恋する電流マシン~光の森のページェント

作者:八幡

●恋する電流マシン
「デートスポットに潜伏するダモクレスによって、事件が起きるようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はケルベロスたちの前に立つと話を始める。
「このダモクレスは、デートスポットを訪れる男女に対し、恋心を増幅させる電流を浴びせることにより部品に相応しい精神状態にした後に殺して、部品としてしまっているようです」
 死んでもずっと一緒と言うのはある意味浪漫ではあるが、無理やりに殺され、その上良く分からん部品にされるなど無粋の極みと言えよう。

「このダモクレスは、戦闘力は高くありませんが、隠密性が高く、ダモクレスの電流を浴びせられない限り、発見することが出来ません」
 セリカは許せないなと呟く、ケルベロスたちの様子に頷き、先を続ける。
「つまり、ダモクレスが『人間のつがい』であると判断するような関係性のある者たちか、一時的にでも、そのような状態を演出する事ができるケルベロスが作戦に参加する必要があります」
 『つがい』……つまりは恋人か夫婦か、仮初であってもそういう行為をするのに抵抗の無い程度には親しい者たちの協力が必要と言うことだ。
 なかなかにハードルの高い参加条件だが、これを期に気になるあの人との関係を深める好機と取れなくも無い……無論、相手の同意が必要だが。
「このダモクレスの名前は、その能力から『恋する電流マシン』と仮称します」
 挫折や希望などの思惑が入り乱れるケルベロスたちへ、セリカは冷静にダモクレスの名前を告げた。ちょっと懐かしい感じのする名前であるが、解り易くて良いだろう。
「一箇所のデートスポットには、8体の『恋する電流マシン』がいるため、8組のカップル或いはカップルに偽装したケルベロスが満遍なく捜索する事で、全ての『恋する電流マシン』を破壊する事が可能でしょう」
 要するに8箇所に散らばっていちゃいちゃしてダモクレスを誘い出し、愛の力で撃破して来いと言うことだ。
「皆さんに向かってもらいたいのは、国営アルプスあづみの公園です」
 国営アルプスあづみの公園といえば、この時期イルミネーションが美しく、デートスポットにはもってこいの場所だ。
 魔法木や魔法の回廊、魔方陣などと名付けられたイルミネーションの数々は親子連れでも楽しめるものだが、恋人同士ならばまた別の趣のあるものである。
 また、それらを少し離れた森の中から見つめるのもまた良いものである……だが、木々を活かす形で配置されたイルミネーションであるが故に、身を隠す場所もかなりある。
 つまり、ダモクレスが身を隠すにはうってつけの場所ともいえる。
「はい、隠れる場所が多いため、探し出すのは困難です。しかし、公園内でカップルらしくしていればダモクレスが『恋する電流』を浴びせかけて来ます」
 思案するケルベロスたちへセリカは言う……カップルとして誘き出し、『恋する電流』とやらを受ければ敵の居場所も解り、戦いに持ち込めるのだと。
 一通りの説明を終えるとセリカは、
「恋人たちを殺して部品に変えるなんて、許せません。必ずダモクレスの計画を阻止してください」
 真っ直ぐにケルベロスたちを見つめ、後のことを託した。


参加者
霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)
ネル・アルトズィーベン(蒼鋼機兵・e00396)
萃・楼芳(干常の青・e01298)
結城・翠春(アメトリン・e02044)
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
ラギア・ファルクス(白亜の翼・e12691)
隠・かなめ(霞牡丹・e16770)

■リプレイ


 吐いた息が白い煙となり、星空輝く空へと消えて行く。
 地上の熱全てが、その星空へと吸い込まれているような、そんな錯覚すら覚えて……アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩聯・e03755)が肩を震わせると、
「寒いか?」
 アリシスフェイルの顔を横から、霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)が覗き込んでくる。奏多の表情は何時もと変わらない何処と無くそっけないものだったが……アリシスフェイルは思わずその青い瞳から視線を逸らしてしまう。視線を逸らした先には、光の帯びのようにイルミネーションで飾られた長い道があった。満天の星空に続くかのようなその道には、今は奏多と自分の姿しか無い。この場所を選んだのは奏多なのだ……つまり、それは人の居ない場所に自分を連れ出そうとしたと言う事で……。
「冷えてるな」
 『つがい』として見えなければならない、今回はそう言う仕事だから、奏多の行動に深い意味は無いのよ……と、葛藤するように小さく頭を振ったアリシスフェイルの頬に奏多はそっと掌を当てる。触れた掌に一瞬身を震わせたアリシスフェイルだが、すぐにその手のぬくもりに身を委ねるように瞳を閉じた。
 アリシスフェイルの態度に若干の緊張を感じ取った奏多は、仔細を確認するように顔を近づける……長い睫毛、丹精な顔立ち、掌に委ねられたアリシスフェイルの桜色の頬は絹のように柔らかく、後ほんの少し顔を近づければ、その全てを手に入れてしまえそうで……奏多は大きく息を吸い込み顔を離すと、替わりに彼女の肩へ手を回す。
「こうすりゃ温かいだろ」
 そして、抱き寄せられて奏多の胸に顔をうずめる形となったアリシスフェイルへ問いかけると、
「かなくんが、触ってくれたから……それだけで熱くなってしまうのよ……」
 普段よりも幾分上気した顔で、奏多を見上げるアリシスフェイルの金色の瞳はイルミネーションの光に儚く揺れて、それはとても魅力的で――、
『ガガ』
 唐突に、奇怪な音と共に電撃が二人の体を貫いた。刺すような痛みと共に心の底より湧き出た感情は、このまま離れたくないと言う単純なものだった。アリシスフェイルは幾分名残惜しそうに奏多から体を離すと電撃を放った元凶……つまりはイルミネーションの隙間に紛れ込むように隠れていた、恋する電流マシンへ鋭い視線を向ける。
 そして左手の人差し指で電流マシンを指し示すと、そこから敵を侵食する影の弾丸を放った。影の弾丸の直撃を受けイルミネーションから弾かれるように後方へ飛んだ電流マシンの真横へ奏多は一足で踏み込むと、その頭部へ卓越した技量からなる達人の一撃にも似た蹴りをねじ込んだ。
 頭部への蹴りをまともに受けた電流マシンはガチャガチャと耳障りな音を立てて転がりながらも、バスターライフルから魔法光線をアリシスフェイルへ向けて発射するが……魔法光線など意に介した様子も無くアリシスフェイルは二振りの斬霊刀を手に電流マシンへ直進する。
 共に前線に立って戦う事は滅多に無い。しかし、奏多の次の行動を察する事は出来た。
 そして、信じたとおりに自らを盾に電流マシンとアリシスフェイルの間に割り込んだ奏多の横を駆け抜け、アリシスフェイルは両手の斬霊刀から霊体のみを斬る衝撃波を放つ。放たれた衝撃波は違わず電流マシンを切裂き――小さな破裂音を残して、電流マシンは四散して消滅したのだった。

 受けた傷は大した事もない。奏多は小さく息を吐くと、次の目標を探そうか? と、アリシスフェイルへ手を差し出す。
「かなくん……わたし、一緒にこんなきらきらした景色見れて、とても嬉しい」
 しかし、その手をとったアリシスフェイルは、そのまま奏多の胸へ飛び込みやや陶酔した顔で見上げてきた。
「まだ電流の効果が残っているのかな?」
 その表情にほんの少し躊躇いながらも奏多が問いかけると、アリシスフェイルは奏多の背中に手を回して応えた。
「……そうか、それならもう少し休もう」
 奏多はアリシスフェイルに目を細めると、その華奢な肩へ優しく手を回す。
「……うん」
 何時に無く近にある鼓動はとても穏やかで……周囲で輝き続けるイルミネーションに囲まれ、二人はお互いの体から感じる温もりに暫しの間、その身を委ねた。


「はい、あーん」
 隠・かなめ(霞牡丹・e16770)は並んで歩く、トライリゥト・リヴィンズへ串に刺した焼マシュマロを差し出した。しかもそれは食べかけのマシュマロ……浪漫溢れる一品だが、
「食べかけ?!」
 繋いだ手から明らかに動揺したトライリゥトの声が、かなめの脳に伝わってくる。そもそも繋いだ手の感触もマシュマロみたいなものなのだ、その上にあーんだなんて健全な少年には刺激が強すぎたのかもしれない。
「え? 恋人同士ってこう言う事をするのでは? 要らないなら自分で食べます」
 トライリゥトの反応に、何か間違えました? と、かなめは首を傾げた。手を繋ぐときに演技だからな! とやたら念を押してきていたトライリゥトだったが、どうも自分よりもこの様な事に慣れているっぽい雰囲気をかもし出していたのだ。そんなトライリゥトが言うなら、これはあまり恋人同士の行為ではないのかもしれない。
「い……要らないとは言ってないぜ?」
 仕方がありませんねとマシュマロを自分の口へ運ぼうとした、かなめだったが、その手をトライリゥトが止めた。
「……? では、あーん」
 どっちなのだろう? と、かなめは再び首を傾げるが違うと言うのならもう一度試しても良いだろう。かなめは再びトライリゥトの口元へ食べかけのマシュマロを運ぼうとして……、
『ガガ』
「かかりましたね!」
 唐突に浴びせられた電撃に手を止めると戦闘の邪魔にならないよう、さっさと自分の口へマシュマロを放り込み、緩やかな弧を描く斬撃で電撃を放った敵……つまりは木の陰に隠れていた電流マシンの首筋を的確に斬り裂いた。
「クッ!」
 もう数瞬遅ければあのマシュマロは自分の口に入っていたはずだ……トライリゥトは首筋を切られてふらつく電流マシンを睨みつけると、その頭部へ音速を超える拳を叩き込んだ。
 頭部を砕かれた電流マシンは定まらない照準を間近にいたトライリゥトへ向けてエネルギー光弾を射出しようとするが……トライリゥトはバスターライフルの銃口をバトルガントレットを押し付けて、その一撃を受け止めた。
 目の前で弾けたエネルギー光弾にトライリゥトが目を細めていると何時の間にか電流マシンの真後ろへ回った、かなめが達人の如き一撃で日本刀を振り下ろし――電流マシンの体を真っ二つに裂いたのだった。

「ふぁ~ん」
 一体目の電流マシンを始末した後、かなめたちはハニートーストを買って二体目の電流マシンを探していた。ハニートーストを使用して恋人らしく見せるには如何したら言いかとトライリゥトに尋ねたところ、一人がハニートーストを咥え、もう一人が反対側からそれを食べれば恋人に見えると言われたのだ。
「で、では……」
 一般人には不可能なこの荒業だがケルベロスならば可能である……ハニートーストの甘ったるい臭いの向こうにある、かなめの顔をまじまじと見つめながらトライリゥトは反対側の生地へ口をつけようとして……、
『ガガ』
「トライ君の言ったとおりですね!」
 電撃が二人を直撃した! 電撃を受けた直後、皿に乗せたハニートーストを器用に頭の上に置いて臨戦態勢をとる、かなめからトライリゥトは電撃を放って来た電流マシンへ視線を向けて、
「ぶっ殺す」
 悲しみの拳を握り締めたのだった。


「カップルか」
 光で出来た洞窟のような道を歩きながら、ネル・アルトズィーベン(蒼鋼機兵・e00396)は考える。カップルと言うものは良く分からないがバディを組むようなものだろう。
「行くぞ、翠春……」
 それならば共に生きてきた自分たちには打ってつけの任務と言える……ネルは自身の考えに納得したように大きく頷くと、私たちの連携を見せ付けてやろうと、結城・翠春(アメトリン・e02044)へ手を伸ばした。
「はい、し……ネル」
 差し出された手をとった翠春は思わず師匠と呼びそうになり、慌ててネルと言い直した。手を繋いで歩く……と言うのは普段から行っている事である。それで恋人に見えるのだろうかと翠春は不安になる……とは言え恋などした事の無い身では、それ以上どうして良いのかも解らないのだ。隠し切れない不安に思わず横を歩くネルを見つめるもネルは何時も通りに凛とした表情で正面を見据えていた。翠春たちを包み込むような七色に輝くイルミネーションを受けたその顔は、何時もより少しだけ大人びて見えて……、
『ガガ』
 何処か遠い存在になってしまったような錯覚を覚えた翠春が口を開こうとした瞬間、鋭い痛みが全身に走った。これが対象の電流マシンが使う電流だろう。翠春はすぐさま電撃の出所である電流マシンの位置を確認してゾディアックソードを構え、ネルがアームドフォートの主砲を一斉発射する。
 ネルの射撃に貫かれる電流マシンの懐へ飛び込んだ翠春は卓越した技量からなる達人の一撃を電流マシンへ叩き込み、そのまますぐに後ろへ跳んでネルの横へ並んだ。電流マシンはそれほど手強い相手では無いようだ。自分たちであれば簡単に撃破できるだろう。翠春はそう判断してネルへと視線を向けると……ネルは苦しそうに胸を押さえて項垂れていた。陶器のように白く美しい肌は桜色に染まり息遣いも荒い……驚いた翠春は思わずネルの肩へ手を置こうとして、
「し、師匠!? 抱っこは好きですけど、戦えなくなっちゃいますっ」
 手を伸ばした自分に、縋るように抱きついてきたネルに翠春は思わず素っ頓狂な声を上げる。
「すまない。だが、こうしている事で落ち着くんだ……」
 普段は母のように姉のように凛々しい少女の肩が小さく震えてる。改めて自分の首へと回されたネルの腕を見る……自分が師匠と呼ぶこの少女の腕はこんなにも細く華奢だったろうか? それはまるでか弱い少女のようで……、
「ネルは僕が守る!」
 翠春はネルを安心させるように抱き寄せ、自分へ銃口を向ける電流マシンへと向き直った。銃口から放たれた凍結光線は、ボクスドラゴンのカリストが受け止めてくれた。
 これ以上戦闘を長引かせて大切なネルを傷つけさせる訳にはいかない……翠春は渾身の力を篭めてローラーダッシュの摩擦を利用した炎を作り出すと、電流マシンへ向けて撃ち放ったのだった。

「これは、動けそうに無い……少し、休ませてくれ……」
 炎に包まれた電流マシンが消滅するのを確認してネルはその場にへたり込んでしまった。肉体的なダメージは無い……ただ今まで経験した事の無い感情に思考が追いつかず体が思うように動かなかった。
 次の目標を探すつもりだったが、これでは無理だろうか。それにしても……、
「ネル、大丈夫です? 動けないなら僕がおんぶしますね」
 いつの間にここまで強くなったのだろう……そんな思いで弟子を見つめていると、その弟子が背中を向けて背を屈めて来た。ネルは一瞬躊躇うも、その背に身を委ねる。何時までもこの場に座り込んでいる訳にも行かないと理性が告げたのだが……実際に背負われて見ると背中越しに早鐘のように鳴る自分の鼓動が伝わってしまいそうでネルは背中越しに翠春を強く抱きしめてその鼓動を落ち着かせようとした。
「わわっ、苦しいですよ」
 力を篭められた翠春は少し苦しいような胸の辺りを締め付けられるような、何処かふわふわとした思いに駆られる。
 それは翠春にとっても経験した事の無い想い……翠春は少し落ち着くように冷たい空気を吸い込むと、背中に大切な人の温もりを感じながら光で彩られたアーチの中をゆっくりと歩んでいった。


 夜の透き通った空気が肌に刺さる。
 木々を揺らす、その冷たい風に合わせて流れるように明滅を繰り返すイルミネーションを見つめていた、ラギア・ファルクス(白亜の翼・e12691)は傍らに居た風森・茉依へ視線を移す。
 胸の前で祈るように両手を重ねてイルミネーションを見つめる茉依は穢れを知らぬ乙女のようで……ラギアは内臓が締め付けられるような、足元が覚束ないような、それでいて何時までも見つめていたい、そんな不思議な気分に駆られる。何時の間にか茉依の姿に見入っていたラギアは茉依の吐き出す息が白くなっている事に気付く。この寒さであれば、それも当然の事、
「茉依」
 ラギアは周囲を見回し風を避けられそうなベンチを見つけ、茉依へと手を差し出した。不意に呼ばれた名前に茉依は一瞬肩を震わせ、俯き加減におずおずとラギアの手を握る……それからふと思い出したように顔を上げるとラギアを真っ直ぐに見つめてきた。
 どうやら相当に緊張しているらしい茉依の仕草にラギアは目を細めるとベンチまでエスコートしてその肩にコートをかけてやる。それから自身が身に着けている長めのマフラーを茉依の首にも巻いてやると自然と二人で寄り添うような形となった。
 ……沈黙が流れる。
 遠くに見えるガラスの城はイルミネーションで彩られ、静寂の中に居ると自分たちは幻想の世界にたった二人残されてしまったような気分になる。だが寂しくはない。なぜならすぐ横には……、
『ガガ』
 やたら大きく聞こえる心臓の音に戸惑いながらもラギアが茉依へと視線を向けた瞬間、電撃が体を走った。そしてそのまま茉依を見つめてラギアは気付いた、心臓の跳ね上がるこの感じ、茉依を見つめるだけでこみあげてくるこの多幸感。これは間違いなく――、
「邪魔者は即刻退場願おう」
 愛しい姫君を守るため、人の恋路を邪魔するものを狩ろう……ラギアは口の端を吊り上げると素早く立ち上がり、電撃の発生元へ雷の霊力を帯びた日本刀を手に神速の突きを繰り出し電流マシンの胴体を貫いた。
「君の戦う姿、まるで白鳥が舞うように綺麗だな!」
 雷光を手に闇夜を翔るその白き姿は見るものを魅了するに十分だった。茉依は感嘆の声を漏らしながらもラギアに貫かれてよろよろと後ろへ下がる電流マシンへ周囲に呼び出した魔法の矢を一斉に発射する。
 一つ二つと次々に命中する魔法の矢が電流マシンのパーツを吹き飛ばしてゆく。だが全てのパーツが飛び散るより前に電流マシンはバスターライフルを構えると、そこから茉依へ向けて魔法光線を発射した。
 しかし、その魔法光線は射線上に割り込んだラギアがタワーシールドであっさりと弾き、更にはそのまま電流マシンの目の前まで踏み込むと、空の霊力を帯びた日本刀で、その胴体を再び切り裂いて――電流マシンは小さな炸裂音とともに四散したのだった。

「さすが、私の王子様だ……!」
 思わず口をついて出た言葉に自分の口を押える茉依に目を細め、ラギアは仲間たちへ撃破の報告をする。それから、その通信機を握り潰すと頬を朱色に染めながら自分を見つめる茉依の元に向かう。
「約束だったな」
 再びベンチへ腰かけたラギアがそう言うと茉依の顔は子供のように輝いて……座ったラギアの膝へ頭を乗せた。
 それから二人は暫しの間、光に彩られる景色に溶けるような緩やかな時間に身を任せたのだった。


 デウスエクス・ドラゴニアの爪が電流マシンの体を貫くと、電流マシンはガラクタのように部品を撒き散らしながら地面を転がって行き…そのまま粉々になって消滅する。
 二度目の撃破となる電流マシンの末路を確認したのちに、萃・楼芳(干常の青・e01298)は大きく息を吐いた。
「大丈夫ですか、無理はなさらない様に」
 それから楼芳が天を仰いで大きく息を吸い込んでいると、ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)が駆け寄ってくる。心配そうに手を触れようとするルピナスを「大丈夫だ」と制して、楼芳は次の目標を探すために歩き出す。
 ルピナスはそんな楼芳の様子に小首を傾げるも、すぐに何時もの柔和な表情を見せると、先に歩き出した楼芳に追い縋るように早足に歩く。
「わぁ、とても綺麗な光景ですわね」
 そして周囲を彩るイルミネーションを見上げて笑顔を見せるも、楼芳はルピナスに気を止めた様子も無く、周囲を警戒して歩き続ける……ともすれば泣いてしまいそうな状況だが、カップルと言うものを良く知らないのが幸いしたのかルピナスは笑顔のまま楼芳に語り続ける。
 楼芳としても如何して良いか解らないと言うのが本音だが、それは亭主関白な熟年夫婦の様相に見えなくもない。実際……、
『ガガ』
 唐突に走った電撃の発生元へ、楼芳はデウスエクス・ドラゴニアと化した腕を叩き付ける。実際、この方法で三体目が釣れたのだ効果はあったのだろう。
 圧倒的な楼芳の力に押し潰され、端々から煙を上げる電流マシンへルピナスが掌を軽く触れると、電流マシンは雑巾のように捻じれて砕け散った。

「皆さんの報告と合わせて、今ので最後ですわね」
 そう告げたルピナスに頷き楼芳は近くのベンチへ腰かける……まだやる事もあるが、少しだけなら休んでも問題は無いだろう……そうしているとルピナスが静かに楼芳の横へ座り、目の前にある木々を彩るイルミネーションへ目を向けた。
 寄り添う訳でも無く、何か恋人の真似事をしてやれる訳でも無い。ただ、綺麗ですねと嬉しそうに微笑むこの少女に、もう少しだけ付き合おうと思った。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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