東京都八王子市の一角に突如として出現した、巨大な『城』。
人々が呆然と見上げる中、アラビア風の外観を持つその城は、4本の足でゆっくりと地を踏みしめながら、真っ直ぐに都心部を目指して移動していく。
平穏を蹂躙する、突然の脅威。迫り来る巨大な城から、逃げ惑う人々。
――まるで周囲を守るように飛び交う数多のヴァルキュリア達を従えたその城の名は、人馬宮ガイセリウムという。
●深紅の境界線
八王子市内の焦土地帯に、人馬宮ガイセリウムが出現した――トキサ・ツキシロ(レプリカントのヘリオライダー・en0055)はそう言って、その場に集ったケルベロス達を見やった。
人馬宮ガイセリウムは、アラビア風の巨大な城に四本の脚がついた移動要塞で、出現地点から東京都心部に向けて進軍を開始しているとのことだ。
ガイセリウムの周囲ではヴァルキュリアの軍勢が警戒活動をしており、不用意に近づけばすぐに発見されてしまうだろう。
「ガイセリウムには『アグリム軍団』という、エインヘリアルの軍団が控えていることもわかったよ。ヴァルキュリア達に見つかるようなことがあれば、おそらくこのアグリム軍団が出撃してくるだろうね」
だから迂闊に近づくことは出来ないとトキサは言い、少し考えるような間を挟んでから続けた。
「現在、ガイセリウムの進路上にいる一般人の避難を行っているけれど、都心部に近づいた後のガイセリウムの進路がわかっていなくて、多摩川の辺りまでしか避難が完了していないんだ。……このままだと、東京都心部が人馬宮ガイセリウムによって壊滅してしまうことになる」
人馬宮ガイセリウムを動かしたのは、エインヘリアルの第五王子イグニスだ。
その目的は主に、暗殺に失敗しケルベロスに捕縛されたザイフリート王子の殺害、及びシャイターン襲撃を阻止したケルベロスへの報復と思われるが、一般人を虐殺してグラビティ・チェインを奪うことも含まれているだろう。
それを止めるために力を貸して欲しいと、ヘリオライダーの青年は言った。
「人馬宮ガイセリウムは強大な移動要塞ではあるけれど、万全の状態ではないということが予測されている。ガイセリウムを動かすためには多量のグラビティ・チェインが必要なんだけど……どうやら、充分なグラビティ・チェインを確保出来ていないみたいなんだ」
その原因は、おそらく先のシャイターン襲撃がケルベロスによって阻止されたことで、充分なグラビティ・チェインを確保出来なかったからだろう、とトキサは続ける。
「侵攻途上にいる多くの人間を虐殺し、グラビティ・チェインを補給しながら東京都心部へ向かう――イグニス王子の作戦の意図は、おそらく、ここにあると思う」
――これに対し、ケルベロス側は多摩川を背にして迎え撃つこととなる。
最初に行うのは、人馬宮ガイセリウムへの、数百人のケルベロスのグラビティによる一斉攻撃だ。
この攻撃でガイセリウムそのものにダメージを与えることは出来ないが、グラビティ攻撃の中和のためにグラビティ・チェインが消費されるので、残存グラビティ・チェインの少ないガイセリウムには有効な攻撃となる。
この攻撃を受けたガイセリウムからは、ケルベロスを排除すべく、エインヘリアルの軍団である『アグリム軍団』が出撃してくることが予測されている。
アグリム軍団により多摩川の防衛線が突破されれば――ガイセリウムは多摩川を渡り、まだ避難の完了していない市街地に攻め入って、グラビティ・チェインを奪取するために一般人の虐殺を行うことだろう。
逆にアグリム軍団を撃退出来れば――こちらからガイセリウムに突入する機会を得ることも、決して不可能ではない。
アグリム軍団は、四百年前の戦いでも地球で暴れ周り、その残虐さから同属であるエインヘリアルからも嫌悪されているというエインヘリアル・アグリムと、その配下の軍団である。
アグリム軍団は、おそらく第五王子イグニスが地球侵攻のために揃えた切り札の一枚と言えるだろう。軍団長であるアグリムの性格により、個人の武を誇り、連携を嫌い、命令を無視する――という傍若無人さを持ち合わせているが、その戦闘能力の高さはエインヘリアルの名に違わぬものであり、全員が深紅の甲冑で全身を固めているという特徴を持っている。
「人馬宮ガイセリウムが多摩川を超えてしまったら、多くの一般人が虐殺されてしまう。それを防ぐことが出来るのは、君達――ケルベロスだけだ」
トキサはそう言って、もう一度、ケルベロス達をしっかりと見つめた。
「アグリム軍団のエインヘリアルはとても強敵だろう。けれど、君達なら必ず倒せるって、俺は信じているよ。――それじゃあ、行こうか」
参加者 | |
---|---|
ナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210) |
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300) |
エニーケ・スコルーク(麗鬣の黒馬・e00486) |
石馬・無明(疾風の剣牙虎・e02609) |
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002) |
清桜・シルト(清き桜の守護拳士・e04513) |
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623) |
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023) |
灰色の空の下に、こちらへと向かってくる巨大な城──人馬宮ガイセリウムの姿がはっきりと見える。
「人馬宮ガイセリウムってのはアレか……なるほど、デカいな」
石馬・無明(疾風の剣牙虎・e02609)は、囚われの女神がいるその宮殿を見やりながら二振りの刀を振り抜いた。
「筋書きは上々だな。俺の英雄譚に書き記すのに相応しい舞台じゃないか」
自分達を信じてくれたザイフリートのためにもこの作戦は必ず成功させてみせるという、確かな決意が心に灯る。
エニーケ・スコルーク(麗鬣の黒馬・e00486)は両脇両腰からアームドフォートの砲塔を展開させ、真っ直ぐにガイセリウムへと照準を定めた。
「お城が動くものじゃないですわよ、ファイアアアア!!」
一斉に放たれた主砲が真っ直ぐに人馬宮へと終息し、鮮やかな彩りを添える。
更に重ねられた花火は、清桜・シルト(清き桜の守護拳士・e04513)とワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)の手によるもの。
「あんなものに街を歩かせて、悦に浸るか変態ども」
ワルゼロムが吐き捨て、高められたシルトの心と見えざる爆弾が爆ぜる。それと同時にナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210)が、上空から人馬宮の足元に溶岩を噴出させる。
「さあ、──『戦い』の始まりだ」
誓いの心と共に空を舞う、ノコギリソウの鮮やかな赤。
ケルベロスとして、背負うものは多い。
だが、必ず守り抜いてみせるという確かな想いと共に、フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)は攻性植物を解き放つ。
囚われの女神と戦乙女達を思い、神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)は祈るように手を重ねた。
人馬宮ガイセリウムへと向けられた眼差しに灯るのは、確かな光。
「いくよっ、レンちゃん!」
「おう!」
姉の声に力強く応えたのは弟の神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)だ。
二人は息を合わせ、半透明の御業と地獄の炎弾を解き放った。
──数多のケルベロス達の手による一斉攻撃が、人馬宮ガイセリウムへと叩き込まれた。
だが、多くの攻撃に曝されても、ガイセリウムには傷一つついていなかった。
「あれだけ叩き込んでも宮殿に目立った損害はなし、か」
わかってはいたものの、実際にその結果を目の当たりにすると無明の胸中には悔しさが込み上げてくる。
しかし、それまでこちらへと向かって来ていた人馬宮ガイセリウムが、ケルベロス達の攻撃によりその歩みを止めた。
「……止まりましたね」
「ええ、おそらくは攻撃から身を守るために、グラビティ・チェインを消費したのでしょう」
目を凝らすフィルトリアに、エニーケが頷く。
ケルベロス達の攻撃は、確かに届いていた。人馬宮そのものを傷つけることは叶わなくとも、動きを止めることが出来たのだ。
それは紛れもなく、この場に集った多くのケルベロス達の力があってこそ。
後は、こちらへと攻め入って来るであろうアグリム軍団──その一体を討ち取るだけ。
人馬宮ガイセリウムは巨大なれど、そこから放たれたであろうアグリム軍団には、エインヘリアルと言えどそこまでの巨大さはない。
故に、地上からも上空からもその姿を事前に確かめることは叶わず、上空から周辺の様子を窺っていたナコトフが、程なくして降りてきた。
翼飛行から地上に降りるのはポジションの変更と同様であり、その場合は手番を一つ消費しなければならず、戦闘開始後に行うには少々リスクが高い。
ケルベロス達は多摩川を背に、遮るものの何もない見通しの良い道路に布陣している。敵が多摩川を超えようとするのならば、必ず通るだろう場所のひとつだ。
やがて三分、あるいは四分が経過した頃だろうか。
多摩川を目指し駆けてくる、深紅の甲冑に身を包んだ巨人の姿が見えた。
「来やがったな……!」
声を上げたのは煉。その姿を認めるや否や、ケルベロス達は一斉に攻勢へと転じる。
真っ先に動いたのは、地上に降りてもなお敵の動向を注視していたナコトフだった。
「形成は不利……されど野に咲くように強い、『逆境で生まれる力』をお見せしよう!」
白く可憐なカモミールの花が綻ぶと同時、両袖の中から這い出した攻性植物がハエトリグサのように変じてエインヘリアルへと喰らいつく。
エインヘリアルもまた、ケルベロス達の存在に気づいたようだった。雄叫びを上げ、その巨躯に見合う長大な星剣を振り回しながら──巨人はさらに勢いを増して迫ってくる。
「ここが最後の境界線、それ以上の侵攻は止めさせていただく!」
ワルゼロムが仕掛けた花火が鮮やかに後列の背を彩り、ミミックの樽タロスが贋物の黄金をばら撒いて巨人の目を欺いた。
「好きなようにはさせてあげませんわよ!」
エニーケは勇ましくドレスの裾を翻し、先程人馬宮ガイセリウムへそうしたように、アームドフォートの砲塔を真っ直ぐにエインヘリアルへと向けた。
撃ち出された全ての主砲が、一直線に巨人へと集束する。
(「機動要塞なんてかっけぇもん持ってやがんなイグニスの野郎……王子って肩書きは伊達じゃねぇってか?」)
人馬宮ガイセリウムを、そこにいるであろうイグニスに対し、首を洗って待っていろと言わんばかりに鋭く睨みつけながら、煉は自らの全身に禍々しい呪紋を浮かばせ魔人へとその身を変える。
囚われし女神ヴァナディース──その命と引き換えに、ヴァルキュリア達が解放されるのだという。
だが、女神を殺さずに済む方法があるならばそれを見つけたい。
それでも今は、全てを夢物語で終わらせないために今目の前にある脅威を退けてみせると、鈴は迷いのない眼差しで弓を引き祝福の矢を放った。
「無明さん、いきますっ!」
鈴の矢から破剣の力を、そしてボクスドラゴンのリュガから守りの力を受け、軽く手を掲げて応えながらエインヘリアルへ炎を纏った激しい蹴りを見舞う無明。彼が纏う鎧は赤く彩られてこそいるが、ザイフリートのそれを模したもの。しかし、エインヘリアルがそれを気に留めた様子はない。
「──鹵獲魅了術、一式・花見桜!」
誰一人として欠けることなく心を繋いだ仲間達の動きに引き寄せられるようにシルトが紡ぎ上げた術は、彼が師から名と共に受け継いだもの。花見桜の名を冠する鹵獲魅了術が、エインヘリアルの意識をにわかにシルトへと向けさせる。
(「必ず……助けてみせます」)
つとめて誰にも見せないように振舞いながらも、イグニスに対する怒りを内心で燃え上がらせるシルトにとって、ガイセリウムが向こうから来てくれたのは好機だった。
その胸中には、女神を助けたいという強い決意が宿っていた。
続けて地を蹴ったフィルトリアが、エインヘリアルの懐へ飛び込んだ。
「ここから先には絶対に行かせません! ──私達が相手になります!」
間近に迫った巨人へ、フィルトリアは臆することなく電光石火の蹴りを刻む。
「おっと、蟻のように小さいな。そのまま踏み潰すところだったわ!」
深紅の兜を被ったエインヘリアルが、にやりと笑う。
次の瞬間、振り抜かれた星剣が描き出した描き出したオーラの波が、前衛陣を呑み込んだ。
敵は一体。だが、四百年前の戦いより名を知られているアグリム軍団の一員とあって、その攻撃は苛烈なものだった。
「ぐっ……この程度で……!」
エインヘリアルの狙いを引き寄せ、ディフェンダーの一人として他の仲間達を庇い──結果として多くの攻撃に曝されたシルトが倒れるまでに、さほど時間はかからなかった。
鈴が妖精の矢を放ち、ボクスドラゴンのリュガが属性の守りを齎す。そしてワルゼロムが空を華やかに染め上げて傷ついた仲間達に癒しをと力を運んだ。
仲間達の攻撃を肩代わりしながら戦っていたフィルトリアや煉は、地獄や降魔の力で自らが倒れないように立ち回るのが精一杯であったが、その間にもエニーケやナコトフ、そして無明やミミックの樽タロスが絶えず攻撃を繰り返し、エインヘリアルの力を少しずつではあるが削っていた。
だが、削られていたのはケルベロス達も同じ。
制約を積み重ねてもなお強大な力が込められた一撃が容赦なくケルベロス達を襲い、その生命力を削ぎ落とし、ヒールでは癒せないダメージを重ねてゆく。
シルトへの怒りを収めたエインヘリアルが次に狙いを定めたのは、クラッシャーの無明とメディックの鈴だった。
勝つために手段を選ばぬこの巨人が、直接的な脅威となるクラッシャーと継戦の要とも言えるメディックを潰そうとするのは、ごく自然な流れだっただろう。
頑健と理力、二つの技を交互に放つエインヘリアルの動きを見切るのは容易いことではなく、ディフェンダーが庇う行動も毎回絶対に起こるとは言えない。
加えて、ディフェンダー陣と比べ、それ以外のポジションについた者達へのダメージはどうしても多くなる。
「どうだ、弱点は見出せそうか?」
「いいや、残念ながら。──けれど、倒すことは不可能ではないと思っているよ」
何気なくワルゼロムが落とした言葉に、ナコトフが余裕を含ませた態度を崩さないままに応じる。
戦いが始まってからずっと、ケルベロス達はエインヘリアルの動きやこちらの攻撃に対する反応を注視してきたが、弱点らしい弱点は見えなかった。
フェイントを絡めた無明の攻撃が弾かれる。
「やらせねえよ……っ!」
お返しと言わんばかりに振り下ろされた斬撃を庇いに入った煉が、通常よりも威力を増した一撃の前に倒れ伏した。
格上の相手に対し、制約を絡めて動きを封じつつ短期決戦で倒す──その作戦自体は、正しいものだっただろう。
だが、エインヘリアルの重い一撃に癒しの手を取らざるを得ないターンも少なくなく、結果として思うように攻撃の手を増やすことが出来ずにただ時間ばかりが過ぎていった。
防具だけでなく、例えば盾の守りがあったならば、あるいは癒し手がもう一人いたならば──戦いの流れは、また違ったものになっていただろう。
「貴様らの力はその程度か、ケルベロスよ!」
エインヘリアルが渾身の力を込めて振るった星剣のオーラに覆われ、リュガの姿が掻き消えると同時に鈴が倒れる。
鈴と同じくサーヴァントを使役するワルゼロムもまた限界を超えていたが、気力で踏み止まった彼女はどの道長くはもたないことを察し、癒しの花火を打ち上げるより少しでも攻撃を重ねることを選んだ。
「そう簡単にやられはせんよ、外道──!」
力強い一歩を踏み込み、音速を超える拳を叩き込む。
すると、それまで下卑た笑みを浮かべていたエインヘリアルが、僅かに眉を寄せたのだ。
「蟻のくせに小癪な……!」
それはまさしく、地道に積み重ねてきたケルベロス達の攻撃とエンチャントが確かに届いているという証だった。
「木っ端微塵に……砕け散れッ!!」
無明の叫び声と同時、二振りの刀が編み出した音速を超えた斬撃と衝撃が巨人を斬り裂いて吹き飛ばす。
すぐさま起き上がり、凄まじい形相で剣を振るうエインヘリアル。
その守りの力すら砕く一撃は今度こそ無明を叩き潰し、戦闘不能に追いやった。
──ケルベロス達が、サーヴァントが、次々に戦う力を失い倒れてゆく。
戦力はすでに半減していたが、彼らは可能な限り最後まで戦うと強く心に決め、明確な撤退の条件を定めていなかった。
それはある意味では、全滅をも免れないほどの危険な判断だった。
だが、彼らの揺るぎない覚悟こそが、この戦いにおいて勝利を掴むための確かな力となった──。
「命乞いは聞きませんわよ。痛くないように一瞬でおもてなしして差し上げますから」
敢えて挑発めいた口調で言い放ちながら、エニーケが敵のグラビティを弱体化するエネルギー弾を撃ち込む。
エインヘリアルがぎろりとエニーケを睨み付けた次の瞬間、ナコトフがサフランの花を手に取った。
「キミにこの言葉を贈ろう……『調子に乗るな』──」
力ある言葉を紡ぎながら、ナコトフは手のひらに載せたサフランの花をひと吹きする。舞う花びらが香り立ち、嵐のような花風がエインヘリアルを包み込む。
加護を破る力に、忌々しげに星剣を振り上げたエインヘリアルは──何かに縫い止められたかのように動きを止め、そこに一瞬の、けれど大きな隙が生まれた。
ただ真っ直ぐに深紅の巨人を見据え、凛と声を響かせたのはフィルトリア。
「たくさんの罪のない人々を傷つけるその行い、断じて許せません!」
掲げた手のひらから放たれた漆黒の炎は、罪を喰らう獣──シン・イーター。
「──貴方の罪、私が断罪します……!」
「オオオオオッ──!!」
エインヘリアルを呑み込んだ炎は深紅の鎧までもを漆黒に染め上げて、やがて、その命ごと全てを焼き尽くした。
最後まで退かず、戦うことを選んだケルベロス達の勝利だった。
「……何の役にも立たない雑魚でしたわね」
跡形もなく消えたエインヘリアルが立っていた場所へ向け、エニーケが吐き捨てる。彼女が望んでいたアグリム軍団についての情報は得られなかったが、例え直に問いかけたとしても、まともな答えが返ってくるとは思えなかった。
終わってみれば倒れずに済んだ者達も満身創痍と言っても過言ではなく、もしここにまたアグリム軍団の一員が現れたら、今度こそ全滅は避けられない状態だった。
「どうやら、我らの出番はここまでのようだな」」
ワルゼロムの言葉に、頷く一同。一刻も早く撤退の必要があると判断したケルベロス達は、倒れた四人を抱え上げ、人馬宮ガイセリウムに背を向けた。
多摩川へ迫るガイセリウムから逃れるために、多摩川を超えて撤退するというのは、自然な判断だっただろう。
だが、この行動こそが、イグニスにケルベロスの作戦は失敗したと印象付けることになる。
──ケルベロスは、大兵力の遠距離グラビティによりガイセリウムを攻撃するという作戦を行ったが、アグリム軍団の襲撃により作戦は失敗。
アグリム軍団にも被害は出たものの、ケルベロス達は多摩川を越えて敗走していった──と。
その油断と慢心が生むであろう僅かな隙こそが、ガイセリウムへの侵入部隊への大きな力添えとなる。
「祈ろう。──彼らの『勝利』を」
言いながら、ナコトフが手向けたのはリンドウの花。
フィルトリアは束の間祈るように目を伏せて、それから強い眼差しで辿るべき道を、その先にある帰るべき場所を見つめる。
更なる戦いへと向かった同胞達へ願いを託し、ケルベロス達はその場を後にした。
作者:小鳥遊彩羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年1月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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