●ガイセリウム、侵攻
閑静な住宅街は行き交う人々の怒号や悲鳴で騒然となった。
人馬宮ガイセリウム――突如、東京焦土地帯に現れたとてつもなく巨大な移動要塞が4本の脚で東京都心部へと動き出したのだ。直径300m、全高30mの巨大なアラビア風の城の周辺には警戒の為か、ヴァルキュリア達が飛び回っていた。
避難を指示された人々が、大慌てでその進路上から逃げ出していく。天地に響くかのような轟音を撒き散らし、人馬宮ガイセリウムがまた一歩、東京都心部へと近づいた。その度に、人々の怒号が、悲鳴が、大きくなる。逃げ惑う人々。避難はまだ完了しない。
●エマージェンシー
「人馬宮ガイセリウムが遂に動き出したようです」
ザイフリードからもたらされた情報にあった移動要塞の出現をセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は緊張した面持ちで集まったケルベロスに伝えた。
「ガイセリウムを動かしたエインへリアル第五王子イグニスの目的は、暗殺に失敗し、ケルベロスに捕縛されたザイフリード王子の殺害、そして、シャイターン襲撃を阻止したケルベロスへの報復。更には、一般人の虐殺によるグラビティ・チェインの奪取と思われます。この暴挙を止めるため、皆さんの力を貸してください」
セリカがぺこり、と頭を下げる。
「人馬宮ガイセリウムは巨大な城に4本の脚がついた移動要塞で、出現した八王子の焦土地帯から東京都心部に向けて進軍を開始しているようです」
スクリーンに映し出された大きなマップに避難状況と予測進路が加わるとケルベロス達からざわめきが漏れた。
「どういうことだ?」
代表して発言したケルベロスにセリカの表情が少し曇る。マップに記されている情報では避難が完了しているのは多摩川まで。進路も都心部の手前で予測不能となっている。
「現在、人馬宮ガイセリウムの進路上の一般人の避難を行っていますが、都心部に近づいた後の進路が不明である為、避難が完了しているのは多摩川までの地域になっています」
「城に強襲をかけることはできないのか?」
挙手して発言するケルベロスにセリカは首を振った。
「できません。ガイセリウムの周囲はヴァルキュリアの軍勢が警戒活動を行っていて不用意に近づけばすぐに発見され、迎撃されてしまいます」
そうしている間にも東京都心部は壊滅してしまうでしょう、と彼女は付け加えた。
「そこで、です」
セリカがスクリーンを人馬宮ガイセリウムへと切り替えた。
「人馬宮ガイセリウムは強大な移動要塞ですが、万全の状態ではない事が予測されています。ガイセリウムを動かす為には多量のグラビティ・チェインが必要ですが、充分な量を確保できていないようなのです」
先のシャイターン襲撃がケルベロスによって阻止された事が原因でしょう、とセリカが言う。とすればイグニスの作戦意図は侵攻途上にある周辺都市を壊滅させ、多くの人間を虐殺し、グラビティ・チェインを補給しながら東京都心部へ向かうものと考えられた。
「これに対してケルベロスは多摩川を背に布陣。まずは人馬宮ガイセリウムへ数百人のケルベロスのグラビティによる一斉砲撃を行います」
どよめくケルベロスが静まるのを待ってから、セリカが続ける。
「この攻撃でガイセリウムにダメージを与えることはできません。しかし、グラビティの中和の為に少なくないグラビティ・チェインが消費される為、残存グラビティの少ないガイセリウムには有効な攻撃になります。そして……」
セリカが一度言葉を切った。強い視線でケルベロスを見る。
「この攻撃を受けたガイセリウムからは、ケルベロスを排除すべく、勇猛なエインへリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してくる事が予想されます」
このアグリム軍団の攻撃により、多摩川の防衛線が突破されれば、ガイセリウムは多摩川を渡河し、避難が完了していない市街地を蹂躙。一般人を虐殺してグラビティ・チェインの奪取を行う。
だが、逆に『アグリム軍団』を撃退することができれば、こちらからガイセリウムに突入する機会を得ることができる。
「『アグリム軍団』は四百年前の戦いでも地球で暴れ周り、その残虐さから同属であるエインへリアルからも嫌悪されているという、エインへリアル・アグリムとその配下の軍団と言われています。軍団長のアグリムの性格により、個人の武を誇り、連携を嫌い、命令を無視するという傍若無人さを持ちますが、その実力は本物です」
おそらくは第五王子イグニスが地球侵攻の為にそろえた切り札の一枚。
「また全員が深紅の甲冑で全身を固めているのが特徴となっています」
おそらく、壮絶な戦いになる。だが、セリカは信頼の眼差しをケルベロスに向けた。
「人馬宮ガイセリウムが多摩川を越えれば多くの一般人が虐殺されてしまいます。それを防げるのはケルベロスだけです。どうか『アグリム軍団』を討ち、人馬宮ガイセリウムの侵攻を阻止して下さい」
お願いします、と彼女は深々と頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
叢雲・蓮(無常迅速・e00144) |
リブレ・フォールディング(月夜に跳ぶ黒兎・e00838) |
神喰・杜々子(どらごにーと・e04490) |
森光・緋織(薄明の星・e05336) |
コルチカム・レイド(突き進む紅犬・e08512) |
ディー・リー(タイラントロフィ・e10584) |
裏戸・総一郎(小心者な日記作家・e12137) |
柊真・ヨリハ(螺旋のトロイメライ・e13699) |
●
とあるビルの屋上。
人馬宮ガイセリウムを前にして、柊真・ヨリハ(螺旋のトロイメライ・e13699)のテンションは作戦開始前からすでに上がっていた。
「さすがの自宅警備員もお家でぬくぬくしている場合ではないですねぃ!」
巨大な移動要塞と聞いて興味を引かれたのか、いてもたってもいられない様子だ。
「さーむーいー」
ヨリハの隣に立つ、同じ自宅警備員である神喰・杜々子(どらごにーと・e04490)が吹き抜ける風に身を縮こまらせる。
「次から次へと色々起こるし、面倒くさいねぃ」
昨年から続くデウスエクスの動きを思い返し、ため息をついた杜々子の息が白く色付く。
「まぁ、しょうがないし、やれるだけの事はやるかー」
こうしている間にもガイセリウムは侵攻し続けている。多摩川を背に散らばったケルベロス達の防衛線を突破されれば、その先に待つのは一方的な虐殺だ。
「自宅警備員の本気を見せてやるぞい!」
ヨリハが人馬宮に視線を向ける。
(うーん)
そんな二人を眺めていた裏戸・総一郎(小心者な日記作家・e12137)は心の中で唸っていた。作戦の第一段階、ガイセリウムに対する一斉攻撃。なんやかんやでグラビティを飛ばせないか試行錯誤していた総一郎だったが、さすがに目標までは遠過ぎた。
「こう、手から放つイメージで出せないですかね? あれだけ大きい的だと実践で使えないレベルでも当てれそうなんですが……」
「さすがにちょっと……」
無理かなぁ、と苦笑するのは森光・緋織(薄明の星・e05336)。その横でコルチカム・レイド(突き進む紅犬・e08512)が胸を張って笑みを浮かべた。
「なんとかしたい、って気持ちだけは受け取っておくわ!」
どこか尊大なのだが憎めない、元気な少女に総一郎の表情も思わず緩んだ。
「そうなのだー。それにこれだけが本番じゃないのだー」
ディー・リー(タイラントロフィ・e10584)がバシッ、と総一郎の背中を叩く。ガイセリウムを止めれば、今度は出撃してくるアグリム軍団を迎え撃たなければならない。
黙していたリブレ・フォールディング(月夜に跳ぶ黒兎・e00838)が静かに呟いた。
「そろそろです」
作戦開始時刻。今一度、巨大な移動要塞を皆で見上げる。
「それじゃあ、蓮さん。たのむぞぃ」
「まかせるのだよ~!!」
ヨリハに頭をポムポムされて叢雲・蓮(無常迅速・e00144)が可愛らしい顔立ちを綻ばせる。ガイセリウムを見やすい位置へ移動すると、動く城が視界に広がって蓮の男心をくすぐった。
蓮は出撃してくるアグリム軍団をいち早く見つける観測者だ。故に一斉攻撃には参加せず、周囲を警戒する。
総一郎も同じような立ち位置だが、こちらは主にガイセリウムの構造に対するヒントを得ようと意識を注いでいた。
「準備はできてるね?」
持ち場についたのを確認し、緋織が周りに声をかける。各々が遠距離グラビティを練り上げ、
『せぇーの!!』
息を合わせて、6名が同時にガイセリウムへ向かってグラビティを撃ち放った。周囲からもグラビティが放たれ、吸い込まれるように次々と着弾する。
「どう……?」
結果を注視していた杜々子の口から呟きが漏れた。視界を遮る爆煙が風に流されると、現れたのは先程と変わらぬ姿のガイセリウムだった。
「むぅ……傷一つないわね」
コルチカムが口を尖らせる。が、傷はなくとも明らかに変化はあった。一定のリズムで侵攻していたガイセリウムの動きが止まる。
「作戦通りじゃのぅ」
満足げに頷くヨリハ。予知通りなら、これでガイセリウムからアグリム軍団――ディアスが出撃してくるはずだ。
「出入り口とか解りませんですかね……」
総一郎が敵の出撃を確認しようとするが、距離もあるため出入り口の位置を掴めなかった。
「防御に穴もなしですね」
リブレが小さくため息をつく。音での警戒も行っていたが、今のところ不意を打たれる様子もない。視線を蓮に向けると彼は変わらず、視覚を総動員して敵影を捕らえようとしていた。
(これ以上、歩く変なお城を前に進めさせないためにも、ここで悪い騎士さんはやっつけてやるのだよ~!!)
動く城に紅い鎧、男の子の浪漫を掻き立てるには十分過ぎるが、それはそれ。待つこと数分、ビルの間を飛び移る影を視界に収めて、蓮が声を上げた。
「見つけたのだよ!」
距離にして百メートル余り。最後のビルを蹴った真紅の鎧が音を立てて地面に着地する。ゆっくりと立ち上がるその姿はただならぬ気配を醸し出していた。
「やってやるのだー」
笑みを浮かべたディー・リーが屋上から飛び降りる。その後に続いて全員が道路の真ん中へ続々と降り立った。
1対8の対峙。お互いの間にはアスファルトの直線のみ。遮るものは、何もない。
「相手が強かろうが弱かろうが、敵は敵……」
リブレが四刻を構える。その横で犬爪と腕に纏う狂犬を備え直し、コルチカムが八重歯を覗かせた。
「わくわくするわね。さあ、殺るわよ!」
敵も味方も、ほぼ同時に地面を蹴って一直線に走り出した。
●
見る間にケルベロスとディアスの距離が詰まる。
「先手必勝! いただきだねぃ!」
ヨリハが先制の制圧射撃で足を止めにかかる。同時に杜々子がドラゴンブレスでディアスを包み込んだ。
「チャンスは逃がさないよ」
相手に遠距離グラビティはない。ならば、と遠間から攻撃の手を加える2人だったが。
「げっ!?」
「いぃ!?」
ディアスは被弾構わず2人の攻撃を突っ切ってきた。
「誰であろうと敵対するのなら……」
正々堂々なんて言葉はない、斬り倒すのみ、とリブレも螺旋氷縛波で先制攻撃を仕掛ける。被弾したディアスは体を凍りつかせながらも勢いを緩めなかった。
「ディー・リーは強敵大歓迎なのだー」
強敵と巡り合えた事に笑みを浮かべたディー・リーがインフェルノファクターで自身を高めていく。その脇を、速度を上げたコルチカムと蓮が駆け上がった。
「相手の勢い、止めるわよ! 蓮!」
「まかせて! コルチカム姉!」
先に飛び込んだコルチカムが力いっぱい縛霊撃を叩き込む。と、続けて蓮が懐に飛び込んだ。
「やあああ!!」
ディアスの脇を擦り抜けるようにして、蓮の斬霊斬が胴を切り裂く。
「っ!」
一瞬、動きを鈍らせるディアス。しかし巨躯は勢いのまま地面を踏み抜いた。身の丈を越す大斧がルーンの力を帯びて光を放つ。狙いはディー・リー。
「下がって!」
割って入った杜々子が防御を固める。ディアスが全力で斧を振り抜き、直撃を食らった杜々子が大きく弾き飛ばされた。
「神喰!」
建物の壁に叩きつけられる杜々子に、緋織が即座にサキュバスミストを放つ。
「冗談でしょ……」
桃色の霧に包まれながら、体に残るダメージを感じて杜々子が毒づいた。防御を固めていた彼女でさえ次の一撃を受ければ戦線離脱が危ぶまれる。
「てっきり、ヴァルキュリアさんがやってくると思ったのですが……?」
踏み込むと同時、内情を探るべく問いかける総一郎が電光石火の蹴りを放つ。急所に放たれたそれをディアスは引き戻した斧の柄で防いだ。
「問答するつもりはない」
斧で振り払いつつ、ディアスが構え直す。
「我が名はディアス! 我が望むは強者と死合う事のみ! 下がらぬならば、我が大斧にてその命、貰い受ける!」
名乗りを上げるディアスに、ケルベロス達が気を引き締めた。
「やれるものなら、やってみるのだー!」
飛び出したディー・リーの拳が炎を纏う。先端に地獄の炎が燃える尻尾をディアスに絡ませ、思い切りディアスの顔面を捉えた。
正面から攻撃を繰り出すディー・リーに対し、死角をついた蓮が雷刃突でディアスを穿つ。
「ここから先は行かせないのだよ!!」
自分達の敗北が虐殺に繋がるのだ。負けるわけにはいかない。なにより、
「上等じゃないのよ!」
ディアスの求める強者とは自分達のことだと言わんばかりに、コルチカムが全力で旋刃脚を叩き込んだ。
「面白い!」
コルチカムの想いを受け取ったディアスが斧を構える。高々と飛び上がり、自重を乗せた一撃をコルチカムに叩きつけた。
「ぐっ!」
ガードしたコルチカムの表情がゆがむ。
「裏戸!」
「任せてくださいです!」
回復が間に合わなくなると判断した緋織が総一郎に声をかけた。意を汲み取った総一郎が自分の血液をグラビティで糸状に変化させる運命を紡ぐ紅い意図でコルチカムの傷を癒す。
「金色のひざし、そよかぜの匂い、それから世界のやさしさ」
歌い上げるような澄んだ声で唱える緋織。金色の光が前衛を包み込んで傷を癒していく。
「……螺旋射ち、持ってきとけばよかったが、しょうがない」
懐に飛び込んだ杜々子が切り替えて竜爪撃をディアスに叩き込んだ。その背後からヨリハが再度制圧射撃を試みる。
「そろそろ足、止まってくれないかなぁ?」
「なんの!」
斧で弾丸を防ぐディアス。広域を制するグラビティの為、どうしても効きが遅れる。それでもぶれる事無く、死角に回り込んだリブレの御霊殲滅砲がディアスを捉えた。
「とっとと達磨にでもなればいいです」
●
ディアスの振るう斧は確実にケルベロス達を追い詰めていく。その猛攻を掻い潜り、杜々子がディアスの懐に飛び込んだ。同時に螺旋を籠めた掌をディアスに叩きつける。
「ぐっ!?」
「当たらなければどうということはない」
手応えを感じた杜々子がどや顔で言い放つ。だが、
「まだまだ!」
巨躯に似合わぬ滑らかな動きでディアスが瞬時に杜々子の死角を取った。
「なっ!?」
「杜々子さん、後ろ、後ろぉ!」
ヨリハの指摘に杜々子が後ろを振り返る。
「遅い!」
強烈な一撃で叩き伏せられた杜々子がそのまま気を失った。
「杜々子姉から離れるのです!」
踏み込んだ蓮の絶空斬が蓄積されたディアスの傷跡を切り開く。無視できない程の傷になっていたのか、ディアスが蓮から距離を取った。蓮が杜々子を背に斬霊刀を構え直す。
その一瞬の膠着をリブレとコルチカムは見逃さなかった。
「そこで磔です!」
「それじゃ、いただくわね!」
同時に地面より放たれた磔刑下月と猛犬の大口がそれぞれ影でできた腕でディアスを絡め取り、猛犬の大きな口で一気に丸呑みにする。
「くっ!」
何とか身を捻って脱出したディアスが地面を転がり、身を起こして大地を蹴った。
「正直驚いたぞ! だが!」
振り被られた斧がルーンの発動で光り輝く。
「死ね!」
技の後の硬直を狙われたリブレが衝撃に備えて歯を食いしばる。が、いつまで経っても攻撃は届かない。顔を上げたリブレは一瞬目を見開いた。
「ぐぎぎぎっ」
間に入ったコルチカムがリブレに迫った一撃を受け止めたのだ。押し切られたコルチカムがそのまま斧に弾き飛ばされる。
「ボサ犬!」
思わずリブレは叫んでいた。だがそれも一瞬のこと。戦場で足を止めることが何を意味するのか知らない彼女ではない。
「コルチカムさん!」
壁に追突しそうになるコルチカムを総一郎が空中でキャッチした。
「ったく……なんて顔してんのよ」
一瞬視界に入ったリブレの表情にコルチカムは思わず苦笑した。それから自分を受け止めた総一郎の袖を掴む。
「あと、任せたわよ……」
それだけ言い残して彼女は気を失った。これで防御を固めた者は総一郎、ただ1人。
総一郎はそっとコルチカムを地面に横たえた。
自分よりずっと年若い少女達が小さな体を張って戦ったのだ。そして後を託された。ビビリだとか、あがり症だとか今は関係ない。言うつもりも、ない。
「……必ず」
立ち上がった総一郎の目に強い意志が灯る。
「勝ってみせます!」
誓いを立てて、総一郎が大地を蹴った。一気に距離を潰し、指天殺でディアスの気脈を絶つ。
「杜々子姉とコルチカム姉の仇なのです!」
宙を舞うような速度で移動し、矢継ぎ早に繰り出される蓮の剣閃にディアスが斧を立てて防戦に回る。雷を帯びた神速の突きがディアスの面を掠めた。
「いい突きではないか!」
攻撃の終わり際、攻勢に出ようとするディアスを今度は真正面から飛び込んだディー・リーが攻め立てる。
「ここで、お主を人馬宮ごと食い止めるのだー!」
流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りをディアスが再度斧で防いだ。
「面白い! やってみせろ!」
蓮とディー・リー、2人を相手取っても下がる気配なく、ディアスが斧を振り被る。その間に割って入った総一郎が強烈な一撃を食い止めた。
「裏戸! すぐに回復するよ」
緋織から投稿された心温まるエピソードで総一郎の傷が回復していく。
「分かっているのか? 貴様が倒れれば我の勝ちは揺ぎ無いものとなるのだ!」
「違います!」
押し込まれる斧を全力で押し返し、総一郎が叫んだ。
「ボクが立っている限り、ボク達の勝利は揺ぎ無いんです!」
「ならば、貴様から潰してくれる!」
再度、総一郎に攻撃を加えようと斧を引くディアス。その周辺に風が渦巻く。それがヨリハの創造したものだと気付くのに、ディアスは少し遅れた。
「はああああ! 受け取るんだぞい!」
「ぐお!?」
強大な竜巻の直撃を喰らって、トラウマを呼び起こされたディアスがよろめく。
「これしきのことで!」
距離を取り、敵を視界に収めようとするディアス。目の前の5人を前に斧を構え直して、
「っ!」
気が付いた。6人いなければおかしい事に。
遥か上空。ヨリハの竜巻に乗って飛び上がったリブレは眼下のディアスに狙いを定めていた。
「こんなこと、本人の前で絶対言わねーですが……」
逆手にした四刻が一瞬差した太陽の光を浴びて煌めく。
「ボサ犬を痛めつけた落とし前はつけてもらいますよ」
垂直に降下したリブレが全速力でディアスに突っ込んだ。急接近に気付いたディアスが斧を掲げるが、遅い。ジグザグに変化した刃が斧を避けてディアスの眉間に突き刺さる。
「貰ったのです!」
間髪入れずに飛び込んだ蓮の斬霊斬がディアスを切り裂いた。思わず膝を突くディアスにディー・リーの尻尾が絡みつく。
「――歯ァ食い縛れ?」
固く握った拳に炎を纏わせ、ディー・リーが力一杯ディアスの顔面を殴りつけると力尽きたディアスは地面へと倒れ込んだ。
●
「なんとかなったかな……」
消滅していくディアスを見届けて、緋織がため息をついた。
「撤収するのだー」
強者との戦いに満足したのか、笑顔をみせるディー・リー。気を失うコルチカムを抱えたリブレも一つ頷いた。同じように傷ついた杜々子を抱えたヨリハにも異存はない。立っている総一郎も決して軽い傷とは言えなかった。勝利の余韻は撤収した後までおあずけだ。
歩き出したケルベロス。殿にいた蓮が後ろを振り返った。異様な佇まいをみせるガイセリウム。そしてディアスが消滅した場所に目を向ける。
「叢雲、行こう」
「はいなのだよ!」
緋織に促されていつも通り元気な笑みを浮かべた蓮が仲間に追いつこうと駆け出した。
作者:綾河司 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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