●刈りとるもの
城、と言われると東京都民の人々はどのような城を想像するだろう。
恐らく、今彼等の目にうつっている城を想像する人はそうはいるまい。
直径約300メートル。全高約30メートル。
敢えて言うならばアラビア風だろうか。そんな城にまるで冗談のように4本の脚を生やして、
移動要塞・人馬宮ガイセリウムは姿を現したのであった。
上空には警戒のためか、ヴァルキュリア達が飛び回っている。
八王子市から東京都心部へ。移動を開始してくるその城に、周辺住人はただただ家を捨て避難を始めるより他はなかったのである……。
●宴の支度
「冗談のような話だが、残念ながら現実のようだな。……いや、あまりに何というか。脚が。うん脚が。城に脚が。意外すぎて、思わず笑ってしまったのは君達と私だけの秘密だよ」
浅櫻・月子(オラトリオのヘリオライダー・en0036)はそんなことを言って肩を揺らした。どうやら城に脚が生えていた件が妙に個人的なツボに入ったようで自分で言って自分でくつくつと暫く笑う。
髪を飾る白桜を軽く揺れ、それが落ち着いたところで話を始めた。
「いや、そんなことを言ってはいるが事態は深刻だ。敵は強敵だし油断は禁物である。心して欲しい。……エインヘリアルの第一王子から得た情報にあった、人馬宮ガイセリウムがとうとう動き出したらしい。人馬宮ガイセリウムというのは、巨大な城で、うん、四本足が付いていて、それで動く移動要塞なんだ。出現地点から東京都心部へと進軍を開始している」
次は何とか笑うのを堪えて彼女は咳払い。冷めた缶コーヒーに一口口をつけて、
「周辺はヴァルキュリアが警戒活動をしているので、不用意に近づけばガイセリウムから勇猛なエインヘリアルの軍団……『アグリム軍団』とやらが現れてぷちっとされてしまうので、迂闊な行動を取ることは出来ない」
なお、進路上の一般人は避難を行っているが、都心部に近付いた後の進路が不明であるため、避難が完了しているのは、多摩川までの地域であると月子は言い添えた。
「このままでは奴らが何処に向かうにせよ、東京都の都心部は人馬宮ガイセリウムによって壊滅するだろう。そうなる前に、手を打たないと行けないな」
それと、と一つ言葉を切って、月子はケルベロス達の顔を一人一人しっかりと見、
「エインヘリアルの第五王子イグニスが人馬宮ガイセリウムを動かした目的だが、三つほどの理由が考えられている」
一つは、暗殺に失敗しケルベロスに捕縛されたザイフリート王子の殺害。
二つめは、シャイターン襲撃を阻止したケルベロスへの報復。
三つめは、一般人の虐殺によるグラビティ・チェインの奪取。
指折り月子は数えて、
「ま、というわけで気に入らないのできっちり彼等の目論見は潰させて貰おう。なにせ、人馬宮ガイセリウムは今のところ、万全の状態ではないことが予測されているからね」
曰く、人馬宮ガイセリウムを動かす為には多量のグラビティ・チェインが必要なのだそうだ。だが、彼等がその充分な量のグラビティ・チェインを確保できた気配がない。
「恐らくは先のシャイターン襲撃が、諸君らに阻止されたのが原因だろうな。当てが外れた、と言う奴だ。なのでイグニス王子は、侵攻途上にある手頃な周辺都市を壊滅させて人間を殺してグラビティ・チェインを補給しながら東京都心部へと向かう、と言う作戦を採っているというのがおおかたの見方だな。……あぁまぁつまり」
月子は一息つく。一度目を閉じて、それから開くと、
「とんでもない外道って事ね。私だって一発殴りに行きたいぐらいだわ」
なんて僅かにふて腐れたような口調でそう言った。それは止めてくれと周囲から声が出たかどうかはさておき、彼女はもう一度目を閉じてそれから開くと、
「兎も角敵はそう言う作戦を採っている。対する我々は多摩川を背にして布陣する」
それから彼女は人差し指を立てて、まるで教師のような口調で話を続けた。
曰く、
まずは、人馬宮ガイセリウムに対して数百人のケルベロスのグラビティによる一斉砲撃を行う。
この攻撃で、ガイセリウムにダメージを与える事はできないが、グラビティ攻撃の中和の為に少なくないグラビティ・チェインが消費される為、残存グラビティ・チェインの少ないガイセリウムには、有効な攻撃となるであろう。
同時にこの攻撃を受けたガイセリウムからは、ケルベロスを排除すべく、勇猛なエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してくる事が予測される。
このアグリム軍団の攻撃により、多摩川の防衛線が突破されれば、ガイセリウムは多摩川を渡河して、避難が完了していない市街地を蹂躙、一般人を虐殺して、グラビティ・チェインの奪取を行うだろうし、
逆に『アグリム軍団』を撃退する事ができれば、こちらから、ガイセリウムに突入する機会を得ることが出来るだろう。
「ちなみにそのアグリム軍団とやらは四百年前の戦いでも地球で散々暴れ倒して、そのド外道さから同属であるエインヘリアルからも嫌悪されているんだと。そういうエインヘリアル・アグリムと、その配下の軍団だ。アグリム軍団は、第五王子イグニスが、地球侵攻の為にそろえた切り札の一枚なんだろうな。……正直400年前というと、ちょっと昔過ぎてぴんと来ない者もいるかもしれないが」
そんな所感を最後に述べて、ふむ。と月子は腕を組む。
「軍団長であるアグリムの性格からか、その軍団は個人の武を誇り、連携を嫌い、命令を無視するという。だが、そう言う奴らがきちんと戦力として認められているのだ。個人個人の戦闘能力は本当に高いのだと思っておいた方がいいな。あと全員が深紅の甲冑で全身を固めているのがが特徴となっているらしい。ので、とても解りやすいと思う」
其処まで説明して、月子はしばし考え込んだ。これ以上伝えるべき事柄があったかどうか思案した後に、
「奴らが多摩川を越えたら、東京は大変なことになるだろう。……厳しい戦いになる。君達の命と東京都民の命と、どちらが重いかなんて当然計ることも出来ない。安易に頑張ってこいとは言わない。だから……気をつけて、いってくるんだよ」
そうして微笑み、月子は話を締めくくった。
参加者 | |
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西条・霧華(幻想のリナリア・e00311) |
御嶽・瑞津(渦巻く冒険心・e01113) |
ラハティエル・マッケンゼン(黄金炎の天使・e01199) |
桐崎・早苗(天然風味の狐娘・e03380) |
イーリィ・ファーヴェル(クロノステイシス・e05910) |
東雲・時雨(宵闇の三日月・e11288) |
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555) |
柊・沙夜(三日月に添う一粒星・e20980) |
●
時刻は午後三時頃。一斉に放たれたケルベロス達の攻撃は、それは凄まじいものであった。
「これでどうだ!! でござるよ!」
少しでも動きを止めよう、と御嶽・瑞津(渦巻く冒険心・e01113)の声と共に、放たれた螺旋氷縛波も人馬宮ガイセリウムに吸い込まれていく。
そうして多数のグラビティの攻撃を受けた人馬宮であったが、その一斉攻撃が収まってもその姿は変わらず其処に健在であった。
一見してダメージがないように見るそれの動きは止まる。防御のためにグラビティ・チェインを消費してしまったのだろうか。
「さぁこい野郎ども! このイーリィさん達が相手だよ! けっちょんけちょんにしてあげるから、覚悟しなさい!」
動きのない敵側に、イーリィ・ファーヴェル(クロノステイシス・e05910)が空を差して声を上げた。イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)も続けて、
「イグニスだかアグリムだか知らないけど私達の星で勝手な真似はさせないわ。来なさいっ。その巨体、小さく丸めて差し上げるわ」
声を上げる。舐められることが大嫌いなイリスである。そのエインヘリアルの傲慢な態度が許せなかったのだろう。そんな美少女二人の挑発に気付いたのか否か、此方に向かって真っ直ぐ飛んでくる影が目に入った。
「防衛戦、ですか……。此処を、突破さ、れてしま、っては大、変なこ、とに、なりますね。どうにか、守り通、さなきゃ、です!」
みるみる大きくなってくる姿を、柊・沙夜(三日月に添う一粒星・e20980)がぎゅっと古茶けた装丁の魔導書を胸に抱き見つめる。一方、
「大都市トーキョーに残された最後の秘境、タマゾン川。ここに攻め入るとは……第5王子イグニス、敵ながら見事だ。是非とも配下のアグリム軍団を釣り上げ、我が敬意と共に外道として粉砕しよう。最初の一匹目もなかなか大きそうだな……フッ」
天がみるみる人影になっていく。それにニヤッと笑い、ラハティエル・マッケンゼン(黄金炎の天使・e01199)はスキットルのウィスキーを煽った。
「聞け! 我が名はラハティエル、ケルベロスの一員! 外道の一兵よ、黄金の炎を味わえ……そして絶望せよ!」
東雲・時雨(宵闇の三日月・e11288)は一瞬、それに突っ込むべきか否か考え込んだ。しかしその間にもエインヘリアルはもう目の前に。間近で見ると圧倒的なその巨体に、彼は僅かに目を眇める。
即座にピンと張り詰めた空気が周囲に満ちた。
「竜の次は外道退治か……上等だ。東雲流剣術……推して参る!」
一方のエインヘリアルは音を立てて地面に降り立つ。赤い髪に朱いヒゲのまさに巨体を揺らせて斧を手にケルベロス達を見おろした。
「やれやれ。どんな奴らかと思ったら随分ちっせぇじゃねぇか。お前ら、腑ぶちまける覚悟は出来てるんだろうなぁ?」
「……」
桐崎・早苗(天然風味の狐娘・e03380)がその巨体を見上げる。一つ息を呑んで胸の前で手を組み、
「私の剣は誰そが為の守護の剣……その為に振るうのだと心に決めています。ここは、断じて通しません」
日常を刈り取らせてなるものですかと早苗はしっかりと敵を見据えた。立ち塞がるにはあまりに小さいその身体だ。けれど、
「あなた個人に恨みはありませんけれど……。一般人に多大な犠牲を強いるのであれば話は別です。ここは絶対に通しません」
西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)が隣に立った。髪を掻き上げ流れるような動作で眼鏡を外すと、
「そうかいそうかい。……なら、やってみな!」
エインヘリアルが吼えて、戦闘が始まった。
●
巨大な斧がぐるりと旋回する。光り輝く力と共に強烈な一撃が振り下ろされた。
「は……っ!」
肩口に衝撃が走る。避けようとして避けきれずに、抉れた傷の痛みを落ち着けるように霧華は呼吸を最初に整えた。
「カゲ、おねが、い、です!」
「シュルス! いっちょ良いトコ見せちゃってー!」
沙夜のでっぷり太った三毛猫カゲとテレビウムのシュルスも霧華と肩を並べるように走る。瑞津のボクスドラゴン、チェキが属性インストールを使用した。
「大丈夫でござるか? チェキも、前は頼んだでござるよ!」
そう言いながらも瑞津はオーラの弾丸を飛ばす。霧華が返事をする前に、沙夜がこくりと頷いた。
「はい、大丈、夫、です。わたしが、護り、ます……!」
言うと同時に魔道書を開く。
「むかしむかしあるところに小人たちが住んでいました……」
沙夜の紡ぐ物語と同時に表れる小人達は行進曲を歌う。傷を癒していく。霧華も小さく頷いた。
「ありがとう。頼もしいです」
言うと同時に己の得物を抜き放つ。目に見えぬほどの速さを持った一撃はしかし、
「ふん……っ!」
斧によって弾かれた。しかしその隙にイーリィが背後に回り込む。
「隙あり! こっから先に行きたくば我々を倒していけ、なんてね!」
高速演算で敵の構造的弱点を見抜き、見抜いた上で胴体への蹴りの一撃を炸裂させた。
「こっちよ、デカブツ!」
イリスの黒い茨によく似た攻性植物が黄金の林檎を蓄える。収穫形態へ変化させながら声をかける彼女と同時に、時雨が淡く朱色に染まるその刃をエインヘリアルの巨体に叩き込んだ。
「俺はここだ! 相手になってやる! 武勲を立てたいならまず俺の首をとってみな!」
挑発するような一撃は強い剣気を纏った斬撃で。切り裂かれた傷を見ながらふむとエインヘリアルは首を傾げる。
「良かろう。其処までして死にたいか、小童共……!」
挑発に応えるような言葉に、早苗は愛刀をぎゅっと握りしめる。
「……死にたくはありません。そして、死ぬつもりもありません」
ただ淡々と、早苗は巨体の腕を月の弧を描くように切り裂いた。
「ぬぉ!?」
血が吹き出る。それにたたみ掛けるようにラハティエルは剣に手をかけた。
「果たして死ぬのはどちらになるであろうな? フッ……」
件筋の見えぬ一撃で敵を切り裂きながら、ラハティエルは不敵に笑うのであった。
斧の一撃が瑞津の身を掠める。
「そろそろ潮時か……下がるでござるよ!」
縛霊手でギリギリ致命傷を避け後退する瑞津。追撃を牽制するように、霧華が斧を戻すその腕を炎と共に切りつけた。
「ええ。気をつけて」
淡々とした一撃。しかし彼女の傷も相当に深く、今は後衛からの攻撃に当たっている。
「……っ」
下がる瑞津に沙夜は時雨の方に一度視線をやる。時雨は力強く頷いた。それに答えて沙夜は守り刀を胸に抱き前に出る。
「わたし、前衛は、初めて、ですが、みなさんを、守るため、がんば、ります!」
「あぁ。……敵さんもしぶといな……。だが……」
必ず守ってみせると、前に出た沙夜に時雨は胸の内で呟くのであった。
しかし思いはそれ以上は胸の内。同時に放たれた沙夜と時雨の斬撃が、美しい軌跡を描いた。
エインヘリアルの所持するルーンアックスは、前衛にしか攻撃が届かない。
故にケルベロス達は、後衛の者達がバッドステータスの怒りを付与しある程度攻撃を封じた上でヒール不可ダメージを受けた前衛が後衛に回り、ダメージを受けていない後衛が前衛に回るというものであった。
ポジションの移動で時間を取られるので、その分手数が減り受ける攻撃も多くなる上、バッドステータスは常時必ず発動するものではないので確実に安全とは言えないのだが、
状態が危険なときに戦闘不能や重傷となるような強力なダメージを受けないようにするという面でも安全でいい作戦だと思われる。
「はっ。小癪な。小物は策を弄するが好きらしいな……!」
そんな彼等にエインヘリアルが吐き捨てるように言う。早苗はその言葉にただしっかりとエインヘリアルを見上げた。掌から造り出された満月に似たエネルギー光球を、時雨の方に翳し、
「何とでも、言えばいいのです。私達の目的は、楽しく戦うためではありませんから!」
「そうだよ! 後ろにあるものとか人とか、そういうのがぜんっぜん違うんだからね!」
傷を癒すと同時にイーリィが駆けた。天を駆けるように走り熟練された蹴技をエインヘリアルの鼻っ柱に叩きつける。
「個々の力が強くてもこちとら連携は掛け算なんですよ。小物の底力なめちゃだめだよ!」
「ぐぉ……っ!?」
凍り付いた鼻先に敵が怯んだ隙に、霧華が鞘に手をかける。抜刀する、と思ったときには刀は既に鞘に収まり、敵の腕を深々と切り裂いていた。
「……実力差を計り、その為に策をたて、勝利を掴む。其処に何の問題があるでしょう」
「そうよ。頭の悪いデカブツが。負けそうだからって吼えてるんじゃないわ。その慢心……、存分に後悔なさい!!」
イリスが収穫体勢に攻性植物を変化させながら言った。どんな状況でも希望と減らず口を失わない彼女であったが、内心ではその状況を冷静に分析もしている。
「ふん……。確かにここまで追い詰められたのは初めてだ。しかし貴様らもどうだ? もうそろそろ交代もお終いではないか」
それに気がついたかのように、エインヘリアルも血塗れの手でイリスを指さした。その通り、今変わったばかりの沙夜は兎も角前に出ている時雨とイーリィはダメージが蓄積されてきている。しかしこれ以上交代する要員となると……、
「案ずるな。その前に全て終わらせてみせるさ! フッ……」
しかしそんな指摘を一笑に付し、ラハティエルは二枚の大きな翼を広げた。
「我が紅蓮の炎こそ、断罪の焔! 揺らぐとも消えないその劫火は......地獄の中でも、燃え続ける! 何がエインヘリアルだ。我等ケルベロスにとって、貴様らも……有象無象の三下どもに過ぎん、な!」
翼は目も眩むような紅蓮の炎に輝いて羽ばたかれ、灼熱劫火の超高熱エネルギーを周囲に放射する。ラハティエルの攻撃に視線をやって、早苗は小さく頷く。
「私達の後ろには……、たくさんの人がいます。もう、失いたくありません。どんな手でも出来ることがある限り。この身体が動く限り……。私は、迷わない。……お願いします!」
「はいはーい、イーリィさんにまっかせなさい!」
支援を受けてイーリィが走る。傷を何でもないかのように明るく弱点へと強力な一撃を叩き込んだ。
「おぉぉぉぉ、この、小物共がぁぁぁぁ!」
痛みにエインヘリアルがでたらめに斧を振り回す。イーリィに向かったそれを、彼女のテレビウムが庇った。
「シュルス!」
消える朱留守に、イーリィは一瞬唇を噛む。それを見て、
「……、チェキ」
瑞津は呼び、傷だらけのチェキも頷いた。堪えるように視線を交わしたのは一瞬だけ。サーヴァントの治療に手を裂いている余裕はないのはみんながちゃんと解っている。
「耐えるでござるよ」
属性インストールで回復をさせ、瑞津は駆ける。氷結の螺旋を叩き込んだ。
「さあ、終わりは近いでござるな! まずはここを全力で切り抜けるでござるよ!!」
「ぉ、ぐぉぉぉぉぉぉ!!!」
流石に度重なるバッドステータスを受けて、敵の動きも鈍ってきたのか。直撃し身悶えるエインヘリアルに時雨は頷いた。
「どうした? さっきまでの減らず口は何処行った! かかって来いよ!」
時雨が挑発するように行って沙夜の顔を見る。沙夜も頷く。
「うん、一緒に。もう迷わない。わたしに届く……」
光へ。一筋の光のように月の弧を描いて、沙夜の斬撃が走る。カゲが同時にキャットリングを飛ばした。その光に導かれるように、時雨の螺旋手裏剣がエインヘリアルの目の中に吸い込まれていく。
おぉぉぉぉ、と吼える敵に、
「だから言ったであろう。その前に全て終わらせると。我が黄金の炎は希望の輝き、揺らぐとも決して消えず! フッ……」
ラハティエルは踊るようにその腕をかいくぐり、目にも止まらぬ早さで日本刀を叩きつける。イリスは即座に敵を見上げた。
一瞬考えたのは、このまま攻撃したら彼女がとどめを刺せるだろうと言うことだった。
けれど彼女は即座にそれを打ち消した。……それは彼女の嫌う油断と慢心に他ならない。
「ふん、じゃあ、一発でっかいの頼んだわよ」
黄金の林檎で前に戦う仲間の傷を癒す。最後まで油断しない。自分たちはチームだから。……なんて、絶対口には出さないけれど。
「……お任せ下さい」
そんな気持ちを知ってか知らずか、霧華の斬霊刀が一閃した。
「ぉ、ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
深々と刃が巨体の中に沈む。そしてエインヘリアルは一つ方向を開けて、地に伏したのであった。
●
勝敗は決した。
「……っ」
早苗が思わず両手を握りしめる。
「勝った、勝ったぁぁぁ!!」
イーリィが両手を挙げて声を上げた。……ケルベロス達が、勝ったのだ。
誰も彼もが満身創痍でぼろぼろだったけど、確かに勝ったのだ。
「ま、トーゼンの結果ね。私達を侮った報いよ」
イリスが腰に手を宛てて一息つく。口で言うほど優しい戦いではなかったけれども、まるきり楽勝だったように彼女は言う。
「やった、ね」
「ああ」
沙夜と時雨が視線を交わす。頷き、そして微笑み会う一方、
「ふん。はなから勝ちの見えた試合であったさ」
ラハティエルはスキットルのウィスキーを煽り一同に背を向けた。待っている人がいる。一刻も早く帰ろうと。
「……ゆっくりしてもいられません。行きましょう」
そんな彼に、霧華も頷いて仲間達を促した。
今は、ガイセリウムへの侵入部隊の成功を祈るしかない。
多摩川を越えて撤退し、『ケルベロスの作戦は失敗した』と、イグニス王子に印象付けることで、侵入部隊の作戦を有利にさせる狙いがあった。
「あぁ……。まだまだ戦いは続く。これからでござるな!」
瑞津の言葉に一同は頷く。
「……」
最後に、早苗は顔を上げた。被害を免れた住宅地を一瞥し、
「……良かった、ね」
イーリィがそれに気付いて声をかけると、早苗も微笑んで頷いた。
ただ、壊れること無かった町並みを心に残して彼等は撤退を開始した。
戦いは、まだ終わっていないのだ……。
作者:ふじもりみきや |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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