多摩川防衛戦~デストロイヤー

作者:キジトラ

 突然のことに人々は大混乱に陥った。
 原因は焦土と化した八王子から現れたアラビア風の巨大な城。それは4本の脚を持った移動要塞でもあり、巨大な地響きを起こしながらゆっくりと近付いてくる。
 初めは唖然としていた人々も、移動要塞が近付くにつれて耐え難い恐怖に襲われた。
 次いで必死に逃げ始めるのだが……脳裏を過ぎるのは絶望的なことばかり。
 どこに逃げれば、あれから逃げ切れるのか?
 何より、あんな巨大の物を誰が止められるというのか?
 移動要塞の周囲には光の羽を生やして空を舞うヴァルキュリアたちの姿も見える。
 徐々に諦観が人々の心に染み込んでいく。
 歩みが遅くなり、そして立ち止まってしまう人の姿も見え始めた……。

「大変ですわ。エインヘリアルの第一王子ザイフリートさんから得た情報にあった、人馬宮ガイセリウムが遂に動き出したようですの」
 テッサ・バーグソン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0130)は緊急事態であることを告げて、矢継ぎ早に説明移った。
「人馬宮ガイセリウムは巨大な城に四本の脚が付いた移動要塞で、出現地点の八王子市・東京焦土地帯から東京都心部に向けて進軍を開始しているようですの。ガイセリウムの周囲にはヴァルキュリアの軍勢が警戒活動をしていますわ。不用意に近づけば、直ぐに発見されてガイセリウムから勇猛なエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してきますの」
 そのため、迂闊に近づくことは出来ない。
 現在、ガイセリウムの進路上の一般人の避難を行っているが、都心部に近づいた後の進路が不明であるため、避難が完了しているのは多摩川までの地域となっている。
「ガイセリウムを動かしたエインヘリアルの第五王子イグニスの目的は3つと考えられますの。暗殺に失敗しケルベロスに捕縛されたザイフリート王子の殺害と、シャイターン襲撃を阻止したケルベロスへの報復、更には一般人の虐殺によるグラビティ・チェインの奪取ですの。この暴挙を止めるために皆さんの力を貸してください」
 と言って、頭を下げてからテッサは作戦の説明に移った。
「ガイセリウムは強大な移動要塞ですが、万全の状態ではないことが予測されていますの。ガイセリウムを動かすためには、大量のグラビティ・チェインが必要なのですが、充分なグラビティ・チェインを確保できていないようですわ」
 先のシャイターン襲撃がケルベロスによって阻止されたことで充分なグラビティ・チェインを確保できなかったのが原因だろう。
 イグニス王子の作戦意図は、侵攻途上にある周辺都市を壊滅させ多くの人間を虐殺し、グラビティ・チェインを補給しながら東京都心部へと向かうものと思われる。
「これに対抗するため、私たちは多摩川を背にして布陣ますわ。そして、ガイセリウムに対して数百人のケルベロスのグラビティによる一斉砲撃を行ってもらいまの」
 この攻撃でガイセリウムにダメージを与えることはできないが、グラビティ攻撃の中和のために少なくないグラビティ・チェインが消費されるため、グラビティ・チェインの少ないガイセリウムには有効な攻撃となるだろう。
「一斉攻撃を受けたガイセリウムからはケルベロスを排除するために、勇猛なエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してくることが予測されますの」
 このアグリム軍団の攻撃により、多摩川の防衛線が突破されれば、ガイセリウムは多摩川を渡ってしまう。そうなれば、避難が完了していない市街地を蹂躙、一般人を虐殺して、グラビティ・チェインの奪取を行うことだろう。
「逆に言えばアグリム軍団を撃退することができれば、こちらからガイセリウムに突入する機会を得ることができますの」
 故に何としても、アグリム軍団を撃退しなくてはならない。
「アグリム軍団は、四百年前の戦いでも地球で暴れ回って、その残虐さから同属であるエインヘリアルからも嫌悪されているという、エインヘリアル・アグリムとその配下の軍団のようですわ。おそらく、アグリム軍団は第五王子イグニスが地球侵攻のためにそろえた切り札の一枚ですの」
 アグリム軍団は、軍団長であるアグリムの性格から、個人の武を誇り、連携を嫌い、命令を無視するという傍若無人さを持っている。だが、その戦闘能力は本物だ。
 また、全員が深紅の甲冑で全身を固めているのが特徴となっている。
「人馬宮ガイセリウムが多摩川を越えれば、多くの一般人が虐殺されてしまいますわ。それを防ぐことができるのは皆さんケルベロスだけですの。どうか、皆さんの力でこれを止めてください」


参加者
矢野・優弥(闇を焼き尽くす昼行燈・e03116)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
アーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)
八上・真介(徒花に実は生らぬ・e09128)
アシュレイ・ヘルブレイン(生まれたばかりの純心・e11722)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)

■リプレイ


 空は曇天。
 吹き付ける風が寒さを運んでくる。
 川を背にしたケルベロスたちはそれを気に留めることもなく、ただ1点を見つめている。
「多摩川を渡ろうとする巨大な移動要塞か。まさか、自分が黄道十二星座の名を冠した建造物に挑むことになるとはね。これもまたカードの導きなのかな」
 奇縁を感じて、矢野・優弥(闇を焼き尽くす昼行燈・e03116)がつぶやけば、
「さぁて大仕事じゃな、気を引き締めていくとしようかのぅ」
 アーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)がいよいよだと声を掛ける。
 人馬宮ガイセリウムを止めるための一斉攻撃まで、あと僅か。
「多摩川は僕達が守ります、絶対に突破させたりはしませんよ」
 バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)が決意を口にすると、同意を示す声が仲間から返った。それを耳にしながら、八上・真介(徒花に実は生らぬ・e09128)は自らの心の内を見つめ直す。
(「正直、平常心保てるかどうか不安だけど、冷静に。……大丈夫、今なら守れる」)
 思い浮かぶのは、エインヘリアルの襲撃によって目の前で家族を奪われた光景。ガイセリウムが引き起こしている破壊は否応なく、真介にそれを思い起こさせる。
(「もう、お前らには何も壊させないし、奪わせない」)
 決意を秘めて、拳を硬く握る。
 すると、そこに覚悟を固めた声が耳朶を打つ。
「今度こそしっかり勝つんですから……」
 アシュレイ・ヘルブレイン(生まれたばかりの純心・e11722)にとっては、先のシャイターンに操られたヴァルキリア戦での辛勝のリベンジ。
 思いは様々なれど目的はひとつ、迫り来るガイセリウムを止めること。
 それを成すために500名を優に超えるケルベロスたちが一斉に動き始める。グラビティを操作して、形を成していく破壊の力。
「さあ、戦闘前の派手な花火を打ち上げようぞ」
 アシュレイは魔法によって眩い光を生み出すと、次第にその輝きは増していき、
「悠久なる日輪の輝き、余の光、希望を照らすと光なり我が敵を討ち滅ぼさん」
 煌々と降り注ぐその光を先頭に、2筋の魔法の光が続き、少し遅れて撃ちこまれていく銃弾や礫、具現化したトラウマ、そしてガイセリウムの外壁で突如として爆発が起こる。これらはほんの一端でしかなく、撃ち込まれた数多のグラビティが巻き起こす炎や爆煙によってガイセリウムの姿は一部が見えなくなった。
 強い風がそれらを吹き飛ばすと、見えてきたのは傷ひとつ無いガイセリウム。だが、その脚は止まっている。更に時を置かずして、ガイセリウムの中から人型のものが現れ始める。まだ遠く判別はし辛いが、その数は70以上――話にあったアグリム軍団だ。
「おそらく、イザドルとやらも出てきておるのじゃろうな」
「いよいよ戦闘開始だな」
「では、数汰、ヒマワリ行きますよ」
「……またヒマワリと言いおったな。裁一は後で正座じゃ」
 軽口を挟みながら、ケルベロスたちも動き出す。
「さあ、今日も皆で頑張りましょうー」
 バジルの声に応えながら、それぞれのポジションに散っていく。敵の動向を見定めながら、いつでも動ける態勢へ。
 1分、2分……3分………4分が経過して、
「来ましたね」
 霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)の声に反応して目を凝らした直後にビルの陰から深紅の甲冑を纏った人影が飛び出してきた。
「射程距離内だ!」
 すかさず、渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)がサイコフォースを放てば、向こうからもオーラの弾丸が轟音を上げて迫ってくる。とてつもない勢いのそれに、一歩前に出て受け止めたのは、シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)。
 あまりの勢いに3mも後ろへと押し出されるが、彼はいつもの笑顔で仲間に告げる。
「大丈夫だよ! さあ、盾役はボクに任せて、みんなは攻撃を!」


 急接近してくるイザドルに向かって撃ち込まれるグラビティ。
 それを物ともせず、巨躯が駆け、凄まじい火力を持ったオーラの弾丸を撃ち返してくる。
 再び耳をつんざくような轟音。
 だが、ケルベロスたちも今度はかわして追撃に移る。
「奔れ、苦難を越えし覚悟の旋風……カーディナルガスト!!」
 戦い抜き、勝ち残る覚悟を込めて、アシュレイが蹴りで赤い衝撃波を飛ばす。更にタイミングを合わせて、優弥からもファミリアシュートが撃ち込まれた。直撃を受け……いや、距離を詰めることを優先したようだ。
「邪魔をしたのはお前たちか……って、どいつも歯応えが無さそうだな」 
 ケルベロスたちの前衛へと躍り出ながら、イザドルが値踏みする。
「なるほど、リア充デストロイヤーな俺と違って正統派な破壊者と言う訳ですか、妬ましい。爆破不可避ですね」
「うん、何か言ったか?」
 裁一の声に、3mの巨体から眺めおろすように視線が向いた。
「こう言ったんですよ。俺、羽サバト。今イザドルの後ろに居るの」
「……後ろか」
 いつの間に背後へと回ったのか。
 更に、裁一は注射器で怪しい薬物をさっと投与。それが生み出すのは激痛と痺れ。
「それだけか?」
 問い掛けは振り下ろされる豪腕と共に。
 音速を超えた拳が、裁一へと迫り、
「くっ……」
 咄嗟に割って入った、アーティラリィが受け止めると周囲に轟音が鳴り響く。彼女の顔が苦痛に歪み、倒れこそしなかったものの受けたダメージは大きく。
「これは確かにきついのぅ……」
「大丈夫ですか、回復は任せて下さい」
「急ぐぞ、バジル」
「はい」
 傷ついたアーティラリィに、バジルが素早くウィッチオペレーションを施し、真介も光の盾を具現化して傷を癒しつつ守りを補強する。すると、そこに再び豪腕を振り下ろそうとするイザドルの姿があり、
「――させるか」
 優弥の発した声と共に生まれた爆発が動きを阻害すると、数汰が一気に間合いを詰める。
「その自慢のパワーを振るえなくしてやるぜ!」
「続きます」
 走り抜けながら達人級の一撃を打ち込み、アシュレイも狙い澄ましてバスターライフルから光弾を放った。
 突き刺さる怒涛の3連撃。
 されど、イザドルは堪えた様子も無く……むしろ、がっかりしたような顔をする。
「またこういう連中か、お前らみたいな小手先に頼るような奴らは散々倒してきたんだよ」
 全身から出るオーラの量を一気に上げて、巨大なオーラの弾丸へと。
 狙いは、後ろ。
 回復を担うメディックの片割れ、真介へと発射。
 直撃コースへと乗ったそれに背筋の凍るようなものが、ケルベロスたちを襲う。
 そして、炸裂。
「……この程度なのかな?」
 間一髪で割り込んだ、シルディが痛みを振り払いながら言う。
「それでよく『オレに壊せない物は無いぜ』なんて言えたものだね」
 彼の体からは赤いオーラが。
「この身、この意志は鋼の盾なり。脆弱なるものよ、砕けるものなら砕いてみせよ!」
「ほざいたな!」
 挑発に、いや、グラビティによる怒りも受けてイザドルの狙いはシルディに向かう。迫る音速を超える拳。それをかわして、今度はケルベロスたちが連続攻撃を叩き込んだ。さすれば、イザドルも怯まずに反撃し、それをアーティラリィがかばってダメージを分散。
「せっかく狙いがこちらに向いているのじゃ。このまま耐えるぞ」
「うん、守りきってみせるよ!」
 攻撃がディフェンダーに向き、戦局は安定した。
 そして、更に4分が経過してもシルディはイザドルの攻撃を凌いでいた。だが、代償は大きく。集中攻撃に晒されて、満身創痍……。
(「ボクたちが敗れ虐殺をゆるせば負の連鎖が始まる。それだけは何としてでも避けたい」)
 歯を食いしばって、凶悪な攻撃を耐える。
 もう気力のみ、肉体は限界を超え、
(「ボクがケルべロスとして目覚めた理由とか、わからない事だらけだけど……地球の人が、他のだれでもないボクたちケルベロスに助けを求め、祈るのであればボクはそれに応える。ヴァルキリア解放のためにも……『皆を守り抜く』ただその一点を成し遂げて見せる!」)
 決意と共に最後までイザドルを見据えて――シルディが倒れる。
 彼が耐え凌いで、稼いだ時間は6分。
 当初開いていた力の差は、ほとんどイーブンにまで詰まった。
「……予想外だぜ。まさか、ここまでやるとはなあ」
 イザドルが慢心を捨て、気力溜めで蓄積したバッドステータスを吹き飛ばせば、
「黙ってろ!」
 優弥のファミリアシュートが突き刺さり、他のケルベロスたちからも次々と猛攻が繰り出される。


 戦局は五分と五分。
 イザドルをかなり追い詰めてはいるが、向こうも再びケルベロスたちの要所を狙い出した。すなわち、後衛のメディックたちを、だ。
「させぬのじゃ」
 それに割り込んだのは、アーティラリィ。
 だが、彼女にもかなりダメージが蓄積している。
「俺がアーティラリィを受け持つ、バジルは全体回復を頼む」
「わかりました。癒しの力よ、皆を助けてあげて下さい」
 支えるのは、真介と、バジルの2人のメディック。
 ディフェンダーがひとり倒れて、厳しい綱渡りが続く。加えて、後衛を狙って撃ち込まれる気咬弾。当たれば倒れそうなそれを、アーティラリィが獅子奮迅の動きでかばい。
「余所見ばかりしていると、なんだかデストロイ出来そうな気がしますよ!」
 それを助けようと背後から、裁一が大器晩成撃を。
「ちょこざいな……!」
「こっちにもいるぜ」
 イザドルが振り向いたところに今度は側面から、数汰が突っ込んだ。
 刃がジグザグになったナイフで高速の斬撃。更にラッシュをかけようとするが、イザドルの拳が数汰を吹き飛ばす。
 廃屋に吹き飛ばされて、そのまま壁を突き破って屋内へと消えていく。
「ちょこまかと鬱陶しい奴らだぜ!」
「力みすぎですよ」
「むっ……」
 僅かに生まれた隙を見逃さず、アシュレイが再び赤い衝撃波を撃ち込んだ。
 彼女のオリジナル・グラビティは感覚を惑わす。精神だけを過敏にして、イザドルの間合い狂わせる。されど、それを差し引いても敵の脅威は揺るがない。いくつものバッドステータスの影響下にありながらも高火力を持ってケルベロスたちを打ち砕かんとする。
 そして、遂に真介をオーラの塊が捉えて豪快に吹き飛ばした。
 これで2人目……いや、ふらつきながらも真介が上体を起こす。彼をかろうじて繋ぎ止めたのは自らに起こった惨劇の記憶で、
(「これは復讐じゃない。守るための戦いだ」)
 それを繰り返さないためにも、彼は己が足に力を篭める。
(「……俺が復讐するべきなのはこいつじゃない」)
 倒すべき敵を見据えながら、いま自分が成すべきことを全うする。すなわち――守りの要となっているアーティラリィの傷を癒すことを。
「しぶてえんんだよ!」
 怒声と共に繰り出された一撃が、遂に真介の意識を刈り取る。だが、役目を成し遂げた。仲間の傷は癒え、また僅かに形勢はケルベロスたちへと傾く。
「何なんだよ、お前らは?!」
 イザドルはかつてない粘りを見せるケルベロスたちに恐怖を感じた。
 無意識のうちに後ずさって距離を置こうとしたところに、背後から何かが飛び出す。それは先ほど吹き飛ばされて廃屋へと消えていった数汰で、
「まともに喰らったら即死だったかもな?」
 防具耐性で凌いだ後に、機を見計らっていたのだ。そしてマインドリングから具現化した光の剣で斬り付ければ、合わせてケルベロスたちが一斉に動き出す。
「今こそ総攻撃のときです」
「わかっています。さあ、リア充爆破すべし!」
 駆けるアシュレイに、併走して裁一も間合いを詰める。
「再び奔れ……カーディナルガスト!!」
「非リアに与えた苦しみは苦しみを持って返すまで!!」
 2人のとっておきがクロスしながら突き刺さる。
 だが、受けた衝撃を振り払うようにイザドルが猛進。目の前にいた優弥へと狙いを定めて大きく拳を振り上げる。対する優弥も符を持って攻撃の態勢。
「古に伝わる八柱の龍王よ。汝が真名と血の契約において、我、優弥が命ずる。その力を我が眼前に示し、我が眼前に立ちふさがりし、紅き破壊者を打ち砕け」
 グラビティとグラビティがぶつかり合い、大きな衝撃波を伴って双方が霧散する。
「――隙だらけじゃ。余の光を受けるがいい」
「青き薔薇よ、その神秘なる茨よ、辺りを取り巻き敵を拘束せよ」
 次の瞬間には防御と回復に回っていた、アーティラリィ、バジルが畳み掛ける。
 イザドルを倒すならここ。
 それぞれが持つ最大火力が撃ち込まれ、
「我が手に宿るは断罪の雷霆――その身に刻め。裁きの鉄槌を!」
 天高く掲げたナイフで落雷を受け止め、数汰がその威力を一点に凝縮して叩き込んだ。
 渾身の手応え。
 故に襲い掛かってきた拳に反応が僅かに遅れた。
「なっ……?!」
 再び、数汰が吹き飛ばされて今度は壁に貼り付けられて意識を失う。
 心の内に広がる失意……。
「まだ!」
 叫びは誰が発したものか。
 怒涛のラッシュを加えても倒れぬ怪物に、ケルベロスたちは更に猛攻を続ける。
 血が飛び散り、互いの雄叫びが戦場を覆う。
 繰り広げられる死闘。
 その末に、アシュレイのチェーンソー剣がイザドルの腹部へと突き刺さり、イザドルが絶叫と共に大きな腕を振り下ろす。辺りに響く轟音と肉を切り裂く音。

 ――そして、ぎりぎりのところで立っていたのは小さな少女だった。


 動かなくなった3mの巨体を見て、ケルベロスたちはようやく息を吐き出した。
 同時にどっと疲れが湧いてくる。
「かなりの強敵でしたね」
 バジルの声に応える者はいないが、それは肯定と同じ。
 ようやく倒れた難敵に今はただ安堵の息が漏れる。
「他の方々は無事でしょうか? 皆さん、無事だと良いのですけど」
「援護に向かいたいところじゃが、この有様ではのぅ」
 アーティラリィが視線を向ければ、肩を貸してもらってようやく動ける者が3名。
「裁一さん達と勝利を分かち合いたかったんだけど……いててて」
「それは後にしましょうか。継戦は難しいようですし、ここは撤退ですかねえ?」
 数汰に肩を貸しながら、裁一が仲間に問い掛ける。
 異論は出ず、最後にこの場で得られた情報を確認しておく。
「アグリム軍団が出てきてから数分後にガイセリウムの周りを警戒していたヴァルキュリアたちが戻っていったか」
「はい、その後にはシャイターンたちが代わりに出てきて警戒にあたっていますね」
 真介と、アシュレイの言葉通りにガイセリウムの周囲にはシャイターンたちの姿が。
 更に情報を得られないかと目を凝らすが、他に変わったところはない。
 それを確かめるとケルベロスたちはガイセリウム侵入部隊の成功を祈りつつ、撤退を始める。時折、挑むような目をガイセリウムへと向けながら――。

作者:キジトラ 重傷:シルディ・ガード(平和への祈り・e05020) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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