珊瑚色の戦艦竜

作者:黄秦


 城ヶ島沖を、小さな漁船が渡っている。
 冬の寒風吹きすさぶとは言え海は穏やかで、降り注ぐ陽光も柔らかい。
 島の切り立つ険しい崖を望めば、海鳥が群れ飛び喧しく鳴きたてている。
 そんな平穏ともいうべき今日を、漁船は沖へと進んだ。
 やがて目当てのポイントまでたどり着き、漁師たちは大漁を願って網を投げ入れる。
 海中深く沈んで待つこと数分、やがて網はずしりと重い手ごたえを伝えてきた。それも常にない重さで、これはと期待を込めて漁師たちは網を巻き上げる。
 だが、何かに引っかかったのか、網はびくりとも動かず引き上げられない。
 怪訝に思った漁師の一人が、様子を見に潜った。深碧の海中には、何故か魚の影がない。どうしたことかとさらに見れば、網が岩場に絡んでいるのがわかった。
 更に目を凝らせば、どうもその岩場は珊瑚の塊に見える。
 こんなところにサンゴ礁ははないはずだがと、首を傾げた瞬間、突如岩場が揺れ動き、恐ろしい勢いで競り上がり始めた。
 漁師は驚き、逃げようとするが間に合わない。鋭く切り立った珊瑚色の岩場に磔となる。
 急な高波に、小さな漁船は翻弄され、突如海上へ突き出した岩礁に突き上げられて宙に舞った。
 漁船は破壊され、漁師たちは冷たい海へ投げ出される。そこで初めて彼らは正体に気付いて、悲鳴を上げた。
 ドラゴンの長い長い首が、牙をむいて自分たちを見下ろしていた。
 その胴体を珊瑚色の岩が甲羅となって覆っている。煙突のような突起がいくつも生えていて、それがまるで砲門のように、漁師たちを狙い、動いた。
 城ヶ島沖に、阿鼻叫喚の光景が広がるのもわずか数分の事。
 やがて赤く染まった海へとドラゴンは沈み、あたりは何事もなかったかのように静まり返った。
 島の本当の岩場に流れ着いた船の残骸に、海鳥がとまり、漁師の死骸をつついていた。
 

「狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)さんの調査で、城ヶ島の南の海にいた『戦艦竜』が、相模湾で漁船を襲うなどの被害を出している事が判明しました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は告げる。
「戦艦竜は、城ヶ島の南の海を守護していたドラゴンで、ドラゴンの体に戦艦のような装甲や砲塔があり、非常に高い戦闘力を持っています。
 城ヶ島制圧戦で、南側からの上陸作戦が行われなかったのは、この戦艦竜の存在が大きかったのです。
 戦艦竜は数は多くありませんが、非常に強力で、このままでは相模湾の海を安心して航行できなくなってしまいます。
 皆さん、この戦艦竜の撃破をお願いします」
 城ヶ島南側は切り立った崖の多い危険な場所で流れが速く、遊泳なども出来ないところだ。
 故に、クルーザーを利用して相模湾へ向かうことになると、セリカは言う。
「戦闘竜は総じて強力ですが、その戦闘力と引き換えに、ダメージを自力で回復することが出来ないという特徴があります。
 海中での戦いになるでしょうし、一度の戦いで戦艦竜を撃破する事は不可能でしょう。
 ですが、ダメージを積み重ねる事で、きっと撃破する事が出来ると思います。
 ……厳しい戦いになると思いますが、皆さんの活躍を祈っています」
 

 この戦艦竜は普段は海底に沈み、岩場の一部のようになってじっとしているが、漁船などが体の上を横切ればその巨体で船を打ち上げて破壊し、人を殺すと言う。
「オールのような四肢に長い首を持り、例えるなら恐竜の首長竜が砲門付き甲羅を背負っていると言った外見です。
 甲羅を覆う岩は珊瑚に似ており、動かなければサンゴ礁のように見えるかもしれません。
 また、どこか大蛇を思わせる長い尾を持っています。
 この特徴により、高い耐久力と、大きな攻撃力を併せ持った強敵です。
 その分攻撃は大振りになりますし、避けることも得意ではないようですから、付け入るスキはあるでしょう。
 とは言え、先ほども言いましたが、一度で倒せる相手ではありません。ある程度の攻撃を加え、手ごたえを感じたならそこで撤退すべきと思います。
 戦艦竜は、攻撃してくるものを迎撃するような行動をするため、戦闘が始まれば撤退する事はありませんし、同時に、敵を深追いしないようです。
 ですから、ケルベロス側が撤退すれば、追いかけてくる事も無いでしょう。この点を利用できると思います。
 例え撃破は無理でも、次に繋がるような手がかりを得られたなら、それだけで立派な戦果となるでしょう。
 
 海と言う戦場で戦闘竜と正面から戦う……とても危険な任務になるでしょう。
 それでも、皆さんならきっと、やり遂げてくださると信じています。
 くれぐれもご無理はなさいませんよう。生還することこそが一番の戦果なのですから」
 全て言い終えたセリカは、よろしくお願いしますと深く一礼すると、ケルベロスたちをヘリオンへと誘うのだった。


参加者
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
紫・恋苗(紫世を継ぐ者・e01389)
リーア・ツヴァイベルク(紫花を追う・e01765)
日崎・恭也(明日も頑張らない・e03207)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
ジェノバイド・ドラグロア(狂い滾る血と紫の獄焔・e06599)
鋼牙・天子(レプリカントの鎧装騎兵・e13997)
ドラーオ・ワシカナ(空桶のドラ爺・e19926)

■リプレイ


 クルーザーを適当な岩場に停めて、ケルベロスたちは戦艦竜の潜む冬の海へ身を投じた。
 その流れは速く、身を切るように冷たい。岩場は鋭く切り立っていて、押し流されてぶつかったなら、ケルベロスと言えどもかすり傷とはいかないだろう。
 引っ張られ押し戻されるような流れに逆らい、進む。
(「なかなか手強い相手ですね……ドラゴンも、海も」)
 鋼牙・天子(レプリカントの鎧装騎兵・e13997)は気を引き締め直した。

 海上には無人のボートが進んでいる。日崎・恭也(明日も頑張らない・e03207)が、囮として先行させた物だ。
(「あーあ、戦艦竜とか名前からして面倒そうな相手だよな」)
 ……別にビビってるとかじゃないから! と心の中で言い訳をしつつ、その後を追う。
「ドローン、展開します」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)と天子はグラビティでドローンを操って飛ばす。これによって、戦艦竜を探す計画だ。ボートを中心にドローンを展開する。
 不意に、海が渦を巻いたかと思えば急激に盛り上がる。先行させたボートが木っ端のようにはね上がり、バラバラに砕けた。
 ほの暗い海中でもわかる。ケルベロスらの目前に、巨大なサンゴ礁が現出した。
 それはぐるぐると回転を始めると大きな渦を作り出し、ケルベロスたちを巻き込み翻弄する。閃光と共に、強烈な勢いで飛ぶエネルギー弾が、ヒールドローンを操る天子へと襲い掛かった。
「危ない!」
 とっさに天子の前に出たかぐらは、それを一身に浴びることとなった。
「ぐぅ……っ」
 砲撃は凄まじい威力で、全身が痺れ動けないかぐらは逆巻く水流に呑まれた。ドラーオ・ワシカナ(空桶のドラ爺・e19926)がとっさに投げたサークリットチェインが絡みつき、岩への直撃を免れる。
 ヒールドローンはグラビティで操るがゆえに、射程内に入った時点で戦艦竜はそれを敵の攻撃であると認識し、先制の一撃を放ったのだ。
「大丈夫ですか?」
 幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)は『幸家・伏龍』でかぐらを癒す。
「ちょっと染みるけれど………これ、よーく効くわよ?」
 紫・恋苗(紫世を継ぐ者・e01389)がさらに紫祖の霊薬を施した。
「あ、ありがとう」
 かぐらも礼を言って体勢を立て直す。
 ドラーオはさらにチェインを伸ばして、皆を守護する魔法陣を描く。
 出現した標的、戦艦竜を前に、ケルベロスたちは戦闘体勢を取る。
「スケールが今までの比じゃねぇ……が関係ねぇ!ぶっ潰してやらぁ!」
 ジェノバイド・ドラグロア(狂い滾る血と紫の獄焔・e06599)はルーンアックスを振り、狂気に笑った。
 が、彼らの目の前には砲塔の生えたサンゴ礁、即ちドラゴンの甲羅だけが姿を見せている。発射後の熱が水を揺らめかせていた。
「……? 首は何処?」
 恋苗がそう口にすれば、応えるかのように、海中から巨大な円柱が現れる。それは、柔らかにしなり、前に立つ者たちを薙ぎ払った。
 リーア・ツヴァイベルク(紫花を追う・e01765)はかぐらを庇って、その分まで受けた。骨を折らんばかりの衝撃に息がつまる。
 それは長大なドラゴンの尻尾の一撃だった。
 それと皆が認識した途端、甲羅の中にひっこめられてしまう。そして、また大きな渦を起こしながらぐるりと回転した。
 ケルベロスを翻弄しながら一回転すれば、今度こそ長大な頭部がぬうと現れて、小さな敵対者らを見下ろした。鋭く尖った牙が口の端から伸びている。
「ヒエッ……やっぱ帰っちゃ、ダメですよねー?」
 猛烈な急襲を目の当たりにして盛大にビビる恭也だが、ドラゴンにもう敵認定されたのでダメです。


(「やってみますか」)
 天子はバスターライフルを構える。戦艦竜の弱点を探るためのまずは一手、素早く何度も弾丸をその首へと撃ち込む。
 与えられた苦痛に、ドラゴンはその長い首を捩らせて暴れる。牙を折るまではとてもいかなかいが、それなりのダメージは与えている。とは言え、先のジェノバイドの攻撃に比べれば劣るようだ。元より威力に差があるのだから仕方ない事だが。
(「威力の差、それだけでございましょうか? もっと違う理由があるかもしれません」)
 まだまだ、見極めなくては。天子は次の砲撃の準備をする。
「これは……どうだっ!?」
 鳳琴は縛霊手で戦艦竜を殴りつけた。霊力の網が広がってドラゴンを緊縛する。
 恋苗はナイフを振るって弾丸を作り出し、撃ち込んだ。それは、ドラゴンの時間を僅かに凍てつかせ、隙を生む。
 仲間の作った隙を逃さず、かぐらは反撃にでた。痛みをこらえて走り、爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を連射する。それは甲羅に当たり爆ぜた。
「『すべてを喰らえ、惑いの牙』」
 リーアの詠唱、月花咆哮。弾丸にオーラの獣を纏いドラゴンの長い首に食らいつく。手ごたえは悪くないが、決め手になるほどでもない。
 恭也は洗脳電波でドラゴンのメンタルを攻撃し、その動きを阻止する。
「スプラッターにしてやるよ!」
 ジェノバイドは地獄より得た狂気を武器に纏わせて、滅多切りにする。最後に刺し貫いた切先にかなりの手ごたえを感じ、ジェノバイドは狂喜した。
 ドラーオが追撃をかけようとするが、竜は不意にその首を下げた。亀が首をひっこめる要領で、サンゴ礁の甲羅の内へと頭を隠した。
 そして。またしても、戦艦竜は回転を始めた。
 渦を巻きながら、岩の双砲塔からエネルギー弾を掃射する。その奔流を鳳琴は受けた。そのダメージは耐え切れないものではなかったが、身体が酷く痺れて動きが鈍る。
「海水が滲みちゃいそう……」
 薬液を流して鳳琴を癒すも、あまりに敵の与えて来るダメージが大きくて、恋苗の心は不安に揺れていた。

 ドラゴンの尾へと天子のバスターライフルが火を噴く。
 ジェノバイドは破壊の攻撃を甲羅に叩き込む。だが甲羅は恐ろしく堅く、その一撃を跳ね返した。
「魔空回廊に挑んだ仲間の勇気に比べれば……貴方に相対するくらい!」
 自らを鼓舞し、鳳琴は水を蹴った。重力を宿した蹴りは水の圧をも切り裂いて、伸ばされた尻尾に炸裂した。
(「……おや?」)
 気合を込めた一撃は、自分でも驚くほどに深く斬り裂いていた。
 どくどくと溢れでる血潮が海流に混ざり、一面が赤く染まっていく。その攻撃が有効だったことは誰の目にも明らかだった。
 動きの鈍ったその尻尾に、恋苗が放つ攻性植物が食らいつき、毒液を注入した。
「オイ、生きてるか? 無茶すんなよ」
 恭也はダメージが重なり疲労の色も濃いかぐらに声をかける。
 かぐらは、気丈に笑って返した。少しでも、多くの情報を持ち帰るために、まだ引き下がるわけにはいかない。
 無数の刀剣を召喚し、ドラゴンの甲羅に突き立てる。そのいくつかは深く食い込み、岩の表面に罅を入れ、あるいは砕いた。
 ドラゴンが身体を浮かせた隙に、リーアは月花咆哮を腹部へと撃ち込む。だが、サンゴ礁の甲羅は腹部まで堅く覆い、その傷は浅い。
(「ここも駄目か」)
 脅威の砲塔を持つサンゴ礁の甲羅は、同時に堅牢な鎧となっている。四肢や首、尻尾をひっこめられると厄介だ。
 仲間が見極めやすくするためにも、恭也はドラゴンの動きを阻害することを主体として動く。溶岩を噴出させてドラゴンにプレッシャーを与える。
「わしの得意曲の1つじゃ、最後までよーく聞いて欲しいのぅ」
 ドラーオは、老獪な笑みを浮かべると、すっと深く息を吸い込んだ。放たれる絶唱に意識をかき乱されてドラゴンは悶絶する。

 ドラゴンがずるずると首を甲羅へひっこめる。
「来るぞ!」
 回転に備えて距離を取ろうとするケルベロスたち。しかし、轟々と渦巻く海流に抗いながら回避することは、わかっていても難しい。
「下がって……ああっ!?」
 ドラゴンの砲台が狙ったのは、矢面に立つ者たちだった。何度も仲間を庇い続けていたかぐらは、その一撃でついに力尽きる。
「かぐらさん!」
 激流に呑まれ流されるかぐらを、恋苗とドラーオが必死に追い縋った。網を投げ、チェインを飛ばして捉えなんとか岩場に叩きつけられる前に救出する。
「よくも!」
 仲間を支えきれなかった悔しさは、与えられた傷以上に鳳琴を苛んだ。ありったけの力で流れに逆らい、強引に接敵すると、ありったけの霊力を込めて甲羅を殴りつけた。霊力の網が瞬時に広がり砲台ごとサンゴ礁を緊縛する。
 だが大木のようなドラゴンの長首は、霊力の網をも食い破った。
 対峙するジェノバイドめがけて、大顎を開いて襲い掛かり、鋭い歯で噛み砕こうとする。辛うじて直撃は避けるも、肉を抉られ、血が水中へと溢れて赤く染めた。それがジェノバイドの狂気を煽る。壊れた笑みを浮かべ、己の全身を地獄の炎で覆いつくした。
 さらに噛み裂こうドとラゴンを首をもたげるが、リーアの放つ魔法の光線を受けて、そのまま首を硬直させた。
 バランスを崩してぐらりと傾いだその真下から溶岩が噴出した。恭也の手によって生み出された溶岩は勢いよくドラゴンを切り裂き、さしものドラゴンの巨躯が水中に浮いた。
 かぐらが倒されるのを目の当たりにして、天子は酷く穏やかでない自分を感じていた。
 それでも、今はこの敵を倒す手がかりを探すことこそ大事と、ざわつく気持ちを抑え、集中する。
 コアブラスター、クイックドロウと、自分の攻撃はいずれもダメージは与えているが、決定打とまではいかない。
(「……ですが、これは」)
 恭也の、あるいはジェノバイドが刻んだのだろう斬傷から止めどなく血が吹き出している。他で受けた傷よりも深く見え、もしかすると、これは有効打なのかもしれないと、天子は思った。
 そのわずか、考えに気を取られて隙ができた。
 故に、リーアの注意喚起に気付くのが遅れた。
 故に、天子は、巻き起こった渦にまともに飲まれ、砲撃をまともに食らってしまう。
 全身が焼けつき、痺れる痛みに意識が消えかかる。ドラーオへも向けられていたが、それはリーアが守っていた。
 おかげでドラーオは天子へ手を伸ばし、癒しのオーラで包み込むことが出来た。
 老いた竜人の脳裏には命を散らした若者の姿がある。もう、未来あるものを失いたくないと言う思いが強く彼を突き動かしていた。
(「立てるかの?」)
 癒しきれない痛みに震えたけれど、身振りと表情で問いかける翁に、天子は薄く微笑んで頷き、謝意を示した。 


 薄暗い水中、渦巻き血潮が混じり、視界は決して良くはない。
 それでも、天子は目を凝らす。ここまでの戦いで見た物を彼女は思い返す。
 首、脚、それに恐らくは尻尾も。甲羅に覆われない部分は、斬撃に弱いのではないかと彼女は確信に近いものを覚えている。
 でも、サンゴ礁の甲羅に引っ込まれたなら?
 ふと、堅牢を誇る甲羅の珊瑚色が一部、くすんでいるように見えた。そこは、かぐらの呼んだ刀剣が刺さった跡だ。他に攻撃を受けた場所に比べても、ダメージが大きいようにも思える。
(「もしかしたら」)
 天子はリーアへと合図を送った。
 気づいたリーアは応えてファミリアロッドの魔力を解放し、甲羅へと叩きつけた。すると、その攻撃を受けた場所は珊瑚色がくすみ色を失う。さらに、貫かれていた箇所が大きくひび割れ、表面が砕けた。
(「やはり……」)
 天子も、それを見た者たちも確信する。斬撃や破壊を容易に跳ね返す堅牢なるサンゴ礁の甲羅には、この手の攻撃が効くようだ。

 リーアは露出した首へ月下咆哮を叩きつける。威力の高い攻撃ゆえに手ごたえはあった。
 ならばとそれを狙おうとすれば、体躯を回し、尻尾の強烈な一撃で薙ぎ払われる。
「おいバカやめろー!」
 吹っ飛ばされそうになる恭也を庇って受けるリーア。
 恐縮する恭也に、リーアは大丈夫だと返す。彼にとってこの攻撃はかなり凌ぎやすい気がしている。他の攻撃に比べれば、だが。
「『ハチの巣にしてやんよオラァ!』」
 失点を取り返そうと、恭也のガトリングが火を噴いた。一斉掃射はドラゴンの肢の一つを撃ち砕き、バランスを失ったドラゴンは機動を鈍らせる。
 後ろに向けて放たれる砲撃を鳳琴は受け止めるが、耐え切れずに弾き飛ばされる。
「ああっ……」
 鳳琴は意識を失い、海底へと沈んでいくのをドラーオが追う。追撃の薙ぎ払いを、リーアとジェノバイドがその体で止めた。
「地獄で詫びな!」
 ジェノバイドの狂気が地獄の紅紫焔となって燃える。『紅紫焔覇龍燈牙・獄葬乱舞』を発動し、滅多切りにドラゴンの肉を切刻み、突き立てた切先から爆ぜさせる。
「ちょっと染みるけれど………これ、よーく効くわよ?」
 恋苗が最初にかぐらに言ったその言葉は、ドラゴンに向ければ違う意味を持った。
 攻性植物を操り斬撃を受けた傷口をさらに広げた。その連続攻撃は、ドラゴンに確実なダメージを与えていた。

 傷つけられた痛みに怒り狂いった戦艦竜は、尾を振り回し暴れ狂った。
「……ここまで、かな……」
 リーアも限界を感じている。気を抜けば意識の消えそうなほど体が重い。次に一撃を喰らえば流石にもたないだろう。
 戦艦竜の攻撃方法は分かった。その対処方法と弱点も、恐らくは。
 戦闘不能に追い込まれたとはいえ、致命傷を受けたものはいない。治癒と防御を重ねたことが功を奏しているのだ。
 今は敵わない事に悔しさは残るが、『手がかりを得る』と言う戦果は上々である。次の機会には必ず活かせるはずだ。
 それと合図で伝えればジェノバイドが殿となって、仲間の盾になった。
 戦艦竜が頭をひっこめた。また砲撃が来る。
 ドラゴンが回転を始めるより早く、恭也はフルバーストでガトリングを連射して、一瞬その動きを止めた。
 その隙を縫って天子とドラーオは意識の無い仲間たちを抱えて下がる。
 戦艦竜が最後に放った砲撃は届かず、ケルベロスらの真横を掠めて崖に当たり岩を砕いた。

 逆巻く海流の中を進む難行の末に、ケルベロスらはクルーザーにたどり着いた。
 事前に聞いていた通り、戦艦竜は追ってはこなかった。ダメージにより、動きが鈍っているということもあったのだろう。
 代わりに、挑発するかのように何度も空に向けて砲撃を撃ちあげていた。
 これだけ距離を離しても、びりびりと空気が震えて、海面が荒れてクルーザーを大きく揺らす。
「次へ繋げなければな……」
 その様子を見つめて、ドラーオは、拳を握るとゆっくり胸に当て目を閉じた。その瞼に、誰かの面影を映して。
「覚えてろ……ケルベロスを敵に回していつまでも生きてらんねーぞ!」
 ジェノバイドは拳を船べりに叩きつけ吼えた。

 駆動音を上げてクルーザーは海を滑りだす。
 再戦を心に誓って、ケルベロスたちは戦艦竜の海域を後にしたのだった。

作者:黄秦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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