猛撃のバルバロス

作者:朱乃天

 太陽が傾き澄んだ青空が橙色に染まる頃。凍てつくような潮風が海に吹き荒れる。
 穏やかだった水面は波が高くなり、海上を飛び交っていた海鳥の群れがけたたましい鳴き声を上げて、静寂に包まれた海がにわかに騒がしくなってきた。
 水底からゆらりと浮かび上がってくる不気味な巨影。
 赤い髭を生やした無骨な容姿のその竜の、身体の至る箇所には傷が刻まれていた。
 この傷を付けた彼の者達が何れまたやって来ようと、今度は返り討ちにするまでだ。
 無謀なる地獄の番犬共に報復を――大気を斬り裂くような烈しい咆哮が海一帯に轟いた。

「今回もキミ達には戦艦竜への攻撃をお願いするよ」
 玖堂・シュリ(レプリカントのヘリオライダー・en0079)は集まったケルベロス達に対して、淡々と任務の内容を話し始める。
 取り出したのはいくつかの資料。今は相模湾を根城にしている戦艦竜を討伐する為の作戦が行われ、複数回に渡る攻撃の第一陣を終えた段階だ。
 その時に持ち帰る事が出来た情報を纏めた資料を用いて、シュリは順番に説明していく。
 戦艦竜とは、城ヶ島の南の海を守護していたドラゴンで、体に戦艦のような装甲や砲塔があり、非常に高い戦闘力を持っている。
 今回戦うのは、前回と同様『バルバロス』と命名された戦艦竜だ。
 高い戦闘力と引き換えに、自力でダメージを回復出来ない戦艦竜は、前回の交戦によって被ったダメージがそのまま残っている。
 このままダメージを積み重ねていけば、何れは撃破する事も可能だろう。その為にも、今回はどれだけ多く損傷を与えられるかが重要だ。
「敵の攻撃方法も判明したよ。パターンは全部で三つあるみたいだね」
 シュリが用意した資料には戦艦竜の攻撃手段が記されている。
 戦艦竜の全身を纏う鋼鉄の装甲。そこに備えられた複数の砲塔から一斉に放たれる、炎の塊の如き砲弾による集中砲火。
 背中に生えた翼は竜巻を起こし、風圧は刃と化して近くにいる者達を斬り刻む。
 そして、強靭な牙はあらゆるモノを噛み砕き、まともに食らえばただでは済まない。
 高い火力と耐久力を誇る反面、その巨体ゆえ回避能力は低い。そこに付け入る隙がある。
「どの攻撃方法も一定の効果はあるようだけど、代わりに弱点は見当たらないみたいだね」
 そこでどのようにして効率的にダメージを重ねていくかが、戦いの鍵になりそうだ。
「それと......前回は火力を上げて力を振るっていたようだったけど、今回も同じように力で捻じ伏せにくるかもしれないね」
 バルバロスは戦艦竜の中でも高い破壊力を誇っている。その事を踏まえて対策を練る必要があるだろう。
 敵についての情報が分かった以上、するべき事は明確だ。だからこそ、戦艦竜をどれだけ消耗させて、こちらは被害をどこまで抑えられるか、大事なのはその一点のみとなる。
「この戦いは後に繋げる為のモノだから。今回も引き際の見極めはキミ達に任せるけど......最低限、前回と同じ位の損傷は与えた方がいいかもね」
 相手は強大な力を持つ戦艦竜だ。おおよその戦闘能力が判明したからとて、危険な任務である事には変わりない。
「まずは何よりも、キミ達の命が優先だから。無理はしないで、無事に戻って来る事だよ」
 シュリは全てを伝え終えると、戦艦竜の待つ相模湾へとヘリオンを飛ばすのだった。


参加者
リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)
千手・明子(天上天下わたくしがあきらちゃ・e02471)
ミチェーリ・ノルシュテイン(フローズンアントラー・e02708)
リーゼロッテ・アンジェリカ(漆黒の黒薔薇天使・e04567)
嘩桜・炎酒(星屑天象儀・e07249)
蔓葉・貴意斗(人生謳歌のおどけもの・e08949)
小鞠・景(春隣枯葎・e15332)
黒沢・腕白(暴力的非暴力・e20560)

■リプレイ


「たまーたまー、今回は一撃で破られたりしないでよねー。私にはたまがいないとだめなんだから―」
 ケルベロス達を乗せたクルーザーの中で、リーゼロッテ・アンジェリカ(漆黒の黒薔薇天使・e04567)がテレビウムのたまをギュッと抱き締めていた。
 戦艦竜『バルバロス』の討伐。その第一陣目に参戦した彼女は、戦艦竜の脅威を目の前で思い知らされていた。
 サーヴァントを一撃で噛み砕くほどの破壊力――しかし相手に関する情報を得た今回は、前回の二の舞にならないよう対策を講じて戦いに臨むのだった。
「ふふ、随分と仲が良いのですわね。リーゼロッテさん達が集めていただいた情報、確りと活かしたいですわ」
 リーゼロッテとたまのやり取りを、千手・明子(天上天下わたくしがあきらちゃ・e02471)が隣で微笑ましく見守っていた。
「……はっ! こ、これは魔力を高める儀式ですわ!」
 明子の一言で我に返ったリーゼロッテは、思わず気恥ずかしくなって慌てふためいた。
「戦艦竜の縄張りはこの辺りでしょうか。ここから先は泳いだ方がいいかもしれませんね」
 ケルベロス達は戦艦竜と前回交戦した場所まで近付いていた。
 小鞠・景(春隣枯葎・e15332)は撤退時の事を考えて、クルーザーを破壊されないように戦闘領域から離れて待機させる事を促した。
 クルーザーを停泊させておき、海に浸かって自力で泳いで進んでいく八人のケルベロス。
 翡翠色に輝いていた海は、水平線に沈もうとしている夕陽を浴びて橙色に煌めいていた。
 ――その中に一点だけ、橙色よりも深くて濃い赤が海の底から浮かび上がってくる。
「早速おいでなすったみたいや。でっかい竜と戦えるとは楽しい事やね」
 嘩桜・炎酒(星屑天象儀・e07249)は、眼前に現れる巨大な竜に対して闘志を燃やす。
 戦う相手が強敵であればあるほど心が躍る。炎酒もまた、いわゆる戦闘狂と言われる種類の人間、もといホッキョクウサギの獣人だった。
 深紅の装甲を身に纏い、全身が赤で統一された巨大な戦艦竜『バルバロス』が水上に姿を見せると、ケルベロス達は一斉に武器を構えて戦闘態勢に入る。
 しかし彼等が仕掛けるよりも先に、バルバロスの装甲に装着された砲塔がケルベロス達に向けられる。そして――号砲と共に発射された砲弾が炎の雨となって降り注ぐ。
「砲撃が来ます! 全員回避して下さい!」
 守り手として先頭を泳いでいたミチェーリ・ノルシュテイン(フローズンアントラー・e02708)が、バルバロスの行動を察知して仲間に呼びかける。
 第一陣で得た情報から、戦艦竜の攻撃パターンは全て頭の中に収まっている。後は直撃を喰らわないように気を付けさえすれば、痛手を被る事はないだろう。
 確かに戦艦竜の火力はとてつもなく強大ではあるが、その巨体ゆえに命中精度は決して高くない。ならばそこに付け入る隙があるはずだ。
「力押しがお好みなら……その力を発揮出来なくするまで!」
 前衛陣を狙った砲撃を難なく躱し、地獄の番犬と戦艦竜の第二戦目がここに開戦された。

「当たらなけりゃどうって事ありゃせんわい! せあっ!」
 日焼けした褐色の肌が夕暮れの海によく映える。古流武術『黒白流』の使い手である黒沢・腕白(暴力的非暴力・e20560)が、腕に冷気を纏わせてバルバロスに振り下ろす。
 腕白の手が触れる瞬間、冷気の力によって一部が凍結していく。そこへ全力で手刀を叩き込み、氷もろとも豪快に叩き割るのだった。
「相手が超火力なら、その攻撃を封じればいいだけっすよね。全身全霊全力で、敵の全力を出させない事が自分の役割っす!」
 蔓葉・貴意斗(人生謳歌のおどけもの・e08949)が口元を微かに上げながら、ゴーグルをかけた視線の先にいる戦艦竜を見据えて狙いを絞る。
「殺界変性。一点集中。呪詛昇華。――形成。凶手の禍つ刃」
 貴意斗が気を集めると、腕に込めた殺意が膨れ上がって呪詛の域に昇華されていく。禍々しい闘気を宿した一突きは戦艦竜の装甲を貫いて、呪詛が体内を汚染し肉体を麻痺させる。
「『船長』が繋いでくれた成果、更に重ねる……一傷でも多く、一太刀でも深く……!」
 自らが所属する旅団の団長が対戦した戦艦竜。リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)は、その後を受け継ぐような形でバルバロスと対峙する事となる。
 赤毛赤髭の偉丈夫というイメージは、彼女の父親と重なる部分があるようで。だからこそ遠慮無く戦えるなどと、若干私情を挟んだりしているが。
 戦艦竜の巨体を目の当たりにして緊張と昂揚が綯い交ぜになり、握る拳が、刀を持つ手が震える感覚を受け止めていた。
「……赤龍! 討たせてもらう!」
 とは言えそう甘くない相手だと承知はしている。リーフはそれでも強い意志が好結果を生むという信念を刃に乗せて、日本刀でバルバロスの体躯を、傷痕が残る箇所を斬り裂いた。
 重ね合わせるように刻んだ傷は、奇しくも初戦で、船長と慕う少女が付けた傷だった。


「倒してしまっても構わないのでしょう? 今日この日を命日にしてあげてもよくってよ」
 そう言って明子は不敵に笑いつつ、精神を集中させて念じると、バルバロスの砲塔の一つが突然爆発を起こす。
 今回参戦したケルベロス達は、バルバロスに少しでも多くのダメージを与えるべく、より攻撃的な布陣を敷いて戦いに臨んでいた。
 明子とミチェーリ、リーフの守り手三人を含めた計五人を前衛に置き、対照的に後衛には回復役のリーゼロッテとたまだけしかいない。
「先陣を切った皆さんの死闘に報いる為にも、もう一泡吹かせてやりましょう」
 ミチェーリが冷静に状況を判断しながら、ドローンの群れを展開させて防御を固める。
「終末の黒薔薇天使の力、星の煌めきと共に汝等に授けよう!」
 リーゼロッテも剣で海面に星座を描き、バルバロスの攻撃に備えて守護の力を施した。
「とにかく次に繋げる為にも、今は出来る限り体力を削いでおきましょう」
 景はバルバロスの視界に入らないよう水中へと潜り込み、無防備になっている腹部目掛けて刃の如く鋭い蹴りを叩き込む。その瞬間、バルバロスの表情が少しだけ歪んだように見えた。
 幾度となく歯向かってくるケルベロス達を纏めて薙ぎ払おうと、バルバロスは背中の翼を広げて大きく羽ばたき突風を巻き起こす。
 竜巻と化した突風は前衛陣を吸い込もうとするが、風の軌道を読んで掻い潜り、その際に多少の傷は負うものの被害は最小限に食い止めていた。
「――衝撃振動砲スタンバイ、目標までのレール設置OK。狙い撃ちってな」
 炎酒が空気を圧縮させて、摩擦によって発生した静電気を内包した弾丸を精製する。圧縮の一部を解放すると、気弾は空気の道を通って高速でバルバロスに突き進んでいく。
 度重なる衝撃によって内包された静電気が稲妻と化し、弾け飛ぶほどの雷を帯びた紫電は一直線に伸びてバルバロスの肩を貫いた。
 炎酒の後に続いて、ミミックのツァイスがエクトプラズムの武器を振り回す。
「観察する暇はない。なら……手応えを感じ取るまでだ!」
 リーフが尻尾を巧みに操りながら水中を自在に泳ぎ回る。戦艦竜の装甲を砕こうと、刃に雷の力を纏わせて神速の突きを繰り出した。するとその衝撃で装甲に亀裂が走る。
「さぁ、小細工の時間っす――捉えた」
 螺旋手裏剣を手に貴意斗がバルバロスに接近し、生じた亀裂の隙間を狙って連撃を放つ。精密機械のように正確に、悪辣なほどに裂いて抉って穿って拡げ、装甲を破壊していく。
 ケルベロス達は更に攻撃を積み重ね、尚且つ自分達の損傷を軽度に留めた状態で、戦況を優位に進めていた。
 ここまで一人の負傷者も出さず、このまま優勢が続くと思われていたが――。

 海を縦横無尽に泳ぎ回って攪乱する番犬達に、荒ぶる巨竜がついに文字通りの牙を剥く。
 人間を丸飲み出来るほどの巨大な口を開いて、獲物を一人に絞って喰らおうと襲い来る。その凶牙は――中衛にいた二人のうちの一人、腕白に向けられた。
「くっ……! そう簡単にやられるわけにはいかんのじゃけぇ!」
 バルバロスに喰われまいと、翼で飛んで躱そうとするが――上から覆い被さるように口が迫ってきて、乱雑に並んだ歯牙が腕白を捕らえて喰らいつく。
 腕白は抵抗虚しく牙の餌食となってしまい、ついには力尽き果て海に落とされる。意識を失い水面に浮かぶ彼女の褐色の肌は、自らの血と夕陽の光で真っ赤に染まっていた――。
「……報告で知ってはいましたが、実際に目にすると凄まじいものですね」
 普段は感情を顔に出さないミチェーリだが、発する言葉からは戸惑いの色が滲み出る。
 戦艦竜の攻撃が命中した時の破壊力をまざまざと見せつけられて、その圧倒的な力の違いはケルベロス達に更なる恐怖心を抱かせた。
「それでも、まだこの程度で退くわけにはいきませんから」
 表情を崩す事なく、淡々とした口調で語る景。物静かだが常に変わらず落ち着いた彼女の態度が、仲間達に平常心を取り戻させる。
「回復は私達に任せて、皆様は攻撃に専念して下さるといいですわ!」
 バルバロスの脅威を知るリーゼロッテもまた、動じる事なく司令塔として指示を出す。
「敵が強ければ余計に燃えてくるもんや。とことんまで楽しませてもらおうかね」
 炎酒が沸き上がる衝動を抑えきれない様子で、バルバロスを眼光鋭く睨みつける。
 手足を獣の形に変化させ、水中を跳ねるような泳ぎで戦艦竜に突撃を仕掛けて、重力を帯びた拳を叩きつけるように捻じ込んだ。
「星を貪る天魔共! グランバニアの勇者を恐れよ! 聖なる南十字を畏れよ!!」
 リーフの手に、宝具として伝わる『南十字の聖なる騎士槍』が招来される。
 バルバロスの周囲を高速機動で移動しながら翻弄し、翼を翻しながら戦艦竜の背中に着地して、槍を頭上に掲げる。
「陸海空、何処でも戦うのが龍だ――流れ去れ!!」
 星の力を宿した断罪の一撃を突き刺すと、槍を中心に十字の光が放たれる。閃光はまるで烙印を押すかのように竜の装甲を灼き尽くし、消えない傷を刻みつけたのだった。


「仲間を傷付けるのは許せませんわ!」
 明子が振るう剣術の奥義は信仰心を代償にして授かった。今の彼女にとっては仲間こそが信じるべき存在だ。その大事な仲間が倒されるのを見て、明子は怒りに打ち震えていた。
「心は熱く、でも頭は冷静にっすよ。千手さん」
 貴意斗が明子を宥めるように呟きつつも、攻撃の手を緩める事なく戦艦竜に立ち向かう。掌に螺旋の気を込めて、戦艦竜に押し当て内部を破壊する。
 攻撃をし終えて距離を取ろうと背中を見せた時――貴意斗の背後から暴風が巻き起こり、荒波と共に嵐が襲いかかってきた。
「……!? させませんわ!」
 いち早く気付いた明子が貴意斗の前に割り込み彼を庇うが、代わりに明子がバルバロスの攻撃を一身に受けてしまう。
 これ以上誰かが傷付くのなら――背中を合わせた瞬間に見せた笑顔が無残に閉ざされる。その身を風の刃に斬り刻まれて、鮮やかな血飛沫が花弁の如く舞い散った――。
 返り血を浴びた装甲が赤みを増して、バルバロスは自慢の髭を揺らしながら嘲笑う。
「これ以上は……危険ですわね」
 リーゼロッテの脳裏に初戦の凄惨な光景が思い起こされる。戦艦竜の猛威によって一人、また一人と仲間が倒されていく。今回もそれと同じ光景が繰り広げられていた。
 この後、ケルベロス達は敵の直撃を免れはするものの、人数が減少した事による負担が重く圧し掛かり、次第に消耗が激しくなっていく。
 おそらくもう長く持ち堪える事は難しい。それでも次に続く者達の為に一つでも多く傷を増やそうと、ケルベロス達は最後の攻撃に全てを賭ける。
「折角盛り上がってきたところや。例えこの身が燃え尽きようと、容赦はせえへんで!」
 炎酒も一度は倒れかけたが、魂が肉体を凌駕した事で持ち直し、満身創痍の状態ながらも闘志は未だ消え失せていない。
 戦艦竜を足場にして高く跳躍し、不屈の魂を表すかのような炎を纏った両脚で、燃え盛る烈火の如き蹴りを食らわせた。
「――良く見えると、楽ですね」
 今は系譜が途絶えた密林の民の誡。失伝した秘術を用いた景の瞳は鷹の眼のように鋭さを増し、動体視力を一時的に向上させる。
 デウスエクスの残滓で形成された黒き槍を手に、装甲の剥がれた部分を瞬時に見極めて、景の放った渾身の一撃はバルバロスの肉体を深く穿ち貫いた。

 ケルベロス達の集中攻撃が効いたのか、バルバロスがこれまでにない雄叫びを上げる。
 やがて全ての砲台を一斉に向けて、出力を最大まで高めて炎の雨を降らせようとする。
 バルバロスの全火力が砲身に充填されていく。もし前衛がこの攻撃をまともに食らえば、撤退すらも困難になるだろう。
 そこへリーフが覚悟を決めたのか、翼を翻して上空へと飛翔する。そして戦艦竜の意識を引きつけようと、視界に映るように移動しながら声を張り上げた。
「こっちだバルバロス! 来るなら私の方に来い!」
 リーフの声に反応して、砲台は一転して彼女に向けられる。
「……この辺が潮時ですわね。各自、守りを固めながら引き上げましょう」
 リーゼロッテがリーフの意図を汲み取って、苦渋の決断を下す。
 倒れた仲間を担いで撤退の準備に移行していると、砲撃の轟音が海一帯に響き渡って――撃ち落とされた竜の少女は、水柱の群れの中に飲み込まれていった。
 リーフの犠牲に報いる為にもせめて最後の一撃を。ミチェーリは戦艦竜に接敵しながら、強制冷却機構を備えた可変式ガントレットを展開させる。
「震えることすら許さない……!  露式強攻鎧兵術『凍土』!」
 掌底部から噴き出した凍気がバルバロスの熱を奪い尽くして、凍結させる事で瞬間的に行動を封じ込めていく。
 その隙にミチェーリはリーフを回収し、仲間と合流して一緒に戦域を離脱するのだった。
 ――それから戦艦竜の追撃はなく、無事にクルーザーまで辿り着いた一行は急いで相模湾を後にする。戦いを終えたケルベロス達は、安堵すると同時に大きな疲労感に襲われた。
 この出撃で一体どれほどのダメージを戦艦竜に蓄積させたのか、漠然としか分からない。それでも、手探り状態だった第一陣の時よりも、深手を与えた手応えを感じ取っていた。

 空はすっかり日が沈み、眩しいくらいの茜色は濃紺の紗幕に覆われていた。
 昏くて深い夜の闇。静まり返った海の水底で、紅蓮の戦艦竜はまだ息づいている。
 何れ決戦の日が訪れるだろう。その時は、相手も死に物狂いで来るはずだ。
 それまでに英気を養いながら、地獄の番犬達は来たるべき日に備えて戦いの牙を研ぐ。
 この物語の結末は、今は未だ誰も知る由はない――。

作者:朱乃天 重傷:黒沢・腕白(暴力的非暴力・e20560) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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