意が向いた一瞬を逃さず、背後からレッドレークが同質の炎で生命力を奪い取り、コクヨウが飛ばすネズミの姿に戻したファミリアロッド「ベル」が呪縛を倍加させる。
　それは確実に相手の力を封じてゆくのだが……。
「弐拾五式……殴刃輪舞(レギオスブレイド)！！」
「ハッハァ！」
　ソニックブームを生み出すアンクの左の拳を力任せにそらし、返す腕で振るう斧をレッドレークの赤熊手がギリギリで受け流す。
　なおも振り回される腕をコクヨウの冷凍光線が凍てつかせ、アディアータが紫光の光剣で胴を薙ぎ払い、さらには火蓮の跳び蹴りが突き刺さり、
「オッラア！」
　崩れた体勢を気合いと共に立て直して、再度深紅の剛風が巻き起こる。
（「以前の鉄甲竜が守りの敵なら、今度は攻めの敵ですか」）
　かつて戦った対極とも言える戦い方をするドラゴンの姿を思い出し、アンクは小さく息をつく。
　攻撃が通じていない訳ではない。
　得意とする頑健属性こそ命中し辛いものの、それ以外の攻撃を当てることは難しくはなく、いくつもの呪縛が力や守りを弱めている。
　だが、息を荒げながらも振るわれる斧はケルベロスの防御を打ち砕き、身体を縛る魔氷を引きはがして血風を巻き起こす。
「力任せな戦い方をする敵は苦手だ……」
「力でゴリ押しするだけの男って嫌われるのよ？」
　回復の手を止めることなくそっとため息をつくアラドファルに、アディアータも頷く。
　守りを考えず全力で攻め立てるヴィルト。
　多くの守り手と回復方法で耐えるケルベロス。
　この戦いが動くのはどちらかが破綻した時となるだろう。
　そして――、
「外式、双牙砕鎚(デュアルファング)！」
「えいっ……！」
　足刀から右拳の打ち降ろしを放つアンクに合わせ、アニエスが振るう一刀がヴィルトの脇腹を深々と抉り、
「遅い！」
「きゃあ！」
　一瞬、離脱の遅れたアニエスを斧が捉え――吹き飛ばされたアニエスは、そのまま地面に倒れ込む。
　回復の手を多くすることで猛攻に耐えることはできていた。
　だが、回復の手を多くすることは攻め手を減らすことと引き替えであり、長引く戦いは回復しきれない負傷を蓄積していく。
「まず１人！」
「誰を狙っている。金剛の盾はこの通り健在だぞ……！　それとも貴様に倒せるのは瀕死の者だけか？」
「そうかい！」
　倒れたアニエスへ止めを刺そうとするヴィルトの前に、コロッサスが立ちふさがる。
　コロッサスの挑発にあえて応え、斧を振り上げるヴィルト。
　これまでの戦いで限界が訪れているのはコロッサスもまた同じ。次の一撃を受けて立っていられる自信はない。
（「例え我が身が砕けようとも勝利が齎されればそれで良い」）
「来い……剛腕！」
　アニエスを治療するアラドファルを背中に守り、剣を構えるコロッサスに斧が振り下ろされ――
「余計な動きはさせないぜ！」
「ここでやられる気も寒中水泳する気もないわよ！」
　それよりも早く、飛び込んだ火蓮の突き上げるような蹴りが右手の斧を跳ね上げ、間髪入れず左手にはアディアータの幻影のドラゴンとコクヨウの光弾が襲い掛かり、外へと弾く。
「どんなにボロボロになっても、最後はみんなで笑顔で終わるのよ！」
　それがアディアータの戦う理由、の半分。
　そして、相手の両手を封じたこの瞬間こそがそれを守る最大の好機。
「我、神魂気魄の閃撃を以て獣心を断つ――」
　口上に応えてコロッサスの手に顕現せしは闇を纏う炎の神剣。紅き神火と払暁の輝きを宿せし刀身。
　其が抜き放たれる様は正に夜明けが如く、故にその名を――
「黎明の剣！」
「か、は……」
　袈裟懸けに一刀を受けて、ヴィルトの口から苦悶の声が漏れる。
　足が止まり、膝をつき、
「まだだ！」
「そうだ、まだ終わらねえ！」
　叫ぶようにレッドレークが警告を出し、咆吼をあげてヴィルトが再び立ち上がる。
　その正面に立って、アンクは拳を構える。
　立ち上がったとはいえ、互いに余力はない。
　おそらく、もう一撃を耐えられるかどうか。
　だからこそ、
「最後は全力をぶつけ合いましょうか――クリスティ流神拳術、参ります！」
「剛腕のヴィルト、行くぜ！」
　笑みを交わし、交錯する白炎と紅斧。
　打ち合わせるのは、ただ一合。
　アンクの肩から血が吹き出し、
「壱拾四式……炎魔轟拳(デモンフレイム)！」
　白炎の右正拳が深紅の鎧を貫き、剛腕のヴィルトに終わりを与えた。

●
　静けさの戻った川原に一筋の煙が立ち上る。
　煙の元、タバコを手にしたコクヨウが睨む先にあるガイセリウムは、
「……シャイターン、か？」
「やられたまま黙ってるとも思えないしなー」
　同じように見ていた火蓮も、それに気付く。
　戦闘前にいたヴァルキュリアの姿は無く、代わりにシャイターンの姿がある。
「何か動きがあったのだろうが……」
　アニエスの手当を終えたアラドファルが呟くが、時間的にも余力的にもできることは無い。
「侵入部隊が上手くやれることを祈ろう」
「そうね」
　レッドレークに頷いて、アディアータはポケットからスキットルを出して一口飲んで。
「さ、帰りましょうか」
　川原を離れ、コクヨウは一度ガイセリウムを振り返る。
「マンガン、道は綺麗にしておいてやったぞ……生きて帰ってこいよ」

作者：椎名遥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年1月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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