嫉妬の炎と怨嗟の氷

作者:こーた

 夕陽が差し込み、茜色に染まる美術室。
 油絵の具の匂いが充満した空間で、二人の男子生徒が向き合っていた。まるで鏡に映したかのように、そっくりな二人。違っているのは、一方の体からは羽毛が生え、表情が憤怒に染まっていることだ。
「お前はいいよなあ? ユウジ」
 そう言って、羽毛を生やした男子生徒、ユウヤはユウジの小指を切り落とした。
 痛みの悲鳴が美術室に響き、ユウヤは笑みを浮かべる。
「同じ時に生まれた双子だっていうのに、俺は真面目にしか生きられない。勉強しか取り柄が無い。それなのに、お前は自由に生きて、絵ばかり描いて、しかも才能がある。なあ? お前、俺のことを見下してるんだろ?」
「やめてくれよ。兄貴……俺……そんなこと……。俺、兄貴のこと……」
「お前の話なんて聞いてねえんだよっ!」
 嫉妬心に狂ったユウヤにユウジの声は届かず、ユウヤはユウジの耳を削ぎ落とした。
「お前は俺を見下した。これは復讐だっ! お前さえいなければ……俺が全部持ってたはずなんだっ! でもお前のせいで……お前のせいでっ!」
 ユウヤの怨嗟の声、そしてユウジの悲鳴が夕暮れの空に吸い込まれる。
 そして、茜色だった美術室は真紅に染まっていった。

「とある高校の美術室。デウスエクス、ビルシャナを召還した少年が事件を起こそうとしています。これは以前から、アリス・ドール(機械仕掛けの殴殺姫・e03710)さんによって危惧されていた事件です」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は悲痛な表情を浮かべた。
「事件を起こそうとしている少年の名前はユウヤさん。双子の弟、ユウジさんの自由奔放な生き方と才能に嫉妬して、弟の殺害達成を条件に、ビルシャナの言うことを聞くという契約を結んでしまったようです」
 このまま放置すれば、間違いなくユウジは命を落とすことになる。そうなれば、ユウヤは心身ともにビルシャナになってしまうだろう。
「ユウジさんが命を落とす前に、ユウヤさんがビルシャナになってしまう前に、どうかこの惨劇を止めてください」
 セリカは真摯な眼差しでケルベロスたちを見つめた。
「放課後と言うこともあり、美術室の周囲に人影はありません。美術室には何の障害もなくたどり着くことができます。美術室に突入後、復讐を妨害されたユウヤさんは、まず皆さんから排除しようとします。ユウヤさんは、ユウジさんのことを苦しめて殺したいと考えているため、戦闘中にユウジさんを攻撃することはありません」
 ただし、ユウヤの目的はあくまでも復讐の達成である。自らが敗北しそうになった場合は、ユウジを道連れにしようとする可能性もある。そう補足して、セリカは説明を続けた。
「戦闘になれば、ユウヤさんは氷や炎を放って攻撃してきます。そして、自分が傷ついた場合、光を放って回復することもあるようです」
 セリカは短く息を吐き、重々しい口調で口を開いた。
「ビルシャナと融合してしまった人間は、基本的にビルシャナと一緒に死んでしまいます。ただし、低い可能性ではありますが、ユウヤさんが復讐を諦め、契約を解除した場合、撃破後に人間として生き返らせる事もできるようです」
 この契約解除は、心の底から行わなければならない。脅迫などによる利己的な説得では、救出すること不可能だ。
 説得による救出は非常に困難でしょうと、セリカは目を伏せながら、最後にそう付け加えた。
「ビルシャナを撃破し、この惨劇から、ユウジさんを救い出してください。そして、ユウヤさんを止めてあげてください。よろしくお願いします」
 セリカは最後に頭を下げると、へリオン操縦の準備を始めた。


参加者
ユウ・イクシス(夜明けの楔・e00134)
アルフレッド・バークリー(行き先知らずのストレイシープ・e00148)
アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)
クローチェ・ドール(愛迷スコルピオーネ・e01590)
舞浜・日菜乃(優しき歌・e01616)
クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)
アリス・ドール(機械仕掛けの殴殺姫・e03710)
シレン・エアロカーム(どこ吹く風・e21946)

■リプレイ

●業火
 茜色に染まる美術室。
 羽毛を生やした異形の男子生徒ユウヤが、双子の弟ユウジに、憤怒の表情を向けた。
「お前はいいよなあ? ユウジ」
 ユウヤが害意を強め、ユウジの小指を切り落とそうとする。
 その凶行を遮る声が美術室に響き渡った。
「ユウヤさん、それ以上はいけません! 舞え、『Device-3395x』!」
 そう叫んで美術室に駆け込んだのは、どこか優しくも儚げな雰囲気を纏った少年、アルフレッド・バークリー(行き先知らずのストレイシープ・e00148)。突入するのと同時に、彼が放った青く透き通った正八面体のドローンが多数飛び回り、ユウヤにオールレンジ攻撃を仕掛ける。
 牽制の目的で放ったアルフレッドのExterminate Fieldは、正確にその役割を果たし、ユウヤの凶行を阻む。
 その隙を見逃さず、ロリポップをくわえた白髪の少女、アリス・ドール(機械仕掛けの殴殺姫・e03710)と黒猫の髪留めをつけた少女、舞浜・日菜乃(優しき歌・e01616)がユウヤとユウジの間に割って入る。
 彼女たちのすぐ背後には、灰色の瞳をしたドラゴニアン、クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)が布陣していた。
「ユウジ殿、少々ここで待っていてくだされ」
 瞬く間に防衛の体勢を整えたケルベロスたちに、ユウヤが驚き硬直している間に、旅合羽を纏った女性、シレン・エアロカーム(どこ吹く風・e21946)が軽々とユウジを美術室の片隅へと運び終える。
 その傍らには、状況の変化に追いつけず腰を抜かして動けずにいるユウジを、兄の凶行と戦闘の狂気から守るべく、赤い瞳のレプリカント、アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)が立っていた。
「何なんだ? お前らはっ!」
 突如現れ、復讐の邪魔をしたケルベロスたちに、ユウヤは怒りに狂った鋭い視線を向け、問いの答えを待つことなく孔雀炎を放つ。
 孔雀型の業火は一直線にアルフレッドへと迫り、美術室を紅蓮に染め上げる。だが、その炎はアルフレッドに届くことは無かった。
「……」
 アルフレッドを庇い、舞い散る炎の中から無言で現れたのは、琥珀色の瞳の青年、ユウ・イクシス(夜明けの楔・e00134)。
 ユウヤが彼を認識するか否かの刹那、静から動へと一瞬で転ずる歩法により間合いを詰め、居合の構えから神速の斬撃が繰り出された。
 夢幻落椿。
 ユウの手にした斬霊刀、結祈奏がほのめく蒼の燐光を放ち、ユウヤの胸部から血が噴き出す。しかし、そこでユウの攻勢は止まらず、返す刀で斬霊斬の刃を振り下ろした。
「っぐぅ」
 続けざまに凄まじい斬撃を受けたユウヤがうめき声を上げる。
 それに追撃を加えるように、暗い雰囲気を纏った青年、クローチェ・ドール(愛迷スコルピオーネ・e01590)がユウヤに急接近する。
「兄弟殺し? ……Stupido molto.醜い争いだな、実に滑稽だ」
 クローチェは二本のナイフを巧みに操り、舞うような斬撃、ブラッディダンシングでユウヤの体を切り刻みながら言葉を紡ぐ。
「弟の筆を、腕を奪って、喩え眼球を抉ったとして、キミに何が残る? 血を分けた兄弟が殺し合う。馬鹿げた話だ、本当に馬鹿げている。二人の兄と妹がいる僕には理解できないね。これを失う事の恐ろしさが、一番分かっているだろうに」
 クローチェはユウヤに語り掛けながらも、まるでユウヤに痛みで何かを学習させるかのように、急所を貫く電光の如き蹴りを打ち込んだ。
「お前らに何がわかるっていうんだ……っ!」
 傷を受けたユウヤは、清めの光で自らの傷を癒しながら、憎しみをケルベロスたちへと向ける。
 激しいダメージを受け怒りの矛先を変えたせいか、あるいはクローチェの言葉が届いたからか、ユウヤはいくらか冷静さを取り戻しているようであり、説得の余地が生まれたようだった。それを確認したユウが攻勢から時間稼ぎに移るべく一歩引く。
「拙者がユウヤ殿の動きを止める。皆々様、説得を頼み申す!」
 引いたユウとすれ違うように、合羽を翻し、シレンが飛び出した。
「拙者は風と共にあり。縦横無尽に駆け巡る存在……止められると思うな!」
 シレンは風の如く駆け、怪力を生かしてユウヤに掴みかかった。それとほぼ同時に、日菜乃が紙兵散布を発動させる。
 紙兵が舞いと火の粉が散る中、死闘が幕を開けようとしていた。
●怨嗟
「邪魔だっ!」
 目の前に現れたシレンを打ち倒すべく、ユウヤが孔雀炎を放つ。その炎を屈強な肉体で受け切ったシレンは、反撃の死天剣戟陣を発動させた。降り注ぐ刀剣の雨はユウヤの体を切り裂き、その動きを鈍らせる。
 そのシレンが作った機を逃すことなく、アルフレッドが前に出た。
「ユウヤさん、いつからユウジさんが嫌いになったんですか? きっかけは何ですか? 小さい頃は一番仲がよかった相手じゃないんですか? 二人で一人の存在のように」
 怒りに瞳を濁らせるユウヤに向けて、アルフレッドは真摯に言葉を投げかける。
「魂の半分ずつを持った存在が殺し合うなんて哀しすぎます。もう一度、ユウジさんの話をしっかり聴いてみてください。相手のことを羨んでいるのは、案外ユウジさんも同じかもしれませんよ」
「そんなわけあるかあっ! あいつの方が……あいつの方が……っ」
 ユウヤは叫び、八寒氷輪を放つ。
 流れ弾がユウジに向かうことを懸念したアルフレッドは、氷の輪を受け止めたが、ダメージは避けられずに後退する。しかし、説得は止まることなく、アリスによって引き継がれた。
「弟に嫉妬スか。でも、自分にむけられた嫉妬には気づかないんスねー。真面目な優等生の兄貴は努力して社会的信頼を築いていく。それに比べて弟の俺は絵を描くことだけ。……と思ってるのは誰でしょうか?」
 アリスは旋刃脚でユウヤの足止めを行いながら、更に説得を続ける。
「人を妬んでると自分の長所が短所にみえるッス。アンタはユウヤであってユウジじゃない。ユウヤにも積み重ねたモノは、ちゃんとあるッスよ」
「黙れっ! 黙れっ! 黙れえええっ!」
 アルフレッドとアリスの言葉に揺さぶられ、ユウジは半狂乱になって叫ぶ。
 そこから放たれた孔雀炎は彼の怒りを体現するかのように燃え上がったが、アリスはギリギリで攻撃を回避し、後退する。
 そうして時間を稼いでいる間に、美術室を包み込むような歌が響き渡った。
「仔猫さん、私の歌に応えて……!」
 グラビティの域にまで達した歌声、白黒仔猫輪舞曲によって生まれた、白い仔猫型のエネルギーが歌に合わせて周囲を駆け回り、傷ついた仲間を癒していく。
「何してんだ、お前。俺の……俺の邪魔をするなっ!」
 叫ぶユウヤの瞳は血走り、心の弱い者が見れば、それだけで気絶してしまいそうなほどの圧力を有していた。
 だが、その圧力に臆することなく、日菜乃は真っ直ぐな視線をユウヤに向けて、その思いを舌に乗せる。
「ユウヤさんが真面目に勉強を、努力をしている姿をユウジさんは知っているはずです……。私がユウジさんの立場ならユウヤさんを尊敬こそすれ見下すなど絶対にしません……。ユウヤさん……本当にユウジさんを殺してしまってもいいのですか……?」
 歌うような説得に、ユウヤの瞳に宿った感情に、僅かな揺らぎが生まれる。
 しかしまだ、彼の復讐心を拭うには至らず、ユウヤは瞳を濁らせたまま、猛獣のように姿勢を低くした。
●叫び
「ユウジさえ……ユウジさえいなければ……俺が……全部持ってたはずなんだ……」
 自分に言い聞かせるかのように呟きながら、ユウヤが亡者のような足取りで前進を始める。
「それなのに、あいつが俺の欲しいものを、持って行っちまった。あいつは俺を見下してるに決まってるっ! 許せるわけがあるかっ!」
 ユウヤが走り出そうとする瞬間、クラムの操る漆黒の鎖が、ユウヤを縛り、締め上げた。
「真面目に生きることが出来る。勉強という取り柄がある。俺からしてみりャ、それこそ羨ましいがね。だというのに、嫉妬一つで外道に成り下がるか」
 クラムはユウヤを締め上げながら、吐き捨てるように言葉を繋ぐ。
「……てめェの生きた道を見下して、否定してんのは、てめェ自身だ。馬鹿野郎」
「違う……。違う違う違う違うっ!」
 ユウヤは無理矢理に鎖を振り払い、乱暴に突き進む。その行く手を遮ってシレンが前に立つ。
「またお前かあっ!」
「コーパァ殿っ!」
 ユウヤの注意がシレンに向いた瞬間、ユウヤの背後から現れたシレンのビハインド、コーパァがユウヤを攻撃する。
「っづう!」
 背後からの奇襲を受け、ユウヤが後ろを振り返る。その隙をついて、アルフレッドがユウヤに接近する。
「ユウヤさんっ、お願いですっ。目を覚ましてくださいっ」
 アルフレッドの破鎧衝が、吸い込まれるようにユウヤの構造的弱点へと突き刺さる。
 心は乱され、体は傷つき、ユウヤの足取りは危ういものになる。それでも倒れず、ユウヤはケルベロスたちに向けて氷の輪を放つ。
 鋭い、怨嗟が込められた氷。
 それに全く怯えることなく、むしろ涼しげな表情で、クローチェが疾駆する。
 その手に握られた刃は透明に近い銀色の光を宿し、残光を煌めかせながら、クローチェはユウヤの眼前に立った。
「Quando corpus morietur,fac, ut animae doneturparadisi gloria.」
 磔刑となった主の悲しみを詠いながら、容赦のない斬撃で肉を抉り、骨を断つ、金剛石の処女。
 血を浴びても決して汚れることのない光が、その役割を終えて、淡い輝きを放ちながら消えていく。
「くそったれがあっ!」
 深い傷を受けたユウヤは、クローチェへの反撃を諦め、ユウジを道連れにしようと視線を弟に向ける。
 だがそこにユウジの姿は無く、その代わりに、常にユウヤの射線を意識し、ユウジとの間に立つよう気を配っていたアリスの姿がった。
「荒れるッスよ。この暴風を止められるッスか?」
 狼の如く鋭い動きで、アリスは瞬時にユウヤの懐に入り込み、咆哮する。
「歯ぁ……食いしばれぇぇぇぇぇ!」
 左右からの全力全開フックを打ち込む、無限の破壊の名に恥じない連撃。
 当たれば当たるほどに威力とスピードを増す、暴風のように豪快な連撃はユウヤに反撃の余地を与えず、爆音を轟かせユウヤを吹き飛ばす。
 美術室の端にまで弾き飛ばされたユウヤは壁に激突し、よろよろと立ち上がる。
 その姿はボロキレのようだったが、それでも何かに突き動かされるかのように、ユウヤは今まで見せた中でも最速の動きで駆けだした。
●望まぬ末路
「まだ……だ。まだっ! 俺の復讐は終わってねえっ!」
 まるで、意固地になった子供のように叫びながら、ユウヤはユウジに向かって走る。
 傷ついた体から血を流し、血走った目から涙を流しながら、ユウヤは命を削ってでも走り続けた。その執念は凄まじく、ケルベロスたちの囲いを突き破って、ユウヤはユウジへと迫る。
「敵わないから盤面をひっくり返す、それは完全な敗北だろ。勝ちたいのならもっかいハナッからやり直せよ」
 ユウジの護衛役であること。
 己の役割を完遂すべく、アギトがユウヤの行く手を遮った。
「復讐は否定しないが、人の力で成し遂げる物じゃない。他人の意見を聞けずに自分だけは理解されたいなど片腹痛い。家族の話も聞かない奴が柔軟な発想を持てる訳が無いだろう? 大体、殺せば解決だ等と甘えんなよ」
 真っ直ぐにユウヤの妄念を受け止めたアギトは、生半可な攻撃では復讐者の目を覚ますことはできないと構えをとる。
「よく味わえよ?」
 砂糖菓子の弾丸。
 右腕に装着した外部装甲から、鋭水晶体が放たれる。
 零距離で撃ち込まれた水晶の槍はユウヤの体を穿ち、命を賭した特攻さえ阻んで見せた。
「……ぐは」
 ユウヤがよろめき、一歩、二歩と後退する。しかし、手だけはまだユウヤへと伸びており、妄念は消え去っていないようだった。
 彼の命ではなく、その妄念を砕くべく、クラムが遠方からユウヤに狙いを定める。
「粉々になりやがれ……!」
 溢れんばかりの怒りを無理矢理に凝縮、轟音と共に前方へと放出する瞋恚掌握がユウヤの体を弾き飛ばす。
 護りを打ち砕かれ、無防備な姿を晒しながらも、ユウヤは幽鬼の如く立ち上がる。体は既に朽ちかけているが、それでも炎を扱う準備をしながら、歩もうとする。
 その目の前に、鋭い視線を向けたユウが立った。
 彼は説得の言葉を持ち合わせていない。
 その手に、ただ対象を討ち取る刃を持つだけだった。
「……終わらせる」
 感情を殺し、納刀。居合の構えから放たれる神速を超えた斬撃が、ユウヤを切り裂く。
 血が噴き出るのすら遅れる、鋭すぎる一閃を受けたユウヤは、糸の切れた人形のように床に倒れ伏したが、それでも這いずるようにユウジへと向かう。
 もはや、攻撃どころか回復する余力もない。これが説得できる最後の機会になるだろう。そう判断したアギトは、傍らのユウジに視線を向ける。
「ユウジも、言いたい事は今、言っとけ」
 最後の説得は家族の声で。他人の絆を信じたいと願ったアギトの視線を受けたユウジは、ありったけの想いを乗せて言葉を吐き出す。
「兄貴……俺……」
「お前の話なんて……聞いてねえ」
 ユウヤはユウジの言葉を遮り、今にも泣きだしそうな子供のような顔で、ユウジを見つめた。
「お前に……お前らに言われなくても、わかってるんだよ。俺は俺で、ユウジはユウジだってことくらい……。お前が俺を見下してないことくらい。わかってたんだよ。わかってた……はずなんだよ」
 ユウヤは這いずる力さえ無くし、さ迷うように手を伸ばした。
「馬鹿な事しちまったよ……。もう、やり直せないよな。なんで、こんなことしちまったんだろうな。復讐なんて……」
 ユウヤの手が床に触れ、ビルシャナの羽毛が宙を舞う。
 残されたのは、人として生き残ったユウヤ。
 説得の言葉を受け、最後の最後で心の底から復讐心を放棄した彼は、ビルシャナとの契約を放棄していた。
 復讐者としてビルシャナと契約したユウヤは望まぬ末路を辿り、ただ真面目にユウジの兄として生きてきたユウヤが、そこに横たわっていた。
「やり直せないなんて、悲しいこと言わないでください。大丈夫、二人ならきっとやり直せるはずですよ」
 日菜乃の歌声、白黒仔猫輪舞曲によって生み出された白猫が、倒れたユウヤの傷を癒していく。
 その歌声は、まるで二人の心と絆さえも癒していくかのように、夕暮れの美術室に響き渡った。

作者:こーた 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 7/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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