多摩川防衛戦～報復の剣

■リプレイ

●一斉砲撃
　ガイセリウムの進路に立ち塞がるように、大勢のケルベロス達が集結していた。敵の脅威を目前に、想いは弛まず。この正念場、一丸となって人々を守り切るべし。
　ここに参陣する、一つのチームがあった。
「また大きいのが出てきたものですね……」
「ふわぁ、すっごい大きいのが来たね……」
　シグナル・ランフォード（赤ノ斬リ姫・e02535）と伊佐・心遙（ポケットに入れた飛行機雲・e11765）がぽかんと見上げて口を揃えた。視線の先では、ガイセリウムが家屋を石ころのように蹴飛ばして進軍してくる。
「ここを越えられたら……、想像もしたくないです……っ！」
　地面から伝わってくる振動が、敵の強大さを知らしめてくる。吹春・こなえ（未熟な電子管楽器奏者・e00255）は顔を青くした。
「越えられなければ良いんだぜ」
　トライリゥト・リヴィンズ（炎武帝の末裔・e20989）が、不敵に白い歯を覗かせた。
「あはは！　そうだね。でっかいからいいってもんじゃないんだよ。絶対に止めてやるんだからっ」
　気持ちのいい一言を聞いて、心遙が元気に笑った。
「はい。絶対に止めましょう。例えこの先に知人がいなくても。止められなければ哀しみは発生しそれは伝播して、私の大切な今を確実に侵します……」
　かつて芽生えた心が、生活を守れと強く主張する。シグナルが赤斬姫を装備した。
「油断せず、気を引き締めてまいりましょう」
　気丈に言い放つラズリア・クレイン（蒼晶の乙女・e19050）の言葉に頷いて、各々が武器を構えた。
　巨大なガイセリウムにとって、一つ一つの砲撃は小さなものだろう。しかしその一つ一つが人々の希望であり、集まれば地球を守る巨砲となる。
　重くのしかかるような曇天の下。
　合図とともに、地球の巨砲が火を吹いた。
「グラビティ・TheSeventhOne！」
　シグナルが射出した、六機のソードビットが風を切る。
　ソードビットを結んでできる六角形の中で、こなえが放った炎龍と、心遙が放ったオーラの獣牙が競争するように飛んで行く。
「狙いをつけなくても当たってくれるのは楽だな」
「そうですね。思いっきりいきます！」
　セレナ・スフィード（薬局店員・e11574）のフロストレーザーと海東・雫（疫病神に憑かれた人形の復讐者・e10591）のフォートレスキャノンが、一体の光線となって輝く。
「コイツでどうだ、デカブツ！」
　トライリゥトの猟犬縛鎖が真っ直ぐに伸びていく。
　添うように、ラズリアの時空凍結弾が曇天に蒼く光る。
「それー！　ミサイルの雨です！」
　平生の大人しさは一時鳴りを潜め、アーニャ・シュネールイーツ（時の理を壊す者・e16895）は近頃の鬱憤ごとマルチプルミサイルを大量射出した。
　空を渡る、無数の砲撃。ガイセリウムの目前で爆散し、光と煙の幕となった。
　幕が霧散すると、そこには無傷のガイセリウムの姿があった。大量のグラビティと引き換えに、弾幕を中和したのだろう。
　しかしガイセリウムの四本の足は動いていない。ケルベロス達の狙い通り、グラビティ不足によりその歩みは停止した。
「とりあえずは成功、でしょうか」
　こなえが胸をなでおろす。
「ヴァルキュリアがガイセリウムに戻っていくよ」
　ガイセリウムを注視して、心遙が言った。
「わあ、代わりにシャイターンが出てきたよ。ガイセリウムを守ってるのかな？　あ、他にも何かがたくさん出てくるよ！」
　出撃していくそれこそは、アグリム軍団だった。邪魔なケルベロス達を撃滅せんと、次々と散らばっていく。

●アグリム軍団員の襲来
　多摩川を背に、各地でアグリム軍団との戦闘が始まった。
「来たよ！　みんな気をつけて！」
　心遙が指差す方角から、鎧の重さを感じさせない速度で一人のアグリム軍団員が駆けてくる。距離を縮めながら、手にするゾディアックソードを振るい、シグナルや雫の立つ辺りにめがけて星座のオーラを放射した。
「迎え撃つ！」
　セレナが魔力の弓をつがえ、矢の嵐を放つ。
　同時に心遙も一瞬だけ息を止めて、狙いを定め、引き金を引く。星のストラップをつけたリボルバー銃が反動で揺れた。
「俺達の後ろには人々がいるんだ、負けるかよ！」
　後方では、トライリゥトが鎖の魔法陣を形成し、後衛が務める最終防衛ラインを保護した。
　剣を振るい弾丸を弾き、矢の嵐を鎧に浴び、その後も続くように数々迫る遠距離攻撃を掻き分けるようにしながらも、勢いを落すこと無くアグリム軍団員は迫る。
「ヘイ諸君さっきはどーも！　覚悟しなァ！」
　あっという間に声が届く範囲になり、剣が届く範囲になった。
　その瞬間アグリム軍団へ迫る、雫のスパイラルアームとライドキャリバーのライドのデッドヒートドライブ。アグリム軍団は両者を、豪然と一振りのゾディアックソードで防いだ。直後、動作の切れ目も見せず心遙へと飛びかかる。
「心遙！」
　シグナルの短い声が警告する。
　しかしその声を認識した直後には、アグリム軍団は間合いに心遙を捉えている。剣が振り下ろされようかというその時、空中のアグリム軍団の上半身を、アーニャのフォートレスキャノンが捕らえた。しかしそれでも、アグリム軍団員は勢いを受け流すように上体をそらし、曲芸のようなバク宙とともに背面で心遙を斬り上げた。
「……っ！　グラビティ・絶空斬」
　心遙から引き離すように、シグナルが割り込んで赤い鎧に刀跡を描く。
　続けざまに、こなえの星彩宿る蹴撃が鎧を響かせ痺れを叩き込む。蹴撃の反発力をそのまま利用して、抜け目なくすぐに距離を置いた。
　その間に、ラズリアが形作った光の盾が、心遙を癒やす。痛々しい傷跡が、斬撃の威力を雄弁に語っていた。連続で二度は耐えられないだろう。
「皆様のお背中は私たちがお守りします。存分に戦って下さいませ……！」
　ラズリアの声が、凛として戦場に響いた。アグリム軍団員の脅威を前に、その言葉は心強い励みだ。
「俺もレディに癒やされたいもんだねェ」
　アグリム軍団員は一旦後退し、飄々と呟きながら地面に魔法陣を描くと、星々の加護を施し癒やしを得た。

●戦
「私が相手になってやる、掛かって来いノロマが」
「お前は後だァ！」
　範囲攻撃の効率を考え、アグリム軍団員は攻撃を惹きつけようとするセレナの挑発を聞き流す。そして執拗に狙われたのは心遙である。
　心遙の攻撃は強力だ。しかしアグリム軍団員からして、心遙は半分ほどの身長しかない。つまりは外見のイメージ的に体力が少なそうな割に、倒した祭の見返りも大きいと、アグリム軍団は計算したのである。
　しかしアグリム軍団員の予想以上に、心遙は倒れない。ラズリアやトライリゥトを主役とした、ケルベロス陣営の回復源が潤沢だったのだ。さらにはシグナル、雫、ライドキャリバーのライドにボクスドラゴンのセイと、守り手も厚い。
　その一方で、ケルベロス達も回復に多くを割くために決定力に欠けた。
　両者摩耗していく中で、少しでも優位に立とうと状態異常を押し付け合うが、それすらも互いに対処法を持っていた。
「埒があかないな。ならば……」
　そんな最中、セレナが呟く。
　そしてアーニャとこなえに、護殻装殻術を施していった。二人の攻撃はアグリム軍団員の加護を打ち砕く力を得る。
　その行為はまさに英断と言えた。こなえとアーニャの攻撃の命中精度は群を抜くのである。
「当ててみせます」
　太く長大な銃身を繊細に動かし、アーニャのフロストレーザーが無軌道に暴れ回るアグリム軍団員を的確に捕捉する。
　こなえはアグリム軍団員をじっと観察し、音楽と親しむ中で育てられたリズム感覚を研ぎ澄ませている。
「……今です！」
　見つけたのはどこかで聞いた曲の３２分休符よりも大きな、しかしほんの僅かな隙。そこに果敢に飛び込んで、光の剣で鎧を鳴らし、すぐに再び退避する。
　そうしてアグリム軍団員から、星々の加護が失われ、状態異常が蓄積するようになっていく。
　一方で、その頃になると、心遙は傷だらけだった。
　剣を右手左手に持ちかえ、背を向けたまま切りつけ、アクロバティックな体制からでも股抜きにオーラを放つ。アグリム軍団員がもつ奔放な特質をそのまま剣術流派に仕立てあげたようなトリッキーな攻め立ては、回避するにも庇うにも難儀した。
「死にさらせェ！」
「させない！」
　心遙にトドメを刺そうと迫る刃を、シグナルが阻む。ゾディアックミラージュに巻き込まれ、庇いに入る事もあるディフェンダー達の傷も浅くはない。
　舌打ちして刃を引くアグリム軍団員。
「私は平気です……！　グラビティ・シャウト！」
　シグナルは自分を回復し、トライリゥトとラズリアが心遙の回復に専念できるように配慮した。
「殺らせねぇ！」
　トライリゥトの声が心遙の立ち上がる力になり、ラズリアの光の盾も心遙の傷を塞いでいく。
「ありがとうっ」
　心遙はあくまで元気そうに、再びアグリム軍団員に立ち向かう。
　横薙ぎに迎え撃つゾディアックソードの下に、小さな体で滑り込み、重い斬撃を見舞った。
　続くセレナの矢。
　アグリム軍団員は後ろに飛んで躱しながら、掲げた剣でオーラを放ち前線を攻め立て、前衛の生命力を奪っていく。
　そして守りの薄い地点を探し、再び心遙に向かって猛然と進む。前衛が程々に弱ったこの時を、アグリム軍団員は攻め時と判断した。道を阻む攻撃を避けることもせず、力押しで突き進む。
「……また！　心遙！」
　シグナルが叫んだ。
　セイが庇おうと、心遙の前を横切る。しかしアグリム軍団員は飛んだ。
「よォ、そろそろ限界だろ？」
　セイと心遙を開脚姿勢で飛び越えながら、自身の股下を貫くように突き立てたゾディアックソードで、心遙の背を刺した。
「ぁ……」
　心遙の口から漏れる、小さな悲鳴。
「（大丈夫、きっと、みんな、なら……）」
　霞む視界。すぐに真っ黒に染まり、心遙の意識は閉ざされた。

●結
「許しません……！」
　雫が激した。
「次っ！」
　意にも介さず、アグリム軍団員は次の標的を定める。前線で盾となり矛となるシグナルと雫、ライドとセイ。選択肢の中からシグナルを選んだ。
　心遙という攻撃力の要を失ったケルベロス達はいっそう攻撃力に欠けた。
　しかし一方のアグリム軍団員も、心遙一人を倒すのに、時間と体力を消耗しすぎた。状態異常までもが体を深刻に蝕み、体の動きを阻害している。防御の精度も悪くなっていた。
　守りを固め将棋のようにじりじりと詰め立てるケルベロス達と、相撲のように豪快な膂力による突破を目指すアグリム軍団員。戦いは次第に加速していった。
　状態異常が蓄積する速度は増していく。アグリム軍団員の筋力は増していかない。そればかりか、アーニャのゼログラビトンが剣勢を奪い、トライリゥトのサークリットチェインが味方の防護を堅固にしていく。
　そして、戦いは最終章を迎えた。
　深い傷を負ったシグナルの目前で、アグリム軍団員が振るった刃を、ライドが庇う。
　そこに迫る、惨殺ナイフ。
　体が痺れなければ躱せたかもしれない。セレナのジグザグスラッシュが赤い鎧を切り開いた。アグリム軍団員が、思わず一歩二歩とよろめいた。そのことに誰よりも驚いたのは本人であった。
「隙ありです！」
　こなえが逃さずにスターゲイザーを見舞い、３歩４歩とたたらを踏ませる。
　それは、雫が肉薄するのに十分な時間だった。地に伏す心遙。生傷の目立つシグナル。傷ついた仲間を思うと、力が漲る。
　モーター音。雫の腕部が猛回転し――
「許さないと、言ったでしょう」
　――満身の膂力を込めて振りぬかれた。
　高く響く金属音。鎧との摩擦で火花が散る。火を噴く昇竜の如き激烈さを持って顎を打ち砕いた。
「ァ……ガ……」
　手放されたゾディアックソードが地面に突き刺さった。ぐらりと仰向けに、アグリム軍団員の体が倒れていった。
「なんとか、なりましたか」
　雫の腕部が回転を止める。
「やりました、わね」
　ラズリアが言った。ここに戦いの幕は下りた。
「ちっ……手間取らせやがって」
　セレナは、今回のアグリム軍団員については頑強が高そうで、特に弱点属性は見当たらなかった、というメモをとった。
「あとは、突入班の方たちを信じましょう」
　雫はそう言うと、地面に突き刺さったゾディアックソードを引き抜いた。
　すでに撤退したチームもいるようだ。心遙を抱え、ケルベロス達は多摩川を渡り撤退していく。
「無事に成功しますように」
　ガイセリウム突入班を想い、呟くこなえ。祈りを運ぶように、すれ違う微風が川を渡っていった。

作者：由川けい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年1月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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