恋する電流マシン~砂像を照らす青い光

作者:香住あおい

 クリスマスイブに発見された新たなダンジョン。
 体内に残霊発生源を内包した巨大ダモクレスが破壊された姿であるこれ現時点でも修復中であり、ダモクレス勢力に協力している螺旋忍軍の一派によって隠蔽されていた。
 そしてこのダンジョンの探索の結果、修復には『つがいである2体の人間を同時に殺害して合成させた特殊な部品』が必要であり、その部品を回収するために、日本各地に部品回収用のダモクレスが配置されているという事が判明した。
「皆さんにはこれ以上殺されて部品化されるカップルが出ないように阻止していただきたいんです」
 ヘリオライダーのセリカ・リュミエールが言った。
 続けて彼女が説明するには、この事件を起こしているダモクレスは、いわゆるデートスポットとされる場所に潜伏している。そして、その場所を訪れるカップルに対してその恋心を増幅させ、部品に相応しい精神状態にする電流を浴びせた後に殺して部品としているらしい。
「この電流を恋する電流として、このダモクレスはこの能力から『恋する電流マシン』と仮に呼ばせていただきます」
 このダモクレスは戦闘能力は高くない代わりに隠密性が高く、こちらが電流を浴びせられない限りは発見することができない。
 つまり、ダモクレスが『人間のつがい』であると判断するような関係性のある者達か、もしくは一時的にでもそのような状態を演出する事ができるケルベロスが作戦に参加する必要がある。
「一箇所のデートスポットには8体の『恋する電流マシン』がいます。ですから、8組のカップルかカップルに偽装した方々が満遍なく捜索することで、全て破壊することが可能かと思われます」
 バスターライフルのグラビティを使用してくるこのダモクレスは戦闘能力が低いとはいえ、2人で相手をすることになるので気は抜けないだろう。
「潜伏場所ですが、鳥取県に砂丘があるのは皆さんご存じでしょう。この砂丘でもイルミネーションイベントが開催されているのですが、『恋する電流マシン』が潜伏しているのはここではありません。砂丘の一角にある砂像が展示してある美術館にいます」
 一般人が立ち入ることの出来る砂丘としては日本で最大の砂丘。ここの一角にある『砂の美術館』は期間ごとにテーマを設けて砂像を展示している。屋内展示がメインであるため、天候に関わらず観覧することができる。現在はドイツに関する砂像を展示しているようだ。
「イルミネーションは屋外全域で行われていますが、メインは屋外エリアでの鳥取砂丘光のアートフェア、そのテーマは青きジオの世界。幻想的な青の光で彩られているそうです」
 多数のクラッシュガラスが光り輝く空間。このクラッシュガラスは細かなひび割れの入ったガラス玉でできており、ロマンチックな空間を演出している。
 またメインこの場所だけでなく、イルミネーション全体が青く統一されており、デートスポットとしては最適である。
「ここをカップルらしく徘徊すればダモクレスが『恋する電流』を浴びせかけてきます。そして電流の発生源を確認し、戦闘に挑んでください」
 ダモクレスが潜んでいるのは屋外。砂像が展示してある屋内にはいない。
 基本的に他のカップル、もしくは一般人はいない。一時的に避難してもらっているので、現場に居るのはケルベロス達だけである。
「恋人達が素敵な時間を過ごせるよう、皆さんの力が必要です。作戦を阻止してきてください」
 また、駐車場の一角には今回の砂像テーマであるドイツに関連した飲食物を出すフードカーが出店している。ソーセージやバウムクーヘンなど、その場で食べることも持ち帰ることも出来るらしい。
 事件が解決したらフードカーも営業再開するみたいですよ、とセリカは付け加えた。


参加者
スプーキー・ドリズル(亡霊・e01608)
シルヴィア・アルバ(真冬の太陽・e03875)
アンジェラ・ブランカ(紫煙の・e04183)
屋川・標(声を聴くもの・e05796)
オルニティア・ケヒト(小夜啼鳥・e13124)
黒木・市邨(蔓に歯俥・e13181)
楝・累音(襲色目・e20990)
京・鷹子(悪食・e21705)

■リプレイ

●電流マシンを誘い出せ
 チャイナドレスにマフラーを巻いている京・鷹子(悪食・e21705)はソーセージを頬張りながら歩いていた。そんな彼女の手を握っているのは音無・一夜(影月夜・e22167)。迷わないように繋いでおり、それは言うなれば保護者視点。
 電流マシンは『人間のつがい』、カップルをターゲットとしているため、それらしく見えるような振りをする必要があると互いに理解してはいるのだが。
「……ガラじゃねー……」
 ぽつりと呟いた一夜の声が聞こえたのか、鷹子がソーセージの串を手に振り返る。
「ヒトヤ、何か言ったネ?」
「……都市のイルミネーションよりよっぽど綺麗だって言ったんだよ」
 実際とは異なる言葉ではあるが鷹子は納得したようで、口の中のものを飲み込んで手を引っ張る。
「飯が待ってるヨ、さっくり倒して食べに行くヨ!」
 恋心より食い気の彼女は意気揚々とフードカーの方へと歩き出そうとするが。
 そんな彼女を一筋の電流が襲った。

 楝・累音(襲色目・e20990)と月織・宿利(ツクヨミ・e01366)は偽装カップルとして電流マシンを倒すべく歩いている。その傍らには宿利のオルトロスの成親。
「悪いな、付き合わせて」
 2人は不自然にならないよう話しながらうろつきつつも、敵の姿を探している。
 なお、当人同士に恋愛感情は皆無である。あくまでもただの幼馴染。
「散歩がしたいと思っていたから、気にしないで」
 宿利がそう言ったのは気休めではなく、恐らく本心。累音もそれをわかっているのだろう、青く光るイルミネーションを遠目に見ながら呟く。
「……昔は良くこういうところに遊びに来たりもしたな」
 懐かしさを胸に2人と1匹は歩く。言葉はなくとも息の詰まらない関係性は長年をともにしてきた同士であるがゆえのもの。
 それをカップルの空気とみなしたのか、突如として宿利へ電流が浴びせられた。

 オルニティア・ケヒト(小夜啼鳥・e13124)へ手を差し出すのは黒木・市邨(蔓に歯俥・e13181)。オルニティアはそれをしっかりと握り締める。
 2人は幼馴染。この時点では、まだ。
 傍らを歩く市邨にオルニティアは少しだけ身を寄せる。寒いから、という理由とともに。
 寄り添う彼女が嬉しくて、市邨は頬を染めると気付かれないように目を伏せ、笑う。
 そして2人はイルミネーションの一番奥、小高い丘にある鐘へと辿りつく。
「折角だから、鳴らしてみよう」
 市邨がオルニティアを誘えば、彼女は大きくうなずいた。市邨は手を引き、鐘を鳴らすべく歩き出す。
 まさにその時だった。クラッシュガラスの中から現れた電流マシンは2人をカップルだと認識し、恋する電流を2人へと放つ。

 屋川・標(声を聴くもの・e05796)とシルヴィア・アルバ(真冬の太陽・e03875)は厳密に言えばカップルではない。
 少なくともシルヴィアはそう思っており、標はと言えば。
(「僕はカップル役じゃなくって、本当の……」)
 秘めたる想いは口に出さず、大切に胸にしまっている。
 そんな2人の後ろをトテトテと歩くのはシルヴィアのテレビウムのカルピィ。空気を読んでいるのか定かではないが、ほどほどの距離を取っている。
「あはは! 綺麗だな、イルミネーション。昔から青が好きなんだよなぁ。標は、好き?」
「す、好きって……!」
 色々と思いを巡らせていた標は突然の質問に慌てる。シルヴィアは不思議そうに小首を傾げた。
 刹那。稲妻の如き電流が走ったかと思えば、それはシルヴィアを襲った。

 青い光の中を見回るのはスプーキー・ドリズル(亡霊・e01608)とアンジェラ・ブランカ(紫煙の・e04183)。そっけない態度のアンジェラには慣れたものだが、スプーキーとしてはどうにも不安が残る。
「カップルらしくないと敵が出てこな――」
「あ?」
「いや、なんでもない」
 もう少しカップルらしく振舞いたいスプーキーは手のひとつでも繋ぎたいと訴えかけようとしたが、睨まれて断念した。
 しかしそれでも諦めきれない彼はちらちらとさりげなくアンジェラに視線を送る。それは本当にさりげなく。
 するとアンジェラは辺りを見渡し、誰もいないことを確認すると手を差し出した。
「……ほら」
 手を繋いでもいいぞと言わんばかりに差し出されたそれをしっかりと握り、幸せに浸っているときだった。
 横から電流マシンが姿を見せると2人が身構えるよりも早く電流がスプーキーへ放たれた。

●8体のマシンを破壊せよ
 電流を受けたシルヴィアはその発生源を確認するや否や飛び上がって蹴りを喰らわせた。怯む電流マシンにカルピィが凶器で殴り付ける。
 標はリボルバー銃を構えると目にも止まらぬ速さで弾丸を放った。それは電流マシンの胴体に小さな風穴を開ける。
 そんな標の姿にシルヴィアは見惚れてしまっていた。
「……どうかした?」
 不思議そうな視線を向ける標。そして、シルヴィアの口から出てくる言葉はといえば。
「標かっこいいなって、思っ、た……」
 これこそ恋する電流の効能。そんな言葉を口走ってしまったシルヴィアは誤魔化すように電流マシンへ魂を喰らう降魔の一撃、降魔真拳を放つ。蹴り付けられた電流マシンの側面をカルピィはガンガンと殴り付ける。
 誤魔化されたことに勘付きつつ、標はルーンディバイドを放ち電流マシンへ振り下ろす。
 電流マシンに攻撃する隙を与えず、シルヴィアは炎を纏った激しい蹴りでそれを吹っ飛ばす。
「……まだ、だ!」
 標の最後の回路(シングルチケットサーキット)が電流マシンを貫く。彼の限界を超えた一撃で電流マシンは大きな音を立てて崩れていった。

 電流に襲われたスプーキーはネガティブ思考全開でじーっとアンジェラを見た。
「アンジー、お前は僕なんかと一緒に居てもつまらないんだろう?」
「んなわけ、ねぇだろ!」
 電流のおかげで敵の位置を把握したアンジェラはグラインドファイアで電流マシンを蹴り付ける。
 ネガティブではあるがケルベロスとしての使命を忘れたわけではない。スプーキーはconfeitoで電流マシンを狙い撃つ。紫煙の尾を引く弾丸は、まるで彗星の軌道。
 胴体に小さな穴を開けられつつも電流マシンはエネルギー光弾を射出する。それはスプーキーを直撃する。
 電流マシンの攻撃の手がスプーキーに向けられる間にアンジェラが両手のバスターライフルから光線を放つ。そのおかげで電流マシンからの攻撃が止み、スプーキーは体勢を整え直すと気咬弾で攻撃した。
 続いてアンジェラは捕食モードのブラックスライムに電流マシンを飲み込ませる。
 そこへスプーキーがガトリングガンを連射し、蜂の巣にした。
 無数の風穴を開けられた電流マシンは大きな音を立てて動かなくなり、その場に崩れ落ちた。

 電流に打たれた市邨とオルニティア。市邨は彼女を抱き寄せた。
「ニア。俺から離れたら、駄目だよ?」
 市邨はは驚きつつも捕われたように瞳を見つめ返すオルニティアの頬を撫で、口許に自らのそれを近付けるのだが。
 ケルベロスとしての本能で自らを回復させると我に返り、その場に崩れ落ちた。
 オルニティアはそんな彼の掌を握って顔を覗き込むと微笑んだ。そしてエレキブーストで戦闘能力を向上させる。
 己の行動を悔いている場合ではないと、市邨はペトリフィケイションで攻撃をした。電流マシンの片足が石化するが、何ら支障はないようで市邨へ凍結光線を放つ。
 市邨を襲う光線が止むなりオルニティアは雷の壁を構築して彼を護る。
 雷の壁に守護された市邨は主砲を一斉発射した。その物量に押されて動けない電流マシンを一気に片付けるべく、オルニティアが市邨の傷を癒すと同時に戦闘能力を再度向上させた。
 市邨は掌からドラゴンの幻影を放つ。それは電流マシンを焼き捨てるべく、絡みつくように包み込む。ドラゴンの幻影が消えて炎も消えた時、そこに電流マシンはいなかった。

 電流に襲われた宿利はときめいていた。累音にではなく成親に。
「……いつもより凄くもふもふな、気がする」
 高速でもふもふされている成親はどことなく悲しそうな瞳をしているように見える。
「お前ときめく対象そっちなのかよ……」
 呆れながらも累音は宿利を正気に戻すため気力溜めを使った。成親をひたすらもふっていた宿利は我に返る。
「……気取り直して、いくぞ」
 そう言って累音は石化を付与しようとするも該当のグラビティがないことに気付き、代わりに御霊殲滅砲を放った。それを受けた電流マシンはお返しとばかりに凍結光線を放つ。それを受けるのは宿利。
 主が攻撃を受け、成親は神器の瞳で電流マシンを睨む。すると腕の一部が燃え上がった。
 燃え上がる炎を吹き飛ばすように宿利は飛び上がって蹴り付け、累音は達人の一撃を放った。
 彼らの猛攻は続く。累音は巨大光弾を浴びせかけ、宿利は斬霊刀で斬り伏せた。
 電流マシンが黒煙を上げる。あと少しで終わると確信し、累音は左に、宿利は右に斬霊刀を構える。
 阿吽の呼吸で2人は刀を振り下ろす。真っ二つに割られた電流マシンはそのまま動かなくなった。

●電流マシンを探せ
 電流をもろともせずに鷹子はスターゲイザーを放つ。一夜は鷹子が攻撃をする直前にキュアで恋する電流の効果を打ち消していた。
 鷹子は元の場所へ戻る際にバランスを崩して尻もちをつく。なお彼女は何も履かない主義であるため、チャイナドレスの下はどうなっているかというと。
「みっ、見たネ!?」
「見てねえ!」
「フザけんじゃないヨ! 責任とって今日はヒトヤの奢りネ!!」
「だから見てねえって……話聞け!」
 一夜に言うだけ言った鷹子は熾炎業炎砲を放った。一夜も掌からドラゴンの幻影を放つ。2つの炎が直撃した電流マシンは燃え上がりつつも、鷹子へ向けて魔法光線を発射した。
 それを一夜がすぐさま癒し、鷹子は具現化した剣で斬り付ける。
 すると電流マシンが鷹子へ両手のバスターライフルを向けた。放たれる光線のおかげで鷹子は吹き飛ばされる。
「ヨーコ!」
 言いつつ一夜は桃色の霧を放って鷹子を回復させた。鷹子は立ち上がると眼を見開く。
「こっちだヨ」
 邪視で電流マシンに与えた傷痕を拡げる。その軋む音は呻き声にも似ており、電流マシンは力を振り絞るようにエネルギー光弾を放った。
 鷹子がそれを受け止め、一夜がその傷を癒す。鷹子はすかさず音速を超える拳で電流マシンを殴り飛ばした。
 動きが一段と鈍くなった電流マシンを見て、鷹子が目配せをする。一夜はそれにうなずき、掌を電流マシンに向けた。彼女の合図で炎を纏ったドラゴンの幻影が放たれ、同じく鷹子の放った半透明の御業が炎弾を放つ。
 電流マシンは炎に包まれ、それは火柱の如く燃え盛る。最後の攻撃を仕掛けようとするも、その躯体は炎の中で崩れ落ちていった。

 標とシルヴィアは次の敵を探し出すことに成功していた。恋する電流は標に当たったが、表面上はあまり変わりがないように見える。
 シルヴィアがスターゲイザーで足止めをし、カルピィが凶器で殴打する。続いて標がクイックドロウで電流マシンに攻撃をさせる隙を与えない。
 続いてシルヴィアはグラインドファイアで蹴り付けた。逆側からカルピィがまたしても殴打する。標が最後の回路で攻撃を仕掛けるが、電流マシンは攻撃を受けてつつもバスターライフルをシルヴィアへと向けていた。
 標は臆せずその身を呈してシルヴィアに抱き付き、彼女を庇う。
「良かった、シルヴィが無事で」
 真っ直ぐに見つめられたシルヴィアは一瞬言葉に詰まってしまうが。
 標に礼を告げると最後の一撃を加えるべく飛び上がる。
 魂を喰らう降魔の一撃で蹴り抜かれ、電流マシンは沈黙した。

 スプーキーとアンジェラも電流マシンを見つけ出していた。恋する電流は、次はアンジェラを襲う。
「ぷぷにゃー?」
 キュアで回復させようとしたスプーキーは泥酔時にしか出ない愛称を聞いて行動を取りやめ、電流マシンへガトリングを連射した。その表情はどこか嬉しそうに見える。
 アンジェラはといえば薬液の雨を降らせて自分自身にキュアをかけ、そして先程の一言を悔やんでいた。
「アー、もォ今のノーカン! ノーカンだからな!」
 これも全部電流マシンが悪いとばかりにグラインドファイアで蹴り付ける。
 炎によって一部を焦がした電流マシンはスプーキーへ凍結光線を発射した。
 だがスプーキーはそれをもろともせず気咬弾を放った。続いてアンジェラもレゾナンスグリードで攻撃する。
 動きを封じられた電流マシン。スプーキーはconfeitoで風穴を開ける。
「運が良けりゃ、天国で会おうぜ」
 アンジェラのRED。真っ赤に塗り込められた弾丸は電流マシンを死へと誘った。

 最後の1体を見つけたのは市邨とオルニティア。電流は市邨を襲い、オルニティアはエレキブーストでの戦闘能力向上とともにキュアで恋する電流の効果を打ち消す。すぐに効果がなくなったことで、2人ともどこか寂しそうにも見える。
 市邨がペトリフィケイションを放つと電流マシンの左側が石化した。動けずもがく電流マシンをオルニティアは禁縄禁縛呪で鷲掴みにする。
 動きを完全に封じられた電流マシンへ、市邨はドラゴニックミラージュを放った。逃げようのないドラゴンの幻影により、電流マシンは石化した部分はそのままに燃え上がる。
 ここで援軍としてやってきたのは累音と宿利。割合近くで戦っていたことともあり、駆け付けた。
 攻撃のそぶりを見せた電流マシンに宿利はスターゲイザーを食らわせた。続いて累音も御霊殲滅砲で痺れさせる。
 そしてオルニティが再度、禁縄禁縛呪で動きを封じた。身動きの取れない電流マシンを市邨は見据える。
「――俺は外さない、よ」
 運命の歯俥。無数に浮かぶ歯俥が電流マシンを襲い、容赦なく穿つ。
 攻撃を終える頃、電流マシンは物言わぬ機械へと成り下がり、そして動き出すことは永久になくなった。
 こうして、ケルベロス達の活躍によって8体全ての電流マシンを破壊することに成功した。

●青い光の中で
 闇夜を照らす青い光。月の光と交わり、それは時に幻想的な光を生み出す。
 電流マシンを退治し終えた累音は、宿利と成親と一緒に少しだけ見て回って帰ることを提案した。
 カップルではない、ただの幼馴染。
 しかし、その関係性は濃く、かけがえのないものである。
 昔のことを思い出しながら、彼らは夜の散歩を楽しんだ。

「ほらほらヒトヤ、動いたんだから飯食うネ」
 言うが早いか鷹子はフードカーの方へと向かって行く。
 すぐさま追いかけることはせず、一夜は売店のクラッシュガラスを手に取った。そして、小さく見える鷹子を見る。
 彼女は嬉々として一夜のツケで食べ物を買いあさっている。
「……味覚、何とかしてやるから、待ってろ」
 鷹子に渡すべくクラッシュガラスを購入して彼女の元へと急いだ。
 自分の元へとやってくる一夜の姿を見て、鷹子は呟く。
「ヒトヤの事は嫌いじゃないヨ。……感謝は、してるネ」
 恋心とは違う関係性が、2人の間には確かに存在している。

 電流マシンを倒したスプーキーとアンジェラは祝杯をあげる。フードカーのビールとソーセージで乾杯をすると、アンジェラはぼそりと呟く。
「……こんなん、今晩きりだからな」
 それが照れ隠しだというのは、もちろんスプーキーにはわかっている。
 真っ直ぐに恋人を見ると、ふっと微笑む。
「僕は照れ屋なお前も好きだよ」
 羞恥に耐えきれなくなったアンジェラは手にしたビールを引っかけようと暴れ出す。
 そこから痴話喧嘩に発展するも、テレビ番組でよく見る芸人同士のキス芸ばりのものを繰り広げて丸く収まるのはすぐ後のお話。

 ワインとバウムクーヘンを買って食す標とシルヴィア。
 恋する電流のおかげで少々気まずい感じになっている。
 目を合わせられずに横を向く標の顔をシルヴィアは眺める。そして酔いと電流の効能の合わせ技の勢いで、標の頬に軽くキスをした。
「シルヴィ!?」
「ほ、ほっぺにバウムクーヘンのカスがついてた!」
 言い訳のように言い、シルヴィアは赤くなった顔を隠すように標より前を歩く。
「シルヴィ、聞いて」
 標はシルヴィアの後ろ姿に声を掛ける。
「僕は、シルヴィのことが何よりも大切だから、僕に守らせて欲しいんだ」
 シルヴィは僕よりも強いかもしれないけど、と穏やかな口調で付け加えた。
 シルヴィアは振り返る。その言葉に返答をすべく。

 全てが終わり、2人をイルミネーションの光が優しく包まれた。
 市邨の胸に在るのはオルニティアの想いの在処。
 オルニティアの胸に在るのは市邨への想いとひとかけらの勇気。
「あの、ね、いっくん」
 オルニティアは高鳴る気持ちを隠しながら、市邨を見上げてはにかむ。
「来年も、ね、こうやって、一緒に過ごせると嬉しい――」
 その言葉は最後まで紡ぐことができなかった。市邨はオルニティアの瞳を見つめ、彼女はそれに捕われる。
「君に俺以外の想い人があったとしても……今だけは、――俺だけの君で居て」
 消えるような声で紡がれる言葉。市邨はありったけの勇気を振り絞って、オルニティアの頬へと唇を近付けた。

作者:香住あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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