恋する電流マシン～光のあぜ道で煌めく恋

■リプレイ

●即席カップル、二人の距離
　遠くから波の音だけが聞こえる中、戦場ヶ原・将（フューチャライザージェネ・e00743）と柚野・霞（蒼の翼のつばくらめ・e21406）は視線も合わせず、ただぼんやりとあぜ道を歩いていた。
「あー……その、助かったよ。一人だったらどうしようかと思ってたからさ」
　先に口を開いたのは将だった。しかし、その言葉は明らかに相手の様子を探っていた。
「……はい」
　俯いて恥ずかしそうにする霞もまた、短く返事をしただけ。
　会話が続かず、二人は再び無言の散歩を続ける。
　しばらくしてから、将がもう一度声を掛けた。
「じゃあ……手でも繋ごうか」
「えっ？」
「え、いや、だって……」
　ビクッとして思わず手を引く霞。
「……嫌です。そんなの、本当の恋人みたいで恥ずかしいです……」
「い、嫌ですじゃねーよ！　任務なんだから！　ほ、ほら、形だけ、形だけだから心配するなって！」
「……」
　霞はもう一度差し出された手を困った表情でじっと見つめて、それからようやくおずおずとその手を取った。
「……分かりました。依頼ですから、これくらいの事は仕方ない……です……よね」
　触れた手の感触に、霞は気恥ずかしさを顕わにする。顔を真っ赤に染め、語尾は掠れて聞き取れないほどに尻すぼみになっていた。
「……歩こうか」
　霞の反応に、将は余計な言葉を掛ける事も出来ず短くそう言って歩き始めた。
　光で彩られたあぜ道を言葉もなく静かに歩む二人。
　それでも、やがて煌びやかな棚田の景色を楽しむ余裕が二人とも出てくるようになっていった。
「あのさ……」
　このまま黙ったままでいるのもどうかと思った将が、三度声を掛けようとした時だった。
「ぐわっ……！？」
「きゃっ……！」
　不意に背後から電流に襲われ、二人はビクッと身体を震わせる。
　すると、将は突然真剣な顔で霞の顔を見つめた。
「綺麗だね。……イルミネーションだけじゃなくて、君も。……だからこそ、君を傷付けようとする奴は許すわけにはいかない」
　そう言って、庇うように霞を背にして振り返る。
　目を凝らすと、イルミネーションの光の中に浮かぶ影が見えた。
　一抱えほどの丸みを帯びた胴体に六本の足。恋する電流マシンはただ静かに、二人の様子を観察していた。
「現れやがったな。霞、危ないから下がってな」
「……わたしは貴方が進むそのために、全てを捧げると決めました。困難は二人で乗り切りましょう」
　霞は後退を拒否してエレキブーストを将に掛ける。
　彼女の覚悟を受け、将は優しく微笑むと武器をゆっくりと構えた。
「その想い、確かに受け取ったぜ。だけど、無理はするなよ？」
　対する恋する電流マシンも、将から攻撃の意思を読み取って戦闘態勢を取る。
「行くぜ！」
　交錯する攻撃。将は霞に攻撃が及ばぬよう射撃を正面から受け止め、それでも怯む事なく敵に斬り掛かった。
　斬撃でよろめく電流マシン。両者痛み分けで終わり──とはならなかった。
　既に準備をしていた霞が、すぐさま将の傷を治癒したのだ。
　それにより攻勢を削がれずに済ませた将は、敵よりも先に第二撃を叩き込む。
「フューチャーカード、ライズアップ！　イルミナルセイバー・ドラゴンッ！」
　取り出したカードが光を放ち、将の姿を目映い輝きを放つ龍へと変えた。
　将は間髪を入れずに炎を吐き出す。光線の如き猛烈な炎は、電流マシンを瞬く間に蒸発させていった。
　その直後、恋する電流の影響が解けた二人は自身の言動を振り返ってしばらく黙りこくってしまう。
「……何ならデートの続きでもする？」
「な、何を言うんですか！　まだ敵が残っているかもしれないんです！　さあ、みなさんの援護に向かいましょう！」
　顔を真っ赤にして歩き出す霞に、将は苦笑してその後を追った。

●親愛と愛情と
　アウラ・シーノ（忘却の巫術士・e05207）と村雨・柚月（七色カードの魔砲使い・e09239）は、ほのかな甘い空気を噛みしめながら歩いていた。
　幻想的な景色の中で感化されたのか、アウラは思わず繋いだ手に力を込める。すると、柚月もまた無言のままその手を握り返してきた。
　と、しばらくして二人は立ち止まる。
「あ……」
　目の前のあぜ道は、並んで歩くのは難しい一人通るのがやっとの細さになっていた。
「うーん……。あ、そうだ」
　後ろに下がろうかどうかと迷っていたアウラが、いきなり柚月を抱え上げる。
「どうせなら、飛んで空から眺めてみましょう！」
「空からって……大丈夫なのか？　無理はするなよ？」
「大丈夫です！　さあ、しっかり掴まっててくださいね」
　柚月が自分にしがみついたのを確認してから、アウラはふわりと空に舞い上がった。
「わあ、綺麗……！　何だか、等高線みたい」
　上空から見た棚田は紋様が描かれたかのようで、圧巻する景色だった。
「ああ、すごく綺麗だ。……この光景が見られたのはアウラさんのおかげだな」
「ふふっ、どういたしまして」
　星空の下、ゆっくりとした速度で遊覧飛行を楽しむ。
　身を包む風は冷たかったが、二人にとってはそれも少し心地好い温度に思えた。
「そういや、どこかに隠れハートってのがあるらしいな」
「隠れハート、ですか。……素敵ですね！　是非探して、二人の記念にしましょう！」
　そう言うとアウラは高度を上げる。
　棚田全体を見渡せるほどの高さにまで来ると、目的のハートはさほど時間も掛からずに見つけ出せた。
「ゆづくん！　ほら、もっと近くに寄ってください！」
　ハートの前に降り立つと、アウラは興奮した様子で隣に並んだ柚月に腕を絡ませた。
　光のハートをバックに、二人は肩を並べて記念写真を撮影する。
　と、その直後だった。
「んぅ……！？」
　電流に撃たれた二人は短く驚きの声を上げる。
　柚月はすぐにアウラに顔を寄せて覗き込むと心配そうな表情を浮かべた。
「アウラさん、大丈夫？　どこか痛めたりはしてないか？」
「だ、大丈夫です……。ちょっとビリッとしただけで……」
　間近で柚月の吐息を感じ、アウラは急激に頬を染める。
「二人の邪魔する馬の骨は、どこのどいつだ？」
　彼女の無事を確認すると、柚月はあぜ道の脇に佇む電流マシンに怒りを込めた視線を向けた。
「……私たちを邪魔する事なんて出来ません！　ゆづくん、二人の愛の力を見せてあげましょう！」
　そう言って、アウラがその身に宿した御業を解放する。
　御業は巨大な手となって、突っ立ったままの電流マシンを鷲掴みにした。
「俺たちを標的にした事、存分に後悔して消えていけ」
　身動きが取れなくなった敵を柚月がサイコフォースで爆破する。
　想いの強さが彼の精神を研ぎ澄ましたのか、爆発は普段よりも強力な衝撃波を生みだし電流マシンを微塵に粉砕した。
「やりましたね！　この調子でもう一体……」
　と、アウラが言いかけた時だった。
「危ない！」
　脇から伸びてきたビームを察知した柚月が、咄嗟にアウラを抱きかかえて飛び退いた。
「……探すまでもなく、向こうからお出ましのようだな」
　立ち上がってアウラを抱き起こすと、柚月は静かに二体目の電流マシンに視線を向ける。
「大丈夫。どんな敵が何体来ようとも、私たちに敵うわけがありませんから！」
　少し頬を赤らめながらも自信に満ちた表情で、アウラはシャーマンズカードを構えた。

●ここが彼女たちの始まり
「寒くない？　もう少し身体を寄せても良いよ」
　素っ気ない口振りで浦戸・希里笑（ぬるぽのガッ・e13064）が声を掛けると、隣を歩くリー・ペア（ペインクリニック・e20474）はほんの少しだけ肩を寄せた。
「はい、ありがとうございます」
　手を繋ぎ相合マフラーで歩く二人の少女の間には、言葉こそ多くはなかったがどこか優しい雰囲気が流れていた。
「こうして並んで歩いていると……何だか希里笑さんの事をとても身近に感じられます。私はケルベロスになって日が浅いので……その、こういう体験はとっても新鮮です」
　リーがたどたどしく想いを表現する。
　一方で希里笑は相変わらず無表情だったが、それでも思う所はあったようで少し視線を逸らして頷いた。
「……うん。私もあんまりこういう経験はないから、ちょっと不思議な感じかな」
　そして、再び訪れる沈黙。
　だが、それも彼女たちにとっては嫌な時間ではなかった。
　ただ静かに互いの存在を感じる。会話はなくとも、二人は自分の中に芽生え始めたその感情を確かに噛み締めていた。
「あの……」
　しばらくして、意を決したリーが言いかけた時だった。
「あ……！」
　恋する電流が二人を襲う。
　希里笑はすぐにリーの身体に手を回して抱き寄せると、周囲に注意を向けた。
「……敵を発見。相手は二体……か」
　色彩豊かな光を背後に、二つの不格好な機械の姿があった。
「希里笑さん……」
「大丈夫、リーは必ず守ってみせるから」
「……はい」
　リーはマフラーを外して後ろに下がると、鎖を地面に展開させて魔法陣を描き出した。
　魔法陣から溢れた光が二人を包む。
　同時に、希里笑はウィングドフォートを構えて攻撃を開始した。
　主砲は片方の敵を確実に捉え、その駆動中枢に損傷を与える。
　しかし、残ったもう一匹が報復とばかりに希里笑にライフルを射撃した。
「うっ……！」
「希里笑さん！」
　ビームの直撃を受けて膝を突いた希里笑に、リーが慌てて駆け寄る。
　すぐさま治療を施すが、その間にも敵は砲口を二人に向けようとしていた。
　テレビウムのスーが二人を庇おうと立ちはだかる。しかし、このままでは三人まとめて的にされしまうのは明白だった。
　それならばと、希里笑も身を挺して攻撃を受けようと覚悟を決めた瞬間──。
「どりゃああぁぁッ！」
　飛び込んできた将が、チェーンソー剣を無傷の方の電流マシンに叩き込んだ。
「大丈夫か！？　こっちは俺たちに任せろ！」
　将は追い付いてきた霞と共に、一匹を引き付けて希里笑たちから距離を取る。
　希里笑は後に残った一体をちらりと見てから、リーの手を取って顔を寄せた。
「リー、最初の共同作業だよ。あのポンコツに二人でトドメを刺してやろう」
「……はい。希里笑さんとなら、どんな任務だって遂行できる気がします」
　二人は立ち上がり、敵に相対する。
　心を一にした彼女らにとって、手負いの非戦闘用ダモクレス一匹は相手ではなかった。
「さっきはよくもやってくれたね。お返しだよ……！」
　リーのグラインドファイアに巻かれた電流マシンは、続く希里笑のブラフマストラの前に抵抗する事も出来ず、瞬く間に消し飛ばされていった。
「ふぅ、二人には助けられたね」
　そう言いながら、希里笑は再びリーの首にマフラーを巻く。
　と、リーは密着するほどの距離に慌てながらも、芽生えていた感情をハッキリと口にした。
「あの、希里笑さん……私はあなたを特別だと思っているようです。今はハッキリとそう感じます。ですから、良かったら私の……トモダチになってもらえませんか？」
　その頼みを聞いた希里笑は、少し考えてからリーの手を引いて歩き出す。
「何言ってるの。もう最初から友達じゃないか」
　口調はやはり素っ気ないものだったが、その口元は微かながら緩んでいた。

●或いはそれも二人の日常
「俺はなあ、お前といると楽しくて仕方ないんだ」
　二体の電流マシンを前に、ベルモット・ギルロイ（白熊さん・e02932）は笑いを漏らした。
「美人なのにやる気がなくて、その上言動がエキセントリック。そんなお前と一緒にいられて俺は幸せだよ」
「そうですか。なら、一晩二千円でいいですよ」
　普段と何が違うのか分からない調子ながら、エラ・シルバーローザ（銀薔薇先生・e01487）はさらりとそんな事を口にした。
「二千円？　なら一生分買い取ってやる」
「マジかよ。ちょっと料金換算するので待ってください」
「……まあ、慌てんなって。まずはこの出歯亀どもを片してから、二人でじっくりと楽しもうじゃないか！」
　そう言うが早いか、ベルモットは地を蹴って一気に敵へと迫った。
　様子見を決め込んでいた二体は不意を突かれて狼狽える事しかできず、まずは一体がベルモットの放った蹴りの餌食となった。
　吹き飛ぶ仲間に驚きつつ、残ったもう一体は反撃に出ようとライフルの砲口をベルモットに向ける。
　だが、射撃するよりも先にベルモットから二発目の蹴りが飛んできた。
「おらおら、どうした？　そんなんじゃ、俺とエラの熱い夜を邪魔できねぇぞ？」
　無様に転がっていく電流マシンに、ベルモットは嘲笑を浮かべた。
「がんばれがんばれ。やっぱり、夜を一緒にするなら強い男の方が良いですからね。……あ、もふもふはさせてくださいよ」
　後ろではあまりやる気のない調子で、エラが次々とヒールをベルモットに送る。
　二人の挑発的な態度を理解したのかどうかは分からないが、二体の電流マシンは起き上がるとプルプルと身を震わせながら、二人に向けて一斉にバスタービームを発射した。
　同時攻撃に一瞬は身構えたベルモットだったが、一方の攻撃をテレビウムのテレビっ子が肩代わりした事でその表情は再び余裕の笑みへと変わった。
「へっ、テレビウムもお前らには飽き飽きだとよ。早いとこスクラップにしてやるから大人しくしてな！」
　ベルモットは迫ってくるビームを正面から受けつつも強引に突っ込んでいき、ナイフを敵の胴体に深々と突き入れた。
　心臓部を貫かれた電流マシンは、火花を撒き散らして動かなくなる。
　残ったもう一匹がもう一度攻撃を試みるが、勢いに乗ったベルモットの動きには間に合わなかった。
「無駄な足掻きは求めてねぇんだよ。いいから黙ってポンコツに成り下がってろ！」
　全体重を乗せた強烈な右ストレートが、電流マシンの胴体を一撃でぺしゃんこに押し潰す。
　電流マシンはボンッという音と白い煙を残して、文字通りのスクラップと化した。
「ったく、もうちっと手応えがあっても良かったんだがな」
　まだ暴れ足りない様子で、ベルモットが拳をポキポキと鳴らす。
　と、先刻の話を思い出してエラに振り返った。
「ところでエラ……今夜くらいは二千円で折り合わねぇか？」
「嫌ですよ。百億積んだら、考えても良いですけど」
　口振りこそ変化なかったが、エラはキッパリと申し出を断った。
「ははっ、やっぱそうだよな。そうでないとお前らしくねぇか」
　それを聞いて、ベルモットは心底愉快そうに笑い声を上げた。

●二人の夜に祝杯を
　煌びやかなイルミネーションの中、ベンチに腰掛けた天城・恭一（イレブンナイン・e00296）とリョクレン・オルヴィアグレス（殲華の終獄・e19000）は静かな一時を過ごしていた。
「本当にこんなんで、カップルとして認識されるのかね？」
「なに……これで足りないのなら、もっと恋人らしい事をしてしまえばいいさ」
　そう言って、リョクレンは恭一にしな垂れかかる。
「恋人らしい事ねぇ……。それじゃ一つ、こういうのはどうだ？」
　恭一は煙草を二本取り出して片方を咥えると火を付けて、もう一本をリョクレンに咥えさせる。
　意図を理解したリョクレンはゆっくりと顔を寄せ、煙草の先端を触れ合わせた。
「ふふっ、こういうのも恋人の特権という奴か」
　紫煙を吹きながら、リョクレンが妖艶な微笑を浮かべる。
「んっ……」
　しばしの間、時の流れに身を任せていた二人だったが、不意に流された電流に身体をぴくんと震わせた。
「……どうやら、邪魔が入ったみたいだな」
　リョクレンの髪を優しく撫でながら、恭一は小さく溜め息を吐く。
「こうして恭一と触れ合うのは胸が高鳴って心地好い時間だったのだが……仕方ないな。夜はまだ長いんだ、じっくりと愉しもうじゃないか」
　リョクレンもまた、少し気だるそうにして身体を起こした。
　電流マシンは、まさに二人の時間を邪魔せんと言わんばかりにじっと凝視していた。
「それじゃ、パパッと片付けるとするか。……リョクレン、今夜は帰さないぜ？」
　恭一はリョクレンの頬にそっと触れて、それから敵に向けてガトリングガンを構えた。
　対する電流マシンもライフルを恭一に向ける。だが、射撃の速さでは恭一の方が上だった。
　速射による弾丸を浴びて跳ね上がる電流マシン。その隙に、リョクレンが素早く接近する。
「さあ、お前も一緒に踊ろうか」
　ブラックスライムが敵を丸ごと呑み込む。
　電流マシンは暴れ回ってそこから抜け出し、リョクレンに照準を合わせた。しかし、その前には恭一が立ちはだかった。
「おっと、リョクレンには手を出させないぜ？」
　リョクレンの身体を包み込むように抱き寄せ、ビームをその背で堂々と受け切った。
　そのまま彼女を抱き上げ、踊るように敵の周囲を回る。
「来よ、来よ、我が祈り、聞き届け給へ──」
　抱きかかえられたリョクレンが詩を紡ぐと、紫電を纏いし巨大な狼が雷鳴と共に姿を現した。
「捧げ賜わらん、眼前の存在よ──贄となれ」
　巨狼が吼える。木霊する獣の咆哮に電流マシンは惑い、ただ竦むだけだった。
　その小さな身体は一筋の雷撃に撃たれ、閃光の中で塵と化す。静寂が戻った時には、そこにはもう何も存在しなかった。
「さてと、ときめきってやつは薄れちまったが……折角だ、酒杯でも上げにもう少し付き合わないか？」
「喜んで付き合おう。特別な夜だ、今夜の酒は格別に違いないな」
　恭一に抱かれたまま、リョクレンはその肩に頭を預けた。

作者：水無月衛人	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年1月8日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 8／キャラが大事にされていた 2
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