恋する電流マシン~君の瞳に乾杯

作者:鬼騎

「みんな、集まってくれてありがとです!」
 ヘリオライダーのねむが元気よくケルベロス達を出迎えてくれる。
「こんな時期に大変な事件が起こる予知が出たのです」
 ぷぅう、と頬を膨らませ、不機嫌な表情を見せる。
「事件が起こるのは各地のデートスポット。敵はそこに訪れるカップルに狙いを定め、まずは電流を浴びせて、恋心を増幅。それからカップルを殺害する事で、カップルを合成させ一つの特殊な部品へと変換するという、とても酷い事をしようとしてるんです!」
 単に命を狙うだけでも許せないのに、ましてやカップルを狙い撃ちし、人の体を合成したり部品に変換したりするなんて。絶対許せないとねむは憤る。
「敵はダモクレスなんですけど、すっごく隠れるのが上手で、こちらがわざと電流を浴びない限り、見つける事ができないです」
 敵が狙うのはデートスポットを訪れたカップル。しかも『人間のつがい』であると判断できる関係か、あるいはそのような状態を演出できる人の参加が必要だ。
「このダモクレス達の名前は、その力から『恋する電流マシン』って呼ぶ事にしたんですけど、一か所のデートスポットに8体も潜んでます!」
 一体ずつの戦闘能力はさほど高くはないが数が多い。そのため今回の作戦では8組のカップル、あるいは偽装カップルのタッグを組んでもらい、潜伏している辺りに満遍なく散ってもらえば、全ての敵をおびき出す事に成功できるだろう。
「でね、今回この班のみんなに向かってもらうデートスポットは香川県にあるまんのう公園! 四国唯一の国営公園です!」
 普段はサイクリングやランニング、ピクニック。様々な体験ができるゾーンや季節の花なども楽しめる大きな公園だ。
「この季節になると毎年公園中がイルミネーションで飾られて、夜景がとっても綺麗なんです!」
 55万球も使われているイルミネーションは幻想的な雰囲気を作り出す。そのイルミネーションを楽しむカップルのように公園を回れば敵のお出ましだ。
「カップルらしくしてれば恋する電流を放ってきます! そしたら敵の位置がわかると思うので、そのまま敵を撃破しちゃってくださいです!」
 ぐっ、と拳を握りお願いします! と元気よく言い放つ。
「あ、ちゃんとみんなが向かった時には一般人の避難は完了してます!」
 公園内には8組のケルベロスと8体のダモクレスのみという事だ。
「恋路を邪魔するような酷い奴らは、ケルベロスのみんながしっかり倒してきてくれるって、ねむ、信じてます!」


参加者
レーチカ・ヴォールコフ(リューボフジレーム・e00565)
シャロート・ヴォールコフ(妹が好きすぎて朝も起きれない・e00987)
羽丘・結衣菜(マジシャンエルフ・e04954)
黒白・黒白(しずくのこはく・e05357)
鉾之原・雫(くしろしずく・e05492)
外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)
山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)
エルネスト・サニエ(山彦のメモリーズの紫の方・e18224)

■リプレイ

●ウィンターファンタジー
 新たに発見された修復中のダンジョン。そのダンジョンを修復するには『つがいの人間を同時に殺害して合成することで完成する特殊な部品』が必要なのだという。
 ヘリオライダーに運ばれ、まんのう公園へやってきたのは5組のケルベロスだ。敵は8体。3体余ってしまう計算になるが、おびき寄せた敵を早く倒せ、体力などに余裕があるペアが対応するという事に落ち着いた。
 冬の夜、綺麗に輝くイルミネーションの海へと思い思いの場所へ散開していった。

●女をつかむなら胃袋つかめ?!
「人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られてなんとやら、だよね」
 白偲・トウキ(こいねがう・e07431)は普段よりも服やメイクを意識した出で立ちで外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)の横を歩く。カップルのふりって事だから『可愛く』をテーマにしたのだ。
「次、向こうだな」
 ほら、と手を差し出す。なるべくカップルらしさを出すように手を繋ぐぞ、という意思表示だったが、トウキはくっついて歩いたりしたら調子に乗ってると怒られてしまうかな? など考えていたところだったので、やったぁ、とニコニコしながら手を握り体を寄せた。
 こいつも顔は美人なんだがなぁ……などと思って見つめている咒八を、トウキはをじっ、と見つめ返し口を開いた。
「ねぇ、しゅーやくん。お腹、空かない?」
 2人の距離が近いせいで盛大に鳴ったお腹の音が咒八の耳にダイレクトに届いた。幼なじみ兼同居人。そういった間柄なせいなのか、食欲旺盛なトウキの胃袋はがっちりと咒八に掴まれてしまっているようだ。
 するとその時、耳につく機械音が聞こえたと思ったら2人の体に電流が走った。
「っそこか!」
 咒八はすぐさま敵の位置を把握する。二本のライトニングロッドを輝くイルミネーションに突っ込み莫大な雷を流し込んだ。付近のイルミネーションはショートし、光が消える。するとイルミネーションに隠れていた恋する電流マシンの体が露呈した。
「しゅーやくん頑張って!」
 トウキは咒八と同じくライトニングロッドを手にし、電流を飛ばす。それは攻撃ではなく、電気ショックにより戦闘能力を向上させるエレキブーストだ。
「トウキは下がってるんだ。心配だからな」
「しゅーやくん……!」
 さらっと口に出たのは普段口にしない幼なじみを心配する言葉だ。そんな言葉にトウキも思わずときめきを感じる。これが恋する電流の効果なのだろうか。
「ったく、ろくでもねぇ技使いやがって!」
 思わず口をついた言葉に本人自体も気恥ずかしさやら何やらを感じながらロッドを振う。攻撃はほぼ直撃確実、威力上昇のサポートもある。前線で戦ってきたケルベロス2人にとって、恋する電流マシンは見つけてしまえば大した敵では無かったようだ。苦戦する事もなく、簡単に撃破する事ができた。

●山彦のメモリーズ
「えへへ、ほしこさん、よろしくね♪」
 ギュッと恋人繋ぎで手を繋ぐのはエルネスト・サニエ(山彦のメモリーズの紫の方・e18224)と山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)のカップルだ。この2人、男同士での組み合わせなのだが、なぜだろうか。女同士にしか見えない気もする。
「おらたちの迫真の演技と、くしろんと雫っちのどっちが早く釣れっかね」
 同じ作戦に参加している知り合いのカップルを思いながら2人は目的の滝がある丘へと到着する。ここはライトアップされた滝とイルミネーションが美しく輝く絶景スポットだ。
「さにえん。見て! 滝だっぺ♪」
 ほしことエルネストが滝を前に手を繋ぎながら会話をしていると突如ビリリと2人の体に電流が走る。
「っ!ほしこさんっ!」
 エルネストは両手に宿した純白と真紅の対になった蓮を操り迎撃体制に移行する。
「おらとさにえんのコンビネーションの前には敵なしだっぺ!」
 2人は恋する電流マシンに臆する事なく立ち向かう。正確には後1人、ビハインドのノーワルも居るが。
「機械でも気にしない……喰らうよ!」
 攻性植物の捕食形態をアレンジした技で恋する電流マシンに強烈な一撃を加える。すかさずほしこはグラビティを込めた歌をおみまいする。
「ふりまけ飛沫、ねばれよ大蛇! 十ある瀑布も結氷よ☆ 夜空に散ったマイナスイオン!」
 見事に歌い上げ、恋する電流マシンに止めを刺した。その瞬間、一時間に一度しか流れないという滝が壮大な水音を立て、流れ落ち始めた。
「わぁ、とっても綺麗……」
「わ……キレイ……」
「けど、ちょっと寒い、かも。あっためてもらって、いい?」
「え、あ、う、うん……ボクも、寒かった……」
 ほしこのお願いにドキドキと顔を赤らめながらも寄り添い、エルネストは肩を抱き寄せる。すでに敵は誘き寄せた。これは恋する電流の効果なのだろうか。
「あ、次のも倒しにいかなきゃだよね」
 2人はドキドキする思いを押し殺しながらキュアをかけ、場所を移動する。すでに恋する電流マシンの効果は切れているのに、余韻からか、手を繋ぐだけでドキドキしてしまう。
 初々しい恋人のような仕草に見えたのだろうか。移動からすぐに2体目の恋する電流マシンが釣れる。すでに能力は把握済みの2人には脅威のない木偶人形のようであった。
「……ご、ごめん……ボク……ボク……ッ!」
 戦闘が終わった後、恋する電流マシンを短時間に二度も受けたからなのか、エルネストもほしこも昂揚し見つめ合う。
「ええだか……さにえん、おらの夢、支えてくれて、ありがと……」
 輝くイルミネーションに映し出された2人のシルエットは自然と重なっていく。

●柔らかな手を握り
「それじゃあノーフィアちゃん、公園回ろう?」
 羽丘・結衣菜(マジシャンエルフ・e04954)はにっこりと笑い、ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)の手を引いてイルミネーションで飾られた園内を歩き始める。
「ふふ、ちょっと寒いし、こうすると暖かいよ」
 ノーフィアは結衣菜と繋いだ手をコートのポケットへと誘う。自然と近くなる距離は互いの体温を感じる距離だ。
 幻想的なイルミネーションが一面い広がる広場に到着する。すると結衣菜はノーフィアの両手をぎゅっと握り、目を見て口を開いた。
「ノーフィアちゃん、大好きだよ」
 じっと見つめる瞳は熱を帯び、年の差とか関係ないんだという強い意志を込める。
「ありがとう」
 ノーフィアは結衣菜の言葉に、にこりと微笑み返す。私も好き。どちらかというと妹のような感じだけれども口には出さない。それでもまっすぐな視線には照れるものがある。
 その様子を見て敵がお出ましだ。ガサガサと草木をかき分ける音と共に、電流が2人の体にほとばしる。敵のお出ましのようだ。
 ノーフィアはゾディアックソードを手に結衣菜を庇うように前に出る。結衣菜やボクスドラゴンのペレも素晴らしい連携をとりながら敵にダメージを与えていく。
「音も、光も、そして拍手も無いマジックショーの開幕よ」
 そう結衣菜が口にすると一瞬のうちに姿が搔き消え、次に姿を現したのは恋する電流マシンの背後。最後の止めを刺した時だった。
 互いに怪我がひどく無いか確認し、キュアをかける。一息着くと、ノーフィアがこう提案した。
「よし、折角だしこのままぐるっと回ってみよっか」
「うん、まだ倒し漏れがあるかもしれないし、デート続行しよ!」
 一度恋する電流の効果を消し、公園をさらに奥へと進んで行く。次皆で来るとしても今は2人だけだね、そんな会話を交わしながら進めば再び恋する電流を飛ばし、襲い掛かってくる恋する電流マシンを発見する事ができた。
 2人と1匹は無駄のない動き、まさにスマート&クールに戦闘を決めてくれた。
 結衣菜は思う。背も歳も差があるけど、今感じているこの幸せは演技なんかじゃないと。恋する電流によって、心が躍る感覚に頬を赤らめながら結衣菜はノーフィアに伝えた。
「ノーフィアちゃんとのデート、とても楽しいよ、ありがとう!」


●愛の囁き
 闇のなか光り輝くイルミネーションをベンチに肩を寄せ合い座り、敵を待つのは黒白・黒白(しずくのこはく・e05357)と鉾之原・雫(くしろしずく・e05492)だ。
 コハクとデート……て、敵さんを倒すのが目的なんだからっ! ぇぅ、でもでも……
 そんな事を考えながら雫は敵を誘き寄せるための会話を交わす。
「えへへ、コハク。見て見て? すっごく綺麗だよ?」
「ん……ホントッスね。……でも雫の方が綺麗だよ?」
 寄りかかっている彼女を静かに抱き寄せ、黒白は耳元で囁く。
「雫……愛してる」
 本来ならば人でごったかえすようなデートスポットも今は2人っきりの世界。いい機会だからと黒白は考え、存分に雫との空間を満喫するつもりでいた。
 すると闇に光をほとばしらせ、恋する電流が2人に直撃した。ドクリ。打たれた途端、2人はときめきが溢れ、心臓が跳ね上がる。
「コハク……、コハク……! 依頼なんてどうでもいいっ! このままがいいっ! 好きなのっ!!」
 愛おしくて堪らない。離れたくない。雫は黒白を見つめ、動けずにいた。この熱が離れていくなんて堪らない。
 いつもよりもより近く、強く求める恋人の姿に黒白の理性が揺さぶられる。暗闇からぬらりと近づいてくる敵をわかっていながらも、その体を強く抱きしめた。
「……っ! 雫!」
 カチリ。何かのスイッチが押される音がすると、近づいてきていた恋する電流マシンの足元で爆発が起こった。黒白がなんとか理性で立ち直ったのだ。
「よくも甘やかな時間を邪魔してくれたッスねぇ!?」
 立ち上がり戦闘体制へと移行する。雫には指一本も触れさせないと気合を入れる。
「いいところだったのに! 許さないっす!」
 雫もいい雰囲気を台無しにされて怒り心頭だ。
「イグニションッ!」
 黒白は体に獄炎をまとわせ、敵を殴りつける。戦う黒白の姿に雫は見惚れながらも戦闘には集中し、一気に敵を撃破した。
 倒してしまえば次の敵を探すためにも恋する電流を一度キュアし、移動しなければならいのだが……。
「この気持ちをリセットしたくないよ……コハク……大好きなの……どうしよう……」
 うるっとした瞳で黒白を見上げる。
「雫……自分もッスよ。もう少しだけ、このまま……」
 ゆっくりと抱き寄せ、体を密着させる。
 熱愛カップルの見本のような2人はしばらくの抱擁を楽しんだ後、まだ見つかっていない敵がいるとの事で辺りを練り歩いた。これでもかとイチャイチャした2人にダモクレスが釣れるのはあっという間だった。もちろん再び邪魔され怒り心頭な2人にあっという間に溶かされてしまった恋する電流マシンであった。

●月と太陽
「か、勘違いしないで! 他にお願いできる人がいなかっただけなんだからね!」
 そう口にしながらレーチカ・ヴォールコフ(リューボフジレーム・e00565)は兄、シャロート・ヴォールコフ(妹が好きすぎて朝も起きれない・e00987)の腕にひっつくように園内を歩いていた。
「うん。ねぇ、ちょっとしたティータイムにしないかな?」
 座り心地の良さそうな芝生にあたりをつけ、シャロートは持参したシートを広げる。
「え? ここで? 流石に今はそれどこじゃあ……」
 すっ、と持参したサンドイッチと紅茶のポットを見せる。
「サンドイッチ! 食べる食べる! 紅茶もあるならいう事なしね!」
 そわそわと兄が用意したシートに座りサンドイッチと紅茶を受け取り食べ始める。
「……ねぇ、なんだかちょっとシート狭くない? まぁ、暖かくて丁度いいけれど……」
「ふふ、ほっぺたにパンくずついてるよ」
 そう言いながらシャロートはレーチカの頰を撫でる。
 無類のパン好きである妹が断れるわけもなく、シートが小さいのは密着するため。すべて計算尽くであるシャロートは無類の妹ラブなのである。
 用意されたパンと紅茶を一通り味わったあともぴったりと寄りそう姿はまるで恋人のように見えただろう。
 暗闇がチカリと光ると2人の体に電流がほとばしる。
「……っ! そこね!」
 闇夜に紛れるブラックスライムを駆使し、レーチカは電流が飛んできた方角へ攻撃を仕掛けた。
 シャロートも負けじと獣撃拳を放ち攻撃を行う。手応えがある。レーチカに飛んでくる攻撃はすべて気合でシャロートが請け負い、今だというタイミングがやってきた。
「レーチカ、やろう! 君に届け、太陽のブーケ!」
「はい、お兄様! 届け、月のコローラ」
 2人の心を糧に咲く花々により集めた命の力が二色の光線へと変化し、恋する電流マシンに止めを刺した。
 それはさながら社交ダンスのように美しくしなやかな様相であった。
 シャロートはレーチカの腰を抱きながら空を見上げる。
「レーチカ、月と太陽が僕たちを祝福してくれてるみたいだね」
「今は月しか出てないわよ……でも、綺麗な月ね。その、お兄様、いつも冷たく当たってごめんね……」
 それは恋する電流の効果だったのか、月の魔力だったのか。
「……大好き」
 微笑む顔は月明かりに照らされて美しく輝いた。

作者:鬼騎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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