多摩川防衛戦~深紅の驕傲

作者:志羽

●人馬宮ガイセリウム
 それは八王子市に現れた。
 アラビア風の巨大な城――直径300m全高30mのそれは、人馬宮ガイセリウム。
 ガイセリウムから生えた4本の脚。それが歩み向ける先は東京都心部だ。
 そのガイセリウム周辺には警戒のためなのか、ヴァルキュリア達が飛び回っている。
 迫る巨大な要塞――市民たちは安全を求めて避難してゆく。

●作戦
「エインヘリアルの第一王子、ザイフリート王子から得た情報にあった、人馬宮ガイセリウムが動き出したんだ」
 夜浪・イチ(サキュバスのヘリオライダー・en0047)はそう言って、人馬宮ガイセリウムについての説明を始めた。
 人馬宮ガイセリウムは、巨大な城に四本の脚がついた移動要塞。出現地点から東京都心部に向けて進軍を開始している。
 ガイセリウムの周辺は、ヴァルキュリアの軍勢が警戒活動をしており、不用意に近づけばすぐに発見され、ガイセリウムからエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してくるため迂闊に近づくことは出来ない。
「現在、人馬宮ガイセリウムの進路上にいる一般人の避難をしているんだけど、都心部に近づいた後の進路がわからないからねー……」
 避難が完了しているのは、多摩川までの地域となっている。
 このままでは、東京都心部は人馬宮ガイセリウムによって壊滅してしまう恐れがあるとイチは続けた。
「人馬宮ガイセリウムを動かした、エインヘリアルの第五王子イグニスの目的は、たぶん暗殺に失敗してこちらにいるザイフリート王子の殺害。それと、シャイターン襲撃を阻止したケルベロスさん達への報復だと思う」
 さらには、一般人の虐殺によるグラビティ・チェインの奪取だと思われる。
 このままにはもちろんしておけない。対処をお願いしたいとイチは作戦の概要について話始めた。
「人馬宮ガイセリウムは巨大な移動要塞だけど、万全の状態ではないと思うんだよね。あんなにでかいの動かすなら、多量のグラビティ・チェインが必要だろうし、確保できてないみたいだから」
 おそらく、先のシャイターン襲撃がケルベロスによって阻止された事で、十分なグラビティ・チェインを確保できなかったのが原因だろう。
 イグニス王子の作戦意図は、侵攻途上にある周辺都市を壊滅させ、多くの人間を虐殺し、グラビティ・チェインを補給しながら東京都心部へと向かうものだと思われる。
「これに対して、こちらは多摩川を背にして夫人します」
 まずは、人馬宮ガイセリウムに対して数百人のケルベロスのグラビティによる一斉砲撃を行う。
「この攻撃で、ガイセリウムにダメージを与えることはできないけど、グラビティ攻撃の中和の為に少なくないグラビティ・チェインが消費されるから、残存グラビティ・チェインの少ないガイセリウムには、有効な攻撃になる」
 そして、この攻撃を受けたガイセリウムからは、ケルベロスを排除すべくエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃してくることが予想される。
「アグリム軍団の攻撃で、多摩川の防衛線が突破されれば、ガイセリウムは多摩川を渡河して、避難が完了していない市街地に入ることになってしまうんだけど、そうなれば」
 一般人を虐殺し、グラビティ・チェインの奪取を行う事になるだろう。
 逆に『アグリム軍団』を撃退する事ができれば、こちらからガイセリウムに突入する機会を得ることもできる。 
「それで、このアグリム軍団なんだけど」
 アグリム軍団は、四百年前の戦いでも地球で暴れ回り、その残虐さから同属であるエインヘリアルからも嫌悪されているというエインヘリアル・アグリムとその配下の軍団と言われている。
 アグリム軍団は、第五王子イグニスが地球侵攻の為にそろえた切り札の一枚なのだろうとイチは紡いだ。
「アグリム軍団は、軍団長であるアグリムの性格からの方向性なんだろうけど、個人の武を誇り、連携を嫌い、命令を無視するという傍若無人さを持ってる。けど、その戦闘能力は本物」
 それと、わかりやすい特徴があるとイチは言う。
 全員が深紅の甲冑で全身を固めているのだと。
「色々、思う事はあると思うんだ。これを阻止できなければ人々は虐殺される。逆に防げば、こっちに活路が生まれる」
 だから思うように、ケルベロスさん達はやってきてくださいとイチは皆を送り出した。


参加者
藤咲・うるる(サニーガール・e00086)
藤守・つかさ(闇視者・e00546)
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
葛影・惺悟(運命なき子供・e01326)
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)
茶野・市松(ワズライ・e12278)
野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)

■リプレイ

●人馬宮ガイセリウムに向けて
 見上げるしかねえなと茶野・市松(ワズライ・e12278)は青の瞳を一層鋭く細めた。その手にちゃらりと踊るはケルベロスチェイン。
 ここを突破されたらやべえんだよなという呟きに、ウィングキャットのつゆがそうだというように一声鳴く。
「あんなのに進まれちゃ、本当に困りものだよ」
 やろう、と野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)はその手に地獄の炎を、弾丸として放つべく躍らせている。それはこれから戦いが始まるから。
 時刻は午後三時頃、天気は曇りだ。
 東京八王子市に現れた人馬宮ガイセリウムに向けてケルベロス達からの一斉砲撃が始まる。
「戒めを解き、疾く、時を超えて飛べ」
 トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)の、その自身の羽根を媒介に召喚された時流加速の力を持つ茨がしゅるしゅると動き猛禽の姿を取り飛び立つ。
 それを追うように放たれる黒い雷は藤守・つかさ(闇視者・e00546)のもの。
 惨殺ナイフに映るガイセリウムの鏡像が疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)の元から返り、葛影・惺悟(運命なき子供・e01326)が精神を集中させガイセリウムの上で爆発が起こす頃には、それは砲撃に包まれていた。
 向けたガトリングガン、その銃口の先からあがる煙が藤咲・うるる(サニーガール・e00086)の緑色の瞳、その端に映る。
 そしてその煙の行先を追えば、多数のグラビティの砲撃も静まりふたたびその姿が見え始める。
「無傷、なの?」
 ダメージは無いように見受けられる。しかしガイセリウムが持つグラビティ・チェインは確実に消費されていた。
 そしてガイセリウムは侵攻を停止し、その中より出撃してくる一軍の姿が見えた。
 それが話に聞いていたエインヘリアルの、アグリム軍団だろう。
「参りましょう」
 ザイフリート王子や人々を殺させるわけにはまいりませんとリコリス・セレスティア(凍月花・e03248)は思う。
 必ず此処で阻止致しましょうと前へ進み始める。
 ガイセリウムより出撃してくるのはエインヘリアルの、アグリム軍団。
 この軍勢を止めることが、今やるべきことなのだから。

●降り立つ紅の
「……」
 小さく、声にならない溜息を惺悟はつく。余分な感情を捨て、目的を果たすためだけのモノに瞬時になる為の、惺悟のルーチン。
 それを行ったのは、戦いに入るからだ。
 市街地の一角で、ケルベロス達はエインヘリアルと遭遇する。
 目にみえて、すぐにそれをわかる紅の星霊甲冑。それは牡牛を模したものだった。
 どちらが先か、同じか。互いに姿を見止めると共に構える。
 先に動いたのは紅色のエインヘリアルの戦士。その手にある星連なる長剣の刃より牡牛のオーラが放たれた。
 それは敵に向かう前列の仲間達を襲った。そのオーラの力だろう、身体の一部が鈍くなってゆく。
「この地を、人々を、その深紅の鎧のように血で染めさせはしません……!」
 リコリスはその手にある長剣を以て、皆の元に星座の守護を贈る。その輝きは、自分とうるるへと。
 皆の傷を癒し支え事を請け負うのはリコリス一人。それぞれ癒しの術はあるが敵は強い。強力な一撃受けた者がいれば癒し、守りきることができるのはリコリスだけ。
 敵と接する機会が多くなるのは、やはり前列
 その仲間達の為、つかさは攻性植物の姿を変えていく。
「さぁ、はじめようぜ?」
 全身黒尽くめのつかさも、その手にある攻性植物でさえも、黒ずんで見える。けれどもたらされる光は一層の輝きを以て助けとなる。
 敵は手強い。その力を奪い、削ぎ落していく為にそれぞれが動いてゆく。
 けれど、それは悟られぬように。力押しで勝てると思わせるようにというのも、作戦のうちだ。
 敵の視界にトエルは踏み込む。その手に絡む攻性植物、Rosalesという名を持つそれは、絡み合う茨が槍の姿をとる。
 それがゆるりと蔓の形をとる、敵を捕らえ絡みつき、締め上げてゆく。
 敵は蔓に絡め取られ、敵の動きも一瞬とどまる。
 そこへ、流星の煌めきと重力を足に纏わせたうるるが飛び込む。とんとんと地を蹴って、一気に距離詰めれば鎧兜の下、男の視線とうるるの強い視線がであった。
「この先は進めないわ、私たちが通さないからね!」
 華奢な見た目に反してその動きは元気なものだ。跳ねるように助走つけて、けれどそこにはしっかりと多さがある一撃が叩き込まれる。その一撃は敵の身に響き、その動きを鈍らせた。
 同じオラトリオの少女に続いて、ヒコはその羽根広げ風拾う。ヒコの口端には笑みが零れていた。
(「四百年前の戦いなんざ知らねぇ」)
 けれど、目の前の相手が強敵だとは分かる。純粋に、強者と戦える期待。それは心躍るものがあった。
「其の深紅、夜空の星へと散らしてやるよ」
 羽ばたき無くとも一気に距離詰めて、ヒコはその脚向ける。流星の煌めきを持って蹴り上げたその一撃。硬い鎧の感触はあるが、その足を止め置く衝撃与えた感覚はある。
「さてと、気張ってくか! ここはぜってー通さねえ」
 敵に仕掛けたい、その気持ちがあるけれども今は前列の、守りの壁を厚くするのが先と市松はケルベロスチェインをしならせる。それは地を這い、魔法陣を描いて守りの力を高める。
 今日は、守りつつ回復をメインに市松は動くのだ。
 市松のその気持ち分汲んでか、つゆは敵の鎧へとその爪伸ばしひっかいてゆく。金属と爪の軋むような交差音が響いた。
 今は嫌とか言ってられないよと、イチカはそれを現す。うなじと背中、そこにある機械部位を見られるのはイチカにとっては厭う事、嫌う事だった。
 けれど今は、それよりも。伸ばしたコードが周囲一帯、接続可能な機械を求める。イチカと繋がる、その操作の下に置かれた機械達が周囲の『持ち主』と定めた人物に対しサポートを。その仕事は――『持ち主』の望みに応える事。その望みの価値を決めるのは『持ち主』の仕事だ。
「みーんないい子だよ。上手にできたら、たくさんほめてあげてね!」
 その言葉と共に、トエルに満ちる力。それは狙い定めるその力を引き上げてゆく。
 惺悟は走りこむ。電光石火の蹴りを敵に打ち込んだ。
「人馬宮なのに牡牛型の鎧とは変な感じですー。しかも色が深紅」
 一撃、敵に食らわせた惺悟。そこへ敵の長剣が振り下ろされた。
 その一撃の重さに体力は持って行かれる。だが守りの位置にある惺悟は、本来繰り出される威力の、その半分の力しか伝わらない。
 敵は攻撃を受け、幾度も攻撃受ければ一番まずい相手はトエルだと認識した。
 トエルに向けて攻撃を向けるが、惺悟と市松、イチカと守りは厚かった。攻撃が通っても、リコリスという癒し手が崩させはしない。
 互いにどちらも引くことは無いと、一手目で感じ取れるものがあった。
 それがこの軍団の性質なのか、個々のものなのか。
 どちらかが倒れるまで終わらないことは必至。

●誉
 早めにと市松は動く。敵がこちらの阻害を外す術を得るなら、それを砕くまでだ。それができるのはこの場で一番確実に、攻撃狙える位置にある狙手だ。
「持ってけ泥棒!」
 後列に向けて市松が送るは猫印の駄菓子屋の、今日のオススメはラムネ。飲めばたちまち元気一杯。炭酸飲めなくてもそんなの知らねぇと投げ渡されたそれは、その敵の術を砕く力。
 前列だけではなく、後列も好きにはさせておけないとばかりに敵は長剣掲げる。そこより再びオーラが放たれ、後列の二人へと向かう。その攻撃は重いが、それ一度のみで倒れるほどではない。
「勝ったつもりになるにはまだ早いわよ。だって私、諦めが悪いんだもの!」
 オーラの影響で身は重かった。けれどうるるにかかる星の加護がそれより解き放つ。身軽になったうるるが放つのは対デウスエクス用のウイルスカプセルだ。
 攻撃のやり取りは続く。敵の陰りはまだ感じられずじりじりと嫌な時間ではあった。
 けれど仲間達も皆立ち、それぞれ敵に向け攻撃をかけ戦っているのだから。
 どんな状況でも、うるるは挫けはしない。それにまだ、そんな場面ではない。
「世の中は 恋繁しゑや かくしあらば――……其の望み、抱いたまま零れろ」
 涅槃西風を纏う一蹴は、混濁した意識を白昼夢へ誘うもの。夢か現か、慕情にも似た甘き痺れが深く、一途にその身を蝕み染むもの。
 ヒコの攻撃を、己が長剣で受け止めたが衝撃を受け流せたわけではなかった。確実にダメージは募り、痺れもあるがそれを押し殺し振り抜くその刃には、重力の重さ。
 攻撃がくる、その回避はできないとヒコは思うがその、腕掴まれ引っ張られる感覚。
 引きずられる瞬間見えたのは戦友のあがった口端。
「オレらも負けてらんねえな」
 言葉落とし、正面からその攻撃を受けきる。
 他の仲間も別の戦場で戦ってんだと市松の思いを汲んで、つゆはその尾にある環を飛ばす。
「ほんとに、負けてられないよ」
 それは他の戦場にいる仲間にも、キミにもねとイチカは笑ってその横駆ける。
(「背中を預ける人もなしに、一人で来て可哀想に」)
 踏み込んでふと頭をよぎるのはドラゴンとの戦い。あの時のように見送る側じゃないとイチカは思う。
「今度はわたしが守る番」
 身につけているバッジもタリスマンも青い羽根も、お守りにもらったものだ。
 けれど、そのお守りの力を信じているわけじゃない。
 イチカが信じているのは――それをくれた人と、その言葉だ。
「鉄や炎じゃ動かない、きみの仕掛けを教えてよ」
 戦うのは嫌いだ、けれど守るために、今戦っている。
 心臓に燻る地獄の炎の、その一端をイチカは縛霊手に乗せて叩き込む。燃え上がる炎は敵の身の上を駆け上がった。
 その刹那、今まで一歩も引くことのなかった敵の足がふらついた。
 ここからが、押し切るところ。戦いは未だ厳しいが衰えが見えてきた。
 だがまだ、敵は攻撃の姿勢を崩しはしない。すぐさま、その長剣より牡牛のオーラを前列へ向けて放つ。
 惺悟はそのオーラをトエルの分をも受ける。惺悟は自分で癒そうとするがそれより早く、リコリスがその力を振るった。
「人々の命は勿論、皆様の命も守ってみせます……!」
 リコリスのもとより、御業が惺悟の元へ向かう。半透明のそれは鎧へと姿を変え、惺悟の身を包んだ。傷を癒すと共に与えるその守護は、敵の持つ恩恵、守護を打ち砕く力だった。
 自らが倒れてはまず意味はない。リコリスはそれも良く理解しており、そして次に守るべきは目の前の敵の動きを落とす術を持つヒコとつかさの二人。もっと切迫した状況ならば、惺悟の回復は彼自身に任せることになっただろう。
 けれど、勢いがこちらにある今、誰かが倒れるという可能性はよほどの一撃がない限りはない。
 傷が癒え、惺悟は敵を見据える。
「葛影惺悟の名において命ず、偉大なる御霊よ……オレにチカラを貸せぇぇ!」
 紡ぐ言葉、惺悟の身に宿るは過去に散ったケルベロスの御霊。その力を一瞬だけ借りて、敵へと一撃を。
 そうして何度も、互いに攻撃重ねる。力乗せられた長い剣だったが、振り下ろされるその動きが鈍っていた。敵が詰め寄り振り下ろす一撃を受け流し、つかさは距離を取る。
「赤で踊るのは牛……あんたであって俺達じゃない」
 黒尽くめの身、その手にある惨殺ナイフに募らせるは己のグラビティだ。
「名前、教えてくれても良くないか? 倒す敵の名前くらい、知っておきたいんだけど?」
 そう問うのと、放つのは同時。黒い雷は地を射ち、敵へと刺さるように突き抜ける。
「動き、鈍ってきた」
 走り、回り込む。トエルは敵の死角に入り、その翼を広げた。
「戒めを解き、疾く、時を超えて飛べ」
 トエルの羽根より、時流加速の力持つ茨が召喚され猛禽の姿を取る。その姿を敵が視とめるのと、高速での突撃は同時だ。
 至近距離からその身を穿つように深く飛び立ったそれは敵へこの戦い一番のダメージを与えた。

●ここから
 形勢が傾く。敵の視線がケルベロスの上を舐めるように滑る。勝機は相手を倒す事しかないと思っているのだろう。癒しの術を用いることなく、戦いは続いた。
 しかし、それぞれの向けた攻撃による阻害は確実にその身を縛っている。
 攻撃の機を敵は幾度か失っていた。もちろん、その阻害を払う術を敵も構えたのだが、それは十全に発揮されるものではなく、攻撃を受けるうちに打ち砕かれていた。
 そして、こちらが向けた攻撃がうまく機能し続けていた。
 今まで喰らい、身に蓄えてきた病魔を熱エネルギーの変え、うるるは解き放つ。それは鋭い氷柱となり、その切っ先は敵へ。
「少し頭を冷やしたほうがいいみたいね?」
 鋭い氷柱は敵の罪を突き刺す。
 そこへ加わる一撃。敵の終わりももう近いと攻撃の手応えにヒコは思う。
 縁と浮き世は末を待て――機は熟した、と。
「……最期に云う事はねぇか、暴れ牛」
 ない、と一言、短く言葉返った。
 それはイチカにも聞こえていた。覚悟はできてるんだねと、地面を蹴って踏み込む。
 そして、縛霊手にすべての力を込めて叩き伏せる。
 その一撃で敵は、エインヘリアルの男は地に沈んだ。倒れたその身はやがて、消え果ててゆく。
 侵攻を開始したアグリム軍団、その一人は倒された。他ではまだ戦い続いている場所もあるだろうが、ここで出来ることはもうない。
 撤退しましょと言ううるるの言葉にそうだねとイチカは頷く。
 ほっとするのは赴いていた戦いが終わったからだ。
 けれど、まだすべては終わっていない。おそらくまだ戦闘中の仲間達もいるだろう。
 そこに遭遇したなら、加勢することもできるだろう。それに撤退するなら手を貸したりとまだ出来ることがある。
 それは全員が、無事に立っているからこそでもあった。だが、それは万全ではないので出来ることも逆に限られている。
 まだ動けるから、戦いに――そんな様子のトエルにつかさは声向ける。
「さてっと、ここからが本番だけど」
 だから行くと紡ぐトエルの視線。けれどつかさは待てとひとつ首を横に振る。
「今はまず、休息……だな」
 戦い続けるにも、負った傷はと。
 その様子に渋々というように瞳伏せ、わかったとトエルも頷いた。
「つゆ、行こうぜ」
 そう言って、多摩川を越えて引くべく、市松は踵を返した。その後をつゆは追いかける。
「見慣れた多摩川の筈ですけど、今日は違って見えますねー」
 ぽつりと独り言のように惺悟は呟く。首をかしげつつこの場から離れるべく、惺悟もまたあゆみ始めた。
 離れる間際にリコリスはふと聳える人馬宮を見上げた。この地にある者達のこれからは、まだ完全に守れたわけではない。
 まだ続く作戦の成功を祈りつつ。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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