●年中無休ケルベロス
「こんな日に申し訳ない」
言うほど『申し訳ない』という態度でもなく、いつも通りな口調と様子でヴォルヴァ・ヴォルドン(ドワーフのヘリオライダー・en0093)は語り始めた。
「今日……つまりクリスマスイブに残霊発生源を内包した巨大ダモクレス型のダンジョンが発見された。幸い破壊されているんで、こいつが今すぐ動き出すわけではないが……ちょっと厄介な事情がある」
世間はクリスマスで賑わっているが、ソレとは別の喧噪がケルベロス達を伝搬する。これは城ヶ崎にあった螺旋忍軍の拠点から回収してきた機密書類を解析してわかったことで、ダモクレス勢力に荷担している螺旋忍軍の一派によって隠蔽され、今も修復中にあるものだ。
「ダンジョンを探索した結果、修復には『つがいである2体の人間を同時に殺害して合成させた特殊な部品』が必要で、その部品を調達するために日本各地に専任のダモクレスが配置された事も、その場所も判明した。これ以上殺害されて修復部品にされる者達が出ないよう敵の動きを阻止して欲しい」
ヴォルヴァはむすっとした顔で言う。
「派遣されたダモクレスは夜景の綺麗なデートスポット、とやらに潜伏している。そこに来る男女の恋心を増幅させ部品に相応しい精神状態にする電流を浴びせて殺し、部品にしているんだ。こう言葉にしてみると敵も大変そうだなって感じだが、これ以上放置しておくわけにはいかない」
むすっとした顔のままヴォルヴァは続ける。
「不愉快極まりないが、このダモクレスは隠密能力がとても高い。潜伏している間はまず見つけられないだろう。こいつが電流を浴びせる行動に出たところを叩く! これしかない。つまり、ダモクレスが『人間のつがい』と認知するような者達か、そう誤認する者達が作戦に参加してもらいたい……つまりは恋人同士か、そう偽装し電流を浴びても構わない勇者達、そんなケルベロス大募集というわけだ」
ヴォルヴァは小さく肩をすくめた。
「というわけでこのダモクレスを『恋する電流マシン』と仮称する。ネーミングセンスはここで問うもんじゃない。一箇所のデートスポットには8体の『恋する電流マシン』がいる。だから8組のカップル、或いはカップルに偽装したケルベロスが敷地内とくまなく捜索すれば全ての『恋する電流マシン』を破壊出来る……筈だ。理論上はだ。ただ『恋する電流マシン』も丸腰じゃない。バスターライフルで武装しているし、こちらは二人なのだから油断すると返り討ちに遭う」
注意してくれとヴォルヴァは言う。
「皆に行ってもらいたいのは『なばなの里』だ。詳しくは色々調べて貰えればわかるが、光のの回廊や青の世界と名付けられたイルミネーションが綺麗な場所だ。普通の方々には申し訳ないが一時的に一般のカップルは退避してもらっている。だから、ここを恋人らしくデレデレのバカップルらしく歩き廻り、潜伏していたダモクレスが堪えきれない程の雰囲気を発散しまくればきっと『恋する電流』を浴びせかけてくるだろう。そこで発生源を特定しぶっ潰す! 完璧だ。ただ問題があるとすれば、なばなの里が広い事だ。イルミネーションもあちこちに設置されていて、随分と歩かなくてはならないだろうから、覚悟してくれ」
「リア充なんとかっていうのがリア充が元気で幸せでいてこそだ。クリスマスの恋人達を羨望する者も嫉妬する者も、今年は彼等の為に動け! そして来年こそ同じ立場に立とうじゃないか……今もいい人がいる奴は、まぁその身を盾に戦ってくれ、以上!」
いい人がいなさそうなヴォルヴァはくるりと背を向けた。
参加者 | |
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藤守・つかさ(闇視者・e00546) |
花凪・颯音(花葬ラメント・e00599) |
マリオン・フォーレ(野良オラトリオ・e01022) |
緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710) |
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729) |
遠矢・鳴海(駄目駄目戦隊ヘタレンジャー・e02978) |
須々木・輪夏(シャドウエルフの刀剣士・e04836) |
御剣・冬汰(とーたくろーす・e05515) |
●偽りの恋でも
「今日は特別に可愛いな、トエル」
美しいバラを眺めながら闇が凝ったかのような藤守・つかさ(闇視者・e00546)は改めてトエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)に言った。繋いだ手と手は温かいけれど、互いを大事だと思う気持ちはあるけれど、たぶんこれは恋愛じゃない……と、二人ともわかっている。つかさにすればトエルは心配で目が離せない妹の様だし、トエルにしてみれば恋心からしてよくわからない。
「つかささんの台詞、勉強してきた少女漫画みたいで……」
「『さん』はナシでな?」
「あ、そうでした。では行きましょう、つかさ?」
慣れた様子のつかさへと向かうトエルの視線が若干気になるが、追求せず流すことにしたつかさはトエルと同じバラを探しつつも、光の回廊方面へと足を向ける。
絶望と言う言葉の意味を13歳のマリオン・フォーレ(野良オラトリオ・e01022)が実感したのは今だったかもしれない。あろうことかジャージで現れたルイス・メルクリオ(レプリカントの自宅警備員・e12907)に絶望しかっているのだ。もしケルベロスとしての立場がなければ速攻どつき倒していたかもしれない。
「そもそも3次元って世界の意味が解らないんだが」
ルイスにはリアル世界よりも大事な世界がある。本当はその世界もリアルが消滅したら存在しないのだけれど、11歳で世の中の仕組み全てを把握するのは厳しいというものだ。
「仕事の内容理解しとんのかこのアホタレ! ちょっとは現実社会に興味を示せ!! ほらほらエイティーンお姉ちゃんのミニスカサンタですよ! 可愛いですよ!」
ほわっとした生地で仕立てた鮮やかな赤と白のミニスカサンタ服はマリオンに似合っていたし、自分で言うだけあって超絶可愛い。
「一つ言わせて貰うとするならば、この寒空の下、大腿部を大きく晒したミニスカサンタとか、狂気の沙汰だな……死にたいのか?」
しれっと語るルイスの黒髪から覗く小生意気な赤い瞳がダモクレスの光線よりも先にマリオンの心の何かをブチッと引きちぎった。
「……って、真顔で説教すんなドチクショォオオオオオ!」
武器を振り回すマリオンと逃げるルイス。遠目からだとじゃれ合う可愛いカップルに……見えるかな?
「ほら主様っ綺麗なお花たちがお出迎えだよっ」
「天井もお花でいっぱいだねっ」
どうにもアガるテンションを押さえきれず緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)は赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)に話しかけた。
「わぁ、とても綺麗ですねっ」
ライトアップされた光に照らされた花にいちごの声も高くなる。
「ふふ、見惚れてる主様も可愛いっ」
「はわわっ」
ぎゅっと敬香に抱きしめられたいちごが赤面する。もっと一緒に歩きたい、お散歩したい、同じモノを一緒にみたい。今ならば、そのどれもが叶えられるのだ……ケルベロスとして。サイコーではないか。
●煌めく聖夜に
「須々木、寒くない?」
水を渡る風は少し冷たい。並んで歩く遠矢・鳴海(駄目駄目戦隊ヘタレンジャー・e02978)と須々木・輪夏(シャドウエルフの刀剣士・e04836)は長い真っ白なマフラーを二人で一緒に巻いている。繋いだ手はそのままコートのポケットに入れる。外はとっても寒いけれど心まで冷たくはない。指の先から、互いを見つめる目も微笑む頬も、胸のずっとずっと奥の方から沸き上がるように思いが溢れてくる。もしこの世界に言葉がなかったとしても、見つめるだけで思いが解る……伝わる、本当にそんな気がする。
「イルミネーション、綺麗。この前の流星群見れなかったけど、これも星みたい、ね」
白い綿毛の様に輪夏の息が空に浮かび言葉が響く。
「……うん、そうだね。星みたいかも」
星空に浮かぶ輪夏の瞳の方がイルミネーションの青い光よりも、空にまたたく星よりも綺麗だなんて、恥ずかしくて口に出せないけれど……視線はもうはずせない。
「あのね、お願いあるの」
クルリと輪夏が鳴海へと向き直る。青い瞳に違いの姿が映っている。思い詰めた様な表情に鳴海もハッとなる。聞く前から薄々わかっていた気もする。
「なに?」
「……えっと」
その時だった。水面に何かの黒い影が映り、次の瞬間まぶしい光が二人を焼く。
「須々木は絶対に私が守る! 私の大切な人に手出しはさせない!」
輪夏よりも前に出た鳴海が更に攻勢に出る。
「なるみ……! 絶対、すぐ終わらせる!」
「わかった。凍れ。その身の内の、内までも……ッ!」
鳴海が霊刀に宿る力を解放する。空気が白く凍ってゆく。凍気が刃に集中し斬撃と共にダモクレスへと叩きこむ。
「あなたの影、ちょっともらう、ね」
舞うように抜きはなった輪夏の斬霊刀がダモクレスのイルミネーションに照らされた影を斬る。ダモクレスの動きがどんどん鈍くなってゆく。それでもダモクレスが弾丸を撃ってくる。
「何があっても守る!」
鳴海が輪夏の前に出て、弾丸を自らの身体で防ぎ、その奥から輪夏の御業が炎弾を放ち、ダモクレスを焼いてゆく。影を奪われ冷気と炎にさらされたダモクレスが崩れ落ちる。
「庇ってくれてありがと。カッコ良かったけど、怪我大丈夫?」
燃えかすになった敵を見下ろし輪夏が言う。
「須々木が傷つく事を思ったら、この位なんて事ないよ」
黒髪を背へと投げながら鳴海が言い、他の仲間達へと連絡をする。
「まだ8体終わってないみたい」
「もうちょっと、こうして歩く?」
輪夏はふわっと白く長いマフラーを鳴海へとそっと掛けた。
ツインタワーから教会への小道をマサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)はフィオレンツィア・グアレンテ(混ぜるな危険・e00223)と連れだって歩いていた。そうしていると本当に恋人同士の様だ。
「あのさ……フィオ」
見上げればこんな綺麗な星空で、地上にも星の様に輝く光がマサムネの告白を応援するように瞬いている。
「なに?」
フィオレンツィアの屈託のない茶色の瞳に光が瞬いている。
「キミはとても綺麗だなって」
「え?」
聞き返してもマサムネの言葉は止まらない。
「だから今日、聖なる夜ははイルミネーション輝くこんなところまで連れてきたけど……どうかな? 気に入ってもらえたかな?」
沈黙が落ちる、それが何時間にも思えて辛い。
「あの……」
更に何か言いかけたマサムネだが、隣に立つフィオレンツィアの様子に言葉が続かない。
「いつもは一人の団員としてみていただけだけど、なんて言うか……私のことをそんな風に見てくれてたのね。そ、そんなこと言われると照れるわよ。冗談は……」
その時、ぺか~~~~っと辺りが光り輝いた。二人の視界の端っこにダモクレスの無機質な身体が見える。
「ここは危ないからオレにまかせて」
思うよりも身体が前に出る。
「愛する人を……最愛のレディを守るのは紳士の役目だ」
言い終わるよりも早くマサムネは更に前へと走り、敵との間合いを詰める。電光石火の蹴りが敵の腹を蹴り、反動で宙を舞って距離を取る。
「団員を守るのも団長の務めなのかしら?」
ほぼ同時に逆方向からフィオレンツィアの蹴りも炸裂する。いきりたつダモクレスがそれでも冷静に自分へとヒールを使い、マサムネもフィオレンツィアも好機とばかりに攻勢に出る。
「君に災厄を逃れる術はない……弾け飛べ!」
煌めく流星の輝きがマサムネから放射され、追尾する魔法の矢がダモクレスを貫く。
「あなたができることはただ一つ。完成された一撃を前に跪きなさい!」
幾度ダモクレスがヒールを使っても傷は増えるばかりだ。
「これがオレの渾身の拳だ」
マサムネの右拳がダモクレスの腹から背へと突き通った。全身の力が抜け落ち、そしてダモクレスは2度と動かなかった。
「大丈夫?」
桃色の霧がフィオレンツィアの傷を癒す。
「……ありがとう」
星の海の中、微笑むフィオレンツィアの姿がマサムネの脳裏にくっきりと焼き付いていた。
光の洪水の様なトンネルをつかさとトエルは手を繋いでゆっくりと歩いている。先ほどよりは随分とそれらしくなってきた……と、つかさが思ったその時だった。
「あっ」
ガサガサと茂みを揺らす音がして、不出来な等身大の人形のようなダモクレスが現れたのだ。ダモクレスは出現したと同時に光を放ち二人へと攻撃を仕掛けてくる。
「やっと現れたか」
つかさの体内に蓄積されたオーラの力がダモクレスの光の効果を綺麗に吹き飛ばす。
「つかさ……つかさにはずっとずっとわたしの手をしっかり捕まえてて欲しいの」
トエルは燃える地獄の炎ごと鉄塊剣を敵へと振り下ろした。片腕を壊されつつもダモクレスは首を傾げるようなそぶりをしつつ、両手の先から弾丸を放ってくる。
「危ない!」
つかさがトエルを庇って前に出る。惨殺ナイフが甲高い音を立てて弾丸を弾く。
「……す・て・き」
「しっかりしてくれ」
うっとりとしたままのトエルにつかさは浄化をオーラを使う。
「っは……わたしったら今」
「気にするな、敵は向こうだ!」
つかさが指さす先にひょろひょろっとしたダモクレスがいる。
「よくわからないけど、貴様はゆるさん!」
敵へは口調から変化するトエルが武器を手に間合いを詰め、敵の攻撃も当たらない。
「俺もやるか」
使い慣れたナイフを握り、回り込んだつかさはトエルに斬られて動きを止めたダモクレスを一刀両断にし仕留めた。
二人の前に立ちはだかったダモクレスがぼーぜんと(?)立ちつくす。首を傾げレンズの様な目でしげしげとマリオンとルイスを見つめている。
「どう見てもカップルだろ! 首傾げんな! 同情する様な目で見んな!」
ぶちギレたマリオンの言葉にようやくダモクレスが光を放つ。
「可愛いよ! 俺の嫁の次の次の次の次くらい超可愛い!」
両手のスマートフォンを駆使しつつ戦うルイスはダモクレスの攻撃からくるバッドステイタスにどっぷりとハマっている。
その光は敬香の脳を、心の奥底までも赤裸々に照らしてゆく。
「どうしよう主様!」
敬香のキラキラした視界の中心に主であるいちごがいる。はにかむように頬を染めて立っている主様のなんと可愛らしく狂おしくも愛おしい事か。ハグしたい!! あれ? いつも通りかも?
「あぶないですっ!」
ぽわんとしていた敬香を狙うダモクレスの攻撃をいちごが身を挺して庇った。
「敬香さんの事は私が守ります」
全身がきゅんきゅんする。
「わう……! 主様かっこいい……!」
可愛いだけじゃなくてカッコいいなんて……!
「後で襲おう!」
「襲おうってなんですかー?! それより敵を攻撃してください」
「あ、そうでした。あんまり主様がカッコ可愛いから目が主様から逸らせなくて~」
「わかりましたから~」
ダモクレスは無表情ながらしてやったりと嬉しそうで、結局ほぼ敬香はいちごの応援に終始し、少し戦闘が長引くことになってしまった。
メイン会場は毎年テーマに沿った情景をイルミネーションで表現している。今年はアルプスの山々とマッターホルンが描き出され、四季や虹、月光に照らされた風景を沢山の光が浮かぶ上がらせる。
「どんな様子かな?」
スマートフォンに視線を落としていた花凪・颯音(花葬ラメント・e00599)に御剣・冬汰(とーたくろーす・e05515)が尋ねる。
「今、5体かな」
いちごと敬香からの連絡はないが、それ以外のところは1体ずつ仕留めており、鳴海と輪夏のペアはもしかしたら今、2体目と交戦しているかもしれない。ただ、自分達はまだダモクレスと遭遇していないのがちょっと気に掛かる。
「さっくん、なんでわかるの?」
「うーん、あの二人は1体目を倒すのが早かったし、今は手が離せないみたいで連絡が滞っているからね」
「あ、だから2体目を倒しているかもって思うんだ。ふ~ん」
アルプスらしいイルミネーションを眺めつつ、冬汰が言う。
「本当に良い景色だね、時間を忘れて見入ってしまいそうだよ……」
ぼんやりと颯音が吐息混じりに言う。吐く息は霧の様に淡くせつない。
「ね! 時期外れの天の川みたいな感じで魅入るよね★」
二人は5本の指と指を互い違いにぎゅっと恋人同士の様に握り、展望台の方へと歩き出す。いつしか会話の内容は互いの恋愛になっている。目の前の人は胸を焦がす恋人ではなくても、話の内容で疑似恋愛的な雰囲気が出せてダモクレスをまどわすことができるかもしれない。
「そういえば、疑問なんだけど。さっくんは気になる子を誘わなくて良かったの?」
冬汰は颯音を愛称で呼びつつ尋ねる。
「断られたらなんて頭を過ぎってね。よもやこんな初恋みたいな思いをするとは思わなかったよ」
力なく笑う颯音に冬汰が顔をずいっと近づける。
「なるほど。でも、恋愛は伝えなきゃ始まらないし。そもそも、さっくんなら大丈夫だよ」
「随分と大きな太鼓判を押してくれるね。根拠のある事かな?」
「ふふ、根拠はね、今日1日デートしてみたオレの感想♪」
冬汰は屈託無く笑って言う。
「じゃ、そちらはどうだい?」
今度は颯音が問いかけると冬汰は大きく首を傾げて見せる。
「オレ? うーん、本当はもっと罵倒して欲しいんだけど、大事にされてるみたいで……」
一瞬、颯音の返事が遅れる。
「……うん、冬汰くんって俗に言うどえむという奴なのは良く分かった」
「へへっ、照れるなぁ」
顔の表情を弛緩させぬるく冬汰が笑う。
「僕の好きな人はね、可愛らしくも中々に逞しい子なんだよ、ふふ」
デレデレとしたムードが功を奏したのか、まぶしい光と共にダモクレスが出現する。
「ロゼもよろしく!」
ダモクレスへと向かうボクスドラゴンを援護するように、颯音が黒い魔力弾を撃ち放ち、その場から動かない冬汰が言葉を紡ぐ。
「キミが負けたら……オレのこと存分に罵って、蔑んで、剰え一生飼い殺しにして貰うから覚悟してね★ 嗚呼、考えただけでゾクゾクしてきた♪」
喚び出した魔女の力が武器に宿る。怖じけて動けないダモクレスへと斬撃ナイフが閃いて斬る。すぐにダモクレスも正気に戻って弾丸を撃ち込むが傷はすぐにロゼが治してゆく。
「わっ、攻撃に専念できちゃうね。ちょっと残念だけど」
「……やっぱりそうなんだ」
「嘘うそ! 次の敵が待ってるかもしれないし、せ~の!」
「ゴー」
タイミングを合わせて放つ二人のブラックスライムが黒い液体となってダモクレスを押し潰した。
●光あれ
「もうここが7体目だったみたいです、主様」
仲間達と連絡を取った敬香は淑やかにいちごに報告をする。おそらくは8体目も交戦中だと颯音からの予想も届いている。
「念のために歩いておきましょうか。ヒールデートもしたいしね、主様」
「はい、行きましょう」
いちごの差し出す手を敬香は嬉しそうに握り、ブンブンと大きく振る。
「では、とりあえず誰もいない場所へ」
「え?」
嘘ですよ、と笑う敬香の顔は光に照らされて幸福そうに輝いていた。
2体目のダモクレスを倒して連絡をすると、輪夏は真剣な顔で鳴海を見る。
「あのね、さっきも言いかけたけどお願いあるの……えっと、下の名前で呼んで」
輪夏の言葉はどこか鳴海が予想していた事だった。
「……輪夏」
今なら勇気が出せそうな気がして、鳴海はそっと愛しい人の名を口にする。頬が熱い。けれどそれよりも今そっと触れた唇の甘く柔らかい……え? もうパンクしそう。
「記念♪」
笑った輪夏が軽やかに揺れる。
「大好き、だよ」
真っ赤な顔を見られないよう、笑う輪夏をぎゅっと抱きしめる。暖かい、幸せな聖なる夜。
「終わったよ、冬汰くん」
スマートフォンから顔をあげた颯音が座り込んでいた冬汰へ言う。
「そっか、よかったね。これでみんな安心してイルミネーションを楽しめるね」
チカチカと瞬くイルミネーションが二人をそっと照らしている。
トエルとつかさも8体目の撃破を知り、改めて園内を散策する。
「ここも壊れているな。さすがトエルの攻撃だ」
「ここはつかささんの攻撃ですよ」
互いのせいにしつつ笑ってヒールする。
施設のあちこちに戦いの爪痕が残っている。朝になればもっと目立つからとマリオンはルイスと一緒にヒールを続けていた。光の雲海は本当に宇宙空間にいるかのように素敵で美しい。多少ファンタジー風になったとしても、多分きっと大丈夫(たぶん)。
「もういいんじゃないか? そろそろホントに死ぬぞ?」
優しいのかそうではないのか、ルイスの真意は言葉だけではわからない。でも、マリオンにはなんとなく伝わっているような気もしてきている。
「あぁ~もう! でも、何だろう。これが私の幸せで、当たり前なのかなって気がしますね」
マリオンは目の淵に浮かぶ涙を拭いてニコッと笑った。驚いているルイスに寒いからよと再び笑った。
「フィオ、これでいいかな?」
「いいんじゃない?」
マサムネとフィオレンツィアもヒールしながら園内を散策し、恋人達を狙ったダモクレスの陰謀は無事に潰えることとなった。
作者:神南深紅 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 2
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