多摩川防衛戦~勇猛なる暴虐の徒

作者:黒塚婁

●移動要塞
 八王子市に突如出現した異形の城――それは壮麗にして荘厳、アラビアの宮殿を思わせる巨大な城であった。
 直径三百メートル、全高三十メートルの城は、その下にある四本の脚で、東京都心を目指し進軍を開始した。
 その移動要塞の名は人馬宮ガイセリウム。
 城の周辺には武装したヴァルキュリア達が飛び、周囲の様子に目を配っている。
 徐々に迫り来る巨大な影から、人々はただ怯え、逃げるしかなかった――。
 
●勇猛なる暴虐の徒
「ザイフリートから得た情報にあった、人馬宮ガイセリウムが動き出したようだ」
 雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はケルベロス達を見やり、口を開いた。
 人馬宮ガイセリウムは巨大な城に四本の脚がついた移動要塞――出現地点から東京都心部に向けて進軍を開始したようだ。
 周囲は、ヴァルキュリアの軍勢が警戒活動をしており、不用意に近づけば、ガイセリウムから勇猛なエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してくるため迂闊に近づくことはできぬ。
「人馬宮ガイセリウムの進路上の一般人の避難を行っているが……都心部に近づいた後の進路が不明ゆえ、避難が完了しているのは、多摩川までの地域となる。当然、このまま放っておくわけにはいかん」
 目を細め、辰砂は重い口調で語る。
 それはいつもに増して、危機的な状況にあることを示唆しているようであった。
「人馬宮ガイセリウムを動かしたエインヘリアルの第五王子イグニスの目的は、ザイフリートの殺害、シャイターン襲撃を阻止したケルベロスへの報復、そしてグラビティ・チェインの奪取……といったあたりだろうな」
 ガイセリウムは強大な移動要塞であるが、万全な状態ではないと見込まれている。
 それを満足に動かすグラビティ・チェインを、彼らは確保できていないからだ。
「先の戦いに意味があったということだ――そして、だからこそ、本丸を動かしてでも、グラビティ・チェインを手に入れようとしている。なれば、その短慮、後悔させてやればいい」
 曰く――まずケルベロス達は多摩川を背に布陣、数百人のケルベロスのグラビティによる一斉砲撃を行い、消耗を誘う。
 その攻撃ではガイセリウムに直接損傷を与えることはできないが、攻撃を中和するべく、グラビティ・チェインが消費されることは間違いない。
「そして次は邪魔なケルベロスを排除するために、勇猛なエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してくるだろう。これらを撃破することが今回の目的だ――できなければ、どうなるかは想像するまでもない。アグリム軍団によって、多摩川の向こう、市街地が襲われる」
 逆に『アグリム軍団』を撃退する事ができれば、こちらからガイセリウムに突入する機会を得ることが出来るだろうと、彼は告げた。
 さて件の軍団だが――四百年前の戦いでも地球で暴れ周り、その残虐さから同属であるエインヘリアルからも嫌悪されているという『エインヘリアル・アグリム』とその配下のことである。
 深紅の甲冑で全身を固めた彼らは、軍団長であるアグリムの性格により、個人の武を誇り、連携を嫌い、命令を無視するという傍若無人さを持つ――が、その力は本物だ。
「第五王子イグニスが地球侵攻の為にそろえた切り札の一枚……とも言われているようだが」
 自らの言葉に、辰砂は口元を歪めた。
「いかなる勝利の形を得るか、それは貴様ら次第だ――何のために戦うのかは自由だ。だが、敗北すればそれらは失われる……当たり前の事ではあるが、努々忘れぬよう。では、良い報告を待っている」


参加者
ヴェルセア・エイムハーツ(無法使い・e03134)
リィ・ディドルディドル(はらぺこディドル・e03674)
コンスタンツァ・キルシェ(女系暗殺一家の家出娘・e07326)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
九々都・操(傀儡たちの夜・e10029)
花唄・紡(宵巡・e15961)
シャルロッテ・ルーマン(深淵の咎・e17871)

■リプレイ

●開戦の号砲
「うおっ何スかこれ進撃の人馬宮っスか!? 足生えてるっスきもっ!」
 とは、コンスタンツァ・キルシェ(女系暗殺一家の家出娘・e07326)の言である。
 巨大な移動要塞は、かなり遠目から確認できていた。周囲にヴァルキュリアがいるという説明を受けていてもなお、彼女達の姿が影ほども見えぬのだが、それの存在感だけは確かだった。
 そして、時刻は午後三時ほど――曇天の下、人馬宮ガイセリウムにグラビティ一斉砲撃が行われた。
 数百のケルベロスによる一方に向けた攻撃で、様々な光や音、幻影などが空に瞬く。
「傷はつけられないだろうと聞いてはいたですが……」
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)はアームドフォートを構えたままの姿勢で、僅かに目を細めた。
 その余波たるすべてが消えた時――ガイセリウムはやはり傷一つなく、そこにあった。
 しかし予測通り、その侵攻は止まり――そして、彼らにとっては、ここからが本番だ。
「今回も皆さんと一緒に頑張りましょうですよ、プライド・ワン」
 改めて、真理は相棒を一撫で、囁きかける。
「よーし、メリー! 乙女の底力、見せてやろうね!」
「当たり前だよなぁ! アタシ達の底力、見せつけてやろうぜ!」
 花唄・紡(宵巡・e15961)とアルストロメリア・ヴァリアントゲイズ(ゼノン・e11227)はこつんと軽く拳を合わせて笑った。
 周囲を睨んでいた男がひとり、溜息を吐いた――徐々に近づいてくる、無数の人影を確認したゆえ。
「ウワー赤くてゴツいのがいっぱいダ……」
 ヴェルセア・エイムハーツ(無法使い・e03134)の目は、死んでいる。
 強そうだナ、帰りたくなってきタ。ウン、ヤバくなったら帰ろウ――ひとりごつ彼に、シャルロッテ・ルーマン(深淵の咎・e17871)が敢えてにっこりと笑顔を浮かべて問うた。
「面白い冗談ね?」
「チッ、割に合わねえゼ」
 彼女の威圧に、くるりと彼は背を向ける。反論はできるが、戦闘前に力尽きる恐れがある。
「大丈夫だよ、僕たちがいるんだから」
「ええ、ヴェルセアやククツが倒れるときはリィたちも一緒ね」
 笑みを浮かべる九々都・操(傀儡たちの夜・e10029)の言葉は心からのもの。それに静かに頷いたリィ・ディドルディドル(はらぺこディドル・e03674)は無表情で――彼女の常だが――本気なのか冗談なのかわからぬことを言った。
 実際彼らが倒れるような状況になれば、そうなっているのだろうが。
「皆さん仲よさそうっスね」
 コンスタンツァの素直な感想に、真理がこくりと頷く。
 確かに僕らは元々知り合いだけれども――帽子に手を添え、操は笑う。
「僕らは今この瞬間、確実に仲間だ。ぶっつけ本番でも何とかなるさ」
 ――そう、仲間がいる。気心の知れた者達とのやりとりに、シャルロッテは人知れずそっと息を吐く。
 正直、足が竦むけれど。
(「心強いメンバーだもの、きっと大丈夫なの、ね」)
 皆で帰るため、自らを奮わせ、ふと横へ視線を向けた――その時だ。

●赤の暴徒
「来る――みんな、避けて!」
 シャルロッテが叫んだ。
 恐ろしい程の速度で目の前に横切ったオーラの弾丸が、道路を穿った。ケルベロス達は左右に分かれ、それを避ける――未だ距離はあるが、容赦なく放たれた先制の一撃はその者の性格を示しているのだろう。
「ほう、最低限はできるみてぇじゃねえか」
 距離があれども充分に届く、いっそ無駄に大きい声――彼らの眼前に、手首を振る赤い鎧のエインヘリアルがあった。腕周りがやや軽装な事から、守りよりも攻撃に重きを置いているようだと、真理は分析する。
 じろじろと値踏みするような視線を、真っ直ぐに返すは感情の見えぬ赤茶の瞳。
「ここから先は行き止まりよ。どうしても通りたいなら、リィたちを倒してからにする事ね」
「んん? どっから声が聞こえてるんだ? 見えねぇなあ」
 明らかに見えていただろうが、エインヘリアル――クイスマはわざとらしく周囲を見渡す。
 かといって、彼女も別に感情を荒立てることはない。
「……没個性な赤鎧軍団の団員さん。相手にとっては不足だけれど、少し遊んであげるわ」
 むしろ淡々と、言い放つ。軽やかに地を蹴り上げたと思うと、瞬く間に距離を詰め、縛霊手の霊力を直接叩きつける――相棒のイドも続いてブレスを吹きつけるが、それは片手で薙ぐようにふたつの攻撃を受け止めた。
 だが、ケルベロスの攻撃はまだ終わらない。リィが完全に離れるより先、クイスマの頬を掠めるようにブラックスライムの槍が走る。僅かに身体を反らした男に、更にオーラの弾丸が撃ち込まれる。
「お前らみたいな奴等、一般人の爪先にも触れらせねぇからな」
「戦うのが好きならあたし達と遊びましょう?」
 アルストロメリアが言い捨て、紡が微笑む。
 ほう、と感心したようにクイスマが構えると、フロストレーザー、ドラゴンの幻影が二段構えで正面から食いかかる。
「細かい理由は知らないが、デウスエクスというだけで十分だ。僕が、僕たちがお前を裁く!」
 操が真っ直ぐに堂と言い放つと、
「ふははは! やはり戦は、こうでなくてはな!」
 愉快そうにクイスマは高々と咆えた。
 それが強がりではない事を証明するかのように、鎧にも傷一つなく、たいしたダメージを受けたようには見えぬ。
「つーかこいつアスガルド産の貴重な装備とか持ってねぇかナ……」
「雑兵がいい装備を持っているものかしら?」
 鎧を眺め、ひとりごちたヴェルセアに、リィが辛辣な指摘をする。
「いくですよ、プライド・ワン!」
 アームドフォートを構えて真理が相棒の名を呼べば、ライドキャリバーは炎を纏って突撃していく。
「絶対ここで食い止めるっスよ――アタシの歌を聴けっス!」
 ギターをつま弾き、皆へ言葉を贈りコンスタンツァは「紅瞳覚醒」を奏で始める。
 それは前に立つ者達を奮起し守る歌。
「邪悪の王に、わたしは捧ぐ」
 そして、シャルロッテは狂想曲:無価値なる反逆者の王――己が渇仰する王へと捧げる歌を奏す。
「お目を拝借 きっと見えるようになったでしょう? 王様にはなんでもお見通しなんだから」
 仲間達への加護が対価として与えられたのを確認すると、彼女は後方より戦場を注視する。
 前線で宙を軽く跳躍したアースガルズが、羽ばたきで邪気を払い、準備は整った。
 真剣な眼差しで相手を見るケルベロスたちとは相反し、彼らを一瞥するクイスマの表情は、依然にやついていた。

●一と十一
 一見すれば、無手であれ長躯のエインヘリアルの間合いは広く、有利である。だがそれを逆手にとって果敢に切り込めば、隙にも変じる。
 真理とリィ、そしてサーヴァント達と代わる代わる強烈な一撃を受け止め、その動きを留めようと努める。
 彼らが傷を負えば、シャルロッテがすぐさま傷を癒やす。
「歌ってあげるわ」
(「ぜえんぶロッテに任せて頂戴、なあんて」)
 思いを込め彼女が奏でる「ブラッドスター」を背に――仲間が身を削って作った機会を逃さず潜り込む、二つの鮮やかな色彩。
 金糸が縦に跳ねたかと思えば、ピンク色の髪が惑わすように横切り踊る。
「行くよ、メリー!」
「おう、先手は任せたぜっ!」
 紡が正面から拳を繰り出せば、応と叫んだアルストロメリアが、思い切り身体を倒して下から足を振り上げる。鳩尾を狙った降魔真拳と、顎を狙ったスターゲイザー、絶妙なタイミングで回避するのは厳しいそれを、クイスマは両の手で受け止めた。
 細身の少女が放ったとは思えない重みに、思わず動きを止める。
「可愛い女の子だからって油断しないでね?」
 花が綻ぶように微笑む紡――誰がだ、と誰かが毒づいたような気もするが、気のせいだろう。
「両手が塞がったな――次はどうする?」
 問いかける操の声は横から、それもかなりの至近距離から響いた。全力の跳躍。
「好きだ、愛している」
 脳殺――感情をグラビティと化して頭突きと共に叩き込む、形は実にシンプルな技だ。その切っ掛けとなる詠唱は、ただ口にするのも不快な上、対象がコレということで尚おぞましくもあるが、ゆえに威力が高まる。
 一瞬バランスを崩して後退ったクイスマの頬を、地獄の炎が舐める。
 ブレイズクラッシュを纏ったブラックスライムの槍、放ったヴェルセアは片頬に笑みを浮かべ、仲間達の背後を駆けた。
 そちらを見やれば、更に別の方角から煌めく重力を宿した鋭い蹴りが斜めに走る。
 コンスタンツァは捕らえられぬように素早く下がり、ひとつ息を吐く。
「エインヘリアルだか何だか知らねっスけど東京をこれ以上焦土にするのは許さねっス」
 家出中の身とはいえ――自分の故郷が焼け落ちることなど、想像すらしたくない。だがもし、彼らの侵攻を許せば、この境界の向こう側まで蹂躙される。
(「……八王子だって誰かの故郷だったんスよ」)
 既に焦土と化した地を思い、彼女は拳を握る。これ以上の破壊は許さない――強い意志を宿した緑の瞳で、睨み付けた。
 そんな彼女を、クイスマは首を鳴らしながら見下ろす。
「はっ、群れて強くなった気になってやがる」
 言い捨て、構える。
 たったそれだけで放たれた殺気は、強くケルベロス達を貫く。
「例えあなたが私より強くても、私達全員が力を合わせれば勝てるのですよ……!」
 臆せず、真理が前に出――雄叫びと共に、クイスマは前に踏み込んだ。
 拳が空を押しながら、彼女を捉える――。
 圧縮した暴風が目の前で炸裂したような感覚の後、真理は自分が浮遊したと自覚したのは、大きく地面に叩きつけられた時だった。
 タイミングを計ってマインドソードで相手の拳を返し、ダメージを軽減させたつもりでいた――が、全身が思うように動かない。
「真理、大丈夫!?」
 気力溜めを彼女に向けて放ちながら、シャルロッテが問う。
 ぎこちなく半身を起こした真理は無表情のまま頷いた。
「大丈夫なのですよ……」
 ――人類の盾となるのが自分の役割だから。此処で倒れるわけにはいかないと。
 立ち上がる彼女の前に、静かにリィが立ち塞がる。
「同じ事の繰り返しばかり。そろそろ飽きてきたわ」
 易い挑発だが、ただ彼女の本音でもある。
 然れども、それが今日の戦いにおける彼女の在り方ゆえに。かかってこいと、手招いた。

●力、重ね
 気咬弾が交錯する――しかし、地を抉りながらクイスマの放った弾丸は止まらず、アルストロメリアを庇ったアースガルズを飲み込んだ。
 ごめんね、と心の中で相棒に謝りながら、シャルロッテは現状を見た。
 重い一撃を分散しながら受けてきた真理とリィはかなり体力を削られている。二人を庇った彼女達のサーヴァントも、次は保つまい――だが、削られているのは相手も同じ。
 クイスマも、いよいよ険しい表情を浮かべるようになっていた。
「シンリ、ロッテ」
「任せるです」
「ええ、守ってみせるわ」
 名を呼び、答えを聞き、リィはこくり頷き駆けた。
「この世に生まれた事を後悔させてあげる」
 静かな呪詛が、右手を漆黒の鉤爪へと変じ――混沌の顎をもって、喰らい掛かる。
「ちっせぇ羽虫が、煩せぇな」
 無造作に、彼は腕を振り抜く――それほど自然な裏拳。
 だというのに、その一撃はリィの腹の中心を正確に捉えた。小さな身体が二つに折り曲がり、血や胃液を吐瀉すれども。
 彼女の表情は変わらず、淡々と――全身の力をかき集め、その腕を掴み、しがみつく。
「リィの怪我は仲間が治してくれる。リィの代わりに、仲間があなたを殴ってくれる」
「その通りよ!」
 シャルロッテがオーラを送り、真理のフォートレスキャノンが肩を穿つ。
 穴の空いた赤い鎧に、それははっきりと驚きの表情を見せた。
「アタシの拳とお前の拳、どっちが強いかハッキリさせてやる!」
 ラズベリーの瞳は真っ直ぐ前だけを見、アルストロメリアは地を蹴った。
「コイツがアタシの、極限全力!」
 メリー流・九龍髭拳――駆けた勢いを乗せ、流星が如き、無数の乱打を撃ち込む。
 最後の一撃は強烈なアッパー。全身をバネのように跳ね上がってのそれは、顎を強か捉え、巨体を大きく揺らがせた。
「クッツ、ヴェルセア、コンスタンツァ……畳みかけるわよ」
 誘うは紡、リボルバー銃を構え、コンスタンツァがとっておきで応える。
「GO、ロデオGOっス!」
 二本角でぶちぬけっス、彼女の言葉通り、猛り狂う闘牛のオーラを纏い跳躍する真っ赤に光り輝く魔法の弾丸――クレイジーロデオは、クイスマの腕を貫いた。
「これでも女賞金稼ぎ一族の末裔――家名は汚さねっス」
 己が矜持を重ねた弾丸に、彼女は笑みを浮かべる。
 肩、腕、武器をひとつずつ失う戦士へ、踊るように軽やかに、魔女が距離を詰めていた。
「個の名声を誇る――だっけ? 馬鹿みたい」
 挑発まじりの本音で、紡が嘲る。貴方はここでひとり終わるのだと。
「これにて終結。めでたし、めでたし」
 祝福された結末――三つの頭を持つ山羊の異形の魂を加護として。高められた一撃は側面より、もう一方の腕を強烈に捉えた。
 ひしゃげたように曲がった腕では、いよいよ何もできずに、それは汚い悪態を叫き散らす。
「クソッタレ――この俺が……こんな奴らに」
「僕一人では小さな羽でも、手を取りあえば翼になる……気にしないでくれ、君には分からない話さ」
 耳障りだとばかり左右に首を振った操が、構えたガトリングガンを連射する――無数の弾丸は、赤い鎧を粉々に砕いていく。
 そして、その弾幕に潜む――影。
「お前ハたちまち消え失せテ 二度と誰にモ会うことはなイ」
 ベイカーの消失――締め口上のような言葉が届いた瞬間、彼の世界は暗転したであろう。
「安心しロ、苦しんで死ねとは言わねえヨ」
 嘯きながらヴェルセアは淡々と、己の成果を確かめたのだった。

 完全勝利だなとアルストロメリアが明るく紡、シャルロッテと手を合わせる。
「傷は大丈夫っスか?」
 お疲れ様っスとロリポップを配りながらコンスタンツァは、リィに問いかけた。
 彼女が応えるよりも先に操が大丈夫だと請け負う。
「頑丈が取り柄だし――ってうわ」
「個人の武勇がなんだって言うの? 世の中、勝てば正しいのよ」
 何があったのかは触れないが、何かがあった操と、朽ちたエインヘリアルへ、最後まで辛辣にロリポップを手に彼女は告げる。
 それにしても、ヴェルセアは薄く笑う。
「バカの相手は楽で助かル」
 個でこれだけの力を持つのだ。もしも彼らが力を束ねる軍団であったならば、もっと恐ろしい存在であっただろう。
 なかなか苦心したが、ここにひとつ敵の企みを挫いた――その成果を喜びつつ、
「第五王子イグニス……思い通りにはさせないのです」
 プライド・ワンを労うように撫でながら、真理はガイセリウムを見据えたのであった。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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