仇闇に弔え

作者:宇世真

●序
 ――某廃工場
「おらァ!」
 足音荒く語気荒く、外壁の暴力的なマーキングを角材で乱暴にノックする。
 同時に、誰かが蹴飛ばした空のスプレー缶がコンクリートの壁と床を跳ね転がり、飛び込んだ暗がりの先で反響した。
「今度ばかりは勘弁ならねェ。てめェら、よくも仲間を殺ってくれたな!」
 日夜繰り広げられる若者グループの抗争の渦中に在って、彼らを突き動かしているのは『やられたらやり返す』という単純明快なルールだった。
 家族同然の仲間を殺された怒りを燃やし、弔い合戦と息巻いて集まった中には他所との抗争で負った手傷が癒えないまま参加した者も居る。
 元より分が悪い事は解っていたが、死なば諸共、覚悟の仇討ち決死行。
 そんな彼らを、廃工場の一団は鼻で笑う。
「吠えやがる。負け犬は負け犬らしく、小屋ん中で小さくなって寝てろや!」
「殺ッ!」
 余裕綽々の鼻面に角材を叩き込もうとした刹那、背後で仲間達の悲鳴が上がった。
 1人や2人ではない。――戦慄。
「……な、ん」
「私闘の結果が気に喰わねぇと吹っかけて、乗り込んで来たのはお前らの方だからな」
 癪に障るヘッドの声が遠ざかる。代わりに、信じ難い異形の姿が間に割り込んで来た。
 無数の棘で縁取られた捕食葉が目の前で開く。視界一杯に拡がっている。
 この化け物が。
 仲間を。
 皆を。
 俺を。
 殺――。

●ヘリオライダーは語る
 近年急激に発展した若者の街、茨木県かすみがうら市。
 この街では、最近、若者のグループ同士の抗争事件が多発しているらしい。
「ただの抗争事件ならケルベロスの皆さんに折り入ってお願いする事でもないんっすけど、デウスエクスが絡んでるとなると、話は別っす」
 ケルベロスへの尊敬が溢れるキラキラした目で熱弁を奮うイケメン――名を黒瀬・ダンテと云う、オラトリオのヘリオライダーである。
 彼が言うには、若者グループの中に、デウスエクスである『攻性植物』の果実を体内に受け入れて異形化した者がいるとの事。既に、その者の手により人命が奪われている。
「これ以上犠牲者が出る前に、攻性植物を撃破して来て欲しいんっす」
 お願いしますっす。
 浅黒い肌の(黙っていれば)クール&ワイルド系イケメンは、そこで言葉に一層力を込めた。ケルベロスへの期待と信頼に満ち満ちた眼差しで。
「撃破対象以外のメンバーはただの人間っすから、全く脅威にはならないっす。戦いが始まれば勝手に逃げて行くんじゃないすかね」
 それよりも、気を付けて欲しいのはやっぱ、デウスエクスっすよ!
 遠近両射程の攻撃手段を具えた対象である事を強調し、ダンテは注意を促した。
 離れた場所に身を置いて大地に根ざし、戦場を侵食して軌道上の対象を飲み込む『埋葬形態』。近づけば、その腕を蔓草と化して絡みつき締め上げる『蔓触手形態』に、食虫植物さながらに喰らい付き毒を注入する『捕食形態』にと、敵は実に多彩な変化を遂げる。
「攻性植物が紛れ込んでいるグループの根城はもう突き止めているっす。ご丁寧に、外壁にスプレーでマーキングして自分らの存在を誇示してっすからね」
 戦場となるのは、寂れた廃工場。
 錆付いた機械と片隅に積み上げられた資材類。一部を残して天井は崩落し、点在した瓦礫の山は、工場の遺物と共に人目を遮る物陰を作り出している。組み込まれた立体架台による中二階に至る階段は三箇所。内一箇所はやはり崩落して使い物にならない様だ。
「暗がりが点在していて、対象が最初にどこに潜んでいるかは不明っすけど……」
 申し訳なさそうにダンテが言う。
 けれど、遮蔽物はケルベロス達にとっても利用価値があるかもしれない。
 ――うふふ。
 不意に艶やかな笑い声が場に落ちた。可憐な、それでいて何処か蠱惑的な響きを孕んだその声の主は、ヘリオライダーの説明が終わるや否やで口を開く。
「おいたが過ぎる子には、おしおきが必要よね」
 左目下に並んだ二つの泣きぼくろが色気を醸す、和泉・香蓮――サキュバスの鹵獲術士だ。右手の髑髏――マインドリングに唇を寄せながら彼女は言った。
 息を吐く様に。
 初めての大舞台と気負った風もなく、張り詰めた空気を和らげる様に。
「ふふ。皆様、さあ――早く行きましょう」
 待ち切れないと、言わんばかりに。


参加者
岬・よう子(金緑の一振り・e00096)
エトワール・フィラント(星を継ぐ者・e01859)
ベルカント・ロンド(闇はあやなし・e02171)
ブレネッジ・オピネル(朽刃・e02944)
深鷹・夜七(新米ケルベロス・e08454)
男女川・かえる(筑波山からやってきた・e08836)
ヒカリ・ウェイライト(自然を愛する機械人・e09234)
鷺坂・相模(逆しまの青・e10094)

■リプレイ

●ひんやりと仄暗い
 無機質な瓦礫に囲まれた、だだっ広い空間に篭る空気は埃っぽく、錆臭い。
 天井に大穴が開いているにも関わらず換気の役には立っていないらしい。鼻につくのは古びた金属臭に混じる、スプレー塗料の匂い。悪趣味な落書きは内壁にも散見された。
 アウトロー達は勝手気ままにやっている様だ。
 それだけならば我関せずを決め込む者も、其処に倒すべき存在が堂々と紛れ込んでいるとあっては、見過ごせない。廃工場内を先行する4名が携えている灯りは、歩くのに必要というよりむしろ――隠れ蓑を剥ぎ取る、言わば、挑発の為の小道具だった。
「出て来い」
 打ち棄てられた古い機材に灯りを向けて、エトワール・フィラント(星を継ぐ者・e01859)が言い放つ。よく響く、真っ直ぐな声。やや後方から照射された光が、そんな彼の姿を際立たせる。岬・よう子(金緑の一振り・e00096)の仕業である。
「此処に居ると聞いたんだがなぁ」
 と、声を張りながら彼女は、続いて足音を響かせた鷺坂・相模(逆しまの青・e10094)にランプを向けた。照明灯でぐるりを指して相模は、得たりと口を開く。凛然と。
「いるんだろう? 先日君らにやられた仲間の意趣返しだ」
 性別不詳に拍車をかける歯切れの良さと、どこか芝居じみた物言いで、窺う反応。
「まさか逃げたりはしないだろう?」
「不良と苔植物野郎が共生するにはなかなかいい物件じゃないか。ちょっとご尊顔を拝見したいから出てきてくれるかい」
 手振りも大きく灯りを揺らして、ブレネッジ・オピネル(朽刃・e02944)も煽る。
 喧嘩っ早そうな一団が根城にしているだけあって、いつどこから襲い掛かられても不思議はない。中でも特に好戦的な危険因子をこれで誘き出そうというのだから……終始油断無く、突入の際には殊更慎重になっていた彼の煽り文句も大胆になろうというもの。

 みしり、と――。
 軋る様な音が聞こえた気がした。
 『コケ』にされた怒りにソレが動き出す音。

「まさかの正面です。来ますよ」
 仲間達の死角となる後背を、周囲を、カバーしていた無灯火の面々――泰然と杖を構えたベルカント・ロンド(闇はあやなし・e02171)が確信と共に告げた時、「えっ?!」と思わず声を出したのは男女川・かえる(筑波山からやってきた・e08836)である。
 少年はほぼ同時に中二階の人影に気付いていたのだが、そちらはどうやらアウトロー達の方であったらしい。ふむ、と鼻を鳴らしてヒカリ・ウェイライト(自然を愛する機械人・e09234)が二点を見比べ、首に下げていたゴーグルを目元に引き上げる。
「チョックラ本気出すデスヨ」
「よっし、いけない植物はこらしめないとね!」
 俄然張り切る深鷹・夜七(新米ケルベロス・e08454)も大きく頷き、地を蹴った。
 皆で一斉に明かりを点けたら戦闘開始。気分は悪の巣に乗り込むヒーロー、もといヒロインだ。そんな夜七に何かを感じ取ってか、ヒカリのゴーグルが、ぴかりと輝いた。
 
●弱肉強食の理
 来ますよと、聞こえた瞬間には彼らも把握している。
 その前の音は聴いていたし、ただならぬ殺意を直接向けられたブレネッジに至っては頭で理解するより先に本能が身体を衝き動かしていた。後手に回るのは止むを得まい。
 そう仕向けた自覚も覚悟もあればこそ、寸での所で回避した彼は、反す半身で黒いナイフを繰り出した。ちりと閃く雷。彼が『相棒』と称するその黒い刀身が蔓草の表皮を梳る。
 蔓草を包む一瞬の炎が噴き上がり、見れば間に入って敵を睨み付けている夜七のオルトロス。夜七自身も逆サイドから肉薄する卓越した身のこなしで、一太刀を浴びせた所だった。
 そしてブレネッジは、彼を掴み損ねた蔓草を上空から叩き割らんばかりの一撃で怯ませる相模の姿を視界に捉えた。振り抜いたルーンアックスを豪快に肩に乗せて、彼女は言う。
「残念、こちらだ」
 攻性植物と化した男が腕を押さえて彼女を睨め上げた。
「……相手が悪かったね」
 ゴーグルを装着した視界を細めるエトワールの左腕には青い炎。改めて目にしたデウスエクスの力は、やはり過ぎたるもの――ただの喧嘩に持ち込むべきではないものだ。
 腰の左右に備えた二振りの斬霊刀を交差した両手で同時に抜き放ち、よう子はその刃を淡い光に曝す。金緑石が如き瞳にその輝きを映し、唇は謡う様に解けて、戦場に在る者の視線を一身に誘う。其は彼女の在り様。――御先の旗印(フィールド・イズ・マイン)。
「『恐るることはない、奢るることはない、戦場で共に踊ろう』」
 殺気立つ視線を受け止めながら、よう子は堂々たる挙動で舞う様に、ゆっくりと手首を返した。

「ハイハイ、一般人は速やかに退去してクダサイネー」
 着火した松明を振りながらヒカリがそう促すまでもなく、若者達の大半は階下の様子に恐れをなして既に逃げ出した様だ。鉄板を慌しく踏み鳴らす足音がうるさいほど響き渡る。
 命知らずが乗り込んで来た、と高みの見物でもするつもりで集まったのだろうが、今回ばかりはまさしく――そう、『相手が悪い』という奴だ。先ほど聞こえた仲間の台詞を思い返し、ちらと視線を走らせて一人頷く。
 だがしかし、聞き分けのない輩も中には居る。この一団のリーダーだろうか。
 アウトローを気取るその若者は『一般人』扱いを『挑発』と受け止めたらしかった。吠える彼を、仲間が押し留める声が聞こえて来る。
「おい、なんかヤベェって……俺らも早く逃げようぜ……」
「うんうん、ソレがイイデスヨ」
 と、頷くヒカリをも無視して、彼は尚吠え猛る。
「くそ、そいつらもやっちまえよ、こらァ……!」
 手すりから身を乗り出さんばかりに喰って掛かる彼のその声は前線で闘う者達の耳にも届いた。
 
「うわ、あの人あんな事言ってる……」
 物騒かつ不穏である。おおよそ、そこから思い描ける展望もまた然り。
 渋い表情でアームドフォートを構えたかえるは、せめていざという時敵の攻撃が外れる様に祈りを込めてフォートレスキャノンをぶっ放した。
「うふふ。困ったわねぇ」
「香蓮ちゃん、全然困ってる様に見えないよう……というか、その眼で僕を見ないで!」
「ふふふふふ」
 和泉・香蓮(サキュバスの鹵獲術士・en0013)は微笑み、デウスエクスへと視線を転じた。その眼に魔力が点る時、凝視された者は忽ち彼女の術中に囚われる。仲間に向ける眼差しとはまるで性質の異なるものだが、単純に刺激が強すぎるのかもしれない。
 やれやれ、と、やはり困った風もなく穏やかな微笑を湛えるサキュバスがもう一人。
「心配無用と楽観も出来ませんか。あまり彼を刺激してはいけませんよ」
 前衛の仲間をライトニングウォールで支援しながらベルカントが向ける言葉は中二階の若者達へ。渦中を駆けていたよう子ははっきり彼らを一瞥すると、唾棄する様に吐き捨てる。
「ソレはもうきみらの仲間ではない」
 今、彼らが知るべき事は、たったそれだけ。
 多くは語らずとも彼の仲間は簡単に竦み上がってくれた。
「やっぱヤベェって、マジ逃げようぜ!」
「くそ……」
 最後まで粘っていた若者は舌打ち一つ。仲間に引きずられてとうとう退場して行く。覚えてろよ、などと月並みな捨て台詞を残して。
「………」
 何とも言えない心持。
 不思議とこちら側に誰も降りて来ない所を見ると、別のルートがあるのだろう。と、ヒカリは受け止める。それは普段から此処に屯している彼らの強みであるに違いない。
 危険を避けて逃げる彼らに、
「賢明デスネ」
 皮肉交じりに呟いた。

●暗がりの墓標
 ………――。
 足音と声は次第に遠ざかり、やがて廃工場を満たす静寂。
 それは、賑やかな一般ピープルの退出が完了した事を意味する。
「やり易くなったな。お互いに」 
 毒液滴る捕食葉に片腕を囚われたままエトワールは、今や全方位に殺意を向ける男に言ってやった。青い炎を纏う左の拳を叩き込んで身を剥がし、バックステップで距離を取る。
 すかさず反対側に回り込み、植物野郎が体勢を立て直す前に攻撃を重ねようとしたブレネッジの手元で黒い刃先が揺れた。すぐ傍で闘う仲間達――相模や、よう子と行き交う刹那に危うく滑りそうになる刃。
(「く――」)
 侵食された床を視捉し、仲間を傷付けかねない己を自覚した彼の視界が、不意に雷光に染まった。浄化する力を感じる。自分ではまだ行けると見過ごしていた小さな点を一つずつ埋める様なベルカントのフォローが、危うい場面で彼と仲間達を救ったのだ。
(「すまない」)
(「気にしないで」)
 送った視線に当人は涼しげな笑みを浮かべていたが、メディックとして隈なく目を配る彼に負担が掛かっているのは疑うべくもない。共に癒されたエトワールも、薄々感じていた。
 歯車が噛み合っている内は良いが、いつなんどき、それが狂うか判らない。
 だからこそ――慎重に見極める必要がある。
 一度は固めた拳を彼は振り解き、チェンソー剣を握り締めた。
 
「どうしたんだい、もっと楽しませておくれよ」
 暗がりへと後退の挙動を見せた男に相模が追い募る。
 仕切り直そうとでも言うのだろうか。だが、生憎と、それを許す甘さなど一行は持ち合わせていない。逃げも隠れも許さない気概で以って、よう子が追撃を重ねた。
「人の身を棄ててまで手に入れた、その力は潜む為のものではないだろう」
 聞く耳を持たずに暗がりへ触手を伸ばすその先の、瓦礫をヒカリが先んじて遠隔爆破。
「見逃しまセンヨ!」
 予定とは少々段取りが異なってしまったが、結果オーライと胸を張る彼女。行き場を失った触手は一瞬惑い、さらに一瞬の後、相模の蹴りを食らってもんどり打つ。
「大きな力を持つということの責を、取ってもらおうか」
 喰らえるものなら喰らってみるが良い、と言わんばかりにぐいと顔を近づける相模に、食虫花と化した男の片腕が、捕食葉を開いて迫る。が、その目測は見当違いもいい所。
 最早まともに攻撃も当てられなくなった男に、全員で畳み掛けて行く。
 手加減など、一切しない。
 逃げたくもなるだろう。
 狩られる側となった今、この男には何が見えているのだろうか。
「『かえるは なかまを よんだ!』」
 不思議な詠唱で発動するかえるの『鳥獣戯画』。構えたアームドフォートから、撃ち出されるウサギやサル、カエルの形を纏う光の弾丸が。
「ドローン展開。スレイヴ、アクティブ!」
 エトワールが操る小型攻撃無人機(ドローン)の群れが。
「狙いは、外さないよ!」
 ただの喧嘩に殺戮を持ち込む事を断固許さない夜七が。緊張に震える手を隠す様に硬く握り込み打ち振るう二刀の刃が切り刻む、緑の欠片が飛散する。ついでに、敵に当たらなかったウサギやカエルの弾丸達がそこらを自由に跳ね回って、緊張を和ませる瞬間。オルトロスの『彼方』は常に夜七の視界で、彼女の意を汲んで仲間を護る様に立ち回っていた。
 最後の一押しとばかり、前衛陣の周囲にはヒカリの操る小型治療無人機(ドローン)が展開する。
「行くデスヨ!」

 矢の様に駆け抜ける、一陣。
「下手に人間の姿してくれてなくて良かったよ。切り飛ばすのに抵抗が少なくて済むからね」
 彼らを迎え討とうとして自縄自縛状態の植物野郎を、冷ややかに見つめるブレネッジの瞳に点る嘲笑と、蔑み。そういえば、こいつも催眠状態にある事を唐突に思い出していた。
 刃を突き立てたよう子の眼には、憐れみが浮かぶばかり。そこに怒りはない。
「ただただ、貴殿が愛する人間でなくなったことが哀しいばかりだ」
 銃撃による波状攻撃に一頻り躍る蔓草を眺めた後、チェンソー剣を振り下ろす追撃に炎を乗せて、エトワールは深くその名を刻み付ける。完膚なきまでに。
 ――不死は殺す。
「それが、僕たちケルベロスだ」
 感情を込めない眼差しで、息も絶え絶えに身を震わせるデウスエクスを見下ろす。
 同様に、足元に広がる侵食に気付いたブレネッジはその執念の悪足掻きに目を細めた。
 懐から取り出したのは一振りの朽ちたナイフ。
 傍目にはとても使い物になりそうもないその刃が彼の手によって最期の輝きを放ち始める。命潰えるその刹那にのみ、切れ味はどんな『相棒』にも比類なく。
「『死に損ないに、幕引きの華を』」
 刃はするりと彼の手を抜けて、軽やかに突き立った。
 吸い込まれる様に音もなく、柄の根元まで。
「サヨナラ、だ」 
 見送る言葉のその先で、蔓草が大きくのたうち、そして、動きが止まると同時に色を失って行く。静かに、急速に。そのまま、瓦解して行く身体と共に、最期の務めを果たしたナイフも細かな欠片となってさらさらと崩れ去る。
 終わってみれば実に呆気ないものだ、と相模はその光景を眺めて思う。
「ま、因果応報という奴だね。縁があったら、来世辺りでまた遊ぼう」
 
●浄化
「終わった~」
 解放感に胸を膨らませ、大きく伸びをしながらかえるは息を吐いた。
 彼らがしっかりかき回したか為か、篭っていた空気も臭気も今はそれほど気にならない。或いは、単に『慣れ』か。
(「それにしても――」)
「こんな身近なとこでデウスエクスの行動が活発化してるなんて心配……」
 純粋な気がかりから、二度目の溜息には疲労が滲む。そんなかえるの視界を、ひらひらと上下する掌。次いで、少年を気遣う香蓮の顔が近づいた。覗き込まれて、思わず後ずさり。
「大丈夫? 皆様、大分お疲れね」
 一人一人、彼女は声を掛けて回っていた様だ。
 皆、口にはしないがへとへとである。肉体に蓄積している疲労感は傍目にも見て取れる程。そんな中、夜七がそわそわと、侵食された床を気にしている。
 出来れば元の状態にしたいという彼女の願いに、
「構いませんよ」
 と、ライトニングウォールで快く応じるのはベルカントだ。頼られた事が嬉しいのか、ともすれば病弱な印象すら与える程に白い肌が、心なしか色づいて見える。
 流石に爆破した瓦礫までは戻さなくて良いかと、本当に最低限の処置だけをして一同は切り上げる事にした。とにもかくにも、ひとまずは、終わったのだ。
 さぁ、――帰ろうか。

作者:宇世真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。