多摩川防衛戦～深紅の武人シューツェ

■リプレイ

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　この日は曇天。
　多摩川を背に布陣した大勢のケルベロス達が、迫り来る人馬宮ガイセリウムへ一斉砲撃を開始したのは、午後３時を回った頃であった。
「うぅ、年始で忙しい時期に攻めて来るなんて、空気の読めない人たちですね……」
　皆がそれぞれ遠距離攻撃をする中に、至極最もな愚痴を零すクロコ・ダイナスト（ドラゴニアンのブレイズキャリバー・e00651）の姿もあった。
　赤い髪とゴスロリ衣装が見事にマッチした、内気な人派ドラゴニアンである。
「どうせグラビティ・チェインが足りないならもうちょっと時期ずらしてくれてもいいんですよ！　あとどうせならついでに諦めてしまっても……うぅ、すみません、モンク言ってないで頑張ります！」
　……内気な割につらつらと不満を並べ立ててから、クロコはバスターライフルを構え、フロストレーザーをぶっ放す。
　ビシュッ！
　白い光芒が人馬宮の熱を奪うべく、前方へ尾を引き疾った。
「この防衛線を抜けられると都心部の壊滅的被害は免れない、か。状況的にも意味合い的にも、背水の陣ってわけだね」
　エレミア・ベルリヒンゲン（護りの劔・e05923）は、強い決意でもって螺旋手裏剣を投擲。
「……必ず守り通してみせる」
　螺旋の軌跡を描いて手裏剣が跳ぶのを見つめる瞳には、普段仲間へツッコむ時の光が失せた様と違って、人々を守りたいという熱意に燃えていた。
「赤いおべべの若造がー！　誰の許可とって派手な山車引いとんじゃー！」
　一方、威勢よく啖呵を切りイグニス王子へ届けと言わんばかりに叫ぶのは、板餅・えにか（萌え群れの頭目・e07179）。
「どこぞの馬の骨に多摩川は渡らせんぞー！」
　普段は至って丁寧な言葉遣いだが、興奮すると今みたいにおかしな事になるそうな。
「よっしゃ、派手にいけー！」
　えにかはガトリングガンを目にも止まらぬ速さで乱射。弾丸達がガイセリウムへ吸い込まれるように突き進むのを気合充分で見送った。
「虐殺なんて、絶対にダメなのです」
　他方、相良・美月（オラトリオの巫術士・e05292）はえにかと正反対の風情でびくびくおどおどしながら妖精弓を構えた。
　元より人見知りが激しく引っ込み思案、戦いも苦手ときている美月だから、人馬宮の巨大さに恐れおののくのも頷ける。
「こ、怖いけど頑張らなくちゃ……絶対に負けられないのです」
　それでも、心優しい美月は、人々の命を脅かす敵へ立ち向かう覚悟を決めて、時空凍結弾を精製。
　ギリギリ弓弦を引き絞ると、ガイセリウムを狙って弾を射掛けた。
「四百年前に来たものと同じか違うかどちらでもいいですけど、迷惑なものには全力で抵抗するのもきっと変わらないと思いますよ」
　ラーナ・ユイロトス（蓮上の雨蛙・e02112）は、あくまでも冷静に人馬宮を見据える。
「ただ、ケルベロスと言う者がいたかどうかの違いもあるでしょう、噛み付くにせよ、なんにせよ、まずは守り切りましょうか」
　そう静かに語ると、相変わらず笑顔に見える面差しでファフロツキーズを仕掛け、ガイセリウムへ怪雨を浴びせかけるラーナだ。
「ここを突破されれば多くの人々が虐殺されることになります。必ず勝たなくてはいけませんね」
　硬い意志をその豊かな胸に秘めて、一斉砲撃に加わるのはルア・シルファリア（銀の砲撃士・e12220）。
　長い銀髪とボリュームたっぷりの巨乳が目を引くレプリカントで、青をアクセントにしたメイドっぽい高露出ゴスロリ衣装もよく似合う。
　今は猫耳型ヘッドフォン『子猫の囁き』を装着していて、これがまた可愛らしい。
　ドドドドドド……！
　ルアは、身体装着型固定砲台【銀星】の主砲を一斉発射し、ガイセリウムへ多くの弾やレーザーを見舞った。
「さしずめ殺戮の尖兵といったところか……全く、虫唾が走る」
　と、聞いた者へ怖気を起こさせるぐらい冷ややかな声音で呟くのは、緋色・結衣（運命に背きし虚無の牙・e12652）だ。
　漆黒の髪を持ち赤い瞳は眼光鋭い美青年で、普段は物腰柔らかで面倒見が良いという。
　しかし、無差別な殺戮を最も忌み嫌う彼だけに、ガイセリウムの進軍など到底許せる筈もなく、今は険しい表情で周囲の警戒に余念がない。
　そして、人馬宮の中に居るイグニスへ殺意を抱けば抱く程に、キリキリと頭が冴えて冷静になれるようだ。
　――ボンッ！
　結衣の精神集中が極限を超えた時、ガイセリウムの外壁が爆発した風に見えた。サイコフォースによる遠隔爆破である。
（「デウスエクスに唯一対抗できるケルベロス……。俺たちが退けば多くの一般人が犠牲になる、か」）
　日下・聖光（殺戮の狼は鴉となりて空に歌う・e19138）は、何を考えているかわからない風情の無表情と無口さが常の男である。
「厳しい戦いになりそうだが……負けるわけにはいかないな」
　それでも、簡潔な言葉の一つ一つが、心を地獄化したと思えぬ義侠心に満ちている。
　すぐさま、真っ白な細身の猫をけしかけて、ガイセリウムへ向かわせる聖光。
　この白猫、ファミリアロッドを小動物の姿に戻して魔力を籠めたものだ。
　巨大な移動城塞、それでいてアラビアンな趣を醸すガイセリウムへ、小さな白猫が飛んでいく様は健気に映るやもしれない。
　かくて、多数のケルベロス達が同時に放ったグラビティの攻撃に晒された人馬宮ガイセリウム。
　しかし、数多のグラビティが起こした爆炎や粉塵、氷雪が収まれば、人馬宮は傷ひとつ無い状態だと明らかになる。
　ダメージが無いように見えるガイセリウムだが、その侵攻は停まり、城内よりエインヘリアルを出撃させてきた。脚の下へ降りた深紅の軍勢――奴らがアグリム軍団であろう。
　無傷は無傷でも、砲撃の防御の為にグラビティ・チェインを使い過ぎてしまったのかもしれない。
　ケルベロス達は、アグリム軍団が進軍しているだろう前方へ襲撃に向かう。
　いかにエインヘリアルが巨躯であろうと、人馬宮のように遠目から視認できる筈もなく、それと判ったのは出撃時の一瞬だけであった。

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　８人が攻撃の狙いを定めたのは、深紅の武人シューツェ。
「怖いですけど、此処から先はいかせませんよ……。だって貴方達に一般人の皆さんを殺される方がよっぽど怖いですから！」
　クロコは毅然とした態度で言い放つや、駆けつけ様にバスターライフルを発射。
　バシュゥゥゥゥ！
　グラビティを中和し弱体化するエネルギー光線が、シューツェの腕に命中、その余波でゾディアックソードを刃こぼれさせた。
（「武器封じや足止めで戦闘力を削げると良いんだけど……」）
　祈るような心地で、地をも断ち割るが如く強烈な一撃を繰り出すのはエレミアだ。
　――ゴッ！
　振り下ろされたゾディアックソードがシューツェの具足を強く打って、ダメージのみならず奴の回避率をも下げた。
「巣箱つつかれて慌ててお出かけかいボウズどもー」
　えにかは威勢の良さもそのままに、シューツェへクイックドロウをお見舞い。
　パラタタタタタタ！
　神業のような速射でシューツェのゾディアックソードを撃ち抜き、奴の肩へも苦痛をもたらした。
「あわわわ、が、ががが頑張らなくちゃ……」
　一方、顔面蒼白でぶるぶる震えるのは美月。
　それでも精一杯戦おうと懸命に飛び上がって。
　――ゴスゥッ！
　流星の煌めきと重力宿りし蹴りをぶち込んで、鎧越しでも伝わる程の衝撃をシューツェに与えた。
「フン、お前らがケルベロスどもが。ガイセリウムを墜とせなくて残念だったな？」
　シューツェは口元を歪ませてケルベロス達を嘲笑うと。
「よゥし、コイツ等は俺の獲物だ。誰にも渡さねェッ！！」
　言うなりゾディアックソードを抜き払った。
　射手の星座の重力を２振りの剣へ同時に宿すと、天地をも揺るがす超重力の十字斬りを繰り出した。
　――ドブシャアッ！！
「おうにーちゃんいい鎧着てんな。パパに買ってもらったんかい？」
　胸をバッサリと斬られて血を吐きながら、尚も挑発するえにか。
「大丈夫……では無さそうですね、回復します」
　すぐさまラーナがオーラを溜めてえにかの深手を治癒し、彼女の全身を襲った痺れも消し去る。
「行動を封じる為にも、ここは確実に当てていきませんとね」
　ルアは、シューツェへ向けて勢いよくライトニングロッドを振り翳す。
　ピシャァァアン！
　杖先から迸った雷が、狙い澄ませた軌道でシューツェにぶち当たり、焼けるような痛みを倍加させる。更に巨体へ痺れが残った。
「こいつを俺１人の命で止められるのなら安いものだ……無論、最後の手段だがな」
　結衣は自らへ無茶はするなと言い聞かせるような調子で呟くや、美月同様に重い飛び蹴りを仕掛ける。
　――ゲシィッ！！
　スターゲイザーは気持ち良い程にシューツェの顔面を捉えていた。
　普通のデウスエクスならば決定打になりそうなその一撃は、ダメージだけでなく足止め効果についても期待が持てる。
「…………」
　また、幾ら曇り空の下とはいえなかなかに目立つ黒ずくめの人影――聖光も、流星のような輝きを帯びた蹴りをぶちかまして、
　――ドゴッ！
　そこそこの正確さで胴を打ち叩くや、シューツェの動きを大きく鈍らせたのだった。

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　戦闘開始より２分が過ぎて。
　クロコは、地獄化した右腕に龍王の闘気の渦を纏わせて、シューツェを激しく殴りつける。
　自分の用いたゼログラビトンや、足止め組のスターゲイザーによる斬撃、えにかのクイックドロウやエレミアの地裂撃による破壊、そしてルアのライトニングボルトによる魔法攻撃。
　クロコはそれらがシューツェに対してどれだけの威力を発揮するかを見比べて、シューツェの耐性を看破するつもりでいた。
　勿論個人個人の熟練や武器の強さ、能力値によって与えられるダメージにバラつきは出たが、大まかな予測をつけたクロコ。
　決め手は、クリティカルとも言うべき正確無比な命中をしてのけた筈のルアのライトニングボルトのダメージが、普通の攻撃程度にしか見えなかった事。
　倍加する筈の威力が平均へ抑えられた理由こそ、シューツェが魔法耐性を持っているからに違いない。既に奴のゾディアックソードも幾許か損傷している。
「久しぶりに武人と戦えると思えば傍若無人かつ目的は非戦闘員の虐殺か……。武人の風上にもおけぬ者よ。我が引導をくれてやろう！」
　なればこそ、クロコは口調をガラリと豹変させて、龍王烈震撃を見舞ったのだった。
「初手の星天十字撃にさっきのゾディアックミラージュ……命中率や威力を下げられたと思えない破壊力だった……」
　螺旋射ちと地裂撃を繰り返しながら、エレミアは戦慄するも、
「ま、だからこそ、無対策の時にどれだけ大ダメージを喰らうか想像すれば、この重ねがけも無駄じゃないと思いたいね」
　そう信じて、螺旋手裏剣を迷いのない手つきで投げるのだった。
　ビスッ！
　いかにシューツェの鎧が分厚くとも、螺旋力帯びた手裏剣が突き立つ時の衝撃はあるものとみえる。
「ワシらがケルベロスじゃー！　カタギさん背負っとるんじゃー！」
　えにかは赤いケルベロスコートを翻してシューツェに立ち向かい、自分の方が大口叩いて攻撃。
　狩人のような目で奴を射抜くと同時に、狙い澄ましたが故の痛い一撃をぶち込んだ。
「いっいきますっ」
　声を震わせつつも、勇気を振り絞ってブラックスライムを解き放つのは美月。
　――ドスッ！
　黒い流動的な塊の中に生まれた時空凍結弾が空を切って、シューツェの時間を凍結せんとその甲冑へ減り込んだ。
「ゴキブリ並みにしぶとい奴等だ……それでこそ潰し甲斐があるってもんだがな！！」
　シューツェの振り上げた太い刀身が、聖光に迫る。
「おぬしの好きにはさせぬ！」
　即座に雄々しく大喝したクロコが聖光の前で仁王立ち、彼の代わりにゾディアックブレイクをその身に受けた。
　更に１分後。
「身の程も弁えず俺の前に立ちはだかったのを悔いながら死ねェッ！」
　――ドクシャアアッ！！
　シューツェの放つゾディアックミラージュを真正面から受けて、ルアが立派な胸を張った。
「やはり、この理破耐性の魔導装甲にして良かったですね」
　実際、魔導装甲のお陰でダメージは半減できたものの、露出度の高い服装を好むルアは、オリュンポスコートで魔導装甲自体を見えなくしていた為に、
「きゃっ！」
　丸見えだったベアトップが攻撃の衝撃で破れ、その白い巨乳を手ブラで隠す羽目になるのだった。
「薬と毒、どちらの雨を降らしましょうか」
　そんな仲間の姿を目にしてもニコニコと動じないラーナは、薬液の雨を景気良く振り撒く。
　サァァァァァ……！
　メディカルレインがケルベロス達の受けた裂傷に沁み渡り、怪我を塞いでは体力も戻した。
「コア・ブラスターリミットカット……消し飛びなさい」
　ルアは気をとり直して、胸部に内臓されているコア・ブラスターの出力制限を一時的に解除。
　ズオッ――！！
　威力を大幅に上げた極大レーザービームを、シューツェ目掛け照射した。
　巨岩を易々と砕く程の、もはや通常のコア・ブラスターと比較にならない破壊力で、シューツェの肉が裂け骨も軋むぐらいの衝撃をもたらした。
「……カラスというのは、目がいいんだ」
　聖光は、シューツェをロックオンするべく意識を集中。
　バチィィッ！
　意識を向けたその一点目掛け、グラビティの玉を叩きつけて激痛を与えた。
　気の抜けない戦いは９分にも及んで。
「其は終焉への道標。灰塵に帰せ、復讐の赤い血よ。――魂を喰われた者が迎えるは死の安寧ではない、滅と知れ」
　レーヴァテイン・エクセリオの燃える切先を、シューツェへ向けるのは結衣だ。
　赤々とした灼熱の炎が龍に変じて、奴の深紅の鎧へ喰らい付く。
　癒えることのない傷を負わせ、抗う事さえ許さぬ無慈悲の業火で、その魂をも貪るように全身を焼き尽くし、これがトドメとなったのだった。
　――ズゥン！
　エインヘリアルの特徴とも言える巨躯が、地面に倒れ伏す。
「……まだだ……まだ俺独りで、やれ……」
　深紅の甲冑や兜、具足が、アスファルトとぶつかって硬質な音を立てるも、すぐに砂のようにさらさらと身体ごと崩れ落ちた。
「お怪我は大丈夫ですか？」
　美月が慌てて仲間の治療にあたり、ケルベロス達は急いで多摩川を渡って撤退する。
　人馬宮ガイセリウムの中で戦況を把握しているだろうイグニス王子へ、ケルベロス達の敗走を印象づける為だ。
　実際はアグリム軍団のエインヘリアルを倒し、一般人の虐殺を防いだ上の敗走――こちらの目的は達している。
　水が苦手だという結衣などは、多摩川を渡る最中生きた心地がしなかっただろうが、戦略的撤退故に致し方ない。
　今は、この防衛戦と並行して作戦が開始された、人馬宮侵入部隊の成功を祈るのみである。
（「こちら側が無様に敗走したとでも侮ってくれれば、侵入部隊が有利に動ける事もあるだろう……」）
　聖光はそう願った。

作者：質種剰	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年1月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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