浮上する侵略者

作者:鹿崎シーカー

「……なんの音だ?」
 そう言って、初老の男は船から顔を出した。
 漁船に乗って、いつも通り仕事に来た朝。海は、特に変わった様子を見せていなかった。その音が、聞こえ始めるまでは。
 男が水面に向かって耳をそばだてると、海の深いところでゴウンゴウンと……まるで、巨大な機械が動いているような音がするのだ。
「エンジンか? いや、なんでこんな海の底に……」
 ぐい、と男がさらに身を乗り出す。青を通り過ぎて、暗くなった水底が、ちかっと光を放つ。
「え……」
 昇る黄金の稲光。男は逃げる間もなく、それがなにかもわからないまま、光に飲み込まれた。


「さてみなさん、大物一本釣りっすよ」
 黒瀬・ダンテは、苦い顔をして言った。
 狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)の調査により、城ヶ島の南の海にいた『戦艦竜』が、相模湾で暴れていることがわかった。
 戦艦竜は、城ヶ島の南の海を守護していたドラゴンで、ドラゴンの体に戦艦のような装甲や砲塔があるのが特徴だ。その戦闘力は高く、城ヶ島制圧の上陸作戦の障害にもなった。
「しかし、このままほっとくと、こいつらは相模湾で暴れ続けるっす。皆さんには、この戦艦竜が一体……仮に『V・ガレオン』と呼びますが、こいつを倒して、被害を抑えてほしいんす」
 皆には、クルーザーを使って相模湾に向かってもらうことになる。ここで注意してほしいのは、V・ガレオンが雷の竜だという点だ。
 V・ガレオンは、その身に船の発電機関を大量に取り込んでいるため、強力な雷のブレスを撃ってくる。爪や尻尾による攻撃もあなどれないが、海中での戦いになることもありうる。ただし、弱点として狙いが正確であることと、巨大な体のせいで回避がろくにできないことがあげられる。
 また、攻撃してくるものは必ず迎撃してくる他、撤退はせず、逃げた敵を追うこともない。
「ちなみに見た目っすが、タービンとかエンジンとか、発電するための装置がいっぱいくっついてるドラゴンって感じっす」
「さて。今回はとっても危険な任務になるっす。無理しないで、皆さん無事に帰ってきてくださいっす」


参加者
水晶鎧姫・レクチェ(ルクチェ・e01079)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
秋津・千早(ドレッドノート・e05473)
淡雪・螢(巨腕・e06488)
エフイー・ジーグ(森羅万象身使いし機人・e08173)
リン・グレーム(機械仕掛けの輝石・e09131)
鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900)
碧川・あいね(路地裏のヌシ・e16819)

■リプレイ

●冬の海にて
 神奈川県相模湾。城ヶ島よりやや北側の海は、からっとした晴天だった。
 ここが夏のビーチであれば、「青い海、白い砂浜、そして輝く太陽」とでも言えるのだろうが、現在は冬で海の上。一面を埋め尽くす青に向かって、碧川・あいね(路地裏のヌシ・e16819)は声を張り上げた。
「さンむいわァァァァァァアアアアアッ!」
 シンプルな一喝が、クルーザーの上から水平線の彼方まで、尾を引いて飛んでいく。
「なんでこない寒いねん! この寒空に水着とか、ほんまムカつくわぁ!」
「ま、まぁまぁ。落ち着いてください、あいねさん」
 カメラ付きの競泳水着姿で叫ぶ彼女を、スクール水着を着た水晶鎧姫・レクチェ(ルクチェ・e01079)がどうどうとなだめに入った。余談だが、その胸元には『れくちぇ』と書いてあったりする。
「みんな寒いのは同じですから。それに、海の中は比較的あったかいそうですよ?」
「比較的って……何と比較したん?」
「……えーっと」
 助けを求めるようにクルーザーを見まわすレクチェ。振り向いたのは、こちらも競泳水着姿で大海原を眺めていた鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900)だった。
「安心してください、碧川さん。おそらく、オホーツク海よりは暖かいでしょう」
「あー、なるほど。オホーツク海なー。それなら安心安心……って、安心できるかいッ! 流氷流れるよーなとこと比べたらどこもかしこも温泉や!」
「細けーことは気にすんなよ。たとえ火の中水の中、ドラゴンの群れの中! その元気がありゃー生き残れるって!」
「ジーグさん、最後のは絶対無理です」
「絶対無理じゃな」
 豪快に笑うエフイー・ジーグ(森羅万象身使いし機人・e08173)に、秋津・千早(ドレッドノート・e05473)とウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)からツッコミが入る。無理と言いつつ、眼鏡を外し、付けひげをつけたふたりに迷いらしい迷いはない。
 ちなみに千早はスク水、ウィゼは金属繊維入りのスク水、ジーグはなぜか体操服である。
 カメラを持ったテレビウムのカントクが、沈む主の背中をぽんぽんたたく。はげましているようにも、あきらめろと言っているようにも見える姿をしり目に、リン・グレーム(機械仕掛けの輝石・e09131)はクルーザーの運転席に向かって手を挙げた。
「んじゃ、ユリさん。すみませんが船の方、お願いするっす」
「ユリおねーさん! いってきます! 今回もすっごくがんばるんだよ!」
「うん、わかった。螢ちゃんもいってらっしゃい」
 百合水仙にあいさつを残し、競泳水着のリンと旧スク水着用の淡雪・螢(巨腕・e06488)はデッキへとてとて走っていく。二、三会話をしたのちに、海へと飛び込む一同。沖へ泳いでいく仲間たちを眺め、シルはこそっとつぶやいた。
「あの、さっきのドラゴンの群れの中って話ですけど……実はこの船、囲まれてるとか、ありませんよね……?」
 デッキに嫌な緊張が走る。どんどん温度が下がっていくような錯覚の中、穣は首を振った。
「安心するといい。日頃の行いさえ良ければ、多分大丈夫だ」
 安心できるかいッ!
 船上で上がった無言の悲鳴が、潮風にさらわれていった。

●強襲、V・ガレオン
 船から離れて、しばらく泳いだころ。ゴゴン、と地鳴りににも似た音が、水面を震わせた。
 潮流のとんがった耳がぴくりと動く。自然にあるものとは違う、異質なサウンド。音はやがて残響として消え、虫の羽音にとって代わる。
「今の……聞こえましたか」
「おう、聞こえた。下だな、下にいる」
 返したのは、水面に耳をつけたジーグ。彼にならって水中に耳をすませば、不気味な不協和音がそれぞれの耳を打つ。
 水に入れた片耳を上げると、レクチェは全員を見渡して言った。
「それじゃあ、作戦を確認します。目的は敵の弱点の確認と、エンジン類の破壊。第一目標は口、第二目標は発電機関」
「ええと、はつでんきかん? は、せなかについてるんだよね」
「はい。なので、背中を狙うことになりますね。撤退はハンドサインで。……本当は、声が出せればよかったんですけど」
「水の中だからね。息ができるだけマシかな」
 螢、千早にも補足をしてもらいながら、確認を終える。全員が理解したことを確かめると、つけひげを整えたウィゼがおごそかに口を開く。
「では、行くとしようかの」
「待っとれ戦艦竜……寒空の下で水着にさせられたこの恨み、きっちり晴らさせてもらわななぁ……」
「いえ、どうやら行く必要はなさそうですよ」
 海に耳を当てていたふたりが、頭を上げる。
 水滴を払いながら、ジーグは少し離れた海面を指さした。
「向こうから来てくれたっぽいね! 手間が省けた!」
 ゴウンゴウンと腹の底に響く重低音。
 虫の羽音と心臓の鼓動と太鼓の音色を一緒くたにしたような、いびつな不協和音を響かせ、海面が爆発した。
 白くそびえる水柱。激しく海が揺すられ、さざ波がわき立つ中、『それ』は大きく鎌首をもたげた。
 つるりとした白銀の体に、電灯を思わせる赤い瞳。
 細長い首がくっついた体にはエンジンやタービンがぎっしり積み込まれており、騒音を放つそれらに埋もれるようにして巨大な砲塔がひとつ顔を出している。
 機械じみた姿のドラゴン。雷の戦艦竜、V・ガレオン。
「おっきい……」
「確かに、ずいぶんな大物じゃ。ちと、骨が折れそうじゃの」
 巨体を見上げ、ドワーフの少女ふたりが武器を構える。目をらんらんと輝かせる竜を前に、リンは鎖で魔法陣を描き、ライドキャリバーのディノニクスのハンドルをがっちりつかんだ。
「さぁて、次に繋げられる戦いをしましょうかね」
 一同が戦闘態勢に入ると同時に、竜の背中が激しく震え始めた。流れ出す不快な協奏曲。向けられる視線に対し、V・ガレオンは大口を開けて咆哮した。
「いくで……デカトカゲ狩り、開始やぁ!」

●戦艦竜の臨界駆動
 後ろに引っ張られると同時に、目の前を巨大な爪が通り過ぎた。
 鼻先数センチ、眼鏡を確実に持っていかれたであろう距離。もしそこに頭があったら……そう思うとゾッとする。
「千早さん、大丈夫ですか!」
「うん、助かったよ。すっごく」
 レクチェに一言返し、海水と一緒に流れる冷や汗をぬぐう。
 金属的な尻尾が勢い余って離れていくのを見計らって、近くで頭がみっつ飛び出した。
「ふーっ、危ない危ない」
「これは思った以上に命がけじゃの」
 目を回す螢の肩を持ち、ジーグとウィゼは千早と同じように額をこする。一拍遅れて、あいねも海面に浮上した。
「あーもー、なんやねんアイツ! エッラい速いんやけど!」
「だよね……あれは反則だよ」
 海の上でスポーツカー並みのドリフトをする戦艦竜。10メートルは優に超える体長を持ちながら、その速度はおそらく自家用車よりはるかに速い。それが海の中を上下左右に行ったり来たりする上に、爪や尻尾を振るって攻撃してくるのだ。
 しかも、攻撃のたびに起こる波のせいで、まるで洗濯物のように波にもまれてしまう。小柄とはいえ、巨大な両腕を持つ螢でさえ軽々と回される勢いは、潮流の手裏剣やリンのミサイルをも防ぎきる。攻撃自体の狙いが甘く、当たりづらいのが唯一の救いだろうか。
 ようやく停止したドラゴンの頭が振り返る。千早は急いで鎖を展開すると、水面に魔法陣を書きだした。
「しゃべってる時間はなさそうじゃな。来るぞ!」
 ウィゼの声を合図に、全員が海へダイブする。青い視界の先では、潮流が両手に螺旋を込めて構えていた。
 直後に、V・ガレオンも頭を突っ込んでくる。その鼻面めがけて、潮流は渦潮をたたきつけた。
 巨大なうずにのまれた竜の動きが止まる。即座に交わされるハンドサインとアイコンタクトの後、ジーグが体操服の胸部を、気を取り直した螢が両腕を変形・展開。それぞれ必殺の光線と重力弾を放つ。
 まっすぐ渦潮に突っ込んでいく光線を見送り、千早とウィゼはリンの腕に鎖とツタを巻きつける。ふたりにつかまれたリンはハンドルを回し、相方を勢いよく発進させた。
 ディノニクスは主たちを引いて急浮上。海原にイルカのように飛び出した。
「ぷはっ! さあて、準備はいいっすか、お二人とも!」
「うん、もちろん!」
「いつでもよいぞ。リンおにい、思い切り行くのじゃ」
「アイ・サー!」
 返事に重ねて、水中で爆発が起こる。足と尻尾だけ海面に出してもがくドラゴンに、巨大な光弾と一緒に千早とウィゼは、それぞれの命綱ごと投げられた。
 光弾がウロコのように並んだ発電機関にさく裂。その周囲も唐突に爆破され、金属的な尻尾が激しく水をたたく。
 激しくゆすられる背中。ドルルンと音を立てるエンジンに向かって、ウィゼは流星のごとき飛び蹴りを入れた。
 エンジンがひしゃげ、煙が吹き出す。ドラゴンは海中で一声叫ぶと、渦潮を力任せに引き裂いた。
「……っ」
 渦潮を破られた潮流が、水の中で息を飲む。ミニルクチェの群れに引っ張られる彼と入れ替わりに、『御業』の炎弾と杭状の光がスキマに割り込みドラゴンの顔を打ちすえる。
 V・ガレオンは嫌がるように頭を振ると、大きく尻尾を振りかぶる。
 暴力的な力で海をかき混ぜ、海流を作る。再び流されかける仲間たちを、ミニルクチェが力を合わせて海面へと押し出した。
「ルクチェ、ナーイス!」
「気ぃ抜いたらあかんでぇ。アイツ、結構熱烈やん」
 直後、海中からドラゴンの爪が海を割って空をかく。大の男ほどもある爪が弧を描き着水。さらには白銀の頭が、同じ軌跡をとおり、螢の腕にかじりついた。
「は、はなしてよっ! ホタルはおいしくないんだよっ!」
「螢さんッ!?」
「なにロリっ子に噛みついてんねん、この変態竜!」
 あいねが、すかさずバスターライフルの引き金を引く。重力を中和され、力がゆるんだアゴが爆発。口が離れたスキに、ヒールドローンが螢をぐいと引き上げる。焦げ臭い息を吐くそこに、潮流は影のごとき斬撃を浴びせかけた。
「これで、なんとか……」
「いーや、まだみたいだよ!」
 竜は苦しげに吠え、血のしたたる頭部を反転させる。振り返った反動で跳ね上がった太い尾が、ふよふよ漂うミニレクチェを蹴散らしていく。
 しなる尻尾を前に身構える四人。その間に、エメラルドの光が割り込んだ。
「牡牛を守護せし宝玉よ、邪を払いて我らに癒しをもたらせ! Изумруд Заслон……展開!」
 竜の尾が、リンの翠玉の防壁をしたたかに打つ。方向転換を阻まれたV・ガレオンは、頭部を斜め下に向けた体勢で動きを止めた。
「狙うなら、今ですね」
「いっくでぇー! フルボッコや!」
 見え隠れする影に向かって、あいねは凍結光線を放射した。
 竜の背で震えるエンジンごと海が凍りつく。白い氷河と化した海原を、無数の手裏剣がガリガリ削る。
「よし、ここからなら狙えそうかな!」
「行くのじゃ!」
 ブラックスライムを槍に変じたジーグと、腕の装甲からジグザグの刃を出した螢、そしてリンと一緒に飛んできたウィゼと千早がかき氷のようになった海に、勢いよく飛び込んだ。
 初撃。ジーグの槍が海に穴を開け。
 二撃。現れたエンジンの急所を、ウィゼの拳が撃ち抜き。
 三撃。千早の蹴りと螢の剣が、弱った発電機関を破壊する。
『ガアアアァァァッ!』
 怒号で海を震わせ、V・ガレオンは急速潜航。残った氷がバキバキと割れ、水が特攻をしかけた四人を巻きこんだ。
「盾となってみんなを守ってください、ヒールドローン!」
 ルクチェを模した大量のドローンが、主の命を受けて海にダイブする。数秒と経たずして、四人はバケツリレー方式で引き上げられた。
「皆さん、ご無事ですか?」
「ううぅ……ぶじじゃ、ないんだよ……」
 潮流の問いに、螢は青ざめた顔で左手を上げる。腕を覆っていた重厚な装甲はヒジから下を食いちぎられ、色白の腕がむき出しになっていた。
「うっげ。あないなでかい腕よく食えんな、あの大トカゲ。うちらもヘタしたら食われんのかいな。こわいわー」
「あいねさん! 怖いこと言わないでください! それより、潜って行きましたけど……逃げたんでしょうか?」
 ドローンで作った足場から、海面を見下ろすレクチェ。海は何事もなかったかのように凪いでいて、竜が暴れている様子はない。逃げたのならば、追うべきだろうが……。
「いや、どうやらそうじゃないみたいだ……動きが見えた! 来るよ!!」
 同じように海面をじっと見ていたジーグが勢いよく顔を上げた瞬間、水柱が突き上げた。
 天にそびえる白亜の塔から、荒々しい雄叫びとともに現れる白銀の竜。激しい騒音をまき散らす竜は、ドリルのように回転しながら、ドローンを足場にする一同に襲いかかった。
「うわあ!? リンおにい、さっきのやつもう一回じゃ!」
「お、牡牛を守護せし宝玉よ、邪を払いて我らに癒しをもたらせ! Изумруд Заслон……展開!」
 ウィゼの早口の注文に当てられ、リンは慌てて式句を唱える。再度現れたエメラルドの壁は上下から巨大な牙にはさまれ、ぎちぎち音を立てた。
 どす黒い鮮血を垂らす、竜の口。傷らしい傷のない戦艦の泣き所に、あいねはライフルを向けた。
「いよっしゃあ! 口が開いたで、このまま……」
「ちょ、ちょっと待った! ストップ、ストップ!」
「……え?」
 あいねの他、攻撃体勢をとっていた五人が千早の方を振り返る。
 そして、当の本人は、やや青くして鎖を展開していた。
「エンジン音、さっきより大きくなってる……これ、まさか……」
 ハッとした表情で、全員が竜を見る。
 当初から響いていた無機質な合唱が、いつの間にかより大きくなっている。しかも、まだ膨らみ続けているようにすら思える。
 背筋を昇る嫌な予感。竜の口の奥で何かが光った瞬間、それは明確な警鐘にすり替わった。
「ブレス、来ます! 避けてっ!」
 レクチェの忠告すらもノイズが全て押し流し。
 雷鳴が海原にこだました。

●もぎとった成果
「あー……死ぬかと思った」
「きれいなお花畑が見えました。あれは中々、絶景でしたね」
「そーなんかぁ。うちはでっかい川が見えたで。向こう岸で知らんばーちゃんが手ぇ振ってたわ。……カントク、あんたは元気そうやな」
 べしゃっ、と水音を立て、ジーグ、潮流、あいねは順番にデッキに寝転がった。
 周りでは、ミニレクチェに運ばれた他の面々も同じように倒れ込み、サポートに来たメンバーからタオルをもらったりヒールしてもらったりしている。螢に至っては、レクチェにしがみついて涙を浮かべていた。
「よしよし。螢さん、もう大丈夫ですよ。ダブルヒールドローン、いけます?」
「んっ……わかったん、だよ……!」
 展開されたドローンが、傷ついた仲間や武装をせっせと修復し始める。しばらくして、どうにか起き上がったリンが、辺りを相棒の車体をなでつつ言う。
「にしても、よく生きてられたっすよね、あっしら。バリア破られたときはホント死ぬかと思ったっす」
「まったくだよ。あとちょっと遅かったら、どうなってたかな」
 ブレスが放たれたあの時。バリアがはがされるのと同時に、攻撃の準備を終えていた五人がブレスを攻撃。残った三人で慌てて組んだ防護壁は、正面からぶつかったブレスをどうにか相殺した。
 無論、防ぎきれたわけではないし、派手に吹き飛ばされもしたが、誰一人として重傷を負わずに帰ってこれた。
「とにかく、みんな無事でなによりなのじゃ。戦闘レポートはあたしが書いておくのじゃ。何か、気づいたことはあったかの?」
 起き上がったウィゼが問いかけると、報告があれこれやってくる。攻撃のこと、気になっていたこと、新たな発見などなど。これだけで大方の目的は果たせたと言えよう。
「あー、せやせや。うち、カメラ回してん。今確認するから、ちょお待ってな」
 カントクからカメラを受け取り、画像を再生するあいね。難しい表情を浮かべているあたり、あまりいいものは撮れなかったのだろうか……そう思った矢先、彼女の眉がぴくっと動いた。
「……ん? なんやこれ」
「あいねさん? どうかしましたか?」
 潮流が声をかけると、あいねはちょいちょいと手招きをする。呼ばれるまま集まり、カメラの画面をのぞき込む。
 戦闘のせいか手ブレがひどいが、シーンとしては、ドラゴンの横っ腹をつついたところだろう。静止した画像の一点に差された指を、じっと見入る。
「……これは」
「カメラのこしょう、なの?」
 神妙な表情をする面々。その中で、ジーグは首を横に振った。
「いや、勘違いでも故障でもないよ。おいらにはわかるぜ」
 横倒しになって海に頭を突っ込む竜。その体の辺りに、ジーグはとんと指を置いた。
 そこに、映っていたものは。
「間違いない。……海が、黒ずんでる」

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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