●デートスポットのダモクレス
「もう知ってる人もいるかもですけど、新しいダンジョンが発見されました!」
しかもただのダンジョンではなく、体内に残霊の発生源を内包する巨大ダモクレスが破壊された姿であるという。ケルベロスたちの反応を待たず、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は説明を続ける。
「こんな目立つものが今まで発見されなかったのは不思議ですよね。実は、ダモクレスの勢力に協力している螺旋忍軍の一派が隠蔽してたみたいなんです」
きっかけとなったのは、城ヶ島の螺旋忍軍拠点から回収した秘密書類。それを解析した結果、ダンジョンの発見に至ったという。
「それで、このダンジョンは現時点でも修復中なんですけど……探索の結果、三つの事実が判明しました!」
一つ目は、このダンジョンの修復には『つがいである2体の人間を同時に殺害して合成させた特殊な部品』が必要であるということ。
ニつ目は、その特殊な部品を回収するため、日本各地に部品回収用のダモクレスが配置されているということ。
三つ目は、部品回収用のダモクレスが潜伏している場所。
「それが……いわゆる『デートスポット』みたいなんです!」
部品回収用のダモクレスは「デートスポットに訪れる男女の恋心を増幅させて部品にふさわしい精神状態にする」電流――『恋する電流』を浴びせた後に男女を殺して、ダンジョン修復のための部品としているようなのだ。
「これ以上、殺されて部品化されるカップルを増やすわけにはいきませんよね! そういうわけで、ケルベロスの出番なのです!」
●光の元へ
今回戦うことになるダモクレスの戦闘能力はあまり高くない、と手元の資料を見ながらねむが説明する。
「ただ、とっても隠密性が高くて、ダモクレスの放った電流を浴びせられない限りは発見することができません」
つまり、ダモクレスが『人間のつがい』であると判断する関係にある者たちか、一時的にでもそのような状態を演出できるケルベロスが作戦に参加する必要がある、ということだ。
「このダモクレスの名前は、その能力から仮に『恋する電流マシン』と呼びますね!」
この恋する電流マシンは、デートスポット一箇所につき8体が配置されている。8組のカップル、あるいはカップルに偽装したケルベロスがまんべんなく捜索することで、全ての恋する電流マシンを破壊することができるそうだ。
「恋する電流マシンは、バスターライフルのグラビティを使用します。あんまり強敵じゃないですけど、こちらも2人で戦うことになるわけですから……互角の戦いになると思います、気をつけてくださいね!」
いつの間に広げていたのか、ねむは群馬県の地図の一点を指差す。
「お集まりいただいた皆さんに向かってもらうのはここ、榛名湖イルミネーションフェスタ2015の会場です。ここに恋する電流マシンが8体、いるのです!」
イベントの詳細はこちらを、とねむがチラシを手渡す。
会場はLED約55万個を使用したイルミネーションでライトアップされる。光湖面を利用した幻想的な「水中ツリー」は見どころのひとつだという。
夜間運行のロープウェイで榛名富士山頂に登れば、イベント会場の全景はもちろん、高崎市と前橋市の夜景を眺めることもできる。
「群馬県で最も人気のあるイベントのひとつといわれるだけありますね。ねむ的には打ち上げ花火と会場内の屋台もおすすめです!」
この見どころ満載のデートスポット内でカップルらしく歩き回れば、ダモクレスが「恋する電流」を浴びせてくるというわけだ。
「電流を浴びせられたら、その発生源を確認して戦闘を挑んでください!」
戦闘においては、周囲を気にする必要はないそうだ。
一般人カップルは一時的に避難させている。会場にいるスタッフはカップルではなく普通に働いているが、事情は知っているとのことだ。そうなると、イルミネーションフェスタでは16人のケルベロスだけが狙われることとなる。人払いも必要ないだろう。
「デウスエクスって、ほんと空気読みませんよね! しかもカップルを殺して部品にするなんて……ケルベロスのみんな、今回もよろしくお願いしますね!」
と、ねむが勢いよく頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701) |
上月・紫緒(狂愛葬奏・e01167) |
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683) |
ダニエラ・ダールグリュン(孤影・e03661) |
新条・あかり(点灯夫・e04291) |
サクラ・チェリーフィールド(四季天の春・e04412) |
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753) |
蒼威・翼(空に憧れる少女・e13122) |
●榛名山ロープウェイ
蒼威・翼(空に憧れる少女・e13122)は、さっそく緊張していた。
(「やっぱりこういうのってドキドキするよね……」)
作戦といっても、男性とのデートには変わりない。いつもより少しぎこちない笑顔で、元気に話しかける。
「ロープウェイからの景色って綺麗だよね!」
「ええ、美しい景色です。ふふ、こういうのも良いものですね?」
翼の隣に座るのは、水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)。こういったことにあまり慣れていないが、作戦の成功を願っている。
「もっと近づいたほうがあったかいよ?」
そう言って、翼はアンクを上目遣いで見る。ゆっくりと二人の距離が縮まり、触れ合ったその瞬間。窓が割れ、恋する電流が浴びせられた。ゴンドラを運ぶケーブルの上からだ。
「いきましょう。クリスティ流神拳術……参りますよ」
「ノルマを達成できるように頑張ろうね!」
胸の高鳴りを覚えながら、二人はゴンドラの上へと移動する。アンクは右の手袋とコートの袖を白炎で焼き、右腕の地獄を解放した。そのまま見舞うのは、ブレイズクラッシュ。
「壱拾四式……『炎魔轟拳(デモンフレイム)』!!」
翼もブラックスライムを捕食モードに変形させ、敵の行動を阻害する。アンクは放たれたバスタービームを回避し、翼の側へと着地する。そしてそのまま左腕で翼を抱え、隣のゴンドラに跳び移った。
「空を飛んでみたい……と仰ってましたよね。少しは叶ったでしょうか?」
「わ、わわ、顔、ち、ちか、近いよ!」
「そこは御容赦を」
赤面する翼を降ろし、アンクは恋する電流マシンへと蹴りを――達人の一撃を加える。あまりにも大きな打撃に、恋する電流マシンは弾け飛んで消えていった。
アンクはスマートフォンを取り出し、短文SNSで撃破の報せを送る。
「どうやら、まだ敵を倒したチームはいないようですね。私たちで他を探しましょう」
その前に、とアンクは翼へゴンドラのヒールを依頼した。翼によって修復されたゴンドラは、破損していた箇所に明滅する光を帯びる。
二人はうなずきあい、イルミネーション会場へと向かった。
●屋台1
葡萄雨を片手に新条・あかり(点灯夫・e04291)がくるりとまわる。林檎柄スカートがひらりと踊れば、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が手袋をしているのが目に入った。
「付けてくれてるんだ……嬉しい」
「暖かくて手に馴染む。ありがとう、この刺繍は何かの花かな」
きっと何か意味があるんだろうな、と陣内が呟く。耳を動かして動揺を示すあかりの顔をじっと見つめると、ムードに呑まれて思わずキスしそうになる。が、屋台スタッフの視線とその意味に気づいた陣内は慌てて手を振る。待て、通報は待って、と。
そんな二人を背後から襲うのは、敵が放った電流だ。改めて顔を見合わせれば、いつもよりも胸がときめいているのがわかる。
だが、敵の撃破が優先。陣内は一瞬にして気配を消し、敵の死角から急所を狙う。陣内が「猫」と呼ぶウイングキャットも、尻尾の輪を飛ばして加勢する。続くあかりはチェーンソー剣を水平に構え、摩擦炎を伴う大打撃で敵を炎に包んだ。あかりに向かうビームを陣内が庇いつつも、受けたダメージをものともせず絶空斬で切り伏せる。猫も爪を伸ばし、勢いに任せて引っ掻いていく。あかりがブラックスライムで敵を穿つと、今度は陣内へとレーザーが向けられた。あかりは素早く陣内の前に立ちふさがり、攻撃を受ける。
「お前も庇いに来たら意味ないだろう。こういう時は俺に任せておけばいいんだ」
「僕がかわした先にタマちゃんがいただけだよ?」
「どんな理屈だ、それじゃ回避になっていないだろう」
「いいの。タマちゃんが回避したのと同じ結果なんだから」
と、あかりが顔を逸らす。まったく、と呟いた陣内はゆくし丸を握り直し、敵の急所のみを切り裂いた。両断された恋する電流マシンは、静かに消滅していった。
電流の効果が消えたあかりは、慌ててエイティーンを発動する。
「大丈夫です、この人不審者じゃありませんから!」
とスタッフに主張するも、陣内の顔を見ることはできない。
赤面しながら視線を落として短文SNSで撃破報告をすると、現在の撃破数は2体。微妙な距離を保ちながら、二人は次の敵を探しにロープウェイ乗り場へと向かった。
●屋台2
サクラ・チェリーフィールド(四季天の春・e04412)は、イリヤと共に歩みを進めていた。陽動のためとはいえ、緊張は隠せない。平常心を保とうとするが、その顔は既に紅潮している。二人は、イルミネーションを見ながら屋台エリアへと向かってゆく。吐く息は白く、指先は冷えている。寒い冬だからこそ、温かいものが恋しくなる。そんなサクラの気持ちを汲んでか、イリヤが問いかける。
「何か温かい物でも買って食べましょうか」
「では――たい焼きはどうでしょう?」
と、目についた屋台を指差す。サクラは財布を取り出そうとするイリヤを制し、代金を支払った。
「気になるのであれば、他のものを何かいただければ」
笑顔を向けつつ、サクラは受け取ったたい焼きを半分に分ける。中のあんから、湯気が立ち上っている。
「え、えぇと、よかったら食べさせて差し上げましょうか?」
「え、えーと、では、お願いします?」
顔を赤らめるサクラが差し出したたい焼きを、イリヤが頬張る。口の中には甘み、心にはなんとも言えない感情が広がっていく。イリヤが感想を言おうとしたところで、二人を電流が襲った。屋台の後ろにある植え込みから放たれたようだ。二人は胸をときめかせながらも、臨戦態勢となる。
「サクラさんの綺麗な肌に傷は付けられないからね。指一本触れさせないよ?」
「……その、ちゃんと守ってくれるって、信じてますから」
サクラは敵へと進み出、ルーンを発動させたルーンアックスを振り下ろす。続くボクスドラゴンのエクレールが、ブレスを浴びせる。さらにイリヤが地獄の炎を剣に纏わせ、斬りつける。イカロス・メーヘリオで炎を灯された恋する電流マシンは、フロストレーザーをサクラへと放った。が、イリヤがすかさず前に出て、代わりに攻撃を受ける。動揺しながらも、サクラは胸が一段と高鳴るのを感じていた。
「……その、守ってくださってありがとう、ございます」
サクラは抱きしめたい衝動に襲われつつ、武器を握りしめ跳躍する。敵の頭上から一撃を決めれば、恋する電流マシンは粉々に砕けた。
「やりましたね! 褒めて、くださってもいいんですよ」
嬉しそうにはしゃぐサクラを見て、イリヤも思わず笑顔になる。
短文SNSを見ると、既に2体撃破されていた。次の戦闘に入った旨のメッセージも入っている。これなら大丈夫だろう。イリヤはうなずき、サクラへと手を差し出す。
「折角来たことですし、今度は戦いのことを気にしないで見て回りましょうか?」
「ええ。喜んで」
腕を絡めるようにして、サクラはその手を握った。
●湖面付近
湖面にほど近い場所でイルミネーションを楽しむのは、マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)と渉。マキナは頬を紅潮させて腕を組み、渉に寄り添っている。もう片方の手には、イベントの案内パンフレット。いかにも観光に来たカップル、という感じだ。
伝わってくる体温のぬくもりが、心をも暖かくしていくように感じられる。なんだか落ち着かないのを誤魔化しつつ、マキナが問う。
「渉、カップルがする行動はこれで大丈夫かしら? 感想も併せて教えて欲しいわ」
「俺も確信はないですけど、パッと見た感じは大丈夫だと思います。ええと……感想、ですか……?」
普段と違う彼女の姿を見て言いよどみ、動揺する。それをじっと見つめるマキナ。正直に言っていいものかと、さらに迷う渉。そのまま数十秒間見つめ合っていた二人に、まるで空気を読まないかのような電流が浴びせられた。
電流の発生源は、イルミネーションだ。恋する電流マシンは、イルミネーションに偽装していたらしい。
(「これが心が、狂おしい感覚……」)
胸のときめきを抑えこみ、マキナが飛び蹴りを炸裂させる。渉は戦闘に集中するために、シャウトで電流の効果をかき消した。戦闘に臨む彼は、普段の弄りやすそうな雰囲気とはまったく異なる。敵のビームを受けても、冷静にダメージの程度を把握していた。
「なんてこと、大丈夫!?」
だが、マキナは放っておかない。不安そうに駆け寄り、すぐさま回復を施す。大丈夫ですから、と渉はガトリング連射を仕掛ける。マキナは放たれたレーザー光線をかわし、構造的弱点を見ぬいての一撃を叩きつけた。その直後、渉は卓越した銃捌きで敵を正確に撃ち抜く。その様子を、異常なほどにときめきながらマキナはと眺めていた。
敵は、二人の攻撃によって既に壊れかけている。あと一息で倒せそうだ。マキナは光弾によるダメージを受けるが、あと少しとわかっていれば回復の必要はない。だから、ACP S.T.R.U.C.Tによる、全兵装を以った集中攻撃を叩き込む。恋する電流マシンが完全に沈黙するのを待たず、マキナは渉に抱きついた。
「ぶぶぶ部長ってーかマキナさん距離が近い近い近い!?」
敵が消滅したところで正気に戻ったマキナは、凄まじく動揺している渉からすぐさま離れた。羞恥と申し訳なさで、頬を赤くしながら頭を下げる。
「暴走して申し訳ないわ。でも貴重な経験だったわ、ありがとう」
アイズフォンで撃破状況を報告すると、現時点で3体が撃破されている。10分休憩ののち、まだ撃破されていない個体があれば撃破に向かおうとマキナが告げる。
「全部終わったら、あらためてイルミネーションフェスタを楽しみましょう?」
●光のトンネル
上月・紫緒(狂愛葬奏・e01167)は柊の手を引き、光のトンネルを訪れていた。青い光は二人の頭上を照らし、訪れを歓迎しているようにも見える。
「……凄いです、ね。こういうの、普段は空から見下ろすだけなので……」
「そうですね。こんなに素敵なイルミネーションは、なかなか見れませんよね」
緊張する柊に対して、紫緒には余裕が見える。トンネルの中ほどまで来たところで、紫緒は柊に飛びつく。慌てて紫緒を受け止めたところではすぐさま頬にキスをされ、茹だったように赤くなった。その姿は、まるで初々しい彼氏。紫緒は悪戯っぽい笑顔を浮かべて、様子をうかがっている。
「し、紫緒さん……っ!」
落ち着きのない柊を前に、紫緒は可愛らしく首を傾げ、目を細める。
「大好き、愛してるよ♪」
「えっと……その、僕も、……あ、あい、愛して、ます……」
図らずも精一杯の告白をする様子を、恋する電流マシンは見逃さない。電流を浴びせられたところで、紫緒は自慢の黒い翼をはためかせ、地獄を纏った羽根を撃ち込んだ。トンネルの上に陣取っていた恋する電流マシンは、トンネルの中へと落ちてくる。
「ねえ、私にはそんな電流はいらないんだよ。だって私はみんなを、すべてを愛しているんだから♪」
愛も憎しみも、紫緒にとっては同じこと。そんな彼女の隣で、柊は一瞬高鳴った胸をシャウトで無理矢理抑えつける。
「……ま、紛い物は、駄目です」
敵はフロストレーザーを紫緒へと直撃させる。紫緒は痛みをものともせず、自己回復を伴うグラビティを見舞う。続く柊は「最終章」で少しばかり大きなダメージを与える。
敵はよろめきながらも、ビームを柊に直撃させる。紫緒は心配そうに柊を見遣りながらも、地獄の炎弾を敵に喰らわせていく。戦闘中はタガが外れて狂人めいた行動をする紫緒も「恋する電流」のせいか、気遣いを見せていた。
「だ、大丈夫です、心配しないでください」
と、柊も時空凍結弾を撃ち込む。敵の放った光弾をひらりとかわした紫緒は、再び地獄を纏った羽根を撃ち出した。その一撃を受けて、敵はぐしゃりと崩れるように消える。
紫緒は柊に向き直り、丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます、ヒイラギさん」
ところで、と柊の顔を覗き込む。
「……本気で私の愛を受け止めてくれませんか?」
とたんに赤くなる柊を見て、紫緒はにしし、と笑う。
「……冗談ですよ♪」
「……駄目ですよ、紫緒さん可愛い人なんです、から……勘違いします」
安堵とも残念ともつかない息を零す柊を見て、紫緒はまた悪戯っぽい笑みを浮かべた。
(「冗談だけど、冗談じゃないんだけどなー」)
口にはしない言葉を、そっと心にしまいながら。
●榛名富士山頂
友人関係にあるダニエラ・ダールグリュン(孤影・e03661)とビリオンは、榛名富士山頂付近、その空中にいた。
冬の冷たさも澄み切った空気も好きなダニエラだが、今はそれどころではない。翼飛行をするビリオンにお姫様抱っこされ、震えている。贈り物のミトンをつけた手をビリオンの首の後ろに回して、落とさないでくれよと呟きながらひしと抱きついている。イルミネーションが広る様子を見ている余裕など、まったくと言っていいほど無い。そんな彼女を意に介さず、作戦だからと照れもせずにビリオンは楽しんでいる。
「俺が居なければ、こんな場所から眺める事も出来なかったんだぞ」
とはいえ、話を聞く余裕がダニエラにあるはずもなく。それでも、遠くから見れば仲良く空中からイルミネーションを楽しむカップルに見えたのだろう。山頂から放たれた電流が二人に浴びせられた。とたん、ダニエラは胸の高鳴りと同時に、安堵を覚え始める。
(「……私は何を恐れていたのだろう。ビリオンがこうして抱えてくれているのだから、落ちよう筈もない」)
敵の側へ着地したところで、ダニエラはジョブレスオーラでビリオンの耐性を高める。
「お前みたいな悪趣味なダモクレスに負ける気はしないな」
ビリオンがレーザーを放つと、敵も負けじとエネルギー光弾を放ってくる。ダニエラは血相を変えて駆け寄り庇うが、ビリオンも黙ってはいない。
「そんな真似をして、覚悟は出来てるんだろうな!」
自分のために怒ってくれている。ダニエラはときめきながらも痛烈な一撃を見舞い、確実にダメージを敵へ与えていく。さらにビリオンが攻撃を食らわせたところで、敵は彼へと凍結光線を放ち、直撃させた、血相を変えて駆け寄るダニエラが、素早く回復グラビティを使用する。普段なら「大きいんだ、しっかりしろ」くらいで済ませるところなのだが。
ビリオンは再び攻撃を繰り出し、敵の体力を削っていく。満身創痍の敵は、ダニエラへとビームを放つ。ダニエラがそれを回避してエネルギーの矢を撃ち込むと、敵は崩れて消えていった。
短文SNSで状況を確認すると、ちょうど6体目の撃破となったようだ。残る2体に苦戦している様子もない。アプリを終了させて、ダニエラは夜景を一瞥する。既に胸の高鳴りも消えているが、どこか心地よい。
「折角だ。歩いて見て回ろう」
ダニエラの髪が、夜風になびく。眼下に広がるイルミネーションが、いっそう光を増しているように見えた。
●幻想イルミネーション
「敵を貫く蒼穹の彼方! いっけー!!」
翼の掛け声とともに、ひときわ大きな打撃が恋する電流マシンを襲った。派手に装甲が吹っ飛び、敵は消滅下する。キノコや動物をかたどったファンタジーなイルミネーションを前に、恋する電流マシンを撃破したのだった。
「これで7体目ですね。あとは他のペアに任せても大丈夫でしょう」
メッセージを送信し、アンクはうなずく。それに同意を示した翼は、次いでぺこりと頭を下げた。
「アンクさん、ボクと付き合ってくれてありがとうね!」
「いえ、こちらこそ。せっかくですし、もう少し見ていきましょうか」
「もちろん! ボクもアンクさんと観光していけたらって思ってたんだ」
「では、屋台で何か食べていきましょう。……ああ、私が支払うのでご心配なく」
さすがに悪いよ、いえいえ大丈夫ですから、などと言い合いながら、アンクと翼は連れ立って屋台の方へと歩いていく。やがて、おいしそうな匂いが二人の鼻をくすぐった。
●ロープウェイ乗り場
あかりはそっと陣内の手に触れた。再び浴びせられた、恋する電流のせいだ。
「手袋に咲いてるのは、ナズナ。花言葉は『あなたに全部あげる』だよ」
その言葉に、意味に。陣内は戦闘中にもかかわらず、手を握り返した。
「僕があげられるものは全部あげる。だからタマちゃん、傍に居て」
陣内は、手を握る力を強める。猫も、あかりの足に身をすり寄せた。
それが、返答だ。
やがて二人は、阿吽の呼吸で敵を翻弄し、撃破した。これで、この会場全ての恋する電流マシンが撃破された。
撃破のメッセージを仲間へと送信し、どちらからともなく手を差し出した。二つの手は、ナズナの刺繍を掌に合わせるようにして繋がれる。
寒さに身を寄せ合えば、花火の上がる音がした。遠くに見える湖面に、鮮やかな光が現れては消えていく。
ほとんど無意識に、陣内とあかりは見つめ合っていた。そのままゆっくりと近づいていく二人の顔を、移り変わる花火の色彩が染めていた。
作者:雨音瑛 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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