多摩川防衛戦~紅き大斧

作者:天枷由良

●脅威
 小さな子供を抱えた母親が、ひどく青ざめた表情で路地を走っている。
 ちらりと後ろを見やると、遠くに巨大な物体があった。
 四本の脚であらゆるものを破壊しながら迫るそれは、直径300メートル、全高30メートルほど。
 市街地には似合わないアラビアの城のような外観をしており、周囲には、飛び回るヴァルキュリアたちの姿も見えた。
 戦乙女を侍らせて向かう先は、東京都心部。
 脆弱な者たちからグラビティ・チェインを奪うとともに、愚かな第一王子を抹殺し、作戦を妨害したケルベロスたちへ復讐を果たすために。
 東京焦土地帯から現れた移動要塞……『人馬宮ガイセリウム』は進んでいく。

 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の顔には、焦りの色が浮かんでいた。
「人馬宮ガイセリウムの侵攻が、確認されました」
 ザイフリートの情報にあった魔導神殿群ヴァルハラの一つ、人馬宮ガイセリウム。
 それは巨大な城に四本の脚を取り付けた外観の移動要塞で、八王子市に存在する焦土地帯から東京都心部に向かって進んでいる。
「ガイセリウムの周囲ではヴァルキュリアたちが警戒活動を行っているため、迂闊に近づくことも出来ません」
 進路上の人々には避難誘導を行っているが、完了しているのは多摩川の辺りまで。
 このままでは、東京都心部はガイセリウムによって壊滅してしまう。
「敵の暴挙を止めるためには、ケルベロスたちで一丸となって当たらねばなりません。どうか、皆さんの力もお貸しください」
 ガイセリウムは巨大で強大な移動要塞だが、万全の状態ではないらしい。
「恐らく、先のシャイターン襲撃をケルベロスの皆さんが阻止したことで、稼働に必要なグラビティ・チェインが確保できていないのだと思われます」
 その為、侵攻途上にある都市を壊滅させ、多くの人々を虐殺する事でグラビティ・チェインを補給するつもりなのだろう。
「我々ケルベロスは、多摩川を背にして布陣。まずガイセリウムに対して集まったケルベロスたちによる一斉砲撃を行います」
 直接ダメージが与えられる訳ではないが、ガイセリウムはケルベロスたちの攻撃を中和する為に残り少ないグラビティ・チェインを消費する事になるはず。
 動くためのエネルギーが無くなってしまえば、都心部への侵攻は不可能。
 逆に、こちらからガイセリウムに乗り込む機会も得られるかもしれない。
「しかし、ガイセリウムには『アグリム軍団』と呼ばれるエインヘリアルの軍団が待機しているようで、一斉砲撃を行えば彼らが出撃してくるはずです」
 アグリム軍団に多摩川防衛線を突破されてしまえば、ガイセリウムは多摩川を渡河し、都市を蹂躙してグラビティ・チェインを奪いつつ、侵攻を続けるだろう。
「そのアグリム軍団についてですが……彼らは文字通り『アグリム』と呼ばれる個体に率いられたエインヘリアルの軍団です。四百年前の戦いでも地球で暴れ回り、その残虐さ故に同族からも嫌悪されていると言われているようです」
 アグリム以下、全員が深紅の甲冑で全身を固めているのが特徴だ。
 第五王子イグニスが地球侵攻に当たって用意した手札の一枚なのだろう。
「彼らは個人の武を至上のものとする傍若無人極まりない集団ですが、戦闘力について疑いの余地はありません」
 しかしその性質から命令無視上等、軍団員同士で連携を取るなどもってのほかのようだ。
「彼らの性格が幸いして、皆さんが相手取るのは一体で済みそうです。幾ら強大な力を持っていても一人では限界があるのだと、ケルベロスの皆さんのチームワークで思い知らせてあげてください」


参加者
五継・うつぎ(オブサーヴガール・e00485)
狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)
十守・千文(二重人格の機工巫女・e07601)
アッサグリア・ハーゲンダッツ(屋台の姐御・e14469)
九音・マルガ(銀が混じった水時計・e17326)
浅生・七日(カウンターバースト・e17330)
月代・風花(雲心月性の巫・e18527)
九頭龍・夜見(ハラキリハリケーン・e21191)

■リプレイ

●一斉攻撃
 時刻は午後三時頃。
 空は雲に覆われ、川辺は些か薄暗い。
「っても、田舎もんのわたしにゃ眩しすぎるぜ!」
 浅生・七日(カウンターバースト・e17330)が言った。
 それは空のことではなく、向こう岸に見える東京の町並み。
「だからこそ好きなんだ、命張れる程度にはな!」
 振り返り、迫る人馬宮ガイセリウムを見据える。
「全く……でかいもん動かして、やるのが大量殺戮なんてどうかしてるさね!」
 アッサグリア・ハーゲンダッツ(屋台の姐御・e14469)が、巨大な戦斧でガイセリウムを指し示した。
「そんなもんは、ぶッ壊すに限るさね!」
 斧を構え直すアッサグリアを見やりつつ、狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)は、ちらりと多摩川を眺めた。
「ふふん、背水の陣って奴っすね!」
 敗れれば、多くの民草の生命が危機に晒される。
 そんな絶対絶命の状況下であっても、楓は笑顔を絶やさない。
「背水の陣……上等っす」
 呟きを拾い、九音・マルガ(銀が混じった水時計・e17326)も横目で川を見る。
「……絶対に、突破はさせない」
 仲間を見回して、月代・風花(雲心月性の巫・e18527)が改めて決意を言葉にした。
 その意気は良いが、少し固くなっている気がして、七日と楓が声をかける。
「大丈夫だぜ、風花先輩! 他にもたっくさんのケルベロスたちが集まってるんだ!」
「そうっすよ! 絶対、負けたりなんかしないっす!」
「……そうだね」
 二人だけではない、頼もしい仲間たちが居る。
「みんな、頑張ろう!」
 風花の声に頷き、八人は一斉攻撃の用意へと移る。
「出し惜しみは無しで行きましょう」
 五継・うつぎ(オブサーヴガール・e00485)が、アームドフォートを構えた。
「絶対に、ここで止めてみせます! だよ」
 十守・千文(二重人格の機工巫女・e07601)も、髪と同化したアームドフォートを起動。
「――機操、砲」
 砲口へと変形させ、ガイセリウムへ向ける。
「城の壁ぇ抉ってやるっすよ!」
 マルガはライフルにエネルギーを溜め。
「いざ、尋常に……」
 ボクスドラゴンの村雨虎徹獅子王丸を伴って、九頭龍・夜見(ハラキリハリケーン・e21191)は足元に炎を纏う。
 アッサグリアは誓いの心を力へ変え、楓は螺旋の力を高める。
 風花も御業を放つ用意を終えた。
「さぁ、派手にやっちゃおう!」
「おっしゃあ!! 皆、行っくぜぇ!!」
 七日がライフルを構えて叫び、一斉攻撃が開始された。
 八人のみならず、近辺に集ったケルベロスたちのあらゆるグラビティが、ガイセリウムへ炸裂する。
 ……しかし、一通りの攻撃が止んだ後も、ガイセリウムは傷一つない状態であった。
 やはり、ダメージを与えることは出来なかったようだが。
「――止まったでござるな」
 夜見が呟く。
 推測されていた通り、防御のためにグラビティ・チェインを使い、動くことが出来なくなったのだろうか。
 だとすれば、彼らがやってくるはず。

●赤鎧の戦士
 残虐非道のアグリム軍団。
 予知されていた深紅の鎧の一党は、程なくして現れた。
 その中の一人、鎧と同じ色の大斧を担いだ者が、こちらへ向かって駆けてくる。
「来ましたね」
 うつぎがアームドフォートを構えた。
 既に攻撃は届く距離だ。
「あなたが私を壊すのが先か、私達の刃があなたに届くのが先か、試すとしましょう」
 風花の起こした色とりどりの爆風を背に受けながら、うつぎは主砲の斉射を行った。
 だが、敵の振るう深紅の大斧が、それを容易く消し飛ばしてしまう。
 ならばと、千文も砲口を向ける。
「ココは通さない、キミが通る道はあの世への道です、だね」
 言って放つ砲撃、しかしこちらも斧で受け流され、彼方の空へ。
「名無しに負けてなるものか、っすよ!」
 マルガもライフルを向け、引き金を引いた。
 砲撃は銀色の粒子を散らし、ようやく深紅の鎧を捉える。
 その残滓を追うように、楓も氷結の螺旋を迸らせた。
 しかし、斧の紋様を光らせて一喝する敵は、二人の攻撃を全く意に介さない。
 村雨虎徹獅子王丸のブレスも避け、敵は一気に八人との距離を詰めた。
 巨体から放たれる威圧感に、思わず息を呑む……と。
「……ブ、ブワハハハ!!!」
 敵は、斧を地に突き刺して笑い始めた。
「どんな強者かと思えば、なんだこれは! 女しかおらんではないか!」
「っ……なりは小さくとも、某とてケルベロスよ!」
 飛び上がり、繰り出した夜見の蹴りを片手で受け止め、そのまま脚を掴んで投げ返す。
「ケルベロスなぁ、まさか女子供の集まりとは思わなんだ!」
「ずいぶんと失礼な事を言うさね!」
 一同の中で一番小さな、アッサグリアが前に出た。
「あたしの名はアッサグリア・ハーゲンダッツ! あんたの名は、なんていうさね!」
「生憎と、貴様らのような者に名乗る名は持ちあわせておらんのだ」
「この……馬鹿にするのも大概にするさね!」
 アッサグリアが戦斧を交差させるように振るった。
 金属がぶつかり合う音が響き、深紅の鎧、その肩部が僅かに歪むが。
「邪魔だッ! 退けぃ!」
 敵はアッサグリアを斧で軽く打ち払うと、埃でも払うかのように肩をさっと撫でた。
「……きゃんきゃんと吠えおって、気に入らん。気に入らんなぁ」
 まるで独り言のように呟いて、斧を担ぎあげると首を回す。
 ケルベロスたちへ向けられる、獲物を見定めるような視線。
 じりじりとした空気を裂いたのは、覚悟を決めた七日の一撃だった。
「照射用意! 燃え尽きなさいませぃ!!」
 放たれる、数多のバーストビーム。
 黄金に輝くそれは激しい音と光を発し、爆風を伴いながら敵へと殺到した。
 見た目は凄まじいが、その殆どは装飾であって威力を持たない。
 ただひとつ、ど真ん中を突き進んだ極太ビームだけが敵を捉える事の出来る本物だ。
 だが、敵は斧を大きく振り回し、真贋問わず全てのビームを打ち消してしまった。
「ふん、お前のその面も気に食わんが……」
 敵の目は、自信に満ち溢れる七日から笑みを浮かべ続ける楓へと向く。
「この俺を前にして、ヘラヘラと笑っている女は初めてだ。まずは貴様の首を斬り取って、この河原に晒してやろう」
「望むところっすよ、楓さんが相手になるからかかってくるが良いっす!!」
 斧を振り上げる敵と、刃を構える楓。
 一瞬の静寂が通り過ぎ、敵が大きく前へ跳ねた。
 応じて楓も動き出すが、以外にも敵の動きは早い。
 敵の長い手から繰り出される大斧の一撃、それが当たる寸前。
「楓ちゃん!」
 風花の御業が鎧となって、楓を包む。
 それでも横殴りにされた衝撃は凄まじく、楓は弾き飛ばされて転がっていった。
「……まったく、こんなに強いのに虐殺なんかに加担して!」
 起き上がり、寄ってきた村雨虎徹獅子王丸に力を分けて貰いつつ、笑顔のまま言い捨てる。
 たとえ一戦闘員であっても、間違いなく敵は強い。
 純粋に力と力でぶつかり合えたなら、それは気持ちの良い戦いになったかもしれない。
 だが、彼女たちの後ろには守らなければならないものがある。
 戦いの内容よりも、勝利を優先せねばならない。
 楓は地を蹴って敵へ肉薄し、霊力を込めた刃を振るった。
 それを斧で受け止めた敵だったが、油断したのか狙いを定めているうつぎに気づかない。
 放たれたエネルギーの矢が突き刺さり、それに気を取られていると。
「これ以上の横暴は許さぬ!」
 夜見が炎を纏った激しい蹴りを放ち。
「――鬼操、血」
 千文が、札を取り出してナイフへと貼り付け、変形した刃で深紅の鎧を切り裂く。
「ちょろちょろと鬱陶しいッ!」
 斧を振り回す軍団員に、今度はマルガと七日の放つ光弾が炸裂した。
 巻き上がる土埃から抜けだした敵を、アッサグリアが自身を信じる心を乗せた斧で薙ぐ。
 ケルベロスたちの攻撃は次々と命中した。
 だが、敵はそれほど傷を負ったように見えない。
「温い、温すぎるわ!」
 苛立ちが宿ったのか、深紅の大斧が輝きを増す。
「潔く散れぃ!」
 懇親の一撃が、楓に向かった。
「――っ!」
 避けきれない。
 身を固くした楓。
 だが、大斧は届かなかった。
 割って入ったうつぎが、その全身を使って攻撃を受け止めたのだ。
 うつぎは大きな傷を負いながらも、アームドフォートで高速射撃を行い、敵はそれを受けて後退していく。
「うつぎさん!」
「問題ありません。あなたが無事で良かったです」
 敵を十分に引き離し、平然と言ったうつぎ。
 だが攻撃を受けた体には、問題なしとは到底言い難い裂傷が見える。
「五継殿! 今支援致す!」
 夜見が愛刀『腹切一文字』を地表に突き立てると、竜の咆哮のような轟とともに、グラビティ・チェインが勢い良く噴出した。
 夜見の我流剣術『腹斬一文字・烈風龍哭刃』が生み出す奔流が、うつぎだけでなく、前衛に立つ全ての者を包み込む。
 少しずつ傷を癒やすその流れに混じって、村雨虎徹獅子王丸が力を分け与え、風花も御業の力でうつぎを覆う。
 楓は二人と一匹にうつぎの身を任せ、敵の懐目掛けて走った。
 その途中で刃を変形させると、より複雑な傷を与える斬撃を放ってすぐに退く。
 開いた射線に、千文とマルガがアームドフォートの一斉射を行い。
「もう一発喰らわせてやるぜ!」
 七日が初手で外したバーストビームを、再び放った。
 一直線に敵へと向かったそれは、今度はしっかりと敵の体を捉える。
 瞬間、敵から発せられる殺気の量が増大し、一同を悪寒が襲った。
「……ふざけた真似をッ!!」
 アッサグリアが飛び込んで振るった戦斧を体で受け止め、七日へと猛進する敵。
「あの女より先に、貴様から殺してやるッ!!」
 激高し、力任せに斧を振り下ろすが、それは立ち直ったうつぎの放つ矢で弾かれて七日を逸れた。
 舌打ちをして、距離を取ろうとする七日へ再び振るった大斧は、またも空を切る。
 楓の斬撃によって直前で態勢を崩してしまい、力が入りきらなかったのだ。
「えぇい!!」
 三度振るう大斧。
 今度は夜見の飛び蹴りを食らって前のめりになり、斧は七日の遥か手前に跡をつける。
「貴様らぁ……」
「わたしの前には頼もしいお味方が何人もいらっしゃる! 名無しの戦闘員には手出しすら出来ねーぜ!」
 恨みがましくケルベロスたちを見回す敵へ、七日は胸を張って言い放つ。

 派手な砲撃が余程気に食わなかったのか、敵の大斧は七日へと向かう頻度が増えた。
 しかし彼女の宣言通り、その前には仲間たちが幾つもの障害として立ちはだかって、思うような攻撃を繰り出すことが出来ない。
 時たま思い出したように楓へと狙いを戻すも、大斧は避けられるか庇われるか。
 たとえ命中しても、風花や夜見、村雨虎徹獅子王丸がすぐに回復を図るために、致命傷は与えられなかった。
 焦りは更なる苛立ちを呼び、ついに敵は、七日にばかり斧を振るい出す。
 冷静さを欠く敵とは対照的に、ケルベロスたちは落ち着いて攻撃を続けた。
 うつぎが命中精度を考慮して、エネルギーの矢と速射砲撃を繰り返し放てば。
 その間隙を縫って、楓は霊力を込めたものと敵をより深く抉るもの、二種類の斬撃で刃の嵐となる。
 それに呼応した千文も変形させたナイフで斬りかかり、そのまま接近戦を挑むと見せかけるや距離を取って、アームドフォートを斉射。
 遠近自在の攻撃で、敵を翻弄していく。
 アッサグリアは、名乗りもせぬ相手へ戦斧をひたすら振るった。
 力強い攻撃は時に敵の足元を打ち崩し、七日の回避を手助けしている。
 マルガは距離を保ったまま、射線が開いた隙を見てはアームドフォートを斉射。
 更にライフルのビームと光弾を織り交ぜ、激しい弾幕で敵を威圧。敵の動きを阻害する。
 風花は後方から全員の様子を伺いつつ、敵の大斧を食らったものがいれば御業か光の盾で包んで傷を癒やし、その必要さえなければ爆発を起こして、前衛を励まし続けた。
 夜見も回復を第一としていたが、隙があればすぐさま足技で攻撃に加わり、村雨虎徹獅子王丸も主の行動に合わせ懸命に走り回って、八人の戦いを援護している。
 そして七日は、怒る敵から逃れつつ炎弾を放ち、敵が大斧を空振らせれば一気に近づいて、視認することすら許さない斬撃で敵の急所を狙った。
 ケルベロスたちの攻撃は破壊的な威力ではないが、じわじわと積み重なっていき。
 それに比例して、軍団員の攻撃は粗雑さを増していく。
 冷静さを欠いて振るう斧は誰も捉える事が出来ず、ただ土を耕していくだけだ。
 深紅の鎧は傷だらけとなり、軍団員は大斧で体を支え肩で息をする。
 そこでようやく、自身が立っているのもやっとなほど、追い詰められていることに気がついた。
「随分とお疲れみたいっすね」
 敵にライフルを向けたまま、マルガが言った。
「……まだだ!」
 甲斐甲斐しくも大斧を構えるが、その刃先は随分と下に向いている。
「皆、あと一息だよ!」
 これで何度目か、風花の起こす爆発に背を押され、残る七人は力を振り絞った。
「こんなとこで負けちゃァ、笑われちまうんだよォ!」
 闇雲に振るおうとした敵の斧を、夜見が蹴りで受け止める。
「先刻の言葉、お返しする! ――潔く散るでござるよ!」 
 返す刀、ではなく燃え盛る脚で、深紅の鎧の鳩尾を蹴り飛ばす。
「わたしのありったけをお見舞いしてやるぜぇ!!」
 続く七日の炎弾も相まって、鎧を溶かさんとする炎は一段と強くなる。
 それでも抵抗する敵に、アッサグリアの斧が直撃した。
「力なら負けないさね!」
 三倍近い巨体を両断するような一撃で、敵を大きく吹き飛ばす。
「――我命ず、鬼機集いて敵を貫く槍と成せ」
 千文が唱えると、赤い文字の書かれた呪符とドローンが集い、槍を形作った。
 その中に喚んだ鬼が人工知能となり、狙い定めて敵を貫く。
「もう逃げ場もありませんね」
「終わりにするっすよ!」
 無表情のうつぎと、笑顔の楓。
 対象的な二人の砲撃と斬撃が敵を捉え。
「これで、さよならっすね」
 マルガのライフルから放たれたビームが、深紅の鎧を銀色で覆い尽くした。

 戦いを終え、場合によっては冬の川に飛び込んで下ることも考えていた一同は安堵する。
 ふと見渡せば、多摩川を越えて撤退していくケルベロスたちの姿。
 戦闘に集中していたために状況は飲み込めないが、軍団員の撃破と言う主目的は果たしたので、ひとまず流れに従っていく。
 全員無事で戦いを終えられたのは、相対した者が女性ばかりと侮った敵が作戦に掛かってくれたからだ。
 挑発に乗らなければ前衛から押され、隊列を組み替えている間に総崩れとなっていたかもしれないが、ともかく彼女たちは勝った。
 全体の戦況が優位に進んでいるなら、既にガイセリウムへと侵入した部隊もいるはず。
 彼らの成功を祈りつつ、八人は多摩川を――もちろん泳がず、橋の上を――渡り、都心部方面へと退いていった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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