恋する電流マシン~愛の散歩道

作者:廉内球

 ヘリオンの前で、アレス・ランディス(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0088)はばつの悪そうな顔をしてケルベロス達を待っていた。
「こんな日だが、ダモクレスの襲撃がある。対処してくれ」
 クリスマス前日に発見されたダンジョン。螺旋忍軍に隠蔽されていたその存在は、城ケ島の戦いで情報を得たケルベロス達によって発見された。正体は、破壊された巨大ダモクレス。現在も修理中であり、修理のためにある『部品』が必要なのだという。
「その部品の材料というのが……人間だ。恋人同士のな」
 苦々しく告げるアレス。『部品』の回収を担うダモクレスは全国に配置されている。アレスが予知したのは、その一部が起こす事件だ。
「敵の名は、恋する電流マシン。奴らは電流を浴びせることで人間の恋愛感情を増幅させ、部品として相応しい状態にしてから殺し、加工しちまう」
 クリスマスイヴに起ころうとしている悲劇を阻止してほしいとアレスは言う。
 
 予知によれば、ダモクレス自体の戦闘能力は高くはない。しかしステルス性能については非常に高く、敵が電流を発さない限り、発見はまず不可能であるという。
「よって、お前たちが囮になる必要がある。更に、恋人同士だとダモクレスに思わせねばならん」
 作戦には、恋人ないしそれに近い関係の相手を持つケルベロスの参加が推奨される。
「敵の数は八、それぞれが恋人と二人で戦えば、戦力的にも丁度良い程度だ」
 ダモクレスはいわゆるデートスポットに現れる。恋人を伴ったケルベロスが捜索を行えば、誘き出し撃破することが可能だろう。
「今回戦うダモクレスは、お前達が扱うバスターライフルに似たグラビティを使ってくる。油断はするなよ」
 更にアレスは、集まったケルベロス達に資料を示した。
「場所は、千葉ポートタワー。今ならクリスマスイルミネーションが見ものだな。一階にはグッズショップと休憩スペースがある。地上百メートルほどの高さにある二階は恋人の聖地にも認定されている場所で、二人の愛に鍵をかける、という意味で、南京錠をかける場所があるそうだ。三階はカフェレストラン、四階が展望台になっている」
 八組十六人のケルベロスで手分けして、いかにもカップルといった雰囲気を出しながら歩きまわれば、ダモクレスは現れ、『恋する電流』を浴びせてくるだろう。
「一般客は既に避難している。スタッフは何人かいるが、事情は通達済みだ。カップルではないから襲われることはないし、近くで戦闘が発生すれば自力で逃げるだろう」
 資料を閉じ、アレスはひとつため息をつく。
「折角のクリスマスイヴだ。任務終了即撤収なんて、野暮なことは言わんさ」
 無事任務を終えた後は、タワー内外でデートもよし。中はクリスマスの飾りつけがされており、夜景も素晴らしい。外は広い公園があり、タワー側面に現れる光のクリスマスツリーを見ることが出来る。
「今なら期間限定のソフトクリームも食べられるわね」
 千鳥・小夜子(レプリカントの刀剣士・en0075) の独り言は、誰に拾われるでもなく流された。


参加者
立花・ハヤト(ラズベリードリーム・e00969)
ディバイド・エッジ(金剛破斬・e01263)
リナリア・リーヴィス(怠惰な観測者・e01958)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(犬好き・e04557)
原・ハウスィ(ヘルシー・e11724)
ローレン・ローヴェンドランテ(神話時代の変態・e14818)
遠野・葛葉(ウェアライダーの降魔拳士・e15429)

■リプレイ


 海風吹く港の一角に建つ展望ビル、千葉ポートタワー。タワー壁面、夕闇にクリスマスツリー型のイルミネーションの輝きが浮かぶ。建物の入り口では七組のカップルが連絡先の交換にいそしんでした。いずれも、ケルベロス。連絡先は全てディバイド・エッジ(金剛破斬・e01263)に集約されていく。
「はっはぁ、これでお互いの状況を把握できるでござるな!」
 必要とあらばアイズフォンですぐさま連絡を取り合える。下準備を終えたディバイドの傍らには、メノウがどこか楽しげに微笑んでいる。
「作戦を確認しよう」
 四辻・樒(黒の背反・e03880)は傍らの月篠・灯音(犬好き・e04557)の手を取りながら、残る片手でタワーのパンフレットを持つ。
「まず一階はわたくしと戮が」
 立花・ハヤト(ラズベリードリーム・e00969)が戮應を振り返る。
「ボクと正義も一階でカップルのふりをするよ」
 ローレン・ローヴェンドランテ(神話時代の変態・e14818)は、リードするように正義の腕を取る。
「二階は私たちだね。……どんなクリスマスだって樒と二人なら楽しめるよ」
 樒と灯音のペアが頷き合い。
「三階は我とクロコ、ディバイドとメノウだな! 面白そうな敵だ、ノッてみようではないか!」
 遠野・葛葉(ウェアライダーの降魔拳士・e15429)は胸を張るが、クロコはそんな葛葉の陰に隠れてしまう。
「私はマスター……竜胆さんと四階で不倫ね」
 リナリア・リーヴィス(怠惰な観測者・e01958)があっさりと言い放つ刺激的な単語に、傍らの竜胆は慌てて否定。
「えっいや、死別してるから不倫では……」
 少々きまずそうな竜胆に、リナリアはいたずらっぽく微笑んで見せる。そんな彼女の様子に反し、場は少々空気が重くなる。その沈黙を破るのは原・ハウスィ(ヘルシー・e11724)だ。
「ハウスィとマルチナさんも四階だね。これで誰もいないフロアは無いかな」
「何かあったらすぐディバイド様に連絡いたしますね」
 マルチナは魔法瓶を片手にウインクして見せる。もっともこれはアイズフォン起動の為であり、誰かに向けたものではなかったが。
 最終確認を終えたケルベロス達は、ポートタワー内部へと突入する。


「さあ始めますよ、わたくしの彼ぴっぴ!」
「……かれぴっぴ? 本人に向かって彼ぴっぴとは言わんと思うが……」
 ハヤトは嬉しそうに戮應の腕を取り、お土産屋へと走る。そんなハヤトの言動に困惑しながらも、戮應は引かれるままに彼女に付き合う。地産地消をテーマとして、びわや落花生、ゆるキャラのグッズが置かれている。その中に、鮫のぬいぐるみがどんと陣取っていた。
「あちらに鮫ちゃんグッズがあります! 見に行きましょう!」
「う、うむ……」
 強引な彼女に振り回される彼ぴっぴ。レジに立つ店員の女性も、ほほえましそうに彼らを見守っている。困り果てる戮應だったが、不思議と悪い気はしなかった。
 少し離れて休憩スペースではローレンと正義のペアが、テーブルを囲っていた。
「ほら、口開けなよ。食べさせてあげる♪」
「えっいや、こちとら正義なんですがそれは……」
 女性にお菓子を食べさせてもらう、それは己の正義感に悖る行い。正義は、ローレンに行方不明の恋人がいるということを知っている。ゆえに今回はあくまで代理であり、本来自分が受けるべき好意ではないと思っていたが。
「……嬉しくないのかい? これって俗に言う『あ~ん』というものでしょ?」
 普段と違ってサングラスにも眼鏡にも阻まれない、ローレンのまっすぐな瞳に射抜かれる正義。迷った末、彼は決断する。
「これも牙無き人々を守るため、致し方ない……ッ」
 そうと決めれば全力を尽くす。それが、正義なのだから。
 一方四階。遠く離れたビルの窓から光が漏れ出し夜闇の中を星のように輝いている。外向きの壁面はガラス張りで、百円玉を投入するタイプの双眼鏡がいくつも設置されていた。ハウスィとマルチナは、長椅子に腰かけて持参のお汁粉に舌鼓を打つ。
「あと二年だべな」
 凛としたメイド服を纏う姿からは想像しがたい方言が、マルチナの口から飛び出す。他に聞く者がいれば思わず振り返るだろうが、ハウスィにとっては慣れた口調だ。彼女がハウスィに心から気を許している証でもある。
「……二年経つまでは、そういう関係にはならないよ?」
「分かってるべ」
 二年後、マルチナが十六歳になった、その時。ハウスィにとって彼女はどんな存在になっているだろう。それとも、マルチナの攻勢にハウスィが折れるのが先だろうか。彼の無表情から、今の感情は読み取れない。心拍数が上がるのはきっと、お汁粉の温かさのせいに違いない。
 タワーの反対側の眺めは、港と東京湾。水平線に日も落ちた暗闇の中、煌々と港を照らす電灯がコンテナの輪郭を浮かび上がらせている。波の様子はここからは見えないが、リナリアと竜胆の心に立つ波は、如何ばかりか。
「さっきのあれは驚いたな」
「そう?」
 リナリアには分かっていた。彼と自分は飲み屋の店主と客であり、それ以上の関係ではない。だから誘った。間違いなど起こらないだろうと思ったから。
 この世で最も美しいものとは、失われたものであるとする考え方がある。喪失の記憶は、やがて穢れえぬ思い出へと変わる。
 勝ち目は無い。……だからこそ。
「今、この瞬間だけは、私だけのアナタでいてね」
 絡まる腕と、指先。潤んだ瞳で見上げてくるリナリアに、竜胆は苦笑する。
「こんなところ、誰かに見られたら大事だな」
 三階のカフェレストランの一角。狐うどんをはじめ、メニューにある限りの食事がずらりとテーブルに並ぶ。湯気の向こうで恥ずかしそうにしているクロコに、葛葉は楽しげに大きな袋を差し出した。
「恋人たちは何かプレゼントとかするらしいな! 子ども相手にもするらしいし、違いが分からんがこいつをやろう!」
 時は十二月二十四日。葛葉の言うことは確かに間違いではないのだが、今この状況は子供同士のほほえましいやり取りに見えなくもない。おずおずと受け取ったクロコは小さな声で、ありがとうと感謝を伝える。
「さあ、冷めぬうちに食べようではないか!」
「は、はい……では、あーん」
「あーん」
 クロコがおずおずと差し出したうどんを、葛葉は箸ごと食べん勢いで口に入れる。にこにこと上機嫌に余裕をアピールしつつ、テーブルの上に視線を走らせる。そしてスプーンを取ると。
「ではお返しだ! アツアツのカレーでどうだ!?」
「い、いただきます……」
 二人はお互いに食べ物を選び、相手の口元に運ぶ。これが実は奢りを賭けた耐久戦だということは、二人だけの秘密。
 離れた席ではディバイドとメノウが食事を囲んでいる。
「メノウ殿、拙者もあーんしてほしいでござる」
「えー、ハニーって呼んでくれたらいいよ?」
「承知した、ハニー!」
「うふふ、じゃああーんして、ダーリン♪」
 クリスマスイブのこの日、見事カップル成立となった二人、という設定。愛があれば十九歳の年齢差などなんのその。相手が愛おしくて仕方が無くて、普通なら赤面しそうな言動も平気でやってのける。そういうカップルだという設定だ。
「敵を誘き出す為とはいえ恋人のフリをするのは……悪くない、悪くないで御座るな」
「もう、私たちホントのカップルでしょ?」
「これは失敬、そうであったな!」
 豪快な笑い声がレストランに響く。二人がいつもより楽しそうに見えるのは、設定によるものではないのかもしれなかった。
 そして、二階。恋人たちの聖地として認定されたこの場所には、樒と灯音の二人きり。一階で南京錠を購入しようとした灯音を、樒は止めた。不思議そうにする灯音の手を引き、イルミネーション前へとやってきた。外側のガラスの前に白い金網が張られ、同じような錠前がいくつもかけられている。
 樒が懐から取り出したのは、綺麗な装飾が施されたアンティーク錠だった。
「普通の錠では、外れてしまうかもしれないからな」
「樒、ありがとう」
 タワーで売っているシンプルな錠の中に、綺麗な古美の錠が掛けられる。かちりと鳴った音が静かなフロアに響き渡る。樒は鍵を灯音に手渡す。自分の愛の全てと共に、灯音に捧げるかのように。
「ん……絶対外さないよ」
 二人の背後では、ハートと鐘を象ったイルミネーションが静かに明滅している。


 痺れるような心地を、ディバイドは自覚する。視界の端にはこの場に不釣り合いな金属質。光線の照射を受けたのだと理解した瞬間、彼のアイズフォンへ次々と遭遇報告が着信した。
「来たようでござるよ、メノウ殿! 愛してるで御座る!」
 ごく自然に口から出る言葉に驚くより速く、メノウの黒一文字の鈍い光が夜闇に重なって見えた。ダモクレスの鋼鉄の装甲をすり抜けた黒き剣閃は、その内部を蝕む。その軌跡を正確になぞるディバイドの空蝉丸が傷跡を切り広げると、ダモクレスは関節をきしませた。
「ね、ダーリン、これって初めての共同作業だよね♪」
「はっはぁ! もういっそ結婚してしまうでござるか、ハニー!」
 ダモクレスが放つ凍結光線も、心を冷やすことは出来ず。さらに重ねるように放たれたメノウの絶空斬が、ダモクレスの装甲を切り裂いていく。そんな彼女の動きを、球体関節の指遣いを、ディバイドはにっと笑顔で見守る。そして。
「纏うは流水、放つは一刀、ご覧にいれよう金剛破斬!」
 流水が、白刃が、弧を描きダモクレスを両断すると、ダモクレスは活動を停止した。
「ディバイドー! こっちも出てきたぞ!」
 三階、物陰から葛葉が叫ぶ。叫びながらも、手はクロコの尻尾へと伸びる。一方クロコも、葛葉の耳元をもふもふ。それでも戦いを忘れず、足元に星辰の力宿す陣を張る。
「狐さんのもふもふはわたしのものなのでデウスエクスさんなんかに渡しませんよ!」
「クロコも我のものだぞ! わはは、なんだこれ楽しいぞ!」
 葛葉がひょいとクロコを抱き抱え、そのまま回し蹴りをダモクレスに見舞う。
「ひゃっ!」
 クロコは突然回転した視界に驚きながらも、好機とばかりに葛葉を強く抱きしめる。ついでにもふもふも堪能していると、その足先を魔法光線がかすめる。
「我のクロコに手を出そうなど百年早いのだ! クロコ、合わせるぞ!」
 呼応するように、クロコの右腕から地獄の炎が噴き上がる。龍王烈震撃による龍王の闘気が降魔の力と混ざり合い、ダモクレスの装甲を変形せしめていく。次の瞬間、床と脚部の摩擦が負け、ダモクレスは壁にぶつかり停止した。
 一方一階、鮫ちゃんグッズのお会計中のハヤトと戮應。おつりを受け取ったところで、体に微弱なしびれを感じた。
「……ああ、来たようだのう。すまんが、奥で荷物を預かってくれんか」
 店員は頷くと、グッズ入りの大きな袋を持ってバックヤードへと退避する。
「敵さんこちら、かかりましたわね!」
 ハヤトは店舗前の広い場所へとひと息に跳ぶ。追うダモクレスを戮應の飛び蹴りが襲った。転倒するダモクレスを追い抜きハヤトを庇うように立つ戮應。その腕に手を回すハヤトの四肢からミサイルが飛び出す。
「戮……ずっとそばに下さいまし……」
 潤んだ瞳で見上げてくるハヤトを、戮應は大きな手でなでる。そして決然と敵の光弾を受け止めると、反撃として振るわれた鉄塊剣が恋する電流マシンを容赦なく叩き潰した。
 時を同じくして、休憩スペースにいたローレンと正義もまた、恋する電流マシンの奇襲を受けていた。
「いいところだったのに、邪魔するなよ」
 ローレンの目は正義に向ける時とは打って変わって冷たくダモクレスを射抜く。放つ古代語魔法が敵の動きを怯ませ、その隙に体勢を整える。
 桃色の光線からローレンを守ると、正義は裂ぱくの気合いを吐く。
「この程度で我が正義は揺るがないッ!」
「かっこいいじゃないか、正義」
 顔を真っ赤にしながら、ローレンが星辰の剣を振り下ろす。重力を帯びたその一撃で、電流マシンは破壊される。
「お疲れ様、付き合ってくれてありがとね」
 ローレンは正義を抱きしめ、お礼のキス。仮面越しとはいえ、今度は正義の顔が赤く染まった。
 四階の展望台。夜景を裂くように、電流が閃く。命中したとハウスィは感じたが、さほどの痛みは無い。
「今の、もしかすっと」
「来たみたいだね」
 望遠鏡とは違う、金属質。それが視界に入った瞬間、マルチナが取りだした芋から蔓が伸び、ダモクレスを絡め取る。
「芋づるは相手を縛るばかりではなく、味噌を染み込ませて編むことで非常時のお味噌汁にも使えるんだべ……さ、今だべ!」
 マルチナに見とれていたハウスィは、はっと気付いて敵に突撃を敢行。達人級に極まった体当たりは、氷の力を宿して鋼の体に衝撃を与える。負けじとダモクレスも冷気の光線を放つが、マルチナの打撃と同時に霊力が網となってさらに絡まり、動きを封じる。
「援護ありがとう、マルチナさん」
 見事な連携。電流の効果もあってか、ハウスィの目には普段よりも彼女が可愛らしく見える。実際、話も合う。二年待つと決めた心が、揺らぎそうになる。
(「いや、まだダメだ……まだ手は出さない!」)
 煩悩を振り切るように、仁王立ちで跳ぶハウスィ。
「アームドフォート格闘術(ハウスィインザスカイ)!」
 重量に位置エネルギーが加わり、落下先にいた恋する電流マシンは木端微塵となった。
 一方、タワーの反対側で電流を受けたリナリアは、気力で即座に状況をリセット。
「この私が恋なんて馬鹿じゃないの?」
 冷たく言い放つ彼女の姿を、椅子と名付けられたミミックが偽財宝をばら撒き隠す。
「いやはや、演技ってのもなかなか肩の凝るもんだな」
 腕を回して凝りをほぐしつつ、竜胆はそのまま殴りかかる。無造作な一撃は音速を超え、敵の装甲を抉る。
「お姉さんはコメディキャラだから、恋愛モノはパスだね」
 敵の放つ光線と交差するように、リナリアが彗星の軌道を描く跳び蹴りを放つ。ダモクレスは破片を撒き散らしながら、機能を停止した。
 そして、恋愛おみくじを引いていた樒と灯音の元へは。
「ここに二体来たか……私達の邪魔をするダモクレスは、スクラップにしないとな」
「ん……こういうのは破壊しなきゃ」
 視線を交わし、二機のダモクレスと向き合う二人。幸いにも周辺に囲いがあり、敵は仕掛けづらそうだ。地の利は彼らにある。
「ただ、全てを切り裂くのみ」
 追求し続けた先に見出した業。樒のナイフが金属を文字通り切り裂き、内部機構を露出させる。続いて灯音が呼び出した御業が炎を吹き、ダモクレスを焼き払った。
「なんだ、あっけないな」
「ん……気を付けて、もう一体」
 囲いを破壊して侵入するダモクレスに、樒が黒影弾を撃ち込んだ。ダモクレスごと木製の格子が吹き飛び、破片が周囲に散らばった。敵の攻撃に備えた灯音が白い霧を降ろし、防御を固めていく。その霧を光が通過、灯音に命中した光弾はしかし、霧によって幾分威力をそがれていた。
「灯に手を出すとは、許すわけにはいかない」
 雷の速さで駆け抜ける樒。刹那ののち、ダモクレスの鋼鉄の体には深々とナイフが突き刺さっていた。そして、その刃が抜かれた直後、ショートしたような小さな破裂音を発しながら、ダモクレスは崩れ落ちた。


 ひとまずは戦いを終え、ケルベロス達は一階の休憩所に集まっていた。周辺にはちらほらと一般人カップルが戻りつつある。
「皆様は、これからどうなさるのですか?」
 ハヤトは大きな袋を抱えながら問う。戮應が持ってやろうとしたものを、断って自分で抱えているものだ。中身はもちろん、鮫ちゃんのぬいぐるみである。
「我は食事の途中であったから、戻って食べてくるつもりだ!」
 勝負の途中だしな、とクロコを見ると、彼女も自信なさげに頷いた。
「ハウスィ達も、もう少し展望台で景色を見ようと思ってるよ」
 事件解決の為に戦ったケルベロス達には、展望台が無料開放されている。
「行ってまいりますね」
 マルチナがふわりと優雅に手を振り、ハウスィと共にエレベータに消える。
「拙者は少し、夜風に当たるでござる」
「あっじゃああたしも行く!」
 先ほどの戦いで体に溜まった熱を冷ますべく、ディバイドとメノウは波打ち際のベンチを目指した。外にもライトアップやイルミネーションがあり、それを眺めるもまたいいかもしれない。
「私はどうしようかなー」
 リナリアは思案顔だ。家へ帰るにはまだ早く、どこかへ行くにはやや出遅れたと言える時間帯。こんな日だ、レストランもバーも、人でいっぱいになっていることは容易に想像がつく。
「アテが無いなら、このあとうちで飲んでいけ。奢らんけどな」
「奢りじゃないならどうしようかなー?」
 迷うように見せながら、答えはもう決まっている。外へと向かう竜胆の背を、リナリアは追いかけていく。
「ボクと正義は一旦帰るよ。……正義、大丈夫かい?」
 仮面の隙間から煙でも出ているかのように、正義はふらふらとして反応もままならない様子だ。ローレンはそんな正義の手を取り、じゃあおやすみと言葉を残してタワーを後にする。
「さてと、デートの続きをしましょうか」
 灯音が頬笑み、樒が頷く。彼らのクリスマスの続きは、また別のデートスポットで。タワーから遠ざかる二人を、壁面に浮かぶ光のクリスマスツリーが見送っていた。

作者:廉内球 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 13/キャラが大事にされていた 4
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