紅蓮の傷跡

作者:幾夜緋琉

●紅蓮の傷跡
『キャァア、な、何よあれっ!!』
『し、知るかよっ。オラ、さっさと逃げるぞ!!』
 そんな怒号と悲鳴が響き渡る……愛知県、豊橋市。
 市民達の逃げ惑う背後には……10メートル程の体躯を持ったドラゴンの姿があった。
 突如現れたドラゴンは、甲高い咆哮を上げて、目の前に立ちふさがる建物をなぎ倒しながら、市街地に向けて進んでいく。
 ……暫し歩くと、一端立ち止まる。
 大きく息を吸い込むような動きをしたかと思うと……。
『……グゥォオオ……!』
 その口から噴出されたのは、紅蓮の炎。
 ビルがなぎ倒された上に燃え上がる炎は、まさしく地獄絵図。
 そんな地獄絵図の中……人々は、虐殺されていくしか無かった。
 
「みんな、集まってくれてありがとう! それじゃねむが、みんなに説明させて貰いますね!」
 ヘリオライダーの笹島・ねむが、集まったケルベロス達に元気よく挨拶すると、早速今回の事件についての説明が始まる。
「今回は、愛知県の豊橋市で、先の大戦末期にオラトリオにより封印されたドラゴンが、復活して暴れ出すという予知があったんです!」
「復活したばかりのドラゴンですけど、グラビティ・チェインが枯渇している為だからかな、飛行する事は出来ないみたいなんです。でも、その代わりに町並みを破壊しながら人が多く居る場所へと移動していて、多くの人間を殺戮しようとしているんです!」
「その目的は、人間を殺して、グラビティ・チェインを略奪し、力を取り戻すことに違いないと思います。力を取り戻して飛行可能になったドラゴンは、廃墟と化した街を後に飛び去っていっちゃうから、その前に、弱体化したドラゴンを撃退してきて欲しいんです!」
 と言うと、ねむはドラゴンの戦闘能力についての説明を続ける。
「ドラゴンの主な攻撃手段ですが、このドラゴンは炎を吐く攻撃をしてくるみたいなんです。その炎を吐く際には、大きく呼吸するようなモーションを取るようですから、その前兆を知るのは容易いと思います」
「勿論、その巨大な身体から繰り出される爪撃、尻尾撃も強力ですから注意が必要ですよ。爪の一撃は一発が痛い攻撃ですし、尻尾の一撃とブレスは列に攻撃を与えてきます、下手に直撃を食らわないように皆、注意するようにしてくださいね?」
「あ、そうだ。豊橋市民の方達には、避難勧告を出す必要がありますね。もう襲撃されている状況だから、避難勧告は混乱しながらも聞いてくれると思います!」
「後、ある程度町が破壊されるのも致し方ないと思います。ヒールで治せますから、思いっきりドラゴンと戦ってくるといいと思いますよ!!」
 すると、ねむに暁月・ミコトは。
「……街が破壊される光景を、黙って見ている訳にはいきません。皆さん、力を合わせて、炎のドラゴンを倒しましょう」
 と、静かに気合いを込めた。


参加者
獅子・泪生(鳴きつ・e00006)
星喰・九尾(星海の放浪者・e00158)
早門瀬・リカ(シャドウエルフの螺旋忍者・e00339)
麻田・美咲(レプリカントの鎧装騎兵・e01095)
小山内・真奈(ドワーフの降魔拳士・e02080)
ミセリア・アンゲルス(オラトリオの自宅警備員・e02700)
逢魔・琢磨(孤高の放浪者・e03944)
久瀬・彰人(地球人のガンスリンガー・e04430)

■リプレイ

●龍の影
 愛知県豊橋市。
 目の前には、豊橋市民達が逃げ惑う光景と、その背後に、体躯10m程の巨大なドラゴンの姿。
 ……にわかには信じがたい光景が、ケルベロス達の前には広がっている。
「ドラゴン、うっひょー、絶好の投稿ネタ、キターーー!!?」
 と興奮気味にミセリア・アンゲルス(オラトリオの自宅警備員・e02700)がスマホ生中継の用意を始めている。
 確かにこの様な光景は、そうそう目の当たりにする光景ではない……いや、このような巨大なドラゴンと逢う事がそうそうあっては困るのだが。
「しかし街中にドラゴンかぁ。大戦後産まれのおばちゃんには映画の話みたいやわ」
「うむ。龍か。懐かしいの」
 と、その事態を星喰・九尾(星海の放浪者・e00158)と、小山内・真奈(ドワーフの降魔拳士・e02080)が昔を懐かしむ様に、目を細める。
 が……そんな昔を懐かしんでいられる余裕は無い。
「さぁ、中継とかツイッターとかしながら、なんやかんや頑張ってドラゴン退治するわよ~! 私くらいの銀河警備員になると、撮影しながらの戦闘もお手の物~?」
 せっせと準備を整えていくミセリア、それに獅子・泪生(鳴きつ・e00006)が。
「わぁお、ドラゴン、おっきいねー。でも、これじゃなおさらあんなの放っておけないよね! さぁみんな、がんばろう!!」
 と、拳を振り上げると、千早に早門瀬・リカ(シャドウエルフの螺旋忍者・e00339)、逢魔・琢磨(孤高の放浪者・e03944)に久瀬・彰人(地球人のガンスリンガー・e04430)が。
「これは愛知県民としては見過ごせない。うん、頑張ろう!」
「初の実戦、巨大なドラゴンが相手で緊張するけど、負けないわよ!」
「封印されてたんなら、そのまま眠り続けりゃよかったモンを……ッ! 誰かを傷つけるってんなら、俺達が永遠の封印をしてやるぜッ!」
「そうだな。それじゃさっさとドラゴン退治と行きますか。復活した事、後悔させてやるよ」
 そんな仲間達の言葉に、真奈、暁月・ミコト(地球人のブレイズキャリバー・en0027)と麻田・美咲(レプリカントの鎧装騎兵・e01095)も。
「そうやな。被害が出ないようにみんなでがんばるで」
「ええ。みんなで力を合わせて、必ずやこのドラゴンを倒し、街に平和を取り戻しましょう」
「うん! みんなで頑張ろう!」
 そして、皆、準備完了……ミセリアがスマホで生放送開始ボタンを押して、スマホカメラをドラゴンに向けて。
「さぁ、ドラゴンをやっつけてみた~、の中継開始~。録画の準備もバッチリだよ~♪」
 と、ドラゴンに向けて駆けていくのであった。

●紅蓮に塗れて
 そしてケルベロス達は、ドラゴンの進路を塞ぐ様に展開。
 ドシン、ドシンと足音を響かせ、更に進路上にあるビルやら建物やらを薙ぎ倒しながら進んでくるドラゴン。
 目の当たりにした迫力は、言葉では言い表せない位に強烈。
 そしてそんなドラゴンに畏れ、逃げていく市民達。
「……急がなければ、いけませんね」
 と、軽く唇を噛みしめるミコト。そして。
「皆さん、こっちです。落ち着いて、急いで避難してください!」
「みんな安心してや、助けに来たで。ほら、あめちゃんいるかー?」
 泪生、真奈を初めとして、リカにミコト、そして千早に護も、逃げる市民達に声を掛けながら、その場を避難させていく。
 逃げる人達の中にはおじいさん、おばあさん、お母さんに手を引かれている子供達、等々の姿。
(「……全員を助けられる訳じゃないかもしれない。だけど、一人でも多くの人を助けたい。これでも僕は、人を救うための方法を探求する。医学者の卵なんだから……」)
 ぐっ、と拳を握りしめる護……と、逃げる市民達の中に。
「なんですか、あのでっかいのは……それよりも先に、なんで私はこんなところにいるのでありますか」
 きょとんとしている、ブラウト。
「ん、どうしたん? ほら、あっちの方に逃げるといいで!」
「逃げる、ですか? ……それは、命令でありますか?」
「そうや。ほら、周りの人もつれて、直ぐに逃げるんやで!」
 と、彼女に気付いた真琴が、彼女に近づき、ドラゴンとは逆の方向を指さし、逃げさせていく。
 ……と、ドラゴンと逆方向に逃がしていく一方で、残るケルベロス達は、ドラゴンの目の前に立ち塞がっていく。
 ケルベロス達の対峙に、ドラゴンは。
『……グ、ゥゥゥ……』
 威嚇するような、唸り声を上げて、ドシン、ドシン……と間合いを詰める。
 一抹の恐怖がよぎる……が、それに負けず。
「……さぁいくぜ!」
 気合いを込めて琢磨が宣言、そしてドラゴンに対し、九尾が。
「かつて星をも喰らいしこの力、少しお主に見せてやろう」
 と、真っ直ぐにドラゴンを見据え、妖狐顕現”星喰九尾”を発動。
 その妖気にドラゴンは、グ、ゥォォ、と僅かに怯んだ様に唸る。
 が……すぐに。
「グ、ガアア……!!」
 と、その爪を一閃。
 バックステップで、その一撃を交わし、そしてケルベロス達が動く。
「避難誘導完了まで、耐えきらないとね」
「そうだな。俺達の背中には、逃げ惑う市民がいる……絶対に、この場より先には通さないぜ」
 美咲に彰人が頷き、そしてバトルオーラを全開にし、旋刃脚で突撃。
 更に琢磨、美咲も。
「イグニッション、ファイアッ!!」
「当たれっ!!」
 と、クイックドロウを連続して叩き込んで行く。
 ……とはいえ巨大なドラゴン。自分達の数倍の体躯をしたドラゴンには、余り効果がある様には見えない。
 しかし、そんな仲間達の戦闘光景を映しつつ、更にツイートで避難勧告を呟くミセリア。
「戦って、開設して、投稿して、ついでに避難勧告もつぶやいて~全部やらなきゃならないってのがケルベロスのつらいところ~」
 そんな事を言いながらも、その表情は生き生きとしている。
 そしてミセリアに、九尾が。
「忙しないのぅ。どれか止めれば良いじゃろうに」
「いやいや~、これは別にスーパープレイって訳じゃないし~。まぁ、普通の人には参考にならないから注意してね~」
 九尾へ、と言うよりは、生放送を見てる視聴者達に向けて呟いた一言。
 まぁ、余裕を装える内は、まだ大丈夫だろう。
 そして次の刻も、足止め班に属する美咲、彰人、九尾にミセリア、琢磨がドラゴンに攻撃を行い、足止め。
 一方、ミコト、真奈、リカ、泪生らは、街の人達を確実に避難させていく。
 ……そして、数分経過し……あらかた、周りの市民達の避難完了。
「大丈夫、皆さん、避難出来た様です」
 とミコトの言葉に頷き、避難誘導させていたケルベロス達は集結。
「お待たせや!」
 と真奈の言葉に、琢磨が。
「よっしゃ、全員集合っすね……んじゃ、改めて行くっすよ!」
 気合い十分、ドラゴンに宣言。
 そんな揃いしケルベロス達の居並ぶ陣容に、ドラゴンは唸り、威嚇。
「決して怯みはしません……必ず、ここで倒してみせます」
 ミコトが一度瞑目し、そして、ドラゴンを真っ直ぐに見据えて言い放つ。
 そして、ミコトがブレイズクラッシュで斬りかかると、続々と美咲がスパイラルアーム、彰人は降魔真拳を、ドラゴンに炸裂させる。
 更に九尾、真奈が。
「そいじゃあ、行くで!」
「うむ。かつて喰らった竜の力、少し借りるとするかの」
 と、地裂撃と、ドラゴニックミラージュ。
 前衛陣はドラゴンの前に出て、容赦無く攻撃を叩き込み、体力を削る。
 そして、前衛陣をサポートする様に、リカは。
「絶対に倒してみせる……みんなも、力を貸して!」
「勿論」
 千早が頷き、そして。
「我が呼び出すは虚なる雷の獣、目の前の敵を噛み砕け!」
 リカは幻獣を産み出し、大いなる牙で齧りつく、幻影雷獣撃を放つ。
 幻獣の牙跡は、ドラゴンの左胸を抉り、ごっそりと肉がこそげ落ちる。
『グォオオオオオオ!!』
 今迄以上に、高い咆哮。
 そんなドラゴンが苦しむ光景をバッチリと映しながら、店理亜は。
「飛べないドラゴンなんて、ただのトカゲ~? ねえねえ、ドラゴンのくせに地べたに這いつくばるってどんな気持ちねえどんな気持ち~?」
 ネット常套句の煽り文句で挑発してみる。
 ……まぁ、ドラゴンがそんな煽り文句に耳を傾ける事などはないのだが、痛みに、更に荒れ狂う。
 廻りの建物を、紙で出来た家の如くぶちこわし……そして。
『グ、ガ……!!』
 大きく呼吸するようなモーション。
「みんな、ドラゴンのブレス、来るよ!」
 後方から泪生の指示が飛ぶ。
 咄嗟に構え、そして、次の瞬間……ケルベロス達の頭上から、ドラゴンの炎のブレスが降り注ぐ。
「っ……!!」
 かなり熱く、痛い一撃。
 しかし、ブレスの難を逃れた泪生が、すぐに。
「大丈夫!? すぐに回復するからね!! ……水の音が奏でるままに」
 水の精霊、オンディーヌの幻影を呼び出し、清らかなる癒しの滴を、前衛陣の皆に振りまく。
 勿論全快にはならないものの、半分程度の体力は維持。
「確かにこのブレスは危険っすね……」
「ああ……だがここで引き下がる訳にはいかない。いくぜ、こいつが俺のとっておきだ! インフィニティブラスター!」
 彰人が、体内のグラビティチェインを瞬時に二丁の巨大な機関銃へ整形、乱打及び零距離射撃を叩き込む。
 その一撃……ドラゴンの腹に、大きな風穴をかっ裂く。
『グアアア!!』
 耳を劈く悲鳴……その悲鳴は、ドラゴンの死期の咆哮。
「さぁ、おぬしの魂、少しよこすがよい」
 と、九尾の降魔真拳が、開いた風穴の所から、上部に向けて突き上げの一撃を叩き込むと……ドラゴンは、耳が引き裂かれるような断末魔の咆哮を上げ、崩れ落ちた。

●傷を癒やし
「……ふぅ、お疲れ様っした」
 息を吐き、ニコッと笑顔を向ける琢磨。
 そして、ドラゴンを倒した後の周囲の光景をミセリアが映す中、琢磨がヒールドローンを飛ばし、街や人々を回復。
 豊橋の町並みが……ちょっとファンタジックな光景で修復されていく。
「……町並みがファンタジックな外見になっていくのは、何時見ても謎の一言っすね」
 と苦笑しながら言う琢磨に、ミコトも。
「そうですね……でも、このおかげで、住民の方々はいつもの生活に、すぐに戻ることが出来る。それはそれで、良いことだとは思います」
 と頷く。
 そして、生放送してたミセリアが、スマホに顔を映して。
「さーて、と。みなさん、ご視聴ありがとうございました~。これが最後のドラゴンとは思えないけど~」
 そんな言葉と共に、生放送終了のボタンをポチリ。
 そして、避難していた住民達に声を掛けながら、治療していくケルベロス達。
「大丈夫ですか? もう、安心してくださいね」
 とリカを初めとして、怪我を治していく。
 一通り回復し終われば、街の人達からの感謝の言葉。
 ……そんな感謝の言葉に、真奈は。
「なんや、おばちゃんたち、ヒーローみたいやないか」
 とニッコリ。
 ……街を護ったのだから、街の人達からすれば、ヒーローなのは間違い無いだろう。
「うん、そうだね! こういったのも悪くは無いよねー!」
 と泪生も笑顔を浮かべ、そしてケルベロス達は、豊橋市を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。