多摩川防衛戦~紅蓮のモノマキア

作者:柚烏

 それはまるで、砂漠の夜の御伽噺に出てくるような、異国の城のようだった。うつくしくも艶やかな装飾に彩られた外観――けれど其処からは四つの脚が生え、怒涛の勢いで進撃を開始していく。
 ――人馬宮ガイセリウム。それは、直径300m全高30mの巨大な移動要塞だった。八王子市に現れた後、ガイセリウムはそのまま、東京都心部を目指して進んでいるようだ。
 都市には怒号と悲鳴が木霊し、人々はなす術もなく逃げ惑う他無い。迫る巨大な要塞――その周辺には、警戒の為なのか、ヴァルキュリア達が光の翼を広げて空を舞っている――。

 エインヘリアルの第一王子から得た情報にあった、人馬宮ガイセリウムが遂に動き出したようだ――事態を告げるエリオット・ワーズワース(オラトリオのヘリオライダー・en0051)の声は、微かに緊張を孕んでいた。けれど正確に状況を伝えるべく彼はゆっくりと深呼吸、普段と変わらぬ佇まいを意識して唇を開く。
「人馬宮ガイセリウムは、巨大な城に四本の脚がついた移動要塞で、出現地点から東京都心部に向けて進軍を開始しているようなんだ」
 その周囲では、ヴァルキュリアの軍勢が警戒活動をしており、不用意に近づけば直ぐに発見されることだろう。そうなると、ガイセリウムから勇猛なエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してくる為、迂闊に近づくことは出来ないのだとエリオットは告げた。
「現在、人馬宮ガイセリウムの進路上の一般人の避難を行っているんだけど……都心部に近づいた後の進路が、不明なのが影響していてね……」
 ――その為、避難が完了しているのは多摩川までの地域となっている。このままでは、東京都心部は人馬宮ガイセリウムによって壊滅してしまうのだと、エリオットは翡翠の瞳を揺らして絞り出すような声音で呟いた。
「……人馬宮ガイセリウムを動かした、エインヘリアルの第五王子イグニスの目的はね。ひとつは暗殺に失敗しケルベロスに捕縛されたザイフリート王子の殺害、そしてシャイターン襲撃を阻止したケルベロスへの報復」
 ――更には、一般人の虐殺によるグラビティ・チェインの奪取なのだろうと彼は俯く。しかし、顔を上げたエリオットは、滅びの未来に立ち向かおうとするように頷き――ケルベロスの皆へ毅然と一礼した。
「だから。どうかこの暴挙を止める為に、皆の力を貸して欲しいんだ」

 続いてエリオットは、今回の作戦の説明へと移っていく。先ず、人馬宮ガイセリウムは強大な移動要塞だが、万全の状態ではない事が予測されているようなのだ。
「人馬宮ガイセリウムを動かす為には、多量のグラビティ・チェインが必要なのだけど、充分なグラビティ・チェインを確保出来ていないみたいだね」
 これは恐らく、先のシャイターン襲撃がケルベロスによって阻止された事で、充分なグラビティ・チェインを確保できなかったのが原因だろう。
「よってイグニス王子の作戦意図は、侵攻途上にある周辺都市を壊滅させて多くの人間を虐殺……グラビティ・チェインを補給しながら、東京都心部へと向かうものと思われるよ」
 これに対してケルベロス側は、多摩川を背にして布陣――先ずは、人馬宮ガイセリウムに対して数百人のケルベロスのグラビティによる一斉砲撃を行う。
 この攻撃で、ガイセリウムにダメージを与える事は出来ないが、グラビティ攻撃の中和の為に少なくないグラビティ・チェインが消費される。その為、残存グラビティ・チェインの少ないガイセリウムには、有効な攻撃となる筈だ。
「そうして、この攻撃を受けたガイセリウムからは、ケルベロスを排除するべく勇猛なエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してくる事が予測されるよ」
 このアグリム軍団の攻撃により多摩川の防衛線が突破されれば、ガイセリウムは多摩川を渡河して避難が完了していない市街地を蹂躙――一般人を虐殺して、グラビティ・チェインの奪取を行うだろう。
 しかし、逆に『アグリム軍団』を撃退する事が出来れば、此方からガイセリウムに突入する機会を得ることが出来る筈だ。
「この『アグリム軍団』についてだけれど……どうやら四百年前の戦いでも地球で暴れ回っていたようだね。その残虐さから、同属からも嫌悪されているというエインヘリアル――アグリムと、その配下の軍団になるよ」
 恐らくアグリム軍団は、第五王子イグニスが地球侵攻の為に揃えた、切り札の一枚なのだろう。彼らは軍団長であるアグリムの性格により、個人の武を誇り、連携を嫌い、命令を無視するという傍若無人さを持つが、その戦闘能力は本物だ。また、全員が深紅の甲冑で全身を固めているのも特徴のひとつのようだ。
「人馬宮ガイセリウムが多摩川を越えれば、多くの一般人が虐殺されてしまう。それを防ぐことが出来るのは、ケルベロスである皆だけだから」
 真っ直ぐな瞳で、エリオットは一同を見つめて――どうか、と自身の願いも一緒に託す。滅びの歴史を二度と繰り返さぬよう、この星を守って欲しいのだと。


参加者
ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)
星詠・唯覇(片翼の導き唄・e00828)
御伽・姫桜(悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600)
白・常葉(一億円札チョコ神・e09563)
アニー・ヘイズフォッグ(動物擬き・e14507)
リミカ・ブラックサムラ(アンブレイカブルハート・e16628)
鳳・都(瑠璃の鳥・e17471)

■リプレイ

●守るべきものを背に
 東京都心部に向けて進軍を続ける、人馬宮ガイセリウム。彼の蹂躙を阻止するべく、ケルベロス達は多摩川を背にして布陣――曇天の下、多摩川防衛戦が決行された。
「やれやれ……正月早々、あんな無粋な物を相手に戦う事になるなんてね」
 彼方からでも、はっきりと存在を捉えることが出来る巨大要塞――その接近を肌で感じながらも、鳳・都(瑠璃の鳥・e17471)は蠱惑的な笑みを絶やさない。乾いた冬の風に踊る彼女の髪は射干玉、一方のロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)もまた、うつくしき夜色の髪を靡かせていたが――その色合いは黒瑪瑙の如き、滑らかな艶を帯びていた。
「……やっぱりこわい、けど……みんな、守るため……だもんね」
 少女の紡ぐ声は、唄声のように甘く密やかに。間もなく戦場と化すこの地を思い、ロナは微かに身を震わせたが、薔薇色の瞳に決意の光を宿し彼方を見据える。
「わたしたちが、がんばらなきゃ……みんなを守るひと、いないもん……」
 その口調は幼く、舌足らずながら必死さが伝わってきて――リティア・エルフィウム(白花・e00971)はそっと、花綻ぶような笑みを見せてロナの手を握りしめた。
「ええ、大虐殺など見過ごせる訳もありません。決してこの防衛線を突破されることのないように……全力を尽くします」
 ああ、リティアの声もまた、妙なる楽の音のように辺りに響き渡って。知らず旋律を脳裏に思い描いていた星詠・唯覇(片翼の導き唄・e00828)は、怜悧な美貌に熱き闘志を滲ませて、言葉少なに己の意志を口にした。
「……気を引き締めて向かおう。……一般人への虐殺など、決して許してはならない!」
 ――きっと、これは厳しい戦いとなる。しかし、絶対に負けないと御伽・姫桜(悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600)は誓う。もう自分のように、大切な人を失う者が出ないように――過去の傷痕は今も彼女を苛むが、生きている限り物語は紡がれ、ひとは遥かな路を歩き続けなければならないのだ。
「大切な方たちを護るために全力で挑みます……全員で帰還するためにも……!」
 緋の髪が鮮やかに波打ち、姫桜もまた凛と決意を言葉に変える。そうしている内に、ケルベロス達の一斉砲撃の時が近づいて来た。
「さあ、みんな行こう!」
 溌剌とした表情――初春の陽射しを思わせる笑顔を浮かべ、アニー・ヘイズフォッグ(動物擬き・e14507)が爆炎の魔力をこめた弾丸を立て続けに放つ。本来ならば炎を纏った蹴りをぶつけたかった所だが、出来ないのであれば仕方がない。
「初戦から負ける訳には行かないロボ、出し惜しみ無しで行くロボよ。後の事は後で考えるロボ!」
 一方、リミカ・ブラックサムラ(アンブレイカブルハート・e16628)は戦を前に昂る心を抑えきれず、次々に人馬宮に向けて放たれるグラビティ群を、拳を握りしめつつ見守っていた。遠距離攻撃が行えない為、一斉砲撃をただ見守るだけなのが歯がゆいが――リティアの時空凍結弾、そして姫桜の黒鎖が真っ直ぐに放たれ、移動要塞の足を止めようとその外壁に炸裂する。
「……貴重な弾だけど、出し惜しみは無しさ」
 都の撃ち出したグレネード弾は空中で炸裂して、劇物の雨を降らし――唯覇の歌声は雷雲を呼んで、稲妻が灰色の空を眩く照らした。数百ものケルベロスが一斉に放った攻撃に真正面からガイセリウムは晒されたが、攻撃が収まった時――それは、傷一つ付いていない状態で姿を見せる。
「なんちゅう怪物やねん……けど、これで流石に動けんやろ!」
 一斉砲撃を見守っていた白・常葉(一億円札チョコ神・e09563)は、くしゃくしゃと胡桃色の髪をかき上げるが、その侵攻が止まったことを確認して、にやりと口角を上げた。
 ――やはり、攻撃を中和する為に大量のグラビティ・チェインを消費したのは痛手だったのだろう。ならば次は、厄介な自分たちを排除する為、アグリム軍団が出撃してくる筈だ。
(「ガイセリウムほどの巨大さはないから、視認は遅れますが……」)
 それでも接触後は直ぐに戦闘態勢を取れるように、リティアはそっと深呼吸をした。彼女の傍らではボクスドラゴンのエルレが、気遣うように己の主を見上げている。そして――戦いのときは訪れた。
「……よぉ。アグリム軍団のひとり、スヴェン様が叩き潰しに来てやったぜ」
 彼らの元へ舞い降りたのは、深紅の甲冑に身を包んだ巨躯の戦士――エインヘリアル。意外なほど整った顔立ちをしたその男は、野獣を思わせる凶暴な笑みを浮かべて戦斧を一閃させた。
「アグリム軍団のスヴェンロボね? ここから先には行かせないロボ!」
 へらりと笑う彼を真っ向から迎え撃つように、リミカがバイザー越しの瞳を細めて、びしっと指を突き付ける。
「……イケメンに限っても、許されへん事があるって教えたるよ」
 ――そして常葉は、ふざけた言動の中にも何処か達観した態度を滲ませて。夕陽に染まる桜色の瞳に一瞬、狡猾ないろを溶かしていた。

●深紅の暴風
 敵が扱うのはルーンアックス――それは力あるルーン文字が刻まれた、アスガルドの偉大なる斧だ。仲間たちの間でも扱う者が居るその武器の特徴を、彼らは確りと把握した上で戦いに臨んでいた。
 その攻撃は破壊力を活かしたもので、近接戦に特化している――その為、前衛は盾として皆を守り、後衛が攻撃の主軸となって狙いすました一撃を放つのだ。これで前衛が落ちない限り後衛に敵の攻撃は届かず、戦いに集中出来る。
「……成程、雑魚なりに少しは考えたと言う訳か。だがな、そのチャチな盾が何時まで持つか見物だなァ!」
 ――先ず動いたのは、エインヘリアルのスヴェン。此方の力がどの程度かと試すように、光輝く呪力を纏った斧刃はアニーに向かって振り下ろされた。
「負けない……っ! 自分も、覚悟を決めてここに立ってる!」
 易々と防御を崩しながら肌を切り裂く刃に、アニーは歯を食いしばって耐えて――その間に後方から都が黒色の魔力弾を放ち、標的に鮮やかな悪夢を見せようと、くすりと微笑む。
「これは美しい男性だ……しかも俺様系なのか、受けがいないのが勿体無いね」
 うん、妄想が捗りそうだと頷く彼女の脳裏では、一体どんな世界が展開されているのだろう。凛々しい風貌に見合わぬ立派な腐女子である彼女は、何だかほっこりとした様子であったが――其処でロナも禍々しい刀身に惨劇の光景を映し出し、それを具現化させて敵を追い詰めていく。
「ひどいこと、しちゃだめ……!」
 恐らく、敵は状態異常を治癒することは出来ない。その為に一行は、積極的に状態異常を蓄積させて力を削いでいく作戦に出た。それと並行して、此方の力を高めようとリティアらが動く。
(「攻撃陣の、火力底上げを……」)
 色とりどりの爆発は味方の士気を高め、一方で姫桜は地面に鎖を這わせて――守護の魔法陣を描き、盾となる者たちの守りを固めていった。
「さぁ、お相手願いましょうか……。悪い人には全力で制裁を……覚悟はよろしいかしら?」
 ――集まれ炎、踊り散れ華。しゃらん、と鎖を鳴らす音が響くと、彼女のボクスドラゴン――シオンも一声鳴き、封印箱に入り一気に体当たりをする。
「私は、ひたすら攻撃あるのみロボ!」
 仲間たちに守りを託し、リミカはスヴェンに飛び掛かり、電光石火の蹴りを叩きこんだ。其処へ唯覇も、自在に操る黒鎖を巻きつかせ、容赦なく締め上げる。
(「走る……誰よりも長く、誰よりも速く」)
 温もりを知って心を得たアニーは、そのきっかけとなった存在――恋焦がれる獣の如く地を蹴って、自在に戦場を駆けまわっていた。一見すると、逃げているようなその動き。けれど不意に敵と交差するや否や、彼女の身体中に隠されていたメスが閃き、一瞬遅れて辺りに鮮血の華を咲かせる。
 ――しかし、やはり敵は悪名高きアグリム軍団のひとり。此方の綿密な作戦ですら、圧倒的な力の前では無力だとでも言うように、スヴェンが振るう刃には微塵の動揺も見られなかった。その強烈な一撃は、守りを固めた前衛の体力を一気に削っていく。
「お兄さんが見とるから、遠慮なく暴れてええでー!」
 しかし常葉は、傷が深い者から最優先に回復を行おうと動き――魔術を伴う緊急手術は、直ぐに仲間の負った傷を強引に塞いでいった。皆の体力維持を心掛けて彼は動くも、リティアと協力しても尚、疲弊した前線を立て直すまでには至らない。
 成程、これは一筋縄ではいかないらしい。回復に奔走しつつも、彼らは敵が予想外の攻撃を仕掛けてこないかと観察を怠っていなかったが、幸い斧を使う以外の攻撃手段は持ち合わせていないようだった。
「相手はパワータイプだろうから、きっと素早さに難があるはずロボ……」
 一方、そう見越したリミカは、何とか敵の行動を妨害できないかと機を窺っていたが――その隙を突けるほど、相手の素早さが劣っている訳でもない。また、敵の行動パターンを把握するにはデータが不足していた。尤も相手は知性あるエインヘリアルなのだから、パターンに当てはめて機械的に対処出来るものでもないだろう。
「……こういった、嫌らしい立ち回りが得意……故に、僕を狙ってきた、か……」
 そして――スヴェンは搦め手でじわじわと攻めてくる、都を先に落とすと決めたらしい。苛烈な斧の一撃は容赦なく彼女を狙い、盾が庇いに入ろうとするも確実に標的にされた都は、瞬く間に追い詰められていく。
(「自身が標的になる……その危険性をもう少し頭に置いた方が良かったのかもしれない、けれど」)
 ぼとぼとと、庇う傷口からはとめどなく血が流れて地面を濡らした。痛々しい都の姿を認めたアニーは、じわりと涙が滲んでくるのに気付いたけれど――咄嗟に行動出来ない自分が歯がゆい。
 ――臨機応変に対応出来れば、とは思っていた。しかし具体的にどう動くかの指針がなければ、それも叶わない。効果的に攻撃と回復を使い分ける、その判断に時間がかかってしまい、その隙を突いて二本の斧が都の身体に十字の傷を刻んだ。
「……残念、だ」
 如何に強力な攻撃を持っていても、動けなければ意味がない。しかし麻痺で絡め取る前に、都は意識を失いゆっくりと崩れ落ちていった。

●孤独の力に打ち勝つもの
 戦いは決して楽なものではないと、分かってはいた。それでも――アニーはポケットのハンカチを握りしめて泣くのを堪え、唯覇は過去の惨劇を繰り返したくないとばかりに、地獄化した片翼を怒りで震わせる。
「自分が、頑張るんだ……」
「大切な者をこれ以上……無くすわけには、いかん……!」
 ――絶対に、皆揃って帰還する。それが叶わぬのならばきっと自分は。悲壮な覚悟は口にしなかったが、けれど唯覇は想いをこめて、怒りの旋律――戦慄の雷鳴を紡ぎ電撃を奔らせた。
「……これ以上、誰一人倒れさせたりしません。回復はお任せください」
 皆の背中を預かる気持ちで、リティアは指輪を翳して光の盾を具現化し、守りを固めていく。しかしそれも、破壊のルーンを刻んだスヴェンの斧によって、易々と打ち砕かれてしまった。その猛攻はまるで、荒れ狂う深紅の暴風だ。
「エルレ……!」
 己のサーヴァントも奮戦むなしく力尽き、リティアは其処に白い花弁が散るまぼろしを見た。軋む心を抑えながら、それでも彼女は光と風を呼んで敵を討つ力を仲間たちにもたらす。
「――どうか彼の人に届けて。大切な人を癒すためのこの唄を」
 血生臭い戦場に高らかに響くのは、姫桜が紡ぐ或る少女の物語。祈りを込めた歌声は、いつか自分の足で下界への一歩を踏み出せるようにと囁き――彼女は花々で彩られた電撃杖を手に、盾となり毅然と敵に立ち向かっていた。
「盛り上がっとるとこ悪いが、邪魔すんで!」
 スヴェンの攻撃に晒される前衛を、何とか守ろうと常葉も支援を行う。薬液の雨が降り注ぎ皆を癒すが、直後に斧の一撃をまともに受けたアニーは、踏み止まることが出来ずにそのまま地面に叩きつけられた。
「もう、少し……粘りたかった……!」
 最後の呟きには、悔しさを滲ませて――彼女は後のことを味方に託し、ゆっくりと意識を失う。やはり前衛の負担は大きく、守りが突破されるのが先か、此方が敵を仕留めるのか先かと言う極限状態での戦いとなっていた。
「私達の後ろには沢山の人達がいるロボ。絶対に引けないロボよ!」
 次々に倒れていく仲間たちに危機感を募らせながら、それでもリミカは最後まで戦おうと覚悟を決める。傷つきながらも自分たちを護ってくれる姫桜の為にも、一刻も早く決着をつけなければならない。
「シオン、最後まで私と……参りますよっ!」
 的確な立ち回りと連携、回復にも長けていたこともあり、姫桜は皆の最後の砦となっていた。その佇まいにはスヴェンも興味を覚えたようで、彼は歓喜の笑みを浮かべて彼女に迫る。しかし、後衛もただ守られているだけではない――致命的な一撃を与える為、必殺の機会を耽々と窺っていたのだ。
「さあ、心、燃やすよ!!」
 コードHTHを起動、マスターコアから放たれる膨大なエネルギーを纏い、バイザーを展開して瞳を露わにしたリミカが突撃を行う。姫桜と唯覇も立て続けに黒鎖を操って、暴虐の限りを尽くすエインヘリアルを戒めようと、鎖を握る手に力をこめた。
「黒曜の鳥籠、荊となりて敵を閉じ込めて」
「……どんな敵であろうと通さん。……これで最後だ!」
 ――後方からの不意の一撃を受けて、其処で初めてスヴェンの顔に動揺が滲んだ。戸惑いを見せる侵略者へ、回復の手をそのままに常葉が自信たっぷりに告げる。
「孤独なお一人様の自分と違て、俺らはチームなんよ。仲間はええ、数は力や」
 ――証拠? と。其処で常葉は一呼吸おいて、ゆっくりと自分たちに指を突き付けた。
「……そんなん今ここで見れるやろ」
 言ってこい、と彼の声に背中を押され、ロナが霊木で作られた指輪を翳す。個人の武のみに執着し、連携を嫌う彼との決定的な違いを、明らかにするかのように。
「払い清めよ、射干玉の闇に幾億の煌きを。貫け。打ち鳴らせ……」
 ロナの身に纏う装飾が、涼しげな音を立てて唄をうたう。その細腕から放つのは、神をも射抜く一矢だった。
「ごめん、ね……」
 敵に対しても慈悲を抱く彼女だが、今は皆の無事を祈り――そして守る為に、自身の力を解放する。そうして神殺しの一手は、遂に神に死をもたらしたのだ。

 アグリム軍団のひとりを倒した上で、一行は多摩川を越えて撤退を開始した。これは敵に作戦失敗と思わせ、侵入部隊の行動を有利にする為だ。
 待っとれよ、と常葉はガイセリウムを睨みつけて不敵に笑う。
「……次はお前さんの番やで」

作者:柚烏 重傷:アニー・ヘイズフォッグ(動物擬き・e14507) 鳳・都(瑠璃の鳥・e17471) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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