多摩川防衛戦~勇者は己の血に染まる

作者:神南深紅

●蒼穹に浮かぶ城
 時間は十分ではなく、人々は鞄1つを抱える程度で東へと向かっていた。ほぼほぼ避難は終わっていたが、それでもまだひとけのない街を走る者達があちこちに見て取れる。放置された車やバイク、散乱した荷物で既に幹線道路は使い物にならず、歩くか走るしかない。
「立って! 早く!」
「ままっ もう歩けないよぉ」
 しゃがみ込んだ幼稚園のスモックを着た子供が大荷物と赤ん坊を背負った母親に手を差し伸べる。
「見えた! 見えたぞぉ。敵がきたぁああ!」
「でかい! なんだありゃあ」
 老いた声が母親の背後から響いてくる。駅ビルの向こうから奇妙な中東風の建造物が接近していた。巨大な、駅ビルに併設された駐車棟よりも大きな丸い曲線を描く尖塔のある城が迫ってきているのだ。周囲には羽のある武装した妖精――ヴァルキュリア達がひしめいている。
「瑠美ちゃん、早く!」
 母親はもう一度娘の手を強く引き走り出した。

「新年早々悪い知らせだ」
 ヴォルヴァ・ヴォルドン(ドワーフのヘリオライダー・en0093)は幼い顔に苦渋を乗せる。
「ザイフリードからの情報にあった人馬宮ガイセリウムが八王子焦土地帯に出現した。グラビティ・チェインを現地調達しながら東京都心を目指して東進している……まったく笑えない話だ」
 ヴォルヴァは厳しい表情のまま言う。ガイセリウムは巨大な古代アラビア風の城に4本の巨大な脚がついた移動要塞で、周囲はヴァルキュリア達が大軍で見張っている。もし不用意に接近すれば彼女たちに発見され、城の中から強力な『アグリム軍団』が出撃してくるため迂闊には近付くことが出来ない。
「奴らの目的はザイフリード抹殺とケルベロスへの報復……そして一般人を殺してグラビティ・チェインを奪うことだ。デカブツを動かす以上欲張りなくらい戦果が欲しいのかもしれないが、しかしこちらもその3つ、どれも差し出すわけにはいかないからな。住民の避難が終わっているのはいいところ多摩川付近までで、ここで敵を退けなくては甚大なる被害が出てしまう。どうにもケルベロスの力が必要だ」
 ヴォルヴァは厳しい状況を隠さず伝える。
「人馬宮ガイセリウムはきょうだいな移動要塞だが、弱点があるとすれば運用に大量のグラビティ・チェインが必要で、それを確保出来ていないということだ」
 おそらくは先のシャイターン襲撃が不首尾に終わり、充分なグラビティ・チェインを確保できなかったからだろう。
「だからこちらは多摩川を背にし、人馬宮ガイセリウムに対して数百人のケルベロス達がグラビティの一斉砲撃を行う。向こうはこの攻撃を中和するために少ないグラビティ・チェインを消費せざるを得ず、更に東に進むためにもケルベロス達を排除しようとするだろう。この時、出撃してくるのが勇猛なるエインヘリアルの『アグリム軍団』だ。こいつ等を叩く以外、勝機は見いだせない」
 もしケルベロス達がアグリム軍団に敗北すれば、多摩川を突破され避難の済んでいない市街地は蹂躙され、多くの人々が虐殺されグラビティ・チェインを奪われてしまうだろう。
 アグリム軍団を率いるのは残忍さゆえに同族であるエインヘリアルからも忌避されるエインヘリアル・アグリムとその配下からなる軍団だ。400年前の地球でも残忍な戦功をあげ、第5王子イグニスの切り札の1枚なのだろう。アグリム軍団は、軍団長であるアグリムの性格により、個人の武を誇り、連携を嫌い、命令を無視するという。
「上からは随分と使いにくい軍団だが強さだけは本物だろう。全員が深紅の甲冑で全身を固めているのが……戦国時代の赤備みたいで不愉快だ。戦場の赤は勇者の色だからな」
 心底不愉快そうにヴォルヴァは言う。
「本当の勇者こそが血の様に赤い具足をまとう資格があるというものだ。それは己の血で彩るものであって、弱者の返り血であってはならない。アグリムの軍団が勇猛であったとしても、ケルベロスならば止められる。私はそう信じている」
 仄かに笑みを浮かべ、ヴォルヴァは言った。


参加者
花凪・颯音(花葬ラメント・e00599)
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)
刻野・渡里(オラトリオのブレイズキャリバー・e01710)
丸口・真澄(おーいすみマル・e08277)
神寅・闇號虎(骨と皮が剥がれる音を鳴らす獣・e09010)
トゥレス・ピサロ(コンキスタドール・e09885)
ミヤビ・ウェーバー(歌って踊りたい新米レポーター・e17237)

■リプレイ

●多摩川迎撃戦~序章
 昼下がりの東京、多摩川周囲は曇り空ではあったけれど、あたりは明るく視界に不自由はしない。デウスエクス・エインヘリアルの第5王子イグニス率いる人馬宮ガイセリウムが川向こうにその巨大な姿を現している。射程に入るその瞬間、ケルベロス達はガイセリウムの外壁へと向かって一斉射撃に入った。
「やるか」
 神寅・闇號虎(骨と皮が剥がれる音を鳴らす獣・e09010)が地獄の炎を吹き上げ放ち、丸口・真澄(おーいすみマル・e08277)は大量の魔法の矢発し、そして花凪・颯音(花葬ラメント・e00599)の持つ杖からは雷がほとばしりアスベル・エレティコス(残響・e03644)の横顔を照らす。ボクスドラゴンのロゼもブレスで攻撃に参加し、トゥレス・ピサロ(コンキスタドール・e09885)が喚び出した氷の騎士は華麗に空を駆け、ミヤビ・ウェーバー(歌って踊りたい新米レポーター・e17237)の奏でる未来の歌が彼我の空を音楽で満たしてゆく。同時にテレビウム閃光を放つ。
「いくよ、イリス」
「大きすぎて外れる気がしないね」
 ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)と刻野・渡里(オラトリオのブレイズキャリバー・e01710)が炎を吹き上げ、ビハインドのイリスが前に出る。ボクスドラゴンのカラヤンもブレスで攻撃を慣行し、幾筋もの軌跡が輝きながらガイセリウムへと殺到する。
 500人以上のケルベロスとそのサーバント達の遠隔攻撃で激しいエネルギーが弾け……しかし巨大なる移動要塞の外観はごくわずかな変化もない。
「止まった……からには効いていないわけではないような」
 アスベルの言葉通り、ガイセリウムの進撃が急に止まった。
「迎撃にただでさえ少ないグラビティ・チェインを使ってしまったみたいだね。ここまでは成功かな?」
 颯音はそっとロゼの頭に手を置き無言で誉めながら言う。じっと敵陣を見つめるケルベロス達……すると、小さな黒い影がひとつ、またひとつとガイセリウムの前に現れ、無数の影はすぐに大きくなり人型となってさらに大きくなってゆく。
「見えますでしょうか? 今、人馬宮ガイセリウムからエインヘリアル達がこちらに殺到しようとしています。ヘリオライダー達の言葉によればあれこそがアグリムの軍団です」
 ミヤビはテレビウムに向かい、実況するかのようにいう。

「俺の獲物はどれだ!」
 鋼色の髪をなびかせ揃いの赤い防具をまとったオロフは赤い柄の大斧を両手に握り、先陣争いをするかのように多摩川を背にして布陣するケルベロス達へと突撃してくる。
「なんだ?」
 何かが真横を素通りした、そんな足音の様な音にオロフは構わず進む。
「……まぁ何言ったとこで、あんたにはここで止まってもらうんやけども」
 その声をオロフの耳が感知したのと同時に体の中から激しい衝撃が生まれる。
「むっつぁっ」
 オロフは斧を持ったままの手を腹にあてる
「ほら、止まったやろ? どないしてもあんたにはここで止まってもらうんやって決めてるんやからね」
 オロフの背後で真澄の緑の髪が急激な方向転換にひるがえる。
「お前を通す道は無い」
 闇號虎の獣化した拳に重力が集まり高速かつ重量のある一撃が放たれる。
「通りたくば俺達を倒すことだ」
「……おもしろい」
 引き戻そうとした闇號虎の腕はがっしりとオロフの万力の様な腕に捕まれ、数度回転させられて放り投げられる。両手両足で着地した闇號虎はそれでも止まらず河川敷に4本の線を穿ち水際でなんとか止まる。
「ちっ、言うだけあって強いな」
 土をの付いた手を払い闇號虎が姿勢を戻す。
「ロゼ」
 颯音とロゼは闇號虎、そして仲間達への射線を遮る様に横並びで前に出る。
「身の程をわきまえぬその鎧、貴様の血で染め直してくれよう」
 オロフをなぐりつけたアスベルの拳から霊力が蜘蛛の巣のように広がり、敵の巨躯をからめ取り、無駄のないトゥレスの流星のきらめきを宿す華麗なる跳び蹴りがオロフの下肢を打つ。
「何?」
 しかし、オロフは微動だにせず赤い防具にもひび一つ入らない。
「噂に聞くケルベロスの実力はこんなものか?」
 挑発するかのようにオロフが歯をむき出しにして獰猛に笑い、両手のルーンアックスを高く掲げトゥレスへと向かって振り下ろされる。ブゥンと空気が鳴る。しかし、それを受けたのは颯音のライトニングロッドだ。激しい勢いに颯音の指先から腕まで衝撃が伝わり、足もとの地面がめくれ土くれが飛ぶ。
「勇ましいけれど、周りが見えていないのかな?」
「ぬかせ!」
 互いはそれぞれが間合いを取り合うように離れ、一瞬で真っ赤にそまった颯音の両腕へとミヤビのバトルオーラが瞬時に失われた力を補填してゆく。
「テレビウムは前へお願いします」
 その言葉を受けてテレビウムは忠実に敵へと向かってゆく。
「好き勝手はさせない……絶対に」
 ロベリアの燃える地獄の炎はルーンアックスを取り込むようにして更に燃え上がり、そのまま敵へと叩きつける。と、同時に前へ出たイリスが斬りつける。
「迷惑なのですよ、こんな大きなモノで持ち出しこられてはね」
 丁寧に言いつつも渡里は地獄の炎に燃える鉄塊剣を振るい、カラヤンも炎を放つ。
「気に入らないな、そのオラトリオ」
 炎を鋼の様な太い腕が空気ともども薙ぎ払い、オロフは不快そうに顔をゆがめる。
「なんや渡里さんのことガン見しとるやないか」
 無表情のまま真澄の蹴りが魂を喰らう降魔の一撃を放つ。着地と同時に左手袋の位置を無意識に直す。
「たとえお前がどれほど強くても、この道は俺が守る!」
「どこを狙っている?」
 闇號虎の身体から地獄の炎弾が放たれ……だが、オロフに完璧に回避され赤い鎧に覆われた身体には届かない。
「武を誇るならば示して見せよ。強者ならば押し通れ。せめて図体だけの小者と、失望させてくれるなよ」
 アスベルが夜空を駆ける流星の輝きと力を宿した飛び蹴りをオロフへと炸裂させる。
「偉そうに!」
 渡里へと向かっていたオロフの視線がアスベルへと向かう。
「未完成なれど、癒し護る力となるならば!」
 不完全ながらも精製された賢者の石が颯音自身の頭上で砕かれ、さらにはロゼからも癒しの炎が注入される。
「己の力を誇示する為に弱者をいたぶるお前に何も言う資格はない」
 トゥレスは再度氷結の騎士を召喚し、オロフへと向かわせる。冷たい氷の槍、その切っ先が赤い鎧とぶつかり衝撃が走る。
「気にくわねぇ奴らを潰すには手近から仕留めるしかねぇか」
 物色するかのようにオロフは戦場を睥睨し、高々と跳び上がると赤い頭巾をかぶったイリスの頭上へと両手のルーンアックスを叩きつけた。静かに音もなくイリスの身体が草の上に崩れ落ち、その身体を押しつぶすように巨大な赤い足をオロフが叩きつけ、グリグリと踏みにじる。
「……消えたか」
 イリスの身体が消えオロフの足が地面をぐっと強く踏む。
「……!」
 声にならない悲鳴がロベリアの胸の奥を駆け巡る。倒れたイリスの金色の髪が、赤い服が――遠い記憶が呼び覚まされて。
「もっと前に」
 ミヤビがテレビウムに前進と攻撃を指示し、装備した祭壇から力ある紙兵を大量散布し、前で戦う仲間達へ守護の祈願をする。その舞い散る雪の様な紙兵をくぐり、ロベリアのルーンアクスが達人の一撃を決める。
「大丈夫ですか?」
 ミヤビはロベリアへと小さく短く声を掛ける。
「……大丈夫。最低限、自分の仕事だけはやり切ってみせるよ」
 イリスの消えた場所を見ない様にロベリアはキッと前を向く。
「迷惑しているのがわからないんですか?」
  渡里は武器から『物質の時間を凍結する弾丸』を作りあげオロフへと撃ち、カラヤンは体当たりを敢行する。
「貴様等こそ俺の覇道を塞ぐ、迷惑このうえないぞ」
 オロフはせせら笑う。
「はいはい、僕残忍だから強いーって? 逆に聞いてて残念に思えてくるわ、それ」
 真澄が電光石火の蹴り技を放ち、重力が集中し強化された闇號虎の獣化した腕がオロフを撃つ。
「お前を通せば無数の命が散る。それは許さん!」
 戦闘はまだ序盤だが、闇號虎は敵にこちらからの攻撃やバッドステータスの効果がはっきりと感じ取れないことにジレていた。今はまだ互角だが、このままではケルベロス達が不利にもなりかねない。だから早く決定だが欲しかった。しかし……。
「次の機会はないかもしれないからね」
 颯音のロッドから放たれた電気ショックがアスベルの細胞を賦活化しさせ、攻撃力を高めていく。その間にもロゼは敵に体当たりをしている。
「貴様の力はこんなものか。それでは誰の目にも止まらぬは必定」
 アスベルの日本刀が緩やかな弧を描き、そこから目にも止まらぬ早業で光が駆け抜け、オロフの左腕の腱を斬る。ゴトっと大きな音がして、左手から大きなルーンアクスが地面に転がり、地響きが広がる。
「くっ……」
「所詮勇者には程遠い性根の醜いものだからな」
 流星の煌きを放ちながらトゥレスの飛び蹴りが無警戒のオロフの右足へと放たれる。しかし、大きく体勢を崩しながらも地面に転がったオロフをトゥレスの蹴りは追いきれない。
「俺に治癒を使わせるとはな」
 右手にある大斧に刻まれた破壊のルーンが輝き、オロフに癒しと破魔の力を与える。
「大物ぶってもだめです。あなたは勇気の何たるかも知らない愚か者です」
 ミヤビは、立ち止まらずに戦い続ける者達の歌を奏で、まだ勝機の見えない戦いに臨む仲間たちを守り、奮起を図る。その間もテレビウムは主人の指示どおりに前に出て敵と渡り合う。
「地獄に吹く嵐、止まらない嵐を見せてあげる」
 ロベリアの両腕の先、若い袖口から風に舞い散る花びらのように、可憐にして剣呑な結の刃牙オロフへと向かって吹き付け、包み込むようにして切り裂いてゆく。
「ひとつひとつの傷は小さくても、消えない痛みを味わうといいよ」
 風にロベリアの髪も赤く揺れる。
「この攻撃に重ねるように私も行きます」
 渡里が地獄の炎まとった鉄塊剣を、カラヤンがブレスを使う。しかし、どちらもオロフに届かない。

 ケルベロスたちの攻撃は8割がたオロフに命中しダメージを与える。確実に傷を負っているはずなのに、頑強なオロフはそれほど深手を負った様子がない。そうしてミヤビのテレビウム、颯音のロゼを仕留めていくのだ。
 
 真澄はオロフの右から回り込むように走り、闇號虎の放った炎弾とともに蹴り技を放つ。逆方向からはアスベルの拳から網のように霊力が広がり、その動きに乗ってトゥレスの喚び出した氷の騎士が美麗なる槍を突き立てる。ロベリアと渡里は地獄の炎をまとった武器で攻撃を放つ。唯一残るサーヴァントのカラヤンも攻撃を切らさない。それらの攻撃が命中するたび、オロフの防具が壊れ、無防備な身体が露出し傷から血が流れてゆく。それでもオロフの士気は落ちない。戦いの間隙を縫って颯音のロッドが闇號虎の力を高める。
「もっとやり合おうぜ、ケルベロス」
 今までほぼ立ち位置を変えなかったオロフはいきなりケルベロスたちへと向かって走る。ボロボロの小手をかなぐり捨て、ふた振りの大斧が高く挙がり交差するようにしてトゥレスの両肩へと振り降ろされた。骨が折れ、大きな血管が引き千切られて血しぶきが高くあがる。
「ああぁっ」
 ざあざあぁっと豪雨の様な水音がして倒れかかるトゥレスを、オロフを追って走ってきた颯音が抱き抱え、そのままさらに後ろへと走る。それ以上先はもう川で、足元を水が濡らす。
「しっかりしてください、トゥレスさん」
 ミヤビの声が聞こえているのか、反応のないトゥレスをミヤビはオーラを溜めて回復を促す。
「……」
 顔をあげたミヤビと颯音は小さく首を振る。これ以上トゥレスは戦えないのだ。
「僕は前に戻る。ここはミヤビさんに任せていいかな?」
「わかりました」
 前へと走る颯音の背を見送るミヤビ。前衛の3人が突破されればスナイパーの3人もメディックのミヤビ、そしてトゥレスにも更なる危険が迫るだろう。

 アグリム軍団のオロフと、それを迎撃すべく参集したケルベロスたちの戦いは長期化していた。オロフを仕留めるにはケルベロスたちの攻撃は決め手に欠け、オロフは途中から目的よりも戦いに愉悦を覚えていた。
「なんで倒れへんの。ウチの攻撃が効いてへんの?」
 大量の魔法の矢が真澄のロッドから放たれ、もはや避けようともしていないオロフに命中する。
「勝負に出る」
 闇號虎が特別な言葉を紡ぐ。
「花よ我に華を、鳥よ我に獣の力を、風よ我に流れを、月よ我に光を……今宵、虎が貴様を喰らおうぞ」
 万物に祈りを捧げた直後、闇號虎は全身全霊で蹴り、殴り、斬りかかる猛攻撃を仕掛けていく。
「があっ」
 防具がとび、皮膚が裂け、血がしぶきオロフの喉から苦悶の声が絞り出される。
「図体ばかりデカい脳筋が!」
 アスベルの電光石火の蹴り技がオロフの喉元に突き刺さる。
「痛がる芝居など通じんぞ」
「いてーに決まってんだろ!」
「すぐに痛みも感じなくさせてやるわ」
 達人の放つ究極の一撃をロベリアのルーンアクスが再現し、燃える地獄の弾丸が渡里から放たれカラヤンも戦い続ける。
「誰から死にたい?」
 自らの血を撒き散らしながらオロフが跳ぶ。その巨躯は高々と飛び上がり、落下する得物が闇號虎の頭を真上から一気に叩き割り……その前に颯音が間に割って入る。
「ぐっ……かはっ」
 受け止めた武器の先から指先、腕、肩へと衝撃が走り、耐えきれずに切れた両腕の血管で腕も身体も真っ赤になる。
「邪魔しやかって」
 不貞腐れるオロフの前で真っ赤に染まった颯音は自らの錬金治癒術を使い、ミヤビのオーラも失われた力を補ってゆく。

 しかし、オロフの重い攻撃をこれ以上しのぐことは出来ず、闇號虎が倒れ真澄も倒れる。
「悔しい」
 衝撃に水際まで吹き飛ばされた真澄はもう立ち上がれない。オロフもまた片膝を地面につけ荒い息をしているが、どちらに余力があるのかははっきりしている。すぐに渡里が倒され、戦闘不能が4人になルドルフと、まだ立てる者たちが助け合い、牽制しつつ多摩川を渡って後退していく。
「ま、待てって」
 オロフも追撃する力はない。ただただ双方が距離をとり離れてゆき、そしてケルベロスたちはアグリム軍団を撃破出来ず多摩川の東に撤退した……敵から見ればそう思うに違いない展開であった。

作者:神南深紅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:失敗…
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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