●進軍、移動要塞
直径にして三百メートル、全高は三十メートル。四本の脚が生えた巨大な城。
その名は――人馬宮ガイセリウム。
砂漠の宮殿を思わせる様相の動く移動要塞は突如として八王子市に出現した。幻想的で巨大な城は見る者が見れば魅力的にも思えただろう。
だが、迫り来る要塞に見惚れる暇は与えられなかった。人々は逃げ惑い、城が進む先から離れるべく避難するのに精一杯だ。要塞の周囲にはヴァルキュリア達が飛び回っており、如何なる者も通さぬと警戒を強めている。
そして、要塞は東京都心部を目指して四本の脚を動かし続ける。この進軍を止めなければ都市は確実に壊滅する。誰もがそう感じ、絶望の念が滲んだ。
●迎撃の戦
「たいへんです、皆様。人馬宮ガイセリウムが動き出したみたいです!」
エインヘリアルの第一王子から得た情報にあった神殿の名を語り、雨森・リルリカ(オラトリオのヘリオライダー・en0030)はケルベロス達を集めた。
人馬宮ガイセリウム。それは巨大な城に四本の脚がついた移動要塞であり、出現地点から東京都心部に向けて進軍を開始している。
ガイセリウムの周囲はヴァルキュリアの軍勢が警戒活動をしており、不用意に近づけば、すぐに発見されてしまう。それだけではなく、ガイセリウムから勇猛なエインヘリアルである『アグリム軍団』が出撃してくるため迂闊に近付くことができない。
「今はこちらで進路上の一般人の避難を行っていますです。ですが、都心部に到達した後の進路がわからないので避難が終わっているのは多摩川までなのでございます」
また、人馬宮を動かしたエインヘリアルの第五王子イグニスの目的は、暗殺に失敗しケルベロスに捕縛されたザイフリート王子の殺害であると予想される。
そして、シャイターン襲撃を阻止したケルベロスへの報復。更には一般人の虐殺によるグラビティ・チェインの奪取も兼ねているはずだ。
「このままだと東京都心が人馬宮ガイセリウムに滅ぼされちゃいます。お願いです、皆様の力が必要なのです!」
リルリカはケルベロス達にそう告げ、両手を重ねて願った。
人馬宮ガイセリウムは強大な移動要塞だ。
しかし、今は万全の状態ではない事が予測されている。人馬宮を動かすには多量のグラビティ・チェインが必要なのだが、先のシャイターン襲撃がケルベロスによって阻止されたことで充分な力を確保できていないらしい。
「イグニス王子の狙いは侵攻途上にある都市を壊滅させて力を補給することです。なので、皆様には多摩川に防衛線を張って戦って欲しいのです」
そこでまずは多摩川を背にして布陣し、人馬宮ガイセリウムに対して数百人のケルベロスのグラビティによる一斉砲撃を行う。
この攻撃でガイセリウムにダメージを与える事はできないが、攻撃中和の為に城に蓄えられていた力が消費される為、残存グラビティ・チェインの少ないガイセリウムには有効な攻撃となる。
「一斉砲撃の後、攻撃を受けたガイセリウムからは『アグリム軍団』が出撃してくるはずです。皆様は軍団を迎え撃ってください!」
アグリム軍団とは、第五王子イグニスが地球侵攻の為にそろえた切り札の一枚。
四百年前の戦いでも地球で暴れ回った存在であり、その残虐さから同属であるエインヘリアルからも嫌悪されているという深紅の甲冑を身に纏った軍団だ。
彼等は個人の武を誇り、連携を嫌い、命令を無視するという傍若無人さを持つ。しかし、戦闘能力は本物なので侮ってはいけない。
アグリム軍団を撃退できなかった場合、多摩川の防衛線が突破されてしまう。逆に撃退する事ができれば、こちらからガイセリウムに突入する機会を得られるだろう。
「人馬宮ガイセリウムが多摩川を超えると、多くの人達人が殺されてしまうです……。でもでも、哀しい未来を防げるのはケルベロスの皆様だけです!」
シャイターン襲撃を退けたケルベロスならば、今回もきっと勝てる。
そう信じたリルリカの瞳にはまっすぐな信頼の色が映し出されていた。
参加者 | |
---|---|
胤森・夕乃(綴想月・e00067) |
ミライ・トリカラード(三鎖三彩の未来・e00193) |
アリエット・カノン(鎧装空挺猟兵・e04501) |
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423) |
クイン・タカシナ(剣拳士・e13935) |
大上・さとり(夢見る天使・e15358) |
御巫・神夜(地球人の刀剣士・e16442) |
ウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596) |
●迎撃
揺れる大地。震える空気。
そして――迫り来る人馬宮ガイセリウム。
多摩川を前に迎撃の決意を固めたケルベロス達は身構え、多脚神殿に鋭い眼差しを向けた。ミライ・トリカラード(三鎖三彩の未来・e00193)は仲間と頷きを交わし、遠くの人馬宮を見据える。
「君たちの侵攻はここまで! ここからはボクたちの番だよ!」
ミライの声が響き渡った刹那、神殿の侵攻を止める為の一斉砲撃がはじまった。
幾重もの炎に様々な銃弾。そして、巫女球。
皆が其々の思いを込め、解き放った攻撃はガイセリウムに向かっていく。多数のグラビティ効果が城を覆い尽くした一瞬後、人馬宮の姿が再び見えた。
「あれだけの攻撃でもびくともしないなんて――」
城は傷ひとつないように思え、胤森・夕乃(綴想月・e00067)は息を飲む。
だが、それは防御にグラビティ・チェインを使った為だろう。神殿は侵攻を停止し、予測通りエインヘリアル軍団を出撃させようと準備しているはずだ。
おそらくすぐに敵が向かってくると夕乃は予想する。
大上・さとり(夢見る天使・e15358)は敵の大きさを再確認し、手にしていた日本刀を近くの地面に突き刺した。
「あれを止めるか壊すかしないと街がひどいことに……」
ウイングキャットのキルシュも不安そうな様子を見せており、さとりは思案する。だが、すぐに周りの仲間を見回した彼女は心を決め、左手で日本刀を引き抜いた。
「とりあえず……全力で迎え撃つ!」
「掛かる火の粉は振り払う――目には目を、火には火をなんつって」
仲間の思いを聞き、ウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596)は敢えて明るく言ってみせる。そして、腰に携えた打刀と脇差に軽く触れたウィリアムは戦いへの思いを抱き、城を見つめた。
そのとき、アリエット・カノン(鎧装空挺猟兵・e04501)が近付く気配を察する。
「皆さん、気を付けてください」
あんな物に、あんな奴等に町を蹂躙されては困る。アリエットは心を強く持ち、深紅の鎧を纏うエインヘリアルを睨み付けた。
「貴様等が敵か。くく、このギギル様に殺される事を光栄に思うがいいぜ?」
こちらを小馬鹿にするような目を向けて来た敵に対し、クイン・タカシナ(剣拳士・e13935)は勇猛に名乗りをあげる。
「アタシはクイン・タカシナ! 此処を通るならアタシを倒してからにしな!!」
「来ましたね……! 銀天剣、イリス・フルーリア。参りますっ!」
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)もエインヘリアル・ギギルをしっかりと瞳に映して宣言する。虐殺も蹂躙もさせたりはしない。絶対に止めてみせると決めたイリスが時空を凍結させる弾を打ち出そうとした瞬間、ギギルが動く。
「俺様と対峙したことを後悔すんじゃねえぞ!」
守護星座を光らせたギギルの身が防護に包まれ、その表情はニヤリと歪められた。
それだけではない。敵はイリスの弾を躱し、ミライが放った縛鎖を剣でいとも簡単に薙ぎ払ってしまう。
御巫・神夜(地球人の刀剣士・e16442)はその所作だけで敵の力量を察した。
「強い……けれど、この先は決して越えさせない」
斬霊刀の切先を差し向け、神夜は凛と言い放つ。
相手の強さは承知の上。しかし、戦いは力さえあれば勝てるとは限らないもの。ケルベロスの強さを思い知らせてやろうと己を律し、神夜達は敵を強く見据えた。
●想い
――怖い。それが敵を対峙した夕乃の思いだった。
自分達よりも遥かに強い敵と戦うことに脅えがないといえば嘘になってしまう。
「……負けられない、よね」
だけど、怖気付いてはいられない。
夕乃は瞳に集束させた魔力を螺旋状に放ち、ギギルを狙い撃った。届かない想いは、捩れ歪んでも届けたいから。思いを力に変えた夕乃の一撃は敵を見事に貫いた。
しかし、相手がそれだけで怯むはずがない。
さとりはキルシュに清浄の翼を打ち続けることを指示し、拳を握った。ギギルは先程、自らの力を高めていた。それならば。
「狙いすまして衝撃一撃!!」
音速を超える拳で敵を穿ったさとりは見事に耐性を打ち払う。
仲間の一閃に賞賛の眼差しを送り、ウィリアムはギギルへと指先を差し向けた。
「木偶の坊が燻り出されたってところか。それともウドの大木ですかね?」
ここから先へは行かせない。その意思を示すようにして挑発交じりの言葉を投げたウィリアムは月の宝を発動させる。
運命の名を冠する白い腕の一閃は敵に衝撃を与え、深く巡った。
「クズ共が調子に乗りやがって」
だが、ギギルはまだかなりの余裕を持っている。何とかして体力を削ろうと狙い、アリエットはブラックスライムを鋭い槍の如く伸ばした。
「その傲慢さが命取りです」
傲り高ぶる敵の弱点はその態度そのもの。そう感じたアリエットはひといきに黒液を解き放ち、毒を与えてゆく。
イリスも仲間に続いて刀を上に掲げた。
「光よ、彼の敵を縛り断ち斬る刃と為せ! 銀天剣・零の斬!!」
言葉と同時に刃が敵の方向に振られ、光の剣が一斉に発射された。更に神夜の放つ絶空の斬撃が見舞われ、ミライによる地獄の炎が迸る。
そこに生まれた隙を狙ったクインは鉄塊剣を大きく振りあげ、自らに敵の意識を向けさせようと狙った。
「こっちを向きなよ、ギギル!!」
単純かつ重厚無比の一撃が敵を穿ち、クインの狙い通りに怒りを誘発した。
挑発によってウィリアムを狙おうとしていたギギルだったが、クインの誘いに乗る程度には単純なようだった。ギギルは重力を宿した刃をクインに向け、一気に斬り放つ。
「うざってえヤツだな。良いぜ、貴様から八つ裂きにしてやるぜ!」
「――!?」
その一撃は強力だった。クインは声すらあげられぬ痛みを感じ、思わず後退る。その一撃で半分ほどの力が削ぎ落とされたことを感じ、夕乃は破壊のルーンを紡いだ。
「予想以上の攻撃だけど、みんなを傷つけさせたりなんかさせないよ」
癒しの力で仲間を包み込み、夕乃は戦いの厳しさを改めて実感する。ウィリアムも次からは回復に徹するべきだと気付き、いつでも動ける心構えを持った。
ミライは掌を握り、地獄の炎で魔法陣を描く。
「ヘルズゲート、アンロック! コール、トリカラード!」
苦境の中でも攻撃を続けるのが自分の役目。三鎖を召喚した未来は三つ彩を宿す鎖達を操り、ギギルを狙い打った。
ミライの鎖が絡みつく最中、神夜は魔力で生み出した雷を刀身に纏わせる。
「走れ、鳴神!」
掛け声と共に稲妻の如き神速の斬撃を繰り出した神夜が敵に痺れを与えた。イリスも敵の動きを少しでも封じるべく、刀を向ける。
「時空を律す冷たきひとひら、彼の敵の自由を束縛せよ!」
突きの動作と同時に氷の衝撃波が舞い飛び、ギギルの身を貫いた。
「少しはやるようだな……なんて俺様が言うと思ったか。くははっ!!」
されど、敵は可笑しそうに笑うだけで少しも怯んではいない。それだけの余裕があるのだと感じられ、さとりは気を引き締めた。
その間にもギギルが星座のオーラを飛ばし、前衛を狙い撃つ。
すぐに反応したさとりは祭壇から霊力を帯びた紙兵を呼び出し、散布していった。
「回復どうぞっ!」
癒しの力が巡っていく中、アリエットは敵の弱点を探ろうと攻撃を続ける。
「Feu de la salve!」
螺旋を帯びた髪で敵を狙ったアリエットは、そこに確かな手応えを感じた。敵の弱点はこれだと察した彼女は攻撃方法を決め、次の手に備える。
そこから幾重もの攻防が重ねられ、戦いは徐々に激化していった。
敵の攻撃は依然クインに向いている。彼女が傷を負う度にウィリアムが祝福の矢を放ち、夕乃もルーンの力で援護を行う。ミライとさとりも仲間を庇おうとしたが、それ以上にクインに向けられる一撃が多過ぎた。
クイン自身も危機を感じているが、敵の猛攻は止まらなかった。
「おーこわ。ってか駄目だ、回復が追い付かねえ!」
「いけない、このままじゃ……!」
ウィリアムと夕乃はクインに癒しが効かなくなっていることを知り、注意を呼びかける。だが、ギギルの剣は容赦なく振り下ろされ――。
「まずは一匹!」
「く……悪いね、駄目だったよ……!」
クインが倒れ、地に伏した。強敵相手に、それもその回復手段を持たぬ敵に怒りを付与したことは失策だったのかもしれない。
仲間が倒れたことによって空気が更に張り詰め、緊張感が高まった。
●転機
そこから更に戦いは進んだ。
こちらも打撃を受けたが、ギギルにも確実に痛みを与えている。されど、敵とてケルベロスを討ち取る勢いで剣を振るった。後衛の盾となる前衛を狙ったギギルが放ったオーラは鋭く、さとりや夕乃、ミライを穿つ。
夕乃は何とか氷の衝撃に耐えながら極光の癒しを皆に施していった。
「この街を守る為にも私達がここで止めなくちゃ」
背後にはたくさんの人々が暮らす街がある。夕乃の呟きを聞いたアリエットは頷き、光の剣で敵を斬り裂いていった。
イリスも翼を使って軽く飛び上がり、空中から一気に敵を蹴りあげる。
「どんなことがあっても、此処から先へは行かせませんよッ!」
炎が迸り、イリスは次の攻撃に備えた。仲間に機を合わせたさとりはキルシュに癒しを任せ、月光の斬撃を敵にくらわせる。
だが、既にさとり自身も回復できぬ痛みが蓄積していた。ギギルもそれに気付いているらしく、彼女に攻撃が浴びせかけられていた。ミライは敵の気を引く為、深紅の鎧を強く睨み付ける。
「切り札なんて言われてる割には――全然怖くないね!」
「いきがってんじゃねえぞ。貴様等は震えて殺されるのを待ってればいいんだ!」
しかし、ミライの挑発も虚しく、ギギルはさとりに刃を振り下ろした。
「そんな……大変な事に……」
成す術なくさとりは膝をつく。倒れる間際、キルシュに向けられた視線は自分の分まで戦って欲しいという意志が込められていた。
ウィリアムは二人目の仲間が倒れたことに奥歯を噛み締め、首を振る。
「その余裕も大口も実力相応ってか。しかし、こっちだって矜持くらいあるぜ」
地に鎖を展開したウィリアムは仲間の防護を固めた。追い詰められていようともこちらも少しずつ敵の力を削っていることは間違いない。
神夜は流れるような身のこなしで間合いを詰め、敵に斬撃を与えた。
「その程度、痛くも痒くもないぜ?」
「馬鹿にしたいならすればいい。確かに力の差はあるんだろう」
ギギルの軽口を聞き流し、神夜は刃の柄を握り締める。
後衛への攻撃は夕乃達が庇い、あまり通っていない状況だ。しかし、その分だけ守り手の消耗が激しくなっていた。
(「呼吸が乱れて……もう、続かない」)
夕乃は胸を押さえ、疲弊した体を何とか自分で支える。ミライも息を切らしており、随分と消耗しているようだった。ミライは危なくなったら仲間と布陣を替える心算だったが、肝心の入れ替わる人員との連携が取れずにいた。
彼女達の頑張りに報いる為にアリエット達が攻撃に徹し、ウィリアムとキルシュが回復と防護の付与に回り続ける。しかし、戦局は実に非情だった。
「お前等も倒れやがれ。いい加減に飽きて来たんだよッ!!」
氷を纏うオーラが敵から放たれ、夕乃とミライがその衝撃に貫かれた。
声すらあげられず、二人が膝をつく。もう限界だった。夕乃はそのまま意識を失い、ミライは仲間達を虚ろな瞳に映す。
これで倒れた人数は四人。危険なラインであることは間違いなかった。
「悔しいけど撤退、しなきゃ……みんなが危ない、よ……」
途切れ途切れの言葉を向け、ミライはその場に崩れ落ちる。
残った者達は選択を迫られた。
敵も疲弊しているようだが、決めていた撤退ラインを越えてしまっている。このまま戦ってもいいのだろうか。倒せる見込みはあるかもしれないがそれも未知数だ。
神夜は倒れた仲間を見つめ、悔しさを押し込めた。
そして――四人は決断する。
「……撤退しましょう」
「そうですね。皆で決めた事ですから……」
イリスが苦しげに声を絞り出し、アリエットも同意した。死ぬ気で戦い続ければ勝てただろう。だが、彼女達は全員で決めた撤退条件を守る選択をしたのだ。
アリエットの頭の中では暴走の可能性も浮かんでいたが、撤退を優先すれば逃げられない状況ではない。
「そうと決まりゃとんずらだ」
ウィリアムは気持ちを切り替え、倒れたミライとクインを抱えた。イリスも隙をついてさとりを背負い、アリエットは夕乃を庇うように布陣し直す。
「どうしたんだ? 俺様が怖くなって逃げるのか?」
ニヤニヤと笑みを浮かべるギギルはこちらの様子を面白がっているようだった。だが、誰も取り合う余裕はない。
「ギリギリまで引き付けておくわ。皆は安全と退路の確保を!」
「あいよ、すぐにでも逃げられるぜ」
神夜が呼びかけ、ウィリアム達は後退した。
大丈夫だ。後のことは他の仲間達に任せれば良い。確かな信頼を他班に向け、一同はひといきに駆け出した。
神夜はギギルに一閃を浴びせかけると思いきや、その横を擦り抜ける。
「なっ、フェイントか!?」
「引っ掛かる方が悪いんだ」
驚いたギギルを他所に神夜は踵を返し、イリス達の後を追う。
「あははははは! 息巻いてたケルベロスが尻尾巻いて逃げるとはな。これで俺様の武勲も更に立つってもんだ!」
その後ろ姿を見つめるギギルは立ち止まり、高笑いをあげた。
●雲の行方
敵は追っては来なかった。
響いていた笑い声も次第に遠くなる。アリエットは安全圏に逃げ果せることができたようだと感じ、足を止めた。念の為に隠密気流で気配を消したアリエットは肩を落とす。
「これで良かったのでしょうか……」
撤退、即ち敗北。最後の一人になるまで戦う覚悟があれば、きっと勝てた。
アリエットは自問したが、ウィリアムは首を振って答える。
「まあ、死ぬよりマシでしょ」
何だって命あっての物種だ。神夜も彼に同意し、倒れた仲間達の介抱を始める。気付けばさとりの傍にはキルシュが寄り添っていた。イリスも手当てを手伝い、クイン達の傷を癒していく。ミライと夕乃もしばらくすれば目を覚ますだろう。
「ギギル……、強大な相手でした……」
イリスは呟き、次は負けないと誓いを立てた。
まだ完全に負けたわけではない。この後にガイセリウムへの侵入部隊が神殿に向かい、勝利を得ればケルベロス側の勝ちとなるのだから。
できることは、仲間を信じて待つというただひとつのことだけ。
空に掛かる雲は暗雲と変わるのか、それとも晴れ間と光を見せてくれるのか。今は行く先は分からない。だが、それでも――仲間達は最善の未来を強く願った。
作者:犬塚ひなこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:失敗…
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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