恋する電流マシン~煌めく冬と、キミとボク

作者:古伽寧々子

 冷たい空気。
 白い吐息。
 空には満天の星々が輝く頃――。
 飾られたイルミネーションが煌めくその場所で、大切な誰かと過ごしたい。

「そんな夜をめちゃくちゃにしようっていう大事件っす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は深刻そうな内容の割には軽やかに、そう告げた。
「デートスポットに来たカップルを狙うダモクレスっすよ」
 そのダモクレスは『恋心』を増幅させて部品に相応しい精神状態にする電流を浴びせた後に、ダンジョン修復の部品にしてしまうらしい。
 もちろん、命を絶った後に。
「このダモクレスは恋する電流マシンと呼ぶことになったっす」
 戦闘力は決して高くないこのダモクレス、なのだが――問題がひとつ。
 隠密性に優れており、電流を浴びせられない限り発見できないのである。
 ダモクレスが『恋心』に対して電流を放ち、発見できる状況を作らなければならないのだが――『恋心』を増幅させるには、欠片だって『恋心』が必要だ。
「つまり、カップルが必要なんっすよ」
 それが、真実であっても、嘘であっても。
「一般の人を巻き込むわけにはいかないっすからね!」
 ケルベロス同士でカップルになり――囮になって欲しいと、ダンテは爽やかな笑顔で言い切った。
「皆さんには広島のデートスポットに行って欲しいっすよ」
 現れる恋する電流マシンは8体。
 カップルを作って満遍なくデートスポット内を探索すれば、探し出すことができる。
 個々の戦闘力は強くはないが、ケルベロス側もカップルだけで戦わなければならないので十分に注意が必要だろう。
「皆さんに行ってもらうのは、国営備北丘陵公園っすね」
 広々とした公園は、この時期、備北イルミと冠する、ウインターイルミネーションが開催中。
 丘陵地に広がる公園は、数か所のテーマごとに分かれた装飾がされている。

 音楽に合わせて煌めく、澄んだ白い輝きのシンボルツリーのエリア。
 葉の落ちた木々を生かして、暖かな暖色の光で包まれた幻想の森のエリア。
 手作りのオーナメントで飾られた100本のクリスマスツリーが煌めくエリア。
 和風のランプの彩りと、中央には淡い桃色が咲くの冬の桜のエリア。

 イルミネーションからイルミネーションへ、エリア移動する通路はわざと暗く設定されていて――ライトの輝きと、星の煌めきのコラボレーションが楽しめる。
「ダモクレスが退治されるまでは、一般人は避難して貰ってるんでその点は心配無用っすよ」
 狙われるのはダモクレスだけだから、心置きなく。
 デートを楽しむことが、ダモクレスの発見にもつながるはず。
「思いっきりラブラブして、恋する電流マシンに見せつけてやって欲しいっす!」
 心行くまでデートを楽しんで、しっかりばっちり退治して欲しいとダンテは締めくくった。


参加者
祭礼・静葉(サイレン堂店主・e00092)
ケーゾウ・タカハシ(鉄鎖狼の楽忍者・e00171)
アマルガム・ムーンハート(フェイトスピナー・e00993)
祁答院・大和(不動絶刀・e01382)
千歳・涼乃(銀色の陽だまり・e08302)
紗神・炯介(白き獣・e09948)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)

■リプレイ

●煌めく夜に
 辺りは静かだった。
 普段ならたくさんの人たちが歩くのであろう道々も、人払いのされた公園はただただ静かで、輝きは冷たささえ感じてしまう。
「やれやれ、寂しいもんだねぇ」
 煌めく冬の桜をぼんやりと見つめた、祭礼・静葉(サイレン堂店主・e00092)は人差し指と中指で挟んだシャーマンズカードをゆらゆらと弄びながらゆっくりと息を吐いた。
 吐息は白く色を変えて、ふわりと夜の暗い空に溶けていく。
 煌めく冬の桜は、淡いピンク色に色付いて、眩い。
 そっとポケットのスマホに指先で触れ、笑んだ。

●one hundred tree
「夜なのに、こんなに沢山あったら華やかですよねー」
 100本の、クリスマスツリー。
 千歳・涼乃(銀色の陽だまり・e08302)は落ち着いた藍の瞳をたくさんのツリーたちに向けて声を弾ませた。
 空気の澄んだ闇夜には、より一層輝きを増して見える。
 その輝きに勝るとも劣らない笑顔を咲かせる涼乃の姿に、祁答院・大和(不動絶刀・e01382)は思わず見惚れて言葉を呑んだ。
 ただ、並んで歩く。
 それだけでとても、幸せ――だけれど。
 どうやったら、もっとカップルらしく見えるだろう?
 そんなこと、考えるだけで気恥ずかしいけれど、躊躇いがちに大和が伸ばした指先を、嬉しそうに涼乃は握り返した。――と、
「あ、でも指が冷たいかもしれません」
「平気だよ」
 同い年だけれど、やっぱり男の子の手は大きい。
「あったかい、です」
 包み込まれた温もりに涼乃が笑めば、それだけで幸せな気持ちで満たされる。
 二人だからこその、幸せな気持ち。
 それを――ダモクレスが見逃すはずはない。
 ビリッと痺れるような電流が、どこからともなく二人を襲う。
 ジジジ、と小さな電子音。
「ダモクレス!」
 その姿から涼乃を庇うように、大和が立つ。
「……一応僕も男子だしね。千歳さんは護らないと」
 きりり、と言い放つ大和に涼乃はぱちくりと瞳を瞬いた。
「女の子なので護っていただけるのは嬉しいのですが……え? 大和さんもう電流かかりました?」
「かも」
 目が合えば、ただそれだけで鼓動が高鳴るのは、恋する電流のせい?
 彼の顔が、いつも以上に頼もしく見えるのも?
 その想いを振り払うように涼乃は銀の髪を揺すり、禁縄禁縛呪を放つ。
「……綺麗だ。なんで今まで僕は涼乃さんの魅力に気づかなかったんだ……!」
 そんなにはっきり言われたら、それもまた照れてしまう。
 今を、このチャンスを逃しては、ならない。
「……千歳さん、いや、涼乃さん。……好きだ。僕と付き合って欲しい」
「はい」
 このタイミングでの、マジ告白。
 反射的に返事をしてしまって、涼乃はぱちくりと瞳を瞬いた。
「……はい?」
 頬がさらに赤くなる。
 なんだか体温が上がったような気がする。
 苦し紛れに涼乃が放った御業がダモクレスを鷲掴むのと、大和が雷を纏った刃が振り下ろされるのがほぼ同時。
 ダモクレスは小さく呻くように電子音を残して、動かなくなった。
「さ、急いで次を探さないとね!」
「あ、そ……そうですね」
 大和が気恥ずかしさを吹き飛ばすように明るく言ったのに、涼乃は頷いて――差し出された手を握り返す。
 カップルらしく、でも急いで。

「寒くないか?」
 リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)の気遣いに、チェレスタは緩やかに頷いた。寄り添い合っていればそれだけで、暖かい。
「このツリーの飾り、地元の子供達の手作りなんですって……」
 100本のツリーたちに飾られたオーナメントは、どれも拙くて、けれど想いが何よりも込められているのを感じる。
 そんな子供たちを想えば、思い出すのは自分たちが子供の頃のこと。
 従兄妹同士の二人の思い出は、ゆっくりと穏やかに積み重ねられて今も胸の中にある。
「ルーディ兄さんのお嫁さんになりたいって、言ったのを覚えてます?」
「ああ」
 もうそれは、10年以上も前の話。
 他愛のない子供の頃の約束は、確かに、その時の素直な気持ち。
 けれど成長するうちに、そんな言葉は子供の戯言だと胸の奥に閉じ込めてしまう。それはきっと、今の気持ちを確かめるのが怖いから。
 リューディガーは確かに逞しく成長し、チェレスタは美しい乙女になった。
「今の兄さんもとても素敵ですよ?」
 ふわり、気恥ずかしそうに微笑んだチェレスタは、視線を反らしてツリーのオーナメントに手を伸ばす。
 その輝きに包まれる姿は、いつもよりもずっと――。
「綺麗だ……」
 リューディガーは小さく、呟いた。
 その言葉にまるで、呼応するように――電流が襲う。
「兄さん!」
「大丈夫か?」
 リューディガーの腕に縋るように身を竦めたチェレスタを庇うように抱き寄せて、ダモクレスの姿を探す。
 カタカタと現れたダモクレスを睨み付け、アームドフォートを向ける。
 リューディガーの主砲の一斉射撃が、ダモクレスを襲う。
 痺れさせ、その動きを止めて――、
「大丈夫だ。今のお前なら出来る。何があっても俺が守る。自分を信じろ!」
 リューディガーの声が、チェレスタの背中を押してくれる。
 恋する電流が背中を押す、甘い言葉はとても幸せで、けれど。
 電流なんて、そんな力を借りなくたって――血の繋がりと、積み重ねた思い出は確かに本物の『絆』だから。
 頷いたチェレスタの縛霊手から放たれる時空凍結弾が、寸分違わずダモクレスの身体を貫いた。

●cherry blossoms tree
「なんで私があなたとこんなことしなきゃいけないのよ」
 ぷいっとそっぽを向く俊にくっくと噛み殺すように笑いながら、紗神・炯介(白き獣・e09948)は手の平を差し出した。
「はいはい、お仕事だから。今日は喧嘩は無しでね」
 穏やかな炯介の声。頬が熱いのは、きっと気のせいではないはず。
 気恥ずかしさを紛らわせながら、二人歩調を合わせて、和紙のランプに彩られた道を並んで歩く。
「本当にピンク!」
 メインの、枝垂れた桜から零れるように輝くイルミネーションを目にした俊は瞳をキラキラと輝かせた。
「ねえ紗神、すごい、」
 言い掛けて、その瞳のまま炯介を振り返り――ハッとしたように、視線を反らした。俯く期限の悪そうな顔は、頬を赤く染めていて。
(「 すぐ顔に出るところは可愛いんだけどね~」)
 そんな顔を見せられたら、意地悪したくなる。
「俊さん?」
 いつもは姓で呼ぶけれど。
 名前で呼び掛ければ、彼女は驚いたように顔を上げた。
 そっと、その滑らかな髪に指を通し、少女の細い顎を指先で引き上げる。
 見詰め合う、ひと時の間。
 むぅ、と唇を尖らせた俊は、そのまま炯介の襟元を引き寄せて――口付けた。
 時が止まったような感覚――の、次の瞬間。
 痺れる電流が二人を襲う。
 耳に微かに届いた、機械音。
 鼓動が高鳴る。
 頬が熱い。
 その想いを振り払うように、炯介は2本の鉄塊剣を振るった。
 ふわり舞う、ウイングキャットの華王が飛び出すのに合わせて、俊の放つ巫術の炎が、ダモクレスを焼き尽くす。
 消えていくダモクレス。
「っダモクレスを誘き寄せるためよ」
 その姿を見送って、ハッと我に返った俊は、唇に残る感触を思い出したように、ふるり、艶やかな黒髪を揺らして首を揺すった。
「……勘違いしないで」
 ただ素直に、その気持ちを告げられたら。
 ただ、何の理由もなく、その手を握れたら。
「……君には悪いことをしたと思ってる」
 そっと告げられる言葉はただ、切なく――耳に残るだけ。

●melody tree
 優しいメロディと、煌めきのリズム。
 頂点に一際大きな星を頂くシンボルツリーは、旋律に合わせて強く、弱く、その輝きを変えて踊っているかのよう。
「任務の為に来たんだからね!」
 何だか嬉しそうにニヤニヤしているケーゾウ・タカハシ(鉄鎖狼の楽忍者・e00171)に、もう何度目か、ローズマリーはきっぱりと言い放つ。
「つがいに思われないと駄目だろ?」
 それなのに、ちっとも悪びれないケーゾウ。
 ローズマリーは軽く肩を竦めて、大きくため息をついた。
「寒い中出てきたんだから、ちゃんとエスコートしなさいよね!」
 流れる曲も、今日はケーゾウチョイス。
 クリスマスなんて、これまで意識することもなかった――いや、気にすることができる状況ではなかったから、この状況はなんだか新鮮で。
 思わず頬を綻ばせるローズマリーに、ここぞとばかりに迫るケーゾウ。
「ほら、手をつなごう」
「なにニヤけてんのよ、殴るわよ?」
 言葉とは裏腹に、仕方ないと手を伸ばせば、恋人繋ぎで絡ませる指先に、
「バカ」
 ゲンコツを食らうまでがお約束。
 シンボルツリーの足元に来る頃には……一際ロマンチックな曲が流れ始める。
「ほら、踊らないか?」
 あまり慣れないステップへ、
 そこへ、機械音。
 現れたダモクレスの姿に戦闘態勢に入る二人の、息はぴったり。

 ローズマリーの放つ、降魔の一撃がダモクレスを襲った。
「ほら、あんたが主役なんでしょ?」
 それまで援護に徹していたケーゾウに、ローズマリーは悪戯っぽい視線を向けた。
「いいとこ見せなさいよね、ダサい男は嫌いなんだから!」
 に、と笑って見せたケーゾウの、作り出した結界がダモクレスを絡めとる。
「こーいう時は、古来より言うべき台詞があるんだよ。『俺から逃げられると、思ってるのか?』ってな」
 もう逃がさない。
 抵抗するようにバタバタと跳ね回ったダモクレスは、ぷしゅう、と虚しい音を立ててそのままぐったりと倒れ込んだ。
「さ、これで清々するわね」
 動かなくなったダモクレスを確かめて、ローズマリーは息をつく。
「つがいのフリの為に誘ったけども、俺の気持ちはフリじゃないぜ?」
 いつもより少しだけ、トーンを落としたケーゾウの言葉。
 答えは、ローズマリーの胸の中だけに。

●fantasy forest
「付き合ってくれて、ありがとね♪」
 いつもよりも幾分弾む声音は、けれど少しだけ緊張の色を帯びて。
 アマルガム・ムーンハート(フェイトスピナー・e00993)はきょろきょろと所在無げに辺りを見回す、ハンナの白い指を握り締めた。
「カップルのふり……えと、どうしたら、い?」
 そっと、指先から伝わる温もりにハンナはホッと吐息を落として頷く。
「うん。いこ、いこ」
 星の輝きの覗く並木から、煌めく幻想の森へ肩を寄せ合って。徐々に明るさを増していく道は、見えない森の奥へと迷い込んでいくかのよう。
 まるで御伽の国のようで、夢の中のようで、現実離れしたその世界はの暗闇は少し、不安にさせる。
 でも、繋いだ指先はそんな不安も、掻き消してくれるから……ほう、と今度ハンナの唇から漏れるのは、感嘆の吐息。
「凄く綺麗だな……ふふ、独逸の森に一緒に行ったの思い出すね」
「小さい頃、よく遊んだ、ね」
 アマルガムの言葉を引き継ぐようにハンナは紡ぐ。
「でも、むかしも、いまも、おんなじくらい……たのし、よ」
 柔らかなハンナの声が素直に告げる言葉はただ、嬉しい。
「なんか、魔女さんとか出てきそうだよね! あと天使とかも……」
 照れたのを隠すように声を張ったアマルガムは、隣のハンナに視線を向け、そしてふにゃりと笑って握った指先に少しだけ、力を込めた。
 天使はもう、ここにいるじゃないか。
 アマルガムの微笑みが嬉しくて、ハンナが応えるように握り返した、その時。
 雷撃の音、それとともに身体が痺れるような感覚。 
 ぱちん、と弾けるようにつないだ手が離れる――のに、アマルガムは慌ててハンナに声を投げた。
「ハンナ、大丈夫!?」
「ん」
 艶やかな髪を揺らして頷くハンナ。
 その視線がカタカタと音を立てて動くダモクレスの姿を捉える。
「ハンナ、背中は預けたよっ!」
「任せて、アム」
 信じてる。
 それと同時に、守りたい気持ちもある。
「何人たりとも、ハンナを傷つける奴は赦さないっ!」
 そう言わせるのは、恋する電流のせい?
 それとも、自分自身の心の叫び? 
 守ると決めた。幼馴染で、妹で、大切な彼女に。
『Traume und phantasms fluchtige Sache…夢幻泡影の彼方へ往け…リヒテンベルク流抜刀術、秘剣焔星』
 地獄をまとった刃が、ダモクレスを切り裂く。
 その動きに合わせるように、ひらり、ハンナの流れるような動きにドレスの裾が踊る。
「遅い、の」
 隙をついてダモクレスの後ろを取ったハンナの、その流れるような動きとは裏腹の、破鎧衝の鋭い一撃が襲う。
 はらひらり、薔薇の花弁がその動きに合わせて舞う。
 その姿は、思わず見惚れてしまうほど美しい。
「……と言うかハンナ、こうやって見ると凄い美人に育ったよね。 まつげ長っ! 凄いスタイルいいし!?」
 思わず口から零れ出たアマルガムの言葉に、何だか恥ずかしくて、ハンナは緩く目を瞑った。

 冷たい空気に溶けるように、ダモクレスが消えていくのを見送って、1体討伐完了、のメッセージをグループチャットへと送った。
「……ハンナ、もうちょっとだけカップルぽく振舞って貰っても、いい?」
 顔が熱くなる。
 それでも、今伝えなければきっと、後悔するから。
「うん」
 こくり、素直に頷くハンナに笑顔はないけれど、いつか――また、幼い頃のように彼女の笑顔が見られたらいい。例えその隣に立つのが、自分でなかったとしても。
「あのね」
 そんな思案していたアマルガムは、不意にハンナにまっすぐに見つめられて、ドキンと胸が高鳴らせた。
「きょう、たのしかった」
「ん、俺も楽しかった。ありがと♪」
 笑むのはもう、いつも通りのアマルガム。


 ダモクレスの放つ魔法光線の一撃――!
「涼乃さん、危ない……!」
「大和さん!?」
 涼乃の肩を抱き寄せ、転がるように庇った大和の肩を襲う。
 覆いかぶさるような態勢のまま、痛みに顔を歪めた大和の顔に涼乃は息を呑む。
 呼吸がお互いの肌に触れた、見つめ合うほんの一瞬。
「涼乃さんの綺麗な顔に傷がつくなんて耐えられないからね」
「そんなの」
 ぎゅう、と彼の二の腕を掴む力を強くして、涼乃は首を横に振る。
「そんなのはいけません、大和さんだって……!」
 どんな理由があったって、大好きな人が傷つくことに耐えられるわけがない。
 だからそんな風に、自分を犠牲にするだなんて、言わないで欲しい。
 その時、滑り込むように、煌めく星の軌跡がダモクレスを蹴散らす。
 静葉だ。
「お邪魔だったかしら?」
 くす、と微笑みを向け、壊れたダモクレスの姿を確かめる。
「7体目完了、と」
 グループチャットにぴこん、と送ったメッセージが表示された。

 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)は冬の桜を囲うように続く小道をエヴァリーナと共に歩いていた。
 ――本当は、ビハインドのアルベルトと歩けたなら素晴らしいのだけれど。
「エヴァは愛する人と、どんな風に歩きたいの?」
 そっと耳打ちするように頬を寄せる姿は、愛を囁くように見えるだろうか?
 ほんの少し、同性同士でこんな風に寄り添うのは気が引ける、けれど。
「きゃあ!?」
 不意の電流。
 ダモクレスがその姿を現すと、飛び出したビハインドのアルベルトが、鋭く一撃を放つ。
「アルベルト……!」
 アウレリアを気遣う、アルベルトの視線。
 大丈夫よ、とアウレリアは頷き返してその動作に寄り添うように銃を構える。
「さぁ、踊りなさい。弾丸と死のワルツを……」
 弾丸で弾丸を弾き標的を弾道で囲みながら予測出来ない方向から撃ち貫く跳弾連射が、敵の平常心を奪っていく。
 息はぴったり。
「電流キュアはしなくてもいいかな……」
 その姿を眺めながら、ほう、と思わずエヴァはため息をついた。
 アウレリアとアルベルトが、あまりに通常運転でちょっと安心。
 ――自分の電流はなんだか虚しいので、キュアしておきました。

「じゃ」
 ダモクレスの撃破を確かめて、義姉のスマホのグループチャットを覗き込んだエヴァは、ホッと胸をなでおろしてからひらりと手を振って見せた。
 せっかくの聖夜、もちろんエヴァだってあの人と過ごしたい。
 あっさりと姿を消したエヴァリーナに、アウレリアは瞳を瞬いて、傍らのアルベルトと顔を見合わせる。――それから緩やかに、微笑みを交わした。
 これからは、今夜は、二人だけ。
 静けさを取り戻した公園は、煌めきに満ちていた。
 アルベルトの銀の髪に、淡い桜の色が映る。
「愛しているわ、アルベルト」

 煌めきに、笑顔の咲く聖なる夜。
 ただ、それぞれの幸せを詰め込んで。

作者:古伽寧々子 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 2
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