レストア・カーは振り向かない

作者:baron

「また車ですか?」
「煙草や酒の代わりだと思えば、いいじゃないか。勝手に捨ててくれるなよ」
 屋根付きガレージの中で、初老の男が旧式の車に向きあっていた。
 ソレは既に生産されてはいない20年ほど前の……、とある有名な国産車を、まだ動く廃パーツを購入しながら組み立てて居るのだった。
 クラシックカーというには年式が足りないので自慢できる相手も少なく、エンジンやらターボに全てを賭けたせいで、燃費も悪ければ調度品も悪い。
 車のパーツも全て揃うとは思えず、挙句の果てに……、完成したとしても、彼の腕では扱い切れない性能なのは間違いが無い。

 見果てぬ夢とは判っているが……。
 男が苦笑して頭を上げて、気分転換に背筋を伸ばそうとすると、そこに見慣れぬ少女が立っていた。
「だ、誰だね!?」
『完成させるまでが楽しいって事? それとも車は自分で走らせて楽しいのに、誰かに頼むわけ? ……あんたの愛って、気持ち悪くて壊したくなるわ。でも、触るのも嫌だから、自分で壊してしまいなさい』
 少女は男の質問には答えず、手にした鍵で胸元を深く突き刺した。
 そして倒れる男の脇には、ヘルメットにツナギ姿をした何者かが立っていたのである。
 その姿はまるで……カーレーサーのようであり、それをデフォルメした姿はどこか怪人にもみえる。愛を表す胸元にはモザイクが掛っていたと言う。

「見返りの無い無償の愛を注いでいる人が、ドリームイーターに愛を奪われてしまう事件が起こっているようです」
 セリカ・リュミエールが、そんな風に話し始めた。
「愛を奪ったドリームイーターは『陽影』という名のようです。彼女の正体は不明ですが、奪われた愛を元にして現実化したドリームイーターが、事件を起こそうとしているようです。まずは手近に居る相の対象を、そして類似した物を手当たり次第に……」
 愛を奪われる被害者を、これ以上増やさない為にも、ドリームイーターを撃破をお願いします。このドリームイーターを倒す事ができれば、愛を奪われてしまった人も、目を覚ましてくれるでしょう。
 セリカはそう言って、今回の対象に付いて整理し始めた。
「今回の対象となったのは、20年ほど前のスポーツカーをレストアしようとした男性のようです。ゆえにドリームイーターは、近くの廃車工場に現われる可能性が高いでしょう。能力自体は良く見られる……夢や平静を喰らい、心を抉るドリームイーターの様です」
 そう告げた後で、セリカは少しだけ付け加える。
 最初に自分のレストア車を破壊した事で、もっと広い範囲で別の対象を狙っている可能性もあるからだ。
「既に破壊した後ですので、範囲が広くなる可能性もありますが、一般人よりも愛の大きなケルベロスのみなさんならば囮に成ることが可能でしょう。その場合は手配しておきますので、……やはり廃車工場に誘き寄せていただけると幸いです」
 レストアした車を見掛ければ反応するだろうし、車を操る実力の無い男性の愛を元にした対象である。ケルベロスの持つ愛、そして……速度への耐性・バランス力で軽快に車を操る姿を見れば、強烈に引き寄せられる可能性もあるだろう。
 その上で、もともと現われる可能性の高い工場を基点に動いて居れば、かなり出現場所を絞ることができるに違いない。
「なるほどねえ。オジサンも恰好よい車に憧れたこともあるし、気分と無念さは判るなァ。そんな奴は許せないし、いっちょ手助けするとしますかね……。愛を抜きだされたって人を解放するにも、車のパーツの手に入る工場で戦うのはいいかも……いや、オジサン自身の興味もあるけどね」
 高円・美里彦(オラトリオのガンスリンガー・en0043)がウンウンと頷いた。
 当然ながらデウスエクスは放置できないし、彼と同じ様に、車も好きな人間には、助けてあげたい心境なのかもしれない。
 スケジュールの合うケルベロス達が話しあい、現地に移動することになったという。 


参加者
ランコード・バックミンスター(猫は死なずに今を生きる・e00326)
寒島・水月(吾輩は偽善者である・e00367)
桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)
柊・乙女(黄泉路・e03350)
丹羽・秀久(水が如し・e04266)
立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)
シェーロ・ヴェントルーチェ(青空を駈ける疾風・e18122)

■リプレイ


「せっかくですから撮影したいのですが」
 古ぼけたカメラを手に、丹羽・秀久(水が如し・e04266)は古ぼけた車に向かい合った。
 まるで古き良き昭和の景色だ。
「構いません。ちょっとその辺を流してきますね」
「いってらっしゃい」
 立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)が快く諒解すると、秀久は苦労して微調整を重ねた。
 自身もカメラを扱う彩月は、タイミングを撮り易い位置に合わせる。

 やがてフィーンという小気味良い音が奏でる。
 犠牲者のおじいさんの車仲間が用意してくれた、同じ形式の車という話だ。
「エライ勢いやな。せやけどええ音や。せっかく直しとるもんをまた壊されたらたまったもんやないな」
「自分は車については詳しくはわかりませんが、あのおじいさんがどの位、車を大切にしていたかはわかります。それを悪用するのは許せないです」
 桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)はオムスビ型エンジンが奏でる音に耳を澄まし、秀久はなんとか写真を撮り終えた。
「判る判る。正直車のことってあんまわかってないんだけど、大事にしてるって想いは伝わってくるんだよな……」
「そうだねえ。普通は売ってる車を、自分で直してくってのは、気の遠くなる作業だよ」
 だからこそ、こんな事件を引き起こしたドリームイーターは許せないよな!
 シェーロ・ヴェントルーチェ(青空を駈ける疾風・e18122)と高円・美里彦(オラトリオのガンスリンガー・en0043)は周囲の確認しながら、仲間達と同じ様に走り去る車を眺めた。
「まだ見れないの?」
「無茶言わないでくださいよ。デジカメとは違うんですから。……でも、良い物ですよ」
 シェーロの無茶ぶりに秀久が苦笑いを浮かべると、肩をすくめてカメラを仕舞いこんだ。
「んじゃ次の被害が出る前にきっちりカタをつけんとな!」
 ナギはそう言って出迎える場所を探し始めると、何人かが外された古タイヤの山に登って、密かに周囲の監視を始めた。


「囮の方は無事に行ったみたいだよ」
 表口方面の一般人の避難を終えたシェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)は、一足早く仲間達の元に戻って来た。
 敵が来る前に誘導と、戦場となる工場回りの確認をし終え……。
 そこで見知った顔を見つけて、声をかけて見た。
「一部気合いが入っている人がいるみたいだけど……さてさて。無茶はしないといいんだけどね」
「なるようにしかならん」
 シェイが声をかけると、喫煙可と書かれた場所で柊・乙女(黄泉路・e03350)は紫煙をくゆらせる。
 そして密かに可愛がってる弟分のことを一言で切り捨てると、大きく息を吐きだした。
「寒島の事は寒島が解決するだろう。だいたい車なんぞは輪をかけてどうでもいいが、敵の方が気に入らん。それだけだ。愛したものを自らの手で破壊させようとするその性根が、どうにも気に入らない」
「そうだね。さっさと倒すとして……とりあえずトドメは寒島さんたちに譲るよ」
 乙女のぶっきらぼうな態度は、むしろ気にかけている証拠だろうか?
 とは流石にシェイも口には出さなかったが、気分は判らないでも無い。
「こちらは準備完了だよ。あとはお客さんが来るのを待つばかり」
「なるほど。それならば暫くすれば敵影を見つくろえるだろう。周囲には目立つ物は何も無いし、おあつらえ向きに監視装置もあるからな」
 シェイが報告するとランコード・バックミンスター(猫は死なずに今を生きる・e00326)は力強く頷いた。
 施設の目的上、騒音と車の移動を考慮して、高速道路の近くで周囲には何も無い。
 加えてパーツ泥棒のみならず、近年では鉄・銅の泥棒対策に監視装置が充実していた。

 そして奥の方で、裏口を封鎖して来た最後の一人に声をかける。
 その少年は封鎖線のテープを張り終えて、軽く頷き返した。
「これで万全だね。あとはいつも通りに……何とかしましょう」
 少しだけ口調を整えながら、寒島・水月(吾輩は偽善者である・e00367)は表情だけは微笑んだ。
 目だけは決して笑わないまま、目線を交互に監視カメラと外へ這わせる。
 まだまだ現われるはずもないが、ついつい意識してしまうのだ。
「……よもや陽影の名を聞くことになるとはね。この件で、これ以上被害者を増やさせはしない。仲間も絶対に守る。絶対に、だ」
「(やはりか。水月くんに縁ある敵と聞いて参加したが……)」
 決意を秘める水月に対して、見守るランコードは堅い物を感じていた。
 それが意志の強さゆえならば構わないが、気負いこんで居るのであれば、手助けする必要があるかもしれない。
 杞憂になればいいがと思いつつ、余計なお世話にならないようにとランコードは言葉を飲み込んだ。
 苦労を背負いこむ行為ではあるが、先達とはそういうモノではないか。


「ここまで一分一秒にこだわるものなのかな。御買物とかも楽しそうだけど」
 適当に走らせてきた彩月は、帰還中に2つの事に気が付いた。
 1つは高速運転に念頭を置いた無茶苦茶な性能……、似たような車に乗ってる、決して兄が触らせてくれない訳である。
 リッター5キロ前後でハイオクを消費するモンスターマシンなんか、いまどき滅多に御目にかかれない。
 そして……。
「カメラ小僧ならぬ歩行レーサーなんて奇妙な存在は、他には居ないでしょうし……ようやく食いついてきたということで、しょう、か。か~か、あ~~!!」
 彩月はそういって、ドリフトする前に通信を入れた。
 そう、気が付いた2つめとは、敵の姿である。
 高速で走る車を観察し易い場所に、カーレーサーの様な姿を見かけたのである。なお、不慣れな事と注意がそれた事も重なり、ドリフトに失敗。立て直しながら思わず絶叫してしまった。
「こちら待機班。……いま、なんか妙な動きしなかった?」
「え、ええ。……車は好きだしドリフトのやり方は知っているとは言ったけど、慣れっこだからとか一言か言った? それはともかく、お客様をエスコートしますね」
 通信に出た美里彦の問いに対して、彩月はいまの絶叫を聞かれなかったかな?
 と、顔を盛大に赤くしながら、助手席に誰も居なくて良かったと思いつつ、絶叫自体は、しらばっくれるにした。

 そして彼女から連絡を受けた秀久は、仲間達に連絡して出迎え態勢を整える。
「えーっと。ペースとコースを選んでこっちに釣れてくる予定みたいですね」
「予定通り囮に食いついたようだね。なら次は、借り物の囮が傷つかないように歓迎しないと」
 積まれたタイヤの上から確認する秀久の報告に、水月はつとめて冷静に振る舞いながら、内心の脈動を感じていた。
 遠くから聞こえるエンジンの迸りが、彼にも伝播したようだ。
 いや、実際には、この事件を聞いた段階から、その気になっていたのだろう。
「敵の注意を引いておく、足止めでも狙うか」
「と、言う訳だシェイくん、シェーロくん。我々は突っ込んで彩月くんや車を盾に成るから、後は任せたぞ」
「「了解」」
 話を聞いて、乙女とランコードが少年の脇に立つ。
 今にも突撃しかねない彼の代わりに……いや、彼をサポートすべく戦場で肩を並べるつもりなのだ。
「先生……。それにシェイくん達まで」
「みんなを守るんだっけ? 守ってもらえるのはありがたいけど、無茶はしないようにね」
「そうそう、水臭いぜ。ケルベロスは全員仲間だから、フォローし合うもんだしな」
 水月が仲間達を振り向くと、大人たちは黙って半歩前に出る。
 背中で語る彼女らのみならず、配役を振られたシェイとシェーロの二人も、気の良い返事を返し拳を打ちつけて戦意を示す。
 シェイは先ほどの仲間を絶対に守るという言葉を引き合いに出して誤魔化しつつ、シェーロも良く判らないなりに、必死さを察して古タイヤの山から飛び降りた。
 どうやら車が戻って来たらしく、タイヤの上で見張りをする必要もなくなったのだろう。


「おまたせ。途中のS字で狙われないように苦労したけど、こっちに誘き寄せれたはずよ。後はお願い」
 そして唸りを上げてスポーツカーが還って来ると、バタンと扉が開いて、彩月があわただしく駆け降りて来た。
 以後は武装を展開しつつも、一同の中央で治療役に徹する予定である。
「お疲れ様。カメラでも敵影を確認したよ、車は移動させておくね」
 美里彦が防犯カメラの1つを指差すと、遠目に人影が見える。
 一般人は避難しているはずなので、アレは敵に間違いあるまい。
「おっし! 気合い十分、完全復活や! デウスエクスでもなんでもどんと来いやー!」
 病み上がりのナギは、ようやく本調子になった身体を確かめつつ準備体操して今から全力である。
「いっちばん乗りー! ふふん、病み上がりなんにバッチシやな! って、どこ行く気だ」
 そして、工場内に誰かが姿を現した時、まっさきに飛び出して挑みかかった。
『見付けたー!?』
 飛び蹴り気味にカカト落しを放つナギに対し、ドリームイーターはいかにもな対応を取った。

 反撃するのではなく……、熱気冷めやらぬスポーツカーに攻撃をかけたのである。
『やっと見つけたぁ! でも、なんで俺のじゃないんだー!?』
「させない! これ以上、思い出を壊させたりはしない! これならどうだい?」
 放たれるモザイクに、待ち変えていた水月が踊りかかって途中で迎撃!
 そして無数の紙をバラまき、仲間たちやスポーツカーの偽物を作り上げ始めた。
「ここで囲い込む。射線を遮れば余計な悪さはできまい」
「了解。借り物を壊しても後味が悪いしね。冷えてきたから、手っ取り早く片付けようか」
 ランコードは退路を断ちつつ剣を大地に突き刺し、星降る結界を周囲に構築。
 偽兵士と星の輝きで構成された陣営の中から、シェイが不敵に笑って飛び出した。
 そして鍵持つ敵の腕を片手で跳ねあげると、握り込んだ拳を介して重力を送り込んだのである。
「傷はともかく症状は軽いか。ならば予告通りに足止めと行こう」
 乙女は火の付いた煙草を握り潰すと、放り投げると同時に重力の鎖を現出させた。
 いまはまだ、少年の傷は心の疵にまでは至っていない。
 ならば放っておこうと心に決めて、編みこんだ鎖を引きこみつつ、吐息を煙草の残骸に吹きかけて、炎熱を再現した。
「余計な事をする前に、ここらで消えてくれないかね? そこの煙草の様に」
 乙女は先ほど指で潰した炎の痛み、そして吸いこんだ紫煙の熱を思い出す。痛みの記憶と連想から来る見立ての方式は、御業を用いてどこか呪術めいたカタチをしていた。
 煙草の残骸が燃え尽きると同時に、周囲から炎熱の災いも綺麗に消え失せる。
「うーん。随分と大人しいなあ……車のパーツに満足してるのか、それとも何か狙ってるんですかね?」
「その辺はこちらで対処するわ。攻撃の方をお願い」
「ほーい。回復足りない時は、いつでも言ってねー」
 秀久が声をかけると、彩月は治療に取り掛かり、仲間達は攻撃に専念させる。
 彼女の配慮をありがたく受け取って、シェーロ達は飛び出して一気に攻め立てた。
「そ-れっっと! そっち回ったよ!」
「はいっ。イメージ通りの早さですが、逃がしません」
 シェーロが繰り出す稲妻の如き突きの後、敵は高速でステップ踏むと、車では無く二本脚のダッシュでドリフトを駆ける。
 そこへ秀久が飛び込んで、回し蹴りを浴びせつつ蓋をすると、シェーロが追い掛けてきて重力を乗せた剣を叩き込むのであった。


『見付けた。見付けた、こんなモノを、見ぃぃつけた~アハハ』
「っ!? ひ、かっ……『銃拳格闘術が弐の型――弧月爪』これで消えてしまえ!」
 レーサーのようなドリームイーターが鍵を水月の胸に突き刺した時、少年のポーカーフェイスが、目に見えて崩れた。
 冷静に振舞っていた彼の手が、血が滲むほどに銃を握り締める。
 そして銃を撃ち放つのではなく、乱暴に銃把で殴りつけた。もし、平静で有れば居合いの如く、軌跡すら見えなったであろうが……。
「一体なにが……」
「フン。トラウマに囚われたな。何が見えているのかしらんが……『お前はまだ、戦える』汚染には汚染で対抗すれば良いだけの話だ」
 乙女はツカツカと少年の元に歩み寄ると、心の疵を癒すのではなく、喰い殺し始めた。
 白い指の影が百足のように動き出すと、掴んだ頭を不気味に周回する。
「目が覚めたか? なら仕事をしろ。他人の思い出を問診するような趣味は無いからな」
「……了解。跡形もなくしてやる」
 乙女のアイアンクローを熱く感じる奇妙さに苦笑して、水月は狙いを済ませる。
「どうした水月くん? 君らしくもない。焦っては勝てる相手にも勝てなくなるぞ」
 強い言葉からランコードは少年の心を洞察すると、ポンっと肩に手を置いた後で、お手本とばかりに得物を構えた。
 それはまさしく彼が放とうとした技で、達人の如き構えは彼を冷静にさせる。
「そうですよ。ここで焦って倒れたら、あの人の悲しみはまだ続いてしまうわ。堪えて!」
「……っ」
 投げかけられた彩月の言葉は温かく、少年が忘れ始めた、最初の目的を思い出させる。
「んじゃ、こっちが先に行くから後から来なよ」
「といっても遅すぎたら、先に喰っちまうけどな。『霧散、循環、流転、昇華――一切合切制すべし! ガルド流真療術、竜嚇散!』ガルド流の槍さばき、受けてみいや!」
 シェーロが二刀を共鳴させて霊波を放つと、ナギはロッドを構えて前に出た。
 跳躍してかわそうとする敵の足を狙うと、避けれぬよう、逃げられぬように穿った。
「これが終われば一段落だ。どっか食べに行くかい? 寒島さんの奢りでね」
「いいですね、みんなで記念写真も撮りましょうか。……倒せなければ後はお任せしますね」
 シェイが後ろに回り込んで、大鎌で敵の生命のみならず退路を断つ。
 彼の軽口に応じて秀久は頷き、最後の一撃に取りかかった。
 トドメには若干早い様な気がするがそれも良いだろう、それは死にフラグではなく、約束された復讐への一撃である。
「わかったよう、もう! 僕が全部奢ればいいんだね? これで、終わりだ!」
 最後に水月が、鉄拳を防いだはずの敵の元に歩き出した。
 もはやこの敵を、宿敵たる相手と見間違う事は無い。
 ゆっくりと首を刈り、戦いを終わらせたのである。

「……あいつだけは……僕のこの手で決着をつけます」
「(どんな結末にであるにせよ、水月くんが辿りつけることを祈っておこう)」
 仲間達があえて陽気に車の話を始めるなかで、物陰で少年は呟いた。
 先生と呼ばれた漢は、口には出さずそっと見守る。
 少年は預かり知らぬ事だが、他にも同様の事件が頻発したと言う。
 この事件の後か、それとも別の事件か……。
 だが、必ず辿りつけるものと、大人たちは信じていた。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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