多摩川防衛戦~勝利の意味は

作者:陸野蛍

●移動要塞人馬宮ガイセリウム
 その日、東京焦土地帯に直径300m全高30mの巨大な城が現れた。
 アラビア風の優美な外観、そして、移動を可能にする為の四本の足を生やした、エインヘリアルが誇るヴァルハラ12神殿が一つ『人馬宮ガイセリウム』である。
 その移動要塞は、逃げ惑う市民達をせきたてるようにその歩を進める。
 ガイセリウムの周りには武器を手にし、ガラス玉の様な瞳をしたヴァルキュリア達が何者も近づけさせまいと飛び回っている。
 人々の、悲鳴、叫びが響く中、ガイせリウムは、東京都心を目指していた。

●多摩川防衛線
「緊急事態だ! みんな! エインヘリアル第五王子イグニスがついに動き出した!」
 大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)が険しい顔でケルベロス達に語りだす。
「一回しか説明しないから良く聞いてくれな! ザイフリートから得た情報でエインヘリアルの軍勢が魔導神殿群ヴァルハラって言うのを保有していることが分かった訳だけど、第五王子のイグニスがそのうちの一つ『人馬宮ガイセリウム』を使って進軍してきた!」
 人馬宮ガイセリウムは、巨大な城に四本の脚がついた移動要塞で、現在、東京都心部に向かって移動を開始したとのことだ。
「ガイセリウムの周囲には『ニーベルングの指環』の支配下にある、ヴァルキュリア達が護衛として警戒をしていて、不用意に近づけば、すぐに見つかって、ガイせリウムから勇猛なエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してくることが分かった為、うかつに近づくことも出来ない」
 アグリム軍団。
 四百年前の戦いでも地球で暴れ周り、その残虐さから同属であるエインヘリアルからも嫌悪されているという、エインヘリアル・アグリムと、その配下の軍団。
 ザイフリートの情報とヘリオライダーの予知を統合するなら、アグリム軍団は、第五王子イグニスが、地球侵攻の為に揃えた切り札の一枚なのだろう。
「現在、ガイセリウムの進路上の一般人の避難を行っているけど、都心部に近づいた後の進路が不明な為、避難が完了しているのは、多摩川までの地域になっている。このままだと、東京都心部は『人馬宮ガイセリウム』によって壊滅してしまう」
 雄大は言って、ごくりと唾を呑む。
「ガイセリウムを動かした、イグニスの目的は、暗殺に失敗して俺達の元に居るザイフリートの殺害。そして、シャイターン襲撃を阻止したケルベロスへの報復って所だ。一般人の虐殺によるグラビティ・チェインの搾取も並行して行うつもりだろう……。今回のイグニスの作戦。絶対に止めなくちゃいけないんだ! だから! 皆の力を貸してほしい!」
 力強く言って雄大は頭を下げる。
 雄大は頭を上げると、真剣な目で今回の作戦の概要の説明を始める。
「ガイセリウムは強大な移動要塞だけど、万全の状態ではない事が予測されているんだ。人馬宮ガイセリウムを動かす為には、多量のグラビティ・チェインが必要なんだけど、今のガイセリウムは、充分なグラビティ・チェインを確保できていないみたいなんだ」
 その要因の一つが、先のシャイターン襲撃をケルベロスによって阻止されてしまい、充分なグラビティ・チェインを確保できなかったことにあるらしい。
「イグニスの作戦意図は、侵攻途上にある周辺都市を壊滅させて、多くの人間を虐殺し、グラビティ・チェインを補給しながら東京都心部へと向かうものだと思われる」
 言って雄大は地図を指し示す。
「これに対して俺達、ケルベロス側は、多摩川を背にして布陣。最初に、ガイセリウムに対して数百人のケルベロスのグラビティによる一斉砲撃を行う。この攻撃で、ガイセリウムにダメージを与えることは出来ないだろうけど、グラビティ攻撃の中和の為に少なくないグラビティ・チェインが消費されることが予測される為、既存グラビティ・チェインが少ないガイセリウムには、有効な攻撃となると思われる」
『ただしだ!』と、雄大が人差し指を立てる。
「この攻撃を受けたガイセリウムからは、ケルベロスを排除すべく、さっき名前を出した、勇猛なエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してくるはずだ」
 エインヘリアルからも嫌悪される軍団。
 一筋縄ではいかないだろう。
「アグリム軍団の攻撃により、多摩川の防衛戦が突破されれば、ガイセリウムは多摩川を渡河して、避難が完了していない市街地を蹂躙……一般人を虐殺して、グラビティ・チェインの搾取を行うだろう」
 そうなれば、被害は最悪規模になるだろう。
「逆に『アグリム軍団』を撃退する事ができれば、こっちから、ガイセリウムに突入することも出来ると思う」
 アグリム軍団の撃破が以降の行方を左右すると言っても過言ではないと言うことだ。
「皆に任せたい、アグリム軍団のエインヘリアルは、一体だけど、どうか油断しないでほしい。ザイフリート曰く、アグリム軍団は、軍団長であるアグリムの性格により、個人の武を誇り、連携を嫌い、命令を無視するという傍若無人さを持っているけど、その戦闘力は恐ろしいものがあるらしいから」
 全員が深紅の星霊甲冑で全身を固めているのも特徴らしい。
「俺から頼みたいのは、半身が暗く、そしてもう半身が明るく輝く深紅の星霊甲冑を纏ったアグリム兵だ。正確は極めて残忍。勝利こそが全てと考えていて、勝つ為には手段を選ばない、最低な奴みたいだ」
 資料を確認するだけでも、雄大は不快なのだろう。
 表情が厳しい。
「武器はルーンアックスでパワー型。ただし、こいつの特性として、炎を斧に纏わせての攻撃と炎の弾を飛ばすことも可能らしい」
 アグリム軍団は普通のエインヘリアル兵より一癖あるらしい。
「こいつの何よりも恐ろしい所は、一発一発が強力と言う所だ。一撃くらうだけでもかなり厳しいみたいだから、皆のチームワークで撃破してほしい」
 そう言って、雄大は資料を閉じるとケルベロス達を見つめる。
「人馬宮ガイセリウム、第五王子イグニス、アグリム軍団……不安要素しかない現状だよな。だけど、俺は信じてる! ケルベロスなら! 皆なら! このピンチも乗り越えられるって! だから、皆……頼むな!」
 雄大は精一杯の笑顔を見せると、ヘリオン操縦室へと駆けて行った。


参加者
レイ・フロム(白の魔法使い・e00680)
星野・優輝(それは違うよ・e02256)
舞原・沙葉(生きることは戦うこと・e04841)
ククロイ・ファー(鋼鉄の襲撃者・e06955)
簒奪・蒐集(現住所はダンジョン・e14165)
雪村・達也(漆黒に秘めし緋色の炎剣・e15316)
エルネスト・サニエ(山彦のメモリーズの紫の方・e18224)
ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)

■リプレイ

●開戦の狼煙
 暗雲たちこめる、ここ多摩川に、500を超えるケルベロス達が集結していた。
 目的は、進軍を続ける『人馬宮ガイセリウム』の歩みを止めること。
 そして、ガイセリウムに突入する部隊の足掛かりとして、イグニス配下のアグリム軍団を撃破することである。
「見えてきたね。あれが、ガイセリウムか……」
 エルネスト・サニエ(山彦のメモリーズの紫の方・e18224)が金の瞳を細め呟くと、仲間達もその圧倒的な大きさに息を飲む。
「流石にデカイな、だがあれなら外しようがねえ。一斉放射のいい的だな」
 ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)が不敵な笑みを浮かべながら言う。
「四足の移動宮殿、想像以上に大きいな……」
 雪村・達也(漆黒に秘めし緋色の炎剣・e15316)が右腕を補っている地獄にグラビティを集中させながら言うと、最前列の部隊のグラビティ放射が始まった。
「開戦の狼煙代わりだ!」
 叫び、達也も一斉放射に加わる。
 それと同時に仲間達も各々グラビティをガイセリウムに撃ち込む。
「ここが蹂躙と防衛の分水嶺、負ける訳にはいきません」
 此処、東京の未来が決まる分かれ目を自分達の手で切り開いて見せると決意した、簒奪・蒐集(現住所はダンジョン・e14165)は、眼鏡を外しポケットにしまうと、グラビティの砲撃を行いながら叫ぶ。
「蹂躙する側を蹂躙してこそ皮肉が効いてるってもんだ! だから腸ぶちまけて屍をさらせ!」
 蒐集は自らを狂気の学者に変えていた。
「なるべく多くのグラビティを削りたいな……。煉獄と魔弾の不死鳥!」
 右手に氷、左手に炎の魔力を凝縮させ、そのグラビティを合わせることによって無の力を生成した、星野・優輝(それは違うよ・e02256)は、その力を光の矢に変えてガイセリウムを射抜くつもりで放つ。
 その矢は、炎を纏った鳥に姿を変えガイセリウムを襲う。
(「みんなが笑顔になれる世界の為に……私に出来ることを!」)
 爆風で揺れる緑の黒髪をたなびかせながら、舞原・沙葉(生きることは戦うこと・e04841)も、サイコフォースを撃ち続ける。
 だが、その鋭い瞳はいつ敵が現れても対応できるように、真っ直ぐ前を見つめている。
「虐殺なんぞ、医者である俺が許すわきゃねーだろうがッ!」
 ククロイ・ファー(鋼鉄の襲撃者・e06955)も叫びながら、得物である鎌をグラビティと共に投げつける。
 十分な攻撃を繰り返した後、ケルベロス達は、グラビティの攻撃から解放され再び姿を現した、ガイセリウムを注視する。
「やはり……傷一つ無しか。だが、歩みは止まった」
 バスターライフルの砲身を一旦下げ、レイ・フロム(白の魔法使い・e00680)が呟く。
「ここからが本番だ」
 レイの瞳の先……ガイセリウムの城門が開き、深紅の星霊甲冑を纏った『アグリム軍団』が出撃を始めた。

●明暗深紅のアグリム兵
「俺達のターゲットは、あいつだな」
 達也が黒鎖で魔法陣を描きながら、ゆっくりと近づいてくる、半身が明るく、半身が鈍く光る深紅の星霊甲冑を纏った、アグリム兵を睨みつける。
「一歩近づくごとに、強さが伝わってくるようだな」
 沙葉も、星の力を仲間に与えながら言うが、アグリム兵が一歩近づく毎に、敵の持つグラビティが肌に刺さるようだ。
 その時、何の前触れもなく、巨大な炎がケルベロス達を襲った。
「接敵してからが、戦闘って訳じゃなさそうだな。なら、俺達も行こう! ミッション・スタート!」
 優輝は、一気に駆けるとアグリム兵へ、流星の軌跡を描く蹴りを放つ。
 しかし、アグリム兵はそれを軽くかわすと、握りしめた巨斧を横に薙ぐと、優輝を吹き飛ばした。
 その間も、蒐集とジョーは攻撃を続けるが、深紅の星霊甲冑に殆どダメージは無い様だ。
「てめえらが俺の相手か? カス共」
 アグリム兵は、ぎらついた目だけを覗かせ、ケルベロス達に問う。
「俺の進む道にお前は必要ない! 邪魔するなら蹴り飛ばす!」
 ジョーが黒鎖をアグリム兵に絡みつけながらはっきりと言う。
「言ってくれるねえ」
 アグリム兵がおかしそうに言う。
「マリア!」
 ジョーがビハインドのマリアに声をかければマリアも、アグリム兵に束縛の力を加える。
「あっはっはー! 気が合うねえ。俺も同じ考えだよ。俺の道にお前等は、必要ねえ!」
 叫ぶとアグリム兵は、黒鎖を引き千切り、ジョーに一気に駆けよると、炎を纏わせた斧をジョーの腹部に叩き込む。
「ぐはっ!」
 炎に包まれ崩れ落ちるジョー。
「おいたはそこまでだよ!」
 エルネストのバスターライフルが冷気のエネルギーを放つ。
「陣形維持を優先して、タイミングを合わせて」
 レイがジョーとアグリム兵の間に入るように位置取り蹴りを放つ。
「スナイパーは距離を取ってくれ! 攻撃は俺達が引き受ける!」
 達也がフォースの一撃を飛ばしながら叫ぶ。
「ククロイ! ジョーの回復を!」
 沙葉もアグリム兵の注意を引くように、氷の力を宿した一撃を叩き込む。
「はいよ! 任せなァ! 荒療治だが気にしなさんな!」
 ククロイがジョーに魔術切開を行うと、ジョーのグラビティが急速に回復していく。
「あいつが回復役か……なら」
「そうは、いくか!」
 アグリム兵が炎の力を右手に集約し始めるが、そこに優輝の拳が割り込んでくる。
「ほう、復活したか。すぐにもう一回落としてやるよ!」
「潰れろ……」
「んだあ!?」
 レイの言葉と共に不可視の蝶重力がアグリム兵を襲う。
 アグリム兵の周囲が重力の力でみしみしと音をたてる。
 ……しかし。
「うぉらあ! あめえよ」
 アグリム兵は叫びと共に重力を押し返す。
「銀髪の兄ちゃんそれが全力か?」
 アグリム兵の問いに、レイは表情を崩さず、冷静に心の中で次の手を考えていた。
(「冷静さを失えば、勝機も失う。されど殺意は隠して、心で刃を研ぎ澄ます。振るう時は躊躇なく」)
「シカトかよ。つれねえなあ」
「嵐の如く舞い散り! 刃の如く切り刻み! 呪の如く侵し浸れ!」「お、今度はそっちの兄ちゃんか」
 蒐集の真言が響くと、面白そうにアグリム兵がそちらを向く。
「封印されし禁忌を記す煉獄の七書が欠片よ!」
 蒐集の真言が終わると魔導書の封印が解け、紙片が呪いの刃となって、アグリム兵に襲いかかる。
「今だ! グラビティを集中させるんだ!」
 優輝が、煉獄と魔弾の不死鳥を飛ばしながら叫ぶと、ケルベロス達は一気に攻撃を集中させた。
 エルネストとレイのバスターライフルがレーザーを放ち、ジョーと達也の黒鎖がアグリム兵を絡め取り、沙葉のフォースがアグリム兵に直撃する。
 あまりの苛烈な攻撃に、アグリム兵の姿が煙で霞む。
「怒涛の攻撃だねぇ。これなら、アグリム兵にだって効いただろ?」
 ククロイが警戒しながらも、軽口をたたく。
 その時、熱を持った炎の塊が煙の中から現れ、ジョーを襲った。
 煙の中の人影が、揺れるのがレイの目に映った。
「達也、ジョーに追撃が来る。カバーに」
「任せろ!」
 達也がすぐにジョーの護衛に走る。
 だが、次の瞬間、膝を折ったのは、レイだった。
 膝を折ったレイの後ろに立ったアグリム兵は、からかうような声で言った。
「お前等の攻撃軽いんだよ。攻撃ってのは一発で心を折ってこそだろう?」
 アグリム兵が持った斧は光を帯びており、ルーンが発動したことを物語っていた。

●アグリム兵グラムリュート
「レイ! 今、回復を!」
「そうは行くかよ!」
 叫ぶククロイに一気に駆けより斧を振り被る、アグリム兵。
『ガギィン』
 しかしその斧は、沙葉の剣で受け止められる。
「やっぱ、俺を狙うと思ったぜ。俺は、囮」
「ほう、良い勘してるじゃねえか」
 見ると、エルネストと達也がレイの回復を行っている。
「なかなかいいチームワークだ」
「お前に褒められても嬉しくない」
 アグリム兵の言葉に沙葉が冷たく返して、斧を弾き飛ばす。
「お前等、カスの頑張りを評して俺の本気見せてやるよ。嬉しいだろう? この俺、グラムリュート様の本気が見れるんだからよ!」
 そう言うとアグリム兵、いや、グラムリュートは跳躍すると、またもやレイを斧で襲う。
「狙いが執拗だな」
「僕達がカバーに入るって分かってる?」
 達也とエルネストがレイとグラムリュートの間に立ちはだかる。
「戦闘ではクールな奴、あとは……指揮系統から潰すのが定石だろうよ? なあ、そこの軍服!」
「な!?」
 グラムリュートは空中で腕を伸ばすと、優輝に向かって炎の一撃を浴びせる。
 なす術無く炎に包まれる、優輝。
「俺が回復する! そいつを撃ち落とせ皆!」
 ククロイが叫ぶと、蒐集がドラゴンのオーラを形成してグラムリュートに放つ。
 その一撃は確かにグラムリュートを捉えた、だがグラムリュートはそれに構うこと無く、達也とエルネストの横に着地すると、レイを掴み上げ炎の一撃を直に喰らわせる。
「んくっ!」
 半ば意識の無いレイが、苦悶の声を上げる。
「やめろ!!」
 達也が黒鎖をグラムリュートの腕に巻きつける。
「攻撃が軽いんだよ!」
 グラムリュートは叫ぶと鎖ごと達也を振り払い、地面に叩きつける。
「ほら、仲間も返してやるよ!」
 グラムリュートが達也の身体に叩きつけるようにレイを投げつける。
「それなら、ボクが!」
 エルネストが紅蓮花を捕食形態の派生形に変化させ、グラムリュートに狙いを定める。
「威力は高そうだけどよ、当たんなきゃ意味ねえよな? カスが!」
 エルネストの攻撃を軽々と避けると、グラムリュートは斧を振り被る。
「させるか!」
 ジョーが爆破スイッチのボタンを押すと、グラムリュートの頭が爆発するが、斧は勢いを失うことなく、エルネストの肩をざっくりと切り裂く。
 声も無く倒れる、エルネスト。
「攻撃に移るんだ! このままだとジリ貧だ!」
 ククロイのヒールを受けていた優輝が声を上げる。
「決して負けるわけにはいかない!」
 沙葉が達人の如き一撃をグラムリュートに喰らわせば、蒐集が石化の魔力を開放する。
 少しずつだがグラムリュートの動きが鈍くなっていく。
「俺のグラビティ、全部くれてやる!」
 達也がグラビティを振り絞りフォースの一撃を放つ。
 その一撃はグラムリュートの深紅の鎧に確かにヒットした。
 しかし。
「無駄なんだよ!」
 グラムリュートは叫ぶと、巨大な炎で達也を包む。
「くっそぉ! コード『オラトリオ』ォッ!!」
 ククロイが叫ぶと、オーロラの光を放ち回復の力を持つドローンが現れる。
「諦めがわりぃな、回復役のカスが」
「これが俺の戦いだァ!」
 グラムリュートの挑発にククロイが鋭い目つきで抵抗する。
「お前を潰さねえと終わらねえのか、仕方ねえ」
 グラムリュートがククロイに向かって駆けよると炎を纏った斧を振りかざす。
「まだ私が居る!」
 そこへ、すかさず沙葉がカバーに入る。
「だからどうしたってんだよ!」
 斧を受け止めようとした、沙葉の剣は弾き飛ばされ、斧が沙葉に致命的なダメージを与える。
 それと同時に炎が、沙葉のグラビティをグラムリュートへと移してしまう。
「全員、死なねえと、終われねえのかよ?」
(「今、一番動けるのは、俺様か……。どうする?」)
 蒐集が、周りの仲間達を見ながら、撤退を考えるべきかと迷う。
「戦場で迷いを見せたら負けって知ってるか?」
 グラムリュートが蒐集の迷いを見透かすかのように、炎を放つ。
(「しまった!避けられ……!」)
 その時、蒐集の前にミミックが割って入り炎を受ける。
 ゆっくりと、消えて行くミミック。
 サーヴァントとしてのグラビティが保てなくなったのだ。
「しょうがねえ、お前等全員死ね」
 グラムリュートが空高く跳躍する。
『ボンッ!』
 グラムリュートの背中に衝撃が走る。
「皆、撤退しろ……」
 半死半生のレイがファミリアシュートを放ったのだ。
「まだ動けたか? お前」
「……ここで、死んでも意味が無い。……アグリムが倒されれば、こいつらは烏合の衆……ウグッ!」
「アグリムの旦那が倒される? 馬鹿言うんじゃねえよカスが」
 グラムリュートがレイをその重厚な足で踏みつける。
「グァ!」
 レイの口から声が漏れる。
「やめやがれ!」
 ジョーが力を振り絞り、黒鎖をグラムリュートに放つ。
「なら、教えてやるよ。なんで、俺がアグリムの旦那の下についてるかをよ。俺よりつええからだよ。俺にも勝てねえようなカス共が、旦那に勝てる訳ねえだろうが!」
 言って、グラムリュートはレイを踏む力を強める。
 レイの身体が『メリメリ』と悲鳴をあげるが、レイ自身は殆ど意識が無い。
「やっぱりよお、戦いって言うのは勝たなきゃ意味ねえよなあ」
「……グラインド……ファイヤ!」
 突如放たれた炎の一撃で、グラムリュートの身体が一瞬揺らぐ。
「レイを助けろ!」
 最後の力を振り絞りグラビティを放った、優輝が叫ぶ。
 その言葉で、蒐集がレイに走り寄り抱え上げる。
「ククロイ! 蒐集! 撤退だ!」
 ジョーが叫ぶ。
「逃がすと思ってんのか?」
「俺達はケルベロスだからな。死ぬ訳にはいかねえんだよ、地獄の番犬としてな!」
 ジョーが爆破スイッチを押すと、グラムリュートの足元が爆発して、煙が上がる。
「逃げを取るか、カス野郎共!」
 グラムリュートが煙の中で叫ぶ。
「今回は俺達の負けだ。だがな、グラムリュート。俺達は必ずお前を倒す。アグリムもイグニスも纏めて蹴り飛ばす!」
 ジョーのハッキリとした声が響く。
「全員、生きてる! 急げっ!」
 煙の中、ククロイの焦りの声が聞こえる。
「死ぬ覚悟が出来たら俺の前にまた来るんだな! アグリムの旦那と待っててやるからよー!」
 いくつもの戦場での爆音が止まない多摩川にグラムリュートの声が響いた。
 その声はケルベロス達の耳に嫌でも残る醜悪なものだった。

●次の勝利の為に……
 目を開けると、自分を見つめる仲間達が居た。
「あれ……? ……ボクは?」
 エルネストは、身体を起こすと、周りを見た。
 すぐに目に入ってくるのは、多摩川に残る、ガイセリウム。
 そして、踏み荒らされた街並み。
「あの、アグリム兵は!?」
 エルネストの質問に優輝が首を振る。
「そっか、ボク達負けちゃったんだね……」
 そこで、エルネストの視界に、横たわったレイが入る。
「え!? レイさん!?」
「大丈夫だ、生きてはいる。但し、すぐには回復しないだろう」
 優輝が、苦い顔で言う。
「アグリム軍団のグラムリュート……倒しておきたい敵だったな」
 達也が重い口調で言う。
「私達は、もっと強くならなければ……」
 沙葉も己に誓うように言う。
「今、俺達に出来ることは、潜入部隊の成功を祈ることだけだな……」
 達也の言葉を聞き、ケルベロス達は、ガイセリウムを見つめた。
 信じることが彼らの勝利に繋がればと……。

作者:陸野蛍 重傷:レイ・フロム(白の魔法使い・e00680) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:失敗…
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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