多摩川防衛戦~不退転

作者:刑部

 八王子の焦土に現れた『それ』は、アラビアンナイト等の物語に出て来る宮殿の様に見えた。直径は東京ドームよりやや大きい『それ』……高さは30m程であろうか?
 『それ』に4本の大きな足が生えて持ち上がると、地響きを起こしながら都心方面へと歩き始めた。今はまだ焦土地帯で問題は無いが、これが居住区を進めば多くの人々が犠牲になるだろう。
 それはエインヘリアルの第一王子ザイフリートからもたらされた情報にあった『人馬宮ガイセリウム』。周囲をヴァルキュリア達が飛び回る中、一歩、また一歩と、破滅の足音を響かせていた。

「ザイフリートさんが言うとった『人馬宮ガイセリウム』が動き出しよったで」
 慌てた様子で駆け込んで来た杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)が、コップの水を一気飲みして口を開く。
「八王子に現れたガイセリウムは、でっかいアラビア風の城に四本の脚が付いたけったいな形の移動要塞で、八王子から東京都心部に向けて歩きはじめとる。ガイセリウムの周りには、ヴァルキュリアの軍勢が警戒活動しとって、不用意に近づいたらすぐに見つけられてまいそうや。見つかるとガイセリウムから、エインヘリアルの強い軍団……『アグリム軍団』が出てきよるから、迂闊に近づかれへん状態や」
 頷くケルベロス達の顔を確認し、千尋は説明を続ける。
「とりあえず進路上の一般人の避難をしてるんやけど、都心部に近づいた後の進路がわかれへんから、とりあえず、多摩川まで避難命令を出している状態や。このままやったら、東京都心部は蹂躙されて壊滅してしまいそうや」
 と腕を組む千尋。
「当然の話やけど、ガイセリウムを動かしたんは、エインヘリアルの第五王子イグニスで、その目的は、暗殺に失敗してこっちに捕縛されたっちゅー形になっとるザイフリートさんの殺害、ほんでシャイターン襲撃を阻止した自分らケルベロスへの報復して、一般人を虐殺してグラビティ・チェインを奪取しようとしとるっちゅー、清々しいまでの力押しで一気に解決ってやつや。
 笑うしかないわな。さて、このアホのもくろみ、止めて差し上げようやないの、なぁ?」
 千尋が悪戯っぽく笑うと、ケルベロス達もつられて笑う。

「で、『人馬宮ガイセリウム』は東京ドーム程の大きさに移動要塞なんやけど、万全の状態ではないみたいや。あんだけごついの動かすんは、多量のグラビティ・チェインが要る筈やけど、シャイターンの襲撃が自分らのせいでことごとく失敗したから、充分なグラビティ・チェインを確保できてへん筈や。
 イグニスの考えとるんは、侵攻途上にある都市を潰して人間を虐殺し、グラビティ・チェインを補給しながら東京都心部へと向かうっちゅー、昔の軍隊みたいな現地略奪方式やろうな。
 まー、ちまちま小部隊派遣して集めとっても自分らに邪魔されて集まれへんやろうし、選択としては間違ってはないとは思うけどな」
 千尋が敵の作戦意図についての見解を述べ、
「ほんで、これに対してこっちは多摩川を背にして布陣する事になったで。最初にガイセリウムに対して、数百人のケルベロスらのグラビティで一斉砲撃かますねん。
 まーこの一斉砲撃でガイセリウムにダメージを与える事はできるとは思ってへんねんけど、グラビティ攻撃を中和すんのに少なくないグラビティ・チェインが消費されよるから、残存グラビティ・チェインの少ないやっこさんには、有効な攻撃となると思うねん。
 で、この攻撃を受けたガイセリウムからは排除の為に、エインヘリアルの中でも勇猛を以って名を轟かす軍団『アグリム軍団』が出撃してくる筈や。
 このアグリム軍団の攻撃で防衛線が突破されてまうと、ガイセリウムは多摩川を渡ってまだ人が残っとる市街地を蹂躙……人々を虐殺して、グラビティ・チェインを奪取されてまう。……反対に『アグリム軍団』を撃退する事が出来たら、こっちから、ガイセリウムに突入するチャンスが出て来るっちゅー訳や」
 千尋の瞳が輝く。

「で、その『アグリム軍団』と言うのは?」
「アグリム軍団っちゅうんは、四百年前の戦いでも地球で好き勝手に暴れ回って、その残虐さから同族であるエインヘリアルからも嫌がられとるエインヘリアル『アグリム』と、その配下の軍団らしいわ。
 めっちゃ強いらしいから、イグニスの切り札の一枚なんちゃうかなぁ?
 アグリム軍団は軍団長のアグリムの性格によるんか知らんけど、連携とか協力が嫌いで個人の武勇を誇り、命令を聞かないっちゅー傍若無人な軍団なんやけど、そうさせるだけの戦闘能力は本物やで、みんな深紅の鎧着てるから一目でわかると思うわ」
 質問に答え肩を竦める千尋。
「多摩川越えられるとえらい事になってまうからな。正に背水の陣や、気合い入れて頑張ってや!」
 そう言って千尋は、八重歯を見せて笑顔を見せるのだった。


参加者
大神・由宇(濡鴉・e00052)
福富・ユタカ(橙陽・e00109)
七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)
仁宮・誠(ヴァンガード・e00924)
叢雲・宗嗣(ほのか・e01722)
立茂・樒(瑠璃の竜胆・e02269)
シルビア・レバンドフスカ(着せ替えウィッチドクター・e05023)
レオン・ヴァーミリオン(リッパーリーパー・e19411)

■リプレイ

●威容
 多摩川を背に幾人ものケルベロス達が布陣している。
 そろそろ子供達はおやつの時間であろうか? 天に灰色い雲が広がり日光を遮る中、地響きを起こし其……アラビアンナイト風の容貌を見せる『人馬宮ガイセリウム』は近付いてきた。
「……!」
 遠くからの誰か声に続きケルベロス達が一斉に攻撃を開始する。
「さて、どんなものか」
「お塩をまいておきましょうね」
「時空凍結弾ってかなりチートよねー……まあ、手段とか選んでられないしね!」
 砲撃手段を持たぬ叢雲・宗嗣(ほのか・e01722)が宵星・黒瘴の鯉口を切って見上げる中、にゃんまふらーを棚引かせた七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)が、稻羽之素菟による粒子状になったエネルギー光を放つと、八重歯を見せて僅かに笑った大神・由宇(濡鴉・e00052)が時空凍結弾を飛ばす。その隣では、
「ま、気楽にいこうか。流れ弾でいきなり崩壊とかしてくれると嬉しいんだけどねぇ」
「ったく、面倒くせぇが……しょうがねぇ、やってやるか」
 銀色の瞳で見上げたレオン・ヴァーミリオン(リッパーリーパー・e19411)の手に現れた紅蓮の魔槍と、仁宮・誠(ヴァンガード・e00924)がグラビティ・チェインと龍の幻影を凝縮して造り上げた投槍。2つの槍が投じられ、ガイセリウムに向かって風を唸らせる。
「はろ~ん、ドラゴンのお出迎えよ~♪」
「拙者の瞳が何処まで効くが判らぬでござるが……」
 その槍を追う様に、タイトな衣装で色気を溢れるシルビア・レバンドフスカ(着せ替えウィッチドクター・e05023)が向けた掌から、ドラゴンの幻影が現れブレスを吐き、長い灰色の髪を掻き上げゴーグルを上げた福富・ユタカ(橙陽・e00109)が、その瞳でガイセリウムを見上げた。
(「真の死を知らぬ……即ち生きるという意味を知らぬ者供め」)
 その後ろで精神を集中していた立茂・樒(瑠璃の竜胆・e02269)が灰色の瞳を見開くと、ガイセリウムの表面で爆発が起こる。彼らの左右からも次々とグラビティが飛び、ガイセリウは折り重なるグラビティにより靄に包まれる。
 そして静寂。ヴァルキュリア達の姿が靄に見え隠れするが、場は沈黙が支配していた。
 そして靄が晴れる。千尋が言っていた様にそこには傷一つ付いていない……付いていたとしても視認できないであろうが……ガイセリウムが、先程と同じ威容を示していた。
 4本の巨大な足はその動きを止め、背水の陣を敷くケルベロス達を見下す様に佇むガイセリウム。
 そして赤い点。その点が功を競う様に此方に向かって駆けて来る。それが赤い鎧を来たエインヘリアル達だと視認できる頃には、彼らの上げる雄叫びが聞こえてきた。
「地獄へようこそ。墓碑に刻むその名、名乗りなさい」
「小賢しいぞこわっぱ供ぉ! 我、ドルストリンゲンの前に立つなら命は無いものと知れぃ!」
「一凶、披露させてもらう……!」
 七海の声に応じて咆えるエインヘリアルを前に、左手で右腕を掴んだ宗嗣が腰を落とし横へと動く。
 ケルベロス達はそれぞれ得物を構えて扇状に展開し、アグリム軍団のエインヘリアル、ドルストリンゲンを迎え撃ちに掛った。

●暴虐
「小僧と小娘如きで我を止めれると思うな!」
 ドルストリンゲンの放つ怒声が重力を振るわせ、衝撃波となって前衛陣を襲う。
「得物でなく声で戦火を交えるのでござれば、拙者は視線にてお答えするでござる。いないいない、ばぁ」
 正面に陣取ったユタカが煌めく瞳を向けると、その後ろから、
「絵に描いたような脳筋とはまさにこのことね。本当に暑苦しい……」
「この世界という私の自宅に足を踏み入れたのがあなたの過ちなのです。それを正す為、明日から本気出すのです」
 シルビアが向けた掌から現れたドラゴンが、その接近を拒絶する様にドルストリンゲン目掛けブレスを吐き、七海の明日から頑張るという熱い決意の心が、溶岩となってドルストリンゲンの足元から吹き上がる。
 それに呼応し、左右に展開した由宇や誠ら仲間達が挟撃を図るが、
「ぜえぇえええぃ!」
 ドルストリンゲンの一閃が鮮血を舞わせて、その攻撃を押し返す。
「一撃が重いです。……因果応報代償無用踏み倒し御免――あなたにお薬あげましょう。殺菌効果抜群です。たんと――塩を塗ってさしあげましょう…………イナバノシロウサギっ」
 地面を血で濡らす前衛陣を見て藍色の瞳を見開いた七海が、直ぐに回復を施し、
「お~怖い怖い。だったら近づかないで攻撃ね」
 おどけた口調で口元を手で隠したシルビアが、ドルストリンゲンをバスターライフルで狙い撃つと、それに合わせてレオンと宗嗣が左右から攻撃を放ち、樒が続く。
「はっ、蚊の方がマシな攻撃をするぞ!」
「やらせないのでござる」
 その攻撃を鼻で笑ったドルストリンゲンが振るう斧をクナイの刃で受け止めるユタカ。
「ぬ……」
「どうした? 女子供である俺に止められたぞ? 来いよデカブツ」
 キッとドルストリンゲンを睨むユタカの前で、仲間達の連続攻撃を受けたドルストリンゲンは、ユタカを睨みつけたまま一旦距離をとる。
(「……と啖呵をきってみたものの……で、ござるな」)
 今の一撃はドルストリンゲンに、麻痺の痺れが奔った為に止める事が出来ただけである事を、ユタカは十分に理解しており小さく息を吐いた。

「どうした小童供ッ!」
「暴は凶にて止める」
 正面からの味方の攻撃をいなすドルストリンゲン。その攻撃に呼応する形で踏み込んだ宗嗣。異形のオニヤンマと空の力を宿した刃がドルストリンゲンの右肩を裂くが、シルビアの攻撃を弾いたドルストリンゲンが、返す刀で宗嗣を薙ぐ……その腕に絡まり攻撃を阻む黒い鎖。
「好き勝手はそこまでだ。盗人風情にはここで退場してもらおうか、うおっ」
 そのケルベロスチェインを手繰り寄せる誠だったが、ドルストリンゲンが腕を振るい膂力の差を見せつけられる。だが直ぐにユタカとレオンが仕寄り、ドルストリンゲンにプレッシャーを掛けると、
「眼中に無いという事ですか……見くびってくれますね」
 敵の注意が逸れた隙をついて無音で跳躍した宗嗣が、重力を宿した飛び蹴りをドルストリンゲンに見舞い、バランスを崩して一歩踏み出したところに逆側から樒が一閃を叩き込んだ。
「小賢しい!」
 ドルストリンゲンの怒声がケルベロス達の耳朶を振るわせ、誠と由宇が耳を押さえて距離をとり、頭を振った七海が回復を飛ばして戦線を支える。
「下手なカラオケを近くで聞かされた時みたいだ。耳がキンキンする」
 耳の穴に小指を入れようとしてバトルガントレットをしている事を思い出した誠は、小さく舌打ちすると、仲間達と鍔迫り合いをするドルストリンゲン目掛け再び地面を蹴る。

「おい、本当に麻痺効いてんのか! 全然変わんねぇぞ!」
「そらそらそらそら!」
 ボヤきながら両手に持った二刀一対の刃をジグザグ状に変え振るうレオンに、ドルストリンゲンが笑いながらルーンアックスを振り回す。
「清々しいまでの脳筋ね、デウスエクスでなけりゃ話の合いそー……いや、でも汗臭そうなヤツ嫌いだから無理かも。麻痺とか効いとるばいね?」
「痺れてもそのまま強引に体を動かしている印象だ。動きに無理が出ている」
 攻性植物の樹液を硬化させた『楯無』を捕食モードにして放った由宇が小首を傾げると、一閃を叩き込んで距離をとった樒が応じる。
 レオンの言う通り、ドルストリンゲンは麻痺などしていないかの様に得物を振り回しているが、麻痺で動かない腕を強引に動かしており、肉体に倍以上の負担を掛けながら得物を振るっている様である。肉体へのダメージを考えると、普通では考えられない事だ
 レオンを援護する様にユタカとシルビアが攻勢に出る中、青褐地花菱文金襴陣羽織の裾を翻して一気に回り込んだ樒が、ドルストリンゲンの側背を襲い跳び退きながら納刀すると、宗嗣と斬り結ぶドルストリンゲンがちらりと樒に視線を奔らせる。
「自慢の力に正面から斬り結ばす済まぬな。だが羅刹……悪鬼外道の輩の都合に合わせる道理は生憎と持ち合わせてはおらんのだ」
 その視線に応じた樒は、更にドルストリンゲンを撹乱すべくポニーテールに纏めた髪を躍らせ動き回り、
「無理やり動かしとるんか、お肉固くなりそうやけど、松坂牛とかよりもボリュームありそうね、いただきまーす」
 その間隙を突いた由宇が、右半身に寄生する攻性植物『兵破』を捕食形態に変え踊り掛らせた。
「まだまだ。死んだら誰でも最後は塵だけど、こんなところで倒れてられないんだよねぇ。きっちりやる事成し遂げて、燃え尽きて塵になるんだよ」
 光り輝くルーンアックスの一撃を受け一旦後退したレオンが、七海の回復を受けて息を整え、愛刃『解体者エドガー』を構えると、ドルストリンゲンを挟んで向こうに見える誠の攻撃に合わせ、踊る様に距離を詰める。

●代償
「ぬぅ……」
 転機は突然訪れた。度重なるケルベロス達の攻撃を、まるで効いていないかの如く振る舞っていたドルストリンゲンの腕と足が止まり、赤い鎧の隙間から血が滴ったのだ。おそらく麻痺しているにも関わらず強引に動かしていた事で、筋肉が悲鳴を上げたのだろう。
 麻痺をしても強引に動かす事に力を裂いた結果、その攻撃は鋭さを失いドルストリンゲン本来の攻撃力を活かしきれていなかったのかもしれなかった。
「どけぃ!」
 チャンスとばかりに攻勢に出ようとするケルベロスに、再び怒号が叩きつけられる。
「ふん、丁度良いハンデよ。さぁ掛って来い!」
 頭上で振り回したルーンアックスの石突で、ドン! と地面を叩いて啖呵を切るドルストリンゲン。
「さぁさぁチャンス到来です。一気に畳み掛けますよっ!」
 七海が拡声器を使って声を上げ味方を鼓舞し、回復を飛ばして後押しする中、由宇がふわりと舞い上がり、
「その思想ごと砕け散れ、何も出来ぬまま燃え尽き塵と化せ。君らに渡せる『もの』もめぐんでやる『もの』も此処にゃ何一つないんだよ」
 レオンがその想いを具現化すべく精神を集中する。
「ではその勇ましい姿のまま石像にしてあげるよ。動けないようにしたらどうなるのかな~♪」
「貴様には矜持の光、その欠片も見受けられん。故に、振るう其れは武威に非ずただの蛮勇……だから、私が教えてやる……護りたいという祈りの力が如何に強いかを! いざ、右近の歌芸、百千鳥花を武心に舞う」
 ピンクの髪を揺らしたシルビアが詠唱を口ずさむと敵を石化させる魔法光線が放たれ、その光線にドルストリンゲンの気が逸れた一瞬の隙を突き、樒が剣舞を舞うが如く一気に仕寄る。
「そこっ!」
「なにっ!」
 ドルストリンゲンはシルビアの放った光線を撃たれるに任せ、樒目掛けてルーンアックスを今まで以上の速さで振り下ろした。斬る為に振るう筈の刃を頭上に掲げ刃を受ける樒。刃は止めたものの、その力に片膝をつきルーンアックスに纏う呪力が樒の体を蝕む。
「散るまで力振るい続けるは見事ござる……だが、それもここまで俺が止める」
「一凶……その目を見開いてとくと見るがいい」
 だがそこに間髪入れず、三色毛を棚引かせたユタカと黒き迅雷となった宗嗣が、挟み込む様に同時に斬り掛る。
「……灼き、貫け!!」
 その攻撃を受け、樒を押さえ込んだまま顔を向けたドルストリンゲンに聞こえた声。
「うぐっ……」
 誠の投じた投槍がドルストリンゲンの左肩を貫き、思わず呻いたドルストリンゲンが蹈鞴を踏む中、転がり逃れる樒に七海がルナティックヒールの光球を飛ばし、
「鎧ごと、そのガチムチボディ両断してあげる!」
 桜華と月華を手にして飛ぶ由宇が、神滅の一閃を叩き込んだ。
「くっ……小娘が……」
 刻まれた死の刻印と体に奔る痛みに、ついにドルストリンゲンが片膝をつく。
「その思いは届かず、その言葉もまた届かない。だが諦観は許されない。さあ走れ走れ届かぬモノに手を伸ばせ、塵でしかない我が身のように」
 荒く息を吐いたドルストリンゲンが聞こえた声に顔を上げた瞬間。
 飛来した紅蓮の魔槍がその胸板を貫いた。
「なっ、ばか……な……」
 暗くなってゆくドルストリンゲンの瞳には、その魔槍を投じた男の白い三つ編みの髪が揺れる様が映っていた。

 麻痺をはじめとした多重に掛けられたバッドステータスが、勝敗の決め手となった。
 もしまともにぶつかっていれば、全員無事とはいかなかったであろう。だが戦いに『もし』はない。結果が全てである。
 左右を見渡せば、アグリム軍団の大半は撃退出来ている様であるが、他の部隊が撤退の声を上げながら多摩川を越え下がっていく。
 この撤退は擬態。
 敵の指揮官イグニスに、ケルベロス達は多摩川を越え敗走したと思わせる事が出来れば、侵入部隊も動きやすくなるだろう。
(「頼んだぞ」)
 君たちは他の部隊に続き、ガイセリウムに侵入する仲間達の無事を祈りつつ多摩川を越え退却するのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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