●
八王子市の上空。
巨大な建造物が中空を進んでいる。
その周囲には、それを守護するように飛びながら巡邏する人影がある。
微細、かつ豪奢な幾何学模様がその壁面に装飾され、屋根は一様に丸い。ドームの屋根を持つ塔を重ねたような形の城。
中空を進んでいる、という表現は、語弊があるのかもしれない。
それは巨大な四足に支えられ、宙に浮いているのだ。
その四足は八王子市の民家をなぎ倒しながら、歩を進めている。逃げ惑う人々などは、全く意に介さず、ただ自らが支える城をどこかへと運ぶために。
人馬宮ガイセリウム。
エインヘリアル第一王子、ザイフリートから得た情報にあった、女神ヴァナディース捕らわれし魔導神殿。
それがついに、地球にその姿を現したのだ。
●
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は緊張を露わに、震える吐息を飲み込んだ。
「出現した人馬宮ガイセリウムは、その進路を東京都心部へと向けています。
人馬宮の周囲は、ヴァルキュリアの軍勢が警戒しており、ヘリオンでの接近は不可能でしょう。
接近が察知されてしまえば『アグリム軍団』により迎撃されます」
『アグリム軍団』。力こそ全てである、という考えを体現したような軍団だ。
将であるアグリムを始め、暴虐的であり、勇猛なエインヘリアルによって編成されたその集団に応じられては、ヘリオンはいとも簡単に撃墜されてしまう。
「東京都心部までの進路。多摩川までの住人の避難は完了しています。
しかし、東京の中心、そこからの人馬宮の進路は予想がつかない為、避難を誘導する事も出来ていない状況です。
このままでは、東京は人馬宮による壊滅を免れません」
セリカは、不安に唇を震わせながらも続ける。
「人馬宮。あれは強大な移動要塞です。
本来であれば、相対する事すらままならないようなものですが、あちら側も計画が狂っている可能性があります」
そう言いセリカは、先日の依頼報告書を数束示す。
「先日のシャイターン襲撃。それの阻止によって、人馬宮を運用するために必要な莫大なグラビティ・チェインが確保できていない状況であると予測されます」
第五王子イグニス。セリカはその名を口にする。
「彼によるこの侵攻の目的は、暗殺に失敗したザイフリート王子の殺害、シャイターン襲撃を阻止したケルベロスへの報復。更には、一般人の虐殺によるグラビティ・チェインの奪取。
これらであると思われます」
燃料を確保しきれていない移動要塞。それに対するケルベロスの方策とは。
「まずは、避難の完了している多摩川をデッドラインとし、河川を背に、人馬宮ガイセリウムに対して数百人のケルベロスのグラビティによる一斉砲撃を行います。
ですが、この攻撃で人馬宮に損害を与える事は出来ないでしょう。狙いはグラビティ中和による燃料の消耗です。
相手側の対応としては、それを妨げる為に要塞内の軍勢、『アグリム軍団』の出撃が予想されます」
彼らは、先述した通り、武力の体現たりえる敵の集団だ。
「多摩川の防衛線が突破されれば、人馬宮は多摩川を渡河して、避難が完了していない市街地を蹂躙、一般人は虐殺されるでしょう。
しかし」
望みをかけたセリカの言葉が響く。
「『アグリム軍団』を撃退する事ができれば、こちらから、人馬宮ガイセリウム内に突入する機会を得ることが出来るはずです。
しかし、彼らは強敵です。
彼ら、『アグリム軍団』は四百年前の第一次侵略時、地球で暴れまわり、同族からすらも嫌悪されるほどの残虐性を持っています。
軍団と名を持ってはいても、その内実は、個の武勲を望み、連携を嫌い、軍としての規律は存在しないと言ってもいいでしょう。
共通してあるのは、全員が強者である事と、真紅の鎧を纏っている事です。恐らくイグニスの切り札の一つなのでしょう」
そして、セリカは言葉をそこで切り、肺に酸素を送り込む。
「私は、皆さんの無事を望んでいます。そして、信じています。
彼らを打ち倒し、勝利を導いてくれることを」
彼女は、重く言葉を紡ぐ。
「皆さんに応戦していただくのは、その軍団を統べる将――」
今回最も危険であると断言できる敵。
暴力の権化。その頂上に君臨する猛将。
「――アグリムです」
参加者 | |
---|---|
レグリス・リュシザード(死の番人・e00250) |
写譜麗春・在宅聖生救世主(何が為に麗春の花は歌を唄う・e00309) |
大弓・言葉(ナチュラル擬態少女・e00431) |
アレン・シャドウドレイク(気紛れな黒龍・e00590) |
塚原・宗近(地獄の重撃・e02426) |
星迎・紗生子(元気一番星・e02833) |
山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592) |
役・雪隆(陰陽修験者・e13996) |
●
河川際から放たれた数百のグラビティが人馬宮へと着弾し、轟音と共に、強烈な光が降り注ぐ。
雲に遮られた空に現れた太陽のような強烈な光が駆ける。
その向こうの人馬宮はやはり、無傷を保っている。だが、その脚は確実に緩慢なものになっていた。
動力であるグラビティ・チェインの消費を強いる事は出来た。
だが、本番はここからである。
人馬宮の脚部、四足の先から、赤が地面に降り立った。
『アグリム軍団』。それぞれに駆けだす赤い鎧の中、青き炎を纏った杖を持つエインヘリアルが一人。
アグリムがその姿を現したのだ。
写譜麗春・在宅聖生救世主(何が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)はその姿を見つめていた。
彼女が継いだ名『アルタクセルクセス』。その初代、二代に仮初の死を与えた仇敵。
「あれか」
役・雪隆(陰陽修験者・e13996)が武装を確認しながら、在宅聖生救世主に声をかけた。
彼女はそれに笑みを浮かべる。
「そうだねー。血にも名前にも縛られるつもりはないけど……。
今この時だけは、私は六代目アルタクセルクセスとして戦うよ」
一族が望んだ邂逅であったが、彼女自身にとってそこまで重要ではない。
そうと考えてはいたが、いざその敵を目の前にすると、その意識が偽りであったと確信させられた。
渦巻きだした思いに、在宅聖生救世主の浮かべた笑みは、どこかぎこちないものだった。
雪隆はそれに、自らの想いを重ね、アグリムへの戦闘に気を更に引き締める。
「今、出来るかぎりの事を!」
星迎・紗生子(元気一番星・e02833)が幼い両手を突きだし、グラビティを凝縮させる。言葉と共に発射された爆ぜる光は、ケルベロスの体に吸い込まれて力に変わる。
それに続いて山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)が、色鮮やかな爆煙を発散させた。心を揺さぶるような光景が死への恐怖を吹き飛ばし、武器を握る力を増幅していく。
それを見ながら在宅聖生救世主は、バトルオーラを立ち上らせ、気弾を放つ。気弾は、かの将、アグリムへと飛翔した。
着弾、そして眩い光が炸裂した。
その不意打ちに、しかし、アグリムは自らの周囲に青白い炎のオーラの残滓を残して、無傷。そして、彼はそれを放った在宅聖生救世主を見ていた。
その脚が、岩すら割らんと力強く踏み込まれる。
赤い巨体が、迫る。
●
動きを見定めんと睨む八人のケルベロスを眼下に据え、立つアグリムは、数秒、その反応を確認する。
「……よもや、この数で、俺の相手を担おうと?」
人の頭蓋を模した杖を手に打ちながら、アグリムは鬱屈としたように言った。それは失望であり、退屈であり、嘲笑でもあった。
「四百年前の事すら記憶できぬ下等生物共め……」
言葉と共に振り上げた杖、その先端に燃える青の気が刃を形成する。波打つように曲線を描いて現れた刃は攻撃の構えを取っていたレグリス・リュシザード(死の番人・e00250)へと振り下ろされた。
耳を劈く破壊の音が響き、火花が散る。
「……っ!」
攻撃を庇った大弓・言葉(ナチュラル擬態少女・e00431)の鉄塊剣とぶつかり、力負けした言葉の鉄塊剣が彼女自身を傷つける。体が吹き飛ぶ圧力に思わず苦笑いを浮かべた言葉は、空中で体勢を整える。
周りの仲間は既にアグリムから間合いを取り、戦闘行動をとっていた。流石の戦闘能力に、冷や汗が首に伝う。
「アグリム様は小娘の壁一人落とせないのねぇ」
それでも気丈に彼女は言い放つ。
彼女自身の血が滲む鉄塊剣を、激しく燃える地獄の腕で振り回すと、その体からは想像も出来ぬほどの膂力を以ってアグリムへと叩き付けた。
その攻撃は、エインヘリアルの巨大さをもつアグリムの体を地面から引き剥がす。
それを追撃するようにボクスドラゴンのぶーちゃんからブレスが放たれた。
「小娘が……っ」
浮いた体を制御して、着地したアグリムに再び鉄塊剣が迫る。塚原・宗近(地獄の重撃・e02426)の握る鉄塊剣が、凄まじい精度と鋭さでアグリムを追うが、アグリムはそれに杖を打ち付け、軌道を逸らし回避。
「……くっ」
「いでよ、黒狼ザクリっ」
攻撃をいなされた事に苦い言葉を吐いた宗近の横から、黒い影とレグリスが跳び込んだ。
雪隆の召喚した黒狼が、アグリムに食らいつく。爪と牙の連撃が言葉の刻んだ傷を抉り、その傷を深めていく。
僅かに意識の逸れた隙に、レグリスが流星の如き速度をそのままに、攻撃を回避したアグリムにその動きを阻む重力の楔を蹴り込む。
「余所見はいかんのう!」
深くなる鎧を裂く傷に、言葉へと視線を向けたアグリムに三度、鉄塊剣が叩き込まれる。
アレン・シャドウドレイク(気紛れな黒龍・e00590)が鋭い重厚な一撃を振るうが、それも青き刃に狙いを逸らされた。
「言葉ちゃんっ」
攻撃を逸らしたアグリムが杖を彼女へと向けるのを見、ほしこが御業を放ち、傷を回復。
直後、アグリムの杖の先から放たれた青白い弾丸が、言葉の脇腹を貫いた。
「……っ、大丈夫!」
零れる血に、それでも彼女は言い、在宅聖生救世主が疾駆する。エアシューズから放たれる火花散る炎撃が振るわれた杖に激突。アグリムの体に炎を植え付ける。
紗生子は、仲間に放ったグラビティを再び放つ。今度は、自らの体へと吸い込まれていく。
「がんがん、いくよ!」
「……そらっ!」
鉄塊剣と杖が拮抗する。強かにぶつかり合った宗近の鉄塊剣は、一瞬の均衡の後、弾き飛ばされた。
体勢が崩れる事に逆らわず、彼はその勢いすら利用して回し蹴りを放つ。エアシューズに纏った炎がアグリムの体を焼くが、彼はそれを気にも留めない。
「ハッ……」
短く漏れ聞こえた息遣いは、笑いのようであった。彼が見ている先には言葉がいた。腹部を貫いた傷を癒そうと体の地獄を活性化させ、彼女は違和に気付く。
「アンチヒール?」
治りが異様に遅い。傷に残った青白いオーラ。それが回復を阻んでいると悟った瞬間に彼女に影が降りた。
アグリムが彼女の眼前に立ち、杖を振り上げていた。青が瞬く。
「まずいっ」
アレンと宗近が、負傷した彼女を庇う為に走り寄り、直後、三人の体は青の嵐に包まれた。
●
視界が青白く明滅する。
彼らはアグリムを中心とした半球状のオーラの攻撃に包みこまれたのだ。
「……っ」
体から力が抜ける。
アレンは、力を抜き取られたような脱力感の中で、言葉が崩れ落ちるのを見た。
レグリスが彼女に駆け寄りかけ、気付いた。
アグリムが、言葉に止めをさそうとはしていないのだ。数歩近づき、オーラの刃を振るえば武勲を立てられるだろうに。
「助けんのか」
思考に挿し込まれたそれはアグリムの嘲笑だった。
「以前は背中を晒してでも助けようとした能無しどもがいたが。とんだ薄情者だな」
明らかな挑発。乗れば反撃を受けるだろう、乗らねば彼女に止めを指すのだろう。
一瞬の逡巡が脳裏に駆け廻る。その躊躇いの間に黒と黄色の体が跳ね、アグリムの体に激突した。
ボクスドラゴンのぶーちゃんが、アグリムへとタックルをしたのだ。煩わしげに振るわれた刃がぶーちゃんを切り裂いて、小さな体は力なく倒れる。だが、その一撃で、ケルベロス達の膠着は溶けていた。
次に跳び出したのは紗生子だった。
「離れてっ!」
宙で体を捻り、蹴撃。紗生子の放った火炎にアグリムは身を躱す。その傾いだ体を激しい電光が打ち付けた。レグリスの放った雷撃がアグリムに直撃し、隙を生む。
在宅聖生救世主は、それを見逃さずすかさず、攻撃を放った。不可視の爆薬を散布し、連続起爆させる。爆炎がアグリムの体を舐め、立ち上る煙が視界を遮る。
「……小賢しい」
アグリムは杖の一閃で煙を晴らし、悪態をついた。既に言葉の体は、アグリムの間合いから逃されていたのだ。川近くでの戦闘が幸いした。撤退線である川の近くへと負傷者を一時避難させられる。
だが、当初の予定通りにはいかない。アグリムの猛攻により、戦線が押し込まれ川が近い。近すぎた。
安全を確保できず、負傷者を攻撃から遠ざける事しかできない。
レグリスが言葉を退避させたのを確認した後、在宅聖生救世主はアグリムを睨んだ。
嬲るような戦い。その遊びに一族が悲嘆にくれる事を強いられている。苦い思いが湧く。
「残虐非道、なるほど」
「うん、でも……」
言葉を抱え嫌悪を露わに吐き捨てるレグリスの言葉に、宗近が一つ頷くと、アグリムへと疾走する。
冷静に、それでいて果敢に宗近の鉄塊剣は、アグリムの胴に強烈な一撃を加え、敵愾心を煽る。
「個の力に頼るだけ、底が知れているよ」
「ハッ、群れるしか出来ぬ畜生風情が……っ」
杖が淡く、光る。
放たれた弾丸を宗近は鉄塊剣を盾に躱し、追撃を警戒して間合いを取る。殺し切れなかった衝撃に顔を顰めた宗近に雪隆がヒールをかける。
戦闘の均衡が少しずつ傾き始めていた。
●
繰り返される攻防に、消耗が重なっていく。
エアシューズに空の魔力を漲らせ、斬撃を放とうと肉薄した紗生子の足をアグリムは掴み、叩き伏せると強奪の蒼風を巻き起こす。命を吸い尽くすような攻撃に紗生子の意識が刈り取られる。
レグリスは、最大火力である狠覡の晨邏の攻撃後の隙を突かれ、蒼弾に穿たれる。攻撃の代償に、強烈な一撃を受け、風穴が空いた。
アグリムも少なくない攻撃を受けている。身を焦がす炎を纏うアグリムは、確実に消耗しているはずだが、しかし、撃破するには遠い。青白い気を操るアグリムは、激戦の中であっても笑いを漏らしていた。
「そらっ」
肩口を円状に抉られたレグリスを蹴り飛ばしたアグリムは、気を失った彼女に向けて杖を向ける。
放たれるは、命を砕くほどの強烈な弾丸。
だが、それは紗生子を抱えた宗近の背が庇い、ダメージを肩代わりする。
「……っ。頼む……っ」
彼は背に傷を負いながらも、紗生子をほしこに預ける。
レグリスを支えた宗近は急ぎ、退避を開始させる。それをアグリムが易々と許すはずも無く――。
「アグリムっ!」
アグリムが妨害に動く前に叫んだ在宅聖生救世主は、曇天に指を一つ立てた。その指し示す先に、光が集う。
重き力によって収縮する光子は、膨大な熱量と質量を得て、グラビティの塊として現出する。光芒の十字架をアグリムへと叩き付けた。
閃光。
「はよう……っ」
アレンが在宅聖生救世主の攻撃に応え、彼らの退避を助けるためにアグリムへと肉薄していく。
人命を最優先。だがそれは戦線を薄くすると言う事でもあった。相対する人数が減ればそれは相手の有利になる。不利を悟りながらもアレンは駆ける。
アレンは縦横無尽に振るわれる蒼刃に、接近を断念し、アームドフォートを起動、掃射する。グラビティの弾丸が砲音と共に衝撃を与え、アグリムの体を硬直させる。
そこに戻った宗近が、飛び込み、鉄塊剣を振るう。が、アグリムはアレンへと突撃する事でその攻撃を回避、光を灯す杖を近距離でアレンへと向ける。
それが、放たれる直前に、アグリムの首にオーラの弾丸が食らいつく。在宅聖生救世主の気咬弾の直撃を受けても、アグリムの杖はアレンを定めたまま動かない。
弾丸は咄嗟に体を逸らしたアレンの右胸を貫き、竜翼を引き千切った。鮮血をまき散らしながら被弾の勢いをそのままに、アレンの体は宙を舞う。
ほしこと雪隆がブレイブマインによる回復を行うが、戦闘は明らかな劣勢へとなだれ込んでいた。ヒールの手ごたえが薄い。
ほしこが、現状を素早く確認した。負傷者が四。残ったほしこ達も消耗し、防御を固めているのは、宗近一人。退避させた仲間も安全を確保できているわけでは無い。
彼女が雪隆へと目を配ると、彼も同等の結論に至ったのだろう。目を合わせると彼は頷いた。合図も無く、雪隆は吹き飛ばされたアレンへ走り寄ると、その体を抱えた。
「行って!」
ほしこの声が響く。
「おらの方が体力のこってるべさ」
「……、ああ」
雪隆がその言葉に一瞬の迷いの後、走り去る。
「逃げるか」
アグリムがその雪隆の背を狙い定めるが、その弾丸は自己回復を施した宗近によって防がれた。
「宗近くんも、撤退を」
「だが……っ」
今残る中で防御に優れているのは宗近だ。だが、在宅聖生救世主は自らが殿を務めると言う。
「私じゃ三人も抱えて逃げられないから」
運搬能力を考え、最適なのもまた彼であった。それに、と彼女は宗近の傷へと目を向ける。
とてもではないが、戦闘を続行できるものではない。気合いでようやく立っているような状態だ。
「……頼む」
直前の魔弾のダメージによろめきながら彼は苦く言い、言葉とレグリス、紗生子の下へと走った。
●
「それで、どうしようと?」
アグリムが残った二人にゆっくりと歩を進める。全身に炎を植え付けられ、常時焼かれているというのにも関わらず、力強く、一歩を進めている。
「……」
今、暴走しようとも、打ち倒せない。在宅聖生救世主は、無力を奥歯で噛み締める。
だが、撤退は速やかに行えている。死傷者は出ていない。倒す機会はまだある。在宅聖生救世主は心で唱えつつ、自らを冷静に保つ。
見れば、遠くで戦闘していたケルベロス達も撤退を始めているのが分かった。
「すべきことは」
相討ちでは無く、足止め。
在宅聖生救世主は、ほしこと同時に飛び出した。
青い魔弾が飛来する。眼前にそれを捕えたほしこは、焦る事無くそれを回避する。走りながら身を屈め、頭上を魔弾が過ぎるのを待たずに更に踏込み、手の惨殺ナイフを強く握る。
在宅聖生救世主がエアシューズを輝かせ、杖を握るアグリムの腕に飛び蹴りを放つ。そのまま、アグリムの腕を足掛かりに、頭上を跳躍。
軽業めいた挙動にアグリムは誘導される。
「こっちだよ」
意識の逸れたアグリムの胴体へと、ほしこが歪な刃をアグリムへと叩き付ける。刻まれた鎧の傷。その奥へと刃を滑り込ませ、その動きを阻害する。
「……っ」
アグリムは、ほしこの斬撃に杖を振り上げるが、よろめく体に攻撃を放つことは出来なかった。
パラライズ。ケルベロスに刻まれ、深められたその傷がアグリムの行動の一切を縛ったのだ。アグリムが一瞬の硬直を解き、杖を再び握りしめた時には、二人は既に川を渡り撤退を開始していた。
周囲は戦闘が終息し始めており、深追いの意義も薄いと考えたアグリムは逃した獲物を睨みつけると、自らの消耗も鑑み、踵を返す。
ケルベロス達の様子は敗走そのものだ。
アグリムの兵も随分と消耗したが、奴らは川を越え撤退している。ひとまずは勝ち越しを得た。
イグニス達がそう考えてくれることを願いながら、川の途中で合流したケルベロス達は、そびえる人馬宮を仰ぎ見る。
四足から潜入したはずのケルベロス達の無事を祈り、彼らは川を渡り切った。
雲の覆う空がもうじき赤く燃えあがる。
作者:雨屋鳥 |
重傷:レグリス・リュシザード(死の番人・e00250) 大弓・言葉(花冠に棘・e00431) アレン・シャドウドレイク(子連れ黒龍・e00590) 塚原・宗近(地獄の重撃・e02426) 星迎・紗生子(竜破神滅幼女サキチャン・e02833) 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2016年1月22日
難度:難しい
参加:8人
結果:失敗…
|
||
得票:格好よかった 53/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|