多摩川防衛戦～猛き真紅の騎士

■リプレイ

●一斉砲撃！
　日は少しずつ傾いてきている。
　それでもまだ、夕方というには早い時間だが、空が曇っている為、周囲は薄暗い。
　東京都を流れる多摩川。ここが現状、都心部を守る為のケルベロス達の防衛ラインだ。
「多摩川を背に布陣。ですが……、まさに『背水の陣』ですね」
　古海・公子（地球人のウィッチドクター・e03253）は、ずらりと並ぶ多数のケルベロスを見てそう考える。
「ええ、さながら背水の陣……。でも、ここを貫かれるわけにはいかないという意味では、まさにうってつけの布陣ですね……」
　近づく地響きの音に、ルチル・ガーフィールド（シャドウエルフの弓使い・e09177）は緊張を隠せないようだが、それでも気を引き締め、近づきつつある敵を真っ直ぐ見据える。
　近づいて来るのは、人馬宮ガイセリウム。四本の脚を生やした移動要塞が多摩川目指して歩いてくる。
「殺戮は絶対に防ぐのは当然にしても、全員何とか帰れるようにしなくては……」
「沢山犠牲を出すわけにはいかないしね……」
　公子の言葉に、ベルフェゴール・ヴァーミリオン（未来への種・e00211）も頷く。全体に関わることだからというだけではないが……、気を引き締めて戦い、しっかり勝利したいとベルフェゴールは主張する。
「『宝』を背にして、『勇者』の前に立ちふさがる。黄金竜の本領発揮だねぇ」
　黄金の竜、ガロンド・エクシャメル（愚者の黄金・e09925）が背負っているのは、首都圏。そして、沢山の人々……ケルベロスにとっての宝だ。
　近づいて来る人馬宮ガイセリウム。誰からともなく放たれた射撃に続くようにして、ケルベロス達から遠距離攻撃が放たれる。
「ＡＤＷＣＳ起動……、撃て！」
　こちらのチームもガロンドが先んじて動き、ミミックから巨大な砲塔を具現化し、冷凍光線を放射する。
　もちろん、他のメンバーもそれに合わせていた。忍乃・飛影丸（ダークブレイズ・e09881）も、タネガシマ・ライフル……火縄銃型バスターライフルを携え、凍てつく光線を浴びせかけている。
「龍よ、黒き龍よ……。我が瞳に映る我ラガ敵ヲ……其乃鋭キ牙ノ餌食トセン！！　暗技、龍乃顎！！」
　ルチルは自身の前に魔法陣を展開する。それを目がけて妖精弓から矢を射ると、魔法陣をくぐった矢は黒いオーラを纏い、まるで黒い竜のようになって飛んでいく。
　丸口・二夜（丸口の狐の方・e17322）は半透明の御業から炎弾を放ち、ベルフェゴールは地面を蹴りつつ、蹴りを繰り出そうとローラーを滑らせて突撃していく。
「殺戮は絶対に防がなければ。赤鎧共に私達の強さを思い知らせてやろう」
　エルボレアス・ベアルカーティス（治療狂い・e01268）も一斉射撃に参加しようとするが、考えていた攻撃では届かない。ならばと、ウイルスカプセルを投射することで、対応する。
　そして、大粟・還（クッキーの人・e02487）。自宅警備員の彼女は、こう考える。この戦いにおいては、多摩川から向こう、都心全てを『自宅』としようと。
「とても広くて、守りがいがあるってものです」
　還は２台の改造スマートフォンを操作し、敵の炎上を試みる。
　数え切れないほどのグラビティにさらされたガイセリウムだったが、土埃が収まると……、驚くべきことに、傷一つ負ってはいなかった。
　だが、ガイセリウムはその侵攻を止めていた。防御の為に、相当量のグラビティを要したのだろう。
　そして、その中から飛び出してきた、エインヘリアル達。真紅の鎧を纏った、アグリム軍団である。

●河原での戦い
　ガイセリウムが止まって数分。こちらへと赤い群れが迫ってくる。
　最初、気づくことは無かったが、それら……アグリム軍団が近づいて来ると、ケルベロス達もその侵攻を認識する。その１体に対し、１チームが迎撃へと当たっていく。
「ドーモ、アグリム軍団・サン。ダークブレイズです」
　飛影丸が口上をあげて突撃する。こちらのチームメンバーもそのうちの１体に狙いを定めていた。身体にオーラを纏う、大柄の戦士。見た目だけでは、他チームの相手する戦士と判別はつかないが……。
「なかなかデカいよね……」
「大きいし、強そうだねぇ」
　ベルフェゴール、二夜の２人は相手にそんな印象を抱くが、まるで動じてはいない。
「でも、負ける気はないんだけど……ね……」
「呪いにガタイは関係ないから、怯える必要はないねぇ」
　そいつは早速、音速を超える速さの拳を振り上げてくる。それは、ウイングキャット、るーさんが受け止めてくれた。
「それにみんながいるから大丈夫！　だねぇ！」
　頷くケルベロス達。元より、誰も負けるとは考えていない。
　ベルフェゴールは早速、敵の動きに注視しつつ、２丁のリボルバー銃を握りしめ、目にも止まらぬ速さで弾丸を撃ち出す。
（「この敵を倒せないなら、宿敵も倒せない」）
　ガロンドは敵へと接近し、またも砲塔を敵へと向けた。改めて仕掛けるその一発は、赤い鎧の一部を凍り付かせる。
　それに、ガロンドの後ろには……。
「さぁ、貴方の最後を楽しみましょう？」
　初の純戦依頼を心待ちにしていた二夜。彼女は回復をメディックに任せ、自身はスナイパーとして位置取り、その恩恵で定めやすくなった狙いで、二夜式呪詛刀を握って赤い鎧に穴を開けようと刻む。
　唯一中衛として動くルチル。河原で敵を狙う為、安定した足場を見つけだす。臨機応変さを求められる中衛。仲間と敵の状況を確認しつつ、次なる挙動を考える。
　エルボレアスはその後ろから、敵に向けて飛び出す。先に敵が動いているならば……。エルボレアスは電光石火の蹴りを繰り出し、敵の鎧の隙間を狙う。
　二夜、ルチル、エルボレアス。ガロンドは、頼もしい仲間を背に、戦い続ける。
（「これで無理なら、僕はそれまでだねぇ」）
　だからこそ、この場を全力で死守しようと、彼は考えていた。
　回復役としてはもう１人、還が立ち回る。
（「守っている『自宅』は自分の畑……なんですが」）
　この状況に置いては、そこだけを守ればいいとは言っていられない。
「今日は特別です。私の後ろにある風景も、共に戦う仲間も、全て守ってみせましょう」
　還はスマートフォンを操作する。ケルベロスたる還ならば、画面に打ちこむ文字がグラビティとして力を発揮し、仲間達を優しく包み込む盾となる。彼女のサーヴァント、るーさんは前に出て、尻尾のリングを光らせて仕掛けていた。
　ケルベロスの防壁は堅い。飛影丸もまた、その一角として布陣する。彼女が使うのは、全身から吹き上がる紫炎。それに。
「ハイクを詠む準備はＯＫデース？　ミー達でカイシャクしてあげマース！」
　彼女は３メートルもある敵の身長よりも高く飛びあがり、流星が煌めくような飛び蹴りを食らわせる。その型は、彼女が修める体術、ブレイズカラテをベースとしたものだ。
　アメリカンニンジャの飛影丸。彼女はその２種を中心とし、攻撃を行うが。仲間の防壁となることも忘れない。
　公子は真っ赤な敵に向け、ドラゴンの幻影を飛ばす。鎧に炎を灯した敵。そいつは拳を振るい、オーラの弾丸を繰り出す。今度はミミック、アドウィクスが受け止めてくれたが、箱がきしむほどに強烈な一撃だ。
（「味方からも忌み嫌われるほどの、破壊力ですか」）
　制御の効かないモノほど、面倒なものは無い。公子はそう考える。そして、彼女は手にするゴム栓付きの試験管に視線を向けた。
「確実に格上、ですねこれは。……とはいえ」
　キッチリ生きて帰る。公子は改めてそう意気込むのである。

●赤き騎士の力
　アグルム軍団の１人との戦い。
　できるなら、短期決戦。そう意気込む還は後衛からの援護でそれを目指す。
「適度な雨は必要ですよね」
　彼女の祈りは豊作の願い。それは、恵みの雨となって仲間へと降りそそぎ、敵を倒す為の力となる。
「ありがとねぇ」
　それを浴びた後方の二夜。彼女もまた早期決着を目指し、敵の鎧を砕き、炎を浴びせ、敵の動きの阻害を試みる。
「好きにはやらせないんだよねぇ」
「その通りです」
　ルチルが続く。彼女は平静さを保ちながらも、彼女はふわふわした見た目と反する、鋭い一撃を繰り出す。彼女が振りかざす矢での斬撃は的確に敵の鎧の隙間を狙い、敵本体に傷をつける。
　一見、ケルベロス達は順調に攻めたてているように見える。だが、８人でかかっているにも関わらず、鉄壁の鎧を持つアグリム軍団の男は、まるで堪える様子を見せない。
「一匹狼と聞いてたけど、全然大したことないねぇ」
　敵のオーラを受け止めたガロンド。思ったよりは大したことがないと割り切り、敵へと言い放つ。
「単に君が弱すぎて、誰も君と組んだり、相手にしてくれなかっただけじゃ？　どっかの第一王子みたいに」
　だが、その一撃は決して軽くはない。ガロンドは気丈に耐えている。
　前線で耐えているメンバーの負担は大きい。序盤は数で何とかなってはいたが……。
　問題はチームの火力だった。メンバーの大半が後衛。せめて１人が火力となっていれば、ダメージソースとして活躍できただろうが……。
　結局、耐える布陣で戦いを繰り広げるメンバー達。だが、徐々に、消耗戦の様相を呈してきていた。戦いが長引けば、ケルベロスにとっては不利となる。
　盾となっていたサーヴァント達。ウイングキャット、るーさんは回復の合間にリングを光らせて攻撃を行っていたが、敵の気弾に食らいつかれ、姿を消してしまう。
　そして、ミミック、アドウィクスも敵の拳に殴りつけられ、耐えることができずにその場から吹き飛んでしまう。
　さらに、敵の猛攻は主、ガロンドにも及ぶ。赤い騎士は黙したまま、そのオーラを、拳を振りかざす。
　仲間の支援は万全だったとガロンドは考えている。それでも、力押しで攻めたてる敵はあまりに強かった。
　とだえる意識。だが、ガロンドは倒れない。彼は棒立ちのまま、地に伏せることを拒んだのだ。
「…………っ！」
　冷静さを失わないようにと心がけていたルチルだが、茶飲み友達が動かなくなったことには、さすがに悲痛な声を漏らしてしまう。
「癒しきれねぇのかよ……！」
　真剣な表情のエルボレアスは歯噛みし、悔しがる。回復役ではあるのだが、彼はローテーションで攻撃も行う。
「喰らった病を存分に放出せよ――」
　エルボレアスは小さい犬の形に変質させたブラックスライムを、敵へとけしかける。そいつは騎士の体内に潜り込み、それまで食らった汚れを放出した。
　そして、残された最後の盾、飛影丸。彼女は大きく吠えた。
　全力で攻撃するわけでなく、守りにも気を配っていた飛影丸。火力以上に、壁として専念することで、戦線を持たせていたのだ。
「まだまだ、これからデース！」
　それを見ていた公子は、敵の足止めをと敵の足元に仕掛けた地雷を爆発させる。
（「必勝は絶対！　……とはいえ」）
　敵が怯んだ隙、公子がふと考える。
「絶対は無い……。暴走の出番がなければ良いのですが」

　その後は、耐える飛影丸の傷を、メディック２人が回復する。
　エルボレアスは最高の施術を彼女に行う。戦闘のエキスパートである彼のプライドが、これ以上の犠牲者を出すことを許さないのだ。
　還もほとんど口を開かないが、メディックとしての責任感を強く持つ彼女もまた、優しい世界を展開することで前列を全力で支える。
「……無理はしないで」
　還を気にかけるのは、横に立つベルフェゴール。同じ旅団の仲間が気になる様子だ。
　もちろん、ベルフェゴールも攻撃の手は止めない。新たに倒れる者が出る前に。
「敏捷……効いているね」
　ベルフェゴールは試しにと重力を宿した蹴りを叩きつける。
　更なる足止めを受けたアグリムの騎士。鎧は傷つき、その中からは荒い息遣いが聞こえてくる。
「デウスエクス殺すべし、慈悲は無い、デース」
　耐えるだけではない。飛影丸は全身の炎を燃え上がらせた。
「ハァーッ、イヤァーッ！」
　彼女はそのまま敵の巨体をつかんで天高く舞い上がり、錐揉みしながら落下して相手のみを地面に叩き付ける。これぞ、彼女曰く、『ヘル・カトン＝ジツのヒサツワザ』である。
　だが、それでも倒れない。敵はどれだけタフなのか。
　盾となる仲間が減り、攻撃は後ろにも飛んでくるようになる。
「ぎょぇぇ！」
　叫び声を上げる二夜。彼女的にはきつねの叫び声らしいがそれはさておき。オーラの弾丸に体を食らいつかれ、体力を大きく削られる。……しかし。
「……絶対に、ここを通さないんだねぇ」
　二夜は呪紙をキツネの影に変えて。影が騎士に触れた瞬間。二夜はかすかに狂気的な笑みを浮かべた。
　騎士は二夜の思惑通り、幻覚に襲われていた。敵の微妙な変化。それをルチルは見逃さない。
「これが、貴方の蔑んだ……わたし達の絆の強さです！！」
　ルチルは崩れる敵の鎧からこぼれ出る肉体目がけ、矢を射ぬく。心を貫く矢。それは、弱った騎士を催眠状態に陥れる。
　……そして。
「この試験管に干渉できるは、この世の理と私、のみ！」
　公子は怪しい化学反応を起こす試験管を騎士へと叩きつける。その中身は騎士に触れると同時に爆発を起こす。
　それがトドメ。騎士は大きく上体を揺らがせた後、重い音を立てて多摩川の河原に沈んだのだった。

●これは敗走ではなく
　アグリム軍団の１人を撃破したケルベロス達。概ね、他のチームも大勢が勝ってはいたようだだが、あちらこちらで被害も出ているようだ。かくいうこちらのチームも、１人、倒れてしまっている。
　公子が立ったまま意識を失っているガロンドへとヒールを施すと、ベルフェゴールが彼を連れていこうとした為、公子もそれに手を貸していた。
　ほとんどのチームはガイセリウムから背を向けて移動を開始している。こちらのチームもまた、消耗が大きいこともあり、周りに合わせて撤退することにする。
　この光景は、相手にとっては敗走と見て取れたかもしれない。だが、それこそ、ケルベロスの思惑通り。
　ガイセリウムへ侵入するチームの成功を信じて。ケルベロス達は多摩川を越え、この場から引き上げていく。
　空は今なお薄暗く。それは、ケルベロス達の行く末の暗示か、それとも……。

作者：なちゅい	重傷：ガロンド・エクシャメル（災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年1月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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