海中に棲む混沌

作者:千咲

●真白き氷結の銛
 ――相模湾周辺。
 ここ最近になって急に物騒になった感のある海域だが、それでもこの辺りの海の恵みで生計を立てている漁師たちにとっては、仕事を休む理由にはならなかった。
「親父!」
「親父じゃねー、船の上じゃ、船長って呼べって言ってんだろうが」
「はいはい、船長! 物騒だ何だと噂になっちゃいるが、静かなもんじゃねーか!」
「あったりめーよ。怪物だか何だか知らねーが、事件なんぞ、そうそう起こるわきゃねーってのよ! ま、そんなんで尻込みしてくれりゃ、その分ウチが獲れるってもんだ。そうだろ!」
「だよな。まぁ組合長にゃ世話になってっから、1割くれぇ届けてやっても良いかも知んねーなぁ……」
「よーし。エンジン全開! あと一網で今日は引き上げっぞ!」
「分かった、親父!」
「親父じゃねー、船長だ、船長!」
「アイアイサー!」
 などと威勢の良い漁船『宝永丸』。そのエンジンが一際大きな唸りをあげたその直後……。
「親父!」
「だから船長だって言って……」「それどころじゃねーって、親父! これ!!」
 魚群探知機に映った影。それは、とてつもなく大きな何か。
「ま、まさか……!?」
 次の瞬間、海中から伸びた白く巨大な銛が『宝永丸』を貫通、その乗員ごと船を粉々に粉砕する。真白き銛――それは、巨大な氷で出来ていた。
 
●ラハブ討伐依頼
「かの城ヶ島制圧戦で南の海にいた『戦艦竜』。その行方が、狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)さんの調査で判明したの」
 赤井・陽乃鳥(オラトリオのヘリオライダー・en0110)は、集まったケルベロスたちに、そう切り出した。
 戦艦竜――それは、ドラゴンの体に戦艦のような装甲や砲塔が据えられたドラゴンで、非常に高い戦闘力を持っていることが分かっている。
「城ヶ島制圧戦で南側からの上陸作戦が行われなかったのは、この戦艦竜の存在が大きかったと言えるわ。その戦艦竜が相模湾に棲息し、気まぐれに漁船を襲っていることが判明したの。数こそ多くはないようだけど、個々が非常に強力で、このままでは相模湾の海を安心して航行できなくなってしまうわ。そこで……」
 クルーザーを利用して相模湾に移動、こちらから海中に赴いて、戦艦竜の撃退をお願いしたいの――と、陽乃鳥が告げた。
「戦艦竜は戦闘力が強大な代わりに、ダメージを自力で回復する事ができないという特徴があるの。戦いのメインは海中になると思うから、一回で戦艦竜を撃破するのは無理ね。でも、これを幾度か繰り返すことできっと撃破する事が出来る……厳しい戦いになると思うけど、どうか皆の力でお願いね」
 そう言うと陽乃鳥は、続いて戦艦竜の特徴についての説明に移る。
「皆に討伐して貰いたい竜は、氷のように真白い装甲に覆われているの。そして同じようにその長い砲台も真っ白。ある意味、美しいと言っても良いくらいに」
 そう言うと、聖書に書かれているという娼婦の名を挙げる。ラハブ、と。
「ラハブは海に棲む混沌の名でもあるの……この竜に合うと思うんだけど、どうかしら? ラハブの砲台から放たれるのは、凄まじい勢いで噴出する冷気――その冷気は、海水を凍らせながら伸び、巨大な槍というか銛のようになって標的を貫くの。直撃したらケルベロスと言えど無事では居られないと思うから、気を付けてね。幸い、敵は体力と破壊力に特化している節があるから、命中や回避はそれほどじゃないはず」
 それに……。
「敵は決して逃げないし、自分から敵を追うようなこともないから、適度にダメージを与えたら引き上げてきて。どの道、ここで終わる訳じゃないから、次に繋がる戦果さえ残せれば、あとは必要以上に無理をしないようにね」


参加者
アーシェス・スプリングフィール(よんじゅうきゅうさいじの司祭・e00799)
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)
小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598)
ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)
茶屋・真咲(アルマキナリア・e01809)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)
有内・アナベル(かけだしディーヴァ・e09683)

■リプレイ

●戦艦竜ラハブ
「新年そうそう寒中水泳なんて、やりたくないのですが……まぁ、日本の正月らしいといえばらしいのでしょうね」
 相模湾へと向かうクルーザーの上で、小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598)が思わず零す。
「そうじゃのう。寒中水泳とはよく言うが、何も寒い中で泳がんでも良いと思うのじゃ。冬に氷が飛ぶ水中で戦うって、わしゃ、どう見ても年寄りの冷や水なのじゃー」
 ドワーフゆえに分かりにくいが、齢50に届かんというアーシェス・スプリングフィール(よんじゅうきゅうさいじの司祭・e00799)にとっては意外と深刻――かと思いきや、優雨のボクスドラゴンにちょっかいを掛けようとしている辺り、それほど真面目に言っている訳じゃない模様。
「はいはい……極寒ダイビングへの現実逃避はそのくらいで、ね……」
 有内・アナベル(かけだしディーヴァ・e09683)がそんな2人を軽く嗜めると、既に風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)はそれを横目に見つつ、フィンと小型の空気ボンベを装着して、これからの戦いに備えていた。
「一度の交戦では倒せないほど強大な敵――流石はドラゴンと言うしかないですね」
 そう呟いた途端、すぐ近くで同じく支度を調えていた螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)が纏う殺気を一段と膨らませた。
「……初戦では倒し切れないとの事だったが、それでも俺は殺す気で向かう……ドラゴンを逃す気は無いからなっ!」
 すべてのドラゴンは等しく憎むべきもの――それがセイヤの因縁であり、誓いでもあった。
「心中は察しますが、焦りは禁物ですよ。言うまでもないでしょうが。初戦ですし、確実に行きましょう」
 ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)が告げる。今回は次に繋げることこそが第一義であったから。
「……分かっている。我を忘れる気はないさ」
 こうして、8人と2匹はクルーザーを安全圏に置き極寒の海へと出撃。

 ――まもなく、彼らの行く手に真っ白い装甲に覆われし竜の姿が映る。陽乃鳥が、美しいと評した姿が。同時に水温が1~2度ほど下がったような感覚。
(「ラハブ……成程、神の最高傑作と同一視される海の混沌か。……いかんな、始まる前から頬が緩みそうだ」)
 ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)が、その姿を捉えて歓喜に震える思いを抱いた一方、茶屋・真咲(アルマキナリア・e01809)は冷静に見下ろしていた。
(「確かに力はあるのだろうね。でも……中身が伴って無いアレを、ボクには美しいとは思えないよ」)
 その反感が伝わった訳でもなかろうが、接近に気付いたラハブがケルベロスたちに正対する。当然、その背にある真白き砲台も。
(「かも知れん。だが……それで良い。難敵であることにこそ意味があるのだ!」)
 ヴァジュラが、突出しない程度に泳ぐスピードを上げた。そして目には目を、とアームドフォートの照準をラハブに合わせた。
 が、敵の砲口も一同を捉え、白く霞んだような渦を巻く。そいて同時に放たれる2つの砲。
 目の前の海水が広範囲に渡って一瞬で凍り付き、前衛2人の体力を削る。しかし、その氷壁に穴を穿つように、主砲も竜の躯を捉えていた。
(「大丈夫。決して幸先は悪くありません」)
 指先のフォトンスケイルから、セイヤの前に光の盾を生成するユイ。そのすぐ下をくぐるように潜ったアナベルがライトニングロッドの先から雷撃を放つ。
(「このままBSまみれにしちゃいましょう」)
 想定以上に削られはしたものの、戦端としては好調と言えた。

●美しさと裏腹な
(「まずは手始めに……」)
 今回は戦艦竜の力を見極めると決めたアーシェスは、御業を用いてラハブの太い首を締め付ける。同時にボクスドラゴンのカイザーが属性をインストールしてBS耐性を付けた。
 白き首を回し、締め付けるものを確かめようとするラハブの眼前で突如として海水が爆ぜた。恵のサイコフォースだったが、距離が届かず功を奏することはなかった。
 しかし、その爆発で敵の視界を閉ざした一瞬、その隙を突いて優雨が間合いを詰める。
 羽ばたくような速度で進んだ優雨のグラインドファイア。水中に生まれし炎が白き躯を掠めた。そんな彼女と共に泳いだイチイもブレスで援護。水と相性の良い植物ではあるが、敵の氷のような冷たい躯に効果があったかは判別しづらい。
(「一度で終わらせられるとは思わないけど……その物騒な砲、中和させてもらうよ」)
 真咲の腕から光弾が飛び、砲口で炸裂。これで幾らかでも威力が落ちてくれれば良いのだけれど……。
 その砲台の後ろまで一気に泳ぎきったセイヤは、初手に螺旋掌を選ぶ。最小限の動きで放てるコレは、水中で放つなら最も効率の良い――これで砲撃の精度が落ちれば儲けものだ。
 だが、ラハブが放ったのは砲台ではない。
 懐に入り込んできた優雨を叩き潰すべく、海をも割るような凄まじい爪撃が繰り出される。その瞬間、主の前に泳ぎ出たのはボクスドラゴンのイチイ。
 主と同じ優しさか与えられたディフェンダーとしての役割か、寸前で全身を以てその爪を防ぎ切った。自らの存在と引き換えに……。
(「間に合わない……」)
 できることならマインドシールドを漏れなく皆の前に展開したいところだったが、適わぬ事……ユイは無念を祈りの詩に込める。
 仄暗い海中に、天から一条の眩い光が射し込んだ。その銀閃がラハブの白き躯を穿つ。
 その光が敵の目を惹いたその間に、恵は構えた太刀『煌翼』に雷を纏わせて敵の硬き装甲を易々と貫いてみせた。
(「ならばこちらは……」)
 次いでアーシェスは、身体に纏わせていたブラックスライムに捕食を命じる。が、さすがにドラゴンを丸呑みとは行かず、その動きをわずかに束縛する程度だった。
 続く面々も次々と技を放つが、その数々の攻撃は当たりこそすれ、通らない。戦艦の厚い装甲の前に悉く弾かれていた。
 一方でラハブの砲台も、一撃を放つ前には砲口辺りに白き靄が渦巻くために予兆が読みやすく、警戒さえ怠らなければ回避できる可能性は低くない。特に、直線に過ぎない氷結の銛ならばなおさら。最大の脅威と想定する一撃を辛うじて躱し切った。
(「今だっ!」)
 戦いには『流れ』がある。勝機は逃さず自ら掴み取ることが必要だった。
(「貴様と同じ蒼氷の竜を城ヶ島で葬らせてもらった……同じ様に貴様も眠れ…ッ!」)
 セイヤは今がその時、と電光の如き蹴撃を放った――ラハブの巨躯が打ち震える。
 さらに敵の動きを惑わせるべく、細かく動きを変えるアナベル。その最中に不意を突き、懐に構えた斧で滑るように白き躯を切り裂いた。
 まさにその瞬間、ラハブの白い躯がうねるように揺れた。それは……。

●氷結の銛
 ――ラハブの咆哮。振動が海中に広く伝わり、各自の視界が歪む。
 そして同時に真白き砲口が、炎ならぬ極冷の氷気が放たれた。ターゲットは、後衛から見定めるように攻撃を繰り出していたアーシェス……もしかしたら体力に劣ることを見抜いたのかも知れないが。
(「させるかっ!」)
 その一撃が彼女を貫く寸前、突き飛ばすようにして身体を滑り込ませたヴァジュラが、身代わりに貫かれる。
 ゴボッ……!!
 大きな水泡があがる。既に受けていた傷のせいもあり、瞬く間に危ういところまで追い込まれてしまう。
 すかさず優雨が自らの名にも似た力を顕現、薬の詰まった試験管が彼の元で割れ中の液体が染み入ってゆく。
(「雨は優しく、そして冷たい……」)
 海水よりも冷たく、そして限りなく優しい力が傷を癒す。さらに真咲の温かなオーラが拡がってゆき、ヴァジュラの苦痛を和らげてゆく。
(「すまんのじゃ……」)
 アーシェスは視線でそう訴えると、引き続き役目を果たすべく指輪から具現化した光の剣で斬りつける。
(「うぬぬ……手応えからすれば敏捷系が良さそうかの!? じゃが斬撃の方が通るか……」)
 効果を測るその横合を抜け、セイヤが飛び込んでゆく。その腕の鎧甲から解き放たれるは魔龍の双牙。だが、それはラハブの装甲に弾かれてしまう。
(「くっ……!」)
 ただ一撃が戦況を逆転させる――そんなことが侭あるのを理解していたつもりだったが。ほんの僅か、油断とも呼べぬほど不確かな『今』を悔いながら、恵がポジションを変える。
 確実に生きて帰るための策……ディフェンダーに。
 だが、ラハブの鋭い感覚は、その瞬間に生まれる隙を逃さなかった。その砲口に水流が白く渦巻いて、一気に水を凍らせながら真咲の身体を貫いていた。
(「ゴメン、今のボクじゃ……」)
(「やはり危険ですね」)
 代わってユイが癒し手を努めるべくヴァジュラの元に光の盾を召喚。
 アナベルは少しでも戦艦竜の攻撃を阻害すべく、雷撃を放つ。
(「これまでにも少しは防いでいるはずなんですけどねー」)
 それで足りないのなら何度でも。
 それに続くは恵。煌翼に纏わせたのは風――太刀の先が災いをもたらす渦となりてラハブを貫く。
 同じく前衛に立つセイヤとヴァジュラが立て続けに螺旋掌、そしてズタズタラッシュを決める。
 が、その直後に再びラハブの砲口から冷気が拡がった。
 一面が凍りつき、前衛の面々を襲う。
 唯一のメディックとなった優雨が憂いの雨で懸命に癒し、ユイもまた光の盾を紡ぎ、治癒に追われる。
 残る攻撃手たちは、そんな彼女たちに負担を掛けまいと、互いにカバーし合いながら強大な敵の体力を少しでも削るべくアタックを重ねてゆく。
 ラハブにキュアはない。次第に攻撃の手が止んだりすることも増えてはいるものの、喰らったダメージは計り知れず、さらに砲口渦巻いたときには緊張が走る。その意味では、身体よりも心にダメージを負ったと言えようか……。
(「まだ諦めるには早いのじゃ!」)
 アーシェスのファミリアシュート。微妙なところだったが、幾らか効果が高いか……。
 だが、再びラハブの砲口が白く霞む。
 氷結の銛――瞬時に伸びた凍気が優雨を貫き、その意識を奪い去る。
 これにはディフェンダーとて反応し切れない。いや、仮に反応できたとしても代わりに斃れるのがオチだったろう……。
(「守りたい……皆を……」)
 ユイは祈りを込めてマインドシールドを紡ぐ。しかしその力で癒すことができるのは1人だけ。到底、治癒が及ぶべくもない。
 恵が空の力を以て勝負を賭ける。巨大と言えど、傷口を広げられればあるいは……。
 次いで残る面々も攻撃を叩き込んでゆくが、ラハブの装甲を突き抜けるには至らない。ゆえにアナベルはその強固な装甲を打ち破るべくルーンアクスを叩き付ける。
 しかし……それだけしても勢いを増した戦艦竜は止まることを知らなかった。
 傷を癒すのがユイただ1人であることを見抜いたヤツが、無情にもその繊細な身体を銛で貫く……。

●戦略的……
(「……やはり、限界ですかねー」)
 最初に倒れた真咲を掬いあげるように抱きかかえると、アナベルが皆に撤退の合図を送った。
 メディック2人が斃れ、戦闘不能者はあと1人で半数を数える。どうやらここらが潮時に違いないが、問題はラハブにどれだけの傷を負わせることが出来たのか……だ。
(「皆、先に退けっ……!」)
 セイヤが、双腕の魔龍鎧甲を構えてラハブの懐深くに飛び込んでゆく。
 ――最後にもう一撃! ヤツの砲塔をここで砕いてやるっ!
(「打ち貫け!! 魔龍の双牙ッッ!!」)
 その腕から解放された漆黒のオーラが、黒龍の姿を映してラハブに喰らい付く――白き躯を貫く漆黒の楔がラハブの体力を削る。
(「無茶です! まだそこまでじゃ……」)
 優雨とイチイを回収した恵から大きな気泡があがった。あと一撃でトドメ、と言うのならまだしも、この戦いはまだ初戦でしかないのだから。
(「仕方なかろう……これだけの敵を前にして奮わずには居られまいよ」)
 ヴァジュラの感想。セイヤの裡に渦巻く想いと異なるとは言え、ケルベロスとて感情に動かされる存在であることに変わりはない。
 そして……再び自らの鎧装に地獄の炎を注ぎ、その身体を一際大きく変容させた。
 だが、その一連の動作は、敵に再び砲を充填するだけの時間を与えることになる――再び、白い渦が砲口を中心に巻き始めた。
(「来るかっ!」)
 氷結の……銛が放たれるかと思いきや、そうではなかった。放たれた冷気は海中に拡散、大きな氷となって2人を巻き込んだ。
 既に傷付いた身体に、その一撃は極めて重かった……遠のく意識の奥で悔しさを噛み締めるセイヤ。その身体を抱え込み、ヴァジュラはふらつく意識のまま撤退を試みる。
 だが、ラハブもそれを黙って見過ごすつもりはない。トドメとでも言うようにもう一度大きく海水を呑み込む。
「まだ来るか」
 なんと横暴な……と思わずには居られなかったが、それは言っても詮無き事。
 懸命に水を掻く彼を追う代わりに、ラハブはさらに海水を呑み込んで、引き込むような海流を生む。
(「「ま、まずいですね……」」)
 先行していたはずのアナベルと恵にも焦りの色が浮かぶ。
「The Hermit!」
 アーシェスの雰囲気がガラリと変わった。
 それは、不可視の神霊を召喚するときの声音。あらぬ方向から斬りつける謎の攻撃が繰り出され、ラハブの動きが止まった。
(「今のうちにっ……!!」)
 合図を受け、一気に距離を取る。
 すると戦艦竜ラハブは、もうケルベロスたちを追おうとする様子を見せることもなく、ただ海中に真白き巨躯を揺らすのみ……決して癒えぬ傷に涙する娼婦の如く。

「まったく危ないところであった……」
 辛うじて生き延びたことを喜びつつも、再びその戦禍に自ら身を投じたいと願うヴァジュラ。
 そして、意識を取り戻した真咲もまた頷く。
「確かに、強い。でも倒せないとは言いたくないね」
「ええ。あとは、次の方たちに……」
 同じく、ユイも息を調えながら告げる。
「戦艦竜……果たして、私たちは十分にダメージを与えられたのでしょうか……」
 本当なら、もっと早く成果を上げて退ければ良かったのだけど……と思いながら、アナベルが終わったばかりの戦いを振り返る。
 ――ざっと見て3割以上は軽く……いえ、最後の一撃で3割5分に達したかも!?
 いずれにせよ次なる戦いも遠くはない。ケルベロスたちは、温かい紅茶と共に束の間の休息に身を委ねるのだった。

作者:千咲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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