多摩川防衛戦~背水の陣、血染めの紅鎧

作者:屍衰

●移動要塞人馬宮ガイセリウム侵攻
 要塞と呼ぶよりも、それは城であった。アラビア様式の尖塔が立ち、荘厳な雰囲気を醸し出す。直径は三百メートル、全高は三十メートルにも達するだろうか。そんな建築物が巨大な音を立てて進んで来る。
 突如として八王子市に出現した人馬宮ガイセリウムは東京都中心の方向へと侵攻を開始した。
 デウスエクスの侵攻に人々は慌てふためいて逃げ惑う。怒号が飛び交い泣き声と悲鳴が響き渡る。避難を始めたものの、人口の密集した地域であるが故に、悲劇は止められない。
 嘲笑うように建物を崩しながら、ガイセリウムは進んでいく。
 そこはまさに地獄絵図であった。
 
●多摩川防衛戦勃発
 人馬宮ガイセリウム。アラビア風の城に四本の脚を備えた移動要塞が、ガイセリウムの正体である。
 エインヘリアル第一王子ザイフリートからもたらされた情報の一つだったそれが、現実の脅威として襲いかかってきた。
「現在、八王子市に出現した人馬宮ガイセリウムは、東京都心部へ向かって進軍しています」
 集まったケルベロスたちへ、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が現状を説明する。
 避難も行われてはいるが、都心部に近づいた後の進路は不明なため、現在は多摩川までしか避難が完了していない。そのため、この巨大な移動要塞の侵攻を許してしまえば、東京都心部は壊滅し未曾有の大虐殺が起きることは想像に難くない。
 ガイセリウムを起動した者は、エインヘリアルの第五王子イグニスであると推定される。目的としては、ケルベロスに降ったザイフリート王子の殺害、そしてシャイターンの襲撃を阻止したケルベロスへの報復だろう。加えて、一般人虐殺によるグラビティ・チェインの奪取も考えられる。
 色々な思惑が噛み合った結果の行動だろうが、当然、こんな暴挙を座して待つなどできはしない。
「ガイセリウムの周囲はヴァルキュリアの軍勢が警戒活動しており、不用意に近づけば、すぐに発見されてしまいます」
 しかも、発見されればガイセリウムから獰猛なエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してくるため、迂闊に近づけば如何なケルベロスといえ無事には済まないだろう。
 隠れて潜入し内部から崩壊させるという一手は打てそうにない。
 そのため、外部から無理矢理に何とかするしかない。
「幸いと言いますか、現在のガイセリウムは万全と言えないようです」
 一ヶ月前に起きたシャイターン襲撃を阻止できたことが一因に違いない。多量のグラビティ・チェインを要するガイセリウムはエネルギー不足を惜してでも動いている。
 だからこそ、イグニス王子は侵攻途上の周辺都市を壊滅させながら、さらに東京都心部へ向かおうとしているのだろう。可能な限り、多量のグラビティ・チェインを補給するために。
 弱点が分かっているのならば、当然そこを突くべきだ。ケルベロス側は、その残存エネルギーの不足を狙い撃つ。
「皆様は、まず多摩川を背にして布陣した後に、ガイセリウムへ一斉砲撃を行ってください」
 ガイセリウムそのものへダメージを与えるのは不可能だと推測されるが、数百人のケルベロスによる一斉攻撃からガイセリウムを守るために多くのグラビティ・チェインを消費させることができる。
 もちろん、敵もただ見ているわけではない。ケルベロスたちを排除すべく『アグリム軍団』が出撃してくると予測される。これを退けることができれば、こちらから逆にガイセリウムへ突入する機会も得られるだろう。
 だが、ケルベロス側に打てる一手はこれが限界だ。アグリム軍団に多摩川を突破されてしまえば、もはや打つ手はない。まさに、背水の陣である。
「出撃してくるエインヘリアル『アグリム軍団』は極めて強力な敵です」
 四百年ほど前の戦いでも地球で暴れ回ったがあまりの残虐さに同族からも嫌悪されているというエインヘリアル・アグリムを軍団長とする軍隊が、アグリム軍団である。
 軍団長の性格からか、軍団員も連携をせずに命令無視に近いような個人行動を取ってくるのだが、その分だけ戦闘能力は頭抜けている。全員、真紅の甲冑に身を包み全身を固めているのが特徴だ。
 そんな軍としては忌避されるような存在であるにも拘らず侵攻に参加しているのは、イグニスが地球侵攻のために揃えた切り札の一つだと考えられる。集としては脅威でないかもしれないが、個としては強力であるが故に注意して対処しなければならない。
 すべての説明を終えたセリカは、ケルベロスたちへ一礼する。
「何としても、人馬宮ガイセリウムの侵攻を阻止してください」
 背水の陣を越えて、未来を掴むべく。
 大規模な防衛戦が今始まる。


参加者
スウ・ティー(爆弾魔・e01099)
月織・宿利(ツクヨミ・e01366)
カディス・リンドブルム(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e02140)
ジン・シュオ(暗箭小娘・e03287)
陸野・梅太郎(黄金の脳筋犬・e04516)
月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464)
ランジ・シャト(舞い爆ぜる瞬炎・e15793)
ディートリンデ・アーヴェント(凶月のネヴァン・e16595)

■リプレイ

●守るべきモノと想いと
 夕刻と言うには、まだ少し早い時間だがこの季節は陽が落ちるのも早い。近い内に夜の帳が下り始めるだろう。
 迫り来る威容の天辺付近をスウ・ティー(爆弾魔・e01099)は眺める。果たして彼女はどこにいるのだろうか、と。今回の依頼に直接は関係しないだろうが、あの宮殿のどこかにいるのは――。
「師父」
「んー?」
「女神、気になるね?」
 いつも通りの飄々としたスウの顔を見て、しかし、ジン・シュオ(暗箭小娘・e03287)は常とはわずかだけ異なる表情が気になった。帽子の奥で目をほんの少し見開いた後、スウは白く吐息を零す。
「ならないって言ったら、嘘になっちゃうかね、そりゃ」
「そこで眼中にないなんて答えても、アタシは裏があるだけだって思うわよ」
 スウの返答にランジ・シャト(舞い爆ぜる瞬炎・e15793)が呆れたように返す。当たり前と言えば、当たり前だった。
「だよねー」
「分かるに決まってるだろよ? あんだけ一緒に依頼を受けてた訳だしな?」
「うむ」
 当然とばかりに月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464)が告げて、カディス・リンドブルム(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e02140)も口数少なく頷く。多摩市で戦乙女を説得し、こちら側へ引き込んだ依頼は記憶に新しい。互いに見知った顔というのは、それだけで心強い。
「女神も気になるけどよぉ、ここは何としても通す訳にはいかねえよなぁ、鎌夜!」
「まぁな? っつっても、アレを止めるのは、骨が折れそうだが?」
「何とかなるさ! 何とかしなきゃ何ともならねぇし、やるだけやっちまおうぜ!」
 陸野・梅太郎(黄金の脳筋犬・e04516)が屈託なく笑みをこぼして、突き進むガイセリウムを見る。
 女神のことも気に掛かるが、今は何としてもガイセリウムは止めなければならない。それに、ここでガイセリウムを押し留めることができれば、控えている部隊がガイセリウム内部へ侵入を果たすこともできるだろう。城ヶ島に続くこちら側からの攻めの姿勢に、自然とランジの気持ちも高揚する。
 だが、ここが分水嶺であることも確かなのだ。たったの一手ですべてが決まる。ケルベロスが優位に立つか、エインヘリアルが優位に立つか。いや、不利さ加減で言えばケルベロスの方が上だろう。すでに、背水の陣を敷かざるを得ない状況なのだから。それでも、退くという選択肢は月織・宿利(ツクヨミ・e01366)にはなかった。いや、故にこそと言うべきだろうか。仮にこの戦で自身のすべてを失う結果に至ろうとも、この場を守り通すことさえできれば満足できるだろう。そんな覚悟を胸に、迫るガイセリウムを見据える。
「にしても、だっさいよねー、アレ」
 ディートリンデ・アーヴェント(凶月のネヴァン・e16595)が、ガイセリウムの外観を見て感想をこぼす。確かに、荘厳な宮殿が自立歩行している様はシュールだ。ふよふよ飛行しながら移動していた方がよほど見目は良かったと思うが、技術的な問題なり何なりがあったのかもしれない。
 そして、いよいよガイセリウムも間近に迫ってくる。
 河川敷に陣を敷くケルベロスたちの下に、星に満ちる万物を生み出すエネルギーが収束していく。その力は刻一刻と解き放たれる瞬間を待ち侘びている。

●空には光、地より迫る軍勢
 接近したガイセリウムへエネルギーが一斉に解放された。黒、白、赤、青、緑、黄、紫。魔弾、剣閃、爆炎、光矢、銃弾。星の力を秘めた色とりどりの弾丸と閃光がガイセリウムを包み込む。爆炎と衝撃の奔流に曝されて、しかし、ガイセリウムが無傷で姿を現す。ヘリオライダーの予知の通りに、これだけで破壊するということはさすがにできなかった。
 それでも攻撃が終わった瞬間に、その要塞は移動を停止した。おそらくは、グラビティ・チェインを消費しすぎたのだろう。何度も撃たれることを避けるべく、敵は持ち札を切る。
 ガイセリウムが停止してから数分後。
「ようやくお出まし、か。結構、呑気なのかしらね」
 ランジの呟きは、すぐに怒声にかき消された。
 土煙を上げて、接近してくる赤の軍団。血の津波が押し寄せるが如く、番犬たちを飲み込まんとアグリム軍団は多摩川目掛けて突っ走ってきた。
 河川敷一帯に横へ広がるケルベロスたちの陣営へ分かれるようにして団員と思しきエインヘリアルたちが迫り来る。衝突まではすで4に秒読み。
「来たか。ジン、行けるな?」
「無問題ね。師父、背中預かるよ」
 突出するように一人のエインヘリアルが来ている。ナイフを抜いたスウの横にジンが並び、疾駆の体勢に入る。
 当然、無防備なまでにただただ突っ込んでくる敵を見ているわけでもなく、こちらから遠距離攻撃が飛ぶ。向こうも走りざまに迫ってくる矢や魔弾、炎弾を弾き飛ばしながら剣閃を飛ばしてくる。まったくの無傷というほどでもないが痛手には程遠い。ほぼ全ての攻撃を無効化されており、逆に敵から放たれた剣閃は的確にディートリンデを捉えていたが、カディスが盾を以て割り込み抑え込む。
 早く鋭く。誰よりも前にと、ランジ、梅太郎、カディスが疾走する。彼我の距離はすでに詰まっている。
『フゥハハハハ! 雑魚どもがぁ! どけぇえええいっ!!!』
「ハッ! 四百年物の、ビンテージ通り越して腐れ切ったジジイが吠えてんじゃないわよ!」
 ランジが跳躍から蹴撃を放つ。的確に頚椎目掛けて脚をねじ込む。
『ぬるいわぁ!!』
 しかし、それを豪腕一閃。篭手だけで弾き飛ばし、わずかに体勢を崩したランジへと凶刃を叩き込まんとするが素早く身を捻って一撃を避ける。立て続けの剣閃をカディスの盾が止め、竜爪を振るう。鎧の厚手の箇所でそれを阻んだ敵はカディスをそのまま切り伏せようと剣に力を込める。
「ヌゥウウウウ!!」
 押し返そうとカディスも歯を食いしばり力を込めるが、ビクともしないどころかジワリと押され盾に剣が食い込み始める。
『その程度の力では及ばぬと知れ、ケルベロス! ぬっ!?』
「戦争は数だぜ? 単細胞!」
 割り込むようにして鎌夜の蹴撃が突き刺さるが浅い。すぐさま体勢を立て直し、同時に放たれたディートリンデの矢が敵を捉えて食い込むも意にも介さず、こちらへ剣を向ける。
 その僅かな隙に、ランジと梅太郎は後衛へ力を与える。腕の腱を痛めたカディスへ、宿利が気力を込め回復する。ジンとスウもまた己を強化し、敵へと備える。
『数ぅ!? フッハハ、笑わせるわ。群れることしか知らぬ雑魚が……! このラウレンツの前に立ったこと、後悔させてくれる!』
「貴様らの悪行、見逃す訳にはいかぬ! 何より後悔するのは貴様の方だ、ラウレンツ!」
 哄笑するラウレンツへ、カディスが暴挙を止めんと立ち塞がった。

●朱の暴虐
 ラウレンツの剣撃をランジ、梅太郎、カディス、宿利のオルトロス成親が交互に受けて捌く。一撃一撃が重く、しかも技量が高い。梅太郎の剣を絡め取るように巻き取って、体を崩したところへすかさず一撃を叩き込もうとする。それを何とかランジが受け弾かれた剣に流されつつ、できている隙をラウレンツが逃さずに剣撃を叩き込む。甲高い金属音が響き、カディスの盾が割って入るも強引に力で押し込み、切り裂かんとする横合いから梅太郎の矢が届き、成親が口に咥えた剣を振るって応戦する。鎌夜が後背から鉄塊剣を振りかざすが、後ろに目でもあるかのように手に持つ黄道十二宮剣で受ける。受けたところから過たず、鎌夜がエアシューズから爆風を噴出させつつ蹴りを放つが、巨躯のラウレンツもまた同時に後ろ回し蹴りを放って鎌夜を蹴り飛ばす。
「いっけぇー!!」
 その背へディートリンデの漆黒の巨大な矢が迫る。さすがに回避できず鎧に大きな傷を与えた。畳み掛けるように梅太郎のライドキャリバー、ウルフェンがラウレンツの足を轢き潰し、ジンの影が死角を縫って短剣を振るう。鎧の隙間へ通し、刃が肉へと食い込んだ。
「良いタイミングだ」
 いつの間にか近寄ったスウがラウレンツへナイフで接近戦を仕掛ける。敵の技量故に接敵はほんの数秒程度でしかできなかったが、わずかに触れた箇所から爆発が巻き起こる。
 その間に前で攻撃を受けていた三人は自身の傷を癒し、宿利もまた一番傷の深いカディスへと癒しの力を与える。
 仕切り直すように、前衛の四人と一匹はラウレンツへ飛び掛かり、ラウレンツもまたそれに応戦する。鋭い剣閃を放ち受けるケルベロスたちへ牽制しつつ、オーラで薙ぎ払う。身に纏う装甲でランジが何とか受けきり強引に敵の剣を受ける。わずかにできた隙へと、鎌夜、後衛の二人と一体が仕掛けていく。
 ただただ押してくるだけのラウレンツだが、こちらの攻撃を意に介さないほどに強い。的確に一撃の重い鎌夜の攻撃を捌き、散発的に仕掛けるスウをあしらう。ジンとディートリンデの正確無比な一撃は避けることも難しいと悟ると、巨躯に宿る無尽蔵とまで思える程の体力に飽かせて強引に攻めてくる。
 何とか均衡を保てているのは、時折、ラウレンツが体の異常を払うために守護の力を自身へ振るっているからだ。その間に、前衛陣は回復に努め、宿利もまた味方の傷を癒す。ジワリジワリと真綿で首を絞めるように、刻一刻と傷が増えていく仲間へと必死に宿利は力を注ぎ込む。
 だが、その均衡がついに崩れる。
「っつぅっ!?」
 ランジへとラウレンツの二刀が迫り、力任せに叩き潰した。受けた剣を弾き飛ばし、纏うオーラを深々と斬り裂く。夥しい量の血が周囲へ撒き散らされ、ランジの体が崩れ落ちる。わずかにできた隙に芯から一撃を受けてしまった。
 返り血を浴びて禍々しい笑みを浮かべるラウンレンツは、まだ血が足りぬと言わんばかりに周囲へ襲い掛かる。
 飛び掛かった成親をも拳で叩き伏せ、カディスの盾を左手の剣で強引に押し返しながら空いた右手の剣で抉っていく。止めようとする梅太郎へ剣を振るいながら、同時に鎌夜へと剣を叩きつける。弾き飛ばされた三人へ、オーラが再び薙ぎ払った。
『フハハ、所詮はこの程度。ケルベロスなど、他愛ない』
 血溜りに沈んだケルベロスたちを意に介さず、残った者へ目を向ける。

●不退転、その意思
 撤退か。スウはぎりと歯噛みする。惜しいところまでは行っているはずだ。
 ラウレンツも強気に言っているが、こちらの攻撃が効いていない訳ではないのは明らかだ。最初の頃に比べれば今の動きは鈍っているし、返り血と紅の鎧のせいで分かり難いが至るところから血を流してはいる。
 それでも前衛が倒れた以上、趨勢は向こうにある。
「殿、務めようか」
 息を吐きつつスウが安全策を示す。だが、それにジンは首を振る。
「……師父。まだね」
「あぁ。そう、だな。まだ、行けるか」
 覚悟を決めたような宿利の瞳も、殺すまでは退かないとばかりのディートリンデの狂笑も。
 ジンが怜悧に敵を見据え、スウもまた押し通す覚悟を決める。
 何故ならば、ラウレンツのその後ろ。
「っく、まだよ……まだ終わってないわよ……!」
「っはぁ! 効いた効いた! でもよぉ、ここからが正念場だぜぇ!」
「けっ、英雄サマよぉ? 詰めが甘いんじゃないかね?」
「ぬぐ……盾が砕けようとも、この身が砕けぬ限り!」
 一気にとばかりに、四人が立ち上がる。不退転の覚悟を示したその意思は傷つく体を凌駕し命を燃やし尽くすように力を宿す。
『な、に……バカな! まだ立ち上がれると言うのか!』
 溜まらず、ラウレンツが本音をこぼす。
「あっははは! 慌てちゃって! これからが本番! これからがアンタの終わり!」
「個を侮るから、個々に足を掬われるの。残心が甘かったようね」
『グヌヌヌヌ、ならば再び地に沈めるだけよ!』
 笑うディートリンデと、立ち上がった四人へ再び力を注ぐ宿利。当初ほどの余力はない。何もかもすべてを攻撃に加えて、ケルベロスたちは攻め立てる。
 剣撃を受ける三人は、一撃一撃ごとに再び倒れていく。すでに限界を圧してまで力を余さずに振るっていた。再度沈むのは自明の理と言えようが、それでもラウレンツの心に安寧が訪れることはない。
 動きを縛るスウの爆破に身を揉まれ体を崩しきったそこへ宿利の放つ炎が蹴り込まれ、ジンが両手のナイフで切り刻んでいく。足の止まったそこを縫い止めるように、ディートリンデの巨大な漆黒の矢が敵を穿つ。
『グガァアアア、バカなバカなバカなァ、この俺が! 幾度の戦をも乗り越えてきたこの俺がぁ!』
「かっ、こうなったら英雄サマも形無しだな? そろそろ沈めよ、オン・マカキャラヤ・ソワカ――マハーカーラァ!!」
 漆黒の三叉を振りかざし、鎌夜がラウレンツの分厚い胸板を真紅の鎧もろともにぶち抜いた。血反吐をぶちまけながら、ラウレンツの巨躯が地面へと倒れこむ。
『ゴブフゥ……こんな、雑魚どもに……』
「調子に乗るからこうなるんだよ、バーカバーカ!」
 ディートリンデの嘲笑に、カッと目を見開き口元から血を噴き零しながらラウレンツは逆に嘲笑う。
『グブフハハババァ、それ、でも、ギザマらの、負けよぉ、力、を使い、果たした以上は、ガイセリ、ウムを止め、られまい!!』
「そうね、私たちはこれ以上動けないわ。でも、ケルベロスはこれだけじゃない」
 宿利の言葉の真意を悟ったか、ラウレンツが驚愕に顔を染める。
『ま、さか……』
「お喋りは終わりね」
 ヒュウっとジンのナイフがラウレンツの首を断ち切る。最期に残った瞳の色は敗北を喫するのはエインヘリアルかもしれないと、そんな慙愧の色合いだった。
「さて、ここらで終わりかね。退くとしようか」
 スウの言葉に、ケルベロスたちは頷き撤退を始める。
 
 ――聳え立つ威容、ガイセリウムへ近づく三十二の影の成功を祈りつつ。

作者:屍衰 重傷:カディス・リンドブルム(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e02140) 陸野・梅太郎(ゴールデンサン・e04516) ランジ・シャト(舞い爆ぜる瞬炎・e15793) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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