恋する電流マシン~添い遂げ症候群

作者:真鴨子規

●デッドマリッジシンドローム
「うん、よく集まってくれたね、ケルベロス諸君。ああ、まずはこう言った方が良いのかな? メリークリスマス」
 微笑みを浮かべながら現れた宵闇・きぃ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0067)は、早速事の説明を始める。
「城ヶ島にあった螺旋忍軍の拠点から持ち出されようとしていた秘密文書の奪取に成功したことは知っているね? 解読された文書から、『体内に残霊発生源を内包した巨大ダモクレスの残骸』の所在が明らかになった。つまるところ、新たなダンジョンが発見されたということだね」
 螺旋忍軍が隠し通そうとした秘密の場所だ。ダンジョンの発見がここまで遅れたのも無理がないと言える。
「このダンジョンは日本各地に散った部品回収用のダモクレスによって、今まさに修復されようとしている。わざわざ専用のダモクレスが動いているのも道理でね。修復には特殊なパーツが必要なのだとわかった。そのパーツというのが……」
 きぃは一旦言葉を切ると、聴衆が耳をそばだてているのを満足そうに眺めてから、再度口を開く。
「『つがいである2体の人間を同時に殺害して合成させた特殊な部品』なんだそうだ。詳しい仕組みはよく分かっていないんだが、要はこういうことだ。そこらのカップルに対し、部品にふさわしい精神状態にする電流を浴びせ、その直後に殺す。そうすることで、2人の死体を、ダンジョンを修復できるパーツへと変化させられる訳だ」
 添い遂げる覚悟を持った2人を強制的に添い遂げさせるという案配だ。
 なかなかおぞましい話だね、ときぃは微笑んで言った。
「部品回収用のダモクレス――以後は便宜的に『恋する電流マシン』と称する――は、その戦闘能力自体は大したことがなく、おおむねケルベロス2人分と等価と考えて欲しい。だが隠密性が高く、ターゲットである『人間のつがい』がいなければ決して姿を見せない」
 つまり、ケルベロスがカップルないし偽装したカップルとして現場で振る舞うことで、敵を発見できるという訳だ。
「敵の数は8体、それぞれ単独行動をしているようだ。ならばこちらは8組のカップルで挑むとしよう。それでちょうど互角に戦うことができるだろう。なんとかして、8組のカップルを作ってくれ」
 非常に気軽く、きぃはにっこりと笑顔でそう言った。
「あ、そうそう。恋する電流マシンは『バスターライフル』のグラビティを扱うほか、『恋する電流』を攻撃技として使ってくる。特殊な攻撃だから充分に注意して欲しい」
 言ってから、きぃはサイドテーブルから旅行雑誌を拾い上げると、おもむろにページをめくりだした。
「さて、カップルを装うからには、カップルがいそうな場所を選ばなくてはならないね。というわけで、ここなんかどうだろう。岐阜県にある『木曽三川公園センター』。今は『冬の光物語』というイベントをやっているようだよ。是非夜に行こう。イルミネーションに彩られたデートスポット、まさにカップルがいるに相応しい場所だと思わないかい?」
 きぃは雑誌のページを指差して言った。なにやら楽しげだ。
「うん、なんだか面白くなってきてしまったが。あくまで今回は、カップルを殺害してダンジョンの部品にしようなどという不届きな輩を懲らしめるという任務だ。相応の覚悟を持って挑んでもらいたい。
 さあ、では発とうか。この事件の命運は、君たちに握られた!」


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
ヴィヴィアン・ローゼット(ぽんこつサキュバス・e02608)
神喰・杜々子(どらごにーと・e04490)
ソフィア・フォーチュン(ウィッチクラフト・e09629)
柊真・ヨリハ(螺旋のトロイメライ・e13699)
駿高・護玖(優月へ舞う白梟・e14946)
妹島・宴(サキュバスのウィッチドクター・e16219)
フェルミリス・アウレティア(精霊王女・e21909)

■リプレイ

●光降る夜に
 岐阜県海津市にある国営庭園『木曽三川公園センター』。四季折々の花で彩られる大花壇は、日没後には眩いばかりのイルミネーションが光り始める。『冬の光物語』と呼ばれるその光景は、まるで空の星々が降りてきたかのように視界一面が輝きに包まれ、幻想的な世界観に身を委ねることができる。
 今期のテーマは、日本昔ばなし。入り口のゲートをくぐった先で光の群れが形作るのは、鬼の跋扈する山であったり、乙姫の住まう城であったり、一寸法師の旅した川であったりした。
 庭園を訪れた人々は、誰もが慣れ親しんだ童話の世界へと、誘われるのだった。

「わ、わー、すっごい綺麗だね、鬼人ちゃん」
「あ、あぁ、そうだな、ローゼット」
 ぎこちなく腕を組む2人組、ヴィヴィアン・ローゼット(ぽんこつサキュバス・e02608)と水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は、イルミネーションの川の側を歩く。
 2人して頬を染めているのは、イルミネーションに照らされているからではないが、初々しい恋人同士だからというわけでもない。気恥ずかしさで知らず足下がふらつく。くっついているようで2人には微妙な距離があるようにも見える。
 今回の作戦は、人間のつがいの殺害を目論むダモクレスを撃破することを目的とする。そのためにカップルが募られたのだが、今回この木曽三川公園を訪れたケルベロスたちは、そのカップルを作るのに大分手間取っていた。結局出来たカップルも、8組必要なところ5組のみだ。連戦を避け得ない組み合わせとなったのは正直痛手であった。
 しかし、と鬼人は抜け目なく視線を配る。
 連戦も面倒事も覚悟の上だ。人間で部品を作るなどという悪趣味極まる敵はなんとしてでも打倒する。鬼人の瞳にはその意志が宿っていた。
「ね、もっとくっついてよ鬼人ちゃん」
「はは……これで勘弁してくれ」
 ヴィヴィアンの言葉に苦笑いで返す鬼人。
 その瞬間だったから、彼らの後ろに黒い影が現れたことに鬼人が気付いたのは、一拍置いてからだった。
 2人の間を、高圧電流が流れる。それ自体は致死性のないものだったが、その衝撃に2人は思わず飛び退いた。
 現れたのは、ロボットとしては随分と簡易的なダモクレス『恋する電流マシン』だった。頭部と思われる部位に砲塔を持ち、両腕は電流を流すための双極となっているが、それ以外に何かしら役目を持ちそうな部品は見当たらない。背骨にあたるパーツも一見して脆そうな鉄柱があるだけで、脚部も申し訳程度についたか細いものだった。ケルベロス2人分の戦力という言葉すら疑わしくなる姿である。
「交戦(エンゲージ)。ローゼット、全員に連絡を」
 それでも、鬼人は油断をしない。外見など、戦闘能力とは関係ないのだ。鬼人は自身に気力溜めを放ちながら、ヴィヴィアンに指示を飛ばした。
「鬼人ちゃんの背中を見てると守られてるような気がしてドキドキする……」
 ずるりと鬼人はこけた。
「って何言ってるのあたし! これは電流のせい! 違うんだからね!」
 鬼人が振り向くと、ヴィヴィアンは慌てて取り繕い、片手でスマートフォンを操作していた。
「ああ、こういうことなのか。こっぱずかしいわ」
 鬼人は『恋する電流』の威力に呆れかえりつつ、無名の斬霊刀を引き抜いた。

●大ダメージ
「ソフィアさんは、ころころと表情が変わりますね。本当にずっと、見ていられます」
「そそ、そんな恥ずかしい台詞よく言えるよね!? あれなの? サキュバスだからなの? あ、あう、あうあう……」
 完全に落としに来ているとしか思えない妹島・宴(サキュバスのウィッチドクター・e16219)に、ソフィア・フォーチュン(ウィッチクラフト・e09629)は思わず顔を手で覆った。
「宴くん、顔が近いっていうかぁ……。そんな風に見つめられたらそわそわしちゃうよ」
「すみません、視力が悪いもので。思わず見つめてしまうんですよ、ソフィアさんの顔も」
 宴に無遠慮に見つめられるも、ソフィアは不快には思わなかった。しかしそのこと自体が問題だ。このままでは敵と出会う前に大ダメージを負いかねない。
 ほんの少し身動きしただけで、唇が触れあってしまいそうな位置に2人はいた。
 そのとき、がさり、と背後で音がした。
 ソフィアは照れ隠しに思いっきり振り返ると、必殺の『スタン・ウェーブ』を撃った。目に見えぬ精霊の力を借りた攻撃は見事敵を捉え、先制打撃を与えることに成功した。もしも後ろにいたのが迷い込んだ一般人だったりすると目も当てられないが、それもご愛敬である。
「宴くん、みんなに連絡お願い!」
「分かりました。さっさと倒して、次に行かなくてはいけませんからね」
 宴が端末を操作するのを目の端で確認してから、ソフィアは追撃に走った。
 倒れていた敵は起き上がりざま、銃口から破壊の魔法光線を放つ。
 ヴィヴィアンのボクスドラゴン『アネリー』がそれを受けると、ソフィアは更に前進し、簒奪者の鎌を振るう。
 虚の力が空を切り裂き、恋する電撃マシンを両断したのだった。

●交戦
「あ、また連絡来たよヨリハ。宴さんたち交戦したって」
「おー、いよいよ続々だねぃ」
 神喰・杜々子(どらごにーと・e04490)と柊真・ヨリハ(螺旋のトロイメライ・e13699)もまた、公園内を手を繋いで散策していた。
 普段は服装になど気を配らない杜々子だが、カップルを装うということで多少気合いを入れて、いい値段のするコートなどを羽織っていた。着心地の良さは想像以上で、思わず眠りたくなるほどだった。
「あれ、そこの茂み、何か動かなかった?」
 杜々子が指差す先から、突如として恋する電流マシンが姿を現し、2人に迫ってきた。
 2人は慌てて手を離し、攻撃を回避する。
 かわしざま、杜々子は敵に掌底を見舞った。
 恋する電流マシンは派手に転倒し、再び茂みの中へと消えていった。
「こっちも交戦っと。おっけー杜々子、ピンチになったら救援要請出すから、思いっきりいっちゃっていいよぅ」
「りょーかい」
 杜々子はぐるんと肩を回して周囲を見渡す。
 隠密性能が高いというだけあって、敵は自分の位置を悟らせないが、どこかにいる気配はしている。
 最初は杜々子も敵を探そうと努力していたが、すぐに面倒くさくなって、
「いいやもう。さっそく本気出すぞー!」
 勘で敵の位置に当たりをつけると、その周囲に『極光のドラゴンブレス』の強烈な冷気を浴びせ掛けた。
「お、当たった」
 茂みに隠れていたため逆に逃げ場のなかった恋する電流マシンは、それだけで致命的なダメージを負ったのだった。

●共犯
「早速現れましたね! いいでしょう――氷の翼撃から逃れられるかな!」
 駿高・護玖(優月へ舞う白梟・e14946)は飛び退きながら、空を駆ける斬撃を撃ち放つ。
 奇襲を掛けた恋する電流マシンは弾き飛ばされ、木をモチーフにしたイルミネーションにぶつかって倒れた。
「真萌里さん、追撃を――」
「真萌里だ」
 は? と護玖は我知れず振り向いた。
「護玖と呼ぶから真萌里と呼べ」
「え、ええ。いいですよ、真萌里。頑張っていきましょう」
 なんとも言えない空気に苦笑いする護玖。まさかの本物カップルゼロというこの木曽三川公園組である。ぎこちない雰囲気は如何ともし難かった。
 隙とも言えるその間を縫って、恋する電流マシンが電極を振りかざす。
 真萌里は敵の攻撃をリボルバー銃で受け止める。青白い電気が迸り、イルミネーションに負けず火花のような光を散らす。
「真萌里っ!」
 護玖のウィッチオペレーションによる打撃が電流を中和し、ダメージを和らげる。
 そして真萌里が深く一歩を踏み込む。色とりどりの光に照らされた桜花が舞う斬撃『嘉宮式桜花斬撃』。その一撃で片方の電極が砕け散った。
「これで――とどめです!」
 再び、凍て付く斬撃『白梟流術式白魔』を護玖が放つ。
 息も吐かせぬ苛烈な連撃によって、恋する電流マシンは鉄塊へと還ったのだった。
「ありがとうございます、真萌里」
「礼はいい。まだ全て倒せたわけじゃあないだろう」
 それでも、と護玖は笑みを浮かべた。
「今日はお礼になにか奢らせてくださいね。……また何かあったら共犯者になって頂けますか?」
 ふむ、と真萌里は考える仕草をしてから、
「今日だけは最後まで付き合ってやろう、共犯者様」
 2人のデートは、もうしばらく続くようだった。

●絆のパルス
 電撃による奇襲を受けたフェルミリス・アウレティア(精霊王女・e21909)は、同伴者の鏑城・鋼也(鎧を持たぬ鎧装騎兵・e00999)にエレキブーストを掛けた。
「はっ! こう電流ばかり浴びせられていると気分が高揚してくるな!」
 鋼也は不敵に笑いながら、リボルバー銃のトリガーを引いた。
「頼もしいね! 私がサポートに回るから、フロントはお願いするよ、私の騎士様っ!」
「君の為なら、この身を喜んで盾にしよう!」
 そんな芝居がかった台詞が飛び出すのも、敵のもたらした攻撃が原因だ。だがそれすら活力として戦う2人にとって、それは最早バッドステータスとは言えないものだった。2人を繋ぐ電流(パルス)が、そのまま力に変わっていく。
「困難なミッション、でも関係ない! 人間を部品に変えるなんて、絶対見過ごせないんだから!」
 フェルミリスの持つライトニングロッドから雷が迸り敵を討つ。
 更に畳み掛けるように、鋼也の持つありったけのグラビティ・チェインを込めた縛霊手でもって、恋する電流マシンを粉砕する。派手な音が鳴り響き、細かな部品が飛び散った。
 完全勝利を確認してから、フェルミリスは鋼也と拳を合わせたのだった。
「ホント、突然なお願いだったのに引き受けてくれてありがとね、鋼也」
「少し肩が凝ったがな」
 それでも楽しめたと、鋼也は満足げに笑みを浮かべた。
「私も、偽装でも楽しかったよ。またエスコートしてね!」
「そうだな」
「うんっ。次はどこに連れて行ってくれるのかな?」
 イルミネーションに囲まれて、2人は並んで、また歩き出した。

●殲滅戦
「あっちあっち! 鬼の顔のあるところ!」
「おおっと、出くわしちゃったねぃ。へい、メリークリスマス!」
 杜々子とヨリハが2体目の敵ともつれ合って辿り着いた広場には、既にもう2体の恋する電流マシンが味方と戦っていた。
 味方側は鬼人とヴィヴィアン、ソフィアと宴のペアだ。いずれも最初の敵を倒し、2戦目に突入したところだった。
「チャットアプリの情報通りなら――この3体で最後か!」
「おっけー! 鬼人ちゃん、頑張ろう!」
 敵の攻撃を鬼人が抑え、その間にヴィヴィアンの猟犬縛鎖が敵をがんじがらめにする。
「さあ一緒に行こう、手と手を取って! みんなの気持ちが集まれば、迷いも恐れも吹き飛んじゃうよ!」
 ヴィヴィアンの歌い上げる『空に輝く七色の交響曲(シンフォニー)』が前衛を鼓舞し、敵を追い立てる。歌声はイルミネーションの輝きと調和して、更にその効果を増したようにさえ思えた。
「我流剣術『鬼砕き』、食らいやがれ!」
 鬼人の放つ鬼砕きは、刹那の三連撃と刺突を組み合わせたオリジナルグラビティだ。
 刺し貫かれた胴体が千切れ飛び、敵の上体が飛翔する。
「6体目!」
 ヴィヴィアンが声を上げて高らかに宣言した。
「押し切るよ、ヨリハ!」
「おーらい杜々子、総力戦なんじゃ~」
 テンションも高く、2人は攻撃を合わせる。杜々子の『極光のドラゴンブレス』、ヨリハの『シュツルム・シャッフング』、氷と竜巻、2つの息吹はブリザードと化し、敵を粉々の氷塊へと成した。
「7体目だのぅ!」
 ヴィヴィアンにつられ、ヨリハも声高にカウントする。
「折角ロマンチックな名前なのに、人間を部品にするなんて、エグすぎるんだよ!」
 ソフィアは簒奪者の鎌を敵に叩き付ける。
 電極の1つにヒビを入れるも、その攻撃は受け止められ、砲口がソフィアを狙い澄ます。
「やらせません。ソフィアさんを落とすのは、僕の役目ですからね!」
 下段に滑り込んで砲塔を弾き、宴は敵の弾道を遙か上空へと逸らした。
「8体目! これで最後だよ!」
 終わりを告げるソフィアのギロチンフィニッシュが縦一閃、恋する電流マシンを真っ二つに斬り伏せ、最後のダモクレスがその活動を停止した。

 その勝利を祝うように、空高く花火が打ち上がった。イルミネーションに負けず輝く天空の花々に、各々が感嘆の声を漏らす。その頃には、この木曽三川公園に来ていた10人全員が、同じ広間に集っていた。
「次回があれば、本当のパートナーと来たいものです」
 護玖の呟きに、全員が心の中で同意したのだった。

作者:真鴨子規 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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