ドラゴン出現、観覧車に迫る!

作者:一条もえる

 愛媛県松山市。
 街の中心にある私鉄の駅は、今日も人で溢れている。
 百貨店が併設されているほか、アーケード街にも繋がっているからだ。
 夏休みということもあって、友人と遊びに来た学生や、親子連れの姿が目立つ。
「お父さん、あれ、乗ろう!」
 ひときわ目を引くのは、百貨店の屋上にある大観覧車だ。
「……ねぇ、お父さん。あれなんだろう?」
 観覧車からは、街が一望出来た。
 子供がきょとんとした顔で、遠方を指さす。
 その先にいたのは……ドラゴンだった!
 頭をもたげると、口から炎の息を吐き出す。
 鋭いかぎ爪と太い尾をふるい、周りの建物をなぎ倒す。
 恐ろしい力で街を破壊しながら……こちらに迫ってくる!
 父親は蒼白な顔で、子供を抱きしめた。

「緊急事態です。ドラゴンが出現します!」
 ヘリオライダーのセリカ・リュミエールは着席する間ももどかしく、緊張した面持ちで予知を告げた。
「先の大戦末期、オラトリオによって封印されたはずのドラゴンですが、それが復活するようです。
 幸いに、というべきか。ドラゴンは復活したばかりではグラビティ・チェインが不足しているのでしょう」
 飛行する様子が予知に現れないのは、そのせいにちがいないという。
「それだけに、目的は都市を襲い人々の命を奪ってグラビティ・チェインを略奪する事に違いありません。
 十分な量のグラビティ・チェインを得たドラゴンは飛翔能力を取り戻し、いずこかへと去ってしまうでしょう」
 ドラゴンの戦闘能力と、周辺の状況についてですが……と、セリカが言葉を続ける。
「ドラゴンは強力なドラゴンブレスを使用しますが、このドラゴンのブレスは『炎』のようです。注意してください。
 他に、巨体から繰り出すかぎ爪と尾による攻撃も、街を破壊するのに十分な力を持っています」
 続いてセリカは、街の地図を示してみせた。
「戦闘中、周りに被害がでないにこした事はありませんが、もし破壊されてもヒールで修復する事ができます。
 出現後はすぐに避難勧告を出しますから、皆さんはとにかくドラゴンとの戦いに集中し、確実に撃破してください。
 ドラゴンは街の中心にある私鉄の駅、および百貨店を目指して一直線に進んできます」

「観覧車が目印って思えばいいのかしら?」
 と、和泉・香蓮が確認するように問うた。
「そんなのが破壊されて倒れてきたら……ゾッとするわね。さっさと片付けましょうか」


参加者
叢雲・蓮(地球人の刀剣士・e00144)
神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)
アマネ・カナタ(サキュバスの鎧装騎兵・e01039)
蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)
緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)
リャン・グリザイユ(ドラゴニアンの鹵獲術士・e02988)
御門・愛華(死神・e03827)
リコ・ノース(眼鏡が耽る・e04216)

■リプレイ

●降下!
 ヘリオンから飛び降りたケルベロスたちは、観覧車が見上げられる交差点のただ中に着地した。周囲の車が慌てて避けていく。
「おー、あれが。あんなんがある百貨店、楽しいやろなぁ」
 リャン・グリザイユ(ドラゴニアンの鹵獲術士・e02988)は手をかざして、予知に出てきた観覧車を見上げて笑った。
「頑張らな」
「まだ、被害は出ていないようですね」
 リコ・ノース(眼鏡が耽る・e04216)は飛び降りた拍子にずれた眼鏡を直しながら、彼方に視線を送った。
 ドラゴン。10メートルを超す巨体が、その視線の先にはある。
「封印されていたのなら、そのまま寝ていてくれればいいものを……我に仇成すものよ。地に縛られ頭を垂れ、自らの行いを悔いなさいッ!」
 『バインドオブジアース』。ドラゴンの周囲に漆黒の球体が現れ、それに触れたドラゴンの動きが止まる。
 それを見逃さなかった緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)は、
「……Temps pour le lit(お休みの時間よ)」
 そう言って眼鏡を外すと、それまでの愛くるしい表情からは一転、鋭い表情でドラゴンを睨みつけた。
「挨拶代わりよ、受け取りなさいッ!」
 言うや、アームドフォートを一斉斉射。砲弾はドラゴンを次々と襲った。
 しかしそれは鱗の表面で弾け、その巨体を屠るにはまだ程遠い。
「まぁいいわ。凛子、今よ!」
 小さく舌打ちして、敬香は蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)に目配せする。
「いきます! 『二刀斬霊波』ッ!」
 凛子が振るった刀から放たれた衝撃波がドラゴンを襲い、その巨体が揺れる。
 ドラゴンは、ケルベロスでなければそれだけで卒倒してしまいそうな恐ろしげな咆哮を上げ、首を大きく振り尾を幾度も地に打ち付けて、怒りを露わにした。
 アスファルトは発泡スチロールで出来ているかのようにあっさりと砕け、周りに礫をまき散らしていく。
 その正面に、御門・愛華(死神・e03827)が立ちはだかった。
「暴れ回らないで。貴方の相手は私です」
 そう言って鉄塊剣を振りかぶり、ドラゴンに向けて叩きつける。
 それはドラゴンの鋭い爪とぶつかり合い、両者はともに退いて態勢を整えた。
「あれで、まだ全力じゃないってのか?」
 先ほどまでは身体のラインがハッキリと現れるフィルムスーツを着て、いささか気恥ずかしそうだったアマネ・カナタ(サキュバスの鎧装騎兵・e01039)だが。
 今は、相手にとって不足はなしと、不敵な表情を見せる。
「弱体化しているうちに倒せるなら、それに越したことはないな。絶対につぶしてやるぜ」
「よし、今のうちだ。ドラゴンがこちらに気を取られている間に、周りの人たちを避難させよう」
 と、神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)は他の仲間たちに呼びかけた。
「堀の向こう、城山公園なら場所も広い。そちらへ」
「わかったわ。それはお姉さんたちに任せなさいな。
 ……さ、あなたも頑張ってね」
 和泉・香蓮(サキュバスの鹵獲術士・en0013)は微笑んで、叢雲・蓮(地球人の刀剣士・e00144)の背中を押した。
 すると蓮は嬉しそうに微笑んで、
「悪いドラゴンは、やっつけるのですー!」
 と、斬霊刀をドラゴンに突きつけてみせた。
「そうだな、必ず勝とう。侵略者などに、誰の命も奪わせはしない」
 皇士朗の呟きを耳にしたケルベロスたちは、思い思いの言葉で決意を表した。

●突撃!
 突如として出現したドラゴンに、市民はパニックになりかけていた。
「落ち着いて、この場から離れるっすよー!」
 だが、狐村・楓(ウェアライダーの螺旋忍者・e07283)が凛とした声で呼びかけると、彼らは落ち着きを取り戻していった。
「おねえちゃん、こわいよぅ」
「大丈夫よ、ケルベロスのお兄ちゃんお姉ちゃんたちが、あんな怪獣なんかあっという間にやっつけちゃうから」
 神楽火・みやび(リベリアスウィッチ・e02651)は怯えた顔を見せる少女の頭をなで、
「……本当に信じていますよ、皇士朗」
 と呟いた。
 香蓮も含めた彼らが急ぎ、仲間たちがドラゴンを引きつけている間に市民を現場から離れさせる。
「うわぁッ!」
「おっと!」
 逃げゆく人々に降り注いだ瓦礫を、カナネ・カナタ(やりたい砲台の固定放題・e01955)は身を挺して庇う。
 もちろんケルベロスがそんなものでダメージを受けるはずはない。心配する老婆に微笑み、先を急がせる。
「頼むぜカナ姉ぇ!」
 アマネはそう言って手を振った。
「ここまでは順調。けど、ここからが正念場だよね」
 周囲から人の気配が去って行く様子を窺い、愛華は剣を八相に構えてドラゴンに相対する。
「時代遅れの化石が、今さら起き出してどうしようっていうんだよ!」
 ドラゴンがそんなものに動じるかは知らないが。アマネは罵声を浴びせつつ跳躍し、惨殺ナイフをその背に突き立てて切り裂いた。
 ドラゴンは大きく身もだえしたが、そのときにはアマネは地面に降りたっている。
「ざまぁみろ」
 と、口を開きかけた眼前に、なんとドラゴンの鋭い爪が迫っていた。
「危ないッ!」
 蓮は叫ぶが、間に合わない。
 とっさに身をよじったが避けきれず、前肢が振り下ろされた勢いのままに吹き飛ばされて、激突したビルのショーウインドウを滅茶苦茶に粉砕した。
 ドラゴンはなおもアマネを襲ったが、愛華が飛び込んでそれを防いだ。
 繰り出される攻撃は鋭く、重い。受け止めた愛華の骨もきしむ。
 はじき飛ばした爪が、車道に止まったままのトラックを引き裂き、なぎ倒していく。
「やったなー!」
 連は可愛らしくも力強い声をあげると、斬霊刀を突き出す。神速の突きがドラゴンを襲い、深々と刃が食い込んだ。
「大丈夫ですか、アマネさん、愛華さん!」
 その間にリコはふたりの方を振り返ったが、ふたりは手を振って、
「これくらい、どうってことはねぇ!」
「ご心配には、及びません……!」
 気力を振り絞って起き上がる。ともに、地獄の力を増して。
「なかなか手強いですが……蒼龍たるこのわたくしが、あなたごときに後れを取るわけにはいきません! 我が名において集え氷よ!」
 『蒼龍魔王剣・氷刃華斬』! 凛子が放った斬撃はドラゴンを深々と切り裂き、その傷跡は氷で華が咲いたように凍てついた。
 しかし、その傷跡に追い打ちをと踏み込んだ斬撃は雄叫びを上げたドラゴンの爪に受け止められ、振り払われた。
 着地した凛子が、そしてケルベロスたちがさらなる攻撃をと構えたとき。
 まずい、これは!
 ドラゴンの身体が一回り膨張したかのように見えた。
 大きく息を吸い込んだドラゴンの口から、灼熱の炎が吐き出される。
 電信柱が飴細工のように溶け、吹き飛ばされた車が爆発、炎上する。あまりの熱に、ビルの柱さえボロボロに砕けて、古い雑居ビルが傾いた。
 連はとっさに、全力で走ると隣のビルの陰にしっかりと逃げ込んでいた。
「なんて力……!」
 炎に襲われた仲間たちのために、リコは『メディカルレイン』を放った。癒やしの雨が、仲間たちを潤していく。
「ありがとう。これでまだ、戦える」
 愛華はそう言って目を細めた。
 ドラゴンは尾を振り、大きく叩きつける。
 連と愛華とは大きく跳び下がってそれを避けたが、それが直撃した雑居ビルはついに柱が折れ、無残に倒壊していく。
 横倒しになったビルは自らの重さであちこち砕け、もうもうたる砂塵を周囲にまき散らした。
「ゴホッゴホッ……! やってくれるわね」
 敬香は咳き込みつつ、場所を移った。
 ドラゴンは目障りなケルベロスを蹴散らし、人間どもを皆殺しにしようと当初の目的を思い出し、街の中心へと向けて進撃を再開しようとしていた。

●奇襲!
 護望・源乃丈(お守りは上手・e00365)たちは戦場から離れ、市民に避難を呼びかけていた。今いる場所は、ドラゴンに襲われることを予知された件の大観覧車だ。
「大人が慌ててどうする。ドラゴンは俺たちに任せろ。お前たちは落ち着いて、この場所から離れればいい」
 と、観覧車から降りてくる客たちを追い出していた。
 ここからは戦場もよく見える。
 視界がパッと明るくなったのは、ドラゴンの放った炎の息のせいだ。
 倒壊していくビルを見て、人々は言葉を失っていた。こころなしか、ドラゴンが近づいたようにも見える。
「あッ! あそこ!」
 父親に抱かれた少年が指さした、その先には。
「行かせるわけには、いかんのや!」
 ドラゴンが背を向けた小さなホテルの屋上に、リャンが立っていた。ちょうど、わずかにドラゴンの顔を見下ろすように。
 魔導書のページがパラパラと開かれ、光の光線がドラゴンを襲った。
 さながら石像にでもなったかのように、ドラゴンの前進が止まる。
 そこを狙って、屋上に現れた皇士朗は腰を落としてアームドフォートを構え、一斉斉射。
 ちらりと観覧車を見上げたリャンは、
「直せるとはいうても、今あるアレが好きやったいう人は多いやろうしなぁ。できるだけ、壊されないにこしたことはあらへん」
 そう呟き、
「パオさん、どんどんやったって!」
 と、サーヴァントに指示を出した。
 ミミックはその指令に忠実に、次々と『愚者の黄金』をばらまいていく。
 ドラゴンは困惑するようにきょろきょろと首を左右に動かした。その隙をゼノス・アークレイド(見敵必殺・e04844)は見逃さず、
「討ち貫け! パイルバンカーッ!」
 と、渾身の蹴りを放った。命中した瞬間に、右足に装填された弾丸がドラゴンの身体に食い込む。
 ドラゴンが怒り狂って、リャンたちの方へ振り返った。
 高々と振り上げられた尾が迫るが、
「くッ……!」
 皇士朗が飛び込んで、それを防いだ。巻き添えにホテルの看板が粉々に砕け散るが、それが地上に落下するころには、リャンも皇士朗も、別の、より低層なビルに飛び移っていた。
「たすかったわー」
「なに。今日の俺は、剣ではなく盾なのだからな」
 そう言って、皇士朗は口の端を持ち上げた。

●撃破!
「皇士朗さん、血が」
 腕から血を流すのを見とがめたリコが、緊急手術を行って傷を塞いだ。
「よし、これで大丈夫」
 笑って、またしてもずれた眼鏡を直す。
 ドラゴンが側背から奇襲されて意識をそちらに向けたのを見て、正面に立ちはだかって進撃を阻んでいたケルベロスたちも俄然、勢いづく。
「さぁ、この一撃はひと味違うぜッ!」
 アマネの鎧が変形して武器に装着される。大きく変形したエアシューズによる一撃が、ドラゴンの横っ面に食い込んだ。
「当たった!」
 本人も一か八かだったのか、大きく目を見開いて叫ぶ。
 ドラゴンは首を振りつつ、再び大きく息を吸い込もうとした。
「おっと、させへんでー!」
 リャンが再び『ペトリフィケイション』を放つ。一度は外れたが、諦めずに放った光線が、今度こそドラゴンを捉えた。
「いまがチャンス!」
 蓮が一気に距離を詰めて、その後ろ足を切り裂いた。一方で、ドラゴンが振り返る前に、素早く退く。
 四方八方から攻撃を受け、さしものドラゴンもケルベロスたちを捉えきれずむなしく暴れるだけだ。
 体表の鱗はボロボロに剥げて、血とも体液ともわからぬ得体の知れない液体が流れ続けている。
 その様態を見た敬香が、凛子に目配せしてみせる。凛子が頷いたのを確かめて、
「同時に行くわよ!」
 と、得物を持ち替えて駆けだした。
 凛子も敬香と横並びとなり、ドラゴンに迫る。
 それに気づいたドラゴンが尾を振り上げようとしてきたが、皇士朗と愛華は仲間たちを庇うように割って入る。
 皇士朗が縛霊手でその尾を殴りつけると放射された網状の霊力が大きく広がり、愛華の地獄の炎を吸収したブラックスライムが魔獣の姿へと変じて襲いかかった。
「連携で負けてはいられませんね」
「そうね。凛子の氷と私の炎、たっぷり味わわせてあげる!」
「その炎ごと、すべてを凍らせて差し上げます!」
 左右から繰り出された斬霊刀が、ドラゴンの頸を深々と切り裂いた。
 ドラゴンの頭はふらふらと頼りなく揺れ、そして大量の血しぶきをまき散らしながら、地に伏した。

「みんなお疲れ様。避難も解決も早かったから、怪我した人はいないそうよ」
 香蓮がそう言いながら戻ってくると、連はつつつーとそのそばに寄っていった。
 香蓮に抱きしめられるように頭をなでられ、にこにこと笑う。
「みなさんを……守れましたね」
 リコは辺りを見渡し、そして観覧車を見上げて、安堵のため息をついた。
 街は無傷というわけにはいかない。それでも人々が傷つくことなく、ケルベロスたちは勝利したのだ。
 戦いは終わった。
 いや。新たな戦いが、これから始まる。 

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 14/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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