呼び起こされし古強者

■リプレイ

●
「我……殺……」
　暗がりの中、地面より引き出されたエインヘリアルが呻き、その周りを踊る様に周遊する怪魚達に向って、ケルベロス達はいきなり攻撃を仕掛けた。
「ええい人の永眠を邪魔する魚はぼっこぼこにしてやるにゃ！　けど、あっさりと大人しく起こされたお前もお前で悪いにゃ！」
「よし、死神を倒すまでの時間稼ぐよ。クロクルは死神を任せたよ」
　ズビシィとエインヘリアルに人差し指を突き付けた深月・雨音（夜行性小熊猫・e00887）が、幻惑をもたらす桜吹雪と共に怪魚達に踊り掛ると、カタリーナ・ラーズグリーズ（偽りの機械人形・e00366）の上げた声と共にアームドフォートが火を噴き、呻くエインヘリアルの左肩に爆ぜると、箱から飛び出したボクスドラゴンの『クロクル』が、怪魚に向ってブレスを吐く。
　いきなり攻撃を受けた怪魚達が、宙を泳ぎながら怨霊弾を飛ばし、
「……滅……」
　左肩をさすりギロリとケルベロス達を睨んだエインヘリアルが、大きな戦斧を振り上げ駆け出した。
「……遅い！」
「貴様らにくれてやるものなどない。何も果たせぬまま死んで貰う……」
　深緋・ルティエ（紅月を継ぎし銀狼・e10812）のボクスドラゴン『紅蓮』が、迫り来るエインヘリアルにブレスを吐くと、そのブレスを裂く様に振るわれた暴風の如き戦斧の下を、かい潜る形で左の脇を抜け死神に迫るルティエに続き、右側を抜けた鬼部・銀司（ヤーマの眼・e01002）が、雨音と同じく桜吹雪を起こす。
「忌むべき死神よ、疾く地獄へ還れ！」
　それらの攻撃をいなす様に舞う死神に、双刃の大鎌を手にしたアベル・ウォークライ（ブラックドラゴン・e04735）が、独楽の様に回転し竜尾を叩き付ける。
　抜けたケルベロス達を振り返るエインヘリアルに、ライドキャリバーのガトリング掃射。
「さて、それでは今宵も戦争といくでございます！　ベリオグリム様でございましたか？　貴方様の相手はそちらではございません」
　そのライドキャリバー『ノーブルマインド』の主であるケイト・クリーパー（灼魂乙女・e13441）が、注意をひきつける様に声を上げ、エインヘリアルに睨まれると桐生・冬馬（レプリカントの刀剣士・en0019）の後ろへと身を隠す。
「まぁ、あのエインヘリアルとやりあうのは面白そうだけどな。理性は無くても身体が闘い方を覚えてんだろ。俺は先に魚の方を片付けてくるぜ、それまで奴を頼んだぜ冬馬」
　その冬馬の肩を叩いた氷鏡・緋桜（九天を砕く赤い悪魔・e18103）が、エインヘリアルを回り込む形で、死神と斬り合う仲間、
「皆さまのお役に立てるよう、奮闘させて頂きます」
　アベルを庇って怨霊弾を受け、キッと睨み返した七式・花宝（花護竜・e21821）とその肩に座り翼で邪気を払うウイングキャット『ヤク』達の元へと駆け付けた。
「さぁ、死神達が片付くまで押さえさえてもらいましょう」
　その光景を敵の向こうに見た冬馬は、斬霊刀を構え戦斧を薙ぐエインヘリアルを迎え撃った。

●
　エインヘリアルの振るう戦斧を斬霊刀の刀身で受けた冬馬だったが、
「くっ……これ程とは……」
　膂力の差か勢いに抗しきれず、刀身を斜めに滑らせてその一撃をかわそうとするが、かわしきれずに斬撃を受け、その服が赤く染まる。
「弱……死……」
　エインヘリアルは嬉しそうに顔を歪め、冬馬に更なる斬撃を見舞おうとするが、
「止めるでございますよ、相棒！」
　ケイトの声に呼応する様にノーブルマインドが冬馬の前に割って入り、紅蓮が属性インストールで冬馬の回復を図ると、
「いきなりノリノリでやってくれるやんか、お返しさせてもらうで」
「何も考えず自分の思うがままに振る舞う……昔のわたしみたいだね。けど、羨ましいとは思わないんだよ」
　優気を胸に中重・光樹が指輪から具現化させた光の輪を投じ、その輪を追う様にカタリーナの放った漆黒の巨矢が風を唸らせて飛ぶ。
「殺……」
　それらの攻撃を受けたエインヘリアルも、些か怯む事無く戦斧を振るいノーブルマインドを弾き飛ばす。
「なんて力だ。まともに喰らうと危ないんだよ」
「ほんと、侮れないな……」
　跳ね回りながら次々と光線と矢を繰り出すカタリーナが、そのパワーに真紅を宿す漆黒の瞳を見開く中、宇佐見・魁琉が毛先の方が青くなった髪を躍らせ、ノーブルマインドに護殻装殻術を施しそのダメージを和らげると、
「守っていてもジリ貧になるだけですね」
　エインヘリアルの視線がカタリーナの方に動いたタイミングで、ノーブルマインドと紅蓮に護られながら、冬馬が再び攻勢に出た。

「僭越ながら、ボクがお相手致しますよ」
　と前に出て竜爪で薙いだが、直後に怪魚達が次々と放つ怨霊弾を受けた花宝。
　片膝をつきそうになるのを堪えて奥歯を噛締めると、直ぐにヤクが翼を動かし花宝の体を蝕む毒を払う。
「死神ったって所詮は低級な紛いモンだ。大人しく消え失せろ！」
　その花宝の横を緋色のマウンテンパーカーの裾を躍らせ駆けた緋桜の拳が、１体の怪魚の体に叩き込まれる。跳ね上げられる様にトンボをきった怪魚に、踊る様に距離を詰めたのはルティエ。
「死者を蘇らせるなど……許されるはずない……たとえ誰かが許しても私が許さない」
　両手に持ったナイフで次々と怪魚の体に傷を穿つ。
「私が後ろから支えるのでございます。どうぞ遠慮なく派手にいって下さいませ」
　ケイトの声と共に小型のドローンの群が、３人を含む前衛陣を守る様に展開し、怪魚達も怨霊弾を放ってそのドローン群を撃ち落とそうとする。
「その間に１体でも」
　一番近くに居る怪魚を藍色の瞳で睨み、地獄の炎を纏わせたナイフを叩き込んだルティエだったが、それに反応した他の２体が口を広げてルティエに襲い掛かる。……が、
「この方を傷付けることは、ボクが許しません！」
　花宝とヤクが割って入ってその牙を受け止める。
　ヤクに引っ掻かれながらも噛みついてくる怪魚。度重なるダメージに花宝の意識が飛びそうになるが、
「治癒魔術展開。オペレーションを開始する、わ」
　ミルクティ色の髪とRêve mellowを棚引かせたフィユ・レメユスが、回復を飛ばして戦線を支える。
「オラッ、とっととくたばりやがれ、オーバーキルレッド！」
　花宝に遮られ、腹いせとばかりにドローンの１体を噛み砕いた一番弱っている怪魚に、緋桜の輝く拳が叩き込まれ光が爆ぜると、その中心に吸い込まれる様に光が流れ、叩き付けられた怪魚の姿も吸い込まれる様にして消え失せた。

　エインヘリアルと分断することが出来た死神を、確実に追いやってゆくケルベロス達。
　投じられた双刃の大鎌が怪魚を薙ぎ、主の元へと戻って来る。
「どうした死神、こんなものか！」
　手にした大鎌を突き付け、胸に地獄の炎を躍らせ咆えるアベルの横を、颯爽と駆ける銀司。
　その右目から迸った雷火が青白い尾を引き一気に距離を詰めると、直刀《阿修羅》が煌めき、
「散れッ、外道ども……ッ！」
　桜吹雪と共に怪魚達を一閃する。斬られた一体が怨霊弾を放とうとするが、そこにクロクルが箱に入ったままぶち当たる。体をくの字に曲げた怪魚に、
「にゃにゃ、このお魚は食べられるかにゃ？　でかいし食べられる部分はたぶん多いにゃ？」
　戦闘と言うより狩猟モードの雨音が、クロクルがぶち当た箇所を正確に斬り裂く。
　度重なる攻撃に黒い血を滴らせた怪魚は、催眠の効果なのかあらぬ方向へ怨霊弾を放って咆える。
「冬馬くん達の方が大変にゃ、こっちは早く片付けるにゃ、もふもふ・ている・ですとろーい！」
　ちらりと視線を這わし、エインヘリアルの抑え組が押されているのを見てとった雨音は、そのレッサーパンダの尻尾で怪魚に往復ビンタを見舞う。そのビンタに頬を腫らせてトンボをきり、体勢を立て直そうとする介怪魚の前に踏鳴を起こして踏み込んだのは銀司。
「我が絶招……その身に刻むがいい！」
　左手に纏う地獄の炎と重力を織り交ぜた蒼い焔が、掌の一撃と共に叩き込まれる。
　頭から尾に向かってその体が震え、所々に穿たれた傷から蒼い焔が漏れる様に飛び出し尻尾まで抜けると、怪魚の体は地に落ち力なく痙攣する。その仲間の仇をとろうと言うのか、最後の一体となった死神が大口を広げ銀司に襲い掛かる。……が、
　その開けた大口ごと、その顔が胴から滑り落ち怪魚は虚しく土を噛んだ。
「死神よ、貴様にはそれがお似合いだ」
　ギロチンの如く一閃させた大鎌を肩に担ぎ直したアベルは、そう吐き捨てると踵を返し、エインヘリアルと戦う仲間達の元へと駆け出す。
　死神を相手していた仲間達も、アベルに続いて駆け出した。

●
「くうぅ……」
　戦斧の一閃で紅蓮が裂かれ、ケイトを庇って気咬弾を受けた冬馬が片膝をつく。
「サンキュでございます。ご恩に報いる為にも、今宵の私はこれが役目でございます、よ！」
　その冬馬に礼を述べたケイトが、無表情のまま前腕部を砲身へと展開し、治癒効果を有する光線を天に向かって放ち降り注がせる。
　それに後押しされた紅蓮とノーブルマインドがブレスと機銃を見舞い、
「かなり麻痺を重ねている筈なのに……」
　漆黒の巨矢を飛ばしたカタリーナが唸る。
　彼女の言う様に、その攻撃はエインヘリアルにかなりの麻痺を重ねており、時折痺れた様な動きは見せるものの、エインヘリアルは今も元気に戦斧を振り回していた。
「うそやろ！」
　跳躍したエインヘリアルの力任せの一撃を受けた光樹が、ライダースーツを鮮血に染めながら後退し、魁琉とフィユが慌てて回復を飛ばし、冬馬とノーブルマインド、紅蓮がそれを庇う様に攻勢に転じる。
「迎……討……」
　頭上で戦斧を振り回し迎え撃つエインヘリアルだったが、その体に痺れが奔り戦斧の回転が止まる。
「真なる黒竜の力を見せてやろう！」
　そのエインヘリアル越しに声。
　地獄の炎を纏って巨大な黒竜と化したアベルが、エインヘリアルを背後から急襲したのだ。ギリギリのところで直撃を避けるも、左腕を強かに裂かれるエインヘリアル。
　アベルの方も巨体の制御が効かないのか、そのまま空き地の向こうの垣根に突っこんで止まる。
「わぁ、アゼル様。ヤクお願いします」
　追い付いてきた花宝がヤクをアゼルに向かわせ、竜爪を構えてエインヘリアルの退路を断つと、
「ルティテちゃん。ダブルシッポクラッシュ行くよにゃ！」
「え？　何それ？」
　肩をポンと叩いて駆けていく雨音に、問い返すルティエの声は届いてない。
「こんな姿で復活されても意味ないにゃ。もふもふでもう一度眠るにゃ！」
　華麗なステップで距離を詰めた雨音が、その尻尾で往復ビンタを見舞い、
「尻尾は無理だが、悪しきモノには身を裂く刃、愛しき者には癒しとならん……紅月牙狼・風桔梗」
　ルティエが悲しげな遠吠えを上げると、ダウンバーストの風が月光を纏ってエインヘリアルに降り注ぎ、桔梗の花の幻影の中、エインヘリアルはその花を散らす様に、闇雲に戦斧を振り回す。そこに２人。
「黄泉帰りなど許すものか……貴様に死をくれてやるッ！　砕け散れぇぇぇぇぇ！！」
「これが俺の……俺の自慢の拳だぁぁぁぁ！」
　蒼き焔の気を纏わせた銀司と、赤く輝く拳を繰り出す緋桜。
　左右から叩き込まれた掌底と拳にエインヘリアルの体がぐらりと揺れるが、ぎりぎり踏み堪えたエインヘリアルが、ギロリと睨み返し緋桜をその戦斧で薙ぐ。
「倒れない……だと……」
　飛び散る鮮血に緋桜がその目を見開いた。
　そのまま体を一回転させ、銀司も狙うエインヘリアルだったが、痺れが奔ったのか戦斧の刃は虚しく地面を削り。
「まだまだ、もう一息でございます」
　後ろからケイトが溜めたオーラで緋桜を癒し、魁琉とフィユも次々と回復を飛ばして戦線を支え、冬馬と光樹がヤクとノーブルマインド、紅蓮とクロクルと共に、最後の足掻きとばかり暴れるエインヘリアルに次々と攻撃を繰り出す。
「其は天空にて闇を裂く。万物を魅せ、狂わせる優しき光。月よ、我が詞に従うならば、其のもつ輝きを矢と為し、我に与えたまえ」
　歌う様に流れる詠唱。その声の主が月光の矢を引くは、北欧の月の女神フライアの首飾り『ブリーシンガメン』を軸にしたと言われる長弓。カタリーナの紡ぐ詠唱の結びと共に指から離れた矢は、弦の力を以て飛び出し……吸い込まれる様にエインヘリアルの勇者ベリオグリムの胸板を貫いた。
「ご……ヴァ……ル……嬉……」
　その衝撃で戦斧を取り落としたエインヘリアルは、口から言葉と共に血を吐き、天に手を伸ばすと、糸が切れた様に膝から崩れ地面にその身を投げ出した。
　ケルベロス達が警戒を緩めず、呼吸を整えるその眼前で、その体は霞の様に掻き消えたのである。

「終わった……のですか？」
「あぁ。終わったぜ。暴れるだけ暴れて消えちまいやがった。まったく、デウスエクスってのは何時も好き勝手やってくれるぜ」
　竜爪を構えたまま問う花宝に、掌を拳で打った緋桜が応えると、花宝は大きく息を吐いて、肩に乗ったヤクの頭を撫でる。
「不本意な復活であったであろう。だが、その名が穢されぬ内に事を終えられたのは僥倖だな」
「ま……死人は死人らしく、安らかに寝とけでございますよ、と」
　腕を組んで大きく頷くアベル。そのアベルが開けた壁の穴を中心に、周辺にヒールを施したケイトが無表情のままそう言い、ノーブルマインドに手を置いた。
「ほんと、安らかに眠ってもう出てこないでほしいんだよ」
　そのケイトの言葉に、カタリーナも肩をすくめ、
「ほんとにゃ。一度死んだ者は二度と帰れないのは命の理にゃ、おやすみにゃー」
　雨音もその隣で尻尾をぶんぶんと振り頷いていた。
「しかし放っておくと死神ばかりが得をしますね」
「まったく、三途の川は片道切符なんだがな……さぁ、帰ろうぜ」
　死神の暗躍を憂う冬馬の言葉に、銀司がそう吐き捨てる。
（「勇者と呼ばれてその力は何に使いたかったのか……私は……大切な人達を護る力さえあれば、それでいい……」）
　最後に振り返り、月を見上げたルティエが右腕をきつく掴むと、右耳のピアスがその月光を受け、静かに輝くのだった。

作者：刑部	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年1月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。