戦艦蒼竜のニ巨砲 初戦

作者:缶屋


 耳を劈く轟音が、静かな海に響き渡った。
「何だ、あの音は?」
 轟音を耳にした『蒼鱗丸』の船長が、音の方に顔を向ける。
 遠くに見える影。それは巨大な戦艦のように見えた。しかし、目を凝らせばそれが戦艦ではないことは一目瞭然だった。
 海のように蒼い鱗を纏い、体からは幾つもの砲塔が見て取れる。
 一番目を引くのは、主砲と思われる二砲。
 戦艦竜がゆっくり竜首を巡らせ『蒼鱗丸』の方へと向きを変える。そのエメラルドのような翠眼が『蒼鱗丸』を捉えた時、主砲が火を噴く。
 船長は出せる限りの声を振り絞り、声を上げる。
「海に飛び込め!!」
 甲板にいた船員たちは船長の指示に迷うことなく、海に飛び込む。しかし、逃げ遅れた者もいた。
 爆炎とともに大破した『蒼鱗丸』は海に沈む。逃げ遅れた者たちの棺として。
  

「皆さん、大変な敵が現れたっす」
 部屋に飛び込んできた黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が、肩で息をしながら、集まったケルベロスたちに告げる。
 ふぅー、はぁー、と深呼吸し、息を整えるダンテ。
「ちょっと慌てて、申し訳ないっす。今回、狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)さんの調査により新たな戦艦竜が発見されたっす」
 戦艦竜は、かの城ヶ島の南の海を守護していたドラゴンで、その体には装甲や複数の砲塔があり、その戦闘力は非常に高い。
「実は城ヶ島制圧戦の際、南から上陸しなかったのは、戦艦竜がいたからなんす」
 戦艦竜の戦闘力はあまりに強大で、一度の戦いで撃破することができないほどだ。
「ただ、あまりにも強い力にはそれなりの代償があるっす」
 戦艦竜はダメージを自力で回復することができないのである。
「今回の作戦は、回復できないことを逆手にとり、複数回の攻撃で戦艦竜を撃破する。というものになるっす」
 ダメージを回復できないとはいえ、厳しい戦いが予想される。
「皆さんのお力なら、必ず戦艦竜を撃破すること可能っす」


「周囲の状況を説明するっす」
 戦艦竜の出現場所までは、クルーザーで移動することになる。海上での戦闘になるが、陸と同様で、不利な戦闘になることはない。
 避難命令が出されているため、辺りには船はいない。
「次に戦闘力について説明するっす」
 戦艦竜は高い耐久性と攻撃力を持っている反面、命中率や回避はそれほど高くない。
 戦艦竜の攻撃パターンは不明だが、何らかのブレスと背中のニ巨砲、体にある複数の砲塔での攻撃が予想される。
「最後に撤退についてっす」
 戦艦竜は、攻撃してくるものを迎撃するような行動をとってくる。そのため、戦闘が始まれば撤退することはない。
 また、敵を深追いしないため、ケルベロス側が撤退すれば、追撃してくることもない。
 
「巨大な戦艦竜との初戦、とても危険な任務になるっす。ただ、皆さんの活躍が必ず次の作戦に繋がるっす。どうか無事に帰還して欲しいっす」


参加者
陽之宮・月乃(月光の姫巫女・e00072)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
星野・穹(スターリィスカイ・e06872)
空国・モカ(パッシングブリーズ・e07709)
アクレッサス・リュジー(葉不見花不見・e12802)
皇・ラセン(サンライトブレイズ・e13390)
月白・灯(オラトリオのミュージックファイター・e13999)
夜殻・睡(記憶を糧に咲く氷刃・e14891)

■リプレイ


 波もなく静かな海。そこに白波を切り、疾走するクルーザーが一艘。
「……これから恐るべき敵が出るとは思えないほど静かな海だ……」
 空国・モカ(パッシングブリーズ・e07709)は、不気味なまでに静かな海を見、呟く。
「一度では倒せない相手ですが……今後の為にも出来る限りの事をしなければですね」
 陽之宮・月乃(月光の姫巫女・e00072)の言葉通り、戦艦竜は一度の戦闘では倒せない強敵、第一陣の彼等は情報収集を主な目的としている。
「だな、今回は敵状調査のつもりだから、無理は極力しないようにしてぇな」
 情報収集も必要。しかし、全員が無事に撤退できる、それが一番だとアクレッサス・リュジー(葉不見花不見・e12802)は考えている。
『戦艦竜……手強い相手だがいずれは必ず撃破する』
 スケッチブックにそう書く、星野・穹(スターリィスカイ・e06872)。声を発すると出る炎を気にしているのだ。
「強行偵察では、戦艦竜に煮え湯を飲まされてきたんだ……ここいらで横っ面殴らないと気が済まないな」
 船首に立ち、パンっと拳を打ち鳴らす皇・ラセン(サンライトブレイズ・e13390)。気合は十分である。
 船尾で一人腰掛けるのは、夜殻・睡(記憶を糧に咲く氷刃・e14891)。女性恐怖症である彼は、女性陣に近づけず、距離を取るために一人船尾にいるのだ。
 静かな海に突然、天を衝くような水柱が上がる。
「戦艦竜、恐ろしい敵ですね」
 揺れる船体をものともせず、月白・灯(オラトリオのミュージックファイター・e13999)は立ち上がり、蒼い戦艦竜を見据える。
「これで準備よし、と」
 その隣で、ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)がピアスを付け替え、戦闘の準備を終える。
 クルーザーは速度を上げて、疾走する。強大な敵の待つ、その場所へ向けて。



 スロットル全開で、海を走るクルーザー。
「飛び降りろ!!」
 今までは筆談で、無口だった穹が突然声を上げる。一瞬驚きにかられたケルベロス一同だったが、迫る砲撃に皆海へと飛び込み、砲撃を回避する。
 しかし、クルーザーはそうもいかない。砲撃はやすやすとクルーザーを海の藻屑に変える。
 穹がいなければ、ケルベロスたちは戦闘直後に痛手を負ったことだろう。
 海に落ちることを考慮していたケルベロスたちは、大半が水着着用、海に落ちても問題はなく、ケルベロスにとって水中も陸での戦いもそれほど違いはない。
 海面から飛び出したのは、アクレッサス。その手に掴まる睡とラセン。
 女性恐怖症の睡だが、戦闘中は大丈夫らしく、ラセンがすぐ近くにいても全く問題はない。
 飛翔するアクレッサスに戦艦蒼竜は、砲塔を向け弾幕を形成する。が、アクレサッスは弾を縫うように飛び、戦艦蒼竜の頭上で二人の手を放す。
 急降下する二人は身を翻し、弾を避けながら降下すると、
「……怒れ、叫べ、喚け、お前の敵はここに居る」
 睡は竜頭に、鞘で強烈な一撃を叩き込む。その一撃に戦艦蒼竜の意識が睡に向く。
「立ち塞がるがいい。抗うがいい。憎むがいい。恨むがいい。叫ぶがいい。助けを乞うがいい……その悉くを我は悪で吹き散らそう。去ね、弱神よ!」
 全身を漆黒に染めたラセンが、禍々しさを増した地獄の黒炎を戦艦蒼竜の背に放つ。
 戦艦蒼竜の斉射が睡に集中する中、他のケルベロスたちが戦艦蒼竜の許に泳ぎ着く。
「スピカ、皆を守れ。戦艦竜、こっちだ」
 穹が放ったオーラの弾丸が戦艦蒼竜を捉え、戦艦蒼竜の斉射が穹へと向く。
 その間隙を縫い、
「大丈夫ですか?」
 斉射を受けていた睡に、灯が電気ショックを放ち、その傷を癒す。
 静かに水面から顔を出したピジョンが、
「マギー、行くんだねぇ」
 と指示を出すと、サーヴァントのマギーが動く。
 指示を出し終えたピジョンは、掌からドラゴンの幻影が放ち、戦艦蒼竜の横腹を焼く。が、戦艦蒼竜は気にも留めず背に乗るケルベロスたちに攻撃を続ける。
「これじゃないか」
 残念そうに言うピジョンは、次の攻撃へと移る。
「パワーとタフさは折り紙付きの様ですが……動きが鈍いのが救いですね。さらに動きを阻害させて頂きますっ!」
 月乃はサーヴァントの満月に、仲間の援護を頼むと半透明の御業で、戦艦蒼竜の砲塔を鷲掴みにし、砲塔の動きを阻害する。
 水面から飛び出したモカが、尾から駆けあがり弾を躱しながら、縦横無尽に戦艦蒼竜の背を駆ける。
「痺れるほど美しいだろう、私の脚は!」
 モカは砲塔を高速で移動し翻弄すると、電光石火の蹴りを見舞いながら、
「砲塔の数は八!」
 と、声を上げる。
 戦艦蒼竜は背を駆けるケルベロスたちを振り落とそうと、身を震わせ、ケルベロスたちが足を取られた瞬間、斉射を行う。
「これは洒落にならなそうだな」
 空を舞うアクレッサスは頭上から薬液の雨を降らせ、傷を癒すのだった。



 戦艦蒼竜は未だ、その力の片鱗も見せていない。体に張り付く虫を払うかのようにケルベロスたちの相手をしているのだ。
 この強力な力、城ヶ島制圧戦の際、避けて通ったのも頷ける。
 しかしながら、戦艦蒼竜は苛立ちを浮かべ初めていた。竜首を巡らせ、背へと顔を向けると口から稲妻を迸らせる。雷のブレスで、背にいるケルベロスたちを一掃するつもりなのだ。しかし、そう簡単にはいかない。
「銀の針よ、縫い閉じろ!」
 ピジョンが魔法で生み出した針と糸で、戦艦蒼竜の口を縫い合わせ、ブレスを防ぐと鼻頭にラセンが一撃を見舞い、顔が跳ね上がると無防備になった首筋に睡が非物質化した斬霊刀で、斬撃を放つ。
 初めて苦悶にも似た、呻き声を上げる戦艦蒼竜。
 戦艦蒼竜の弱点を見い出したケルベロスたち。しかし、この一撃が戦艦蒼竜の逆鱗に触れた。
「スピカ! 睡を庇え!!」
 穹に命じられ、サーヴァントのスピカが睡の許に駆ける。睡が異変に気付いた時、ニ巨砲が狙いを定めていた。
 スピカは寸前のところで間に合わず、大気を揺らし放たれた砲撃が睡を捉え、その体は力なく海に放り出されるのだった。
 間髪入れず、戦艦蒼竜の砲塔が背に乗るケルベロスたちに向く。
「これ以上は撃たさない。蜂のように舞い、そして刺す!」
 斉射が捉えたのはモカの残像。モカは高速で駆け、砲塔の一つに連続で蹴突を加え一つを蹴り潰す。
「……後を頼んだぞ……」
 が、そこを斉射が襲い、モカが崩れ落ちる。
「まだ戦えますか?」
 ラセンに緊急手術を行い、傷を癒した灯の問いにラセンは目で『いける』と答え、すぐさま駆け出す。
 しかし灯は、苦渋の決断を下す。三人の戦闘不能、それが彼らの撤退基準であった。
 今は二人が戦闘不能に陥った。
 戦況は戦艦蒼竜に有利に大きく傾き、三人減った状態でクルーザーを取りに行くために、灯が離れると全滅すらもある。
 ここが限界なのだ。
「これ以上は被害が大きくなるばかりですね。わたくしが、撤退用のクルーザーを取ってきます。それまで、どうか無事で」
 戦艦蒼竜は顔を向けながらも、飛び立つ灯には何もせず、穹の方を向く。
 穹は、惨殺ナイフの形状をジグザグに変え、戦艦蒼竜の背に突き刺すと、砲塔による斉射を躱しながら駆ける。
「満月による防御強化と、私の武器封じを組み合わせれば、少しは持つはずです」
 月乃は精神を極限まで高め、穹に狙いを定めている砲塔の一つを爆破する。
 残りの砲塔がラセンに向く。
「させないのだよ」
 ピジョンの古代語の詠唱とともに、魔法の光線が放たれ戦艦蒼竜の動きを一瞬止める。
「はこ!」
 アクレッサスの声に反応し、はこがラセンを庇い斉射を受け倒れる。
「最後の一撃だ!」
 爆炎の魔力を込めた弾丸を、大量に戦艦蒼竜の背に撃ち込む。弾丸を撃ち尽くしたラセンの目に映るのは、戦艦蒼竜の顔と迸る稲妻。そして、ブレスの奔流がラセンを呑み込むのだった。
 戦艦蒼竜の目が、迫ってくるクルーザーに向けられる。撃沈するべくニ巨砲が動き、狙いを定める。
 砲撃が行われる瞬間、月乃がニ巨砲を爆破し、高々と飛び上がった穹がルーンアックスを叩きつける。
 が、二人の攻撃はニ巨砲に小さな傷をつけただけで、それほどの損傷は与えられない。
 それでも砲撃は防いだ。成果は十分だ。
「皆さま! これ以上危険です撤退しましょう」
 クルーザーは戦艦蒼竜の近くで、旋回し動きを止めるとピジョンが睡を連れ乗り込み、月乃、穹も同時に乗り込む。
 月乃と穹が砲撃を止めたのも束の間。止まっているクルーザーは、恰好の的であり、砲塔がクルーザーを狙い撃つ。
「アクレッサスさん、急いでください」
 声を上げる灯。
「俺は二人を連れて、後を追う。先に行け!」
 アクレッサスの言葉に灯は頷くと、エンジンをかけフルスロットルでクルーザーを走らせる。
 言葉通り、アクレサッスはモカとラセンを連れ、斉射を巧みに躱しながらクルーザーにたどり着く。
「何とか逃げ切ったようですね」
 遠のいていく戦艦蒼竜の姿を見ながら、灯が言う。しかし、その顔には安堵の色は見えない。それほどまでに、戦艦蒼竜との戦いは厳しいものだったのだ。



 ケルベロスたちはクルーザーで近くの港に向かい、そこで傷を癒していた。
「何とか全員、無事に撤退できたな」
 安堵を漏らすアクレッサス。相手が相手だけに、全員が無事というのは奇跡にも等しい。
 ホッと安堵を浮かべるケルベロスたち。
「では、今回の戦闘で得た情報をまとめましょうか」
 皆が安堵していたのも束の間、月乃の言葉で報告が始まる。
「敏捷系の攻撃が有効だったな」
 睡が言うと、ケルベロスたちは斬霊斬での一撃に、戦艦蒼竜が呻き声を漏らし、そこから攻撃が苛烈になったことを思い出す。
「主に前衛を、ケルベロスを狙ってくるようだったねぇ」
 ピジョンが言うと、灯が続く。
「後は近づくものを無条件に攻撃するようですね」
「攻撃方法は雷のブレス(頑強)と八つの砲塔による射撃(敏捷)、ニ巨砲による砲撃(頑強)だ。あ、今は砲塔は六つだな」
 モカが戦艦蒼竜の攻撃方法をまとめる。
『あのニ巨砲は、他の砲塔より硬かった』
 月乃のサイコフォース、穹のスカルブレイカーでの攻撃でも微細な傷をつけるにしか至らなかったのだ。
 ちなみに戦闘を終えたので、穹はいつも通りの筆談に戻っている。
 情報は十分にとれた、戦艦蒼竜のHPは二~三割ほど削れた、能力が未知数の強大な敵との戦では十分な成果であったといるだろう。
 しかし、ケルベロスたちの顔に満足感はない。
 ラセンが手をパンパンと二度叩く。
「帰ろう、帰ろう。ご飯食べて寝て、また明日頑張ろうてね……さーて、何食べようかな?」
 いつもの調子に戻ったラセンに、ケルベロスたちは微笑みを漏らす。
 そして、次の戦いに希望を繋いだケルベロスたちは、帰路につくのだった。

作者:缶屋 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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