恋する電流マシン~ツインアーチに架ける恋

作者:朱乃天

 12月24日――聖なる夜に、世界中の多くの恋人達が愛を語らい育む特別な日。
 しかしその一方で、新たなダンジョンが発見される事となる。
 それは、体内に残霊発生源を内包した巨大ダモクレスが破壊された姿であった。
「このダンジョンは現時点も修復中で、ダモクレス勢力に協力している螺旋忍軍の一派が隠蔽していたせいで、今まで発見されなかったんだ」
 クリスマスパーティで盛り上がっている最中、玖堂・シュリ(レプリカントのヘリオライダー・en0079)が事件の内容を話し始める。
 普段と変わらない淡々とした様子のシュリだが、一応折角のクリスマスという事で、今日ばかりはサンタの衣装を着てケルベロス達の前に立っていた。
 とはいえ、任務を伝える彼女は至って真剣だ。
「ダンジョンを探索した結果だけど、判明した事がいくつかあるよ」
 まず、このダンジョンを修復するには『つがいである2体の人間を同時に殺害して合成させた、特殊な部品』が必要な事。
 そしてそれを回収する為に、日本各地に部品回収用のダモクレスが配置されている。
 ダンジョン探索によって回収用ダモクレスの潜伏箇所が判明した為、これ以上、殺されて部品化されるカップルが出ないように阻止する事が今回の作戦だ。

 続けてシュリは、ダモクレスの特徴についての情報を説明する。
「今回事件を起こしているダモクレスは、主にデートスポットに潜伏しているみたいだね」
 クリスマスにはそうした場所に人が多く集まる。
 ダモクレスはそこに訪れたカップルに対して恋心を増幅させて、部品に相応しい精神状態にする電流(恋する電流)を浴びせた後に、殺して部品にしてしまうようだ。
「このダモクレスだけど、戦闘力は高くないけど隠密性に優れているね。また、ダモクレスの電流を浴びせられない限り、発見する事は出来ないんだ」
 つまり今回作戦に参加するケルベロス達は、ダモクレスが『人間のつがい』だと判断する関係性のある者達か、一時的にでもそうした状態を演じる事が出来る者に限られるのだ。
「それでこのダモクレスだけど、その能力から『恋する電流マシン』と呼ぶ事にしたよ」
 各地のデートスポットには、それぞれ8体の『恋する電流マシン』がいる。
 そこで、8組のカップル或いはカップルに偽装したケルベロスが満遍なく捜索する事で、全ての『恋する電流マシン』を破壊する事が可能となる。
 また、敵はバスターライフルと同等のグラビティを使用して攻撃してくるが、能力的には2人で互角に戦える程度の強さだ。

「キミ達に向かってもらう場所だけど、愛知県一宮市にある国営木曽三川公園になるよ」
 木曽三川をまたいで東海三県にわたる、日本最大の国営公園だ。そこのメイン施設となる展望タワー・ツインアーチ138を中心に、当日はクリスマスイベントが開催される。
 会場は約50万球のイルミネーションで彩られ、138メールの高さの展望台から眺める事の出来る夜景も鮮やかだ。
 一般人のカップルについては避難させているので、狙われるのはケルベロスのみとなる。
 このデートスポット内をカップルらしく徘徊すれば、ダモクレスが『恋する電流』を浴びせかけてくるので、電流の発生源を確認して戦闘を挑めば良いだろう。
「年に一度のクリスマスの日に、幸せな時間を過ごすカップルを殺して部品にするなんて、見過ごす事は出来ないからね」
 他人の恋路を邪魔する者には鉄槌を下すべきである。シュリは一通りの説明を終えた後、ケルベロス達の方にチラリと視線を送る。
「キミ達も、色々大変だと思うけど……頑張ってね」
 最後は何か言いたげなようにも思えたが、多分気のせいだろう。


参加者
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)
レリア・フォーネリー(夜露草・e00527)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
餓鬼堂・ラギッド(探求の奇食調理師・e15298)
中村・一縷(旅の終わりを見つけた仕事人・e16702)
霧咲・茨貴(ディーヴォ・e16779)
小夜啼・琲音(燈火・e16940)
朔夜月・澪歌(ヒトリシズカ・e18093)

■リプレイ

●薔薇に託す想い
 夜の闇を色彩豊かなイルミネーションが眩しく照らし出す。
 日本最大の国営公園でもある国営木曽三川公園は、クリスマスイベントの会場としてイルミネーションで装飾されて、クリスマスムードを盛り上げていた。
 本来なら多くの恋人達で賑わうデートスポットも、現在いるカップルはたった五組のみ。
 そのうちの一組、美しく咲き誇る薔薇の小道を歩いているのは、マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)とヴァンフレッドだ。
 英国軍人として凛とした雰囲気を漂わせるマルティナには、薔薇の気高さがよく似合う。片やヴァンフレッドは傭兵として、彼女に付き従っていた。
 そんな関係の二人だが、今夜ばかりは主従関係のない、対等な恋人同士という立場で接していた。全てはカップルを狙うダモクレスを倒す為に――。
 とはいえ今まで恋愛経験のないマルティナにとって、一体どのように付き合えばいいのか分からず戸惑っていた。
「(せめて手ぐらいは繋ぎたい……けど……)」
 秘めた想いを抑えつつ、まずは袖を引っ張るところからと軽く抓もうとするが。伸ばした手の指先は彼の手に触れてしまい、緊張のあまり身体が強張ってしまう。
「なンだぁ? 手ぇ繋ぎてぇのか?」
 ぶっきらぼうな口調のヴァンフレッドだが、そこにはマルティナへの思いやりがあった。
 彼女の答えを待つまでもなく、差し出された手に自身の掌を重ね合わせる。お互いの掌の中に、それぞれの温もりが伝わってくる。
 嬉しいはずなのに、何だか息苦しくなって、抑えきれないほどの胸の高鳴りを感じるのが分かる。これが恋というものなのか……。
 マルティナはまともにヴァンフレッドの顔を見れずに視線を逸らすと――そこには一体のダモクレスの姿があった。
 この胸のときめきはダモクレスの恋する電流を浴びたせいだろうか。しかし今はそんな事はどうでもいい。目の前を敵を倒そうと二人は力を合わせるのだった。
 息の合った連携プレーで二人は電流マシンに損傷を与えていく。電流マシンも魔法光線でマルティナを狙い撃とうとするが、ヴァンフレッドが彼女を傷付けまいと盾になる。
「コイツに傷付けさせてたまるかよ。俺の大事な女だからなァ」 
 彼の一言にマルティナは赤面してしまい、潤んだ瞳でヴァンフレッドを見つめると、彼も見つめ返しながら彼女の顎をくいっと押し上げる。
「あぁ……俺にゃもうお前しか瞳に映らねぇ。……なぁ、このまま俺と一緒になろうぜ?」
「……馬鹿、今は戦闘中……だから……後で」
 顔を近付けてくるヴァンフレッドに対し、せめてものお礼とばかりに頬に口づけをする。
 ヴァンフレッドは満足そうな笑みを浮かべると、後は何も言わずに戦闘を再開する。
「フン……。さて、貴様など私達の愛の力に敵うものか」
 軍人としての顔つきに戻ったマルティナは、ヴァンフレッドと協力して電流マシンの一体を難なく倒し終えるのだった。
 ――既に電流の効果は切れたはずだが、二人の熱い想いは冷めやらない。
「コレのお返しは、たっぷり返してやるからよ」
 彼女の唇の感触が残る頬を撫でながら、ヴァンフレッドは再びマルティナの手を握る。
「……他も見に行こうか。折角のデート、だからな」
 緊張で強張っていた表情が、微かに綻んだ。無意識に抱いていた恋心に自覚が芽生える。
 この後、二人は束の間の幸福な時間を過ごすのだった――。

●タワーで交わす誓い
 闇夜に覆われた世界の中で、無数の街の明かりが煌めいている。
 展望タワーから見下ろす光景はとても幻想的で、朔夜月・澪歌(ヒトリシズカ・e18093)は皇士朗と一緒に聖なる一夜を堪能していた。
「手紙ありがとう。今度はおれの気持ちを聞いて欲しい。いいか?」
 澪歌は皇士朗と二人きりになった時から口数が少なくなって、緊張から皇士朗の顔を見る事も出来ず、彼の問いかけにもずっと黙り込んだままだった。
「おれは……きみが好きだ」
 俯く澪歌に構わずに、皇士朗は自分の気持ちを真っ直ぐに彼女に伝える。彼の力強い台詞を聞いた瞬間、澪歌はハッと顔を上げて皇士朗を見つめる。
「きみの笑顔を一番近くで見ていたい。出来れば、この先ずっと……」
 皇士朗の言葉と真摯な眼差しに澪歌は感極まって、胸に熱いものが込み上げてきて思わず瞳が潤んでしまう。
「ずっと……うん、もちろんええよ。けど……ずっと一緒にいてくれるんなら、一人で先に死んだらアカンよ?」
 皇士朗の告白に澪歌は快く返事する。そして最後の一言には、かつて戦いで傷付き倒れた彼に対する戒めの意味も含まれていた。
「……話の続きは、こいつらを倒してからにしよう」
 何かの気配に気付いたか、皇士朗は人差し指で唇を押さえる仕草をしつつ武器を構える。そこには一体の電流マシンが立っていた。 
「――Giustizia mosse il mio alto fattore」
 澪歌が地獄の炎と化した翼を広げると、炎の力が皇士朗に宿って彼の身を守る鎧となる。
 皇士朗は澪歌にとって所属する旅団の団長で、そこが親交の始まりだった。
 彼女が初めて任務に出撃した時にも皇士朗と一緒になって、それからずっと彼の事を意識するようになっていた。
 そして告白の手紙を送った時――彼は任務で重傷を負ってしまう。その事が余計に澪歌の頭の中にあるのだろうか。だから彼の力になりたいと、強い想いを抱くようになっていた。
「……ああ、おれは死なない。どんな苦難も断ち斬って、必ずきみのところへ帰ってくる」
 澪歌の想いは皇士朗への糧となって、強固な決意に変わっていった。今ここで結ばれた絆はダモクレスを圧倒し、次第に追い詰めていく。
「――神楽火流征魔の太刀がひとつ、流星天翔!」
 神楽火家に代々伝えられてきた秘剣。二本の刃より十重二十重に繰り出される斬撃が流星の如く煌めいて、電流マシンを斬り刻む。
 刃を鞘に納めると同時に、電流マシンは爆発を起こして飛散した。
 皇士朗が澪歌に顔を向けると、安心したのか彼女の表情に明るい笑みが浮かんだ。
「うちも頑張ります。皇士朗さんの事待っとるだけじゃなく……隣に立って戦えるように」
 今までは遠くから見守るだけだった。でもこれからは違う。彼と一緒に並んで歩めるように――そう約束を交わした後、二人はタワーから望む夜景を満喫していった。

●愛を紡ぐ赤い糸
 七色に変化するイルミネーションは、まるで舞台のような華やかな雰囲気を演出する。
 光に祝福されるように会場のメインストリートを進み、上空を見上げると、赤いラインが広場に向かって一直線に伸びている。
 霧咲・茨貴(ディーヴォ・e16779)と小夜啼・琲音(燈火・e16940)は互いに手を繋ぎ、時には身体を寄せ合いながら、七色の光が織り成す祭典を楽しんでいた。
 琲音は暗い場所が苦手だった。囚われの日々を過ごした過去を想い起こしてしまい、当時の痛ましい経験が琲音にとっての『自分自身』を喪失させていた。
 茨貴も琲音が暗い所が苦手なのを知っており、心配そうに顔色を窺っていた。
 小柄な茨貴は琲音を見上げて一瞥すると、繋いだ手を一旦解いて、恥じらう事なく跳ねるように琲音の腕に抱きついた。
 茨貴の可愛らしい仕草と腕に伝わる彼の温もりに、琲音は安堵するように微笑んだ。
「……茨貴が一緒ですから、平気ですよ」
 そう言って琲音は茨貴を優しく諭して顔を見つめる。普段は狐面で素顔を隠している茨貴だが、今は外して素顔を晒していた。
 琲音だけには見られてもいい――中性的な妖しい雰囲気を纏う美少年は、人懐っこい笑みを浮かべながら、ここぞとばかりに積極的に琲音に甘えるのだった。
 赤いラインに導かれるように広場に辿り着く二人。広場の中央にはバースデーケーキのような装飾を施された塔が立ち、その前には――電流マシンが待ち構えていた。
「僕達を待っていたのかな。でも、折角二人きりなんだから……邪魔しないでくれるかな」
 茨貴が狐面を装着して電流マシンに斬りかかる。ステップを踏んで華麗に舞うように、両手のナイフで電流マシンを斬り裂いていく。
 電流マシンは茨貴のグラビティを弱体化させようと中和光線を発射させるが、琲音が盾となって茨貴を守り、電流マシンの攻撃を凌ぐのだった。
 全身全霊を捧げる覚悟で茨貴を守り抜いてみせる。さっきまで穏やかだった琲音の表情は真剣味を増していた。
「茨貴は僕の……この世で一番に愛しい人ですから!」
 電流の効果ではあるが、普段は恥ずかしくて口に出せない言葉も今なら言える。琲音はぶつけるように溜めていた気持ちを吐き出した。
「……あれ。ハイネって、こんなに格好良かったっけ?」
 自分を庇った琲音の姿に茨貴はときめいてしまい、頬が赤く染まって熱を帯びてくる。
 きっと耳まで真っ赤になっているんだろう。僕だって、ハイネの事が好きだから――。
「だから、ハイネを傷付ける奴は……僕が許さないよ?」
 飄々と歌を口ずさみながら、茨貴が電流マシンを斬りつけていく。女性と紛う程の美しい高音が、夜の闇に溶け込んでいく。
 この後二人の手によって、電流マシンは成す術もなく仕留められる事となる。
 戦いを終えた二人は、広場にそびえる塔の前に立って、至福の一時を共にする。
「僕達の指にも赤い糸があるのかな……ね、ハイネ?」
 塔の頂上に結ばれた赤いライン、そこはメインストリートからの到着地でもあった。
「僕らには赤い糸以上の運命があります、絶対」
 琲音は力強く断言しながら、腰を低く屈めて茨貴に顔を近付ける。
「……皆には秘密、だよ?」
 ウイングキャットのロオレライが二人を見ている事に気付いて微笑む茨貴と、他所を向いてもらうように命令する琲音。
 そして気を取り直し、茨貴は軽く背伸びをするようにして――唇を重ねて口づけをする。
「茨貴、愛しています」
 止まらない胸の高鳴りに身を任せ、二人は幻想的な時間の中で愛を確かめ合った――。

●光の泉に咲く恋の花
 木立の間を縫うように水が流れて中央の池に集まっていく。
 公園の中でも自然豊かなこの一画も、今夜はイルミネーションに彩られて華やかな雰囲気を醸し出している。。
 光が中心から外へと流れ、水面にも光が反射して輝いて、まるで池の底から光の泉が湧き出てくるような、どこか不思議な光景だ。
 餓鬼堂・ラギッド(探求の奇食調理師・e15298)は、中村・一縷(旅の終わりを見つけた仕事人・e16702)と一緒にこの周辺を散策していた。
「まぁ、俺ぁ同心だし、おまわりさんだからねぇ?」
 などと任務の一環である事を強調する一縷だが、ラギッドとの二人の時間を楽しみにしていたのもまた事実である。
 一方そのラギッドも、一縷にここの水上イルミネーションを見せたいという一心で、この場所へと赴いたのだった。
「こんなひと時もいいものですね……一縷」
 何気無い自然な動作で一縷の手を握り、彼女に寄り添うラギッド。
「きょ、今日はいい天気さねぇ。……ほ、ほら。この池、とても綺麗だよぉ」
 不意に手を繋がれて一縷は一瞬驚くが、どうにか冷静を装いながらラギッドに話を合わせようとする。しかしその様子は妙に挙動不審だ。
 顔を赤らめて目線を逸らそうとする一縷。ラギッドはそんな彼女を微笑ましく思い、身体を寄せながら、会話の内容を合わせて頷いた。
 せめて今日だけは普通の女の子でいたいから――。一縷もまた、淡い乙女心を抱いた可憐な少女のような仕草でラギッドに接するのだった。
 しかし、二人の幸せな時間を引き裂くように、木立の影から一体の電流マシンが現れた。
 人の恋路を邪魔する悪は滅ぼすのみだと、一縷は暗殺を生業とする殺し屋として、正義の仕事人の顔つきに変わって電流マシンに向かっていく。
 一縷が高く跳躍して重力を乗せた飛び蹴りを叩き込み、続けてラギッドも刃のように鋭い回し蹴りを電流マシンに食らわせる。
 ラギッドは攻撃を繰り出した後、すぐさま一縷の腰に手をやり彼女に顔を近付ける。
「愛している、一縷。俺にはお前しか見えない」
 耳元で甘く囁く彼の言葉に、一縷の心はすっかり蕩けて熱い吐息が口から漏れる。
「はぁ……私もさぁ、ラギッド......」
 火照った身体を冷まそうと、着物を緩めながらラギッドに抱きつき甘える一縷。
 電流マシンは一縷を狙って凍結光線を撃つが、ラギッドが一縷と抱きついたまま、彼女を庇うように背中を向けて、代わりに光線を浴びてしまう。
 一縷が傷付けられようとした事にラギッドは怒りを露わにし、激しい形相で電流マシンを鷲掴みにする。
「俺の一縷に何をする! 襤褸切れにして喰らってやる。俺の胃袋で絶望しながら腐敗しろダモクレス……!」
 地獄化したラギッドの胃袋が体表より滲み出て、電流マシンに解き放つ。禍々しく堅牢な歯牙が並んだ胃袋は獰猛な食欲に従って、目の前の餌に幾度となく繰り返し喰らいつく。
 そうして電流マシンは全てを喰らい尽くされ消滅してしまう。
 敵を倒し終えて電流の効果は消えてしまったが、二人の想いは深いものになっていた。
 イルミネーションを眺めながら、ラギッドがそっと一縷の肩を抱く。すると一縷は瞳を閉じて、身を委ねるように彼に凭れかかった。
 人の繋がりが生まれる瞬間。泉に咲く光の花は、二人の笑顔を静かに見守っていた――。

●純白なる想いのままで
 何色にも染まらない、まっさらな白い光のトンネルの中を歩く二人連れ。
「なあレリちゃん……。ナンか、雪ン中みたいじゃね?」
 キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)の口から思わず感嘆の声が零れてしまう。隣に並ぶレリア・フォーネリー(夜露草・e00527)も、白の眩さに瞬きするばかりだ。
 ダモクレスを倒すという本来の役目も忘れてしまいそうだったが、こういう時こそ一緒にいた方がいい。キソラはレリアをエスコートしようと手を差し出した。
「一緒なら、一人でよりも早く見つかりそうですね」
 見つからなくても楽しいですけれど……と、はにかみながら、レリアは差し伸べられた手を素直に取って、白い光に包まれた空間を進むのだった。
 光の雪が降り注ぐ、幻想的で神秘的な感覚に陥りながら、二人の心も高まっていく。
 途端に口数が少なくなっていくキソラ。隣を歩くレリアを横目で眺め、傍にいるだけでは物足りなくなって、衝動に駆られて彼女を抱き寄せそうになってしまう。
 レリアは無口になってクールな雰囲気を漂わせていたキソラに対して、心臓が跳ね上がるほどの強い感情に囚われていた。
 その時――トンネルの隙間から顔を覗かせる電流マシンの姿が目に留まる。するとキソラは慌てて叫び声を上げながら、意識を電流マシンの方へと強引に向けさせる。
「くっ……こんな状態長い事耐えられるかっての……!」
 キソラは早めに我を取り戻そうと、戦闘態勢に入るとすぐに自身にキュアを施して電流の効果を解除する。彼の後に続いてレリアが仕掛ける。
「オンディーナ……オンディーナ……その蒼き指先、蒼き唇もて、我が敵を縛れ」
 精霊が宿りし天青石。独自の秘法によって、その封印を解き放ち現れたるは――凍てつく青の瞳、抜けるような青白い肌、溶けゆく青い髪を持つ女性の姿。
 柔らかい微笑みを浮かべながら電流マシンにそっと触れると、マシンは彼女に魅入られたかのように知覚が麻痺して、動きが制限されてしまう。
 レリアを一緒に誘ったのはほんの軽いノリだった。とはいえ大事な旅団の仲間であって、嫁入り前のお嬢さんでもある。
 同じ戦場に立つ身というのを差し引いたとしても、万が一にも彼女に傷を負わせる訳にはいかない。キソラはその事を念頭に置いて戦いに臨んでいた。
 電流の効果に流されて、レリアを危険な目に遭わせないようにと――多少は気恥ずかしくなってしまったのもあるかもしれないが。
 対照的にレリアは電流の効果はそのままに、彼の心配をよそに今の状況を楽しんでいた。
「これが吊り橋効果というものでしょうか……」
 敵に立ち向かっていくキソラの凛々しく格好良い横顔に、胸が締め付けられるような想いを抱いて、つい見惚れてしまっていた。
「とっとと終わらせるぜ――墜ちろ」
 空を斬り裂くような光が走る。天地揺るがすほどの雷鳴が轟いて、暗雲に奔る雷竜の顎に捉るが如く――眩い閃光が一点に集束されて、電流マシンの頭上に落とされた。
 その衝撃に電流マシンは耐え切れず、雷撃は機械の身体を蝕み動作を停止させてしまう。
「……や、こんな感覚久しいからさぁ。色々きっついわ」
 戦い終えてすっかり疲れ果てた表情のキソラを見つめ、レリアは冗談めかして微笑んだ。
「こういう気持ちも、偶にですと楽しいですわね。……キソラさんも、キツイばかりでないと良いのですけど」
 顔を見合わせて互いに笑い合い、折角の記念にと二人で写真を撮っていくのであった。
 その後、残った電流マシンに関しては、互いに連絡を取り合いながら手の空いたカップルから連戦をして、最終的に全てを撃破したのだった。

 煌めく数多の光に包まれて、今宵も恋人達の物語が紡がれる。
 新たに生まれて育まれる愛を、光は優しく見守っている。
 ほんの一時の喜びが、未来に続く幸せに変わっていくだろう。
 聖なる夜に結ばれた全ての恋人達に、祝福のあらん事を――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 0
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