多摩川防衛戦~背水の陣で勝利せよ!

作者:秋津透

 ずし、と、城が歩いた。
 それは、もしも映画などで見たなら、いささか滑稽なシーンと思えたかもしれない。直径300m全高30m(脚部含まず)の巨大なアラビア風の城に4本の脚が生え、ずし、ずし、ずしと一歩ずつ重々しく歩いてくるのだ。
 しかし、実際に城に迫られ、攻撃され、踏みにじられるとなれば、滑稽などとは言っていられない。その進路上で生活していた不幸な人々は、ただただ必死になって逃げる以外、何もできない。
 そう、誰も何もできない。デウスエクスと戦って斃すことができる、ケルベロス以外は。
「エインヘリアルの第一王子から得た情報にあった、人馬宮ガイセリウムが遂に動き出したようです」
 ヘリオライダーの高御倉・康が緊張した口調で告げる。
「人馬宮ガイセリウムは、巨大な城に四本の脚がついた移動要塞で、出現地点の八王子から東京都心部に向けて進軍を開始しています。要塞の周囲ではヴァルキュリアの軍勢が警戒活動をしており、不用意に近づけばすぐに発見されます。また、ガイセリウムには勇猛暴悪で名高いエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が待機しています」
 告げながら、康はプロジェクターに地図を映し出す。
「現在、進路上に住む一般人の避難を行っていますが、都心部に近づいた後の進路が不明である為、避難が完了しているのは多摩川までの地域となっています。おそらく敵は、一般人を虐殺してグラビティ・チェインを奪取しようと目論んでいるので、この線で止めないと、避難が終わっていない地域を狙って突入されてしまいます」
 そうなれば、どこへ要塞が進むにせよ、間違いなく大虐殺、大惨事です、と、康は身を震わせるが、すぐに気を取り直して言葉を続ける。
「人馬宮ガイセリウムを動かした、エインヘリアルの第五王子イグニスの目的は、ケルベロスに捕縛されたザイフリート王子の殺害、そして、シャイターン襲撃を阻止したケルベロスへの報復です。もっとも、ザイフリート王子の情報がなかったら、この攻撃は完全な不意打ちになっていたでしょうし、シャイターン襲撃が成功していたら、ガイセリウムは万全の状態で出撃してきたでしょうけどね」
 敵の戦力は恐るべきものですが、勝機は充分にあります、と、康は半分自分に言い聞かせるように告げる。
「ザイフリート王子の情報によれば、人馬宮ガイセリウムを動かす為には多量のグラビティ・チェインが必要ですが、シャイターン襲撃失敗のため、充分な量を確保できていないと思われます。そして、多摩川までの避難は完了しているので、虐殺で補充することもできない。何というか、補給切れ寸前の状態で、要塞は多摩川まで進んでくるのです。そこを、叩きます」
 言い放って、康は画像を多摩川周辺の拡大地図へ切り替える。
「まず、人馬宮ガイセリウムに対して数百人のケルベロスのグラビティによる一斉砲撃を行います。この攻撃で要塞にダメージを与える事は、おそらくできませんが、攻撃の中和の為に残存グラビティ・チェインが消費されるため、ガイセリウム自身の攻撃能力はほぼ封じられると思われます。なので、おそらく要塞からは勇猛暴悪で名高いエインヘリアルの軍団『アグリム軍団』が出撃し、ケルベロスを排除しようとするでしょう。もちろん排除されてしまえば負けですが、逆に『アグリム軍団』を撃退する事ができれば、こちらから要塞に突入する機会を得ることが出来ます」
 そう言うと、康は再び画像を切り替え、深紅の鎧をまとった巨漢戦士……エインヘリアルの勇者を映し出す。
「アグリム軍団は、四百年前の戦いでも地球で暴れ周り、その勇猛と暴悪、残虐さで名を轟かせたエインヘリアル・アグリムと、その配下の軍団だそうです。おそらく第五王子イグニスが、地球侵攻の為にそろえた切り札の一枚なのでしょう。軍団長であるアグリムの性格により、個人の武勇を誇り、問答無用で手段を選ばず相手を叩き潰す、強力で暴悪な戦士が多いですが、一方で連携を嫌い、命令を無視する傾向があります。そこが、付け目です」
 危なくなっても助けを求めない、逃げない、そして仲間が危なくても助けない。怒りっぽいので挑発もよく効くし、罠にも嵌りやすい相手です、と、康は告げる。
「今に始まったことではありませんが……デウスエクスの凄まじい暴虐から人々を守れるのは、ケルベロスだけなのです。困難な作戦ですが、どうか、よろしくお願いします」
 そう言って、康は深々と頭を下げた。


参加者
ユージン・イークル(不動の星・e00277)
楡金・澄華(氷刃・e01056)
星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805)
神楽火・みやび(リベリアスウィッチ・e02651)
ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)
小鳥田・古都子(ことこと・e05779)
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
葛籠折・伊月(死線交錯・e20118)

■リプレイ

●決戦開始!
「人馬宮ガイセリウム……そろそろ、見えてくる頃か」
 葛籠折・伊月(死線交錯・e20118)と肩を並べ、せっせと落とし穴を掘りながら、笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)が呟く。すると、掘りだした土を積み上げていた楡金・澄華(氷刃・e01056)が、冷静な口調で応じる。
「うむ、見えてきた。まだ、相当に距離はあるようだが」
「それだけ、図体がでかいということだな」
 うなずいて、鐐は仲間に告げる。
「敵の要塞が見えてきた。落とし穴の大きさは、この程度でいいだろう。カモフラージュを施して、迎撃態勢に入る」
「はい、カモフラージュに掛かります」
 神楽火・みやび(リベリアスウィッチ・e02651)が応じ、ユージン・イークル(不動の星・e00277)や小鳥田・古都子(ことこと・e05779)と手分けして、落とし穴の上に細い竹を並べる。その上に紙を敷いて、土や草で念入りに覆う。
 そして準備が完全に整った頃には、歩行要塞ガイセリウムは、実際にはまだ相当の距離があるのだろうが、感覚としては目前といってもいい間合まで迫っていた。
「一斉砲撃、用意!」
 多摩川の岸に布陣するケルベロスほぼ全員が、迫りくる歩行要塞に向かって遠距離攻撃を用意する。
 バスターライフルを構える者、呪符を用意する者、中にはバイオレンスギターを構えて音楽魔法の発動を準備する者もいる。伊月は幼馴染の名から一文字ずつ貰って名付けた愛用のアームドフォート『嘉凛』の照準を合わせながら、呟く。
「頼むよ嘉凛、派手にいこう」
 そして。
「撃て―っ!」
 号令とともに、凄まじいとしか言いようのない強烈なグラビティ攻撃が、人馬宮ガイセリウムに向かって放たれる。比喩でも誇張でもなく、山をも砕く一撃を受け、ガイセリウムの巨体が爆炎と閃光に覆われる。
「……やったか?」
「いやいや、さすがに、この程度で潰れてはくれないようだ」
 目を凝らして呟く星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805)に、鐐が悠然と告げる。
「しかし、足は止まった。次は、中に待機していた敵が出てくる」
 と、ヘリオライダーは予言していたが、どうも、その通りの展開のようだ、と、鐐は苦笑混じりに続ける。
 確かに人馬宮ガイセリウムには、少なくとも外観上は、ほどんど損傷がないように見える。しかし一方、その前進は確かに止まった。
「来よるな……凶暴な力を感じるわえ」
 表情を引き締め、ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)が呟く。すると澄華が、落ち着いた口調で提案する。
「間合を詰められるまで、待つ義理もあるまい。先手で、遠距離攻撃を叩き込む」
 そして澄華は、停止した歩行要塞から殺到してくる強烈な気配に向かって身構える。気配は分散し、彼女たちの陣に向かってくる一体が特定できた、と、感じた瞬間、澄華は躊躇なく必殺技『紅鎖陣(コウサジン)』を放つ。
「特技その1、だ」
 詠唱も何もなく、殺到してくる気配を魔法陣が捕捉し、グラビティの鎖を叩きつけ貫く。紅の閃光があがり、獣の咆哮のような声が響く。
「ぐおおおおおおおおっ!」
「追い討ちっ!」
 竜の翼は伊達じゃないのよ! と、獰猛な叫びをあげて、古都子が飛び出す。一時的に翼を変形強化し、残像を伴う程の高速飛行と慣性を無視するかの様な三次元機動で、遠距離の敵を直接襲う必殺技『高速飛動態(モードショウリュウ)』が炸裂し、赤い鎧のエインヘリアル戦士に痛撃を与える。
 しかし、敵も只者ではない。強烈な攻撃を連続して受けながら、その猛進は止まらず、ケルベロスの防衛陣に突入する……かと見えた寸前、ものの見事に落とし穴へと落ちた。
「もらったあっ!」
 得たりとばかりに光が飛び出し、落とし穴に足を取られて動きが止まった敵に襲いかかる。彼女の必殺技『先手必殺・熾烈の号砲(ヴィクトル・ゴゥズ・ブレイクショット)』は、凄まじい威力で急所を貫く妙技だが、心・技・体、その全てが揃わなければついぞ成功しない。そして、この大事な局面で、光は見事に妙技を決めた。
「ぐわあああああおおおおおおおっ!」
「さぁ、戦いの開幕だ! この一発にビビッてくれてもいいんだよ?」
 言い放つ光に、赤い鎧のエインヘリアル戦士は、憤怒に満ちた声で喚く。
「この程度のかすり傷で、誰がビビるか! アグリル軍団戦士、暴刃のガゾフを舐めるなあっ!」
「あらあら、落とし穴に嵌った無様極まる姿で、もしかして、かっこつけてるつもりですの? 救いようがありませんわね、ばーか!」
 ここぞとばかりに、みやびが痛烈な嘲笑を浴びせ、エインヘリアル戦士の全身から、怒りのオーラが陽炎となって噴き上がる。
「小娘ぇ! この俺を愚弄するとは、許さぁん!」
「あら、こわいこわい」
 けらけらけらと嗤い嘲るみやびに、暴刃のガゾフは一気に飛びかかろうとするが、さすがに落とし穴の中から敵陣を完全に飛び越えて後衛に至ることはできない。
「えい、これでも、喰らっとれ!」
 怒声とともに、ガゾフは手にしたゾディアックソードの星座を輝かせ、蠍のオーラを飛ばす。狙われたみやびと、巻き添えをくらったルティアーナにダメージが及ぶが、致命的なほどではない。
 そしてみやびは、ダメージをものともせずに挑発を続ける。
「しょぼい、しょぼすぎますわ。いかにも見かけ倒しですわね。イグニス殿下やアグリム軍団長も、よくまあ、こんな見かけ倒しの張り子の虎……いえ、べこべこの赤べこを配下として使おうという気になったものです。皆さん、見かけに騙されているのかしら。それとも、よほど人手不足なのですか?」
「黙れ、その口、今すぐ塞いでくれ……ぐわわわわ!」
 怒鳴ろうとしたガゾフの顔面に、ユージンのサーヴァント、ウィングキャットのヤードさんが跳びかかって、無茶苦茶に掻き毟る。
「ああ、ダメだね、キミ。輝いてないね。一生懸命なのはわかるけど、空回りして道化になってるよ。いっそ戦士辞めて、お笑いの道を目指したらどうかな?」
 けっこうマジメな口調で敵に向かって告げながら、ユージンはみやびに治癒の気力を送る。
「なんというか……すまん」
 ガゾフの前に立ち、背後のルティアーナに治癒の月光を送りながら、鐐が真面目な調子で謝る。
「騎士同士の戦い、には出来んのだよ。何しろ後が無い」
「やかましいぞ、ケダモノ! さっさとそこをどいて道を開けろ!」
 エインヘリアル戦士は罵声をあびせるが、鐐はどんと構えて動かない。
(「将かと思ったが、それほどの器量はないな。強いことは強いが、目の前しか見えない平戦士か……」)
 そこに勝機がある、と、鐐は声には出さずに呟く。
 一方、鐐のサーヴァント、ボクスドラゴンの明燦は、ガゾフにブレスを吐きつける。続いてルティアーナが、禁縄禁縛呪を飛ばす。
(「みやびの挑発がしっかり効いておるようじゃからな……同列の吾が敢えて重ねる必要はあるまい。それにしても、まあ、辛辣な……」)
 吾も一応、辛辣な挑発を用意してはあるが、と、ルティアーナは傲然と胸を張るみやびを見やる。するとみやびは、バイオレンスギター『満天星』を掻き鳴らし、絶望しない魂を歌いあげる。
「こんな、情けない敵を相手に、絶望なんかするわけないじゃない~♪ むしろ、見かけ倒しが酷過ぎて、あ~あ、がっかりがっくりしてしまうわ~♪」
「ふ、ふざけるなぁっ!」
 徹底的に馬鹿にされ、ガゾフはますます激怒する。怒りのあまり脳の血管が切れて倒れたりせぬかな、と、ルティアーナはにやりと嗤う。
 そして、みやびの方へ向かおうとする敵の前へ、伊月が昂然と立ち塞がる。
「前へは行かせないよ」
 きっぱりと言い放ち、伊月はフォートレスキャノンを撃ち放つ。
「どけ! どかぬか! 邪魔をするな、この小僧っ子めが!」
「……一応、僕は女なんだけどな」
 伊月が憮然として呟き、澄華が冷やかに言い放つ。
「相手を小僧だの小娘だの……おまえ、けっこうな年齢なのか? その割には、やることなすこと幼児じみているが」
 そして澄華は、愛用の斬霊刀『凍雲』にグラビティを乗せて斬りつける「それとも、精神的幼児という奴か? まあ、何年生きていようと、あるいは不死だろうと、脳が成長しなければ幼児のままだな」
「黙れ、小娘っ!」
 喚くガゾフに、光が気咬弾を叩き込む。
(「誰にも彼にも小娘、小僧……語彙の貧弱なやっちゃなぁ」)
 まあ、誰も彼も挑発しちゃったら意味なくなるから、言わないけどさ、と、光はぺろっと舌を出す。
(「お祖父様が言ってた……挑発は有効な戦術だけど、敵を侮る油断を生みかねない諸刃の剣……」)
 表情を引き締め、古都子がバスターライフルを高速連射する。ガゾフのゾディアックソードに攻撃が当たり、刃が欠ける。
「ぐぬう……寄ってたかって……」
 憤激を籠めて呻くと、ガゾフは二本のゾディアックソードを高々と振り上げ、目前の鐐に叩きつける。
「邪魔だ! ケダモノ、そこをどけっ!」
「悪いが、そうはいかない」
 痛烈そのものの一撃を受けながらも、鐐は微動もせずに相手を見据える。
「名高きアグリム軍が戦士“暴刃のガゾフ”殿。その双剣を受けきってこそ、盾を名乗れるというものだ!」
「ぬう……何と、ケダモノの貴様に、真の戦士の覚悟があるとは……見誤ったか……」
 鐐の血に染まったゾディアックソードを構え、ガゾフは唸る。
「キミの輝いてない攻撃じゃ、ボクらを倒すことはできないよっ!」
 そう言いながら、ユージンは鐐に治癒の気力を飛ばす。ヤードさんはガゾフにキャットリングを飛ばし、ゾディアックソードで弾かれたが、刃の欠けを増す。
 そして鐐は、自分自身を気力溜めで癒す。
(「強がってはみたが……さすがにシャレにならん威力だな。続けて喰らったら、どこまで耐えられるか……」)
 まあ、我慢比べならこっちにも分がある、と、鐐はぶるっと身を振るい、毛皮から血を落とした。

●激闘の果て
「くらえ、小娘!」
 咆哮とともに、ガゾフが澄華へ渾身の二刀を叩きつける。
「くっ!」
 これはやられたか、と、思った瞬間、ユージンが間一髪、澄華を突き飛ばすようにして飛び込む。
「小僧っ!」
「ふふ……」
 ユージンはガゾフに向かい、きらりと歯を光らせて笑う。一つ間違えれば両断されかねないタイミングだったが、ゾディアックソードに縛霊手を真っ向から叩きつけ、勢いを殺して傷を浅くとどめた。
「輝き一番星……そう簡単には消えないよ!」
 さすがに無傷とはいかなかったものの、ユージンは意気軒昂の叫びをあげる。一方ガゾフは、ユージンを見据えて呻く。
「見事だ、小僧……貴様らケダモノが、守りの要だったとは……誤った……」
「己が力に溺れたが敗因よ! 冥府の氷海に沈み逝くがよい!」
 鋭く言い放ち、ルティアーナが必殺技『神來儀 荒魂鎮(カムラギ・アラタマシズメ)』を放つ。
「行此儀断無明破魔軍……! 大元帥が御名を借りて命ず、疾くこの現世より去りて己があるべき拠へと還れ! たらさんだんおえんびそわか……!」
「ぐわっ……があっ……」
 赤い鎧を破魔の光矢で射抜かれ、ガゾフは低い呻きをあげる。その全身は、まさに満身創痍。
「おのれ……おのれ、小娘……」
「……他の罵り言葉はないのかしら。もう、なんだか哀れになってきましたわ。そろそろ、終わりにいたしましょう」
 溜息混じりに告げると、みやびは素早く間合を詰め、必殺技『超重黒滅衝(グラビトンインパクト)』を放つ。
「聴こえるわ……宇宙の深淵があなたのために歌う鎮魂歌が」
 今までの罵りの冷たさと比べれば、いっそ甘やかと言ってもよさそうな囁きに乗せ、みやびはガゾフの心臓に零距離からグラビティ・チェインを撃ち込む。
「ぐおうっ!」
 絶叫とともにガゾフはばったり倒れたが、ゾディアックソードに縋るようにして起き上がる。
「まだだ……まだ……小娘などに、やられて……なるものか……」
「では、僭越ながら私が」
 鐐がゆっくりと歩み出て、ガゾフの背後から首を極める。本来は正面から正真正銘のベアハッグを仕掛け、ふかふか毛皮の力で苦しみを感じさせることなく二度と目覚めぬ深き重力の底へと落とす、慈悲深い断罪の技『優しき微睡みへの誘い(カームハートスランバー) 』を、鐐は敢えて背後から仕掛けた。
「エインヘリアルの戦士たるものに、安らぎなど無礼であろうからな!」
「ぐ……があっ!」
 がぎん、と頸骨が断たれる音が響き、暴刃のガゾフはいったん崩れ倒れる。ところが鐐が離れた途端、再びゾディアックソードを杖に立ち上がる。
「マ……ダダ……マ……ダ……コレデ……終ワレルモノカ……」
「……凌駕したのか? いやはや……」
 無念なのはわかるが、と、鐐が唸ると、伊月が進み出る。
「僕が終わらせる」
 静かに告げ、伊月はアームドフォート『嘉凛』の狙いをつける。
「あなたに一人でも助け合う仲間がいれば、その意地と頑張りは僕らにとって脅威だったろう。だが、あなたは独り。いくら意地を張って立ち続けても、誰も助けには来ない」
 そして、伊月は言い放つ。
「何がアグリム軍団だ。助け合わなければ、軍を組む意味などないだろう。個の力に驕った時に、既にあなたたちは負けていた。帝国山狗団所属・葛籠折伊月、仲間とともに暴刃のガゾフを討つ!」
「……ガ……」
 フォートレスキャノンに直撃され、崩れ倒れたガゾフは、今度こそ起き上がってはこなかった。
「終わったな……では、ひとまず撤収だ」
 そう言って、鐐は停止したままの人馬宮ガイセリウムを見やる。
「イグニス王子が、ケルベロスは負けて逃げたと早合点してくれれば、侵入作戦に出た部隊が有利になる。これも援護のうちだ」
「ふふっ、わざと負けたふりをするなんて、自分本位百パーセントのエインヘリアル王子には、絶対思いつかないねっ!」
 ユージンが愉快そうに応じ、古都子がうなずく。
「その通りよ。私たちが誰も欠けずに戻れるのも、皆が皆のことを思いやって協力したから……あの人たちには、それが分からなかった」
 あれだけの力を持ちながら、哀れね、と、古都子はゾディアックソードを握りしめたままの暴刃のガゾフの屍を見やり、わずかに瞑目した。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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